弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人高崎一夫ならびに被告人本人提出の各控訴趣意書に記載
されたとおりであり、これに対する答弁は東京高等検察庁検察官検事飯島宏作成名
義の答弁書に記載されたとおりであるからここにこれらを引用する。
 弁護人の控訴趣意について、
 所論は原判決の事実誤認を主張するものであり、その理由とするところは、要す
るに、(イ)被告人には共同加害の目的がなかつた。即ち被告人は、機動隊が規制
のためA駅で待機していることを全く予見せず、加害対象の認識を欠いていたもの
であり、また原判決の認定では、共同加害の場所が極めて抽象的、観念的であり具
体的に認定されていないので、共同加害の構成要件が充足されていない。(ロ)本
件角材は「紙に包んで縄をかけてあつた」という束ねられている状況からすれば、
用法上の兇器と評価することはできない。以上(イ)、(ロ)を総合すれば被告人
は無罪であるのに、被告人の所為に兇器準備集合罪の成立を認めた原判決は事実を
誤認したもので破棄を免れないというにある。
 よつて記録および原審において取調べた証拠を精査検討してみると、つぎの各事
実が認められる。
 1、 昭和四四年六月九日から三日間B協議会(いわゆるC)第D回閣僚会議
が、静岡県伊東市内のEホテルで開催されるに際し、被告人および原審相被告人ら
は、同会議が反共軍事同盟を目的とするものと評価し、いわゆる学生解放戦線(通
称FL派)の学生集団に加わつて同会議の開催を阻止しようと決意し、同月七日夕
刻東京aのF大学前からバス二台に乗つて静岡市に向い、同市内のG大学構内に集
結した。
 2、 同夜同大学校舎内でH総決起集会が開かれ、この集会に約七、八〇名が参
加した。
 3、 翌八日朝八時前頃から、集会が開かれ、総指揮者から「先ずA駅に行き、
そこから急行でbに向うが、bまで行く途中、角材を用意する。bまでの途中、急
行停車駅の手前の駅にレポが出してある。そのレポが赤い旗を振つたら、次の急行
停車駅に機動隊がいるということである。そのときはリーダーが列車を停めるか
ら、各班長は車両の非常栓のコツクのところにいて、列車が停つたら非常栓のコツ
クをあけてドアーをあける。そしたら全員線路上に飛びおり、駈け足でbに向う。
機動隊と遭遇したら、機動隊と闘い、線路上で闘えば投石用の石は充分あり、主要
幹線であるI線をストツプさせて騒乱状態を作り出す。そして闘いながらbに向
う。みんな断固闘つてほしい」旨の演説が行われた。
 4、 被告人および原審相被告人らは、JA駅北口に到つた右学生集団約七〇名
と共に同日午前一一時頃bまでの乗車券を買い同駅北口改札口を通り、上りホーム
に赴き同ホーム上で指揮者の指示に従い、殆んど全員ヘルメツトをかぶり、手拭で
覆面し、軍手をはめていわゆるゲバスタイルで、三列位の隊列を組んで「C粉砕」
の掛声を繰り返し、デモをしながら跨線橋を渡つて同駅下りホームに移動した。
 5、 次いで同ホームに到着していた下りK電車に乗り込み同日午前一一時三六
分頃L駅M線ホームに到着し、全員下車し、隊列を組んで「ワツシヨイ、ワツシヨ
イ」と掛声をかけながら駈足で跨線橋を渡つて同駅Nホームに到り、出札口を出る
ことなく、同ホームにいた。
 6、 そこに、予め同駅東側通用門前附近で待機していた自動車の後部トランク
から、原判示角材約八〇本が、指揮者の指示により右集団の原審相被告人Oら学生
数名によつて取り出された。その角材は三束になつており、それぞれ茶色のクラフ
ト紙のようなものに包み縄をかけてあつたが、右学生数名はこれを学全集団のいる
ホームに持ち運んだ。
 7、 この三束の角材をもつて、右学生集団は全員線路を横切つてMホームに移
り、指揮者の指示により同ホーム上に坐つたが、そのとき、角材一束は集団の先頭
の方におき、中間に一束、後の方に一束というように置かれた。
 8、 それから一人が買つて来たA駅から一〇〇キロ以内の急行券が班長を通じ
て全員に配布され、同ホーム上で上り電車を待つ間に、総指揮者から、同日朝G大
学構内の集会でなされたのと同旨の演説が行なわれたうえ、C開催を阻止すべくA
駅で急行電車に乗り換えて伊東市に向うため、全員同日午後零時一三分頃上りc行
P普通電車に乗車したが、その際右三束の角材は同電車に搬入された。
 9、 同電車がA駅に到着するまでの間に、同車内において、右角材の包みが開
かれ、学生から次の学生にリレーで角材が手渡されたのであるが、原審相被告人Q
および同Rも、右学生集団が目的地に向う途中、機動隊の規制を受けることがある
であろうことを予想し、その規制を排除するため、機動隊員の身体に対し共同して
害を加える目的をもつて、それぞれ右角材一本づつを所持した。
 10、 A駅で右学生集団がゲバスタイルで、右普通電車を下車し、急行電車に
乗り換えるため跨線橋を昇りかけたのであるが、そこには、右学生集団の動向につ
いて鉄道公安官等から無線で逐一情報を受けて警戒中の機動隊が待機しており、機
動隊は兇器準備集合罪の現行犯と認めて、直ちに学生の逮捕に着手した。その際学
生らの中には機動隊員に対して投石して抵抗するものが一四、五名はいた。
 11、 被告人も機動隊員の逮捕を免れるためA駅ホームから逃走したが間もな
く機動隊員に逮捕されたのであるが、その際ヘルメツトを着用し、タオルで覆面
し、手に角材を所持しており、これを野球のバツトのように構えて抵抗を示した。
 以上の事実関係からすると、被告人および原審相被告人らは、目的地に向う途
中、機動隊の規制に遭遇するであろうことを予想し、その場合には角材等をもつて
これと闘い機動隊員に対し共同して加害を実行する目的があつたこと明らかであ
り、また原判示角材は長さ約一米ないし一米五〇糎、太さ約四糎角であるから、用
法によつては人の生命、身体または財産に害を加えるに足りる器物であり、かつ二
人以上の者が他人の生命、身体または財産に害を加える目的をもつてこれを準備し
て集合すれば社会通念上人をして危険感を抱かせるに足りるものであるから刑法二
〇八条の二にいう兇器に該当するものと解すべきであり(昭和四五年一二月三日最
高裁第一小法廷決定参照)しかも本件角材は所論のごとく紙に包んで縄をかけて束
ねられていたままではなく、右学生集団がC開催を阻止するため、予め角材を用意
しておいたL駅で上り普通電車に乗り込み、右角材も車内に搬入したうえ、目的地
である伊東市に向い、同駅からA駅に電車がつくまでの間に、車内で角材の束がと
かれてリレー式に学生らの手に渡され、少くとも原審相被告人Qおよび同Rの両名
において共同加害の目的をもつてそれぞれ角材を兇器として準備したこと並びに被
告人Sは逮捕時において角材を所持していたが、そのことから直ちに右電車内にお
いて所持していたものと断定することはできないが、前記のごとく兇器の準備があ
ることを知りながら集合したものには該当すること明らかである。
 <要旨第一>従つて本件兇器準備集合罪成立の時および場所は、被告人および原審
相被告人らを含む学生集団が、目的地である伊東市に向いL駅で上り普
通電車に乗車し、縄で束ねられた角材を同車内に搬入して出発し同電車がA駅に到
着するまでの間に、角材を束ねた縄が解かれて必要に応じていつでもこれを加害行
為に使用し得る状態においた時点であり右学生集団が同駅で急行電車に乗り換える
ため右普通電車を下車しホームを通り跨線橋を昇りかける時点においてもなお兇器
準備集合の状態は継続しているもの(同上最高裁第一小法廷決定参照)<要旨第二>
と認むべきであり、また共同加害の場合は、目的地である伊東市のEホテルに至る
途中のいずれかの地であれば足り、これをもつてその特定を欠き抽象
的、観念的であるということはできないものというべく、それが右学生集団の予想
していたb駅の手前であると全く予想していなかつたA駅であることにより共同加
害の対象が異なつてくる筋合のものではなく、同じく右学生集団のC開催阻止の行
動を規制する機動隊に対し共同加害をなす意思をもつていたものであるから、被告
人には加害対象の認識を欠いていたという所論は採るを得ない、これと同旨に出で
た原判決には何ら事実誤認の違法は存しない。所論は理由がない
 被告人の控訴趣意について、
 所論第一点は、要するに、Cは反共軍事同盟を目的とするものであり、憲法の精
神に反する反人民的、犯罪的なものであるから、その開催を阻止しようとした被告
人らの所為は、正当なものであつた、この正当性について原判決が判断を回避した
のは憲法一二条の精神に反するものであるというにある。
 <要旨第三>しかしCのような国際会議の性格ないし、その果たす政治的使命につ
いての法的判断は、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査に
はなじまない性質のものであるから裁判所の司法審査の範囲外にあると解するのが
相当である。従つて原判決がCの反人民性、犯罪性の有無、ひいて被告人らの所為
の正当性について判断を示さなかつたのはむしろ当然であるというべく、所論違憲
の主張はその前提において失当である。所論は採るを得ない。
 所論第二点および第三点は、要するに、被告人らの所為は刑法二〇八条の二の構
成要件に該当しないのにこれを有罪とした原判決は事実を誤認したものであると前
提して、被告人らの逮捕は予防検束であり、現行犯逮捕に関する憲法三三条に違反
するものであり、官憲の警備は過剰警備であり大衆運動の圧殺であるというにあ
る。
 しかし原判決には事実誤認の違法は存しないこと、並びに本件兇器準備集合罪の
成立の時期、場所およびそれが継続犯であることについてはすでに弁護人の控訴趣
意についての判断において判示したところであるから、所論はいずれも前提におい
て失当であり、採るを得ない。(なお当審における事実取調の結果によれば、被告
人は昭和四七年八月三一日東京地方裁判所において業務上過失致死罪(犯行の日は
同年四月一九日)により禁錮七月に処せられ、同判決は同年九月一五日確定し、す
でにその刑の執行を受け終つているのであるが、本件兇器準備集合罪についての執
行猶予付きの原判決は同年八月一一日云い渡されたものであり、これに対する本件
控訴は被告人の申立にかかるものであつて、検察官の控訴申立はないのであるか
ら、刑訴法四〇二条の規定との関係上、右実刑の確定判決があるからといつて原判
決を破棄することはできないものと解する)
 よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、当審における訴訟費用は刑訴
法一八一条一項但書によりその全部を被告人に負担させないこととして、主文のと
おり判決する。
 (裁判長判事 田原義衛 判事 吉澤潤三 判事 中村憲一郎)

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