弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役八月及び罰金五〇、〇〇〇円に処する。
     右罰金を完納することがきでないときは、金五〇〇円を一日に換算した
期間被告人を労役場に留置する。
     この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
     押収にかかるスイス製腕時計ツガリス四〇個、同モリス金側一八個、同
モリス、クローム側一八個(いずれもAに対する関税法違反事件証拠物として広島
地方裁判所呉支部保管)を没収する。
     被告人から一九一、一二八円を追徴する。
         理    由
 本件控訴趣意は、検察官門司恵行作成の控訴趣意記載のとおりであり、これに対
する弁護人の意見は弁護人岡本徳作成の答弁書記載のとおりであるから、いずれも
これを引用する。
 原判決は、被告人が密輸入品であることを知りながら第一、氏名不詳の中国人船
員からスイス製男物腕時計エニカ一五個(課税価格合計三六、〇〇〇円関税合計一
〇、八〇〇円)の売却方を依頼され、これをBに売却して右処分のあつせんをし、
第二、氏名不詳の中国人船員から同エニカ一〇個(課税価格合計二五、〇〇〇円関
税合計七、五〇〇円)の売却方を依頼され、これをBに売却して右処分のあつせん
をし第三、中国人船員C某からスイス製男物腕時計モリス金側二〇個(課税価格合
計五四、〇〇〇円関税合計一六、二〇〇円)同クローム側二〇個(課税価格合計五
〇、〇〇〇円)関税合計一五、〇〇〇円)同女物腕時計ツガリス五〇個(課税価格
合計九〇、〇〇〇円関税合計二七、〇〇〇円)の売却方を依頼されて預り、これら
を保管した各事実を認めた上、右時計のうちツガリス四〇個、モリス金側一八個、
同クローム側一八個を没収し、その余の時計はこれを没収することができないとし
ながら、昭和三三年三月五日最高裁判所大法廷判決を根拠とし、関税法第一一八条
第二項の犯人中には犯罪貨物の所有者でないことが明らかな犯人を含まないと解釈
し、被告人は判示時計全部についてその所有者とは認められないから、右没収する
ことができない各時計の価格を被告人から追徴すべきでないとして、被告人に右価
格の追徴を命じなかつたことは、控訴趣意に指摘されているとおりである。
 <要旨第一>ところで原判決は終戦後数次の改正を経て設けられた関税法第一一八
条第二項が、追徴すべき犯人を犯罪貨物の所有者に限定しないのは、規
定上の不備であるとし、その改正を要望する趣旨を判示しているので、犯罪貨物に
関する没収、追徴の規定の変遷をたどつてみることとする。まず昭和二三年七月七
日法律第一〇七号による改正前の関税法は、輸入禁制品の輸入を図り又はその輸入
をした者(第七四条)、関税の逋脱を図り又は逋脱した者(第七五条)、右第七四
条及び第七五条の犯罪に係る貨物の運搬、寄蔵、収受、故買又は牙保をした者(第
七五条の二)、免許を受けないで貨物の輸出若しくは輸入をし又はしようとした者
(第七六条)を処罰し、第七四条、第七五条の犯罪にかかる貨物を没収すべく、も
し没収することができないときはその価額から関税及び消費税に相当する金額を控
除した金額を犯則者から追徴する(第八三条)こととなつており、第七五条の二の
犯罪にかかる貨物の没収を定めておらず、昭和二三年法律第一〇七号による改正に
よつて、第七四条、第七五条及び第七六条の犯罪にかかる貨物で犯人の所有又は占
有にかかるものは、これを没収すること、もし没収することができないときは、そ
の物の原価に相当する価額を犯人から追徴するとしたが(第八三条)、第七五条の
二に相当する第七六条の二の罪の貨物については依然没収すべきことを定めなかつ
た。ところが、昭和二五年四月三〇日法律第一一七号によつて改正された関税法第
八三条には、第七四条、第七五条若しくは第七六条の犯罪に係る貨物、その犯罪行
為の用に供した船舶又は第七六条の二の犯罪に係る貨物にして犯人の所有又は占有
に係るものはこれを没収すると規定され、追徴については改正前の規定がそのまま
据え置かれており、これによつてみると、没収の対象者が漸次拡大され、犯罪貨物
の所有者のみならず、占有者とくに犯罪貨物の運搬、保管、牙保をした者にも没収
を命ずべく、追徴の対象者は没収のそれと同じであつて、とくに制限をしていない
ことが明らかである。そして昭和二九年四月二日法律第六一号によつて関税法全般
にわたつて改正がなされたが、その現行第一一八条は「犯人の所有又は占有にかか
るもの」という文言を削除されているだけで、その趣旨は改正前と同じであるか
ら、犯罪貨物の牙保、保管、運搬をした者も追徴の対象者としているとともに、そ
の第一項第二号、第二項によつて第三者が犯罪当時から引続いて情を知らないで犯
罪貨物を所有している場合には、犯人からその貨物の犯罪時の価格に相当する金額
を追徴することを定めていることに徴し、追徴の対象者を所有者に限定していない
ことは異論の余地はない。そして判例についてみると、昭和二三年法律第一〇七号
による改正後の関税法第八三条第三項にいわゆる「犯人」とは、密輸入者およびそ
の従犯、教唆犯はもとより密輸入品たるの情を知つてその運搬、寄蔵、収受、故買
または牙保をなしたものをも包含することは、昭和三三年一月三〇日最高裁判所第
一小法廷判決(集第一二巻第号九四頁参照)および昭和三五年一〇月一一日同第三
小法廷判決(集第一四号一二号一五四四頁参照)によつて示されているとおりであ
る。
 この趣旨は、現行法第一一八条第二項の「犯人」についても異なることはない。
しかるに原判決は、前記のとおり判示第三の犯罪貨物である前記時計の一部スイス
製腕時計ツがリス四〇個、モリス金側一八個、モリス、クローム側一八個(以上い
ずれもAに対する関税法違反被告事件の証拠として広島地方裁判所呉支部に領置)
について、それらが被告人の所有に属しないことを認めながらこれを没収し、没収
することができないその余の時計について、右犯人中犯罪貨物の所有者でない者を
含まないとして、その価格の追徴を命じなかつたのは、論理の一貫性を欠いた独自
の解釈によつたものという外はない。
 弁護人は、判示第一、第二の各時計は、被告人のあつせんによつて情を知つてこ
れを有償取得した判示Bに対する関税法違反被告事件について、昭和三五年一二月
一三日岡山地方裁判所は被告人Bに対し、その価格の追徴を言渡し、その判決はす
でに確定し、又判示第三の時計は被告人のあつせんにより情を知つてこれを有償取
得したAに対する関税法違反被告事件について、広島地方裁判所呉支部は、被告人
Aに対し、判示スイス製腕時計ツガリス四〇個、同モリス金側一八個、同モリスク
ローム側一八個を没収し、その他の時計は、これを没収することができないとし
て、その価格の追徴の言渡をしているから、被告人に対し重ねて追徴を言渡すべき
ではなく、このことは前記昭和三三年三月五日の大法廷判決の趣旨にも合致<要旨第
二>し、被告人に追徴を言渡さなかつた原判決は正当であると主張する、しかしこの
判決は、追徴に関する従来の解釈を全面的に変更したものとは考えられ
ず、ただともに起訴された共犯者中の一人または数人が犯罪貨物の所有者であるこ
とが明らかなとき、その者にのみ追徴を命じてもよく、かくすることは憲法第一四
条に違反しないとするにすぎず、本件には適切でないのみならず、関税法が必要的
没収及び追徴を規定しているのは、単に犯人の手に不正の利益を留めずこれを剥奪
せんとするに過ぎないのではなく、犯罪貨物又はこれに代るべき価格を犯人連帯の
責任において納付させ、もつて、密輸入の取締を厳に励行しようとした趣旨に出た
のであるから共犯者全員に追徴を命ずべく、なお共犯者全員に追徴の言渡の判決が
あつても、その全員に対し重複して全部につき執行を許されるのではなく、その中
の一人に対し執行が了れば、他の者には執行しえない関係となることは最高裁判所
の判例の示すところである。(昭和三三年三月一三日第一小法廷判決集一二巻三号
五二七頁昭和三五年二月一八日第一小法廷判決集一四巻二号一五三頁参照)又前記
昭和三五年一〇月一一日の第三小法廷判決には、密輸入貨物を情を知つて買受けた
者、これを右買受人から情を知つて預り保管した者らを共同被告人とした事件につ
いて、同趣旨の判断が示されている。
 ところで、当審において取調べた被告人B及び同Aに対する各関税法違反被告事
件の判決書謄本によると、弁護人主張の前記事実を認めることができるが、右各追
徴の言渡の事実があつても、なお本件被告人に対し追徴の言渡をすることが、関税
法の必要的没収追徴を規定した前記趣旨に適合するというべきである。そしてB又
はAの各追徴の執行がなされたかは明らかでないが、右各執行がその目的を達しな
かつた場合、その範囲内において、さらに本件被告人に追徴の執行をすることが、
右法の趣旨を全うすると考えられる。
 以上により被告人に対し前記追徴の言渡をしなかつたのは、法令の適用を誤つた
もので、この誤りは判決に影響を及ぼすことは明らかであり、本件控訴は理由があ
るから、刑事訴訟法第三九七条、第三八〇条、第四〇〇条但書に従い原判決を破棄
し、更に裁判をすることとし、原判決認定の事実は関税法第一一二条第一項に該当
するから、犯情により懲役及び罰金を併科し、刑法第四五条、第四七条、第一〇条
(判示第三の罪が重い)第四八条第二項を、懲役刑の執行猶予について、同法第二
五条第一項、罰金不完納の場合の労役場留置について同法第一八条を、没収につい
て関税法第一一八条第一項本文を各適用し、なお判示第一のスイス製腕時計エニカ
一五個(時価七六、五〇〇円)判示第二のスイス製腕時計エニカ一〇個(時価五
三、〇〇〇円)判示第三の時計中スイス製腕時計モリス金側二個(時価一一、七一
八円)同クローム側二個(この価格一〇、八五〇円及びスイス製腕時計ツガリス一
〇個(この価格三九、〇六〇円)はいずれも没収することができないから同条第二
項により被告人から右合計価格に相当する金額を追徴することとして、主文のとお
り判決する。
 (裁判長裁判官 松村寿伝夫 裁判官 小川武夫 裁判官 柳田俊雄)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛