弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、上告人A1に関する部分を破棄し、右部分につき本件を東京
高等裁判所に差し戻す。
     原判決のその余の部分に対する上告を棄却する。
     前項の部分に関する上告費用は上告人A2の負担とする。
         理    由
 上告代理人村上直の上告理由第一点について。
 原判決によると、本件建物(第一審判決添付目録の建物。以下同じ。)は、上告
人A2が、賃貸人に無断で、本件土地(同目録の土地。以下同じ。)の賃借権を譲
り受けたのち、右地上に建築したものであることが認められる。
 そして、右のように、土地賃借権が無断譲渡されたのちに譲受人によつて賃借地
上に建築された建物は、借地法一〇条の買取請求権の対象とならないと解すべきで
あるから、本件建物につき、右上告人に買取請求権がないとした原審の判断は正当
であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は採用しがたい。
 同第二点について。
 建物の所有権を有しない者は、たとえ、所有者との合意により、建物につき自己
のための所有権保存登記をしていたとしても、建物を収去する権能を有しないから、
建物の敷地所有者の所有権に基づく請求に対し、建物収去義務を負うものではないと
解すべきである。
 しかるに、原判決は、上告人A1が、本件建物の所有者でないことを認めながら、
所有者との合意により、自己のため所有権保存登記をしていることを理由に、同上
告人に建物収去義務を認め、同人に対し建物収去土地明渡しを求める被上告人の本
訴請求を認容したのである。
 してみると、原判決には、前述の法理について判断の誤りがあり、その違法は、
判決の結論に影響を及ぼすこと明らかである。論旨は理由がある。
 以上のとおりであるから、原判決中、上告人A1に関する部分は、破棄を免れず、
さらに審理を尽させるため、右部分につき本件を原審に差戻すのを相当とし、その
余の部分については、上告を棄却すべきである。
 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条一項、九五条、八九条を適用
して、裁判官大隅健一郎の意見があるほか裁判官全員の一致で、主文のとおり判決
する。
 裁判官大隅健一郎の意見は次のとおりである。
 私は、判決の結論には賛成であるが、その理由には同調しがたい点があるので、
これについて意見を述べる。
 原審の確定するところによれば、被上告人ほか四名の共有に属する本件土地上に
上告人A1名義の本件建物が存在し、上告人らが共同使用して右土地を占有してい
るところ、当該建物は上告人ら相談のうえ建築したものであり、登記簿上の所有名
義を上告人A1にしたのも同人らが話合いのうえでしたものであるが、右建物は実
質上は上告人A2の所有でA1は名義上の所有者にすぎず、このことは被上告人も
認めるところである、というのである。そして、被上告人は、上告人らは正当の権
限なく不法に本件土地を占拠するものであるとして、共有権に基づき、上告人A1
に対して右建物の収去および土地の明渡、上告人A2に対して右建物からの退去お
よび土地の明渡を求めているのである。
 ところで、上告人らによる本件土地の占有が正当な権限に基づかない不法なもの
であるとしても、被上告人が、実質上上告人A2の所有に属する本件建物につき、
単なる名義上の所有者にすぎない上告人A1に対してその収去を求めることができ
るかどうかは、問題とならざるをえない。この点につき原判決は、その法律的な理
由ずけは明らかでないが、「苟も建物の実質上の所有者の意を受け登記簿上の所有
名義を自己とした以上、その所有権が自己にないことを理由としてその収去義務を
免れることはできないものと解すべきであるから、同控訴人(A1)は本件土地明
渡の方法として本件建物を収去する義務を負つているものというべきである。」と
判示している。これに対し、本判決の多数意見は、「建物の所有権を有しない者は、
たとえ、所有者との合意により、建物につき自己のための所有権保存登記をしてい
たとしても、建物を収去する権能を有しないから、建物の敷地所有者の所有権に基
づく請求に対し、建物収去義務を負うものではないと解すべきである。」として、
原判決と反対の見解を示している。すなわち、多数意見は上告人A1の建物の収去
義務を否定し、被上告人の請求を斥けているのであるが、その理由はもつぱらA1
が本件建物の所有者でなく、これを収去する権能を有しないことに求められている。
私は、本件の事実関係のもとにおいては、この多数意見の結論を是認するものであ
るが、その理由はこれと異なつている。
 権限なく他人の所有地上に建物を所有して不法にその土地を占拠する者に対し、
所有権に基づき、土地の明渡の請求をするには、当該建物の登記簿上の所有者では
なく、その建物の現実の所有者を相手方としてなすべきものと解するのが、従来の
判例であつて(昭和一三年一二月二日大審院判決・民集一七巻二二号二二六九頁、
最高裁判所昭和三一年(オ)一一九号同三五年六月一七日第二小法廷判決・民集一
四巻八号一三九六頁)、上述の多数意見もこれを踏襲したものにほかならない。右
の昭和三五年の当裁判所第二小法廷判決は、他人の所有地上に家屋を所有し、何ら
の権限なく右土地を占拠していた者が、その家屋を未登記のまま第三者に譲渡し、
現在は家屋の所有者でないことになつている場合に、土地所有者が登記名義人であ
る右譲渡人に対して、土地所有権に基づき、当該家屋の収去、土地明渡を求めた事
案に関するが、この場合においても、公示の原則を尊重する立場から、移転登記未
了の家屋の譲渡人は所有権の喪失をもつて第三者に対抗することはできなく、その
所有権の変動については敷地の所有者も民法一七七条にいわゆる第三者にあたるも
のと解し、したがつて、その敷地の所有者は移転登記未了の家屋の譲渡人に対して
建物収去土地明渡の請求権を有するとする見解(小谷勝重、河村大助両裁判官の少
数意見)が妥当ではないかと考える。
 本件は、右のような建物の所有権が譲渡された場合ではなくして、本件建物の実
質上の所有者である上告人A2がその妻の上告人A1と話合いのうえ右建物につき
A1名義で保存登記をした場合に関し、かつ、上告人A2とA1との間に右建物に
関して何らかの法律行為がなされた事実は、原審の認定しないところである。した
がつて、ここでは民法一七七条適用の余地はない。しかしながら、「未登記の建物
の所有者甲が、乙にその所有権を移転する意思がないのに、乙の承諾を得て、右建
物について乙名義の所有権保存登記を経由したときは、民法第九四条第二項を類推
適用して、甲は、乙が右建物の所有権を取得しなかつたことをもつて、善意の第三
者に対抗することができないものと解すべき」ことは、当裁判所の判例とするとこ
ろである(昭和三八年(オ)第一五七号同四一年三月一八日第二小法廷判決・民集
二〇巻三号四五一頁)。これによれば、乙もまた、自己が右建物の所有権を取得し
なかつたことをもつて、善意の第三者に対抗しえないものと解すべきことはいうま
でもない。この法理を本件に適用すれば、被上告人が善意であるかぎり、上告人A
1は本件建物の所有権が自己にない旨を主張して、その収去義務を免れることはで
きないものといわなければならない。もつとも、右の法理は、本来、登記に信頼し
て建物につき取引関係に立つた第三者を保護する見地から認められたものであると
ころ、本件被上告人は本件建物の登記に信頼してこれにつき取引関係に立つたわけ
ではなく、本件建物の権利関係を争つているのでもないから、右にいわゆる第三者
にはあたらないとして、本件にはこの法理は適用されえないとする見解があるかも
知れない。しかし、民法九四条の規定をかように限定して解釈することは適当でな
いと思う。
 上述のようにして、もし本件被上告人が善意であるならば、民法九四条の類推適
用により、原判決は、結局、結論において正当というべきであるが、さきに見たと
おり、原審の認定によれば、被上告人は、本件建物の登記名義人は上告人A1であ
るけれども、その実質上の所有者は上告人A2であることを認めているというので
あるから、被上告人みずから権利者でないことを認める上告人A1に対してその建
物の収去を求める本訴請求は、排斥を免れないといわなければならない。それゆえ、
被上告人の請求を認容した原判決も破棄を免れないが、その理由は叙上の点に求め
られるべきであつて、これを単純に上告人A1が本件建物を収去する権能を有しな
い点に求める多数意見は首肯しがたいというほかない。多数意見のような見解をと
るならば、本件のごとき土地明渡請求事件においては、原告たる土地所有者は、登
記に信頼することができず、建物の実質上の権利者を探求しその者を被告として訴
を提起することを強いられるのみならず、相手方がたやすく建物所有権の移転を主
張して明渡請求を困難ならしめる危険にさらされることとなる不都合を思うべきで
ある。
      最高裁判所第一小法廷
          裁判官    大   隅   健 一 郎
          裁判官    藤   林   益   三
          裁判官    下   田   武   三
          裁判官    岸       盛   一
 裁判長裁判官岩田誠は退官につき署名押印することができない
          裁判官    大   隅   健 一 郎

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