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平成27年(ソ)第70号移送決定に対する即時抗告事件
主文
原決定を取り消す。
事実及び理由
1事案の概要
(1)基本事件の要旨
基本事件(以下「本件訴訟」ともいう。)は,抗告人(基本事件原
告)が,基本事件被告に対し,同被告が平成25年12月23日午前
4時8分頃,抗告人の管理する高速道路である東京湾アクアライン海
ほたるパーキングエリア内を進行中,高さ制限バーに衝突し,損傷を
与えたことにつき,道路整備特別措置法(以下「道路特措法」という。)
40条1項により適用される道路法58条1項に係る原因者負担金と
して,当該高速道路構造物の復旧に必要な費用である21万0067
円の支払を求める事案である。
(2)本件抗告の要旨
原審は,基本事件が「公法上の法律関係に関する訴訟」(行政事件
訴訟法4条)に該当し,簡易裁判所には管轄がなく,地方裁判所の管
轄に属するとして(裁判所法33条1項1号括弧書,24条1号),
民事訴訟法16条1項に基づき,職権で基本事件を東京地方裁判所に
移送する旨の決定をした。
本件抗告は,抗告人が,同移送決定を不服として即時抗告をした事
案である。抗告人の主張の骨子は,抗告人が道路特措法に基づいてす
る原因者負担金の請求は,道路法58条1項に基づく本来の原因者負
担金の徴収の場合とは異なり,私法上の債権であるというものであり,
その内容は別紙「抗告状」記載のとおりである。
なお,基本事件被告に対し,訴状や上記移送決定の送達はされてい
ない。
2関係法令の定め
(1)道路法
ア道路管理者は,他の工事又は他の行為により必要を生じた道路に
関する工事又は道路の維持の費用については,その必要を生じた限
度において,他の工事又は他の行為につき費用を負担する者にその
全部又は一部を負担させるものとする(58条1項)。
イ58条1項に基づき納付すべき負担金を納付しない者がある場合
においては,道路管理者は,督促状によって納付すべき期限を指定
して督促しなければならず,また,その場合においては,条例等で
定められた手数料(督促状の送付に要する費用を勘案して定める。)
及び延滞金(年14.5%の割合を乗じて計算した額を超えない範
囲内で定める。)を徴収することができる(73条1,2項)。
上記により督促を受けた者がその指定する期限までにその納付す
べき金額を納付しない場合においては,道路管理者は,国税滞納処
分の例により,上記の負担金並びに手数料及び延滞金を徴収するこ
とができ,また,これらの先取特権の順位は国税及び地方税に次ぐ
ものとする(73条3項)。
ウ道路管理者が上記ア及びイにつき道路法に基づいてした処分に不
服がある者は,行政不服審査法による不服申立てをすることができ
る(96条2項)。
(2)道路特措法
アこの法律において,「高速道路」とは,高速道路株式会社法2条
2項に規定する高速道路をいい,「道路管理者」とは,高速自動車
国道にあっては国土交通大臣,その他の道路にあっては道路法18
条1項に規定する道路管理者をいい,「会社」とは,A株式会社(抗
告人),B株式会社,C株式会社,D株式会社,E株式会社又はF
株式会社をいい,「機構等」とは,独立行政法人日本高速道路保有・
債務返済機構(以下「機構」という。)又は地方道路公社をいう(2
条2号ないし4号,7号)。
イ会社は,機構と協定を締結したときは,当該協定に基づき国土交
通大臣の許可を受けて高速道路を新設し,又は改築して,料金を徴
収することができる(3条1項)。会社は,許可を受けて新設等し
た高速道路については,当該高速道路の維持,修繕及び災害復旧を
行う(4条)。
ウ会社は,3条1項の許可に基づき料金を徴収しようとするときは,
あらかじめ,国土交通省令で定めるところにより供用約款を定め,
国土交通大臣の認可を受けなければならない(6条1項)。
エ会社は,5条1項及び2項に規定するもののほか,供用の申込み
が上記の供用約款によらないものであるときなどの場合を除き,高
速道路の供用を拒絶してはならない(5条3項1号)。
オ機構又は会社は,会社が3条1項の許可を受けて高速道路を新設
等する場合又は4条の規定により高速道路の維持,修繕及び災害復
旧を行う場合においては,当該高速道路(以下「会社管理高速道路」
という。)の道路管理者に代わって,その権限のうち,それぞれ,
道路特措法8条1項又は同法9条1項が列挙する特定の行為を行う
(8条及び9条)。
カ会社管理高速道路に関して,道路法58条1項中「道路管理者」
とあるのは「会社」と,「を負担させる」とあるのは「について負
担を求める」と読み替えて適用する(40条1項)。
上記の規定により読み替えて適用する道路法58条1項の規定に
基づく負担金は,当該負担金の負担を求めた会社の収入とする(4
2条4項)。
キ会社は,上記により会社の収入となる負担金につき,これを納付
しない者がある場合においては,督促状を発して督促し,その者が
督促状において指定した期限までに納付しないときは,機構に対し
てその徴収を申請することができる(45条3項)。機構がこの申
請に基づき負担金を徴収する場合については道路法73条の規定
(上記(1)イ参照)が準用される(45条4項)。機構が上記の申請
に基づき負担金を徴収した場合には,道路法73条2項所定の手数
料は機構の収入とし,また,会社は,機構に対し,機構の徴収した
金額(上記の手数料相当額は除く。)の4%相当額を納付する(4
5条5項,6項)。
ク機構等が道路特措法に基づいてした処分その他公権力の行使に当
たる行為に不服がある者は,行政不服審査法による審査請求をする
ことができる(53条)。なお,会社に関しては,そのような不服
申立ての規定は置かれていない。
3当裁判所の判断
(1)道路法58条1項に基づく原因者負担金について
道路法58条1項に基づく原因者負担金は,道路に関する工事の施
行又は維持の必要を生じさせる行為をした者に対し,その費用を当該
原因行為者に「負担させる」ものであり,道路管理者は,行政処分と
してその納付を命じ,これが納付されない場合には,国税滞納処分の
例により強制徴収することが認められており(同法73条),他方,
相手方は上記の納付命令等に対して行政不服審査法による不服申立て
ができるとされている(道路法96条2項)。そうすると,同法58
条1項に基づく原因者負担金に係る法律関係が,公法上のものである
ことは明らかである。
(2)会社が行う原因者負担金の請求(道路特措法40条1項により読み
替えて適用される道路法58条1項に基づくもの)について
これに対し,会社が行う原因者負担金の請求は,①原因行為者に「負
担を求める」ものと定められており(道路特措法40条1項),それ
に対する行政不服審査法に基づく不服申立てを可能とする規定も置か
れていないことからすると,これを行政処分と解することはできない。
②また,会社自身が,国税滞納処分の例により原因行為者から強制徴
収することは認められておらず,独立行政法人たる機構に対して,道
路法73条の規定に基づいて徴収することを申請することができると
されているにとどまり(道路特措法45条3項,4項),会社は,そ
のような強制徴収の仕組みの直接の当事者となることはない。③他方,
会社は,道路特措法に基づき,高速道路の供用に関して供用約款を定
めることとされ(同法6条1項),利用者は,当該供用約款に基づい
て供用の申込みを行うことが前提とされているところ(同法5条3項
1号),一件記録によれば,抗告人が定めた供用約款10条1項には,
「高速道路を損傷し,又は汚損した利用者は,当該損傷又は汚損によ
り必要を生じた高速道路に関する工事又は道路の維持に要する費用に
ついて,道路特措法40条1項の規定により読み替えて適用する道路
法58条1項の規定に基づき,会社に対して負担金を支払わなければ
ならない」旨の規定が置かれていることが認められることからすると,
抗告人は,契約の性質を有する上記の供用約款に基づいて,利用者に
対して原因者負担金を請求することができる立場にあると解すること
ができる。
以上の諸点に加え,株式会社である会社は,いわゆる道路公団の民
営化により,高速道路の維持・管理等を行うこととなったものの,会
社が公権力の行使に係る権限を行使することは適切ではないため,道
路特措法は,公権力の行使に関わる道路管理者の権限については,公
共的な機関である機構が代行することとし(同法8条),他方,公権
力の行使に関わらない事実行為として行い得る道路管理者の権限につ
いては会社が代行する(同法9条)という枠組みを採用したものであ
ることをも勘案すれば,道路特措法は,会社が行う原因者負担金の請
求については,会社の選択に応じて,①機構に申請した上で上記の強
制徴収の仕組みを利用して行うこともできるが,②私法上の契約の性
質を有する供用約款上の請求権を根拠として民事訴訟制度を利用して
行うこともできるとする立法政策を採用しているものと解することが
相当である。
(3)これを本件についてみると,原告が,基本事件の訴状において,原
因者負担金の請求につき,民事訴訟制度を利用して行うことを選択し
ていることが明らかであるから,基本事件は,「公法上の法律関係に
関する訴訟」(行政事件訴訟法4条)に該当せず,「行政事件訴訟」
(裁判所法33条1項1号括弧書)には当たらないというべきである。
したがって,基本事件の管轄が簡易裁判所になく地方裁判所の管轄
であるとして民事訴訟法16条1項によりこれを東京地方裁判所に移
送するとした原決定は相当ではなく,抗告人(原告)の即時抗告には
理由がある。なお,被告に対して訴状の送達等がされていない現段階
においては,本件訴訟を東京地方裁判所が処理することが相当である
とすることもできない。
(4)よって,原決定を取り消すこととし,主文のとおり決定する。
平成27年8月21日
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官谷口豊
裁判官平山馨
裁判官馬場潤

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