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裁判例


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主        文
 1 被告は,原告に対し,金20万円及びこれに対する平成13年5月17日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求を棄却する。
 3 訴訟費用はこれを10分し,その9を原告の,その余を被告の負担とする。
 4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
   被告は,原告に対し,金200万円及びこれに対する平成13年5月17日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 本件は,ウガンダ共和国の国籍を有し,法務省入国者収容所西日本入国管理
センター(以下「本件センター」という。)に収容されていた原告が,本件センタ
ー職員から臀部を触られるセクシャルハラスメントにあたる行為を受けたほか,こ
れに抗議する等したところ,本件センター内にある保護室に連行される途中に,本
件センター職員から,床へ押し倒され,背中を蹴り付けられるなどの暴行を加えら
れて,その後,本件センター内にある保護室や単独室に隔離され,また,上記暴行
から保護室に収容された後も合計約45分間金属手錠を施されたことが違法行為に
該当するとして,国家賠償法1条1項に基づき,被告に対し,慰謝料200万円及
びこれに対する平成13年5月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金の支
払を求めた事案である。
 2 基礎となる事実(証拠を付さない事実は,当事者間に争いがない。)
  (1)原告は,西暦1968年10月3日生のウガンダ国籍を有する男性であ
り,本件センター入所当時,身長は約171センチメートル,体重は約87キログ
ラムであった(乙1,弁論の全趣旨)。
  (2)原告は,平成7年9月17日,日本に入国し,工員として稼働していたが
(乙30),同12年12月15日,出入国管理及び難民認定法(以下「出入国管
理法」という。)違反により現行犯逮捕され,その後,名古屋拘置所に勾留され,
同13年2月16日,名古屋地方裁判所において,同法違反の罪で懲役1年10月
執行猶予4年の判決の言渡しを受け,同日,同法24条4号ロ(不法残留)該当容
疑で名古屋入国管理局に収容され,同年4月20日,本件センターに移収された。
    なお,名古屋入国管理局から本件センターに対しては,原告には名古屋拘
置所において拘禁反応歴があるとの引継ぎがなされており,田中稔(以下「田中」
という。)本件センター処遇部門特別処遇担当総括は,同年5月7日当時,同事実
を承知していた。
  (3)原告は,平成13年5月7日午後5時52分頃,取調1号室から単独A3
号室に連行され,同時56分頃,単独A3号室から保護E1号室に移されることに
なった(乙12)。
  (4)原告は,平成13年5月7日午後6時00分頃,警備官らから後ろ手に金
属手錠を施されて,同日午後6時04分頃,そのまま保護E1号室に連行された。
そして,同日午後6時23分頃,後手錠から前両手錠に変更され,同時45分頃に
金属手錠を外された。そして,同月9日午後4時40分までの間,保護E1号室に
収容され,それから同月5月17日午前11時までの間,単独A4室に収容された
(乙12,36)。
 (5)本件センターには,被収容者を収容する部屋として,共同室(6人部屋1
1畳敷,11人部屋14畳敷),単独室(1人部屋3畳敷)及び保護室(約5平方
メートル)の3種類の部屋がある。    
    共同室には観賞用テレビが設置され,原告が単独室に収容されていた当
時,単独室にはそれが設置されていなかったという違いはあるが,共同室及び単独
室は,モニターカメラによる居室内監視設備はないこと,床は畳敷であること,南
北の壁は鉄格子となっており,鉄格子の側には廊下を隔てていずれも窓になってい
ることなど,基本的な構造仕様に相違はなく,1人当たりの面積はむしろ単独室の
方が広い。
    一方,保護室は,モニターカメラによる監視が可能であること,床に畳は
なくPタイル仕様であること,遮音性を重視した構造で,窓はなく,外側から内部
を観察できる監視用小窓と食事等搬入口があることなど,共同室や単独室とは異な
った点が多く認められる(以上,乙39)。
  (6)出入国管理法61条の7第6項は,被収容者の処遇に関し,必要な事項は
法務省令で定めるとし,それを受けて,被収容者処遇規則(昭和56年11月10
日法務省令第59号・以下「処遇規則」という。)には,次の事項が定められてい
る(乙33)。
  ア 被収容者は,他人に対し危害を加え,又は危害を加えることを企てない
こと,職員の職務執行を妨害しないことなどを遵守しなければならず[7条],入
国警備官は,被収容者がこれらに違反する行為をし又はしようとする場合には,合
理的に必要と判断される限度で,その行為を制止し,その他その行為を抑止するた
めの措置をとることができる[17条の2]。
  イ 入国者収容所長及び地方入局管理局長(以下「所長等」という。)は,
被収容者が職員の職務執行に反抗し若しくはこれを妨害する行為をし又はそれらを
企てるなどしたときは,期限を定めて,その者を他の被収容者から隔離することが
できる[18条1項前段]。また,入国警備官は,これらの場合において,所長等
の命令を受けるいとまがないときは,自ら当該被収容者を他の収容者から隔離する
ことができ,隔離後速やかに,所長等に報告しなければならない[同条2項,3
項]。そして,所長等は,当該期限にかかわらず,隔離の必要性がなくなったとき
は,直ちにその隔離を中止しなければならない[同条1項後段]。
  ウ 所長等は,被収容者が逃走し,自己又は他人に危害を加え,収容所等の
設備,器具その他の物を損壊する行為をするおそれがあり,かつ,他にこれを防止
する方法がないと認められる場合には,必要最小限度の範囲内で,入国警備官に,
当該被収容者に対して戒具(皮手錠,金属手錠,又は捕じょう)を使用させること
ができ,入国警備官は,所長等の命令を受けるいとまがないときは,自ら戒具を使
用することができるが,使用後速やかに,所長等に報告しなければならない[1
9,20条]。
  (7) 処遇規則45条の委任規定に基づき,本件センター所長が被収容者の処
遇に関する細則を定めた入国者収容所西日本入国管理センター被収容者処遇細則
(入国者収容所西日本入国管理センター所長訓令第7号・以下「処遇細則」とい
う。)には,被収容者の隔離について,次の事項が定められている。
     上記(6)イの第1文の場合において,処遇担当総括は,被収容者を隔離す
る必要があると認めるときは,隔離理由及び期限等について意見を付して所長に報
告し,その指示を求めることとし,所長は,隔離を相当と認めるときは,隔離言渡
書を作成の上,これを処遇担当総括に交付して,隔離を指示し,処遇担当総括は,
被収容者を隔離するときは,当該被収容者に対し,隔離言渡書を読み聞かせなけれ
ばならないが,急を要するときは隔離した後読み聞かせることができる[23
条]。
     また,処遇担当総括は,上記(6)イの第2文の場合において,被収容者を
隔離したときは,速やかに隔離理由及び期限等について意見を付して所長に報告
し,その指示を求めるものとし,所長は,隔離を相当と認めたときは,隔離言渡書
を作成の上,これを処遇担当総括に交付して,隔離を指示する[24条]。
 3 原告の主張
  (1)セクシャルハラスメントにあたる行為について
    原告は,平成13年5月1日午前10時頃,本件センター内において診察
を受けた後,入国警備官に連れられて,本件センター内の診療室から居室に戻ろう
として,センター収容棟2階A見張室前通路に至ったところ,細川篤史入国警備官
(以下「細川」という。)は,右手の1本か2本の指で,原告が着用していたジー
パンの上から,肛門部分を下から上へ突き上げる様に原告の臀部に触れた。
    仮に被告が主張するように,細川が原告を励ます意味で原告の腰から尻の
辺りを軽く1回叩いたものであったとしても,極めて親しい親友同士でしか了解不
能な動作であるから,被収容者とそれを管理する入国管理官の関係においては,セ
クシャルハラスメントに該当し,国家賠償法上違法であることに相違はない。
  (2)暴行行為について
    原告は,平成13年5月7日午後6時半頃,本件センター内の単独A3号
室から連れ出され,藤原一弘入国警備専門官(以下「藤原」という。)及び谷口英
雄入国警備官(以下「谷口」という。)に両脇を抱えられて,もといた共同B8号
室とは逆の部屋に連行され始めたので,不審に思い,無言で同室の方向に振り向こ
うとしたところ,その場にいた5名の入国警備官から,床に倒された上,首を持っ
て左右に引っ張ってねじられ,靴で左胸を,膝で背中をそれぞれ蹴り付けられ,手
拳で腰部を殴打される等の暴行を受けた。
  (3)隔離行為について
    原告は,平成13年5月7日午後6時半頃,単独A3号室に収容されたほ
か(以下「隔離①」という。),上記(2)記載の暴行の直後から同月9日までの間,
窓のない保護室であるE1号室に収容され(以下「隔離②」という。),さらに,
同日から同月17日までの間,単独A4号室に収容されて,その間,他の被収容者
から隔離された(以下「隔離③」という。)。
    本件センター職員に対する不満な態度を職務執行に対する反抗又は妨害と
判断するのは明らかに誤りであるから,隔離①は違法である。
    また,隔離②は隔離①の継続としての違法性を有し,ただ単に原告を静か
にさせるために行ったもので,処遇規則18条1項の隔離事由のいずれにも該当し
ないから,違法である。単独A3号室における原告の穏当でない言動は拘禁反応を
疑うべきものである。
    さらに,被告は,隔離③は原告の動静観察のために行ったと主張するが,
動静観察は同条項のいずれにも該当しないから,隔離③も違法である。
    加えて,いずれの隔離についても,隔離言渡書の作成及び原告に対する読
み聞かせが行われていないから,各隔離は,処遇細則23条のみならず,憲法31
条にも違反している。
  (4)金属手錠の使用について
    原告は,単独A3号室から保護室へ連行される際に,後ろ手に金属手錠を
施され,保護室E1号室に連行された後も含めると,合計約23分間後ろ手錠の使
用を受けた。その後,前両手錠に変更されたが,さらに約22分間手錠の使用を継
続された。
    これらの金属手錠の使用は,戒具の使用を必要最小限度の範囲に限定した
処遇規則19条1項に違反しており,違法である。
  (5)上記(1)ないし(4)の責任及び損害額について
    被告は,原告に対し,被告職員の上記(1)ないし(4)の行為について,国家
賠償法1条1項の責任を負う。原告が被告の職員の上記各行為により被った精神的
苦痛に対する慰謝料は200万円を下らない。
 4 被告の主張
  (1)セクシャルハラスメントにあたる行為について
    細川は,原告が診療室から居室に戻る途中で元気のない様子であったの
で,原告を励まそうとして,「元気か。」と声をかけながら,原告の腰から尻の辺
りを軽く1回叩いたもので,原告主張のようにいやらしく触ったわけではないか
ら,セクシャルハラスメントとして意図的に行ったものではない。
    また,同行為は,相手に性的不快感を与えるようなセクシャルハラスメン
ト行為であるとは到底いえず,国家賠償法上何ら違法なものではない。
  (2)暴行行為について
    藤原と谷口は原告の両脇を抱え,原告を単独A3号室から保護室に連行し
ようとしていたところ,原告が突如興奮状態となり,腕を振りほどこうとして右方
向に体をひねり,右肘を高く上げて,原告の右側にいた谷口に殴りかかろうとした
ほか,これを制止しようとした愿山聡上席入国警備専門官(以下「愿山」とい
う。)の睾丸を衣服の上から右手でわし掴みにする等の暴行に及んだため,入国警
備官らは,やむなく原告を制圧したにすぎない。
    上記の入国警備官らの制圧行為は,処遇規則17条の2で認められる正当
な職務行為であるから適法であり,国家賠償法上違法とされるものではない。
  (3)隔離行為について
  ア 原告は,面接終了後,特別処遇担当であった田中の帰室指示に従わず,
大声で叫んだり,椅子に座ったまま立ち上がらないなどしており,処遇規則18条
1項にいう「職員の職務執行に反抗し又はこれを妨害した」ものであることは明ら
かであり,これまでの原告の執拗な抗議などの経緯に照らすと,原告を共同室に戻
しても,すぐに室内で騒ぎ立てることが明らかであるから,他の被収容者への影響
を配慮し,落ち着かせてその動静を把握するため,原告を単独A3号室に移室させ
る必要性があった(隔離①について)。
     また,単独A3号室に移された原告は,入国警備官から,「静かにする
ように」と口頭で制止されたにもかかわらず,これに従わず,大声を出し,激しく
居室扉を叩いたり蹴ったりする等の行為を繰り返してしたのであって,口頭による
制止という「職員の職務執行に反抗し又はこれを妨害した」ものであることは明ら
かであり,そのため,収容所内が騒然となり,収容所内の平静を保つことができな
いことから,原告を分離して説得するため,防音効果のある保護室E1号室に連行
する必要性があった。加えて,原告は,保護室E1号室に連行される途中で,上
記(2)のとおり,入国警備官らに暴行を加えて,連行という「職員の職務執行に反抗
し又はこれを妨害し」ており,保護室に連行する必要性が高かった。そして,連行
後は,原告は,一旦お
となしくなっているとはいえ,それまでの事情に照らすと,原告の隔離を解除すれ
ば,入国警備官の職務の執行を妨害し,施設内の秩序を害する危険性は極めて高か
ったから,原告の動静を観察するために,保護室E1号室で原告の隔離を継続する
必要性があった。(隔離②について)。
    さらに,原告による入国警備官の職務執行に対する妨害が著しかったこ
とや入国警備官に暴行を振るう等したことからすれば,原告が保護室内で一旦おと
なしい様子を見せたとはいえ,いきなり共同室に戻すことは危険であり,単独室で
隔離を継続したまま,慎重に原告の動静を観察する必要性があったほか,原告は,
保護室E1号室から移された単独A4号室でも,入国警備官の指示に従わない等の
行動がみられたから,平成13年5月9日から同月17日までの間,原告を単独A
4号室に隔離をしたのも,相当な措置であった(隔離③について)。
   イ したがって,原告を隔離した上記各措置は,処遇規則18条で認められ
た適法な行為であり,国家賠償法上違法とされるものではない。
  (4)金属手錠の使用について
    原告は,入国警備官らの帰室指示に従わず,単独A3号室に連行されてか
らも,大声を出したり,激しく居室扉を叩く蹴る等して,周囲を騒然とさせ,ま
た,保護室に連行する途中には,上記(2)のとおり,入国警備官に暴行しようとし,
制圧の際には,入国警備官の睾丸をわし掴みにする等,激しい抵抗をした。このよ
うに,原告が入国警備官に対し,さらなる暴行を加えるおそれが認められたので,
金属手錠を使用するしか原告を制圧する手段はなかった。
    また,手錠使用後に原告が一旦おとなしくなったにせよ,上記のような経
緯に照らすと,原告の手錠を外せば,入国警備官に対して再び暴行を加えるおそれ
が非常に高かったので,原告が相当落ち着いたのを確認できるまでの45分間,手
錠を使用し続けたことにも合理的根拠があった。
    したがって,原告に金属手錠を使用したことは,処遇規則19条,20条
で認められた適法な行為であり,国家賠償法上違法とされるものではない。
第3 証拠
   本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
第4 当裁判所の判断
 1 認定事実
   証拠(甲1,3,4,7,21,乙1ないし26,28,30,35ないし
38,40,証人細川篤史,同田中稔,同愿山聡,原告本人)及び弁論の全趣旨を
総合すると,次の事実を認めることができる。
  (1)原告は,平成13年5月1日,本件センター内の診療所で受診した後,当
時収容されていた共同B8号室に戻るため,同日午前11時10分頃,被収容者の
サントス並びに入国警備官の桑野(以下「桑野」という。)及び揚張由宗(以下
「揚張」という。)とともに,本件センター収容棟2階A見張室前通路に至った。
    他方,細川は,同日,A見張室において勤務中であり,同棟2階エレベー
ターホール前からA見張室方向に向かって歩いてくる原告らを認めたところ,被収
容者と入国警備官が同数であったので,有事に備えて,桑野らを応援するために,
同見張室から出て,同見張室前通路に赴いた。その際には,同所付近には,細川
や,原告ら4名のほか,同通路から共同B1号室前通路に至る扉を開けた谷口がい
た。
  (2)細川は,かねてから面識がありこれまで会話を交わしたこともある原告と
視線が合ったところ,原告が元気のない様子であったので,原告を励まそうとし
て,原告に対し,「元気か。」と声をかけながら,原告の腰から尻の辺りを軽く1
回叩いた。
    すると,原告は,細川を睨み付けて,「これセクシャルハラスメントです
ね。」等と発言した。これに対し,細川は,単に挨拶のつもりで叩いたもので,不
快に感じたのであれば謝罪する等と述べたが,原告は,納得せず,幹部面接を求め
た。
  (3)原告は,幹部面接願いの申出書を提出し,平成13年5月1日午前11時
26分から33分までの間,愿山と,同日午後2時43分から同時57分頃までの
間,午後4時06分から同時57分頃までの間,午後5時52分から同日午後6時
10分頃までの間の3回にわたり,細川からも事情聴取をした小畠和博処遇統括
(以下「小畠」という。)と,それぞれ面接を行った。
    原告は,これらの面接の際に,言葉で謝罪されても何もならないとして,
謝罪文の提出を要求し,これを拒絶されると,原告が事実関係を英語で書いたもの
を作成するのでそれに署名するよう求め,これも拒絶されると,報道機関に訴える
ので,報道機関に電話をさせるよう求めた。
    これに対し,小畠は,電話は緊急なものに対して実施許可しているが,原
告の申し出には緊急性が認められないとして,これを認めず,報道機関に対し連絡
をするのであれば手紙を出すように指示し,翌2日,原告の求めに応じて,NHK
大阪放送局の住所等を告知した。
  (4)しかし,原告は,これらの措置に満足せず,平成13年5月1日,さらに
上級幹部との面接を求める申出書を提出したほか,翌2日には,同室者との折り合
いが悪いとして,他の共同室への移室を願い出た。
  (5)田中は,連休明けの平成13年5月7日午後3時10分から同時45分に
かけて,原告と面接を行い,どこの居室も多数人が共同生活をしているとして,移
室については不許可とする旨を告知したほか,本件センターとしては原告が主張す
る細川の行為はセクシャルハラスメントに該当するとは考えていないと説明した
が,原告はその説明に納得せず,警察に連絡を取りたい等と発言したので,田中
は,必要があれば申出書にして提出するよう指示した。
  (6)その後,原告は,警察への電話連絡の許可の申出書を提出したが,田中
は,同日午後5時42分頃,取調1号室において,再度,原告と面接し,原告の申
し出には必要性が認められないとして,同申し出について不許可の告知をし,これ
は最終決定である旨述べるとともに,警察に連絡するのであれば,友人か弁護士と
相談するか,警察に手紙を出すように指示した上,これで面接を終了するので,居
室に戻るよう指示した。
    しかし,原告は,同不許可処置に納得せず,大声でわめきちらしたので,
田中は,原告に対し,再度,居室に戻るように言い聞かせたが,原告は,これを無
視し,「アピール」等と叫び続け,一向に席を立とうとしなかった。
  (7)田中は,興奮状態にある原告を無理矢理共同室に連れ戻しても,同室内で
さらに騒ぎ立てると考えられたため,直ちに共同室に収容することは,センター内
の秩序を乱し,他の被収容者に悪影響を与えると判断し,その動静を観察するた
め,原告を一旦単独A3号室に収容することにした。
    しかし,原告は,全く動こうとしなかったため,同日午後5時42分頃,
田中の指示により,入国警備官4名が,原告をその着席していたパイプ椅子ごと持
ち上げて,運び,途中からは,同4名が原告の両脇両足を抱えて,同日午後5時5
2分頃,単独A3号室に運び込んだ。
  (8)原告は,単独A3号室に運び込まれる間は,無言のまま入国警備官らを睨
み付けるだけで,何の抵抗も示さなかったが,同室に運び込まれた後は,単独室に
移室させたことや,入国警備官からセクシャルハラスメントを受けたこと,警察に
電話をかけることを認めなかったことについて,大声で非難し続けた。
    これに対し,入国警備官らは,これを制止し,静かにするよう求めたが,
原告は,これに応じず,同室の扉を蹴ったり,鉄格子を叩く等の行為に及び,つい
には,A区域の他の部屋の被収容者から,「馬鹿野郎」,「やかましい」等の罵声
が出始めたため,田中は,このままでは区域全体が騒擾状態になり,保安上支障が
生じると判断して,同日午後5時56分頃,一旦原告を防音効果のある保護室に連
行することを決定した。その際,田中は,原告と入国警備官の体格差を考え,原告
が抵抗した場合に備えて,4名の入国警備官で対処することとした。
  (9)田中のほか,愿山,谷口,藤原及び安本大輔(以下「安本」という。)の
4名の入国警備官は,同日午後6時頃,原告を単独A3号室から出した上,原告の
前方に愿山,後方に安本,安本の後方に田中が立ち,原告の右手を谷口が下から左
手で抱え,原告の左手を藤原が下から右手で抱えて,保護室まで原告を連行しよう
とした。
  (10)原告は,当初はおとなしく田中らに従って歩行していたが,単独A3号室
から数メートル程連行されたところで,突然,原告の右手を抱えていた谷口の手を
振り解こうとして,右肘を高く挙げるとともに,身体を右側にひねって,強い抵抗
を示した。
    このため,田中は,原告が谷口を殴打しようとしていると判断して,他の
入国警備官らに対し,原告を取り押さえるよう命じたところ,原告は,激しく抵抗
し,原告に飛びかかろうとした愿山の睾丸を着衣の上から右手で強くわし掴みにし
た。
    上記5名の入国警備官らは,協力して,原告を仰向けに押し倒し,さら
に,武藤高明,虎谷浩治及び小西建の各入国警備官も加わって,その後も激しく手
足を動かして抵抗を続ける原告を取り押さえて,後ろ手に金属手錠で両手錠をかけ
たが,その過程で,合計8名の入国警備官らによって通路上に横たえられ,手足を
押さえつけられていた原告に対し,当て身と称して,愿山は,原告の右下腹部辺り
に右膝を2回落とし,右手拳で1回殴打する等したほか,藤原らも,原告の腰部付
近等を数回殴打する等した。
  (11)原告は,金属手錠を施された後は,抵抗するのを止め,おとなしくなっ
た。そこで,入国警備官らは,同日午後6時04分頃,原告を後ろ手錠の状態のま
ま担いで保護室E1号室に運び込み,午後6時23分頃に,原告の後手錠を前両手
錠に掛け替え,午後6時45分頃には,原告に「落ち着いたか。」と尋ねたとこ
ろ,「もう大丈夫です。」等と返答したため,その様子から一応原告が平静さを取
り戻したと判断して,金属手錠を外した。
  (12)田中は,同日午後6時05分頃,吉田処遇上席を介して,本件センター所
長に対し,上記の状況を報告し,本件センター所長は,同日,上記(7),(8),(10)
の各行為を行ったことを理由として,処遇規則18条に基づき,平成13年5月2
1日までの15日間原告を保護室E1号室に隔離する旨の隔離言渡書を作成した。
そして,田中は,同月8日午前10時18分,原告に対し,同言渡書を提示した。
  (13)原告は,平成13年5月9日午後4時40分,保護室での隔離が中止され
て,単独A4号室に移されたが,同月14日には,医師から,明らかな病的体験は
認められないものの,不安・緊張が高い状態にあり,容易に拘禁反応に陥りやすい
状態にあるとの意見が述べられたため,同月17日午前11時,隔離が中止され,
共同B1号室に移された。
    なお,原告は,隔離継続中は,同月13日及び17日を除き,本件センタ
ー内外の医師の診察を受けており,同月8日には,医師から本件センターに対し,
拘禁反応歴があるため,異常行動があれば連絡するよう指示を受け,本件センター
職員により,昼夜の観察がなされていた。原告は,隔離中も,薬の服用が認められ
ていたほか,戸外での運動も認められていた。
2セクシャルハラスメントにあたる行為について
  (1)上記1の認定事実によれば,細川は,原告が元気のない様子であったの
で,原告を励まそうとして,原告に対し,「元気か。」と声をかけながら,原告の
腰から尻の辺りを軽く1回叩いたにすぎず,同行為をもってセクシャルハラスメン
トにあたる違法な行為であるということはできない。
  (2)これに対し,原告は,細川から,右手の1本か2本の指で尻の肛門部分を
下から上へ突き上げる様に触られたと主張し,本人尋問及び陳述書や供述調書にお
いて,大要,それに沿う供述をする。
   しかしながら,本件各証拠によっても,細川がそのような行為に及ぶ動機
が認められないし,当時,両者の付近には,揚張,桑野及び谷口の各入国警備官や
被収容者のサントスがいたことに照らすと,細川が容易にそのような行為に及ぶこ
とができたとは考えがたく,そのほか,細川が,警備報告書(乙1)及び証人尋問
において,原告が主張する行為をしていないと一貫して述べており,目撃者である
揚張も,警備報告書(乙2)において同様の供述をしていること,そのことに関
し,原告と面接を行った田中も,報告書や証人尋問において,面接の際に原告は
「尻を掴まれた」(「肛門部分を下から上へ突き上げる様に触られた」のではな
い。)と供述していたと述べていることを合わせ考慮すると,原告の供述をたやす
く信用することはできず,
原告主張事実を認めることはできない。
  (3)なお,原告は,細川が原告を励ます趣旨で原告の腰から尻の辺りを軽く1
回叩いたものであったとしても,そのような行為が違法であることに相違はないな
どと主張する。
    しかしながら,同行為によって原告の人格権が侵害されたとまではいえ
ず,同行為をもって国家賠償法上違法な行為であるということはできない。
    また,同行為によって原告の感情が害されることがあったとしても,原告
の抗議の後に,細川は,誤解を与えたのであれば謝罪するとして,謝罪の意を表し
ているのであり,これらの事情をも考慮すると,細川の上記行為が慰謝料の支払を
命ずべきものであるということはできない。
 3隔離行為について
 (1)隔離①について
   上記1の認定事実によれば,原告は,細川が原告を励ます趣旨で行った行
為によって感情を害し,同人が謝罪したにもかかわらず,言葉で謝罪されても何も
ならない等と述べて,ことさらに謝罪文を要求したり警察への電話連絡を求める等
し,2日間にわたり,合計6回も,その件で幹部面接を求め,幹部らと面接を重ね
たあげく,取調1号室において,田中から,最終決定として,これらを不許可にす
る旨告げられ,帰室するよう指示されたところ,大声でわめき散らし,「アピー
ル」等と叫び続け,一向に席を立とうとしなかったもので,このような原告の行為
は,職員の職務執行に反抗し又はこれを妨害するものであり,このまま興奮状態に
ある原告を無理矢理共同室に連れ戻しても,同室内でさらに騒ぎ立てると考え,直
ちに共同室に収容する
ことは,センター内の秩序を乱し,他の被収容者に悪影響を与えると判断して,そ
の動静を観察するため,原告を一旦第2の2(5)のとおり共同室とはその構造仕様に
おいてほとんど相違がない単独A3号室に収容することとした田中の判断は,処遇
規則18条に照らして相当であると認めることができるから,隔離①をもって違法
なものであるということはできない。
  (2)隔離②について
   上記1の認定事実によれば,原告は,単独A3号室に収容された後も,入
国警備官からセクシャルハラスメントを受けたこと,警察に電話をかけることを認
めなかったことについて,大声で非難し続け,入国警備官らから,これを制止さ
れ,静かにするよう求められたが,かえって,同室の扉を蹴ったり,鉄格子を叩く
等の行為に及んだもので,原告のこれらの行為は,職員の職務執行に反抗し又はこ
れを妨害するものということができ,原告のこれらの行為の結果,A区域の他の部
屋の被収容者から,「馬鹿野郎」,「やかましい」等の罵声が出始めたため,この
ままでは区域全体が騒擾状態になり,保安上支障が生じると判断して,平成13年
5月7日午後5時56分頃,一旦原告を防音効果のある保護室に連行することを決
定した田中の判断は,
同様に,処遇規則18条に照らして相当であると認めることができる。
    原告は,単独A3号室における原告の穏当でない言動は拘禁反応を疑うべ
きものであると主張するが,原告は,同室から連行される際には当初はおとなしく
これに従っていたもので,原告に当時拘禁反応の症状が現れていたとは認められな
いから,原告の同主張は理由がない。
    また,原告は,上記のような相当な判断に従い,原告を保護室に連行しよ
うとした谷口の腕を振り払い,衣服の上から愿山の睾丸をわし掴みにする等の暴行
行為に及んでおり,原告のこれらの行為も,職員の職務執行に反抗し又はこれを妨
害するものであり,そのまま原告を解放し共同室に戻した場合には,それまでの原
告の言動に照らして,今後も同様の言動を続ける可能性が高かったといえるから,
そのまま原告を保護室E1号室に隔離し,同隔離を2日後の同月9日午後4時40
分まで継続した田中らの行為は,処遇規則18条に照らし,相当なものというべき
であるから,隔離②も違法ということはできない。
  (3)隔離③について
    その後,原告は,保護室から単独室に移され,引き続き単独室に隔離され
たが,上記(1)・(2)のそれまでの原告の言動に照らすと,共同室に戻った場合に
は,原告が同様の言動を続ける可能性があったもので,平成13年5月9日から同
月17日午前11時までの間,隔離①・隔離②を継続し,単独室で原告の観察を続
けた本件センター職員の行為は,裁量権の範囲を逸脱した違法な措置であるとは認
められない。
  (4)隔離言渡書の読み聞かせ等について
    原告は,いずれの隔離についても,隔離言渡書が作成されず,その読み聞
かせが行われていないと主張するが,上記1の認定事実によれば,本件センター所
長は,平成13年5月7日,原告が上記1(7),(8),(10)の各行為を行ったことを
理由とする隔離言渡書を作成し,田中は,同月8日午前10時18分,原告に対
し,同言渡書を提示したことが認められるから,原告の同主張も理由がない。
4金属手錠の使用について
  上記3(2)第3段の原告の行動に照らすと,原告は,当時,他人に危害を加え
る行為をするおそれがあり,金属手錠を使用する以外にこれを防止する方法がない
状況であったと認められるから,原告に金属手錠を施したことは処遇規則で認めら
れた措置であるということができるし,金属手錠を約45分間継続したことも不相
当であったとはいえない。
5暴行行為について
 第2の2(6)のとおり,本件センターの入国警備官は,他人に対し危害を加え
たり本件センター職員の職務執行を妨害する等の行為に及んだ被収容者に対して
は,合理的に必要と判断される限度でそれを制止し,その他その行為を抑止するた
めの措置をとることが認められており,原告が谷口の手を振り払い,愿山の睾丸を
わし掴みにする等の暴行を加えたことに対し,入国警備官らが原告の手足を取り押
さえる等したことについては,処遇規則で認められた合理的な措置であると評価す
ることができる。
  しかしながら,原告は,前記1(10)のとおり,合計8名もの入国警備官らに
よって通路上に横たえられ,手足を押さえつけられていたのであり,原告が手足を
ばたつかせて,容易に両手錠をかけられない状態にあったとしても,任務に当たっ
ていた入国警備官の人数に照らすと,原告が直ちに反撃に出る可能性は極めて低
く,原告が疲労すれば,暴行に及ばなくても,まもなく両手錠をかけることが可能
であったということができるから,その状況下で,当て身と称して,愿山が原告の
右下腹部辺りに右膝を2回落とし,右手拳で1回殴打する等したことや,藤原らが
原告の腰部付近等を数回殴打する等したことは,入国警備官としての正当な職務行
為の範囲を逸脱するものであって,行き過ぎた暴行というべきであり,制圧行為と
して正当化することはで
きない。
   したがって,これらの行為は,もはや違法といわざるを得ず,被告は,国家
賠償法1条1項により,これにより原告が被った精神的苦痛に対する賠償義務を負
っているというべきである。
  そして,本件に現れた一切の事情を考慮すると,上記精神的苦痛に対する原
告の慰謝料額は20万円と認めるのが相当である。
第5結語
   以上の次第で,原告の本訴請求は,慰謝料20万円とこれに対する違法行為
の後の日で原告が支払を求める平成13年5月17日から支払済みまで民法所定の
年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その
余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,
64条本文を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のと
おり判決する(なお,担保を条件とする仮執行免脱宣言は,相当でないので,付さ
ないこととする。)。
    大阪地方裁判所第24民事部
        裁判長裁判官 山 下   寛
           裁判官 大 竹 昭 彦
           裁判官 渡 部 五 郎

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