弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人山下卯吉、同清原邦一の上告趣意第一点について。
 原判決は被告人に対する判示第二、及び第八の犯罪事実を被告人の原審公判廷の
供述(判示の各金員授受の点を認めその趣旨を否認)と、被告人に対する検事並び
に副検事の判示各聴取書中の供述記載(判示の各金員授受及びその趣旨を自認)と
を綜合して認定しているのである。しかし被告人の当該判決裁判所の公判廷におけ
る供述が憲法三八条三項にいわゆる本人の自白に含まれないこと、そうして本件の
場合のように、被告人の公判廷外における自白と公判廷における供述と相俟つて犯
罪事実を認定することができることは何れも当裁判所の判例の示すところであるか
ら、原判決は所論のように憲法三八条三項に違反するものではない。(昭和二三年
(れ)一六八号同年七月二九日大法廷判決。昭和二三年(れ)一七四四号同二五年
一〇月一一日大法廷判決参照)
 同第二点は事実誤認の主張であつて適法な上告理由とならない。
 よつて刑訴施行法三条の二刑訴四〇八条により主文のとおり判決する。
 この判決は第一点に関する裁判官沢田竹治郎、同井上登、同栗山茂、同谷村唯一
郎の少数意見並に第一点後段に関する裁判官島保の少数意見を除く外、裁判官一致
の意見によるものである。裁判官沢田竹治郎、同井上登、同栗山茂の少数意見につ
いては昭和二三年(れ)一六八号同年七月二九日大法廷判決参照、最高裁判所判例
集二巻九号一〇一二頁以下、裁判官島保の少数意見については前記昭和二三年(れ)
一七四四号同二五年一〇月一一日大法廷判決参照。裁判官谷村唯一郎の少数意見は
後記の通りである。
 なお右の点に関する裁判官斎藤悠輔並びに同真野毅の補足意見はそれぞれ前掲昭
和二三年七月二九日大法廷判決のとおりである。
 裁判官谷村唯一郎の少数意見は次のとおりである。
 本件において、原判決が被告人に対する判示第二及び第八の事実を認定するに当
り、被告人の原審公判廷の供述と、被告人に対する検事並びに副検事の各聴取書中
の供述記載とを証拠に供したことは違憲である。それは憲法三八条三項の「本人の
自白」には公判廷外の自白は勿論公判廷における自白をも含むものと解すべきであ
るからである。従つて被告人の公判廷外の自白と公判廷における自白とを綜合して、
犯罪事実を認定することは許されないのである。そして憲法三八条三項の「本人の
自白」には公判廷の自白をも含むとなす理由について私の考へていることの大部分
は昭和二三年(れ)第一六八号事件の大法廷判決(昭和二三年七月二九日判決)に
示されている沢田、井上、栗山、小谷各裁判官の少数意見にその趣旨が取り入れら
れているので、その点については重複を避けてこれを援用することとし、以下少し
くその理由を附加することにする。新刑事訴訟法三一九条には「被告人は公判廷に
おける自白であると否とを問わず、その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場
合には、有罪とされない」と規定しており、この新刑訴法によつて、審理される事
件については、公判廷の自白であつても、それが唯一の証拠である限りこれを断罪
の資料とすることのできないことはいうまでもない。ところが多数説によれば、刑
訴応急措置法の適用を受ける旧法事件については、公判廷の自白(当該判決裁判所
における)は、これを証拠に供することができるというのである。しかし同じ公判
廷の自白についてその解釈を二途にし、新法事件については証拠にすることはでき
ないが、旧法事件については、証拠にできるということは私の納得のできないとこ
ろである。多数説は前示新刑訴法の自白に関する規定は、被告人の利益を保護する
ため、特に憲法三八条三項の自白の範囲を広めて規定したものと解すべきであるか
ら、右解釈が二途に出ずることは当然であるというようである。成る程刑訴応急措
置法一〇条には「何人も自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には」
と規定し、新刑訴法のように「公判廷における自白であると否とを問わず」と公判
廷の白白をも含む旨をはつきりと現わしてはいないのであるが、私は右刑訴応急措
置法の規定は憲法三八条三項の精神を受けて規定せられたものであり、この点新刑
訴法も同様であつて、ただ新刑訴法は、この趣旨を法文上明白にしたに過ぎないも
のと解するものである。況んや刑訴応急措置法二条は「刑事訴訟法は日本国憲法…
…の趣旨に適合するようこれを解釈しなければならない」と規定しており、新刑訴
法の規定が憲法三八条の精神を受けているものであれば、憲法の施行に伴い制定さ
れた刑訴応急措置法一〇条の規定もまたこれと同趣旨に解するを至当と信ずるもの
である。即ちその制定の前後によつて解釈を二にすることは正当ではないと思う。
そして被告人の白白がその任意に出でない虚偽の自白の存する虞れのあることは独
り公判廷外のみではなく、公判廷における自白においてもなおその情況が伴うもの
であり、このことは前記少数意見に詳しく述べられているとおりである。そこで憲
法は基本的人権の保障の精神を貫く趣旨から危険の伴う被告人の唯一の自白を証拠
として断罪することを禁じたものであり、これは公判廷の内外を問わぬ趣旨である
と解すべきである。
  昭和二六年一二月一九日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    島           保
            裁判官    齋   膝   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
 裁判官長谷川太一郎は退官につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎

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