弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件訴えのうち、農林水産大臣に対して、原告が平成18年1月10日付けで開
示請求をした別紙文書目録記載の文書についての開示決定をするよう義務付け
ることを求める部分を却下する。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1農林水産大臣が原告に対し平成18年2月13日付けでなした別紙文書目録記載
の文書を開示しないとの処分を取り消す。
2農林水産大臣は、原告が平成18年1月10日付けで開示の請求をした別紙文書
目録記載の文書について開示決定をせよ(以下、本項に係る訴えを「本件義務
付けの訴え」という。)
第2事案の概要
原告が、平成18年1月10日、行政機関の保有する情報の公開に関する法律
(以下「法」という)に基づき農林水産大臣に対して別紙文書目録記載の文書
(以下「本件文書」という)の開示を請求し、同大臣から同年2月13日付けで
不開示処分(以下「本件処分」という)を受けたところ、同処分が違法である
としてその取消しを求めるとともに、同文書の開示の義務付けを求める事案で
ある。
1前提事実(証拠により認定した事実はその証拠を該当箇所に掲記する)
(1)本件処分等
ア原告は、農林水産大臣に対し、平成18年1月10日、法3条に基づき、本件
文書を開示するように請求した。
イ農林水産大臣は、アの開示請求に対して同年2月13日付けで本件処分を
し、同処分の通知書は同月15日に原告に到達した(弁論の全趣旨。不開)
示の理由は、本件文書の存否を答えるだけで法5条2号イに該当する不開示
情報を開示するのと同様の結果が生じることから、法8条に該当するとい
うことにある(甲1。)
(2)農薬登録制度の概要
農薬取締法2条1項は「製造者(注・農薬を製造し、又は加工する者)又は
輸入者(注・農薬を輸入する者)は、農薬について、農林水産大臣の登録を
受けなければ、これを製造し若しくは加工し、又は輸入してはならない」と
規定し、同条2項は「前項の登録の申請は(中略)申請書、農薬の薬効、、
薬害、毒性及び残留性に関する試験成績を記載した書類並びに農薬の見本を
提出して、これをしなければならない」と規定する。
農林水産大臣は、農薬の登録申請を受けたときは、独立行政法人農薬検査
所(現・独立行政法人農林水産消費安全技術センター。以下では「農薬検査
所」という)に農薬の見本について検査をさせ、その結果同法3条1項各号に
該当する場合を除いて当該農薬の登録を行うこととされていた(同法2条
3項。)
以上の農薬の登録に係る制度を「農薬登録制度」という。
(3)利用権確認文書について
「農薬の登録申請における試験成績について(平成12年11月24日付け農」
林水産省農産園芸局長通知。以下「本件通知」という)は、(2)の試験成績
を記載した書類につき、試験成績の代替を認めている。試験成績の代替とは、
「農薬の登録申請において提出することとされている試験成績の一部が、既
に他の登録申請において提出されており、かつ、これらの試験成績を当該申
請に係る農薬の試験成績として利用することができると認められる場合には、
申請者は、別記様式による試験成績代替書を当該試験成績に代えて提出する
ことができる」というものである。
そして、試験成績の代替において「利用しようとする試験成績を提出した
者が当該申請者と異なる場合にあっては、当該申請者は、利用しようとする
試験成績を提出した者が当該試験成績を利用して差し支えない旨を記した書
類を添付しなければならない」とされている(以下当該書類を「同意書」と
いう。)
さらに、その同意書発行権限の基礎となる試験成績の代替についての利用
権(排他的利用権)は移転されることがあるため、運用上、その移転された
時点において、新たに当該試験成績の利用権を有することとなった者から利
用権を有することを示す文書(以下「利用権確認文書」という)が農薬検査
所に対して提出されている。利用権確認文書は、同意書の信用性を高めるこ
とで、申請手続の円滑化、迅速化を図ることを目的として任意に提出される
ものであり、行政庁が提出を義務付けているものではない。
2法8条、5条2号イの規定
法は、5条2号イにおいて、法人その他の団体(以下「法人等」という)に関
する情報であって公にすることにより当該法人等又は当該個人の権利、競争上
の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものを不開示情報であると規定
したうえ、8条において「開示請求に対し、当該開示請求に係る行政文書が、
存在しているか否かを答えるだけで、不開示情報を開示することとなるときは、
行政機関の長は、当該行政文書の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒
否することができる」と定めている。
3争点及び当事者の主張
本件の争点は本件処分の適法性であり、当事者の主張は次のとおりである。
(1)被告の主張
ア本件処分の適法性
(ア)本件文書の存否を答えることによって明らかになる情報
本件文書の存否を答えることによって、グリホサート液剤(以下「本
件農薬」という)の試験成績(以下「本件試験成績」という)がP1と
P2(以下「P2社」という)との共有であるか否か、P2社が本件試
験成績について利用権を有するか否かという情報(以下「本件情報」と
いう)が明らかになる。
(イ)利用権の帰属に関する情報が法5条2号イに該当すること
試験成績は、長期間にわたり膨大な資金を投下して得られ、維持する
ためのコストも必要なものであるから(乙4・25、26、87∼89頁、そ)
れ自体が極めて価値の高い財産である。したがって、
①ある企業が特定の農薬の試験成績の利用権を有するか否かは当該企
業の企業価値にかかわってくるものであり、その利用権をどのように
利用しているかということは当該企業の経営状況を推察させる。
②また、利用権を有するか否かは、当該企業が特定の農薬の登録を取
得していた場合はその取得に当たり、既に他の登録申請において提出
された試験成績を利用したものであるか否かを推察させるものである。
これは当該農薬に対する投下資本の多寡にかかわってくるため、当該
企業が当該農薬を販売するときに、農薬買取者との間の販売交渉での
重要な情報となりうる。
③利用権が二者の共有であることが明らかになった場合、両者が製造
等している農薬が同一のものであることが推知され、当該農薬の購入
者が両者の双方又はいずれか一方に対して価格交渉を行い、他方の製
造等に係る同一の成分を有する農薬の存在を根拠にこれまでよりも低
い購入価格を提示することにより、両者の双方又はいずれか一方の権
利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。両者の双
方又はいずれか一方から同意書の発行を受けた第三者に上記購入者が
対する関係でも同様である。
以上のとおり、農薬の試験成績の利用権の帰属に関する情報は、企業
の経営を左右する重要な経営情報であり、その企業の秘密に属すること
である(農林水産大臣は、農薬の登録に当たり、既に他の登録申請にお
いて提出された試験成績を利用したものであるか否かを公表していな
い。)
(ウ)本件につき法8条、5条2号イの事由があること
以上によれば、本件情報が明らかになることによりP2社及び当該試
験成績を利用して農薬の登録申請を行った者の権利、競争上の地位その
他正当な利益を害するおそれがあるから、本件には法8条、5条2号イの
事由があり、本件処分は適法である。
(エ)原告の主張に対する反論
a原告の個別的事情について
(a)法は、何人に対しても等しく、開示請求の理由・利用目的・利
害関係の有無等の個別的な事情を問うことなく開示請求権を認めて
。いる(3条)から、個別的な事情に関する原告の主張は失当である
(b)法8条、5条2号イ該当性の判断に当たり、本件試験成績の利用権
が共有であるかどうかは無関係である。
bP2社が正当な利益を有しないことについて
(a)農薬登録の無効について
①無効の主張に理由がないこと
本件試験成績の代替の同意が真の利用権者によって与えられた
ものでないことは、農薬取締法2条3項、3条1項の規定する事由に
当たらないから、農薬登録の無効をいう原告の主張は失当である。
②農薬登録の有効性は本件処分の違法性に影響を与えないこと
利用権確認文書である本件文書の存否を答えることによって明
らかになる情報が法人等の正当な利益を害するおそれがあること
は、農薬登録の有効性とは無関係である。
(b)P2社が権利者でないことについて
法5条2号イ該当性の判断に当たっては、法人等の正当な利益を害
する「おそれ」があるか否かを判断する。この「おそれ」は、法人
等の正当な利益を害する蓋然性があれば足りるというべきである。
そして、一般的、類型的にいって、利用権確認文書の記載から試験
成績の帰属等の情報が明らかになるのであるから、利用権確認文書
の存否を明らかにすることによって法人等の正当な利益を害する蓋
然性がある。したがって、P2社が本件試験成績の権利者でないこ
とは、法5条2号イ該当性の判断に影響を及ぼさない。
イ本件義務付けの訴えの適法性
アで主張したとおり本件取消しの訴えには理由がないから、本件義務付
け訴訟は不適法である(行訴法37条の3の1項2号。)
(2)原告の主張
アP1に係る組合契約、合弁事業契約及びP2社の除名
(ア)原告は農薬の輸出入、販売等を業とする株式会社である。
(イ)原告は、平成2年10月1日、P2社ほか5社の法人とともに、農薬登録
を取得した本件農薬の日本国における非食用農薬登録及び食用農薬登録
並びに販売に関する組合契約(組合の名称は「P1)を締結した。同」
契約において、試験成績等に係る権利はP1に帰属するものとした。
(ウ)上記7社は、平成3年6月22日、合弁事業契約を締結し、平成13年6月
22日にこれを改定した(以下、改定後の合弁事業契約を「本件合弁事業
契約」という。)
同契約においては、①7社が協力して本件農薬の日本国における農薬
登録の取得及びその農薬登録の適用拡大・更新並びに輸出価格の決定、
P1に帰属する試験成績、調査結果等の維持・管理及び運用等を達成す
ることを目的とすること、②本件農薬の農薬登録に必要な試験研究、調
査及び資料の収集・サンプルの提供等に関連して知り得た情報・秘密に
ついては、契約当事者の全員の承諾を得た場合を除き、これを第三者に
漏洩又は窃用してはならないことなどが合意された。
(エ)P2社は、P1の組合員ではない有限会社P3ほか3社が平成15年
11月に農薬登録申請をするに際し、本件試験成績を代替利用することに
ついて同意書を発行しその前提として本件文書を作成提出した。しかし、
この同意書の発行に関し、P2社を除くP1組合員は、一切承諾してお
らず、当該行為は本件合弁事業契約上の義務に反するものであるから、
P2社を除く残りのP1組合員は、平成16年8月3日、全員一致をもって
P2社の除名を決議し、同月20日、同社を除名する旨の意思表示をした。
イ本件処分の適法性については争う。
(ア)一般に、利用権確認文書の開示により法人等の正当な利益が害される
おそれはないこと
a経営状況が推察されるおそれなどについて
、被告の経営状況の推察という主張は、極めて漠然とした指摘であり
利用権の帰属に関する情報が開示されることによってP2社の権利、
競争上の地位、正当な利益が害されるということはできない。
b農薬買取者との販売交渉に与える影響について
試験成績は膨大な資金を投下して得られるものであるから、試験成
績の代替の同意を受けた場合は相当の対価を提供していることが推察
される。したがって、試験成績を自ら保有する企業であるか、他社か
ら入手した企業であるかということで、農薬買取者との販売交渉にお
いて差異が生ずることはない。
c利用権確認文書に利用権の帰属の証明力がないこと
利用権確認文書が同意書の発行権限を明らかにし、同意書の信用性
を高めるものであるとすれば、利用権確認文書は利用権の移転元企業
が作成した文書でなければならない。本件文書は利用権の移転を受け
たと主張するP2社が作成したものに過ぎないから、利用権の帰属に
ついての証明力はない。
(イ)原告に関する個別的事情
a原告が本件試験成績についての権利者(当事者)であること
P1は本件試験成績の利用権者であり、原告はその組合員であるか
ら、本件文書の開示を原告に対して拒否する理由はない。
b民法の規定と同じ内容であること
本件試験成績はP1の財産であり、同会は日本国法を準拠法とする
民法上の組合である(甲2・15条。したがって、P1の財産は総組)
合員の共有に属する(民法668条。つまり、本件文書は民法668条と)
同じことを述べているに過ぎず、何ら、通常一般に知りえない情報で
はない。
(ウ)P2社が正当な利益を有しないこと
a農薬登録が無効であること
P1は組合であり、各組合員は組合財産である試験成績の利用権の
使用・収益の方法を共有者の持分の過半数による協議に従って行うこ
ととされている(民法252条本文)から、一組合員に過ぎないP2社
が協議を経ることなく試験成績の代替に同意することはできない。
処分庁は、一組合員に過ぎないP2社が作成した本件文書をもって
利用権の確認ができたとしているところ、P2社には本件試験成績の
代替について単独で同意する権限がないのであるから、当該農薬登録
は違法・無効である(農薬取締法2条2項の「試験成績を記載した書
面」の提出がないことになるから農薬登録申請の適法要件を満たさな
い。)
したがって、P2社や同社の同意書の発行を受けた者の農薬登録は
何ら法的保護に値しないから、法8条、5条2号イの事由はない。
b本件文書は無権利者が作成したものであること
本件文書はP2社が無権限で作成したものであるから、これが開示
されることによってP2社その他の法人等の正当な利益なるものが害
されるおそれはそもそも存在しない。
ウ本件義務付けの訴えの適法性
イで主張したとおりであるから、本件義務付けの訴えは適法である。
第3争点に対する判断
1認定事実
証拠(乙4)及び弁論の全趣旨によれば以下の各事実が認められる。
(1)ア農薬の開発は、目的にかなう化合物を探索することから始まり、効果、
毒性・残留性などの試験を経て、農薬取締法2条1項所定の農薬登録を受
けたうえで製造、販売される。最終的に新農薬として成功する確率は現
在では2∼3万分の1、1剤を開発するのにはおよそ8∼10年の期間と40∼
50億円の経費(化学合成農薬の場合)を必要とするといわれている。
イ農薬の開発にはリスクが伴うものであり、例えば、毒性試験の中でも
慢性毒性試験はその結果がまとまるまで約3年の期間と数億円単位の費
用が必要で、そこで問題が生ずると開発を中止することになり、開発を
していた企業は大きな痛手を受けることになる。
ウさらに、農薬登録にはこれを維持するコストも必要になる。
(2)農薬の開発に要する莫大な費用等はその多くが試験成績を取得するため
に費やされているため、農薬の価格もこれに大きく左右される。
(3)農林水産大臣においては、農薬登録申請において提出された試験成績の
利用権の帰属に関する情報を一般に公開しないこととしている。なお、他に
そのような情報が一般に公開されているものと認めるに足りる証拠はない。
2判断
(1)当裁判所の判断
ア試験成績の帰属に関する情報が明らかになることによって法人等の正当
な利益が害されるおそれがあること
1の認定事実によれば、以下のようにいうことができる。
(ア)農薬の開発には試験成績を作成するまでの段階で8∼10年、化学合成
農薬の場合で40∼50億円という莫大な期間ないしコストを要するのであ
るから、農薬の試験成績は極めて重要な財産的価値を有するということ
ができる。その帰属のいかんは農薬登録申請者や試験成績の帰属主体の
経営を左右する重要な経営情報であり、また、試験成績の帰属に関する
情報が公になれば、農薬の登録申請者等が当該農薬の登録に必要な試験
成績を保有しているかどうか、当該試験成績の利用権をどのようにして
入手したかといった経営上重要な情報が明らかとなり、競合他社等によ
って当該農薬に関する競争上重要な情報が推察されるおそれがある。
すなわち、この点は被告が前記第2の3(1)ア(イ)(4頁以下)にお
いて主張するとおりである(ただし③を除く。したがって、上記利用)
権が帰属しているかどうかについては、これが帰属していないことをも
含めて保護されるべき情報であるということができる。
また、試験成績の帰属主体(本件ではP1及びP2社がこれに該当し
うる)にとっては、仮に試験成績の帰属主体に関する情報が一般に法
5条2号イに該当しないものとすれば、農薬を購入しようとする者が、法
3条に基づき利用権確認文書の開示を請求することによって、当該農薬
と同一の目的を達しうる複数の農薬の試験成績の帰属主体を知ることが
可能になり、これら複数の帰属主体を天秤にかけて有利な交渉をするこ
とができることになるから、購入者のそのような行動によって、試験成
績の帰属主体の競争上の地位を低下させることになる。
(イ)前記のとおり試験成績には試験成績の帰属主体や農薬の登録申請者の
経営を左右するほどの極めて重要な財産的価値があるため、その情報が
公になることによって競争上の地位が低下することによる打撃は甚大な
ものになりうるというだけでなく、試験成績の帰属に関する情報は一般
に公開されているものではなく、また、利用権確認文書の提出は任意に
行われているものに過ぎず試験成績の帰属主体や農薬の登録申請者が同
文書を公にされることを甘受すべき法的地位にあるとはいえないことを
ふまえれば、試験成績の帰属に関する情報を企業秘密として保持するこ
とは、当該帰属主体にとって法的に保護された正当な利益であって、単
なる事実上の期待にとどまるものではないというべきである。
(ウ)以上によれば、農薬の試験成績の帰属に関する情報は、これを公にす
ることによって、①農薬の登録申請者及び②当該農薬の試験成績の帰属
主体が事業を営むうえでの権利、競争上の地位その他正当な利益を害す
るおそれがあるというべきである。
イ本件文書の存否を答えるだけでアの情報が明らかになること
本件文書は、原告により「P2が作成した『○○』と題する書面(試験
成績がP1とP2社との共有である旨を記載した書面)一式」として特定
されているものであるから、その存否を答えるだけで試験成績の帰属を開
示することになる。
ウ法8条、5条2号イ該当性
以上のとおり、試験成績の帰属に関する情報が明らかになることによっ
て法人等の正当な利益が害されるおそれがあるところ、本件文書の存否を
答えるだけで試験成績の帰属に関する情報を開示することになるから、本
件においては法8条、5条2号イの事由があり、本件処分は適法であって、
原告の請求のうち本件処分の取消しを求める部分は理由がない。
(2)原告の主張について
ア利用権確認文書には利用権の帰属の証明力がないという主張について
原告はP2社が作成したとする利用権確認文書は利用権移転元が発行す
るものではないことから試験成績の帰属についての証明力を欠くと主張す
る。
利用権確認文書は、同意書の発行者が自らが利用権の主体であることを
証明すべき文書として農林水産大臣に提出するものであるから、第三者に
とって、利用権の帰属主体を知る手掛かりになるものである。したがって、
利用権確認文書が利用権移転元によって発行されるものでないことを理由
に法5条1号イに該当することが否定されるものではない。
よってこの点に関する原告の主張は採用できない。
イ原告に関する個別的事情について
法は、何人に対しても等しく、開示請求の理由・利用目的・利害関係の
有無等の個別的な事情を問うことなく開示請求権を認めている(3条)の
であるから、個別事情に関する原告の主張(民法の規定と同じ内容であ「
ること」という第2・3(2)イ(イ)b〔9頁〕の主張も、原告とP1及びP
2社との個別的な関係を前提とする主張であると解される)は全て失当で
ある。
ウP2社等が正当な利益を有しないことについて
(ア)農薬登録の無効の主張について
農薬登録の有効・無効が法8条、5条2号イ該当性の判断を左右するも
のとは解されないから、この点に関する原告の主張は失当である。
(イ)本件文書が無権限で発行されたものであることについて
、a原告は、本件文書はP2社が無権限で発行したものであることから
P2社及び農薬登録申請者には本件情報が開示されることによって害
されるべき正当な利益は存在しないと主張する。
b(1)ア(ア)(11頁)で述べたとおり、試験成績の利用権等の帰属に
関する情報は、帰属するという情報であるか帰属しないという情報で
あるかにかかわらず、法5条2号イに該当する。そして、P2社が利用
権を有するか否かにかかわらず、本件文書の存否を答えるだけでP
2社及びP1に試験成績の利用権等が帰属するか否かを知るための手
掛かりを与える結果となることに変わりはない。したがって、P2社
の利用権の有無は、法8条、5条2号イ該当性に関する前記判断を左右
するものではない。
c以上によれば、この点に関する原告の前記主張は採用できない。
(3)本件義務付けの訴えについて
以上によれば、本件義務付けの訴えは行訴法37条の3の1項2号の要件を
欠くことになるから、不適法であることに帰する。
第4結論
よって、本件訴えのうち本件義務付けの訴えは不適法であるからこれを却下
し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり
判決をする。
広島地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官橋本良成
裁判官佐々木亘
裁判官相澤聡

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