弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成23年9月22日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成22年(ワ)第5012号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成23年7月20日
判決
原告ヤマトプロテック株式会社
同訴訟代理人弁護士大塚忠重
同大塚千代
同訴訟代理人弁理士中島了
被告株式会社モリタユージー
被告株式会社モリタ防災テック
被告株式会社
モリタホールディングス
上記3名訴訟代理人弁護士川木一正
同松村和宜
同長野元貞
同田中崇公
同鈴木智仁
同訴訟代理人弁理士阿部伸一
同金子一郎
同補佐人弁理士藤江和典
主文
1被告株式会社モリタユージーは,別紙物件目録記載の製品を製造し,販売
し又は販売の申出をしてはならない。
2被告株式会社モリタユージーは,同製品を廃棄せよ。
3被告株式会社モリタユージーは,原告に対し,107万6720円(ただ
し,69万7657円の限度で被告株式会社モリタ防災テックと連帯して)
及びこれに対する平成22年4月20日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
4被告株式会社モリタ防災テックは,原告に対し,被告株式会社モリタユー
ジーと連帯して,69万7657円及びこれに対する平成22年4月20日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5原告の被告株式会社モリタユージー及び同株式会社モリタ防災テックに
対するその余の請求並びに被告株式会社モリタホールディングスに対する
請求をいずれも棄却する。
6訴訟費用は,原告に生じた費用の20分の1,被告株式会社モリタユー
ジーに生じた費用の10分の1を被告株式会社モリタユージーの負担とし,
原告に生じた費用の30分の1,被告株式会社モリタ防災テックに生じた費
用の15分の1を被告株式会社モリタ防災テックの負担とし,原告,被告株
式会社モリタユージー及び被告株式会社モリタ防災テックに生じたその余
の費用並びに被告株式会社モリタホールディングスに生じた費用を原告の
負担とする。
7この判決は,1ないし4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告
(1)被告株式会社モリタユージー及び同株式会社モリタ防災テックは,別紙物
件目録記載の製品を製造し,販売し又は販売の申出をしてはならない。
(2)被告株式会社モリタユージー及び同株式会社モリタ防災テックは,同製品
を廃棄せよ。
(3)被告らは,連帯して,原告に対し,2880万円及びこれに対する平成2
2年4月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)被告らは,朝日新聞・毎日新聞・読売新聞・産経新聞・日経新聞の全国版
に各2回ずつ別紙記載の文案,条件により広告を掲載せよ。
(5)訴訟費用は被告らの負担とする。
(6)仮執行宣言
2被告ら
(1)原告の請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
第2事案の概要
1前提事実(当事者間に争いがない又は弁論の全趣旨により認定できる。)
(1)当事者
原告は,消火器具機械,消火剤の製造及び販売等を目的とする会社である。
被告株式会社モリタユージー(以下「被告モリタユージー」という。)は,
消火器,消火剤,消火装置,消防ポンプ,避難器具,火災報知設備等防災消
防関係機器,設備の製造及び販売等を目的とする会社である。
被告株式会社モリタ防災テック(以下「被告モリタ防災テック」という。)
は,防災用機械器具並びに装置の製造,修理及び販売等を目的とする会社で
ある。
被告株式会社モリタホールディングス(以下「被告モリタホールディング
ス」という。)は,消防用各種自動車,防災用機械器具並びに装置の製造,修
理及び販売等を目的とする会社である。
(2)原告の有する特許権
原告は,以下の特許(以下「本件特許」といい,本件特許に係る発明を「本
件特許発明」と,本件特許に係る出願明細書を「本件明細書」という。)に係
る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する。
特許番号3814414号
発明の名称固定式消火設備
出願年月日平成10年6月3日
登録年月日平成18年6月9日
特許請求の範囲
【請求項1】
格納箱内に,消火薬剤貯蔵容器と,この消火薬剤貯蔵容器内を加圧する
ための加圧用ガス容器と,中継器とを格納してある固定式消火設備におい
て,前記消火薬剤貯蔵容器から導出した薬剤送出管に,水平送出管部を連
通形成し,この水平送出管部の複数箇所の各箇所の上下に分岐管を設ける
とともに,各分岐管に,前記中継器からの指示信号により分岐管路を電気
的に開閉するための電動式の選択弁を設けてあり,前記水平送出管部は,
前記格納箱内の消火薬剤貯蔵容器より上方に,平面視で格納箱奥行方向に
対して斜交するように斜め方向にかつ側面視で水平に配設してあり,各分
岐管は格納箱外の各防火区域へ配管接続されるようにしてある固定式消
火設備。
(3)構成要件の分説
上記発明は,以下のとおり分説することができる。
A格納箱内に,消火薬剤貯蔵容器と,この消火薬剤貯蔵容器内を加圧する
ための加圧用ガス容器と,中継器とを格納してある
B固定式消火設備において,
C前記消火薬剤貯蔵容器から導出した薬剤送出管に,水平送出管部を連通
形成し,
Dこの水平送出管部の複数箇所の各箇所の上下に分岐管を設けるとともに,
E各分岐管に,前記中継器からの指示信号により分岐管路を電気的に開閉
するための電動式の選択弁を設けてあり,
F前記水平送出管部は,前記格納箱内の消火薬剤貯蔵容器より上方に,平
面視で格納箱奥行方向に対して斜交するように斜め方向にかつ側面視で水
平に配設してあり,
G各分岐管は格納箱外の各防火区域へ配管接続されるようにしてある
H固定式消火設備。
(4)被告モリタユージー及び被告モリタ防災テックの行為
被告モリタユージーは,平成18年6月9日以降,別紙物件目録記載の製
品(以下「被告製品」という)を製造販売した。
被告モリタ防災テックは,平成18年6月9日以降,被告モリタユージー
から購入した被告製品の販売及び販売の申出をした。
被告製品は,本件特許発明の技術的範囲に属する。
2原告の請求
原告は,被告モリタユージー及び被告モリタ防災テック(以下,この2名を
併せて「被告2名」という。)の行為について,被告2名と被告モリタホールディ
ングスとが共同して本件特許権を侵害するものであるとして,本件特許権に基
づき,被告らに対し,被告製品の製造販売等の差止め及び同製品の廃棄を求め
るとともに,不法行為に基づき,連帯して2880万円の損害賠償及びこれに
対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合によ
る遅延損害金の支払並びに謝罪広告の掲載を求めている。
3争点
(1)本件特許権は,特許無効審判により無効とされるべきものであるか
ア本件特許発明は,本件特許権の出願前に頒布された宮田工業株式会社作
成の固定式給油設備用簡易泡消火設備と題する書面(乙1の2。以下「乙
1文献」という。)に記載された発明(以下「乙1発明」という。)に基づ
いて当業者が容易に発明することができたものであるか
イ本件特許発明は,本件特許権の出願前に頒布された特開平1-1715
81号公報(以下「乙9公報」という。)に記載された発明(以下「乙9発
明」という。)に基づいて当業者が容易に発明することができたものである

(2)損害額
(3)差止請求,廃棄請求及び謝罪広告請求の可否
(4)被告モリタホールディングスの共同不法行為者としての責任
第3争点に係る当事者の主張
1争点(1)ア(本件特許発明は,乙1発明に基づいて当業者が容易に発明するこ
とができたものであるか)について
【被告らの主張】
以下のとおり,本件特許発明は,乙1発明に基づいて当業者が容易に発明す
ることができたものであるから,特許無効審判により無効とされるべきもので
ある。
(1)乙1発明
乙1文献には,以下の発明(乙1発明)が記載されている。
①薬剤貯蔵容器側が観音扉,選択弁側が片開き扉となっており,外観寸法
(幅1100㎜,奥行き450㎜,高さ1800㎜)の格納箱を備えてい
る。
②この格納箱内には,薬剤貯蔵容器と,この薬剤貯蔵容器内を加圧するた
めの加圧用ガス容器と,装置制御装置とを格納している。
③薬剤貯蔵容器は,高さが1095㎜で容量が93.5リットルのものを
2つ用いている。
④薬剤貯蔵容器から導出した薬剤送出管に,水平送出管部を連通形成し,
この水平送出管部の複数箇所の各箇所に分岐管を設けるとともに,各分岐
管に,装置制御装置からの指示信号により分岐管路を電気的に開閉するた
めの電動式の選択弁を設けている。
⑤水平送出管部は,格納箱内の消火薬剤貯蔵容器より上方に,側面視で水
平に配設してあり,各分岐管は格納箱外の各防火区域へ配管接続されるよ
うにしている。
⑥顧客に自ら給油等をさせる給油取扱所の固定式消火設備である。
(2)本件特許発明との対比
本件特許発明と乙1発明とを比較すると,次の2つの点で相違しているほ
かは,一致している。
ア本件特許発明の構成要件Dに係る相違点(以下「相違点1」という。)
本件特許発明は,「水平送出管部の複数の各箇所の上下に分岐管」を設け
ているのに対し,乙1発明は,「2本の水平送出管部を上下2段に設け,
その2本の水平送出管部の複数の各箇所の上に分岐管」を設けている点で
相違している。
イ本件特許発明の構成要件Fに係る相違点(以下「相違点2」という。)
水平送出管部について,本件特許発明は,「格納箱内の消火薬剤貯蔵容
器より上方に平面視で格納箱奥行方向に対して斜交するように斜め方向
にかつ側面視で水平に配設」しているのに対し,乙1発明は,「格納箱内
の消火薬剤貯蔵容器より上方に平面視で格納箱奥行方向に対して斜交し
ないで上下に2段に並行して設けて,かつ側面視で水平に配設」している
点で相違する。
(3)容易想到性
以下のとおり,相違点1及び2は,いずれも単なる設計事項にすぎないか
ら,本件特許発明は,当業者が乙1発明に基づいて容易に発明することがで
きたものである。
ア相違点1
水平送出管部から選択弁を分岐させる場合に,「上下に分岐管」とする
か「上に分岐管」とするかは単なる設計事項にすぎない。
(ア)2つに分岐させる十字形分岐管も,1つに分岐させるT字形分岐管も
一般的な分岐管として存在しており(乙3),これらは分岐の必要に応じ
て用いられるものである(乙4及び5)。
(イ)本件特許発明は,上下に分岐管を設けることで,内部スペースの制約
された格納箱内にもできる限り多くの分岐管を収めることができるとす
るものである。しかし,乙1発明と比較すると幅方向では優位性が無く,
高さ方向で若干の差異が生じるにすぎない。
このように上下に分岐させることに有利な効果はない。
イ相違点2
水平送出管部を格納箱奥行方向に対して斜交するように斜め方向に配
設させるか否かも単なる設計事項にすぎない。
(ア)顧客に自ら給油等をさせる給油取扱所の位置,構造及び設備の技術上
の基準(乙2)によれば,消火薬剤貯蔵容器の泡消火薬剤の貯蔵量,消
火薬剤貯蔵容器の設置場所,加圧用ガス容器の能力及び選択弁の機能な
どについては,所定の条件を満たさなければならないとされている。
これにより,消火薬剤貯蔵容器は必要最低量の泡消火薬剤を貯蔵でき
る大きさが必要であるものの,その設置場所を選択するには制約がある
から,格納箱の幅及び奥行き寸法をむやみに大きくすることはできない。
加圧用ガス容器についても,消火薬剤貯蔵容器の容量に応じて必然的に
その大きさは決まるし,選択弁もアイランド(固定給油設備の設置区画)
の数に応じた分岐数を備えなければならない上,定期点検やメンテナン
スのためには,格納箱の扉を開いた状態で視認できることが必要である。
加えて,アイランドの数は給油所によって異なるものの,標準的な数
を超える給油所にも対応できる設計をする必要がある。
このように固定式消火設備の格納箱を設計するに当たっては,物理的
な制約がある。
(イ)乙1発明では,消火薬剤貯蔵容器の数が2つであり,加圧用ガス容器
を幅方向に併設することで奥行き寸法を短くしている。本件特許発明の
消火薬剤貯蔵容器の数は1つであるものの,上記(ア)の基準によれば「消
火薬剤貯蔵容器を複数用いてもよい」とされているから,これを2つか
ら1つにすることは設計的に行われる事項である。
そして,消火薬剤貯蔵容器を新たに設計し直すには,改めて圧力計算,
容量計算などをする必要があるから,既存の消火薬剤貯蔵容器を用いる
ことが多い。また,既存の消火薬剤貯蔵容器は,薬剤を充填又は再充填
する際に容器の高さがあまりに高いと作業が困難となるため,通常,1
000㎜から1200㎜程度の高さである(乙6ないし8)。
このような設計上の制約の中で消火薬剤貯蔵容器を2つから1つにす
れば,その直径が大きくなることにより格納箱の幅方向寸法が小さくな
る反面,奥行き寸法が大きくなる。その結果,乙1発明では余裕を持っ
て選択弁を幅方向に並べることができるのに対し,本件特許発明ではこ
れを幅方向に並べることができなくなる。
このように幅方向の寸法が規制されており,しかも奥行き方向にス
ペースがある空間について,視認性を確保しながら,規制された寸法よ
り長い配管を配置するために,水平方向の配置をそのままにして,奥行
き方向に配管を振る,すなわち配管の一端を前方に,他端を後方にずら
すことで配管を収納することは,当業者にとって単なる設計事項であり,
一般人にとっても容易に考え出せることである。
限られた空間に対して部材を斜めに配置することにより長い部材を収
容ないし収納することは,様々な分野で一般に考えられてきたことであ
る(乙12,13)から,当業者が乙1発明とこれらの技術を組み合わ
せて本件特許発明を発明することは容易であった。
【原告の主張】
(1)乙1発明と本件特許発明との対比
認める。
(2)容易想到性
ア相違点1
本件特許発明の出願前に頒布された文献(乙3ないし5)に,十字形分
岐管とT字形分岐管が記載されていることは認める。
しかし,これらの文献には「水平送出管部の複数箇所の上下に分岐管を
設け,各分岐管に選択弁を設ける」ことは記載も示唆もされていない。
イ相違点2
上記被告らの主張は,相違点に係る構成を後から論理付けした,いわゆ
る後知恵に基づくものであって,失当である。
(ア)被告らは,消火薬剤貯蔵容器を乙1発明の2つから本件特許発明の1
つに設計変更すると,幅方向寸法が小さくなるから,所定数の選択弁を
幅方向に配置することができなくなるが,この場合に水平送出管部を斜
めに配置すれば,比較的少数の選択弁の配置スペース分の幅に所定数の
選択弁を配置することが可能となるのであり,これは単なる設計事項に
すぎないなどと主張する。
しかし,選択弁は幅方向のみならず奥行方向にも厚みを有するから,
隣接する選択弁同士を幅方向に重畳配置することは困難であり,仮に重
畳配置することができたとしてもその重畳幅はさほど大きくはない。
また,選択弁と格納箱の側板(および正面側扉部)とが干渉しないよう
にするには,水平送出管部の一端側又は両端側において,選択弁を配置
できない部分(非有効部分)が生じる。
したがって,水平送出管部を幅方向に配置したときと斜め方向に配置
したときを比較しても,同数の選択弁しか配置することはできないので
あり,被告らの主張は前提を誤っている。
しかも,水平送出管部を斜め方向に配置するためには三角関数等を
用いた寸法設計等が必要になるのに対し,左右方向に沿って配置すれ
ばその必要はなく,設計が容易である。また,格納箱の斜め方向に水
平送出管部を正確に設置するためには,格納箱の側面と背面とが比較
的正確に直交することを要し,設計上の交差を比較的正確に設定する
ことが求められることもある。
このように,設計の容易性を確保するという観点からは斜め配置を
採用しないのが通例であり,美観を確保するという観点からも,左右
方向に沿って水平送出管部を整然と配置することが好ましい。
したがって,水平送出管部を斜め方向に配置することを阻害する要
因も存在する。
(イ)そもそも,本件特許発明は幅方向の短縮を課題とするものではなく,
給油取扱所内における格納箱の配置場所について選択の自由度が小さく
なるという問題を解決することを課題とするものである。乙1文献には,
上記課題は記載されていないし,乙1発明によって,この課題を解決す
ることもできない。被告らは,乙1発明でも,取り出し配管の高さを変
えれば,選択弁からの取り出し配管を左側や右側から引き出すことがで
きると主張するものの,乙1文献にそのような記載や示唆はない。
(ウ)乙12に記載された発明は,物干し竿に関する技術であり,本件特許
発明の技術分野とは全く異なっている。
しかも,竿体が伸縮自在であることを前提として当該竿体の両端を
ガイドレールに沿って移動させることによって,当該竿体を滑らかに
移動させるとともに竿の収納等が容易であることを主眼とする技術
であり,竿体の伸縮を伴うスライド動作において「結果的に」竿体が斜
め方向に配置される技術である。したがって,その技術思想の本質も,
本件特許発明とは全く異なる。
また,乙13に記載された発明は,電気実験技術に関するものであり,
これも本件特許発明の技術分野とは全く異なっている。具体的には,柔
らかな10本の被覆電線を両側で束ねるとともに,コネクター部でず
らして結線する技術である。そして,斜めに配置されているものは,
水平送出管部でも配管でもなく,10Pコネクターであり,これが結
線しているのも巨大コイルを形成するための被覆電線であり,分岐管
ではない。
これらのことからすると,本件特許発明の技術分野における当業者が,
上記各文献のような全く異なる技術分野における全く異なる構成物の配
置技術に基づいて,本件特許発明を容易に発明することはできない。
さらに,限られた空間に対して部材を斜めに配置することにより,長
い部材を収容ないし収納することが様々な分野で一般に考えられてきた
ことであるという被告らの主張も根拠がない。
仮に,上記被告らの主張を前提としても,それを具体的に配管技術に
適用するとの着想,特に,固定式消火設備における格納箱の「水平送出
管部」に適用するとの着想は,いずれの証拠においても,記載や示唆が
ない。
2争点(1)イ(本件特許発明は,乙9発明に基づいて当業者が容易に発明するこ
とができたものであるか)について
【被告らの主張】
特許庁の拒絶理由通知(乙10)のとおり,本件特許権は,乙9発明に基
づいて容易に発明をすることができたものであるから,進歩性がない。よっ
て,特許無効審判により無効にされるべきものである。
【原告の主張】
乙9発明の技術は,本件特許発明の思想と大きく異なるものであり,本
件特許発明の構成要件D及びFが記載も示唆もされていない。
したがって,本件特許発明は,乙9発明に基づいて当業者が容易に発明
することができたものではない。
3争点(2)(損害額)について
【原告の主張】
(1)販売台数
被告らは,本件特許権設定登録日である平成18年6月9日から平成22
年2月末日までの間に,少なくとも180台の被告製品を製造販売した。
上記販売台数は,原告のパッケージ型消火設備における本件特許発明の実
施品の割合と,原告と被告らとの販売台数から推計したものである。
(2)単位数量当たりの利益
被告製品の1台当たりの販売価格は約80万円であり,利益率は20%で
あるから,被告製品1台当たりの利益は16万円を下らない。
なお,被告モリタ防災テックが販売した分については,被告モリタユージー
が得た利益は4万円(5%)であり,被告モリタ防災テックが得た利益は1
2万円(15%)である。
(3)損害額
よって,原告は,被告らの行為により上記(1)の販売台数に上記(2)の単位
数量当たりの利益を乗じた2880万円の損害を被った(特許法102条2
項)。
【被告らの主張】
(1)販売台数
平成18年6月9日以降の被告製品の製造台数は,平成19年7月から平
成21年12月までの期間に,24台である。このうち被告モリタユージー
が11台を,被告モリタ防災テックが10台をそれぞれ販売しており,販売
台数は合計21台である。
(2)被告2名の行為により得られた利益
被告製品の販売額は,被告モリタユージーによるものが合計473万82
90円であり,被告モリタ防災テックによるものが合計872万0720円
であり,利益率が20%であることは認める。
したがって,被告2名の行為により,被告モリタユージーが得た利益は9
4万7658円であり,被告モリタ防災テックが得た利益は174万414
4円である。
よって,被告2名の行為について,同被告らが損害賠償責任を負うとして
も,その額は,それぞれ上記金額にとどまる。
仮に,被告2名の行為について,被告モリタユージー及び被告モリタ防災
テックによる共同不法行為が成立するとしても,上記のとおり被告モリタ
ユージーが製造した被告製品のうち,被告モリタ防災テックが販売した10
台分の範囲に限られる。
(3)本件特許発明が被告製品の販売に寄与しなかったこと
以下のとおり,本件特許発明は被告製品の販売に寄与しておらず,仮に寄
与していたとしても,極めて僅少である。
ア被告モリタユージーによる被告製品の販売先は,すべてが従前からの得
意先であり,被告モリタ防災テックの販売先についても,そのうちの7割
が得意先であった。
これらの得意先は,火災発生時に火災が発生している箇所だけを選択し
て集中的に薬剤を放射できるという被告製品の仕様を高く評価し,これを
決め手として購入した。これに対し,原告が販売していた製品は,火災発
生時に薬剤を左右二区画に同時放射する仕様であり,得意先が求める仕様
ではなかった。
イ本件特許発明の作用効果は,被告製品のセールスポイントではなく,そ
もそも作用効果を発揮していない。
ウ最近約5年間における本件特許発明を用いていない製品と被告製品との
販売実績もほぼ等しいものである。
エ本件特許発明に係る斜め配管部分の材料費が被告製品に占める割合も,
全体の25%にとどまる。
【原告の反論】
上記【被告らの主張】(3)は争う。
本件特許発明が被告製品の販売に寄与した割合は100%である。
4争点(3)(差止請求,廃棄請求及び謝罪広告請求の可否)について
【原告の主張】
(1)差止請求,廃棄請求の必要性
被告製品は,遅くとも平成18年6月9日から現在に至るまで継続して製
造販売されているから,被告製品の製造販売の差止め及び同製品の廃棄請求
には必要性がある。
(2)謝罪広告の必要性
原告は,被告らの行為により,営業上の信用も侵害された。これを回復す
るには,差止めや損害賠償のみでは足りないから,謝罪広告請求についても
必要性がある。
【被告らの主張】
(1)差止請求,廃棄請求の必要性
被告モリタユージーは,平成20年10月14日,被告製品の製造を中止
した。被告製品の最終販売日は,同年11月18日であり,以降,被告モリ
タユージー及び被告モリタ防災テックともに被告製品を販売していないから,
差止請求には必要性がない。
(2)謝罪広告の必要性
被告らの行為により原告の営業上の信用が害されたことなどなく,謝罪広
告の必要性もない。
5争点(4)(被告モリタホールディングスの共同不法行為者としての責任)につ
いて
【原告の主張】
(1)民法719条に基づく責任
以下の事情からすれば,被告2名は実質的には被告モリタホールディング
スの一事業部であり,被告モリタホールディングスは,被告2名の行為につ
いて共同不法行為者として責任を負う。仮に,共同不法行為としての責任を
負わないとしても,少なくとも幇助者としての責任(民法719条2項)を
負う。
ア被告モリタホールディングスは,被告2名の全株式を所有することによ
り,被告2名の事業活動を支配・管理している。
イ被告モリタホールディングスは,被告2名を含めたモリタグループ全体
の知的財産権を統一管理し,モリタグループの知的財産権に関する業務を
行っている。
ウ被告モリタホールディングスは,自己の取締役を子会社である被告2名
の取締役に選任していた。
また,被告モリタユージーの取締役であるP1は,被告モリタ防災テッ
クの代表取締役を兼任している。
エ被告モリタホールディングスは,被告モリタユージーに対し,資金援助
及び金融機関からの借入金についての債務保証をしていた。
また,所有する土地・建物を,被告モリタ防災テックに賃貸し,資金援
助をしていた。
オ被告モリタホールディングスは,被告2名の事業活動を指導・管理・支
援し,企業集団のコンプライアンスもその指導内容として予定し,指図又
は指揮をとっていた。
具体的には,被告モリタホールディングスの取締役会は,被告モリタ
ユージーが被告製品の製造及び販売をすることを議決し,これに基づいて,
被告モリタユージーの取締役会は,被告製品の製造及び販売をすることを
議決し,現に製造・販売した。被告モリタ防災テックも,被告モリタホー
ルディングスの取締役会決議に従って,被告製品の販売を議決し,現に販
売したものである。
(2)民法715条に基づく責任
上記のとおり,被告モリタホールディングスは,他の被告らの株式を全部
所有し,実質的に支配していたから,民法715条の使用者として被告2名
の行為について責任を負う。
【被告らの主張】
(1)民法719条に基づく責任
被告2名は,被告モリタホールディングスの子会社又は孫会社であるが,
いずれも独立した法人であるから,被告2名の行為は,被告モリタホールディ
ングスとの共同行為などとはならない。
ア被告モリタホールディングスは被告モリタ防災テックの全株式を,被告
モリタ防災テックは被告モリタユージーの全株式を,それぞれ有しており,
被告モリタホールディングスは,被告モリタユージーの株式を有していな
い。
イ被告モリタホールディングスは,被告2名を含めたモリタグループ全体
の知的財産権を統一管理してはいない。
ウ上記【原告の主張】(1)ウ及びエは認める。
エ上記【原告の主張】(1)オは否認する。
被告モリタホールディングスの取締役会による決議の有無にかかわら
ず,被告2名が被告製品の製造販売を独自ですることは十分にあり得るの
であり,被告モリタホールディングスの行為と被告2名の行為との間には
条件関係がなく,相当因果関係もない。
(2)民法715条に基づく責任
親子会社間の関係は資本関係にすぎず,使用者責任について想定される使
用関係とは異質なものであるから,この点に関する原告の主張は失当なもの
である。
第4当裁判所の判断
1被告製品が,本件特許発明の技術的範囲に属することについては,当事者間
に争いがない。
2争点(1)ア(本件特許発明は,乙1発明に基づいて当業者が容易に発明するこ
とができたものであるか)について
(1)乙1発明と本件特許発明との対比
乙1発明と本件特許発明とが次の相違点1及び2の点について相違し,そ
の余の点について一致していることは当事者間で争いがない。
(相違点1)
本件特許発明は,「水平送出管部の複数の各箇所の上下に分岐管」を設けて
いるのに対し,乙1発明は,「2本の水平送出管部を上下2段に設け,その2
本の水平送出管部の複数の各箇所の上に分岐管」を設けている点で相違して
いる。
(相違点2)
水平送出管部について,本件特許発明は,「格納箱内の消火薬剤貯蔵容器
より上方に平面視で格納箱奥行方向に対して斜交するように斜め方向にかつ
側面視で水平に配設」しているのに対し,乙1発明は,「格納箱内の消火薬剤
貯蔵容器より上方に平面視で格納箱奥行方向に対して斜交しないで上下に2
段に並行して設けて,かつ側面視で水平に配設」している点で相違している。
(2)容易想到性
以下のとおり,少なくとも相違点2に関する本件特許発明の構成は,乙1
発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであると認めるこ
とができないから,この点に関する被告らの主張は採用することができない。
ア本件明細書の記載
本件明細書には,以下のとおり記載されている。
(ア)発明が解決しようとする課題
「一つの給油取扱所において,固定式消火設備は一箇所に設置されるの
に対し,アイランド等の防火区域の数は比較的多い。しかも個々の防火
区域は固定式泡消火設備に対し方向が定まっておらず,様々な方向に存
在する。
したがって,格納箱内に格納する分岐管及び選択弁の取付個数は防火
区域の数に比例して非常に多くなり,しかも分岐管の選択弁以降の配管
の格納箱からの取り出し数が多く,取り出し方向も異なるため,それだ
け取り出しスペースを広く必要としている。しかし,一般に給油取扱所
内は全体的にスペース(敷地面積)に余裕のあることは少ないため,配
管取り出しスペースを多く必要とする格納箱の,給油取扱所内での設置
場所は,自ずと制約されることになる。」(段落【0004】)
「そこで,本発明は,格納箱内における多数の分岐管及び選択弁の取付
法や配置法に工夫を凝らすことにより,多数の分岐管の全ての選択弁以
降の配管取り出し方向の拡大化を図れ,給油取扱所内への格納箱の設置
場所の選択自由度を拡げることのできる固定式消火設備を提供するこ
とを目的とする。」(段落【0005】)
(イ)課題を解決するための手段
「本発明は,格納箱内に,消火薬剤貯蔵容器と,この消火薬剤貯蔵容器
内を加圧するための加圧用ガス容器と,中継器とを格納してある固定式
消火設備において,前記消火薬剤貯蔵容器から導出した薬剤送出管に水
平送出管部を連通形成し,この水平送出管部の複数箇所の各箇所の上下
に分岐管を設けるとともに,各分岐管に,前記中継器からの指示信号に
より分岐管路を電気的に開閉するための電動式の選択弁を設けてあり,
前記水平送出管部は,前記格納箱内の消火薬剤貯蔵容器より上方に,平
面視で格納箱奥行方向に対して斜交するように斜め方向にかつ側面視
で水平に配設してあり,各分岐管は格納箱外の各防火区域へ配管接続さ
れるようにしてあることに特徴を有する。」(段落【0006】)
(ウ)作用
「薬剤送出管に水平送出管部を連通形成し,この水平送出管部の複数箇
所の各箇所の上下に分岐管及び選択弁を設けることにより,内部スペー
スの制約された格納箱内にもできる限り多くの分岐管及び選択弁を収め
ることができる。
これら分岐管及び選択弁を取り付けた薬剤送出管の水平送出管部は,
平面視で格納箱奥行方向に対し斜交する斜め方向にかつ側面視で水平に
配設してあるので,多数の分岐管の全ての選択弁以降の配管取り出しは
格納箱の左側,右側,後ろ側のいずれの方向からも行うことができる。
従って,格納箱の左側,右側,後ろ側の三側方のいずれの方向にある
防火区域にもよく対応できて取り出し配管を容易に行え,給油取扱所へ
の格納箱の設置場所の選択の自由度を高めることができる。」(段落【0
007】)
(エ)発明の効果
「本発明の固定式消火設備によれば,複数の分岐管全ての選択弁以降の
配管取り出しは,格納箱の左側方,右側方,あるいは後側方のいずれの
方向からも行えるので,余裕スペースの少ない給油取扱所内に対しても
格納箱の設置場所の選択自由度を拡げることができて有利である。」(段
落【0015】)
これらの記載によれば,本件特許発明が解決しようとする課題は,給油
取扱所における固定式消火設備の設置場所について選択の自由度を高める
ことにあり,これを解決するための手段が相違点2に係る構成要件Fの構
成であり,これにより選択弁以降の配管取り出しを格納箱の三側方のいず
れの方向からも行うことができるという作用効果を奏するという技術的意
義があると認めることができる。
イこれに対し,乙1発明に係る乙1文献には,相違点2に係る上記アの課
題について記載や示唆はない。被告らが引用する文献(乙2,6ないし8,
12及び13)についても同様である(なお,乙6,7について,本件特
許出願前の刊行物であるかどうかは不明であり,乙8は,本件特許出願後
である平成21年6月に頒布されたものである。)。
また,乙12,13には,「限られた空間に対して部材を斜めに配置」す
ることが開示されている。しかし,乙12は「室内に洗濯物を干すときに
使用する物干し竿」の配置に係るものであって,固定式消火設備における
水平送出管部の配置を対象とするものではなく,乙13は「巨大コイルを
構成する10本の電線の結線部分(コネクター)」の配置に関するもので
あって,固定式消火設備における水平送出管部の配置を対象とするもので
はない。
本件特許発明は,前記アのとおり,「格納箱内における多数の分岐管及び
選択弁の取付法や配置法に工夫を凝らすことにより,多数の分岐管の全て
の選択弁以降の配管取り出し方向の拡大化を図れ,給油取扱所内への格納
箱の設置場所の選択自由度を拡げることのできる固定式消火設備を提供す
ること」(段落【0005】)を課題とし,当該課題を解決するために,水
平送出管部を「平面視で格納箱奥行方向に対して斜交するように斜め方向
にかつ側面視で水平に配設」(段落【0006】)するものであって,単に,
限られた空間に部材を斜めに配置するだけのものではない。
すなわち,前記アのとおり「水平送出管部の複数箇所の各箇所の上下に
分岐管を設ける」ことと,水平送出管部を「平面視で格納箱奥行方向に対
して斜交するように斜め方向にかつ側面視で水平に配設」する(段落【0
006】)こととが技術的に関連し,有機的に機能し合うことによって,複
数の分岐管の全ての選択弁以降の配管取り出しが,格納箱の左側,右側,
後ろ側のいずれの方向からも行うことができるとする作用効果を奏するも
のである。
ウ被告らは,消火薬剤貯蔵容器の数を乙1発明の2つから本件特許発明の
1つに変更すると格納箱の幅方向寸法が短くなり,所定の数の選択弁を並
べることができなくなるから,これを解決するために水平送出管部を奥行
き方向に斜交させることは,当業者にとって単なる設計事項にすぎないな
どと主張する。
しかし,幅方向寸法が短くなった場合に,設置することのできる選択弁
の数が減少する問題を解決するという課題は,本件特許発明の課題ではな
いし,被告らが引用する各文献にも記載や示唆はない。この点に関する被
告らの主張は,本件特許発明が前提とせず,乙1発明等においても記載や
示唆のない課題を独自に設定した上,本件特許発明は乙1発明に基づいて
当業者が容易に発明することができたものであるとするものであり,論理
付けの前提を誤っているというほかない。
また,仮に被告らの主張する課題を前提としたとしても,水平送出管部
を奥行き方向に斜交させることによって設置できる選択弁の数が必ずし
も増えないとする原告の主張を排斥することのできる証拠もない。このこ
とからしても,本件特許発明は乙1発明に基づいて当業者が容易に発明す
ることができたものであるとはいうことはできない。
本件特許発明の課題を前提として,当業者が乙1文献に接したとしても,
これを解決するための構成としての相違点2に係る構成要件Fについて
記載や示唆は見当たらない。
エ限られた部材を斜めに配置することにより長い部材を収納することは
様々な分野で一般に考えられてきたことであるとする主張も,前同様に,
前提となる課題の設定を誤るものであり,採用することができない。
オよって,この点に関する被告らの主張は,いずれも採用することができ
ない。
3争点(1)イ(本件特許発明は,乙9発明に基づいて当業者が容易に発明するこ
とができたものであるか)について
(1)この点に関する被告らの主張は,本件特許発明は,乙9発明に基づいて当
業者が容易に発明することができたものであると抽象的に述べるものにすぎ
ず,およそ失当であり,採用することはできない。
(2)なお念のため検討すると,乙9公報には発明の名称を「消火装置ユニット」
とする発明が記載されており,その特許請求の範囲は,「消火薬剤タンクから
複数の薬剤供給管を消火を必要とする部位に設けた放射ノズルに導き該薬剤
供給管にそれぞれ設けられた選択弁により薬剤放射部位を選定して薬剤放射
をする消火装置において,すべての選択弁を消火薬剤タンクの近傍に固定し
たことを特徴とする消火装置ユニット。」である。
乙9公報の出願書には,薬剤供給管の配設方向に係る記載も示唆も見当た
らないから,上記発明は少なくとも相違点2に係る本件特許発明Fの構成の
点において本件特許発明と相違している。
そして,上記相違点に係る構成について,乙9発明に基づいて当業者が容
易に発明することができたとする具体的な主張は全くないから,この点に関
する被告らの主張には理由がない。
4争点(2)(損害額)について
(1)販売台数
乙18ないし20,23及び24によると,被告製品の販売台数は,被告
モリタユージーが10台,被告モリタ防災テックは11台であることが認め
られる。
(2)被告2名の行為により得られた利益
乙21ないし23によれば,被告製品の販売額は,被告モリタユージーに
よるものが合計473万8290円であり,被告モリタ防災テックによるも
のが合計872万0720円であることも認められる。また,被告製品を販
売した際の利益率がいずれも20%であることは,当事者間で争いがない。
ところで,被告モリタ防災テックが販売した被告製品は,被告モリタユー
ジーが製造したものであるから,その製造・販売により,被告2名による共
同不法行為が成立するといえる。
そうすると,被告製品の販売により,被告モリタユージーが単独で得た利
益は94万7658円であり,被告2名が得た利益は174万4144円で
ある。
(3)本件特許発明が被告製品の販売に寄与したかについて
被告らは,本件特許発明が被告製品の販売に寄与していなかったと主張す
る。
そこで検討すると,本件特許発明は,その技術的構成自体からして消火設
備の設置場所に係る選択の自由度を高める一定の作用効果を奏することが明
らかである。
これに対し,乙25及び弁論の全趣旨によれば,被告製品が販売されるに
当たり,本件特許発明に係る技術的構成が広告宣伝されるなどしてはいな
かったことが認められる。また,上記のとおり被告製品の販売台数が少ない
ことや販売期間も短期間にとどまることが認められ,これら一切の事情を考
慮すれば,本件特許発明が被告製品の販売に寄与した程度は,4割の限度で
認めるのが相当である。
(4)損害額
以上によると,特許法102条2項の算定に基づき,被告モリタユージー
が支払うべき損害額は,107万6720円であり,被告モリタ防災テック
が支払うべき損害額は,69万7657円である。
〔計算式〕(947,658+1,744,144)×0.4=1,076,720
1,744,144×0.4=697,657
前記(2)のとおり,被告モリタ防災テックが販売した被告製品は,被告モリ
タユージーが製造したものであるから,被告モリタユージーは,被告モリタ
防災テックと連帯して損害賠償責任を負うというべきであるが,他方におい
て,被告モリタ防災テックが被告モリタユージーの販売した被告製品につい
て連帯責任を負う理由はない。
したがって,被告モリタユージーは,上記69万7657円の限度で,被
告モリタ防災テックと連帯して支払義務を負うこととなる。
5争点(3)(差止請求,廃棄請求及び謝罪広告請求の可否)について
被告らの主張によれば,被告モリタユージーは,被告製品8台を現在も保管
しているというのであるから,被告モリタユージーに対し,被告製品の製造販
売等の差止め及び廃棄を命じる必要性はあると認められる。
他方において,上記のとおり,被告モリタ防災テックは,被告モリタユージー
から購入した被告製品を販売したにすぎず,その在庫も有していないから,被
告モリタ防災テックに対する製造販売の差止め及び製品の廃棄を命じる必要性
があるとは認めるに足りない。
また,本件で被告2名の行為により原告の業務上の信用が侵害されたことに
関する立証はないから,謝罪広告を命じる必要性があると認めることもできな
い。
6争点(4)(被告モリタホールディングスの共同不法行為者としての責任)につ
いて
(1)民法719条に基づく責任について
被告モリタホールディングスが,被告2名の株式を直接又は間接に保有し
ているとしても,そのことから同被告らが被告モリタホールディングスの一
事業部にすぎないなどということはできないし,原告が主張するその他の事
情も上記のような評価を基礎づけることはできない。
仮に原告が主張するとおり,被告モリタホールディングスが被告2名の所
有する知的財産権を統一管理しているとしても,被告製品の製造販売など営
業上の行為について責任を負うということには直ちに結びつかないし,取締
役のうち兼務しているものがいることや貸し付けをしていることについても,
一般に,親子会社関係において存在する経営上の協力関係を超えるものでは
ない。これらの事情から,親会社が子会社の行為について,直ちに責任を負
うということはできない。
被告モリタホールディングスが被告2名の行為を幇助したとする点につい
ても,親子会社関係において通常存在する経営上の協力関係を取り上げてい
るにすぎず,このことから子会社(又は孫会社)による個別の不法行為に関
する親会社の幇助責任まで基礎づけることはできないというべきである。
(2)民法715条に基づく責任について
被告モリタホールディングスが,被告2名の業務に関し,同被告らを被用
者として指揮監督下においていたことを認めるに足りる主張立証はない。
この点に関する原告の主張も,親子会社関係において通常存在する経営上
の協力関係を取り上げるものにすぎず,採用することはできない。
7当庁平成23年(モ)第437号文書提出命令申立事件に対する判断
以下のとおり,上記申立てについては,理由がないから却下する。
(1)原告は,被告モリタホールディングスがその余の被告らの事業活動を支配
管理していたことを証明すべき事実として,①被告モリタユージーの設立当
初から平成22年3月31日までの営業会議議事録及び取締役会のすべての
議事録,②被告モリタホールディングスが会社分割をする前の平成12年4
月1日から平成20年9月末日までの営業会議議事録及び取締役会のすべて
の議事録並びに③被告モリタホールディングス及び被告モリタ防災テック
の平成20年10月1日から平成22年3月31日までの営業会議議事録及
び取締役会のすべての議事録について,書類等の提出命令の申立てをした。
被告モリタホールディングスが被告らの行為について共同不法行為者とし
て責任を負うなどとする原告の主張自体に理由がないことは前述のとおりで
ある。そして,上記各書類について証拠調べの必要性があるとまで認めるに
足りる疎明はないから,上記申立てに係る部分には理由がない。
(2)原告は,被告モリタユージーにおける平成18年6月9日以降の被告製品
の製造原価及び販売価格,販売台数並びに被告モリタ防災テックにおける平
成18年6月9日以降の被告製品の仕入れ原価及び販売価格,販売台数を証
明すべき事実として,被告モリタユージー及び被告モリタ防災テックの得意
先元帳,仕入れ先元帳など,被告製品の製造量,販売量,販売単価,製造原
価,販売経費などを示す文書についても,書類等の提出命令の申立てをした。
被告製品の販売台数は上記3で認定したとおりであり,被告製品の利益率
についても当事者間で争いがない。
したがって,上記各書類についても証拠調べの必要性があるとは認めるこ
とができないから,上記申立てに係る部分にも理由がない。
第5結論
よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官山田陽三
裁判官達野ゆき
裁判官西田昌吾
(別紙)
物件目録
製品の型式番号FSSA101
(別紙)
文案
謝罪広告
当社株式会社モリタホールディングスは,そのグループ会社である株式会社モリタ
ユージー及び株式会社モリタ防災テックが,平成年月以降,貴社の有する
特許権を侵害する固定式消火設備を製造・販売したことによって,貴社の営業上の
信用を害し,多大の迷惑をおかけしましたことを,株式会社モリタユージー及び株
式会社モリタ防災テックとともに,ここに謝罪いたします。
平成22年月日
(住所省略)
株式会社モリタホールディングス
代表取締役(氏名省略)
(住所省略)
株式会社モリタユージー
代表取締役(氏名省略)
(住所省略)
株式会社モリタ防災テック
代表取締役(氏名省略)
(住所省略)
ヤマトプロテック株式会社御中
条件
標題はゴシック15号活字,当事者双方の氏名はゴシック13号活字,その他の
部分は12号活字を使用。

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛