弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
原判決主文第一項は請求の減縮により次のとおり変更された。
被控訴人が婦人服に別紙標章目録1ないし3記載の標章を使用する行為について、
控訴人の登録番号第二〇一二六四八号商標権に基づく被控訴人に対する差止請求権
が存在しないことを確認する。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人(第一審被告)
 「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被
控訴人の負担とする。」との判決。
二 被控訴人(第一審原告)
 主文第一、二項同旨の判決。(被控訴人は原判決主文第一項により認容に係る請
求中「被服、布製品及び寝具類」との部分を「婦人服」と減縮した。)
第二 事案の概要
一 争いのない事実及び争点は、原判決の「第二 事案の概要 一 争いのない事
実」及び「同二 争点」に摘示のとおりであるから、これを引用する。
二 当審における当事者の主張
1 控訴人の主張
 商標法三二条一項の規定は、登録主義の例外であるから、「先使用権」の成立を
認めるには慎重でなければならず、同項所定の「需要者の間に広く認識されている
とき」(以下「周知性」ともいう。)の要件の存在を厳格に判断しなければならな
い。
 本件では対象となる商品がDCブランドの婦人服であるから、「需要者」は当該
商標の付された商品を購入する一般消費者であり、卸売業者や小売業者は「需要
者」にあたらず、「広く認識されている」の概念も、被控訴人標章が相当広範な地
域において一般消費者に知れ渡った結果、本件登録商標により、その使用の中止を
求められても例外としてその使用を許さざるを得ない程度の状況を前提としている
と解すべきである。
 原判決が「周知性」を肯定した根拠とする事実は、被控訴人の関係者及びファッ
ション業界の一部の業界人が知る商品展示会やファッションショー、雑誌に掲載
し、その横に小さく「ゼルダ」と記載した説明文をもって、被控訴人標章が一般の
消費者に広く認識されるに至ったものとするにすぎない。しかしながら、著名ブラ
ンドが常に一定程度存在する以上、被控訴人標章がそういった周知商標に参入し、
一般の消費者にその名を知られるようになるためには、相当の宣伝活動とそれに要
する期間が必要であって、被控訴人が、原判決が認定する程度の商品展示会やファ
ッションショーを数回行ない、雑誌に数回作品の横に小さな字で掲載する方法で一
般の消費者の間に周知となることなどあり得ないものである。なお、昭和五四年一
一月に被控訴人が「ゼルダ」ブランドの婦人服を発表してから同五五年八月までの
間の約二億円の売上金額は、ファッション業界内では僅少であって、被控訴人標章
が一般の消費者に知られていないことを示すものである。
 したがって、原判決の認定した事実では、本件登録商標の出願日である昭和五五
年八月四日の時点において被控訴人標章が広く一般消費者に知れ渡るまでに至って
いたとは認められず、商標法三二条一項に規定される周知性の要件を充足していな
いことは明らかである。
 しかるに、原判決は、被控訴人の「ゼルダ」ブランドの婦人服がいわゆるDCブ
ランドの全盛期(本件登録商標の登録出願日の三年後である。)に人気がでたこと
と商標法三二条一項の「周知性」の要件とを混同した結果、被控訴人標章の周知性
を誤って肯定したものである。
2 被控訴人の主張
 商標法三二条一項が先使用権を認める趣旨は登録商標の出願前において使用さ
れ、既に出所表示機能を有していた商標の地位を保護しようとするものである以
上、同項に規定する「広く認識されている」とは、必ずしも全国的に知られている
ことを必要とせず、指定商品との関係において、取引の実情をも考慮して判断され
るべきであり、また、商標は、最終消費者に対する関係だけでなく、流通段階にお
いても商品の出所を表示するものであるから「需要者」の中に問屋や一般小売業者
が含まれることは当然であり、それらの者の間で広く認識されている場合も先使用
者の地位を保護する必要があるのであって、一般消費者の間に知れ渡っていること
を要するものではない。
 被控訴人標章を付した商品は、いわゆる高級婦人洋装品であって、大型店あるい
は、雑貨店向けの大衆品と異なり、デパート等の大型小売店舗内の直営店、あるい
はフランチャイズ店で販売されるものである。専門店向けの婦人洋装品の業界にお
いては、製造業者は一般消費者に対する直接の宣伝広告を行なわず、主として小売
店である専門店に対する展示会その他の宣伝広告により、有力な専門店を獲得し、
その専門店を通じて間接的に最終需要者である消費者に対し、自社製品のイメージ
を浸透させるという方法を採るのであって、原判決の認定した事実をもって、周知
性を肯定した原判決は正当である。
 なお、二億円の売上金額は、高級婦人洋装品である被控訴人標章を付した商品と
して、また一ブランドの売上としては決して少ない金額ではない。そして直営店八
店舗、フランチャイズ店二七店舗という出店は一ブランドとしてかなりの程度に広
い店舗展開といえるものである。
第三 争点についての判断
一 争点は、「1 被控訴人標章が本件登録商標に類似するか否か。2 被控訴人
が商標法三二条一項に基づき、先使用による被控訴人標章を使用する権利を有する
か否か、すなわち、本件登録商標の出願日である昭和五五年八月四日の時点におい
て、現に被控訴人標章が被控訴人の販売する婦人服を表示するものとして需要者の
間に広く認識されていたか。」にあるが、仮に、被控訴人標章が本件登録商標に類
似するものであるとしても、以下に判断するとおり、本件登録商標の出願日である
昭和五五年八月四日の時点において、現に被控訴人標章が被控訴人の販売する婦人
服を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたから、被控訴人は、商標
法三二条一項の規定に基づき、被控訴人の製造販売する婦人服について、被控訴人
標章を使用する権利を有するのであって、被控訴人の製造販売する婦人服につい
て、被控訴人標章を使用する行為は、本件商標権の侵害を構成しないものというべ
きである。すなわち、
二 証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる証人【A】、【B】は
原審証人、証人【C】、【D】は当審証人)
1 被控訴人は、昭和四六年一〇月、デザイナーである【E】(【E】)が同四二
年三月に創業した事業を引き継ぎ、婦人服、紳士服、寝装品、服飾雑貨の企画、卸
売及び小売等を目的として設立された株式会社である(甲八、証人【A】、弁論の
全趣旨)。
2 【E】は、被控訴人標章の使用の準備を開始した昭和五四年三月頃には、日本
国内の服飾関係者間において実績あるデザイナーとして著名であり、被控訴人の社
名である「ニコル」も同人がデザインした製品のブランドである「ニコル」に由来
する。被控訴人は、主として自社のブランドの製品を直営店での販売、デパートへ
の卸売又はフランチャイズ契約での委託販売という営業形態をとり、全国の有名デ
パートあるいは大型のファッションビルに売場(インショップ、ブティック)を開
設していたが、昭和五四年に入って、同四九年の入社以来【E】の片腕ともいえる
アシスタントデザイナーを務めていた【A】(【A】)をチーフデザイナーとし
て、被控訴人が販売する主として同人のデザインに係る婦人服に使用して売り出す
新しいブランドの創設を計画した。そして、被控訴人代表者である【E】は社内で
検討のうえ、そのブランドの名称として、「華麗なるギャツビー」の作者であるア
メリカの【F】の妻の【G】の名に由来する「ゼルダ」の名称を採用することに決
め、「ゼルダ」の名称が婦人服業界で使用されているかどうか調査することとし、
「ゼルダ」及びそのローマ字表示である「ZELDA」について、弁理士に依頼し
て、他人が商標登録を受けているかどうかを調査してもらうとともに、取引のある
百貨店及び業界の新聞社等を通じて、百貨店及び商業集積施設等に入居している店
舗の名称や婦人服の商標に使用されているかどうかを調査したところ、右表示と同
一の登録商標はなく、また、右表示が市場において現に使用されていることもない
との報告を得たので、「ゼルダ」を新しいブランドの名称に決定し、「ゼルダ」ブ
ランドを表象するものとして、別紙標章目録記載の標章、すなわち被控訴人標章を
採用した。かくて、被控訴人標章を使用した【A】のデザインに係る婦人服は「ゼ
ルダ」ブランドとして、被控訴人の暖簾分けの形で被控訴人の従前のブランドの製
品と同様の販売形態で売り出されることとなった(証人【A】、【D】、【C】、
【B】)。
3 被控訴人は、昭和五四年三月頃、同年一一月に開催する予定の翌年度の被控訴
人の販売する婦人服の春夏物の展示会において、【A】のデザインに係り、被控訴
人標章1及び2を付した婦人服を発表し、初年度の半年間で二、三億円、一〇年間
で三〇億円くらいの売上を計上するという事業計画を立てて、その準備を開始し、
著名なグラフィックデザイナーである訴外【H】に「ゼルダ」のローマ字表示であ
る「ZELDA」のロゴタイプの作成を依頼し、そのロゴタイプの付された洋服に
付ける織りネーム、包装用の袋、手提げ袋、プライスカードを、一万枚単位、紙類
で五〇〇〇枚単位で製造し、「ゼルダ」ブランドの婦人服の宣伝、販売に使用する
こととした(甲ニ六、証人【A】)。
4 原判決第三の二4を次のとおり、訂正したうえ、引用する。
(一) 原判決八頁八行目の「あった(甲九の一ないし四、甲一一、証人【B】及
び同【A】)。」を削除し、「あった。右ファッションショーでは、当時カジュア
ル志向の若年層の洋服の方が隆盛だった中で、被控訴人標章を付した婦人服はかか
る志向から脱却したものとしての印象を出席者に与えた(甲九の一ないし四、甲一
一、証人【B】、【A】)。」を付加する。
(二) 原判決一〇頁一一行目、一一頁三、六、九行目、一二頁五行目の「被服」
をそれぞれ「婦人服」に改める。
5 被控訴人は、前記4認定のように被控訴人標章を使用して宣伝広告等をし、か
つ、被控訴人標章1及び2を付して「ゼルダ」ブランドの婦人服を販売し、昭和五
四年一一月に「ゼルダ」ブランドを発表してから同五五年八月までの間に、約二億
円の売上げを計上し、また、同月当時には、「ゼルダ」ブランドの右商品の販売の
ために、大手百貨店を中心に直営店八店舗及びフランチャイズ店二七店舗を出店す
るまでに至った(証人【A】、弁論の全趣旨)。
6 そして、被控訴人は、その後も、後記7のとおり、昭和六三年一二月から平成
元年一月末にかけて被控訴人標章を「MARIKO KOHGA」に変更するま
で、被控訴人標章を使用して、「ゼルダ」ブランドの婦人服を販売してきたが、そ
のころまでに、「ゼルダ」ブランドは日本の他の著名なデザイナーブランドと肩を
並べるまでになり、「ゼルダ」ブランドの婦人服を販売する被控訴人の直営店は大
手百貨店を中心に四四店舗近く、フランチャイズ店は三二店舗近くになっていた
(甲八、甲ニ三、甲ニ四、甲ニ五の一ないし三、証人【A】)。
7 原判決第三の二7を次のとおり、訂正したうえ、引用する。
 原判決一六頁九行の「被服、布製見回品及び寝具類」を「婦人服」と改める。
三1 商標法三二条一項所定の先使用権の制度の趣旨は、職別性を備えるに至った
商標の先使用者による使用状態の保護という点にあり、しかも、その適用は、使用
に係る商標が登録商標出願前に使用していたと同一の構成であり、かつこれが使用
される商品も同一である場合に限られるのに対し、登録商標権者又は専用使用権者
の指定商品全般についての独占的使用権は右の限度で制限されるにすぎない。そし
て、両商標の併存状態を認めることにより、登録商標権者、その専用使用権者の受
ける不利益とこれを認めないことによる先使用者の不利益を対比すれば、後者の場
合にあっては、先使用者は全く商標を使用することを得ないのであるから、後者の
不利益が前者に比し大きいものと推認される。かような事実に鑑みれば、同項所定
の周知性、すなわち「需要者間に広く認識され」との要件は、同一文言により登録
障害事由として規定されている同法四条一項一〇号と同一に解釈する必要はなく、
その要件は右の登録障害事由に比し緩やかに解し、取引の実情に応じ、具体的に判
断するのが相当というべきである。
2 そこで、右の点について具体的に検討する。
 証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
 婦人服業界において、特定のデザイナーの製品であることを示すブランド(デザ
イナーブランド)の場合、大規模メーカーが不特定多数の消費者を対象として全国
的規模で広告宣伝し大量販売するナショナルブランドと異なり、展示会、ファッシ
ョンショーを通じて、これら催しに出席した新聞雑誌等のマスコミ関係、百貨店、
小売専門店等のバイヤーに直接そのブランドのイメージの理解をはかり、右ファッ
ションショー等に出席しなかったバイヤー等には出席したマスコミ関係者による記
事等を通じて、そのイメージの浸透に務めたうえ、有名デパートあるいは大型のフ
ァッションビルにおいて、ブランド単独の売り場(インショップ、ブティック)を
獲得したり、地方にフランチャイズ店を構えるなどして、マスコミあるいはこれら
の売り場、店舗を通じて、間接的に消費者に、そのブランドのイメージの浸透をは
かるほか、特定の顧客には直接ダイレクトメールを送付していること、被控訴人標
章もデザイナーブランドであり、被控訴人として前記二3及び4認定のように、婦
人服に被控訴人標章1及び2を付するほか、被控訴人標章を使用して各種の宣伝広
告をしたり、直営店、フランチャイズ店を構え、そのイメージの浸透をはかったこ
と、この業界においては、知名度の高い実績の有るデザイナーあるいはそのデザイ
ナーに関係したデザイナーの場合はそのデザイナーブランドの浸透は無名のデザイ
ナーに比し短期間でなされ得ることが認められる(証人【B】、【A】、【C】、
弁論の全趣旨)。
 被控訴人標章が【A】のデザインに係る婦人服であることを示すデザイナーブラ
ンドであることは右に認定したとおりであり、また、同人が婦人服飾業界において
デザイナーとして実績のある著名な【E】のアシスタントデザイナーであることは
前記二2に認定したとおりである。そして、昭和五四年三月頃には、【E】の著名
性からみて、【A】が【E】のアシスタントデザイナーであることは婦人服飾業界
において広く知られていたものと推認して差し支えなく、さらに、被控訴人に被控
訴人標章の使用について不正競争の目的がなかったことも前記二2の認定から明ら
かであるから、前記二4認定の商品展示会、ファッションショーの開催、その案内
状の発送、ダイレクトメールの発送等により、被控訴人は、株式会社ブローニュの
本件登録商標に係る商標登録出願の日である昭和五五年八月四日前から、日本国内
において、不正競争の目的でなく、右商標登録出願の指定商品の範囲に属する婦人
服について被控訴人標章の使用をしていた結果、右商標登録出願の際、現に、被控
訴人標章が被控訴人の業務に係る商品を表示するものとして「需要者」としての婦
人服のバイヤー、すなわち問屋や一般小売業者の間で広く認識されていたものと認
められる。控訴人は、婦人服の需要者は一般消費者である旨主要するが、前記認定
によれば、デザイナーブランドに関しては、流通段階におけるバイヤーをその需要
者として捉えるのが相当であるから、右主張は採用することができない。
3 次に、デザイナーブランドの場合、その対象とする層によって、多数の消費者
に販売することが必ずしも目的とはならず、その売上げの多寡がブランドの著名性
と結びつくとは限らないことが認められる(証人【C】)。ところで、三年間の平
均利益率が六パーセント以上の高収益レディスアパレル四六社(被控訴人を含
む。)の昭和五四年における総売上高の合計は、四六二八億二八〇〇万円であるこ
とが認められる(乙三一)ところ、右二5の認定事実によれば、同年一一月から同
五五年八月までの間の「ゼルダ」ブランドの商品の売上高は約二億円であり、右売
上高は、右のレディスアパレル四六社の同五四年における総売上高の合計額に比し
て僅少であるが、婦人服業界では、一企業が複数のブランド商品を販売しているこ
とが認められる(乙三二)ところからみて、右レディスアパレル四六社の売上高は
いずれも単独のブランド商品の売上高ではなく、複数のブランド商品及びブランド
商品以外の商品の売上高の合計であると推認できる。したがって、各企業の個々の
ブランドの売上高を比較せずに右の総売上高と単独のブランドの商品である被控訴
人の「ゼルダ」ブランドの商品の売上高を比較することは相当でないといわざるを
得ない。これを控訴人関連会社である株式会社ダイヤについてみると、平成三年度
の年間売上げ六五億円には、本件登録商標を付した商品の売上げのほか、ラウラ・
カポーニ、コンテオブフロレンス、ニキタ・ゴダールの各ブランドの商品の売上
げ、国内外の一〇〇社に及ぶメーカーの作品の中から選んだレディスファッション
をミックスした商品の売上げが含まれていることが認められる(乙八、証人
【D】)から、各ブランドの個々の売上高はさほど多くないと推認され、現に昭和
六三、平成二、三年度の控訴人における本件登録商標(あるいはその類似の商標)
を付した商品の売上げは、それぞれ、約一億六〇〇〇万円、一億九〇〇〇万円、二
億七〇〇〇万円であった(なお、平成元年度は、控訴人と被控訴人との間で本件登
録商標の買取り交渉がなされていたため、控訴人が同製品の製造・販売を手控えた
経緯がある。)ことが認められる(乙三四、三五、証人【D】、弁論の全趣旨)か
ら、昭和五四年一一月から同五五年八月までの約九か月間約二億円の売上高はデザ
イナーブランドとしてその周知性が認められないほど僅少であると認めることはで
きない。したがって、「ゼルダ」ブランドの婦人服の売上高が右のレディスアパレ
ル四六社の同年における総売上高の合計額に比して僅少であることをもっては、先
使用権成立の要件である周知性の存在を左右するに足りない。また、株式会社矢野
経済研究所が、全国の小売店一〇〇〇店舗に、取引を行なっているメーカー、問屋
の総てのブランドの評価をしてもらい、これを集計した「81年版レディスブラン
ドの競争力調査」と題する報告書(同五六年四月二五日発行)(乙三二)には、被
控訴人のブランドとして、「ニコル」、「マダム・ニコル」が掲載され、「ゼル
ダ」が掲載されていないことが認められるが、右報告書は、ビジネスの作業の体制
の観点から評価したものであって、必ずしもブランドとしての評価を示すものでは
ないと認められ(証人【C】)、また、右報告書である乙三二に挙げられたブラン
ドの企業名とレディスアパレル各社の売上げ等を調査した前記乙三一に挙げられた
レディスアパレル四六社の名前と一部重複しているが、必ずしも一致しておらず、
そのことは、流通経路等の偏りにより右報告書の調査対象にも偏りが生じたことを
窺わせるものであるから、右報告書において、ブランドの名前が掲載されていない
事実は、被控訴人標章について、先使用権成立の要件である周知性の存在を左右す
るに足りないものというべきである。
 そして、前記二7の認定事実によれば、平成元年二月以降は、ブランド名を「M
ARIKO KOHGA」に変更して、被控訴人標章の使用を中止しているもので
あるところ、被控訴人が被控訴人標章の使用を中止したのは、自らの発意によるの
ではなく、株式会社ブローニュらから、被控訴人が被服、布製身回品及び寝具類に
被控訴人標章を使用する行為は本件商標権の侵害になるとして、被控訴人標章の使
用を中止するよう警告を受けたため、被控訴人標章の使用を継続することによっ
て、控訴人らから百貨店その他の取引先等に対して被控訴人標章の使用を中止する
よう警告がされるなどして、取引先等に迷惑がかかることを懸念したことによるも
のであり、被控訴人は、本件紛争が解決したときには、婦人服に被控訴人標章を使
用する意思を有しているものと認めることができる。そうすると、被控訴人は、右
のような相当な理由に基づき、かつ、その限度において、被控訴人標章の使用を一
時中止しているにすぎないものというべきであって、このような場合は、商標法三
二条一項の規定にいう「継続してその商品についてその商標の使用をする場合」に
該当するものと解するのが相当である。
五 したがって、被控訴人は、商標法三二条一項の規定により、婦人服について、
被控訴人標章の使用をする権利を有するものということができるから、被控訴人が
婦人服に被控訴人標章を使用する行為は、本件商標権の侵害を構成しない。
第四 以上のとおり、被控訴人の本訴請求は理由があるから、控訴人の控訴を棄却
し(原判決主文第一項は被控訴人の請求の減縮により主文第三項のとおり変更され
た。)、訴訟費用の負担につき、同法九五条、八九条を各適用して主文のとおり判
決する。
(裁判官 松野嘉貞 押切瞳 田中信義)
別紙標章目録(省略)

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