弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告P1の訴えのうち,渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで原
告P1に対してした,平成11年分の所得税の更正処分のうち納付すべき
税額1936万0300円を超える部分,及びこれに伴う重加算税賦課決
定処分(但し,同税務署長が平成15年9月3日付けで同原告に対してし
た,変更決定処分後のもの)の各取消しを求める部分を却下する。
2原告P1のその余の請求,原告P2,同P3,同P4及び原告P5社の
各請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1第1事件
(1)渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで原告P2に対してした,平成
10年分の所得税の更正処分のうち利子所得額0円,給与所得額1404万
0682円,納付すべき税額マイナス5万6959円をそれぞれ超える部分,
及びこれに伴う重加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
(2)渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで原告P2に対してした,平成
11年分の所得税の更正処分のうち利子所得額0円,給与所得額3444万
4889円,納付すべき税額マイナス9889円をそれぞれ超える部分(但
し,同税務署長が平成15年11月26日付けで同原告に対してした,減額
更正処分後のもの),及びこれに伴う重加算税賦課決定処分(但し,同税務
署長が平成15年11月26日付けで同原告に対してした変更決定処分後の
もの)をそれぞれ取り消す。
(3)渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで原告P2に対してした,平成
13年分の所得税の決定処分(但し,同税務署長が平成15年11月26日
付けで同原告に対してした,減額更正処分後のもの),及びこれに伴う重加
算税賦課決定処分(但し,同税務署長が平成15年11月26日付けで同原
告に対してした,変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
2第2事件
(1)渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで原告P1に対してした,平成
10年分の所得税の更正処分のうち利子所得額0円,給与所得額4215万
2607円,納付すべき税額マイナス34万5966円をそれぞれ超える部
分,及びこれに伴う重加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
(2)渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで原告P1に対してした,平成
11年分の所得税の更正処分のうち利子所得額0円,給与所得額5805万
3461円,納付すべき税額マイナス726万3154円をそれぞれ超える
部分,及びこれに伴う重加算税賦課決定処分(但し,同税務署長が平成15
年9月3日付けで同原告に対してした,変更決定処分後のもの)をそれぞれ
取り消す。
(3)渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで原告P1に対してした,平成
12年分の所得税の更正処分のうち利子所得額0円,給与所得額5530万
円,納付すべき税額マイナス137万3400円をそれぞれ超える部分(但
し,同税務署長が平成15年9月3日付けで同原告に対してした,減額更正
処分後のもの),及びこれに伴う重加算税賦課決定処分(但し,同税務署長
が平成15年9月3日付けで同原告に対してした,変更決定処分後のもの)
をそれぞれ取り消す。
(4)渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで原告P1に対してした,平成
13年分の所得税の更正処分のうち利子所得額0円,給与所得額5530万
円,納付すべき税額マイナス123万6500円をそれぞれ超える部分(但
し,同税務署長が平成15年9月3日付けで同原告に対してした,減額更正
処分後のもの),及びこれに伴う重加算税賦課決定処分(但し,同税務署長
が平成15年9月3日付けで同原告に対してした,変更決定処分後のもの)
をそれぞれ取り消す。
(5)渋谷税務署長が平成15年9月3日付けで原告P1に対してした,平成1
4年分の更正処分のうち利子所得額0円,給与所得額7905万円,納付す
べき税額マイナス170万0110円をそれぞれ超える部分,及びこれに伴
う重加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
3第3事件
(1)渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで原告P3に対してした,平成
10年分の所得税の更正処分のうち利子所得額0円,給与所得額1561万
7083円,納付すべき税額マイナス11万7097円をそれぞれ超える部
分,及びこれに伴う重加算税賦課決定処分(但し,同税務署長が平成15年
10月28日付けで原告P3に対してした,変更決定処分後のもの)をそれ
ぞれ取り消す。
(2)渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで原告P3に対してした,平成
11年分の所得税の更正処分のうち利子所得額0円,給与所得額476万9
267円,納付すべき税額マイナス24万9000円をそれぞれ超える部分,
並びにこれに伴う重加算税及び過少申告加算税賦課決定処分をそれぞれ取り
消す。
(3)渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで原告P3に対してした,平成
12年分の所得税の決定処分,及びこれに伴う重加算税賦課決定処分をそれ
ぞれ取り消す。
(4)渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで原告P3に対してした,平成
13年分の所得税の更正処分のうち給与所得額1274万円,雑所得0円,
納付すべき税額マイナス12万9900円をそれぞれ超える部分(但し,同
税務署長が平成15年11月26日付けで同原告に対してした,減額更正処
分後のもの),並びにこれに伴う重加算税及び無申告加算税賦課決定処分を
それぞれ取り消す。
4第4事件
(1)渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで原告P4に対してした,平成
10年分の所得税の更正処分のうち利子所得額77万8084円,給与所得
額8421万1510円,納付すべき税額マイナス3105万8013円を
それぞれ超える部分,及びこれに伴う重加算税賦課決定処分をそれぞれ取り
消す。
(2)渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで原告P4に対してした,平成
11年分の所得税の更正処分のうち利子所得額0円,給与所得額2億032
1万8553円,納付すべき税額マイナス7564万0753円をそれぞれ
超える部分,及びこれに伴う重加算税賦課決定処分(但し,同税務署長が平
成15年9月3日付けで同原告に対してした,変更決定処分後のもの)をそ
れぞれ取り消す。
(3)渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで原告P4に対してした,平成
12年分の所得税の更正処分のうち利子所得額0円,給与所得額1億693
0万円,納付すべき税額マイナス5072万6624円をそれぞれ超える部
分(但し,同税務署長が平成15年9月3日付けで同原告に対してした,減
額更正処分後のもの),並びにこれに伴う重加算税及び過少申告加算税賦課
決定処分(但し,同税務署長が平成15年9月3日付けで同原告に対してし
た,変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
(4)渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで原告P4に対してした,平成
13年分の所得税の更正処分のうち不動産所得マイナス8247万2324
円,利子所得額0円,給与所得額1億6930万円,納付すべき税額マイナ
ス2970万2528円をそれぞれ超える部分(但し,同税務署長が平成1
5年9月3日付けで同原告に対してした,減額更正処分後のもの),及びこ
れに伴う重加算税賦課決定処分(但し,同税務署長が平成15年9月3日付
け付けで同原告に対してした,変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
(5)渋谷税務署長が平成15年9月3日付けで原告P4に対してした,平成1
4年分の所得税の更正処分のうち不動産所得マイナス4345万1268円,
利子所得額0円,給与所得額1億9305万円,納付すべき税額マイナス1
485万0376円をそれぞれ超える部分,及びこれに伴う重加算税賦課決
定処分をそれぞれ取り消す。
5第5事件
(1)本郷税務署長が平成15年3月14日付けで原告P5社に対してした,平
成10年1月から同年6月までの期間分の納税告知処分並びに重加算税及び
不納付加算税の各賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
(2)本郷税務署長が平成15年3月14日付けで原告P5社に対してした,平
成10年7月から同年12月までの期間分の納税告知処分並びに重加算税及
び不納付加算税の各賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
(3)本郷税務署長が平成15年3月14日付けで原告P5社に対してした,平
成11年1月から同年6月までの期間分の納税告知処分並びに重加算税及び
不納付加算税の各賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
(4)本郷税務署長が平成15年11月26日付けで原告P5社に対してした,
平成11年7月から同年12月までの期間分の納税告知処分並びに重加算税
及び不納付加算税の各賦課決定処分(但し,同税務署長が同日付けで同原告
に対してした,同期間分の減税納税告知処分後並びに重加算税及び不納付加
算税の変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
(5)本郷税務署長が平成15年11月26日付けで原告P5社に対してした,
平成12年1月から同年6月までの期間分の納税告知処分並びに重加算税及
び不納付加算税の各賦課決定処分(但し,同税務署長が同日付けで同原告に
対してした,同期間分の減税納税告知処分後並びに重加算税及び不納付加算
税の変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
(6)本郷税務署長が平成15年11月26日付けで原告P5社に対してした,
平成12年7月から同年12月までの期間分の納税告知処分並びに重加算税
及び不納付加算税の各賦課決定処分(但し,同税務署長が同日付けで同原告
に対してした,同期間分の減税納税告知処分後並びに重加算税及び不納付加
算税の変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
(7)本郷税務署長が平成15年11月26日付けで原告P5社に対してした,
平成13年1月から同年6月までの期間分の納税告知処分並びに重加算税及
び不納付加算税の各賦課決定処分(但し,同税務署長が同日付けで同原告に
対してした,同期間分の減税納税告知処分後並びに重加算税及び不納付加算
税の変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
(8)本郷税務署長が平成15年11月26日付けで原告P5社に対してした,
平成13年7月から同年12月までの期間分の納税告知処分並びに重加算税
及び不納付加算税の各賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
(9)本郷税務署長が平成15年3月14日付けで原告P5社に対してした,平
成14年1月から同年6月までの期間分の納税告知処分並びに重加算税及び
不納付加算税の各賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
第2事案の概要
(以下においては,別紙略称一覧表記載のとおりの略称を使用する。)
本件は,P6の筆頭株主である原告P5社が他社株償還特約付社債の利息と
して支払った金員の一部は,P6の創業者である原告P4とその家族である原
告P1,同P2及び同P3の利子所得ないし給与所得に当たり,それらの給与
所得部分は原告P5社に源泉徴収義務があるなどとして,原告らが,前記第1
記載の所得税の各更正処分,源泉所得税に係る各納税告知処分,これらに伴う
各重加算税賦課決定処分等を受けたことから,原告らが,上記利息は上記社債
の名義人に帰属するなどと主張して,上記の各処分の取消しを求めた事案であ
る。なお,本件で問題となる取引の一部に関する原告P5社の法人税について,
東京高裁平成18年6月29日判決(乙283号証)が,原告P5社の請求を
全面的に退ける判決をしている。(その原審は,乙282号証)
1法令等の内容
(1)所得税法12条は,「資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみ
られる者が単なる名義人であって,その収益を享受せず,その者以外の者が
その収益を享受する場合には,その収益は,これを享受する者に帰属するも
のとして,この法律の規定を適用する。」と規定し,いわゆる実質所得者課
税の原則について定めている。
(2)同法23条1項は,利子所得とは,公社債及び預貯金の利子並びに合同運
用信託,公社債投資信託及び公簿公社債等運用投資信託の収益の分配に係る
所得をいう旨を規定している。
(3)同法28条1項は,給与所得とは,俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並び
にこれらの性質を有する給与に係る所得をいう旨規定している。
(4)同法35条1項は,雑所得とは,利子所得,配当所得,不動産所得,事業
所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得及び一時所得のいずれにも
該当しない所得をいう旨規定している。
(5)同法36条1項は,その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき
金額又は総収入金額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,そ
の年において収入すべき金額とする旨,同条3項は,無記名の社債の利子に
ついては,その年分の利子所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は,上
記規定にかかわらず,その年において支払を受けた金額とする旨,それぞれ
規定している。
(6)同法157条は,税務署長は,法人税法2条10号に規定する同族会社の
行為又は計算で,これを容認した場合には,株主である居住者の所得税の負
担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは,その居住
者の所得税に係る更正又は決定に際し,その行為又は計算にかかわらず,税
務署長の認めるところにより,その居住者の各年分の確定申告書の記載事項
に掲げる金額を計算することができる旨規定している。
2争いのない事実等(証拠により容易に認められる事実は,末尾に証拠を掲記
した。)
(1)当事者及び関連会社について
ア原告P4は,昭和53年にP6を設立し,また,昭和56年に原告P5
社が設立されて以来,同社の取締役である。
原告P1は,原告P4の妻であり,昭和56年に原告P5社が設立され
て以来,同社の代表取締役である。
原告P2は,原告P4の長女であり,平成14年6月7日現在,原告P
5社の取締役である。原告P2は,平成11年8月10日より,所得税法
2条1項5号に規定する非居住者である。
原告P3は,原告P4の長男であり,平成14年6月7日現在,原告P
5社の取締役である。
イP6は,中小事業者等に対する金融を主な業務とする会社で,代表取締
役は原告P4である。同社は,平成元年8月に株式を店頭公開し,平成9
年10月に東京証券取引所第二部に,平成11年7月に同取引所第一部に
上場した。同社の株価は,平成9年に4万円弱となり,平成11年7月に
は9万4000円の最高値をつけたが,同年11月から徐々に値下がりし
ている。
ウ原告P5社は,昭和56年6月20日に設立された会社で,代表取締役
は原告P1,取締役は原告P4,同P3,同P2及び原告P4の母P7で
ある。同社が発行する株式合計13万3714株のうち,4万5196株
を原告P4が,3万6000株を同P3が,2万7998株を同P1が,
1万2000株を同P2がそれぞれ所有していることから,原告P5社は
法人税法2条10号に定める同族会社である。
原告P5社は,P6の筆頭株主であり,平成9年ないし11年ころにお
いては,P6の発行済み株式の過半数を所有している。
また,原告P5社は,平成14年5月において,P6の株式558万6
600株を所有し,簿価は2億9117万4326円であるが,P6株式
の含み益は,EB債1を発行する直前の平成9年12月頃における株価4
万円を基準として計算すると2000億円を超える。(以上につき,乙1,
2の1,2,乙3,4,弁論の全趣旨)
(2)EB債1について
アEB債,すなわち他社株償還特約付社債(ExchangeableBond)は,一
般的には,海外の高格付の金融機関が1年未満の短期の資金調達を目的と
して発行するものである。(乙91)
イ原告P5社は,英国において,平成10年2月27日5000万米ドル,
同年3月6日6500万米ドル,合計1億1500万米ドルのEB債1を,
P8銀行を引受人及び支払代理人,P9を計算代理人として発行した。E
B債1は,利率を額面金額に対し年21.25パーセント,満期償還日を
平成15年5月31日とし,あらかじめ決められた基準日(平成15年5
月15日)に,他社株であるP6株式の東京証券取引所における1株当た
りの終値が基準価格(4万円)以上の場合には額面金額相当額を現金で償
還し,基準価格未満の場合には,金銭による償還に代えて,社債金額10
00万米ドルにつきP6株式3万1600株をもって社債の元本が償還さ
れる旨の約定が付されていた。また,EB債1には,任意繰上償還条項が
あり,原告P5社は,平成13年2月27日以降平成15年5月15日前
15日目まで,いつでも社債の全額を額面で償還できることになっていた。
(甲1の1ないし5,乙5の1,2)
ウEB債1の購入者は,名義上,P10LPS(平成10年2月27日発
行時5000万米ドル,同年3月6日発行時2500万米ドル),P11
U/T(同日発行時3000万米ドル),P12(同日発行時1000万
米ドル)とされている。EB債1取引に係る資金の流れは,別紙1の1な
いし3のとおりである。(同別紙記載の各証拠,弁論の全趣旨)
(3)EB債2について
ア原告P5社は,ルクセンブルク大公国において,平成12年9月5日及
び同月22日にそれぞれ2700万ドル及び3300万米ドル,合計60
00万米ドルのEB債2を,P13を引受人かつ支払代理人として発行し
た。EB債2は,利率を額面金額に対して,平成12年9月5日発行の2
700万米ドルについては106.65円/1米ドル,同月22日発行の
3300万米ドルについては107.25円/1米ドルで,それぞれ日本
円に換算した金額に対する円建て年4パーセント,満期償還日を平成17
年11月30日としていた。EB債2は,発行日から1年後以降,満期償
還日の10営業日以前の期間において,社債権者より財務代理人に対し株
式交付指図書が提出された場合,上記換算レートで換算した金額を発行日
の東京証券取引所のP6の株式終値で除して算出される数の同社株式によ
り代物弁済されるという他社株償還条項が付されている。但し,株式交付
指図書が提出された翌営業日から第4営業日までに原告P5社が社債権者
への公告をもって通知した場合,額面の130パーセントの金額で現金償
還が可能である旨の特約が付されている。(乙160の1,2)
イEB債2の名義上の購入者は,P14U/T(平成12年9月5日発行
分)及びP15U/Tの完全子会社であるP16(同月22日発行分)で
ある。EB債2取引に係る資金の流れは,別紙1の3のとおりである。
(乙156,157,弁論の全趣旨)
(4)α不動産等について
原告P5社は,平成8年1月17日,渋谷区α×番の土地(登記面積78
5.75平方メートル)をP17ほか1名から購入し,さらに,平成10年
7月9日,同所×番の土地(登記面積786.14平方メートル)を競売に
より取得し,この2筆合計22億2275万6411円を土地勘定に計上し
た。(乙185の1,2,弁論の全趣旨)
また,原告P5社は,同年6月24日,上記2筆の土地上に,ゲストハウ
スの建設を,P18を代表とする共同事業体に請け負わせることとし,当初
の金額12億6000万円に設計変更に伴う増額3億6990万円を併せた
合計16億2960万円で発注した。そのほか,什器備品の購入に3億06
94万0176円,株式会社P19への設計報酬等を含め,上記ゲストハウ
スの取得価額の総額は,21億5650万4726円であった。これらの契
約等は,実質的にはP6が主体となってされたものであった。(乙178,
179の1,2,乙180,181,弁論の全趣旨)
原告P5社は,平成11年10月1日,P6との間で,α不動産等につい
て,賃料を月額1000万円,賃貸期間を平成12年1月25日から10年
間と定めてP6に賃貸する旨の契約を締結した。(乙181)
その後,原告P5社は,建物完成2日前の平成11年11月2日付けで,
α不動産等を合計20億3612万4627円(消費税込み金額)でP20
(当時の商号はP21)に売却し,23億4313万6510円の譲渡損を
計上した。(乙182,185の1,2,乙186,弁論の全趣旨)
(5)P22ローンについて
P20は,平成12年1月28日,上記(4)記載の原告P5社からのα不
動産等購入に関する約20億円の代金の支払のため,P22から25億円を,
期間10年間,年利率11パーセントの約定で借り入れる旨の金銭消費貸借
契約を締結し,同年1月31日に同額を借り入れた。利息の支払は年1回毎
年1月27日であり,その利息の計算期間は最初の利払日である平成13年
1月27日についてはローンの貸出日である平成12年1月31日から平成
13年1月27日までとし,2回目以降の利払日については前年1月28日
から利払日当日の本年1月27日までとするものであった。P22ローンに
係る資金の流れは,別紙1の5のとおりである。(乙204ほか同別紙記載
の各証拠,弁論の全趣旨)
(6)匿名組合取引について
アP23社は,平成13年3月に設立された,α不動産等の賃貸を主な事
業目的とする株式会社であり,同月27日にP20からα不動産等を購入
した。(乙171,187の1及び2)
イ平成13年3月28日,P23社を営業者とし,P24社を出資者として,
P23社が行う営業(α不動産等の賃貸事業)に関する匿名組合契約が締
結された。P24社による出資額は,当初は平成13年3月29日支払に
係る980万米ドル(円換算:1米ドル=122.34円で11億989
3万2000円)であったが,同年7月17日,匿名組合契約の第3条に
基づき,1000万米ドル(円換算:1米ドル=122.21円で12億
2210万円)が追加出資された。(乙170の1,2,乙172)
ウP24社は,匿名組合契約に係る利益の分配金として,同年8月28日
に1696万8188円を,平成14年8月29日に7301万3812
円(平成14年法15号による改正後の所得税法161条12号,178
条,212条及び213条並びに平成14年法15号による改正法附則3
7条の規定により分配額の20パーセントが源泉徴収されることとなった
ことにより,利益の分配金額9126万7365円のうち20パーセント
相当額である1825万3473円を控除した金額)を受け取った。(乙
170の1,2,乙174の1,2,乙175)
エこのほか,匿名組合取引に係る資金の流れは,別紙1の3及び4のとお
りである。(乙192,193,弁論の全趣旨)
なお,上記平成14年8月29日の分配金に係る源泉徴収税額につい
て,居住者に対して営業者が匿名組合契約に係る利益の分配をした場合に
は,所得税法210条,所得税法施行令327条及び同令298条8項に
より,その匿名組合員が10人未満である限りは源泉徴収は不要であるこ
とから,日本橋税務署長は,平成15年9月5日付けで源泉徴収税相当額
1825万3473円をP23社に対し還付している。(弁論の全趣旨)
(7)P25ファンド取引について
原告P4は,平成9年1月24日に1000万円で購入した株式投資信託
であるP25ファンド1000口を,平成12年1月21日(金曜日)に自
らが取締役である同族会社の原告P5社に対して3151万9000円で譲
渡した。当該譲渡価格は,P26新聞の同月22日の朝刊に発表されている
P25ファンドの同月20日の終値3万1519円(1口当たり)を基準に
計算された。(乙275,弁論の全趣旨)
P25ファンドは,同月23日(日曜日)に3151万5540円でP5
社に繰上償還された。なお,繰上償還がされることについては,P4とP5
社が売買をしたとする同月21日(金曜日)以前に,P25ファンド発行会
社からP4へ通知がされていた。
原告P5社は,P25ファンドの繰上償還により下記の金額を計上し,1
61万7126円の所得金額を減少させるとともに,法人税額から161万
3665円の所得税額の控除を受けた。
①租税公課△430万3108円
②有価証券等売却損△2151万9000円
③受取配当金2151万5540円
④損金の額に算入した道府県民税利子割額107万5777円
⑤法人税額から控除される所得税額161万3665円
⑥差引合計金額△161万7126円
(注)△はマイナスを表す。
原告P4は,繰上償還日の2日前に原告P5社に対してP25ファンドを
その基準価格に基づいて売却したことにより,償還時の源泉所得税課税(仮
に繰上償還あるいは満期日償還になった場合には,平成15年法律第8号改
正前の措置法8条の2の規定により,償還差益は一律に源泉分離課税の対象
とされ,地方税と併せて償還差益の20パーセント相当額の源泉徴収がなさ
れたはずのものである。)を免れ,また,ファンドの譲渡益に対しても,平
成15年法律第8号改正前の措置法37条の15の規定により所得税が課さ
れていない。(以上につき,弁論の全趣旨)
(8)結婚披露宴費用について
原告P5社は,平成13年5月1日から平成13年9月7日までに,役員
である原告P2の結婚披露宴及びそれに関連する費用総額9843万402
6円を仮払金に計上し,平成13年9月30日,仮払金のうち個人負担分5
513万7226円を原告P4に対する未払金と相殺し,4329万680
0円を交際費に振替処理をした。(乙277の1及び2,弁論の全趣旨)。
(9)課税処分等の経緯について
原告らに対する課税処分等の経緯は,別紙2の1ないし5記載のとおりで
ある。
このうち,原告P5社について,本郷税務署長は,平成15年3月14日
付けで本件各当初処分(P5社)を行い,これに対し原告P5社が東京国税
不服審判所に審査請求をしていたが,原告P5社が給与等を支給する者のう
ち原告P2については平成11年12月期間ないし平成13年6月期間分は
非居住者として所得税法213条の規定により計算した税額を源泉徴収すべ
きであったにもかかわらず,同法185条の規定により計算した源泉所得税
額を算定していたことから,同税務署長が,平成15年11月26日付けで,
各当初処分の一部を減額訂正した上,平成11年12月期間ないし平成13
年6月期間に非居住者に支払った給与等に係る源泉徴収税と平成13年12
月期間の給与等に係る源泉徴収税について本件各追加処分(P5社)を行っ
たところ,東京国税不服審判所長は,国税通則法104条2項の規定により
本件各当初処分(P5社)に本件各追加処分(P5社)をあわせ審理した上,
原告P5社の審査請求をいずれも棄却したものである。(以上につき,甲1
の1ないし5,弁論の全趣旨)
(10)課税処分等の根拠及び適法性について
原告らに対する課税処分等の根拠及び適法性に係る被告の主張は,別紙3
のとおりである。課税処分等の根拠及び適法性のうち,原告らが積極的に争
っている事実は,以下の点である。
ア原告P2について
(ア)各更正処分の根拠のうち以下の点
a平成10年分
(a)利子所得の金額(EB債1取引により原告P5社から支払を受け
た適正利息相当額)3152万7459円
(b)給与所得の金額のうち,原告P5社の取締役としてEB債1取引
により支払を受けた利益供与額5226万9721円
b平成11年分
(a)利子所得の金額(EB債1取引により原告P5社から支払を受け
た適正利息相当額)2058万3547円
(b)給与所得の金額のうち,原告P5社の取締役としてEB債1取引
により支払を受けた利益供与額(居住者期間に支払を受けたもの)
3412万5906円
c平成13年分
雑所得の金額(P22ローンによりP20から利益供与を受けた金
額)9423万0821円
(イ)各重加算税賦課決定処分の適法性
イ原告P1
(ア)各更正処分の根拠のうち以下の点
a平成10年分
(a)利子所得の金額(EB債1取引により原告P5社から支払を受け
た適正利息相当額)6259万0828円
(b)給与所得の金額のうち,原告P5社の取締役としてEB債1取引
により支払を受けた利益供与額1億0377万0023円
b平成11年分
(a)利子所得の金額(EB債1取引により原告P5社から支払を受け
た適正利息相当額)7696万8558円
(b)給与所得の金額のうち,原告P5社の取締役としてEB債1取引
により支払を受けた利益供与額1億2760万7460円
c平成12年分
(a)利子所得の金額(EB債1取引により原告P5社から支払を受け
た適正利息相当額4149万5411円とEB債2取引により支払
を受けた受取利息326万3490円との合計額)4475万89
01円
(b)給与所得の金額のうち,原告P5社の取締役としてEB債1取引
により支払を受けた利益供与額6879万5711円
d平成13年分
利子所得の金額(EB債2取引により原告P5社から支払を受けた
受取利息の金額)1382万1840円
e平成14年分
利子所得の金額(EB債2取引により原告P5社から支払を受けた
受取利息の金額)1382万1840円
(イ)各重加算税賦課決定処分の適法性
ウ原告P3
(ア)各更正処分の根拠のうち以下の点
a平成10年分
(a)利子所得の金額(EB債1取引により原告P5社から支払を受け
た適正利息相当額)3152万7459円
(b)給与所得の金額のうち,原告P5社の取締役としてEB債1取引
により支払を受けた利益供与額5226万9721円
b平成11年分
(a)利子所得の金額(EB債1取引により原告P5社から支払を受け
た適正利息相当額)3876万9627円
(b)給与所得の金額のうち,原告P5社の取締役としてEB債1取引
により支払を受けた利益供与額6578万3301円
c平成12年分
(a)利子所得の金額(EB債1取引により原告P5社から支払を受け
た適正利息相当額)1811万2286円
(b)給与所得の金額のうち,原告P5社の取締役としてEB債1取引
により支払を受けた利益供与額3002万8561円
d平成13年分
雑所得の金額(P22ローンによりP20から利益供与を受けた金
額)9423万0821円
(イ)各重加算税賦課決定処分の適法性
エ原告P4
(ア)各更正処分の根拠のうち以下の点
a平成10年分
(a)利子所得の金額のうち,EB債1取引により原告P5社から支払
を受けた適正利息相当額6億5434万0070円
(b)給与所得の金額のうち,原告P5社の取締役としてEB債1取引
により支払を受けた利益供与額10億9621万7992円
b平成11年分
(a)利子所得の金額(EB債1取引により原告P5社から支払を受け
た適正利息相当額)7億8863万8193円
(b)給与所得の金額のうち,原告P5社の取締役としてEB債1取引
により支払を受けた利益供与額13億2100万6529円
c平成12年分
(a)利子所得の金額(EB債1取引により原告P5社から支払を受け
た適正利息相当額5億3473万8080円とEB債2取引により
支払を受けた受取利息5067万3260円との合計額)5億85
41万1340円
(b)給与所得の金額のうち,原告P5社の取締役としてEB債1取引
により支払を受けた利益供与額8億9666万3535円,P25
ファンド取引により同社から受けた利益供与額430万6568円
d平成13年分
(a)不動産所得の金額のうち,匿名組合取引による分配金額1696
万8188円
(b)利子所得の金額(EB債2取引により原告P5社から支払を受け
た受取利息の金額)2億4293万0160円
e平成14年分
(a)不動産所得の金額のうち,匿名組合取引による分配金額9126
万7365円
(b)利子所得の金額(EB債2取引により原告P5社から支払を受け
た受取利息の金額)2億4293万0160円
(イ)各重加算税賦課決定処分の適法性
(ウ)平成12年分過少申告加算税賦課決定処分の根拠及び適法性
オ原告P5社
(ア)本件原処分(P5社)の根拠のうち以下の点
aEB債1に係る支払利息として支出した金額のうち適正利息超過額
に係る源泉所得税額
bP25ファンド取引に係る源泉所得税額
cP22ローンに係る源泉所得税額
d原告P2の結婚披露宴関連費用に係る源泉所得税額
(イ)重加算税賦課決定処分の適法性のうち,EB債1取引に係る支払利息
及びP22ローンに係る支払額に基づく部分
3争点
(1)原告P5社の訴えのうち,本件各追加処分(P5社)の取消しを求める部
分は,異議申立て及び審査請求を経ておらず,不適法であるか。
(2)原告P5社がEB債1の利息として支払った金員の一部は,P4家族の平
成10年分ないし平成12年分の利子所得ないし給与所得に当たるか否か。
同給与所得分につき,原告P5社の源泉徴収に係る所得税の徴収義務が生じ
るか否か。
(3)原告P5社がEB債2の利息として支払った金員の一部は,原告P1及び
同P4の平成12年分ないし平成14年分の利子所得に当たるか否か。
(4)P20がα不動産等の購入のために借り入れたP22ローンの利息として
支払った金員の一部は,原告P2及び同P3の平成13年分の雑所得に当た
るか否か。P20を吸収合併した原告P5社がP22ローンの利息として支
払った金員の一部は,役員である原告P2及び同P3に対する給与等の支払
に該当し,これについて源泉徴収義務が生じるか否か。
(5)α不動産等の賃貸を営業目的とする匿名組合契約に基づきP23社がP2
4社に対して支払った利益の分配金額は,原告P4の平成13年分及び平成
14年分の不動産所得に当たるか否か。
(6)原告P4が原告P5社に対して償還日直前にP25ファンドを売却して得
た売却代金のうち,償還を受けたとしたならば徴収されたであろう源泉徴収
税額相当額は,原告P4の平成12年分の給与所得に当たるとともに,原告
P5社に源泉徴収義務が生じるか否か。
(7)原告P5社が負担した原告P2の結婚式及び結婚披露宴関連費用が,役員
である原告P2に対する給与等の支払に該当し,原告P5社の源泉徴収義務
が生じるか否か。
(8)各重加算税賦課決定処分が適法であるか否か。
(9)渋谷税務署長が原告P4及びその家族に対して行った平成15年3月24
日付け各更正処分は,所得税法234条1項に反する違法な事後的税務調査
に基づくものとして違法であるか。
4争点に関する当事者の主張の要旨
(1)原告P5社の訴えのうち,本件各追加処分(P5社)の取消しを求める部
分は,異議申立て及び審査請求を経ておらず,不適法であるか。
(被告の主張)
原告P5社は,本件各追加処分(P5社)について,異議申立て及び審査
請求をしておらず,国税不服審判所において本件各当初処分(P5社)とあ
わせ審理したとはいえ,異議申立てについての決定のみならず審査請求につ
いての裁決も経たとは認められない。また,通則法115条1項3号に規定
する正当な理由もない。したがって,本件各追加処分(P5社)の取消しを
求める訴えは,不服申立ての前置を欠く不適法な訴えである。
(2)原告P5社がEB債1の利息として支払った金員の一部は,P4家族の平
成10年分ないし平成12年分の利子所得ないし給与所得に当たるか否か。
同給与所得分につき,原告P5社の源泉徴収に係る所得税の徴収義務が生じ
るか否か。
(被告の主張)
ア所得の帰属について
EB債1の発行目的は,原告P5社が保有する含み益のあるP6株式を
将来売却する場合に備えて,多額の支払利息による欠損金を発生・蓄積さ
せておき,その欠損金によって将来の売却益に対する課税を免れることに
あり,かつ,その欠損金を発生・蓄積させるために支出する金員が,P4
家族とこれらの者が実質的に支配する海外の関連法人等以外に流出するこ
とを防止することにあった。そして,原告P5社の行動を,一般的な社債
発行会社の行動と比較すると,資金調達の必要性がないにもかかわらず社
債を発行して1億1500万米ドル(約146億円)もの資金を調達した
り,利息を支払う立場であるにもかかわらず支払利息の利率をなるべく高
く設定するように目論むなど,極めて異常な行動をとっていた。
他方,EB債1の投資家とされるP10LPS,P11U/T及びP1
2の行動を,一般的な投資家の行動と比較すると,上記投資家とされる者
らは,社債の発行条件を考慮することなしにEB債1への投資を決定した
り,また,発行規約に規定されていない時期での中途償還の実施を受け入
れるなど,極めて異常な行動をとっており,自らの独立した判断でEB債
1に投資を行っているとは到底考えられない。
以上のほか,EB債1取引に介在する海外のSPCやユニット・トラス
ト及びLPSの実態等に照らすと,EB債1の発行スキームは,当初から,
原告P4及び原告P5社によって策定され,かつ,決定されたものであっ
て,EB債1取引に介在する海外のSPCやユニット・トラスト及びLP
Sは,何ら独立した判断で投資を行っているわけではなく,導管体的組織
群として,P4家族に対して名義貸しをしただけの形式的な存在にすぎな
い。
これらの点のほか,P4家族は,同族会社である原告P5社の役員とし
て原告P5社を支配しており,他社株償還特約を行使することは全く予定
されていなかったこと,原告P5社とEB債1の投資家らは実質的には同
一経済主体であって,いついかなる内容の償還又は中途買入消却でも合意
でき,劣後特約は無意味であること,P4家族が拠出した資金は,帳簿上
の数字の動きだけではなく,現実に現金の資金移動を伴っていること等を
併せ考えると,EB債1に係る取引の実体は,P4家族から原告P5社に対
してプライベートな資金を提供しただけの実質的な融資と,これに対する
原告P5社からP4家族への利息の支払にほかならならず,取引により発
生した所得はP4家族に帰属する。
イ適正金利について
年率21.25パーセントの割合で支払われたEB債1の利息は,P4
家族からの実質的な融資による資金調達としての適正金利部分と,それを
超える利益供与部分との総体であり,適正金利部分については,公社債の
利子と認められ利子所得となるものの,適正金利を越える部分については,
役員としてのP4及びその家族に対する利益供与となって給与所得に該当
する。
EB債1がドル通貨で発行され,かつ,償還時期が5年後であることか
ら,EB債1発行当時の米ドル建て5年物スワップレート(金融市場の実
勢金利を表すものとして一般的に用いられる指標)である年率6.005
パーセント(平成10年2月27日発行分)及び年率6.095パーセン
ト(同年3月6日発行分)を基礎とし,原告P5社が平成10年1月29
日から同年2月27日までの間,P27P28支店から原告P5社の信託
受益権1億円を担保として5億円を年利2.071880パーセントで借
り入れた際のスプレッド1.4パーセント,5年償還という長期のEB債
の金利を算出するのに短期の金利に上乗せするスプレッド0.5パーセン
トを加えた,年率7.905パーセント(平成10年2月27日発行分)
及び年率7.995パーセント(同年3月6日分)がそれぞれの場合の適
正金利である。
ウ原告らの損益通算の主張について
EB債1の利子の受領者は,P4家族であり,原告P5社から導管体的
組織群に利息が支払われた時点で,その所得はP4家族に帰属するのであ
るから,原告らの損益通算の主張は失当である。
(原告らの主張)
ア所得の帰属について
EB債1取引は,P10LPS,P11U/T,P12に法律的にも経
済的にも帰属しているから,所得税法12条の実質所得者課税の原則を適
用することはできない。
被告は,本件において,法人格否認の法理の主張立証をするしか原処分
の適法性を主張する途はない。被告の「実質支配論」ないし「名義貸し
論」は,いずれもEB債1取引に関わる各法主体(P10LPS,P29,
P14U/T,P15U/T,P11U/T,P30LPS,P12)の
存在を無視できる法的根拠にはなり得ない。
本件では,あくまでP4家族個人が当該金銭を受領したことが証明され
ない限り,P4家族の所得として帰属することはないところ,被告は,な
ぜ各法主体名義の口座に入金された金銭が,P4家族個人に所得として帰
属するといえるのか,租税実体法上の根拠条文も法理論も示しておらず,
被告の主張は失当である。
投資信託に該当するP14U/T,P15U/T,P11U/Tには,
所得税法13条1項ただし書が適用されるべきであり,これを無視した原
処分は違法である。
イ適正金利について
仮に,EB債1の利息がP4家族に帰属しているものとしても,発行体
が超優良格付の金融機関であり,東京証券取引所一部上場の有名優良企業
の株式を償還対象としたEB債でも,18ないし50パーセントの金利が
付されている以上,未だ二部上場企業であったP6を償還対象株式として,
無格付会社たる原告P5社が発行したEB債1の金利が21.25パーセ
ントであったとしても何ら不自然ではない。EB債1の金利は,第1引受
人たるP8銀行が一流の外資系銀行の信用をかけて算定しており,原告P
5社や原告P4算定した同族関係者間取引価格たる金利ではないから,そ
の全部が適正利率である。
ウ損益通算について
仮に,EB債1の金利が適正利率ではなく,EB債1に係る利息相当額
につきP4家族に対して直接課税され得るとしても,原処分庁は,各法主
体の全投資活動による損益を各期末に通算し,P4家族の保有割合に応じ
て按分した金額の限度で課税し得るにすぎない。
(3)原告P5社がEB債2の利息として支払った金員の一部は,原告P1及び
同P4の平成12年分ないし平成14年分の利子所得に当たるか否か。
(被告の主張)
EB債2の発行スキームは,当初から原告P4(原告P1の代理人でもあ
る。)及び原告P5社によって策定され,かつ,決定されたものであって,
取引に介在する海外SPCやユニット・トラストが何ら独立した判断で投資
を行っているわけではなく,これらは,原告P4及び原告P1に対して名義
貸しをしただけの形式的な存在にすぎないものである。
そうすると,EB債2の支払利息は,原告P5社から支払利息名下に金員
が拠出された時点で,原告P4及び原告P1に帰属し,同原告らの利子所得
に当たると解すべきである。
(原告らの主張)
ア所得の帰属について
EB債2は,適法かつ適切に当事者の意思に従って発行されたものであ
り,法的にも経済的にも名義人である法主体に帰属しているから,何ら法
的根拠を明示することなくEB債2の法形式を否認することは許されない。
被告が主張する「実質支配論」ないし「名義貸し論」は,いずれもP16,
P14U/T,P15U/Tの存在を無視できる法的根拠にはならない。
投資信託に該当するP14U/T,P15U/Tには,所得税法13条
1項ただし書が適用されるべきであり,これを無視した原処分は違法であ
る。
イ損益通算について
仮に,EB債2に係る利息相当額につき原告P4ないし原告P1に対し
て直接課税され得るとしても,原処分庁は,各法主体の全投資活動による
損益を各期末に通算し,原告P4及び原告P1の保有割合に応じて按分し
た金額の限度で課税し得るにすぎない。
(4)P20がα不動産等の購入のために借り入れたP22ローンの利息として
支払った金員の一部は,原告P2及び同P3の平成13年分の雑所得に当た
るか否か。P20を吸収合併した原告P5社がP22ローンの利息として支
払った金員の一部は,役員である原告P2及び同P3に対する給与等の支払
に該当し,これについて源泉徴収義務が生じるか否か。
(被告の主張)
P22ローンの目的は,約3パーセントの年利でP314兄弟から調達
した25億円の資金をP20に提供し,それに対してP20(平成13年3
月30日以降は原告P5社)が,合計年11パーセントの利息を支払う形式
をとり,そのうちの年0.22パーセント相当額はP22に手数料として支
払った上で,残りの年10.78パーセント相当額のうち,3.2パーセン
ト相当額はP314兄弟に利息として供与し,年7.58パーセント相当
額は原告P3及び原告P2に対して供与することにあった。
また,P22ローンに係るスキームは,当初から原告P4によって策定さ
れ,かつ,決定されたものであって,取引に介在するSPCやユニット・ト
ラストが何ら独立した判断で投資を行っているわけではなく,これらは,単
に名義貸しをしただけの形式的な存在にすぎない。
これらの事実からすると,P22ローンに係る取引の実体は,P314
兄弟とP20の融資取引を,実体のない外国法人等を介在させることによっ
てわざわざ海外を経由したキャッシュフローを作出して海外の投資家とP2
0との間の融資契約であるかのように装い,もって,支払利息に名を借りて
融資金額25億円の年7.58パーセント相当額を受け取るべき合理的な理
由のない原告P3及び原告P2に対して利益供与を行うものであり,P20
及び原告P5社から支払われた年11パーセントの支払利息額のうちの年7.
58パーセント相当額は,P20又は原告P5社からP22に対して支出さ
れた,あるいは,支出されるべき時点において,原告P3及び原告P2に帰
属し,P20から支払われた部分は同原告らの雑所得に当たるとともに,原
告P5社が支払った部分については役員に支払った給与等として源泉徴収義
務が生じる。
(原告らの主張)
ア所得の帰属について
P22ローンは,適法かつ適切に当事者の意思に従って行われたもので
あり,法的にも経済的にも名義人である法主体に帰属するから,何ら法的
根拠を明示することなく同ローンの法形式を否認することは許されない。
被告が主張する「実質支配論」ないし「名義貸し論」は,いずれもP32,
P22,P33の存在を無視できる法的根拠にはならず,P20ないし原
告P5社から支払われた金銭が原告P3及び原告P2の所得となることは
ない。
投資信託に該当するP34U/Tには,所得税法13条1項ただし書が
適用されるべきである。
イ損益通算について
仮に,P22ローンに係る利息相当額につき原告P3ないし原告P2に
対して直接課税され得るとしても,原処分庁は,各法主体の全投資活動に
よる損益を各期末に通算し,原告P3及び原告P2の保有割合に応じて按
分した金額の限度で課税し得るにすぎない。
(5)α不動産等の賃貸を営業目的とする匿名組合契約に基づきP23社がP2
4社に対して支払った利益の分配金額は,原告P4の平成13年分及び平成
14年分の不動産所得に当たるか否か。
(被告の主張)
ア(ア)匿名組合契約の営業者P23社は,P5社との合併により消滅するP
20が保有するα不動産等を引き受け,すべて原告P4の意向に沿って
資金の受渡しだけを行うための存在であり,匿名組合契約の組合員であ
るP24社も,本件匿名組合に出資することのみを目的に存在している。
(イ)EB債1取引に関わる導管体的組織群は,原告P4及び原告P5社
の意向を受けて,EB債1の中途買入消却に応じて完全に協調して資金
の受渡しを行っている上,その資金がP24社を経由して,匿名組合の
出資金としてP23社に提供されている。
(ウ)P24社は,本件匿名組合の出資金を調達するために社債を発行し
たが,社債引受人の情報の問い合わせや社債発行に係る弁護士費用の請
求が,原告P4の支配するP6になされている。
(エ)本件匿名組合取引に係るスキームや,P23社が取得する以前に行
われていたα不動産等に係る各取引は,すべて原告P4やP4の支配す
る原告P5社又はP6によって組成されている。
イこれらの事実によれば,匿名組合に対する真の出資者は原告P4であり,
これを隠ぺいするために外国法人等を介在させ,迂遠で複雑な取引を作出
し,外観上,外国法人に対する匿名組合分配金であるかのように仮装した
ものである。したがって,匿名組合契約により,P23社からP24社に
支払われた分配金は,支払われた時点で,原告P4の不動産所得となる。
(原告らの主張)
ア所得の帰属について
匿名組合契約は,適法かつ適切に当事者の意思に従って行われたもので
あり,法的にも経済的にも名義人である法主体に帰属するから,何ら法的
根拠を明示することなく同契約の法形式を否認することは許されない。被
告が論じる同契約の不当性は,いずれもP24SPC,P24社の法人格
を否認する法的根拠にはならず,P23社から支払われた金銭が原告P4
の所得となることはない。
投資信託に該当するP15U/Tには,所得税法13条1項ただし書が
適用されるべきである。
イ損益通算について
仮に,匿名組合契約に係る収益につき原告P4に対して直接課税され得
るとしても,原処分庁は,各法主体の全投資活動による損益を各期末に通
算した金額の限度で課税し得るにすぎない。
(6)原告P4が原告P5社に対して償還日直前にP25ファンドを売却して得
た売却代金のうち,償還を受けたとしたならば徴収されたであろう源泉徴収
税額相当額は,原告P4の平成12年分の給与所得に当たるとともに,原告
P5社に源泉徴収義務が生じるか否か。
(被告の主張)
原告P5社は,本件取引を原告P4の利得のために行うべき合理的な理由
がなく,原告P4が負担すべきであった租税相当額の肩代わりをし,原告P
5社の役員である原告P4に対して利益供与を行った取引というべきもので
あり,そもそも,同族会社以外の第三者が同取引のような経済合理性のない
取引を行うこと自体あり得ないものである。
したがって,所得税及び地方税相当額である430万6568円は,原告
P5社から原告P4への利益供与にほかならないことから,当該金額につい
ては「役員賞与」であって,原告P4の給与所得に該当する。
(原告らの主張)
原処分はP25ファンド取引について,法人税法132条ないし所得税法
157条を適用して,原告P5社ないし原告P4の行為・計算を否認したが,
両条はいずれも憲法14条1項に反し無効であるから,両条に基づく原処分
もまた無効である。
P25ファンド取引は,当時広く行われていた適法な節税行為であり,同
取引を否認することはできない。
P25ファンド取引を否認すべき場合であっても,原告P5社が被った損
失は161万7861円であるから,原告P5社・原告P4間の売買価格3
151万9735円から上記損失額を差し引けば,原告P5社が損失を受け
ることはなくなり経済合理性が認められるから,P25ファンドの売買価格
を2990万1874円に更正すれば足り,同取引全体を否認する必要はな
い。
(7)原告P5社が負担した原告P2の結婚式及び結婚披露宴関連費用が,役員
である原告P2に対する給与等の支払に該当し,原告P5社の源泉徴収義務
が生じるか否か。
(被告の主張)
結婚式や結婚式披露宴は,社会通念上,あくまでも私的行事にすぎず,企
画・運営が著名人によってされ,事業に関連する者が多数含まれていたとし
ても,その効果は間接的であり,交際費には当たらない。通常行われる結婚
披露パーティーは,結婚する個人が祝福してもらうこと,当該個人の関連者
に結婚の事実を披露することを目的とするものであるから,本来その個人が
私的に負担すべきものである。
したがって,原告P2の結婚披露宴費用としてP5社が支出した費用を交
際費とみることはできないのであり,原告P2に対する役員賞与に該当する。
(原告らの主張)
交際費はそもそも事業遂行に対する間接的な効果を企図して支出されるも
のであるから,被告の「私的行事論」は結婚式及び結婚披露宴関連費用が交
際費に該当しないという理由にはならない。法人税法上,社葬費用の損金算
入が認められており,同じく冠婚葬祭である上記費用を交際費として認めな
い合理的理由はない。
原告P2の結婚披露パーティーは,出席者のうち約78パーセントが原告
P5社の取引関係者であること,私的費用と考えられる部分についてはすべ
て個人負担としていること,原告P5社は営業実態のある法人であり接待交
際費がゼロであることはあり得ないことから,同費用は措置法61条の4第
3項に基づき原告P5社の交際費に該当する。
(8)各重加算税賦課決定処分が適法であるか否か。
(被告の主張)
アP4家族それぞれに対する重加算税賦課決定処分について
EB債1取引,EB債2取引,匿名組合取引及びP22ローン取引に係
る所得については,いずれも導管体的組織群の作成とそれらを通じて各取
引を実行して真実の所得の調査解明に困難が伴う状況を作り出すという,
まさに外部からもうかがい得る特段の行動をした上で,本来P4家族に帰
属する所得を意図的に申告しなかったものである。したがって,これらの
所得に係る部分について重加算税の賦課要件をみたすことは明らかであり,
その賦課決定処分は適法である。
仮にすべての仕組みが原告P4の意向により決められていたとしても,
原告P2,同P1及び同P3のいずれもが原告P5社の役員であり,EB
債1及びEB債2のような多額の社債の発行や原告P5社とP20との合
併等の重要事項については当然知っていた上,EB債1取引に介在した外
国のパートナーシップの設立に関与した事実もみられるにもかかわらず,
自らの確定申告に関して特に過少申告の防止をすることもなく,そのまま
過少申告をし,あるいは申告をしていないことからすれば,原告P4が行
った行為はすなわち原告P2,原告P1,原告P3それぞれの隠ぺい仮装
行為と評価できるのであって,賦課決定処分が適法であることは明らかで
ある。
イ原告P5社に対する重加算税賦課決定処分について
原告P5社は,EB債1の発行において,海外の第三者に対して発行し
たかのごとく装い,EB債1に係る社債利息を海外の第三者に対し支出し
たかのように仮装し,P4家族に対して支給した給与等について源泉徴収
義務があるにもかかわらず納付を免れている。
P22ローンは,P314兄弟からの借入れと,原告P3及び同P2
への利益供与の手段であるにもかかわらず,P20及び原告P5社は,両
社の支配者である原告P4の指示の下,P314兄弟並びに原告P3及
び同P2とP20の間に,外国法人及びユニット・トラストなどを複雑に
介在させ,P22ローンが第三者の外国法人であるP22からの真正な資
金借入れであるかのように仮装して,本件P22ローンに係る利息を全額
支払利息として損金の額に計上している。
これらはいずれも,通則法68条3項に規定する「事実の全部又は一部
を仮装し,又は隠ぺいし,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づきそ
の国税を法定納期限までに納付しなかったとき」に該当し,重加算税の賦
課決定は適法である。
(原告らの主張)
アEB債1取引,EB債2取引,匿名組合取引及びP22ローンについて,
租税実体法上の根拠なくして,名義人である法主体が受領した金員がP4
家族に帰属することを前提に,重加算税賦課決定処分をしたことは,憲法
84条及び30条に反し違憲である。
イ原告P5社,P4家族は,EB債1取引,EB債2取引,匿名組合取引
について,現実の資金の動きに合致した経理処理を行っており,その原因
行為たる契約内容等についてもすべて帳簿上明らかにしているから,仮装
・隠ぺい行為は認められない。
ウEB債1及びEB債2の利息相当額,匿名組合取引に基づく金員は,未
だP4家族に帰属していないから,P4家族には,過少申告の故意が認め
られない。P314兄弟のうちP35が,P36U/Tの受益権を原告
P5社に売却して得た売却益について確定申告していることは,原告P5
社及びP4家族の納税意思を明確に裏付けている。
エEB債1の支払利息の一部のみに仮装隠ぺいないし過少申告の故意を認
める原処分の認定は極めて不自然であり事実に反する。
(9)渋谷税務署長がP4家族に対して行った平成15年3月24日付け各更正
処分は,所得税法234条1項に反する違法な事後的税務調査に基づくもの
として違法であるか。
(原告らの主張)
ア渋谷税務署長は,平成15年3月24日当時には,処分額を計算する上
で必要不可欠な税務調査を行っておらず,同月25日以後に行われた所得
税法234条1項に反する違法な税務調査により処分額を計算する上で必
要な事実関係を調査した上,通則法27条に違反して更正処分を行った。
イ通則法27条及び所得税法234条1項の定める手続は,憲法31条に
基づく適正手続として憲法上保障されており,これに違反してなされた更
正処分は違法である。
(被告の主張)
ア各更正処分後である平成15年4月22日に,調査担当官であったP3
7専門官がP8銀行に対して質問書を交付した理由は,各更正処分以前に
提出を依頼していた関係書類の一部が,同グループから提出されなかった
ことによるものであり,各更正処分の時点で既に把握していた事実関係を
より明らかにする直接的な資料や回答を求めているにすぎない。各更正処
分前に明らかになった事実と,原告らの関係者が渋谷税務署長の調査に対
して故意に虚偽の事実を告げて非協力的な態度をとっていることを総合的
に判断すれば,EB債1取引の真の法的合意は,原告P5社からP4家族
に対する利益移転であると認定できた。
イ通則法27条の「調査」とは,課税標準等又は税額等を認定するに至る
一連の判断過程の一切を意味し,課税庁が税務官署内において,既に収集
した資料を検討して正当な課税標準を認定することも「調査」に含まれ,
一定の調査の結果から合理的に推認できる範囲で事実認定をして処分をす
ること自体が禁止されているわけではない。渋谷税務署長が各更正処分の
前に資料収集を行い,原告らに対し事情聴取等の「調査」をした上で更正
処分を行っていることは明らかであるから,渋谷税務署長が行った各更正
処分は,通則法27条に違反しない。
ウ原告らが所得税法234条1項違反であると主張する調査は,各更正処
分後の調査を指しているから,仮に,各更正処分後に行われた調査に何ら
かの違法性が認められたとしても,それをもって,それ以前に行われた各
更正処分が違法とはならない。
第3争点に対する判断
1争点(1)(本件各追加処分(P5社)の取消請求の適法性)について
本件各追加処分(P5社)は,本件各当初処分(P5社)に対し原告P5社
が審査請求をしていたところ,原告P2に対する給与等の一部については非居
住者として所得税法213条の規定により計算した税額を源泉徴収すべきであ
ったにもかかわらず,同法185条の規定により計算した源泉所得税額を算定
していたため,原処分庁において,本件各当初処分(P5社)に対する審査請
求がなされた後,その一部を減額訂正したのと同日に,減額訂正に係る給与等
について改めて非居住者に支払われたものとしての源泉徴収税等を徴収すべき
であった旨の処分をしたものであるから,その内容は本件各追加処分(P5
社)と実質的に同一であるといえる。そして,本訴においても,原告P5社の
本件各当初処分(P5社)及び本件各追加処分(P5社)に対する不服の理由
は共通しているところ,東京国税不服審判所長も,国税通則法104条2項の
規定により,本件各当初処分(P5社)に本件各追加処分(P5社)をあわせ
て審理した上,原告P5社の審査請求をいずれも棄却しているのであって(前
記第2の2(9)),本件各追加処分(P5社)について改めて不服申立てをし
ても,異なる判断がされたとは考え難い。
そうすると,本件においては,本件各当初処分(P5社)に対する不服申立
手続によって,本件各追加処分(P5社)についても,実質上審理判断がされ
ており,再度,本件各追加処分(P5社)について不服申立てを行っても,異
なる判断がされることは,処分行政庁の合理的な判断としては考え難いのであ
るから,このような場合には,本件各追加処分(P5社)につき不服申立てを
経ないで訴訟を提起したことには,国税通則法115条1項3号にいう「正当
な理由」があるというべきである。
したがって,本件各追加処分(P5社)の取消請求が不服申立手続を経てい
ないとの理由で不適法であるとはいえない。
2争点(2)(EB債1取引)について
(1)認定事実
(特に限定のない限り,前記争いのない事実等に各末尾記載の証拠と弁論の
全趣旨によって認められる事実を記載した。以下同じ。)
アまず,EB債1に関する資金の流れについては,前記争いのない事実等
(第2の2(2))記載のとおり,別紙1の1ないし3のとおりであった
と認められる。
イEB債1の発行目的について
(ア)前記第2の1(1)のとおり,原告P5社の保有するP6株式は多額の
含み益を有しており,同株式の値上がりに伴い含み益が更に増大する可
能性を有し,将来売却した場合には膨大な売却益を発生させることが予
想されていたところ,原告P4は,平成7年3月ころ,原告P5社が所
有するP6株式の譲渡時に生じる多額のキャピタル・ゲインに対する課
税について懸念するとともに,原告P4が保有する原告P5社の株式の
譲渡益に対する課税を軽減する具体的方策を検討し,P9P38に対し
問い合わせをし,可能なスキームについてアドバイスを受けていた。
(乙78)
(イ)P9は,平成9年12月24日,原告P5社に対し,普通社債,E
B債,デュアル・カレンシー債の3種のドル建て債券の発行概要を提案
し,EB債の特徴として,基準価格が発行時の株価と同額の場合に,利
息が年利20.5パーセントと,利息が高く設定できることを挙げた。
そして,原告P5社は,具体的な資金運用目的がなかったにもかかわら
ず,50億円相当のEB債を発行する旨の回答をし,調達した資金の運
用方法の提案を求めた。また,原告P5社は,原告P5社が支払うこと
になる利息が,外部流出することを避け,原告P4ないし原告P5社の
下に置くための手法として「吸引装置」の設置も予定していた。(乙8
1,82)
(ウ)P9は,原告P5社が年利20パーセントを超える利率で調達した
資金の運用方法として,逆ざやが生じることが明らかな,わずか年数パ
ーセントの利率のSPCのノート(中期債)による運用を提案した。し
かし,P39会計士は,原告P4と打ち合わせをした上,P9に対し,
平成10年1月7日,20パーセントの社債で調達した資金を,数パー
セントの利率のノートにより運用するのは変だと思う旨の意見を述べ,
SPCのエクイティファイナンス(新株発行を伴う資金調達)を利用す
ることを再提案した。すなわち,この時点では,P5社の発行するEB
債によって調達する資金の運用目的は,未だ定まっていなかった。また,
P39会計士は,原告P5社に損失が生じること自体を問題とするので
はなく,むしろ,不自然な取引であることが明らかになることを問題視
していた。(乙84)
(エ)その後,EB債1の発行まで1か月を切った発行直前の段階でも,
原告P5社が調達した資金の全部又は一部を,海外で設立されたSPC
のノートの購入に充てる程度以上に,明確かつ具体的な使途が決まって
いなかった。また,P9は,EB債の支払利率をできるだけ引き上げる
べく検討し,また,原告P5社に対しても,発行条件によっては利率の
引下げ要因となることに注意喚起をした。(乙83,89,98ないし
105)
(オ)原告P4ないし原告P5社は,平成10年7月当時,P6株式を新
たに海外に設立するSPCに移転・売却することを計画し,売却する株
式の数については,売却益に対して法人税が課せられないようにするた
めに,蓄積しておく損金と売却益が同額となるようにすることを検討す
ると共に,欠損金を増加させるための更なる方策を検討していた。(乙
79)
(カ)以上の事実によれば,原告P5社は,P9のアドバイスを受けて,
具体的な資金の使途がないにもかかわらず,あえて金利負担の大きいE
B債1を発行することにより,多額の支払利息による欠損金を発生・蓄
積させておき,将来,原告P5社が保有するP6の株式を売却する場合
のキャピタルゲインに対する課税を免れようと企図したことが認められ
る。
ウEB債1の名義上の購入者とされるLPS,U/T,SPCについて
(ア)原告P4は,原告P5社が発行する債券の種類その他の条件が決定
しておらず,したがって未だ引受の条件が定まっていない平成9年12
月16日の時点で,P39会計士を通じてP9に対し,「既に引受人が
決まっているのだから」などと述べ,条件未定の債券について既に引受
人が定まっていることを当然の前提としてやりとりをしていた。(乙8
0ないし82)
(イ)P39会計士,P9P40及びP6関係者らは,平成10年1月こ
ろ,市場価格での買入消却及び額面での償還条項があれば株に転換しな
くても不自然ではない旨の協議をし,既に,この時点で,他社株償還特
約が付されていても実際にはそれを行使せず,期限前に現金により償還
することを当然の前提とし,それを合理化できる方法について検討して
いた。(乙83)
(ウ)原告P5社は,任意繰上償還条項の適用を受ける平成13年2月2
7日より1年以上前の平成11年11月24日ころには,計算代理人で
あるP9を介することなく,EB債1の名義上の購入者であるP10L
PS,P11U/T及びP12と買戻しについて合意し,また,同年1
2月14日ころ,買戻代金を支払代理人であるP8銀行を通すことなく,
P10LPS,P11U/T及びP12の口座に直接入金することを要
請した。そして,原告P5社は,平成12年5月から9月までの間に,
実際に,中途償還を実施した。(乙134ないし136)
(エ)以上のように,原告P4は,EB債1の発行条件が決定される前に
既にEB債1の購入者を決定しており,その購入者であるP10LPS,
P11U/T及びP12は,債券の発行条件を知ることなしに出資を決
定しているのであり,原告P5社は,EB債1の発行前から中途償還を
予定し,任意繰上償還条項が適用される時期の1年以上前からその実施
を受け入れ,実際に平成12年5月から9月までの間に中途償還をして
いるのであって,P10LPS,P11U/T及びP12は,原告P5
社の意向に従って投資態度を決定していたことが認められる。
エEB債1取引に関与したLPS,U/T,SPCについて
(ア)P10,P29及びP41について
P10,P29及びP41は,いずれも実質,原告P4によって設立
され,同人が支配している会社であり,設立・維持費用はすべて原告P
5社が負担していた。(乙6,93ないし96,98ないし113,弁
論の全趣旨)
(イ)P14U/T,P15U/T,P11U/T及びP30LPSにつ
いて
P14U/T,P15U/T,P11U/Tは,いずれもP4家族が
支配しており,それらを運営する受託者は,その活動に関して判断権限
を有していなかった。(乙57の1ないし6,乙86,87,94,9
5,98ないし106,119,122ないし124,147,弁論の
全趣旨)
P30LPSは,P4家族のみがリミテッド・パートナーであり,P
4家族の資金をP11U/Tに流すことを目的とする会社であった。
(乙57の1ないし6)
(ウ)P42について
aP39会計士は,平成10年2月3日,原告P4と打ち合わせた上,
P9P38に対し,P10とのパートナーシップ契約でリミテッド・
パートナーとなる海外法人(すなわちP42)を,原告P5社が用意
する旨伝えた。(乙87)
P9P38は,同月13日,原告P4に対し,P10の設立費用,
パートナーシップ契約に係る費用等をP42が負担するよう設定して
おく旨を連絡した。(乙94)
P9P38が平成10年2月5日付けで作成したEB債1のスキー
ム図には,P42のオーナーが「日本人であるMr.X」である旨の
記載があり(乙98),同様にP9P38が作成した同種資料(乙1
03ないし105)から,「Mr.X」は原告P4を意味するものと
認められる。
P43のP44は,平成10年1月16日,P9P38に対し,P
42の経済的利益を享受する「Mr.X」について,ジャージー島当
局が情報提供を求めるだろうと連絡し,P9P38からこのことを伝
えられた原告P4は,同月29日ころ,情報提供のための書面を作成
してP44に送った。(乙107,108,115,116)
P42は,P10LPSのリミテッドパートナーとして,EB債1
の買戻しを含め,EB債1取引による利益を吸収する役割を果たして
おり,原告P4が,このような仕組みで行うことについて最終決定し
た。(乙96,117ないし120)
原告P4は,外観上,原告P4がP10LPSと切り離された形と
なることを望んでおり,また,そのための検討がされた。(乙83,
117,119)
そして,前掲争いのない事実等記載のとおり,P10が原告P5社
から受け取った利息のうちP29に米国債品借料を支払った残額をP
42に支払っている。
b以上の事実によれば,P42は,原告P4に実質的に支配されてお
り,EB債1の利息が原告P5社からP10に支払われるという外形
を維持しながら,P10LPSを通じてその利息を吸収し,それを原
告P4に還元させるために,原告P4によって形式上組み込まれたも
のであると認められる(なお,P9P38の陳述書(甲97)には,
乙98のスキーム図においてP42の株主として記載されたMr.X
が原告P4であるか不明であるとの記載があるが,同人が原告P4の
ジャージー島当局への情報提供に関わっていることその他前記各認定
事実に照らして,上記記載内容は信用できない。)。
cこの点について,原告らは,P42は,EB債1取引の全期間中,
原告P4と無関係のジャージー籍の信託会社の子会社であるP45が
株主となっており,P4家族はP42の株主ではない旨を主張してい
る。しかしながら,原告らの主張によれば,P45は,P46の経営
するP47の企業であるところ,証拠(乙220,284)によれば,
P47は,国際的投資家のサポート業務をしており,P4家族の国際
的な投資をサポートするために,同グループの一員であるP45をP
42の株主としていたことが推認される上,同グループに属すると推
認されるP48が,P15U/T及びP11U/Tの受託者となって
いる(乙124,147,234)など,同グループがEB債1取引
全体に関与していることからするならば,P42の株主がP45であ
ることは,むしろP42が,原告P4のために利息を吸収する役割を
果たしていたことを裏付けるものとさえいえるのであって,この点に
ついての原告らの主張は採用できない。
(エ)P12について
P12は,登録機関等で実体を確認できないペーパーカンパニーであ
り,平成10年2月23日に,原告P4がP9P38にP12の名称・
所在等の詳細を教えたのを受けて,P9P38の作成したEB債1発行
スキーム図に,1000万米ドル分のEB債1を購入する名称不明の投
資家として加えられた。EB債1の利払当時,原告P5社が米ドル以外
での支払を希望していたところ,P12も,原告P5社が希望するのと
同じ通貨で受け取ることを要請していた。(乙75,77,101,1
02,104,110の2)
このほか,P12は,P10,P11U/T同様,EB債1の発行,
償還時に,すべて原告P5社の意向に従って投資態度を決定していたこ
とを合わせて考えるならば,P12も原告P5社又はP4家族が実質的
に支配していたものであると推認することができる。
なお,P12の取締役とされるP49はP4家族が同社の受益権を保
有していなかった旨を回答し(甲31の2),また,P12の年次報告
書(甲99の1ないし4)には,同社の株主はP50とP51である旨
の記載があるが,この両社の住所は,いずれもP12の住所と同じであ
り,この住所はまた同社の副秘書役P52の住所及び年次報告書の提出
者P53の住所とも同一であること,P53はタックスプランニング等
を行うP54の関係会社であり,同社の住所は,P50とP51と同じ
建物の1階下であること,P12の役員であるP49及びP55は,P
54の役員でもあり,会計士であること(以上につき甲99の1ないし
4,乙285)に鑑みると,P12ないしその株主とされるP50とP
51は,いずれも投資家のタックスプランニングのために利用されたも
のであることがうかがわれるのであって,上記各証拠によって,P12
が原告P5社又はP4家族により実質的に支配されている旨の推認を覆
すに足りるものではない。
(オ)以上の各組織の実体のほか,これらの組織が,平成12年5月ない
し9月に行われたEB債1の中途買入償還ないしそれに伴う資金の移動
に際して協調した行動をとっており,別紙1の3記載のとおり,P10
LPS,P29,P14U/T,P15U/Tを経由した資金は,EB
債2取引や匿名組合取引にも巡回して流れていることから,いずれも原
告P4の意向に基づきP4家族の資金の受渡しを行った形式的な存在に
すぎないものと推認することができる。
オEB債1とP4家族について
(ア)P9は,EB債1の発行条件を検討していたが,平成10年1月1
9日時点で,投資家が1人であり,転売もされないことが予定されてい
た。(乙89)
(イ)P39会計士は,同年2月2日,その時点における債券引受可能額
をP9に連絡しており,また,同年2月18日時点において,EB債1
のうち1回目発行分は,全額,原告P4の資金が充てられ,2回目発行
分のうち2400万ドル分は,原告P4及び原告P1の資金が充てられ
ることとなっており,このことは原告P4,P39会計士,P9の共通
の認識であった。(乙86,96)
(ウ)P9P38は,EB債1の発行条件を最終的に確定する同月中旬こ
ろには,原告P4にたびたびファックスを送付し,EB債1取引に介在
するSPCの設立・管理費用や,SPCとの取引の内容等について報告
したり,EB債1の名義上の購入者の連絡先を問い合わせたり,投資家
の確定を求めるなどしており,最終的に,原告P4が直接,意思決定を
した上で,EB債1が発行された。(乙93ないし97)
(エ)以上の事実が認められるところ,前記アないしウで認定した各事実
に,エの(ア)ないし(エ)の事実を合わせて考えれば,EB債1に対する
真の購入者はP4家族であったと推認することができ,これを覆すに足
りる証拠はない。
(2)所得の帰属について
以上の事実によれば,EB債1取引は,原告P5社が具体的な使途がない
のにP4家族から資金調達をして欠損金を発生・蓄積させて,P6株式の売
却益への課税を免れるべく行われたものであり,これに伴って生じるP4家
族の利益を隠ぺいするため,原告P4が実質支配する海外のSPC,リミテ
ッドパートナーシップ,ユニットトラスト等を複雑に組み合わせた海外投資
スキームを作出・実行して,原告P5社がP4家族とは無関係の独立した購
入者に利息を支払ったかのような外形を整えたものであると認められる。そ
して,原告P5社が,多額の含み益を抱える一方,原告P4が原告P5社を
実質支配しており,P4家族と原告P5社が実質的に同一の経済主体であっ
て,いかなる内容の中途償還でも合意することができることから,利率を嵩
上げするために,ことさらEB債の形式を利用したものであり,実質的には
P4家族らの原告P5社に対する融資にほかならないというべきである。
そして,以上のEB債1取引の実体に照らせば,EB債1のうちP4家族
の資金により取得されたことが明らかな,P10LPS,P11U/Tが名
義上の購入者となったものについては,原告P5社から原告P4が実質支配
する名義上の投資家に利息が支払われたときに,P4家族の所得として帰属
したというべきであり,その収益は,所得税法12条により,これを享受す
るP4家族に帰属するとして所得税法が適用されると解すべきである。
これに対し原告らは,EB債1の名義上の投資家であるP10LPS等の
法人格は否認されない旨を主張するが,上記のとおり,EB債1取引は,P
4家族がこれらの名義を借用したものであって,所得税法は,法律上収益が
帰属するとみられる者が単なる名義人であってその収益を享受せず,他の者
が収益を享受する場合には,その収益は,これを享受する者に帰属するとし
て所得税法を適用するとしているのであるから(所得税法12条),EB債
1の名義上の投資家の法人格を否認すべきか否かはそもそも問題とならない。
また,原告らは,名義上の投資家の預金口座に入金された金員がP4家族
の所得として帰属することはないと主張するが,前記認定事実によるならば,
P4家族は,名義上の購入者の預金口座をも含めて,これらの名義を借用し
たものと認められるから,EB債1の利息が同口座に入金されることにより
P4家族の所得として帰属するというべきであり,原告らの同主張も理由が
ない。
このほか原告らは,投資信託に関する所得税法13条1項ただし書の適用
を主張するが,本件で問題となっているのはP4家族がEB債1を真に購入
した主体であるか否かであって,所得税法13条1項ただし書の適用可能性
が問題となる余地はない。
(3)所得の区分及び適正利率について
アまた,上記のとおり,EB債1の真の投資家はP4家族であり,経済的
にみればEB債1取引の実体が,P4家族の原告P5社に対する融資と,
これに対する原告P5社の利息の支払であって,ことさら金利を嵩上げす
るためにEB債の形式が用いられたことから,P4家族の所得のうち,取
引の実体に即した適正利率の範囲部分については利子所得となるものの,
これを超える部分については,原告P5社の役員としてのP4家族に対す
る利益供与として給与所得に該当することになる。
イそこで,EB債1取引における適正利率を検討すると,EB債1が米ド
ル建てで発行され,かつ償還期間が5年後であって,中途償還が予定され
ていたものの時期が確定していたとは認め難いことから,EB債1発行当
時の銀行間の5年間のドル資金の貸出実勢レートである米ドル建て5年も
のスワップレート6.005パーセント(平成10年2月27日発行分)
及び6.095パーセント(同年3月6日発行分)(乙151)を基礎と
するのが相当である。
そして,原告P5社が平成10年1月29日から同年2月27日までの
間に,P27P28支店から原告P5社の信託受益権1億円を担保として
5億円を借り入れた際のスプレッドが1.4パーセントであったこと(乙
152),一般に銀行が長期の貸出を行う際に用いられる新長期プライム
レートの計算において貸出期間が3年超の場合に,新短期プライムレート
に0.5パーセントを上乗せするスプレッドが0.5パーセントであるこ
と(乙153,154),EB債1は劣後債であるものの,原告P5社が
多額の含み益を抱えており,取引当事者が実質的には同一の経済主体であ
ることなども勘案すると,前記の米ドル建て5年ものスワップレートを基
礎として,スプレッドとして1.9パーセントを上乗せした,7.905
パーセント(平成10年2月27日発行分)及び7.995パーセント
(同年3月6日発行分)が適正金利であると考えるべきである。
ウこれに対し,原告らは,他のEB債発行事例で18ないし50パーセン
トの金利が付されていること,EB債1の金利はP8銀行が信用をかけて
算定したものであること等によればEB債1の金利21.25パーセント
が適正利率である旨縷々主張しているが,これらはいずれも,EB債1取
引の実体が,経済的にはP4家族の原告P5社に対する融資と,これに対
する原告P5社の利息の支払であることを考慮しないものであって,理由
がない。
エ以上のとおり,EB債1取引における適正利率は7.905パーセント
(平成10年2月27日発行分)又は7.995パーセント(同年3月6
日発行分)であって,この適正利率部分はP4家族の利子所得であり,こ
れを超える部分は役員報酬として給与所得となると解すべきである。同様
に,適正利率超過部分は,原告P5社による給与等の支払金額となり,所
得税法183条により(非居住者期間の原告P2に対する部分は同法21
2条及び213条により),原告P5社に源泉徴収義務が生じる。
(4)損益通算の要否について
原告らはこのほかならな,P4家族に帰属する所得は,EB債1取引に介
在する各法主体の全投資活動による損益を各期末に通算したものを基礎とし
て計算した金額が上限であると主張するが,EB債1取引の実体は前記のと
おり,EB債1取引に介在したSPC等がP4家族に名義貸しをしたもので
あって,これらのSPC等がEB債1取引以外の投資活動をしていたとして
も,それは本件におけるEB債1取引による収益の帰属とは無関係であると
いうべきであるから,損益通算をすべき理由はない。したがって,原告らの
損益通算に関する主張は理由がない。
(5)小括
以上より,争点(2)に係る被告の主張は理由がある。
3争点(3)(EB債2取引)について
(1)認定事実
アまず,EB債2に関する資金の流れについては,前記争いのない事実等
(第2の2(3))記載のとおり,別紙1の3のとおりであったと認められ
る。
イそして,EB債2の名義上の購入者は,P14U/T及びP16であっ
たが,P14U/Tは,前記のとおりP4家族の支配下にあって独自の判
断権限を有していないものであり,P16は,P15U/Tが全額出資し
た会社であるところ(乙157),前記のとおりP15U/Tは,P14
U/Tと同様に,P4家族の支配下にあるから,P16もまた,P4家族
の支配下にあって,独自の判断権限を有していないものであった。そして,
P14U/T及びP16がEB債2を取得した際の資金は,原告P5社か
らEB債1償還資金としてP10LPS,P29,P14U/T又はP1
5U/T,P16と順次移転したものであるところ(別紙1の3記載のP
14ルート,P15U/Tルート1),P10,P29もまた,前記のと
おり,いずれもP4家族に支配されているものである。
さらに,EB債1の真実の購入者は前記のとおり原告P4,同P1を含
むP4家族であり,P14U/T,P15U/Tの受益者は原告P4及び
同P1とされているから,EB債2の購入資金は実質的には原告P4及び
同P1に由来するというべきである。
ウEB債2の発行に関しては,EB債1の発行の場合と同様,まだ発行条
件が定まっていない発行準備の段階から,既に投資家が決定していた。
(乙169の1及び2)
エそうすると,EB債2取引は,EB債1取引と同様,真実の購入者はP
14U/T及びP15U/Tの受益者とされている原告P4及び原告P1
であり,P14U/T,P16はいずれも名義を貸しただけのものと認め
られる。
(2)所得の帰属について
以上のEB債2取引の実体に照らすと,EB債1取引と同様,所得税法1
2条により,原告P5社から原告P4が実質支配する名義上の投資家に利息
が支払われたときに,原告P4及び原告P1の所得として帰属し,社債の利
子として利子所得に当たると認められる。
(3)損益通算の要否について
そして,EB債2取引についても,EB債1取引と同様の理由で,原告ら
の主張は理由がない。
(4)小括
したがって,争点(3)に係る被告の主張は理由がある。
4争点(4)(P22ローン)について
(1)認定事実
アまず,P22ローンに関する資金の流れについては,前記争いのない事
実等(第2の2(5))記載のとおり,別紙1の5のとおりであったと認め
られる。
イそして,平成11年11月当時,P20(当時の商号はP21)の代表
取締役はP56であり,株主はP57であった。P56は,原告P4が株
主である株式会社P58の代表取締役であり,平成12年6月に原告P5
社が株主となって設立された株式会社P59の代表取締役でもあった。P
57は,P39会計士が代表取締役を,P6P60,原告P3,同P2が
取締役をしており,また,P57の株主であるP61は,原告P3及び同
P2により意思決定がされている会社であった。P39会計士及びP6P
60は,原告P5社のEB債1取引にも深く関与していた。(乙136,
176,177)
ウP20は,債務超過の状態にあったにもかかわらず,平成11年11月
2日,原告P5社からα不動産等を代金20億円余りで購入し,平成12
年1月28日に締結したP22ローンを通じて調達した資金で,契約から
約3か月経過した同年2月3日に代金を決済したものの,P20がP22
ローンによって支払う利息が年2億7500万円(借入金額25億円,年
11パーセント)であるのに対し,P20がP6から得ていた賃料は月額
1000万円,年間1億2000万円であり,年々多額の損失が発生する
ことが見込まれていた。(乙181,184の1及び2,前記第2の2
(4))
エ原告P4は,平成11年ころ,P314兄弟から,P6株式売却代金
25億円を,国債の利回りを上回る程度の固定金利で運用するための方法
につき相談を受けていた。(乙215)
オ原告P4,P39会計士及びP6関係者は,遅くとも平成11年11月
25日までに,別紙1の5記載のような海外のSPCを介した融資スキー
ムであるP22ローン・スキームの原型を考案し,P9P38(当時はP
62勤務)の紹介により,P63社の代表取締役P64に同スキームに係
る業務を依頼した。P20側の担当者はP6P60であった。上記海外S
PCは,P22及びP32として,P63社が委託したP65により設立
・維持管理されたが,両社はいわゆるペーパーカンパニーであり,その設
立・維持管理費用はP63社が負担していた。P64は,P22日本支店
の代表者に就任した。(乙195ないし197)
カ原告P4は,P314兄弟をP22ローンの資金提供者とすることと
したが,P22ローンによって,P5社が支払うこととして予定されてい
た金利11パーセントについては,これをそのままP314兄弟に支払
うのは多すぎると判断し,P314兄弟に3.2パーセントを支払い,
残りの大部分を子である原告P3及び同P2に各2分の1ずつ取得させる
ことにし,これを実行するため,原告P4は,P314兄弟がP36U
/Tに投資すること,また,原告P3及び同P2がP34U/Tに投資し,
P34U/Tが株主となってP33を設立すること等を指示し,それらの
事務をP66に依頼した。(乙215,216)
キP64は,P22ローンの利息の支払について,P20からP314
兄弟が投資しているP36U/Tに至る資金の受渡しの全過程にわたり指
示を出した。(乙217)
クP32は,P33に対して優先株を発行し,平成13年2月に出資1万
米ドルがP32に支払われているが,この一連の手続は,P6P60から
の依頼により,P64が,P65を通じて手配した。(乙197)
ケなお,原告P5社は,平成13年3月30日にP20を吸収合併し(乙
176),同年8月7日にP314兄弟からP36U/T受益権の譲渡
を受けたことから,原告P5社が支払ったP22ローンの利息の一部は同
社が受益権を有するP36U/Tに環流され,残りの大部分は原告P3及
び同P2が受益権を有するP34U/Tに支払われる結果となった。
(2)検討
そもそも,前記のとおり,α不動産等は,原告P4が支配するP6が主導
して土地を取得して建物を建築し,その建物は同社のゲストハウスとして使
用されているところ(前記第2の2(4)),上記認定のとおり,P20の代
表取締役及び株主は,いずれも原告P4と関係の深い者が占めており,P2
0は,原告P4が支配する原告P5社及びP6との間で,経済的合理性のな
いα不動産等の購入及び賃貸に係る取引を行っていることから,P20もま
た,原告P4が実質的に支配していたものと推認される。そして,原告P4
は,原告P4及びその関係者が考案した原型をもとに,P314兄弟の資
金を,P20のα不動産等購入資金に充て,P20が支払う利息のうち年3.
2パーセント分をP314兄弟に支払い,残りの大部分(年7.58パー
セント分)を原告P3及び同P2に取得させるという,P22ローン・スキ
ーム全体を最終決定し,これに基づいて,P22,P32,P36U/T,
P33及びP34U/Tを組織して,その後の資金の流れも原告P4が統括
し管理していたものと認められる。
そして,P33が,P32に対し1万米ドルを出資しただけで,年間約1
億8900万円もの配当を受けていることになっている(前記第2の2(5),
別紙1の5)ことなど,経済的合理性に欠ける取引が連なっていることも合
わせて考えれば,P22ローンに係る取引の実体は,P314兄弟とP2
0との融資取引を,実体のない外国法人等を介在させることによって海外の
投資家とP20との間の融資契約であるかのように装い,P20が利息とし
て支払う年11パーセント相当額のうち年7.58パーセント分を,受け取
るべき合理的理由のない原告P3及び同P2に供与することを企図したもの
であったと認められ,P22,P32及びP33は原告P3及び同P2に名
義貸しをしたものにほかならならず,P34U/Tも委託者である原告P3
及び同P2からの独立性を有する存在ではないというべきである。
したがって,P20ないし原告P5社から支払われた年11パーセントの
利息相当額のうち年7.58パーセント分は,原告P3及び同P2に対する
利益供与であり,所得税法12条により,P20ないし原告P5社からP2
2に対して支出されたあるいは支出されるべき時点において,原告P3及び
同P2にそれぞれその50パーセントずつ帰属すると解するのが相当である。
そして,原告P3及び同P2がP20から供与を受けた年7.58パーセ
ントの利息相当額の利益は,同社から贈与により継続的に支払を受けたもの
として,雑所得に該当する。また,原告P5社がP20吸収合併後に支払っ
た年7.58パーセント相当額は,役員である原告P3及び同P2への給与
等の支払として,源泉徴収義務が生じる。
なお,原告らの損益通算の主張については,前記と同様に理由がない。
(3)小括
したがって,争点(4)に係る被告の主張は理由がある。
5争点(5)(匿名組合契約)にいて
(1)認定事実
アまず,匿名組合契約に関する資金の流れについては,前記争いのない事
実等(第2の2(6))記載のとおり,別紙1の3及び4のとおりであった
と認められる。
イそして,P23社は,平成13年3月にα不動産等の購入資金の調達を
目的として設立され,P39会計士が代表取締役であったが,実質的には
原告P4が支配・運営していた。α不動産等の購入契約の締結や購入金額
についてはもとより,資金調達の方法は,P24社との匿名組合契約によ
ることも,原告P4が決定した。P23社の収入は,α不動産等の賃貸収
入のみであり,通帳の保管・出納事務・α不動産等の管理・匿名組合の分
配金の送金は,すべてP6が行っていた。(乙171,189)
ウP24社は,原告P4がP66関係者に設立事務を依頼して設立された
海外法人であり,平成13年中に2000万米ドルの社債発行を行って資
金を調達しているが,その99パーセントに当たる1980万米ドルをP
23社との匿名組合に出資している一方,この匿名組合への出資のほか特
段の活動をしていない。(乙189,191)
P24社は,平成13年3月27日にP15U/Tに対して社債を発行
したが,発行に係る弁護士費用の300万円の請求をP6に対して行い,
また,P24社の社債の引受人が誰かについてP6に問い合わせをし,P
6の担当者が,引受人はP15U/Tである旨回答している(193,1
94)
エP23社とP24社との匿名組合契約の内容は,原告P4が決定した。
(乙189)
(2)検討
そもそも,前記争いのない事実等(第2の2(6)エ)記載の別紙1の3の
とおり,本件匿名組合の出資金は,EB債1の中途償還とEB債2の発行に
より,P5社から,P10LPS,P29,P14U/Tを介して原告P5
社に環流し(別紙1の3記載のP14ルート),また,原告P5社からP1
0LPS,P29,P15U/T,P16を経由して原告P5社に還流した
資金(別紙1の3記載のP15U/Tルート1)が,さらにEB債1の中途
償還により,P10LPS,P29,P15U/Tを経由したものであり
(別紙1の3記載のP15U/Tルート2),前記争いのない事実等(第2
の2(6)エ)記載の別紙1の4のとおり,P15U/TによるP24社の社
債引受,P24社からP23社への出資金の支払の後,P23社からα不動
産等の代金としてP20(合併後は原告P5社)に還流しており,P15U
/Tの受益者は原告P4である。そして,EB債1取引及びEB債2取引が,
原告P4らの原告P5社への実質的な融資を隠ぺいするものであったことは
前記のとおりであり,また,上記認定のとおり,匿名組合契約の内容は原告
P4が決定したものであること,その営業者であるP23社は原告P4が実
質的に支配していること,組合員であるP24社は匿名組合契約への出資の
みを目的として原告P4の指示により設立された海外法人であり,原告P4
の支配するP6が運営していることなどに照らすと,本件匿名組合の真の出
資者は原告P4であり,これを隠ぺいするためにP24社を設立してその名
義を借用したものと認められる。
したがって,所得税法12条により,P23社がP24社に利益を分配し
た時点で,その利益はすべてP4に帰属し,匿名組合の営業目的が不動産賃
貸業であることから不動産所得に該当することになる。
なお,原告らの損益通算の主張については,前記と同様に理由がない。
(3)小括
したがって,争点(5)に係る被告の主張は理由がある。
6争点(6)(P25ファンド取引)について
(1)前記争いのない事実等(第2の2(7))記載のとおり,原告P4は,P2
5ファンドの償還通知を受けた後,償還日のわずか2日前に,原告P5社に
対し,P25ファンドを,その前日(終値)の基準価格に基づいて算定した
価格で売却しているところ,そもそもP25ファンドは,償還時には,所得
税,地方税併せて償還差益の20パーセント相当額の源泉徴収がされるので
あるから,これの税金相当分を差し引かずに代金を定めることは通常考え難
く,原告P5社が,償還日までの2日間に大幅な利益を得ることをうかがわ
せる証拠もないから,原告P5社は,原告P4に支払った金額について,償
還日にすべてを回収するできないことは明らかな状態であった。
また,証拠(乙276)によれば,一般に,P25ファンドを証券会社に
譲渡した場合には,買取請求をした日における元本の超過額である利益部分
の20パーセントの金額については所得税及び地方税相当額として差し引か
れることが認められるのであるから,原告P4は,償還日の2日前に,これ
を差し引かない額でP5社に譲渡したことによって,この支払を免れたこと
になる。
そうすると,原告P5社は,同社の代表者であり同社を実質支配している
原告P4が,償還差益に対する課税を免れるのに協力するため,損失を受け
ることが明らかな取引に応じたものであり,通常の経済活動を行う者の行為
としては説明し得ない,不自然,不合理なものであったといわざるを得ない。
したがって,原告P5社が,原告P4からP25ファンドを上記価格で買
い取ったのは,本来,償還差益の20パーセント相当額を控除して算出され
るべき通常の対価に,償還差益の20パーセント相当額を上乗せした代金を
支払うことで,その額の利益供与をしたものと認められる。そして,原告P
4は原告P5社の役員であるから,この利益供与は役員賞与というべきであ
り,原告P4の給与所得に該当すると共に,原告P5社は原告P4に同額の
賞与を支払ったものとして源泉徴収義務を負うことになる。
(2)これに対し,原告らは,これは売買代金の一部を否認することにほかなら
ないところ,同族会社の行為計算の否認に関する法人税法132条,所得税
法157条は憲法違反であるから,原処分は憲法違反で無効である旨を主張
する。しかし,法人税法132条は,同族関係によって会社経営の支配権が
確立されている同族会社においては,法人税の負担を不当に減少させる目的
で,非同族会社では容易になし得ないような行為計算をするおそれがあるの
で,同族会社と非同族会社との課税負担の公平を期するために,同族会社で
あるがゆえに容易に選択することのできた純経済人として不合理な租税負担
を免れるような行為計算を否認し,同じ経済的効果を発生するために通常採
用されるであるところの行為計算に従ってその課税標準を計算し得る権限を
徴税機関に認めたものであって,同族会社に対してのみこのような行為計算
の否認の規定を設けたことについては十分な合理性があるというべきであっ
て,立法目的は正当であり,その区別の態様も,その目的との関連で不合理
であるとはいえず,所得税法157条についても同様であるから,これらの
規定はいずれも憲法14条1項に違反するものとはいえず,原告らの主張は
失当である。
また,原告らは,P25ファンド取引は,当時広く行われていた適法な節
税行為である旨を主張するが,単に当時広く行われていたことから適法な行
為であるとはいえないことは明らかであって,同主張もまた理由がない。
このほか,原告らは,原告P5社が被った損失161万7861円の範囲
内で否認すれば足りる旨を主張するが,前記の証券会社に譲渡した場合の扱
いや,P25ファンド取引が償還日の直前にされたことに照らすと,償還差
益の20パーセント全体が不自然,不合理なものであるというべきであり,
原告らの同主張もまた理由がない。
(3)小括
したがって,争点(6)に係る被告の主張は理由がある。
7争点(7)(結婚式,結婚披露宴関連費用)について
原告P5社は,原告P2の結婚披露宴関連費用総額9843万4026円の
うち,企画・使用備品費用,招待状作成費用,レストラン費用合計4329万
6800円を交際費として計上したものであるところ,結婚披露宴は,一般に,
個人の私的行事であることが明らかな結婚式に引き続いて行われるなど,これ
に付随するものであり,婚姻当事者が結婚の事実を双方の親族や親しい関係者
に知らせて,これらの者から祝福を受け,今後の親交を願うため行われる行事
であって,婚姻当事者の私的な社交的行事であると解すべきである。
原告らは,出席者の約78パーセントが原告P5社の取引関係者であること
を主張しているが,新婦である原告P2及びその父である原告P4がいずれも
原告P5社の役員であることからすれば,出席者の多数が原告P5社の取引関
係者であることは原告P2の結婚披露宴が私的行事であることと何ら矛盾する
ものではない。また,原告らは,結婚披露宴費用の一部を個人負担としたこと
や原告P5社の接待交際費がゼロであることはあり得ないことなどを主張する
が,それらは原告P2の結婚披露宴の私的行事という性質に何らかの変化を加
えるものではない。
原告らはこのほか,法人税法上,社葬費用の損金算入が認められていること
を主張しているが,社会通念上,法人が役員等の社葬を行うことは広く行われ
ているのに対し,法人が役員の結婚披露宴を主催することが一般的であるなど
とは到底いえないから,社葬費用の損金算入が認められていることから,結婚
披露宴が法人の交際費となることを肯定することはできず,原告らの主張はい
ずれも理由がない。
したがって,争点(7)に係る被告の主張は理由がある。
8争点(8)(重加算税賦課決定処分)について
(1)以上検討したところによれば,原告P4は,EB債1取引,EB債2取引,
P22ローン取引及び匿名組合取引について,海外のSPC等を利用したス
キームを実行して真実の法律関係と異なる外形を作出し,真実の法律関係を
隠ぺいした上,その隠ぺいしたところに従って,P4家族に帰属する所得を
意図的に申告しなかったものといえるから,重加算税の賦課要件をみたすこ
とは明らかである。また,原告P2,同P3及び同P1は,原告P4の妻及
び子であり,いずれも原告P5社の取締役であるから,原告P4の行為を認
識し,又は容易に認識し得たというべきであるし,現実に,原告P5社の取
締役としてEB債1及びEB債2の発行を決議し(乙160の1及び2,乙
219の1及び2),EB債1取引に介在した海外のパートナーシップ契約
の締結に携わっていた(乙57の3ないし6)にもかかわらず,自らの確定
申告に関して過少申告を防止することもしていないことから,仮に原告P4
のした隠ぺい行為の全部に関与していなかったとしても,原告P4の隠ぺい
行為は原告P2,同P3及び同P1の行為と評価できる。
また,原告P5社ないし合併前のP20は,EB債1取引に係る適正利息
超過部分ないしP22ローンに係る利息につき源泉徴収義務を負うにもかか
わらず,原告P4の指示のもと,真実の法律関係と異なる外形を作出してこ
れを隠ぺいし,納付を免れたものであるから,重加算税の賦課要件をみたす
ことは明らかである。
(2)原告らは,これらの取引について,現実の資金の動きに合致した経理処理
を行っており,その原因行為たる契約内容等も帳簿上明らかにしていると主
張するが,これらはまさに真実の法律関係と異なる外形の作出行為であって,
隠ぺい行為にほかならない。
原告らは,EB債1及びEB債2の利息相当額,匿名組合契約に基き支払
われた金員は,未だP4家族に帰属していないから,過少申告の故意が認め
られないとも主張するが,これらの金員がP4家族の所得として帰属してい
ることは既に認定したとおりであり,原告らの主張は前提を欠く。また,P
314兄弟のうちP35がP36U/Tの信託受益権売却益を確定申告し
ていることは,原告P5社及びP4家族の認識内容を左右するものではない。
このほか,EB債1の支払利息のうち適正利率超過部分にのみ隠ぺいない
し過少申告の故意を認めるのは不自然であるとも主張するが,本郷税務署長
が原告P5社に適正利率超過部分につき重加算税賦課決定処分をしたのは,
原告P5社に源泉徴収義務が生じる金額を基礎としたからにすぎないから,
何ら不自然とはいえない。
(3)小括
したがって,争点(8)に係る被告の主張は理由がある。
9争点(9)(手続的違法)について
(1)原告らは,渋谷税務署長のP4家族に対する平成15年3月24日付け各
更正処分が違法となる理由として,同月25日以後に行われた所得税法23
4条1項に反する違法な調査をしたことを挙げているが,原告らの主張する
調査は上記各更正処分後になされたものであって,上記各更正処分の適法性
に影響しないことは明らかである。
また,原告らは,上記各更正処分が通則法27条に違反するとも主張して
いるが,渋谷税務署長が上記各更正処分前に,資料収集,原告P4を含む関
係者への事情聴取その他の調査を行っていることは,証拠(乙83,110
の1,乙177,189,197,209,215,216,220,27
4)からも明らかであって,上記各更正処分はこれらの調査したところに基
いてされたものであると解されるから,いずれも通則法27条に反するとは
いえない。
このほか本件全証拠に照らしても,上記各更正処分に手続上の違法があっ
たとはうかがえない。
(2)小括
したがって,争点(9)に係る原告らの主張は理由がなく,渋谷税務署長が
P4家族に対して平成15年3月24日付けで行った各更正処分は,適法な
手続に基づくものというべきである。
第4結論
以上によれば,争点に関する被告の主張はいずれも理由があり,また本件全
証拠に照らして,渋谷税務署長の各更正処分及び本郷税務署長の各納税告知処
分並びにこれらに付随する処分に違法な点は認められず,いずれも適法である。
したがって,原告P1の訴えについては,平成11年の所得税に係る平成15
年3月14日付け更正処分(同年9月3日付け変更決定処分後のもの)のうち
本訴係属中の平成18年10月31日付け更正処分及び重加算税の変更決定処
分により減額された部分は訴えの利益が消滅したから却下することとし,同原
告のその余の請求,原告P2,同P3,同P4及び同P5社の各請求はいずれ
も理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟
法7条,民事訴訟法61条,65条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官定塚誠
裁判官中山雅之
裁判官進藤壮一郎

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