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平成21年5月27日判決言渡
平成20年行ケ第10324号審決取消請求事件()
平成21年4月15日口頭弁論終結
判決
原告X
同訴訟代理人弁護士日野修男
被告特定非営利活動法人
全世界空手道連盟新極真会
同訴訟代理人弁護士木村晋介
同今井秀智
同鈴木正勇
同訴訟代理人弁理士広瀬文彦
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2007−890149号事件について平成20年7月25日
にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯
被告は,「新極真会」の文字を標準文字で表してなる登録第475642
7号の商標(指定役務:第41類,平成14年1月16日登録出願,平成1
6年3月19日設定登録,以下「本件商標」という。)の商標権者である(
甲1,2)。
原告は,本件商標に対し,平成19年9月17日,無効審判請求をした
が(無効2007−890149号事件,甲35),特許庁は,平成20年
7月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本
は,平成20年8月6日に原告に送達された。
2審決の内容
審決の内容は,別紙審決書の写しのとおりである。要するに,審決は,本件
商標に係る出願は,商標法4条1項7号及び19号に該当しないと判断したも
のである。
審決の上記判断の理由の要点は,次のとおりである。
(1)「A」が死亡した平成6年4月時点においては,「極真関連標章」(判
決注:別紙極真関連標章目録記載の各標章を意味するものとして用いられて
いる。本判決においても,同様の意味で用いる。)は,少なくとも空手及び
格闘技に興味を持つ者の間では,「A」が代表する「極真会館」(判決注:
Aが設立した「国際空手道連盟極真会館」を意味するものとして用いられて
いる。本判決においても,同様の意味で用いる。)というまとまった一つの
団体を出所として表示する標章として広く知られていた。
(2)極真関連標章は,遅くともAが死亡した平成6年4月の時点では,少な
くとも空手及び格闘技に興味を持つ者の間では,「極真会館」又は「極真空
手」(判決注:「極真空手」は,Aが創始した空手の流派を意味するものと
して用いられている。本判決においても,同様の意味で用いる。)を表す標
章として広く認識されるに至っていることが認められる。そして,極真関連
標章が極真会館ないし極真空手を表す標章として広く認識されるに至ったの
は,Aと同人が存命中の極真会館に属する各構成員の努力により,極真会館
及び極真空手を全国に普及し,発展させた結果であるから,極真関連標章が
表示する出所は,極真会館であることは明らかである。そうすると,Aが死
亡したことにより,A及び同人から認可を受けた支部長らによる永年の努力
により醸成された信用等が化体されている極真関連標章に係る権利は,極真
会館に属する支部長ら構成員全体に,共有的ないし総有的に帰属していたも
のと解するのが相当である。
(3)A死亡後も,極真関連標章に係る権利は,「A」存命中の極真会館に所
属していた支部長ら構成員全体に共有的ないし総有的に帰属し,支部長ら構
成員は,その利益を享受し得るべきものというを相当とする。
(4)本件商標は,東京地方裁判所平成11年(ワ)第12483号使用差止不
存在確認請求訴訟(ほか1件)等による極真関連標章に紛争が生じていた当
時の平成14年1月16日に商標登録出願され,「極真会」をはじめとする
引用商標(判決注:別紙極真関連商標目録1,2,6,8記載の各商標を指
すものとして用いられている。本判決においても,同様の意味で用いる。)
に類似するとする商標法4条1項11号の拒絶理由通知を受けた後,裁判上
の和解により,引用商標の商標権者である「B」こと「B’」(判決注:以
下「B」という。)に本件商標に係る出願人の地位を一時的に移転し,登録
料納付時に再度移転を受ける形で商標登録を得たものである。
(5)以上の事実を総合すると,本件商標は,Bその他の極真会館の空手の技
術を継承する各派が乱立していた状況の中で自己の会派と他の会派を峻別す
る目的をもって,被告によって出願され,当時の引用商標の権利者であった
Bとの裁判上の和解により,法律上やむを得ず,再度の名義変更の手続を経
て,被告に登録されたものと認められる。
してみれば,本件商標は,やや特異な経緯を辿って登録に至っているが,
これが「その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録
を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ない」と
いうべきものではない。また,本件商標は,その構成自体に矯激・卑猥なと
ころのないものである。さらに,本件商標は,「不正の目的」(不正の利益
を得る目的,他人に損害を加える目的,その他の不正目的をいう。)による
出願ということもできない。
第3原告主張の取消事由
審決には,商標法4条1項7号及び19号該当性の判断に誤りがあるから,
取り消されるべきである。
1極真関連標章について
(1)極真関連標章が広く認識されるに至ったのは,Aが極真関連標章を創作
し,極真空手を築き上げ弟子を養成したという,A個人の業績によるもので
ある。極真会館は,Aによって創設されたが,A個人の広範な裁量によって
運営されており,極真関連標章もA個人にそのすべての権利が帰属してい
た。
極真関連標章は,遅くともAが死亡した平成6年4月の時点では,少なく
とも空手及び格闘技に興味を持つ者の間では,A個人の出所を表示する標章
として広く知られていたものであり,A個人にすべての権利が帰属してい
た。
(2)甲7,11の使用実態に照らすならば,極真関連標章は,A個人が自ら
の空手に名付けた「極真」を,A個人の出所を表示するものとして使用して
いることを示しているものといえる。
このように,A存命中は,Aが極真関連標章を独占していたが,同人が,
それらの商標に係る権利を共有にするために,自らの持分の一部を極真会館
に所属する支部長ら構成員に対して譲渡したという事実はない。
A死亡により,Aが保有する極真関連標章に係る権利は,相続によって,
原告を含む相続人が包括承継した(民法882条)。原告を含む相続人が,
極真関連標章に係る権利を共有にするために,自らの持分の一部を極真会館
に所属する支部長ら構成員に対して譲渡した事実はない。
(3)以上のとおり,極真関連標章が極真会館に所属する支部長ら構成員全体
に共有的にも総有的にも帰属しているとはいえない。支部長ら構成員は,極
真関連標章に係る権利を承継した原告をはじめ相続人らの許諾を得てはじめ
て,その利益を享受し得るものである。
2商標法4条1項7号該当性について
(1)本件商標と極真関連標章との対比
本件商標は,「新極真会」の文字を漢字でかつ標準文字に書してなる。他
方,極真関連標章に係る標章は,別紙極真関連標章目録記載1,2,6,8
を含むものである。
本件商標と上記極真関連標章とを対比すると,本件商標のうち「新」は「
新しいこと」を示す接頭辞であるから,その要部は「極真会」又は「極真」
の文字部分にあるのに対し,上記極真関連標章の要部は「極真」又は「極真
会」であり,両者は要部を共通にし,類似する。
(2)Bの出願に係る極真関連商標に係る商標権についての無効審判
別紙極真関連商標目録記載の商標に係る商標権者は,Bであったが,いず
れも無効審判において商標法4条1項7号に該当し,同法46条1項により
無効とされた(甲3ないし6)。
(3)小括
本件商標は,裁判上の和解に従ったものではあるが,Bが,被告からの出
願に対して,被告に協力する目的で,一時的に譲渡を得ることによって,登
録査定を受けて登録を受けたものである。ところで,Bが登録を受けた極真
関連商標に係る商標権については,正当な権限なく出願したことを理由とし
て,公序良俗に反するとして,無効事由が存在すると判断された(甲1
4)。
Bの有していた極真関連商標に係る商標登録について,公序良俗に反する
とした事情が存在したことから,本件商標に係る商標登録についても同様
に,公正な取引秩序を害し,公序良俗に反するものと評価できる。商標の登
録の無効理由は,当該商標自体に付随する事情であるから,商標が第三者(
被告)に移転することによって,商標自体の無効理由が治癒されるものでは
ない。以上のとおり,本件商標は,商標法4条1項7号に該当し,同法46
条1項により無効である。
3商標法4条1項19号該当性について
被告は,「A総裁」の氏名を冒用し,「A総裁の意思を受け継ぎ,極真空手
の誇りと精神を継承し」等と表示して,空手の教授という営業活動を行なって
いる(甲24,甲26の1ないし4)。被告は,極真関連標章に係る権利を承
継した宗家及びその承継人がその使用を許諾したかのように装うことによっ
て,空手教授や空手に関連する顧客を獲得しているのであって,同行為は,不
正の利益を得る目的をもった本件商標の使用行為である。
また,被告は,B出願に係る極真関連商標の登録に無効理由が存在しないこ
とを前提として,それとの抵触を避ける目的で,Bに対して出願中の本件商標
をいったん移転した上で,本件商標を取得したものであったが,Bが登録を受
けた極真関連商標に係る商標権について,不正の目的があったとして無効と判
断された以上,本件商標についても,同様の理由により,商標法4条1項19
号に該当し,同法46条1項により無効である。
第4被告の反論
審決には違法はなく,原告の主張には理由がない。
1極真関連標章について
(1)極真関連標章の表示する出所について
極真関連標章は,Aの下で,極真会館の構成員全体によって運営されてき
た「極真会館」,及びその空手の流派である「極真空手」を,出所として表
示するものとして使用され,そのように認識されてきた。需要者等は,極真
関連標章を,A個人を表示する標章であるというよりは,むしろ,Aの主催
する「極真会館」及び「極真空手」を表示する標章として認識した。
Aの死後,極真会館は混乱し,分裂したが,その後においても,当時の支
部長等が極真関連標章を使用して空手の教授等を行ってきた。需要者は,極
真関連標章(極真関連商標に類似する商標を含む。)を「極真会館」又はそ
れを受け継いだ団体又は組織を表示する標章であると認識していた。現在で
も,極真会館から分裂した複数の団体が,極真関連標章を使用し,「極真」
を含む標章を用いて空手の教授等を行っているが,需要者は,極真関連標章
が,Aの遺族を出所とする標章であると認識することはない。
被告は,A生存中の極真会館に属し,Aの教えを受け,極真関連標章を使
用する地位にあった支部長が設立した団体であり,極真会館とは,形式的に
は異なる団体ではあるが,それまで行っていた空手の教授等を継続して実施
してきたものであるから,被告の継続的な使用は,極真関連標章が化体する
信用等を維持するものとして,尊重されるべきである。
(2)極真関連標章に係る商標権の不存在
極真関連標章は,極真会館を表示する商標として需要者に広く知られてい
た。しかし,Aは,極真関連標章について,商標登録出願をしたことはな
く,極真関連標章に係る商標権は存在しなかった。未登録の商標に係る商標
登録を得る地位についてまで,当然に,相続の対象となる権利と評価される
ものではない。
極真関連標章は,A及び極真会館の構成員によって,使用されることによ
り需要者に広く認識されていたものであり,商標権としては成立していない
ものの,一定の保護すべき法的状態が形成されていた。極真関連標章が表示
する出所は,Aではなく,団体としての極真会館及び各道場であることは明
らかであり,極真会館の構成員等であった支部長らの極真関連標章の使用が
否定されるものではない。
(3)極真会館の事業の承継について
原告は,極真関連標章に係る権利について,Aから,相続により,包括的
に承継したこと,Aの死後,妻のC(以下「C」という。)が,極真会館の
二代目館長を襲名することを宣言し,極真会館宗家と名乗ったこと等から,
原告が,その極真関連標章に係る権利の承継人である旨主張する。しかし,
原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,まず,極真関連標章は,Aではなく,団体・組織としての極真
会館を表示するものとして需要者に認識されているものであって,極真関連
標章に関するそのような事実上の効果が,法律上の権利として,相続の対象
になるということはない。また,妻のCの宣言や宗家としての名乗りには,
何らの実体もない。Aの死後,A生存中の極真会館により行われていた空手
の教授等の事業については,分裂した複数の団体がそれぞれ行っていたのが
実情であり,原告を含む遺族は,極真会館及び極真会館が行っていた事業を
遂行したことはない。
(4)極真関連標章の使用権限について
Aの死後,極真会館内部の分裂や離脱等により,混乱した状況のもとで
は,少なくとも,支部長らにより行われていた極真空手の教授等について
は,その事業を継続する限り,極真関連標章の使用が保護されるべきであ
る。そして,極真会館分裂後の複数の団体による極真関連標章の使用実態を
考慮すると,原告のみに極真関連標章の使用権限があるということはでき
ず,むしろ実質的な指導に当たっていた団体や組織以外に使用を認めるとし
た場合には需要者間に混乱を招き,取引秩序を乱し,不当かつ不公正な結果
となり許されるべきものではない。
よって,極真関連標章に係る権利は極真会館に所属していた支部長ら構成
員全体に共有的ないし総有的に帰属しているとの審決の判断に誤りはない。
2商標法4条1項7号該当性に対し
(1)本件商標について
本件商標は,極真会館が分裂したことを前提として,被告により独自に考
えられた商標であり,極真会館の他の分派とは,一線を画した別団体を表示
するための商標である。極真関連標章に関する一連の裁判例からしても,従
前の極真会館を承継する団体である被告が,極真団体の他の分派と区別をす
ることを目的として「極真」を含む本件商標を使用したのであって,そのよ
うな目的から出願された商標登録に,公序良俗に反すると評価される余地の
ないことは当然であるといえる。
(2)Bとの和解について
本件商標は,A死後の内部の混乱等を前提に,関連団体の意向を十分に考
慮した上で,Bと被告との紛争等を終結させる意図をもって定められた新た
な名称であって,原告も,このような紛争及び解決については,承知してい
たはずである。Bが当時有効のものとして有していた極真関連商標に係る商
標権と被告の出願した本件商標との抵触を回避する目的で,裁判上の和解の
内容に加えられた。本件商標は,同和解の内容に従って,出願手続が実施さ
れて,登録された。仮に,Bの有していた極真関連商標に係る商標権の無効
が,既に確定していたのであれば,被告は,当然に,Bの協力を得ることな
く,単独で,本件商標の商標登録を得ることができたはずである。したがっ
て,後にBの極真関連商標に係る商標登録が無効となったからといって,本
件商標権についてまで,無効理由を含むことにはならない。
また,被告は,Bの有していた極真関連商標に係る商標登録について,無
効審判により争っていた。被告は,Bの商標の有効性を是認して裁判上の和
解をしたのではなく,Bとの紛争の長期化を避けるために,裁判上の和解
に,上記の手段を取ることを加える内容とすることによって,紛争の解決を
図ったのであるから,B側の事情と同一視される筋合いは存在しない。
(3)Bの有していた極真関連商標に係る商標登録の無効理由との関係
原告は,商標登録の無効理由は,当該商標自体に付随する事情であるか
ら,商標権が第三者(被告)に移転することによって,商標自体に存在した
無効理由が治癒されるものではないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,本件商標に
係る商標権とBの有していた極真関連商標に係る商標権とは別個の権利であ
る以上,本件商標に係る商標登録について,独立の無効理由が存在しない限
り,無効とはならない。したがって,上記主張は,その主張自体失当であ
る。
被告のした本件商標に係る出願は,Bの出願に係る極真関連商標を先願と
してこれと類似するとの理由で拒絶されたため,原告とBとの間で成立した
裁判上の和解において,本件商標を登録する手段として,一時的にBに出願
人の地位を譲渡するとの手段を採ることを約したものである。そして,本件
商標に対して先願であったBの有していた商標(引用例)が,その後,公序
良俗に違反するとして無効と判断されたとしても,そのことを理由に,本件
商標登録までが無効となるものではない。被告が,Bの協力を得て,本件商
標の登録を得たことに,不正の意図等がないことは明らかである。また,被
告は,極真関連商標と峻別する目的で,新たな商標である本件商標を創作
し,出願したのであって,本件商標の取得に関して,B自身が使用する目的
が存在したわけではない。Bは,上記和解の趣旨に沿って被告の商標登録手
続に協力したにすぎない。以上のとおり,本件商標についての出願時及び査
定時において,被告に公序良俗に反する不正の意図がないことは明らかであ
る。
また,原告は,本件商標が,Bが当時有していた極真関連標章に係る登録
商標と類似する点が公序良俗に違反すると主張する。しかし,この点の主張
も,主張自体失当である。すなわち,極真関連標章と類似するか否かと公序
良俗に反するか否かは,別個に判断されるべき事項であり,類似性があるこ
とをもって公序良俗違反に該当するものではない。本件商標が極真関連標章
と類似していたとしても,本件商標の登録に至る経緯は正当なもので公序良
俗違反ではない以上,商標法4条1項7号に該当しないという結論に影響を
及ぼすことはない。
3商標法4条1項19号の該当性に対し
(1)不正の目的について
被告による本件商標の採用及び商標権は,当時係属していた訴訟におけ
る和解の内容とすることによって,Bが当時有していた極真関連商標の商
標権との抵触を回避したものである。被告は,他の団体と峻別する目的
で,あえて新たな商標である本件商標を採用したものであり,不正の目的は
なかった。
(2)被告のホームページ(甲26の1ないし4)の記載について
原告は,被告のホームページにおいて「A総裁」の氏名を冒用し,Aの著
作である「極真」の由来の記述を冒用していると主張する。
しかし,被告は,上記ホームページにおいて,Aの氏名や由来について記
載しているが,同記載は,被告が,「極真会」,「極真会館」から派生した
団体であることを説明したにすぎない。被告は極真関連標章については使用
することができる地位にあったこと,被告のホームページの記載は,自己の
団体を説明する上での通常の範囲の使用であること等に照らすならば,同記
載によって,本件商標を不正の利益を得る目的があったと解することはでき
ない。のみならず,そもそも,被告が設立された平成15年当時において,
原告は,本件商標の権利者でもない。
(3)需要者等の誤認について
原告は,本件商標は,取引者及び需要者をして,Aの極真関連標章に係
る権利を承継した宗家及びその承継人が,その使用を許諾したかのように誤
認混同させる商標に当たると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,①そもそ
も,被告は,極真関連標章について使用できる地位にあったこと,②需要者
の間には,極真会館が分裂し,複数の団体が「極真」の語及び極真関連標章
を使用していることが認識されていたこと,③被告は,平成15年7月当
時,極真会館から派生した正統な一派として認識されていたこと,④本件商
標は,「新」の文字を付すことにより,他の極真団体と明確に区別すること
を意図したものと認められること等の事情に照らすならば,需要者の間にお
いて,宗家のみが極真に関するすべての権利を掌握管理しているという認識
はなく,また,宗家の承諾を得たかのように装う必要性もなかった。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,原告主張の取消事由には理由がなく,原告の請求を棄却すべき
ものと判断する。以下,理由を述べる。
1前提事実
当事者間に争いのない事実並びに証拠(甲1ないし5,13ないし15,1
8ないし22,31ないし34,41ないし43,44の1ないし4)及び弁
論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)Aは,「極真空手」の創始者であり,昭和39年,同空手に関する団体
として極真会館を設立し,死亡した平成6年4月まで,極真会館の館長ない
し総裁と呼ばれ,代表者として,同団体を運営していた。極真会館は,法人
格はないものの,Aの下で規模を拡大し,世界各地に多数の支部等を置くほ
か,日本国内においても,総本部のほか,全国各地に支部等を置いた。支部
は,それぞれ担当する地区が定められており,Aによって任命された支部長
が,各担当の地区において,道場を開設し,極真空手の教授を行っていた(
争いのない事実)。
(2)支部長は,担当地区内に道場を開設して,極真空手に入門した道場生に
対し,極真空手の教授を行い,極真空手の級位や初段の段位を与えることが
でき,また,担当地区内に,分支部を設けることができた。極真空手を学ぶ
者は,本部直轄道場や各支部の道場に入門して,極真会館の会員となり,道
場生として,極真空手の教授を受けた。Aが死亡した平成6年4月当時,極
真会館は,日本国内において,総本部,関西本部のほか,55支部,550
道場,会員数50万人を有し,世界130か国,会員数1200万人を超え
る勢力に達していた。極真会館は,毎年,「全日本空手道選手権大会」及
び「全日本ウェイト制空手道選手権大会」との名称を付した極真空手の大会
を開催すると共に,4年に1度,「全世界空手道選手権大会」との名称を付
した極真空手の大会を開催していた(争いのない事実,甲14,15,1
8)。
(3)極真会館は,次第にその規模が拡大し,規模の拡大に応じて,組織やそ
の運営に関して,「道則」,「支部規約」及び「極真会館国内支部規約」等
の基本的な規定が定められたものの,館長ないし総裁たる地位の決定や承継
等に関する規定はなく,また,現実の組織運営は,必ずしも同規定どおりに
実施されていたのではなく,具体的な状況に応じて,Aが,個別的により裁
量によって判断していた例もあった(甲15)。
Aの生存中における極真会館の基本的な組織及びその運用の概要は,以下
のとおりであった。すなわち,極真会館は,総本部及び関西本部の下に,全
国各地に支部が設けられ,Aが認可した支部長は,認可された支部で道場を
開設し,極真空手の教授等を行なった。支部は基本的には,県などの地方行
政区画ごとに設けられたが,東京都,大阪府,神奈川県等の一部の都府県に
ついては,さらに複数に分割された区域ごとに設けられた。各支部には一人
の支部長が置かれ,原則として,一人の者が複数の支部の支部長に認可され
ることはないが,例外もあった。支部長の認可を受けた者は,①認可料,支
部会費等を総本部に納入すること,②全日本選手権大会等の各種大会へ選手
を派遣し,同大会の運営に協力すること,③支部長会議及び支部長講習会へ
出席すること等が義務づけられており,極真会館を表示するマークを無断で
使用することが禁止されていた。しかし,極真会館の支部長は,前記義務を
果たす限り,道場や各種大会等において極真関連標章を使用することができ
たし,分支部長も,支部長の個別の許可等を要することなく,道場におい
て,極真関連標章を使用することができた。極真会館において,極真関連標
章の使用態様等を明確に規制していたことをうかがわせるに足りる証拠はな
い(甲14,18)。
また,支部長が上記の義務,規律に違反した場合は,支部長認可の取消し
や除名等の処罰を受けることとされていた。なお,極真会館は,法人格を取
得することはなく,またその代表者である館長ないし総裁の地位の決定や承
継等に関する規定はなかった(甲18)。
(4)Aの死亡
アAは,平成6年4月26日に死亡した。同人が入院中の同年4月19日
付けで同人の危急時遺言(以下「本件危急時遺言」という。)が作成さ
れ,本件危急時遺言には,Aの後継者をBとすること,極真会館の本部直
轄道場責任者,各支部長及び各分支部長らはBに協力すべきこと並びにA
の相続人は極真会館に一切関与しないこと等が記載されていた。
Aは,生前に,極真会館に属する者に対して,自己の死後に自己の館長
たる地位を誰に承継させるかについて,その意思を示したということはな
かった。
Aの葬儀は,同月27日に行われた。出棺の際,本件危急時遺言の証人
の一人であるD(以下「D」という。)から,Aが遺言でBを後継館長に
指名した旨の発表がされ,同日開催された支部長会議においても,Dから
本件危急時遺言の内容についての説明がされ,Bも,自ら後継館長に就任
する意思を表明した。その後,同年5月10日に開催された支部長会議に
おいて,全員一致でBの極真会館館長就任が承認された(甲13ないし1
5)。
イ本件危急時遺言の証人の一人である弁護士のE(以下「E」という。)
は,平成6年5月9日,東京家庭裁判所に対し,本件危急時遺言の確認を
求める審判申立てをしたが,Aの相続人らは,同遺言に疑義を表明して争
った。上記審判申立てに対して,東京家庭裁判所は,平成7年3月31
日,これを却下した。
上記決定に対して,Eは東京高等裁判所に対して抗告したが,同裁判所
は,平成8年10月16日,抗告を棄却し,最高裁判所も,特別抗告を棄
却した(甲14,15)。
ウAの死亡により,妻C,長女F,二女G,原告,Hの5名が相続し(甲
42),その後,上記長女が平成8年9月21日に死亡し,平成17年1
2月29日,Aに係る遺産分割協議書及び他に相続人がいないことの証明
書が作成され,Aのすべての権利義務はCに相続された(甲41)。そし
て,Cは平成18年6月6日に死亡し,上記二女,原告及びIが相続した
が,上記二女は同年8月18日に相続放棄をし,平成19年3月28日,
Cに係る遺産分割協議書が作成され,上記Iが現金50万円を相続したの
を除き,その余のすべての権利義務については原告が相続した(甲44の
1ないし4)。
(5)極真会館の分裂
アAの相続人らは,Bが極真会館の館長の地位を承継したと主張してAの
後継者として活動したことに対して反発した。Cは,平成6年5月26日
に,各支部長に対して,極真会館,極真空手等の名称や標章は自ら管理す
る旨を通知し,平成7年2月15日には,Cが,記者会見を開催して,自
ら極真会館2代目館長を襲名することを発表した(甲15)。なお,Aの
遺族が,極真会館又は極真空手の活動に従事したことはなかった。
イ極真会館の支部長の中にも,Bに対して反感を持つ者が多数おり,相互
に連絡を取り合って,Bが極真会館を私物化したなどの批判をし,Bに対
する反発は高まっていった。このような状況の下で,平成7年4月5日,
全国の各地区の代表者による支部長協議会が開催される予定であったが,
その会場には支部長協議会の構成員ではない支部長も参集していた。そし
て,臨時に支部長会議が開催され,同支部長会議において,Bの館長解任
の緊急動議が提出され,Bの館長解任が決議された。この解任動議に賛成
した支部長らは,支部長協議会議長を中心に極真会館を運営すると主張し
た。
これに対し,B及びBを支持する支部長らは,平成7年4月6日,記者
らと懇談し,Aが決めたものを支部長会議で覆すことはできず,上記の解
任決議は効力がない旨反論し,Bが引き続き極真会館の館長の地位にある
旨を宣言した。
このように,Aの死後,極真会館は,いくつかの分派が形成されたが,
支部長会議においてBの解任決議がされた時点での極真会館の勢力関係
は,Bを支持する支部長又は直轄道場責任者はBを含めて12人(「B
派」と呼ばれた。),Cを支持する支部長は9人(「遺族派」と呼ばれ,
後に「宗家」の他に「J派」と称するようになった。),前記の支部長会
議において,Bを解任した勢力を支持する支部長又は直轄道場責任者は3
0人であった(「支部長協議会派」と呼ばれた。以上につき,甲13ない
し15)。
ウ上記各派は,いずれも自派が極真空手を正当に承継するものであるとし
て,極真会館を名乗って,道場の運営を行ない,従前,極真会館が行なっ
ていたのと同一名称の極真空手の大会を開催するなどした。
その後,支部長協議会派は,代表者のKの名から「K派」と呼ばれてい
たが,平成12年10月10日付けで「特定非営利活動法人国際空手道連
盟極真会館」との名称で法人登録をし,被告を設立した(その後,平成1
5年10月14付けで,名称を「特定非営利活動法人全世界空手道連盟新
極真会」と変更した)。また,遺族派の一部,支部長協議会派の一部等
は,平成13年12月,「日本空手道連盟極真会館全日本極真連合会」と
称する団体を組織したり,平成15年11月には,B派の支部長の一部が
同派から脱退し,「極真館」と称する団体を組織したりした。平成15年
5月の時点では,A死亡時の支部長の数は,「J派」3名,「K派」12
名,「B派」17名,「全日本極真連合会」12名,「極真館」3名,無
所属3名となった。
このように,Aの生前の極真会館における支部長等は,各派に分かれ,
それぞれが,本部,支部等を設け,道場で極真空手の教授等を行なった
り,極真空手の大会を開催したりしており,Aの生前における,団体とし
ての極真会館は,それぞれの支部長らが,これを承継すると主張して,複
数の団体に分かれるに至った(甲14,18)。
(6)極真関連商標をめぐる紛争について
ア前記のとおり,Aないし極真会館は,大山の生存中,極真会館の構成員
が極真関連商標を使用することについて特段の制限を設けなかった。ま
た,Aから任命された支部長や,さらに支部長によって任命された分支部
長が道場での極真空手の教授等の極真会館の活動を行なうに際して,極真
関連標章を使用していた(甲14)。
イAは,その生存中,極真関連標章について,自己名義で商標権を有して
いなかった。もっとも,財団法人極真奨学会が,昭和51年,別紙極真関
連標章目録記載2の標章と構成を同じくする「極真会館」との文字を横書
きにし,指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前
のもの)別表第24類「空手道衣及びその帯を含む運動用特殊衣服,その
他本類に属する商品」又は同別表第26類「印刷物(文房具に属するも
のを除く)書画,彫刻,写真,これらの附属品」とする商標,別紙極真関
連標章目録記載8の標章と構成を同じくする「極真会」との文字を筆字に
よって縦書きにしてなり,指定商品を同別表第24類「空手道衣,その他
の運動用特殊衣服,その他本類に属する商品」又は同別表第26類「印刷
物(文房具類に属するものを除く)書画,彫刻,写真,これらの附属品」
とする商標等について登録出願し,昭和55年から昭和59年にかけて,
合計12件の商標登録がされた。しかし,そのうち,上記4件を含む9件
は,平成2年から4年にかけて存続期間が満了したにもかかわらず,更新
登録の手続をすることを失念していたために失効し,Aの死亡時までには
登録が抹消されていた。そして,昭和59年に登録された3件の商標につ
いては,Bが,平成6年6月1日譲渡を原因として,同年10月24日,
自己名義への移転登録手続を行なった(甲18)。
ウ極真関連商標については,極真会館が法人格を有さず,極真会館の名義
により商標登録出願を行なうことができないことから,Bが極真会館の代
表者として個人名義で平成6年ないし7年に商標登録出願し,登録を受け
た。これに対し,原告は,極真関連商標のうち4件の商標(別紙極真関連
商標目録1,2,6,8記載の商標)に対して無効審判を請求し(無効2
004−35028ないし35030号,35032号事件),特許庁
は,平成16年9月22日,いずれの商標についても登録を無効とすると
の審決をした(甲3ないし6,18)。これに対し,Bは審決取消訴訟を
提起したが(平成17年(行ケ)第10029ないし10031号,10
033号審決取消請求事件),知的財産高等裁判所は,平成18年12月
26日,上記請求を棄却する旨の判決をしたので,さらにBは上告を提起
し上告受理申立てをしたが,最高裁判所は,平成19年6月28日,Bの
上告を棄却すると共に上告不受理の決定をし,上記審決は確定した(甲1
8ないし22,当裁判所に顕著な事実)。
エBは,極真関連商標の登録後,平成11年から平成12年にかけて,N
TTに対し,極真関連商標を使用した広告の掲載の禁止を申し入れたた
め,B派以外の極真会館を名乗る団体の支部長らは,NTTが発行したタ
ウンページに掲載する広告に極真関連商標を使用することができなくなっ
た。
これに対し,平成11年及び12年,被告(当時の名称は前記「特定非
営利活動法人国際空手道連盟極真会館」)外7名が,B外8名を相手とし
て,使用差止不存在確認請求訴訟を提起し(東京地方裁判所平成11年(
ワ)第12483号外1件),平成15年4月15日,同裁判所におい
て,被告外7名及び利害関係人47名とB外8名との間において,裁判上
の和解が成立した。
同和解は,①被告らとBらとは,Aの創設した極真空手を指導,教授,
普及することをめざしていることを相互に認めるとともに,過去における
相互の確執関係を解消させ,かつ,互いにその存在を尊重し合うこと,②
被告は,平成15年7月15日限り,その名称を「特定非営利活動法人国
際空手道連盟極真会館」から「特定非営利活動法人全世界空手道連盟新極
真会」に変更すること,③本件商標については,Bが,被告の費用により
被告が指定する弁理士を代理人として,和解成立後,被告の要請に応じて
商標登録出願手続をし,同商標が商標登録出願後は同商標が商標登録され
るために必要不可欠な手続を行い,同商標が商標登録された後は速やかに
同商標登録による商標権を被告に移転するとともに,同移転登録を被告が
単独申請することを承諾すること,④被告は,「極真」の文字が入る語を
商標として用いる場合には,必ず同様の字体及び字の大きさにより「新」
を直前に付して用いるものとすることを含むものであった(甲31)。
また,平成14年には,極真会館の支部長であった者が原告となり,B
を相手として,東京地方裁判所及び大阪地方裁判所に,被告が空手の教授
等を行なうに際して極真関連商標を使用することについて,Bの有してい
た商標権に基づく差止めを求める権利を有しない旨の「差止請求権不存在
確認等請求事件」を提起した(東京地方裁判所平成14年(ワ)第1678
6号,大阪地方裁判所平成14年(ワ)第1018号)。平成15年9月,
東京地方裁判所及び大阪地方裁判所は,いずれも,支部長らのBに対する
差止請求権不存在確認請求を認容した(甲14,15,18,弁論の全趣
旨)。
(7)本件商標及びその手続の経緯について
ア本件商標は,「新極真会」の文字を標準文字で表してなるものである
ところ,平成14年1月16日,被告(前記のとおり,当時の名称は,「
特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会館」)によって出願され,同年
4月25日付けで上記出願は,極真関連商標に類似するので商標法4条1
項11号に該当するとの拒絶理由通知を受けた。これに対し,被告は,上
記和解に基づき,「本件商標につきましては,平成15年4月15日に引
用商標権者との間で訴訟上の和解が成立し,本件商標を引用商標権者に,
一旦譲渡して引用商標権者が本件商標権を登録することになりました。」
との平成15年6月18日付け意見書及び同日付けで出願人名義人を被告
からBに変更する旨の出願人名義変更届を提出した。そして,本件商標
は,平成15年12月1日,登録査定がされ,平成16年1月7日,出願
人名義変更届の提出により,名称を被告に変更し,被告が本件商標を承継
した(争いのない事実,甲1,2,32,33)。
イなお,被告は,平成17年10月21日,本件商標とは別に,上部に図
柄を有し下部に「新極真会」と縦書きで表記した標章について,指定商品
分類を第6類,第9類,第14類,第16類,第18類,第24類,第2
5類,第28類,第32類,第33類として商標登録出願をした(商願2
005ー098689号,甲32)。ところが,原告が,平成16年10
月22日,「新極真会」と「SINKYOKUSINKAI」と上下
二段からなる標章で,指定商品を第25類「被服,空手衣」として,商標
登録出願していたことから(商願2004−96659号,甲34),被
告の上記商標登録出願については,上記原告出願の商標を含む引用商標に
類似するとして,平成18年3月30日付けで商標法4条1項11号に該
当することを理由に拒絶理由通知を受けている(甲33)。
2商標法4条1項7号該当性について
(1)前記1で認定したとおり,①「極真会館」は,Aが創設し,代表として
活動していた団体・組織であり,法人格は取得していないものの,運営・組
織についての規定が存在し,原則的にその規定に沿って,団体活動を継続し
ていた一つのまとまった団体であったこと,②極真関連標章は,遅くともA
が死亡した平成6年4月には,少なくとも空手及び格闘技に興味を持つ者の
間では,Aが代表者として運営していた団体・組織である「極真会館」又は
その空手の流派である「極真空手」を表す標章として広く知られていたこ
と,③しかし,Aは,その生存中,極真関連商標につき自己名義で商標登録
出願をしていなかったこと(前記1認定のとおり,極真関連商標について
は,財団法人極真奨学会が商標登録していたことがあったが,A死亡時まで
には商標登録が抹消されているか,一部についてBに対して移転登録手続が
されていた。),④支部長や支部長によって任命された分支部長が,道場で
の極真空手の教授等の極真会館の活動を行なう限りにおいては,極真関連商
標を使用することができ,それぞれの支部長は,極真関連商標を使用してき
た実情があったこと,⑤Aの死亡後,極真会館は分裂し,各支部長が,複数
の分派に分かれて,それぞれが,「極真」ないし「極真会館」を承継する団
体として,極真関連標章又はこれに類似する標章を使用していた状況にあっ
たこと,⑥Aの遺族は,極真会館及び極真空手の活動に従事したことはなか
ったこと,⑦被告は,その一分派として,「極真会館」の10数名の支部長
により構成され,全国に支部を設けて,活動を行っていた団体であるが,平
成12年10月10日付けで「特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会
館」との名称(後に,「特定非営利活動法人全世界空手道連盟新極真会」と
名称変更)で法人登録をし,被告を設立し,自己の分派と他の分派を区別す
る目的をもって,「新極真会」との標章を用いて,団体としての活動を継続
し,その活動の過程で,本件商標を出願したこと,⑧被告による同出願は,
当時,Bが有していた極真関連商標を引用例として拒絶理由通知を受けたこ
と,⑧引用商標の権利者であったBとの間の民事訴訟における和解におい
て,一旦,Bに名義変更をした上で,再度の名義変更の手続を経由するとの
裁判上の和解を得て,被告に登録されたこと等の事実が認められる。
以上のとおり,被告は,極真会館が分裂するまでは,極真会館の活動を続
けていた「極真会館」の10数名の支部長により構成された団体であり,A
が死亡し,極真会館が分裂するまでは,当然に,事業活動に極真関連商標を
使用することができたものであり,他の分派との区別を図る目的で,あえ
て「新極真会」の標章を用いて活動を行ったものである点に照らすならば,
本件商標の出願が,その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものが
あり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして容認し
得ないものではないというべきである。
したがって,本件商標は,商標法4条1項7号に該当するものということ
はできない。
(2)原告の主張に対し
ア原告は,極真関連標章はAの死亡後,原告が相続したことを前提とし
て,審決が,極真関連標章に係る権利は,極真会館及び各支部長に共有的
に帰属していたと認定した点に誤りがあると主張する。
しかし,極真関連標章に係る権利を原告が承継したものといえないこと
は前記認定判断のとおりであり,原告の主張は,その主張自体失当であ
る。
イ原告は,極真関連標章は,Aないしその相続人の許諾なくして使用する
ことができなかったと主張し,その証拠としてB作成の陳述書(甲38)
及びBの本人尋問調書(甲39)を提出する。
しかし,上記各証拠によっても,極真会館の支部長は,その支部長とし
て在任しその義務を果たす限り,極真関連標章を使用することができたと
いうにとどまり,それを超えて,極真関連標章の使用に関して,Aの許諾
を要するものであったということはできない。のみならず,Aの死後,極
真関連標章の使用に関して,極真会館の事業に従事していない相続人の許
諾を要するとの経緯が存在したことを認めるに足りる証拠はない。
かえって,前記1で認定したとおり,極真会館の支部長等の構成員は,
その地位にとどまる限り,極真関連標章を使用することができたこと,被
告は,極真会館の支部長であった者によって組織された団体であること,
Aの死亡後,極真会館は分裂し,被告を含む各団体が極真関連標章を使用
していたことに照らすと,被告が,本件商標を使用することを妨げる事情
は存在しない。以上のとおりであり,原告の主張は理由がない。
ウ原告は,本件商標がBが出願した極真関連商標と類似するものであると
ころ,Bが出願した極真関連商標が商標法4条1項7号により無効とされ
た以上,本件商標出願も同様に無効とされるべきものと主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
確かに,被告の本件商標の出願については,当時,Bの有していた極真
関連商標を引用例として拒絶理由通知を受けたため,引用商標の権利者で
あったBに名義変更をした上で,再度の名義変更の手続を経由することに
よって,被告に登録された事情がある。そして,Bが有していた引用例と
された極真関連商標は,その後,無効とされるに至ったが,それは,Bの
極真関連商標の出願に関するBの個別的事情によるものであって,そのよ
うな事情による無効理由があったからといって,被告の出願に係る本件商
標についても,同様に,無効理由が存在するいうことはできない。そし
て,被告の本件商標に,商標法4条1項7号に該当する無効事由が存在し
ないことは,前記のとおりである。原告の主張は理由がない。
3商標法4条1項19号該当性について
原告は,本件商標について,極真関連標章に係る権利を承継した宗家及びそ
の承継人がその使用を許諾したかのように装い,空手教授や空手に関連する顧
客を獲得するという不正の利益を得る目的をもって使用するものであるから,
商標法4条1項19号に該当すると主張する。
しかし,原告の上記主張は失当である。
すなわち,原告が極真関連商標に係る権利を承継しその使用に原告の許諾を
要するものとはいえないことは前記2で認定判断したとおりである。そして,
本件商標は前記裁判上の和解にしたがって出願,登録されたものであり,Bの
団体との峻別を目的に採用されたものである。
4結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由には理由がない。原告は,その
他縷々主張するが,他に審決を取り消すべき違法はない。したがって,原告の
請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
中平健
裁判官
上田洋幸
(別紙)極真関連商標目録
(別紙)極真関連標章目録

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