弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、上告人らの敗訴部分を破棄する。
     右破棄部分につき、本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人堀部進、同松永辰男の上告理由について。
 論旨は、昭和三七年三月下旬上告人株式会社A相互銀行(以下単に上告銀行とい
う。)と被上告人B1電気工業株式会社(以下単に被上告会社という。)との間に
被上告人らの主張するような金四二万円の新規貸付契約が成立したことを肯定した
原審の事実認定には、原判決の結論に影響を及ぼすことの明らかな経験則違背の違
法があるというにある。
 そこで、原審の右事実認定について検討するに、その事実認定には次のような問
題点の存在することが認められる。
 (一) まず、原審は、上告銀行と被上告会社との間に右のような新規貸付契約が
成立したことを肯定する証拠として、成立に争いのない甲第一号証、第一審証人D
の証言および第一審における被上告会社代表者兼被上告人B2本人尋問の結果を挙
げている。しかし、これらの証拠のうち、甲第一号証は、その記載内容および原判
決挙示の証拠関係によれば、昭和三七年四月二日上告銀行によつて作成され、かつ、
同日上告銀行から被上告会社に交付された計算書であることが窺われるところ、他
方、原判示によれば、右同日上告銀行は被上告会社に対し金額四二万〇、六四〇円
の本件不渡手形を返還したのみで新規貸付を拒否し、かつ、右不渡手形の返還と引
換に被上告会社から金額四二万円の本件手形の交付を受けていることが認められる
というのであるから、右事実関係と甲第一号証とを照合して考察すれば、甲第一号
証の貸付金四二万円なる記載が上告銀行から被上告会社に対してなされる新規貸付
金の金額を意味すると解することは困難であり、むしろ、右記載は上告銀行が被上
告会社に返還した右不渡手形の金額(の内金)を意味するにすぎないと解するのが
自然である。けだし、上告銀行が一方では新規貸付を拒否しながら、他方ではその
同じ日に、新規貸付金の金額を記載した計算書を作成、交付するということは、甚
だ不自然であるし、また、もし上告銀行が被上告会社に対し右不渡手形を返還する
とともに、金四二万円の新規貸付をもする意思であつたとすれば、上告銀行は甲第
一号証に右不渡手形金と右新規貸付金との合計額に相当する金額を記載し、かつ、
被上告会社に対してもそれと同額の新手形の交付を要求するのが通常であるという
べきであるからである。
 (二) また、原審は、被上告人らの主張するような新規貸付契約が成立したこと
を肯定し、これに反する第一審における上告人A本人尋問の結果を排斥する重要な
一理由として、定期預金を担保としてその預金額の倍額の貸付をすることも銀行取
引上珍しいことではないと指摘している。しかしながら、原審がいかなる証拠によ
り右のような事実を認定したものか、原判文によるも、これを明らかにすることが
できない。のみならず、仮に一般論としては、右のような事実の存在を肯認するこ
とができるとしても、本件においては、原判示によれば、被上告会社は昭和三七年
三月当時金策に窮していたものであり、かつ、上告銀行もその事実を知つていたこ
とが認められるというのであり、しかも、原判決挙示の証拠関係によれば、被上告
会社は上告銀行にとつては従来何らの関係もなかつた新規の取引先にすぎなかつた
ことが窺われるのであるから、このような事実関係のもとにおいては、貸付の安全
性ないし確実性を重視すべき銀行が、定期預金のみを担保として、その預金額の倍
額の貸付をするということは、よほど特段の事情の存在しないかぎり、ありえない
ことというべきである。
 (三) さらに、原審は、右のような新規貸付契約が成立したことを肯定し、右上
告人本人尋問の結果を排斥する他の理由として、もし上告銀行が当初から被上告会
社に対し新規貸付をすることを拒否していたとすれば、被上告会社は異議申立提供
金の返還を受けてこれを上告銀行に定期預金したり、訴外Eの特約上の債務を弁済
したり、また、日掛預金をしたりするなどの不必要な出捐をするはずのなかつたこ
とを挙げている。たしかに、当時金策に窮していたとされる被上告会社の立場にの
み立つて考察すれば、右理由も一応首肯することができないわけではない。しかし、
他方、被上告会社の相手方である上告銀行の立場に立つて考察すれば、上告銀行が
被上告会社に対し、定期預金のみを担保として、その預金額の倍額の貸付をすると
いうことは、特段の事情の存在しないかぎり、ありえないというべきことは、右(
二)において判示したとおりであるところ、原審は、そのような特段の事情の存在
については、何ら認定判示していない。
 (四) なお、原判示によれば、原審は、被上告会社が上告銀行に対し本件不渡手
形金の分割弁済を申し出た結果、右両者間に被上告人らの主張するような新規貸付
契約が成立し、かつ、右新規貸付金については、これを一〇回分に分割して弁済す
る旨の合意が成立したことを認定していながら、肝心の右不渡手形金の分割弁済に
ついては、右両者間に果して合意が成立したのか否か、また、その合意が成立した
とすれば、いかなる合意が成立したのか、何ら触れるところがない。さらに、原判
決および本件記録を検討するも、昭和三七年三月下旬ごろ上告銀行と被上告会社と
の間に右のような新規貸付契約が成立したことを肯定すべき契約書等の作成された
形跡は全く窺うことができない。
 以上の(一)ないし(四)の各点を総合して考察すれば、原審の前記事実認定には、
経験則違背ないし理由不備の違法があるといわざるをえず、かつ、その違法は原判
決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。してみれば、原審の右事実認定にお
ける右違法を主張する論旨は、理由があり、原判決中、上告人らの敗訴部分は破棄
を免れない。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    石   田   和   外
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    村   上   朝   一

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