弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人藤井勲の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
 1 上告人は、預託金会員制ゴルフクラブであるD倶楽部(旧名称はEゴルフ場。
以下「本件クラブ」という。)を経営する会社である。被上告人の父F(以下「F」
という。)は、昭和三七年四月八日、上告人に四〇万円を預託して、本件クラブの
会員となった。
 2 昭和六三年五月二六日に改正された本件クラブの規則第二一条(以下「本件
規則」という。)は、相続による会員の地位の承継に関し、(一) 会員が死亡した
ときは、相続人は、六箇月以内に、(1) 預託金の返還手続、(2) 相続人のうち
一名への名義書換手続、(3) 第三者への会員資格の譲渡のいずれかの手続を選択
して理事長に届け出なければならない、(二) 相続人が右の期間内に右の届出をし
ないときは、上告人は預託金の返還手続をとる、(三) 相続人が(2)又は(3)の手
続を選択した場合には、会員たる資格が譲渡された場合に準じ、事前に本件クラブ
の理事会及び上告人の取締役会の承認を得なければならない旨を定めている。
 3 Fは、平成二年七月二四日死亡し、その相続人は二男である被上告人、妻G、
長女H、長男I、二女Jの五名であったところ、平成三年四月一日、右相続人らの
間で、Fが有していた本件クラブの会員権を被上告人が取得する旨の遺産分割協議
が成立した。
 4 被上告人は、同月五日、上告人に対し、右会員権につき、Fから被上告人へ
の名義書換えの手続を求めたが、上告人は、既にFの死亡後六箇月の届出期間が経
過しているため、本件規則により、相続人への名義書換えは認められないとして、
これを拒否した。
 5 なお、本件クラブにおいては、会員資格を理事会等の承認を得て他人に譲渡
し得ることとされているところ、被上告人が本件訴えを提起した平成三年六月当時
の本件クラブの会員権の取引価格は約三四〇〇万円であった。
 二 本件請求は、被上告人が、本件クラブの理事会及び上告人の取締役会の承認
を停止条件とする本件クラブの会員としての地位を有することの確認を求めるもの
であるところ、上告人は、Fの死亡後本件規則所定の六箇月の期間が経過したこと
により、被上告人は、本件クラブの会員となり得る地位を失った、と主張する。
 三 本件クラブの会員権は、他人に譲渡することが認められており、ゴルフ会員
権市場において預託金の金額よりも高額の取引価格で売買されている。また、本件
規則は、会員の相続人が、理事会等の承認を得て本件クラブの会員となり、又は会
員となり得る地位を第三者に譲渡することを認めている。他方、死亡した会員の相
続人が複数いる場合には、相続人間で早期に遺産分割に関する協議が成立しないた
めに、相続人が会員の死亡後六箇月以内に本件規則所定の手続のいずれかを選択す
るに至らない事態も生じ得るが、相続人から所定の会費が納入されている限り、会
員の地位の承継の手続が遅延することによって、上告人又は本件クラブが格別の不
利益を被ることはないということができる。このような本件クラブの会員権につい
て、本件規則所定の六箇月の起算点を会員の死亡時とし、六箇月の期間経過後は相
続人は預託金の返還を求める権利のみを有すると解することは、遺産分割に関する
協議が早期に調わなかった会員の相続人に著しい財産上の不利益を一方的に被らせ
ることになり、相当とはいえない。したがって、本件規則は、死亡した会員の相続
人が複数いる場合には、相続人の間で遺産分割に関する協議が成立した後六箇月以
内に右規則所定の手続をすべき旨を定めたものと解するのが相当である。
 そうすると、被上告人は、本件規則所定の期間内に、被上告人への名義書換えの
手続を選択し、これを上告人に申し出たものというべきであり、これと同旨をいう
原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文
のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信
            裁判官    山   口       繁

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