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平成13年(行ケ)第58号 取消決定取消請求事件 (平成14年9月3日口頭
弁論終結)
            判    決
   原   告       株式会社日立製作所
   訴訟代理人弁理士    井 坂 光 明
   同           稲 毛   諭
   同           中 村   守
   被   告       特許庁長官 太田信一郎
   指定代理人       鈴 木  久 雄
   同           神 崎    潔
   同           大 野克 人
   同           林    栄 二
            主    文
     原告の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告の負担とする。
            事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
 特許庁が異議2000ー70844号事件について平成12年12月22日にし
た決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は、発明の名称(訂正前)を「真空処理装置及びその搬送システム」(訂正
後は「真空処理装置用搬送システム及びその運転方法」)とする特許第29425
27号(平成2年8月29日にした特許出願(特願平2-225321号)の一部
を分割して平成8年12月16日にした特許出願(特願平8-335329号)の
一部を更に分割して平成9年12月1日特許出願(特願平9-329873号)、
平成11年6月18日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
 本件特許につき、特許異議の申立てがあり(平成12年6月14日特許取消理由
通知、原告から平成12年8月28日訂正請求)、特許庁は、この申立てを異議2
000-70844号として審理した上、平成12年12月22日、「訂正を認め
る。特許第2942527号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」旨の決
定をし、その謄本を平成13年1月15日に原告に送達した。
 2 本件発明の要旨(訂正後の特許請求の範囲)
 ((イ)ないし(チ)、(ニ)’及び(チ)’の符合を付して構成要件に分説す
る。下線は、請求項1の記載と請求項2の記載の相違する部分を示す。)
「【請求項1】(イ)被処理基板を一枚毎真空処理する複数の真空処理室に連結さ
 れた搬送室と、
 (ロ)被処理基板もしくは処理済基板を複数枚収納できるカセットを大気中で載
置するカセット台と、
 (ハ)前記搬送室に連結され、該搬送室を介していずれかの真空処理室との間で
前記被処理基板を搬入するためのロードロック室及び前記搬送室を介していずれか
の真空処理室との間で処理済基板を搬出するためのアンロードロック室と、
 (ニ)前記大気中のカセットと前記ロードロック室及びアンロードロック室の双
方との間で前記被処理基板もしくは処理済基板を搬送する搬送装置と、
 (ホ)前記ロードロック室及びアンロードロック室の大気側及び真空側にそれぞ
れ設けられ、該ロードロック室及びアンロードロック室を大気雰囲気もしくは真空
雰囲気に切り替えるために前記被処理基板もしくは処理済基板を搬入出する毎に開
閉される隔離弁とを備え、
 (ヘ)前記ロードロック室及びアンロードロック室の大気側の隔離弁と前記搬送
装置との間に仕切りを設け、
 (ト)前記搬送装置は、清浄度の良い大気雰囲気に設置されており、
 (チ)大気雰囲気の前記ロードロック室と前記大気中の複数のカセットの1つと
の間で前記被処理基板を一枚毎搬送し、真空雰囲気の前記ロードロック室及びアン
ロードロック室と前記いずれかの真空処理室との間で、前記被処理基板もしくは処
理済基板を一枚毎搬入出し、前記アンロードロック室と前記1つのカセットとの間
で前記処理済基板を一枚毎搬送し該カセットの元の位置に収納することを特徴とす
る真空処理装置用搬送システム。」
【請求項2】(イ)被処理基板を一枚毎真空処理する複数の真空処理室に連結され
 た搬送室と、
 (ロ)被処理基板もしくは処理済基板を複数枚収納できるカセットを大気中で載
置するカセット台と、
 (ハ)前記搬送室に連結され、該搬送室を介していずれかの真空処理室との間で
前記被処理基板を搬入するためのロードロック室及び前記搬送室を介していずれか
の真空処理室との間で処理済基板を搬出するためのアンロードロック室と、
 (ニ)’前記大気中のカセットと前記ロードロック室及びアンロードロック室と
の間で前記被処理基板もしくは処理済基板を搬送する搬送装置と、
 (ホ)前記ロードロック室及びアンロードロック室の大気側及び真空側にそれぞ
れ設けられ、該ロードロック室及びアンロードロック室を大気雰囲気もしくは真空
雰囲気に切り替えるために前記被処理基板もしくは処理済基板を搬入出する毎に開
閉される隔離弁とを備え、
 (ヘ)前記ロードロック室及びアンロードロック室の大気側の隔離弁と前記搬送
装置との間に仕切りを設け、
 (ト)前記搬送装置は、清浄度の良い大気雰囲気に設置されており、
 (チ)’大気雰囲気の前記ロードロック室と前記大気中の複数のカセットの1つ
との間で前記被処理基板を一枚毎搬送し、真空雰囲気の前記ロードロック室及びア
ンロードロック室と前記いずれかの真空処理室との間で、前記被処理基板もしくは
処理済基板を一枚毎搬入出し、前記アンロードロック室と前記1つのカセットとの
間で前記処理済基板を一枚毎搬送し該カセットの元の位置に収納することを特徴と
する真空処理装置。」
 3 決定の理由の要旨
 決定は、別紙決定の理由写し(以下「決定書」という。)に記載のとおり、請求
項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)及び請求項2に係る発明について
の特許は、刊行物1(特開昭62-207866号公報、甲第4号証)記載の発
明、刊行物2(特開昭63-153270号公報、甲第5号証)記載の発明及び周
知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件
発明及び請求項2に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定により拒
絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたことになると認定、判断し
た。
第3 原告主張の決定取消事由の要点
 決定の理由の「1.[手続の経緯]」、「2.[訂正請求の認容と本件特許発
明]」及び「3.[引用例とその記載事項の概要]」は全て認める。
 しかし、「4.[発明の対比]」、「5.[相違点の検討]」及び「6.[請求
項2に係る発明について]」の一部並びに「7.[むすび]」は争う。
 決定は、本件発明と刊行物1記載の発明との一致点の認定を誤り、相違点及び作
用効果についても誤った認定、判断を行ったため、本件発明及び請求項2に係る発
明が想到容易であるとの誤った結論を導いたものであるから、違法であり、取り消
されるべきである。
 1 取消事由1(本件発明の想到容易性に関する判断の誤り)
 (1) 「搬送室」についての対比の誤り(一致点の誤認)
 決定は、「刊行物1・・・記載の「バッファ室10」及び「前処理室20」は、
刊行物1・・・に記載されているように、未処理の試料もしくは処理済みの試料を
搬送する手段を有しているものである点で、本件発明の「搬送室」に相当するとい
うことができる。」(決定書7頁28行~32行)と認定している。
 しかしながら、本件発明における「搬送室」は、被処理基板を一枚毎真空処理す
る複数の真空処理室に連結されており(構成要件(イ))、かつ、ロードロック室
及びアンロードロック室が連結され、搬送室を介していずれかの真空処理室との間
で被処理基板が搬入され、搬送室を介していずれかの真空処理室との間で処理済基
板が搬出される(構成要件(ハ))ものであるところ、刊行物1記載の発明には、
これに該当する室は存在しない。決定は、刊行物1における「バッファ室10」と
「前処理室20」とが本件発明の「搬送室」に相当するとしているが、これが誤り
であることは明らかである。
 さらに、刊行物1に記載された「バッファ室10」と「前処理室20」とは独立
排気されるべき全く別の機能を備えた独立した「二つの室」であり、それらを本件
発明の「一つの室」である「搬送室」に相当するとした認定自体がそもそも誤って
おり、このような誤った認定に基づいて本件発明の想到容易性の判断をすれば、当
然のこととして、誤った結論に至ることは避けられない。
 (2) 「仕切り」についての対比の誤り(一致点の誤認)
 決定は、「「刊行物1・・・に記載の「仕切壁300」、「清浄領域」は、本件
発明の「仕切り」、「清浄度の良い大気雰囲気」に相当し、刊行物1・・・には、
本件発明の構成要件(へ)及び(ト)に相当する事項が、実質的に記載されてい
る。」(決定書8頁7行~10行)と認定している。しかしながら、この認定は誤
ったものである。
 すなわち、本件発明においては、ロードロック室及びアンロードロック室の大気
側の隔離弁と搬送装置との間に仕切りを設け(構成要件(へ))、前記搬送装置
は、清浄度の良い大気雰囲気に設置(構成要件(ト))されているのに対して、刊
行物1に記載されている「仕切壁300」は、単なるクリーンルームの仕切壁にす
ぎず、本件発明のようなロードロック室・アンロードロック室の大気側の隔離弁と
搬送装置との間に設けた「仕切壁」に相当するものではない。
 したがって、刊行物1記載の発明に用いられている試料搬送手段190及び19
1は、清浄度の良い大気雰囲気中に設置されているものではない。
 刊行物1には、「仕切壁300」が「ロードロック室びアンロードロック室の大
気側の隔離弁と搬送装置との間に仕切りを設け」とした「仕切り」であるとする明
確な記載はなく示唆もない。
 刊行物1記載の発明においては、試料搬送手段190及び191は、「仕切壁3
00」の配置延長線上を越えて保守領域と清浄度の良い領域の両方に伸び出してお
り、つまりクリーンルーム内外に跨いで設置されている。これは、刊行物1記載の
発明で採用されている試料搬送手段190及び191がベルト駆動の搬送装置であ
るがゆえの必然的な構成であるが、それによって、保守領域と清浄度の良い領域を
基板搬送のためにベルトを通す開口を常に開放しておく必要があり、これによって
保守領域と清浄領域を仕切ることは到底できないものである。つまり、刊行物1記
載の「仕切壁300」は試料搬送手段190及び191が設置されている領域を保
守領域から仕切るためのものではないし、刊行物1の第3図からしても、保守領域
と試料搬送手段が設置されている領域を仕切る何らかの手段を設けることは不可能
である。
 (3) 相違点1についての判断の誤り
   ア 決定は、本件発明と刊行物1記載の発明との相違点1として、「搬送室
に関して、本件発明では、搬送室が1つの室として構成されているのに対して、刊
行物1記載の発明では、搬送室に相当する室が、バッファ室10と前処理室20と
から構成されている点」(決定書8頁末行~9頁2行)を認定した上、「搬送室を
1つの室として構成することは、刊行物2にも記載されているように従来周知の技
術であり、刊行物1記載の発明においても、前処理を必要としない真空処理装置で
あれば、当業者が上記周知の技術を採用して、搬送室を1つの室として容易に構成
し得るものである。」(決定書9頁28行~31行)と判断している。
   イ しかしながら、上述の通り、この認定は技術的に明らかに誤っている。
すなわち、独立排気されるべき全く別の機能を備えた独立した「二つの室」を「一
つの室」と対応させて比較検討すること自体がそもそも誤っており、それに加え
て、その判断においても以下のとおりに誤ったものである。
 刊行物2(甲第5号証)記載の発明では、単に「バッファ室3を1つの室として
構成されている装置」が開示されているにとどまるものであり、独立した二つの室
である「前処理室」と「バッファ室」を一つの「搬送室」として構成するとの記載
があるわけではなく、その示唆があるものでもない。刊行物2には、単に、「バッ
ファ室が1つの装置」が開示されているにすぎず、未処理ウエハあるいは処理済ウ
エハを装置に対して搬入出するロック室も1つであり、本件発明のようにロードロ
ック室とアンロードロック室とを独立して設ける構成ではない。したがって、この
ような装置の場合、該一つのロック室に腐食性ガスや反応性生成物などが付着して
内壁面が汚染されることとなる。そうすると、ロック室に反応生成物が堆積した状
態で大気状態となると、堆積した反応生成物と大気中の水分とが反応して異物が発
生しやすく、また気流によって堆積物の一部が舞い上がり大気中の水分との反応な
どで異物が発生しやすい状態になり、その結果、異物によって未処理ウエハに対し
ても処理済ウエハに対しても悪影響が大きくなるものである。つまり、大気中での
異物の挙動と真空中での異物の挙動は大きく異なり、堆積異物により製品ウエハ
(未処理ウエハ及び処理済ウエハ)への汚染が発生し、製品歩留まりを低下させ、
さらに、スループットが低下することとなるものであり、刊行物2記載の発明を採
用することによっては、本件発明において解決しようとしている課題を解決し得な
い。
 また、決定は、前掲のとおり、「刊行物1記載の発明においても、前処理を必要
としない真空処理装置であれば、当業者が上記周知の技術を採用して、搬送室を1
つの室として容易に構成し得るものである。」としながらも、刊行物1記載の発明
(スパッタリング装置)に対して刊行物2記載の発明(CVD装置)をいかに採用
すれば、「搬送室を1つの室として構成すること」が当業者にとって容易に想到し
得るかについて全く言及していない。
 以上のことから、刊行物2記載の発明が、独立した二つの室(「前処理室」と
「バッファ室」)を「1つの室として構成する」ことが当業者にとって容易になし
得るとの理由にはなり得ないことは明らかである。
   ウ 決定における「搬送室を1つの室として構成することは、従来周知の技
術である」(決定書9頁28行~29行)という認定は認める。しかし、刊行物1
記載の発明は、従来技術の問題点を認識した上で、それを防止するために生まれた
ものである。とすれば、前処理が不要な場合があるとしても、刊行物1記載の発明
からは、前処理室自体が不要であるとの発想は到底導き出されるものではない。
 (4) 相違点3についての判断の誤り
 決定は、本件発明と刊行物1記載の発明との相違点3として、
「搬送装置に関して、本件発明では、搬送装置が、大気中のカセットとロードロッ
ク室及びアンロードロック室「の双方」との間で被処理基板もしくは処理済基板を
搬送する(本件発明の構成要件(ニ))ものであって、当該搬送装置により、本件
発明の構成要件(チ)のように、大気雰囲気のロードロック室と大気中の複数のカ
セットの1つとの間で被処理基板を搬送し、アンロードロック室と「前記1つのカ
セット」との間で処理済基板を搬送し「該カセットの元の位置に収納する」もので
あるのに対して、刊行物1記載の発明では、搬送装置に相当する装置が、2つの試
料搬送手段190及び191から構成されており、当該2つの試料搬送手段のう
ち、試料搬送手段190により、ロード室160とカセットローダ180上のカセ
ットとの間で未処理の試料を搬送し、試料搬送手段191により、アンロード室1
62とカセットアンローダ181上の別の空のカセットとの間で処理済みの試料を
搬送し回収するものである点」(決定書9頁12行~24行)
を認定し、その上で、相違点3に関する検討においては、従来技術を引用して、
「そうすると、刊行物1記載の搬送装置としての2つの試料搬送手段190及び1
91に替えて、上記周知の技術の1つの搬送装置を採用して、本件発明の構成要件
(ニ)及び(チ)のようにすることは、当業者が容易に想到できたことである。」
(決定書10頁12行~15行)と判断している。
 しかしながら、本件発明と刊行物1記載の発明の構成全体を比較すると、両者は
搬送系が基本的に相違するものである。
 決定は、両発明の搬送系の相違に関して、「真空処理装置において、1つの搬送
装置により、ロック室と複数のカセットの1つとの間で被処理基板を搬送したり、
ロック室と前記1つのカセットとの間で処理済基板を搬送し該カセットの元の位置
に収納することは、従来周知の技術であり(例えば、特開昭63-133521号
公報(甲第6号証))、しかも、上記従来周知の技術のように、処理済基板を元の
カセットの元の位置に収納するようにするか、処理済みの試料を別の空のカセット
に回収するようにするかことは、従来から知られている選択的事項である(例え
ば、特開昭62-216315号公報(甲第7号記))。」と認定している(決定
書10頁1行~11行)。
 しかし、甲第6号証に記載された発明は、ロック室が1つの単一チャンバ方式、
つまり、1つの真空処理室を備えた基板の熱処理装置である。
 また、甲第7号証に記載された発明は、複数のカセットと、3つの搬送経路と、
1つの搬送経路上に設置された1つのカセットと、1つのロック室と、該1つのロ
ック室内に設置された2つのカセットとを有し、かつ真空処理室は1つでバッチ処
理である。このため、1つのロック室に2つのカセットを内蔵し、搬送経路にも1
つのカセットを設置しており、装置構成を大型かつ複雑化した技術である。このよ
うな構成において、真空処理後、戻されたウエハを元のカセット内における順序が
元の状態に戻るというカセット単位の管理とカセット内の順番による管理を行うも
のである。この場合、通常のカセットの基板収納枚数は25枚であり、カセット内
に25枚の基板が一杯に挿入されている場合には、結果的に元の位置に戻されるこ
とになるが、甲第7号証刊行物にも記載されているように「途中のプロセスで不良
品が発生したりして・・・ウエハ枚数が減る場合」(5頁右下欄5行~7行)に
は、カセット内に順次詰めて入れられることになり、「順番による管理」はできて
も、カセット内の「位置による管理」はできない。つまり、甲第7号証の発明で
は、最終カセット内の上から3枚目に収納されている基板であっても、カセットに
最初に収納された時は、何段目に入っていた基板なのかの「位置による管理」はで
きていない。
 以上のように、甲第6号証記載の発明も甲第7号証記載の発明も、本件発明とは
全く相違した搬送系を備えた装置であるにもかかわらず、決定のように本件発明の
搬送系に関する構成要件を細分化し、それぞれの構成要件が各刊行物において周知
技術あるいは選択的事項とであるとしてしまえば、特許性が担保される特許発明は
皆無といっても過言ではない。
 被告が主張するように、結果的に基板が「カセットの元の位置」に戻っていると
いうだけの点が周知であるという理由によって本件特許が取り消されるとするなら
ば、甲第6号証や甲第7号証を引用するまでもなく、ウエハを人手によって戻そう
と、ベルトコンベアによって戻そうと、「カセットの元の位置に戻す」ことは、カ
セットを採用したときから周知であったということができる。しかしながら、本件
発明は、ロット管理をカセット単位で行ってきたものを、複数カセットを備えて複
数真空処理室の内のいずれかの真空処理室で処理するものにおいては、ロット管理
をウエハ単位で行うことが重要であることを知覚したことによって発明として完成
させたものなのである。
 
 (5) 作用効果の看過
 決定が「本件発明が奏する作用効果も、上記各刊行物記載の発明及び上記周知の
技術から予測される程度以上のものでもない。」(決定書10頁16行~17行)
とした認定も、誤った認定である。
 本件明細書の「発明の効果」の欄には、「本発明によれば、装置全体をクリーン
ルーム内に設置するのに比べてクリーンルームを小さくできるので、クリーンルー
ムの設備費を軽減できる。また、クリーンルーム内の維持管理費を軽減できる。」
と記載しており、決定は、本件発明の上記従来技術にない格別な作用効果を看過し
たものである。
 (6) 想到容易性の判断の誤り
 以上のとおり、決定は、本件発明と刊行物1記載の発明との一致点の認定及び相
違点の対比判断を誤り、本件発明の顕著な作用効果を看過したため、本件発明が刊
行物1及び2記載の発明並びに周知技術から容易に想到し得たものである旨誤った
判断に至ったものである。
 すなわち、本件発明は、構成要件(イ)ないし(チ)を備えることによって、初
めてコンタミネーション(汚染)を防止しかつスループットの高い真空処理装置用
搬送システムを提供することができるようにしたものである。にもかかわらず、決
定は、本件発明の構成要件を分説し、各構成要件間の有機的関連は無視して個々の
構成要件を更に細分化して、各刊行物記載の発明及び周知技術の構成要件と比較
し、各構成要件が「各刊行物記載の発明」、「従来周知の技術」あるいは「従来か
ら知られている選択的事項」であるから「上記各刊行物記載の発明及び上記周知の
技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものである」としているもの
であり、誤ったものである。
 2 取消事由2(請求項2に係る発明についての想到容易性の判断の誤り)
 決定は、「本件請求項2に係る発明は、上記本件発明と同様の理由により、上記
各刊行物記載の発明及び上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明することが
できたものである。」(決定書10頁27行~29行)と判断しているが、この判
断は誤ったものである。
 上述したとおり刊行物1記載の発明と本件発明とは大きく異なるのであり、請求
項2に係る発明は、本件発明と同様の理由により、当業者といえども全く想到し得
ない。
第4 被告の反論の要点
 1 取消事由1(本件発明の想到容易性判断の誤り)に対して
 (1) 「搬送室」についての対比の誤り(一致点の誤認)に対して
 原告主張の主旨は、刊行物1記載の発明の「バッファ室10」と「前処理室2
0」とは、独立して減圧排気される別々の機能を備えた室として構成されるもので
あるから、決定において、上記「バッファ室10」及び「前処理室20」が本件発
明の「搬送室」に相当するとした認定は誤りである、というものである。
 確かに、刊行物1に、「バッファ室10」と「前処理室20」とが、独立して減
圧排気される別々の機能を備えた室として記載されていることは、原告主張のとお
りである。
 原告は、搬送室が複数の真空処理室に連結されており(構成要件イ)、ロードロ
ック室及びアンロードロック室が連結され、搬送室を介していずれかの真空処理室
との間で被処理基板が搬入搬出されるものである(構成要件ハ)点が刊行物1に記
載されていない旨の主張をする。
 しかし、この刊行物1記載の発明における「バッファ室及び前処理室」からなる
「搬送室」は、「複数の真空処理室に連結」されていて、また「ロードロック室及
びアンロードロック室が連結され、搬送室を介していずれかの真空処理室との間で
被処理基板が搬入・・・搬出される」のであって、上記の構成は刊行物1にも記載
されていることが明らかであるから、原告の上記主張は当を得たものとはいえな
い。
 (2) 「仕切り」についての対比の誤り(一致点の誤認)に対して
 原告主張の主旨は、刊行物1記載の「仕切壁300」は、単なるクリーンルーム
の仕切壁であり、本件発明のようにロードロック室及びアンロードロック室の大気
側の隔離弁と搬送装置との間に設けた「仕切り」に相当するものではないから、刊
行物1に、本件発明の構成要件(ヘ)及び(ト)に相当する事項が実質的に記載さ
れているということはできないというものである。
 そこで検討すると、まず、本件発明の構成要件(ヘ)には、「仕切り」に関し
て、「前記ロードロック室及びアンロードロック室の大気側の隔離弁と前記搬送装
置との間に仕切りを設け」と規定され、さらに、構成要件(ト)に「前記搬送装置
は、清浄度の良い大気雰囲気に設置されており」と規定されているが、上記仕切り
に関する実施例としては、本件明細書の段落番号【0017】に、「隔離弁12
a、12bを境にして仕切りを設け、カセット台2a、2bとそこに載置されたカ
セット1a、1b及び第1搬送装置13のみを清浄度の高いクリーンルーム側に置
き、残りの部分は清浄度の低いメインテナンスルーム側に置くことができる。」
(なお、符号12bは、12dの誤記と認められる。)と記載されているのみであ
って、【図1】には、仕切りに関して何ら記載されていない。
 さらに、ウエハ(基板)を搬送するためには、仕切りに少なくともウエハ(基
板)1枚が通過することのできる開口を設ける必要があり、一方、仕切りの機能と
して、清浄度の高いクリーンルーム側と清浄度の低いメインテナンスルーム側とを
遮蔽する必要がある。そうすると、本件発明の仕切りは、大気側の隔離弁に対して
は開口する開口部を備えるとともに、クリーンルーム側とメインテナンスルーム側
とを区分けするものであると解すべきである。
 一方、刊行物1には、クリーンルームの仕切壁300に関して、「第3図
で、・・・バッファ室10と前処理室20とロード室160とアンロード室162
は、架台200上に設置されている。カセットローダ180とカセットアンローダ
181とを含む筐体210は、架台200に着脱可能に設けられる。これによ
り、・・・仕切壁300を境にして架台200側をスパッタ装置の保守領域に、ま
た、筐体210側を清浄領域つまりクリーンルーム内に置くことができる。このた
め、試料への塵埃の付着を防止できる。また、他設備と連結し自動搬送ライン化す
る場合でも、・・・容易に対応できる。」(4頁左上欄7行~20行)と記載され
ている。また、試料の搬送に関しては、「大気真空間遮断手段170の大気側に
は、・・・大気真空間遮断手段170を介して試料を試料搬送手段161に渡すベ
ルト搬送装置等の試料搬送手段190が設けられている。」(3頁右下欄5行~1
0行)、「試料搬送手段190を作動させることで未処理の試料はカセットから取
り出され大気真空間遮断手段170に向って搬送される。・・・試料は、開けられ
ている大気真空間遮断手段170を介して試料搬送手段161に渡されてロード室
160内に搬入される。」(第4頁左下欄第5行~第12行)及び「その後、大気
真空間遮断手段171を開け試料搬送手段163、191を作動させることで、処
理済みの試料は、アンロード室162外に搬出されて空のカセットに回収され
る。」(6頁左上欄5行~8行)と記載されている。
 刊行物1の上記各記載事項と第1図及び第3図の記載とを総合すると、刊行物1
記載の「クリーンルームの仕切壁300」は、試料の搬送のために、大気真空間遮
断手段170、171に対して開口する開口部を備えていることが明らかであり、
また、試料への塵埃の付着を防止することができるものであることから、上記仕切
壁300により、保守領域と清浄領域(クリーンルーム)とに区分けされ、試料搬
送手段190、191は、上記清浄領域(クリーンルーム)に設置されていること
も明らかである。
 そうすると、本件発明の「仕切り」と刊行物1記載の「仕切壁300」とは、実
質的に同じ機能を果たすものであり、「刊行物1・・・には、本件発明の構成要件
(ヘ)及び(ト)に相当する事項が、実質的に記載されている。」とした決定の認
定に誤りはない。
 (3) 相違点1についての判断の誤りに対して
 原告主張の主旨は、刊行物1記載の連続スパッタ装置に関する発明は前処理室と
バッファ室とを独立した別の室として構成することが必須要件であり、独立した二
つの室である「前処理室」と「バッファ室」を一つの「搬送室」として構成するこ
とが従来周知の技術でないにもかかわらず、審決が「前処理室」と「バッファ室」
とをまとめて本件発明の「搬送室」に相当するとして、「搬送室を1つの室として
構成することは、刊行物2にも記載されているように従来周知の技術であり、刊行
物1記載の発明においても、前処理を必要としない真空処理装置であれば、当業者
が上記周知の技術を採用して、搬送室を1つの室として容易に構成し得るものであ
る。」と判断したことは誤りである、というものである。
 そこで検討すると、まず、上記(1)で詳述したとおり、決定においては、試料
の搬送という観点から、刊行物1記載の発明の「バッファ室10」及び「前処理室
20」が本件発明の「搬送室」に相当すると認定したものである。
 次に、決定において認定したとおり、搬送室を1つの室として構成することは、
刊行物2にも記載されているように従来周知の技術である。なお、上記従来周知の
技術は、乙第1号証(前田和夫著「VLSIプロセス装置ハンドブック」1990
年6月10日、株式会社工業調査会発行、149頁~165頁)にも、157頁図
3.50及び158頁8行~13行に、ロボットRが配置された「ランダムアクセ
ス枚葉式装置」として記載されている。
 そして、原告提出の甲第8号証にも明示されているように、もともと搬送室は1
つの室として構成されていたものを、刊行物1に記載されているように、前処理を
必要とする真空処理装置においては、搬送室としても機能する前処理室20を付加
して設けるようにしたものである。
 そうすると、前処理を必要としない真空処理装置においては、当業者であれば、
従来から周知の技術であった、搬送室を1つの室として構成したものを当然採用す
るところである。
 なお、原告は、刊行物2は未処理ウエハ或いは処理済ウエハを装置に対して搬入
出するロック室も1つであり、本件発明のようにロードロック室とアンロードロッ
ク室とを独立して設ける構成ではないと主張しているが、当該主張は、ロック室に
関する主張であり、搬送室に関する相違点1の判断と直接には関係しない主張とい
うべきである。
 (4) 相違点3についての判断の誤りに対して
 原告主張の主旨は、本件発明は「真空処理装置用搬送システム」であるにもかか
わらず、夫々の搬送系を構成する個々の搬送手段のみに着目し、相違点3に関して
決定が、「刊行物1記載の搬送装置としての2つの試料搬送手段190及び191
に替えて、上記周知の技術の1つの搬送装置を採用して、本件発明の構成要件
(ニ)及び(チ)のようにすることは、当業者が容易に想到できたことである。」
とした判断は誤っている、というものである。
 大気中の複数のカセットとロードロック室/アンロードロック室との間の搬送系
について検討すると、一般的に、ウエハ(基板)の搬送手段として、刊行物1に記
載されているようなベルトを用いた搬送装置及び甲第6号証に記載されているよう
なアームを用いた搬送機構は、共に周知のものであって、しかも、これらの搬送装
置や搬送機構は、互いに置換ができないというものではない。
 そして、甲第6号証に記載されているように、真空処理装置において、1つの搬
送装置により、ロードロック室/アンロードロック室と複数のカセットの1つとの
間で被処理基板を搬送したり、ロードロック室/アンロードロック室と前記1つの
カセットとの間で処理済基板を搬送し該カセットの元の位置に収納することも、従
来周知の技術であり、しかも、特開昭62-216315号公報(甲第7号証)に
記載されているように、処理済基板を元のカセットの元の位置に収納するようにす
るか、処理済みの試料を別の空のカセットに回収するようにするかは、従来から選
択的に行われている設計事項である。
 そして、ロードロック室/アンロードロック室と複数の真空処理室との間の搬送
系についての従来周知の技術、及び、大気中の複数のカセットとロードロック室/
アンロードロック室との間の搬送系についての従来周知の技術を、刊行物1記載の
発明に適用することに、特段の妨げとなる事情は見あたらず、上記本件発明の搬送
系は、決定においても述べているように、刊行物1記載の発明に、上記それぞれの
従来周知の技術を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものである。
 (5) 作用効果の看過に対して
 原告は、決定が本件発明の従来技術にない格別な作用効果を看過したものである
と主張する。
 しかしながら、本件明細書の「発明の効果」の欄に記載の効果は、本件発明の構
成要件の内の「(ヘ)前記ロードロック室及びアンロードロック室の大気側の隔離
弁と前記搬送装置との間に仕切りを設け」及び「(ト)前記搬送装置は、清浄度の
良い大気雰囲気に設置されており」という構成により奏される効果であるから、上
記本件発明の構成要件(ヘ)及び(ト)に相当する事項を備えた刊行物1記載の発
明から予測されるものである。
 したがって、原告の主張は失当であり、決定における作用効果についての認定、
判断に誤りはない。
  (6) 想到容易性の判断の誤りに対して
 原告は、決定は本件発明を個々の構成要件に細分化して認定したもので、誤った
ものであると主張し、また、本件発明の「ゴミの発生や残留ガスなどによる製品の
汚染をなくし、高い生産効率と高い製品歩留まりを実現する真空処理装置用搬送シ
ステムを提供すること」とした目的は、上記構成要件が有機的に組み合わされて初
めて達成できるものであると主張している。
 しかしながら、発明の認定や対比に際しては、発明を各構成要件毎に区分する手
法が通常とられており、決定においても、大気中の複数のカセットとロードロック
室/アンロードロック室との間の搬送系、及び、ロードロック室/アンロードロッ
ク室と複数の真空処理室との間の搬送系等、それぞれの機能や配置等を勘案した合
理的な根拠の下に、本件発明の各構成要件を区分して認定したものであり、技術的
な意味もなく過度に細分化して認定したものではない。また、それぞれの構成要件
を組み合わせることや、当該組合せに基づく作用効果が格別のものとはいえないこ
とも、既に決定において指摘したとおりである。
 2 取消事由2(請求項2の発明の想到容易性についての対比判断の誤り)に対
して
 請求項2に係る発明は、構成要件(ニ)’において「の双方」という限定が付さ
れていない点、及び、構成要件(チ)’の末尾が「真空処理装置」である点でのみ
本件発明と相違しており、上記1で詳述したのと同様の理由により、各刊行物記載
の発明及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであ
る。
 決定における、「刊行物1記載の連続スパッタ装置が、真空処理装置の一種であ
ることは、上記したとおりであり、本件請求項2に係る発明は、上記本件発明と同
様の理由により、上記各刊行物記載の発明及び上記周知の技術に基いて、当業者が
容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項2に係る発明について
の特許は、特許法第29条第2項の規定により、拒絶の査定をしなければならない
特許出願に対してされたことになる。」との判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(本件発明の想到容易性についての判断の誤り)について
 原告は、決定が、本件発明と刊行物1記載の発明との対比において、本件発明の
「搬送室」及び「仕切り」という2点において一致点の認定を誤り(取消事由1の
(1)及び(2))、さらに、相違点1及び相違点3の対比判断を誤り(同(3)
及び(4))、顕著な作用効果を看過した(同(5))ため、これら相違点に係る
構成の想到容易性ついての判断を誤った(同(6))と主張するので、以下、順次
判断する。
 (1) 「搬送室」について
 原告は、決定における「刊行物1・・・に記載の「バッファ室10」及び「前処
理室20」は、刊行物1・・・に記載されているように、未処理の試料もしくは処
理済みの試料を搬送する手段を有しているものである点で、本件発明の「搬送室」
に相当するということができる。」(決定書7頁28行~32行)との認定が誤り
であると主張する。
   ア 本件特許請求の範囲の請求項1(本件発明)には、搬送室に関して、
「被処理基板を一枚毎真空処理する複数の真空処理室に連結された搬送室」(構成
要件(イ))、「搬送室に連結され、該搬送室を介して・・・基板を搬入するため
のロードロツク室及び前記搬送室を介して・・・基板を搬出するためのアンロード
ロツク室」(構成要件(ハ))と記載されている。
 一方、刊行物1には、決定が認定したとおり、「バッファ室10の五角形の各辺
の外側には、各開口11によりバッファ室10内と連通して前処理室20と4室の
処理室30~60が配設されている。」(決定書4頁23行~25行)、「処理室
20には、試料搬送手段21に対応した位置でゲートバルブ等の真空間遮断手段1
50を介してロード室160が設けられている。」(同頁26行~28行)、及び
「一方、処理室20には、試料搬送手段26に対応した位置でゲートバルブ等の真
空間遮断手段151を介してアンロード室162が設けられている。」(同頁35
行~5頁1行)、という事項が記載されており、このことは原告も争わないところ
である。また、刊行物1の「処理室」、「ロード室」、「アンロード室」が各々本
件発明の「真空処理室」、「ロードロック室」、「アンロードロック室」に相当す
ることについても争いはない。
 そうすると、刊行物1において、「バッファ室10及び前処理室20」は、全体
として、本件発明の「真空処理室」に相当する「処理室」に連結される一方で、本
件発明の「ロードロック室」及び「アンロードロック室」に相当する「ロード室」
及び「アンロード室」にも連結されているものであって、本件発明の構成要件
(イ)及び(ハ)に示されている「搬送室」の記載に対応しており、この点で本件
発明に記載されている「搬送室」に相当するということができる。
 したがって、刊行物1のバッファ室10及び前処理室20は本件発明の「搬送
室」に相当する旨の決定の認定、及びこれを前提とする本件発明と刊行物1記載の
発明との一致点に関する決定の認定に誤りはない。
   イ 原告は、刊行物1に記載された「バッファ室10」と「前処理室20」
とは独立排気されるべき全く別の機能を備えた独立した「二つの室」であり、それ
らを本件発明の「一つの室」である「搬送室」に相当するとした認定がそもそも誤
っていると主張する。
 しかしながら、本件発明における「搬送室」は、その文言のとおり、被処理基板
の搬送が行われる室を意味するものと解されるところ、請求項1の記載には「搬送
室」が「一つの室」でなければならないとの限定はない。また、本件明細書の発明
の詳細な説明欄の記載によれば、本件発明の目的は、「ゴミの発生や残留ガスなど
による製品の汚染をなくし・・・」、「ドライクリーニングが効率的に行える真空
処理装置用搬送システムの運転方法を提供する」(本件明細書段落【0007】
【0008】)ことであり、発明の効果は、「クリーンルームを小さくでき
る・・、クリーンルーム内の維持管理費を軽減できる」(段落【0026】)とい
うものであり、このような目的、効果からみても、「搬送室」が「一つの室」から
構成されるものでなければならないと解すべき理由はない。したがって、本件発明
の「搬送室」は、「一つの室」から構成されるものに限定されないと解することが
相当であり、隣接して設けられた2つの室のうち一方がロードロック室及びアンロ
ードロック室に連結され、他方が真空処理室に連結されていて、被処理基板が両方
の室を通過して真空処理室とロードロック室・アンロードロック室との間を搬送さ
れるようになっている場合は、2つの室をあわせて「搬送室」とみることに妨げは
ないというべきである。
 しかも、決定においては、「搬送室に関して、本件発明では、搬送室が1つの室
として構成されているのに対して、刊行物1記載の発明では、搬送室に相当する室
が、バッファ室10と前処理室20とから構成されている点」を本件発明と刊行物
1記載の発明との「相違点1」として挙げ(決定書8頁38行~9頁2行)、相違
点1については別に判断しているのであり、原告の主張する点は、相違点1につい
ての決定の判断において考慮されているということができる。
 したがって、決定が「バッファ室10」及び「前処理室20」を本件発明の「搬
送室」の相当すると認定し、これに基づいて本件発明と刊行物1記載の発明の一致
点を認定したことに誤りは認められない。
 (2) 「仕切り」について
 原告は、決定が「「刊行物1・・・に記載の「仕切壁300」、「清浄領域」
は、本件発明の「仕切り」、「清浄度の良い大気雰囲気」に相当し、・・・刊行物
1・・・には、本件発明の構成要件(へ)及び(ト)に相当する事項が、実質的に
記載されている。」(決定書8頁7行~10行)と認定したことに対して、刊行物
1に記載されている「仕切壁300」は、単なるクリーンルームの仕切壁であり、
本件発明のようにロードロック室及びアンロードロック室の大気側の隔離弁と搬送
装置との間に設けた「仕切壁」に相当するものではないと主張し、その主張の根拠
として、刊行物1には「仕切壁300」が「仕切り」であるとする明確な記載も示
唆もないこと、及び、刊行物1記載の発明においては、試料搬送手段190及び1
91は、「仕切壁300」の配置延長線上を越えて保守領域と清浄度の良い領域の
両方に伸び出しており、保守領域と清浄領域を仕切ることは到底できないものであ
ること、を挙げる。
    ア そこでまず、本件発明について検討すると、請求項1には、仕切りに
関して、「前記ロードロック室及びアンロードロック室の大気側の隔離弁と前記搬
送装置との間に仕切りを設け」(構成要件(ヘ))と記載され、清浄度に関して、
「前記搬送装置は、清浄度の良い大気雰囲気に設置されており」(構成要件
(ト))と記載されていることが認められる。
 一方、刊行物1には「大気真空間遮断手段170、171」、「試料搬送手段1
90及び191」が記載されており、これらが各々本件発明の「隔離弁」、「搬送
装置」に相当すること(決定書7頁36行~8頁5行)は、原告の争わないところ
である。
 また、刊行物1に記載された事項について、決定は、①「ロード室160に
は、・・・大気真空間遮断手段170が設けられている。大気真空間遮断手段17
0の大気側には、カセットローダ180から試料を受け取り搬送し大気真空間遮断
手段170を介して試料を試料搬送手段161に渡すベルト搬送装置等の試料搬送
手段190が設けられている。」(決定書4頁30行~35行)、②「アンロード
室162には、・・・大気真空間遮断手段171が設けられている。大気真空間遮
断手段171の大気側には、カセットアンローダ181I試料を渡し大気真空間遮
断手段171を介して試料を試料搬送手段163から受け取り搬送するベルト搬送
装置等の試料搬送手段191が設けられている。」(決定書5頁3行~8行)、及
び③「第3図で、処理室30~60が設けられたバッファ室10と前処理室20と
ロード室160とアンロード室162は、架台200上に設置されている。カセッ
トローダ180とカセットアンローダ181とを含む筐体210は、架台200に
着脱可能に設けられる。これにより、スパッタ装置が設置されるクリーンルームの
仕切壁300を境にして架台200側をスパッタ装置の保守領域に、また、筐体2
10側を清浄領域つまりクリーンルーム内に置くことができる。」(決定書5頁1
2行~18行)と認定しており、これらの認定についても、争いはない。
   イ 以上の争いのない刊行物1の記載事項によれば、大気真空間遮断手段1
70を有するロード室160及び大気真空間遮断手段171を有するアンロード室
162は、架台200上に設置され、保守領域にあり、カセットローダ180とカ
セットアンローダ181とを含む筐体210はクリーンルームの仕切壁300を境
にして清浄領域つまりクリーンルーム内にあり、試料搬送手段190、191は大
気真空間遮断手段170、171の大気側に設けられているのであるから、試料搬
送手段190、191(本件発明の搬送装置に相当)は保守領域にある大気真空間
遮断手段170、171(本件発明の隔離弁に相当)の大気側であって清浄領域に
あり、保守領域と清浄領域の間には境となる仕切壁が存在するということができ
る。
 そうすると、刊行物1に記載された「仕切壁300」及び「清浄領域」は、各々
本件発明の「仕切り」及び「清浄度の良い大気雰囲気」に相当すると認められ、刊
行物1には、本件発明の構成要件(へ)及び(ト)に相当する事項が実質的に記載
されているということができる。したがって、これと同旨の決定の認定に誤りは認
められない。
 (3)相違点1についての判断について
 原告は、決定が、相違点1:「搬送室に関して、本件発明では、搬送室が1つの
室として構成されているのに対して、刊行物1記載の発明では、搬送室に相当する
室が、バッファ室10と前処理室20とから構成されている点」につき、「搬送室
を1つの室として構成することは、刊行物2にも記載されているように従来周知の
技術であり、刊行物1記載の発明においても、前処理を必要としない真空処理装置
であれば、当業者が上記周知の技術を採用して、搬送室を1つの室として容易に構
成し得るものである。」(決定書9頁28行~31行)と判断したことについて、
上記判断は誤りであると主張する。
   ア しかしながら、搬送室を1つの室として構成することが従来周知の技術
であることは、原告も争わないところである。
 そうすると、相違点1に係る構成につき、周知技術である「搬送室を1つの室と
して適用する」という技術的事項を採用して本件発明の構成とすることに格別の困
難があるとは認められない。
   イ 原告は、刊行物2(特開昭63-153270号公報、甲第5号証)に
は「前処理室」と「バッファ室」を一つの「搬送室」として構成するとの記載や示
唆はなく、刊行物2記載の発明を採用することによっては本件発明において解決し
ようとしている課題を解決し得ないと主張するが、決定は搬送室を1つの室として
構成することの周知性を指摘したものであって、刊行物2はその例示としたものに
すぎず、刊行物2に記載された装置の構成そのものを相違点1に係る構成について
採用し得るか否かは、上記判断を左右するものではない。
 また、原告は、前処理室自体が不要であるとの発想は刊行物1記載の発明からは
到底導き出されるものではないとも主張するが、前処理室が不要で搬送室を1つの
室として構成することが従来周知の技術であることを考慮すれば、前処理を必要と
しない真空処理装置において搬送室を1つの室とすることは、当業者が当然に採用
する構成であると認められる。したがって、このような搬送室を1つの室として構
成する周知技術を刊行物1記載のものに適用することが格別困難であるということ
はできない。
 以上のとおり、相違点1についての決定の判断に誤りがある旨の原告の主張は、
採用することができない。
 (4) 相違点3についての判断について
 原告は、相違点3(搬送装置に関して、本件発明では、搬送装置が、大気中のカ
セットとロードロック室及びアンロードロック室「の双方」との間で被処理基板も
しくは処理済基板を搬送する(本件発明の構成要件(ニ))ものであって、当該搬
送装置により、本件発明の構成要件(チ)のように、・・・「該カセットの元の位
置に収納する」ものであるのに対して、刊行物1記載の発明では、・・・試料搬送
手段190により、ロード室160とカセットローダ180上のカセットとの間で
未処理の試料を搬送し、試料搬送手段191により、アンロード室162とカセッ
トアンローダ181上の別の空のカセットとの間で処理済みの試料を搬送し回収す
るものである点)について、決定が、
 「真空処理装置において、1つの搬送装置により、ロック室と複数のカセットの
1つとの間で被処理基板を搬送したり、ロック室と前記1つのカセットとの間で処
理済基板を搬送し該カセットの元の位置に収納することは、従来周知の技術であり
(例えば、特開昭63-133521号公報・・・)、しかも、上記従来周知の技
術のように、処理済基板を元のカセットの元の位置に収納するようにするか、刊行
物1記載の発明のように、処理済みの試料を別の空のカセットに回収するようにす
るかは、従来から知られている選択的事項である(例えば、特開昭62-2163
15号公報・・・)。そうすると、刊行物1記載の搬送装置としての2つの試料搬
送手段190及び191に替えて、上記周知の技術の1つの搬送装置を採用して、
本件発明の構成要件(ニ)及び(チ)のようにすることは、当業者が容易に想到で
きたことである。」(決定書10頁1行~11行)と判断したことにつき、特開昭
63-133521号公報(甲第6号証)に記載の発明及び特開昭62-2163
15号公報(甲第7号証)に記載の発明は、いずれも本件発明とは全く相違した搬
送系を備えた装置であり、甲第7号証記載の発明では「位置による管理」はできて
おらず、決定の上記判断は誤りであると主張する。
   ア しかし、決定が周知技術の例として挙げた甲第6号証には、「本実施例
はウェーハ収納カセット1より未処理ウェーハ11を取り出し、・・・ロードロッ
ク室4、ウェーハ搬送室3を経て熱処理室12に搬入して熱処理し、この処理済ウ
ェーハ11を逆の過程で取り出し、再びウェーハ収納カセット1に収納するという
動作を全て自動で行う」(6頁左下欄2行~8行)、「これでウェーハ11はカセ
ット1からロードロック室4へ移されたことになる。ウェーハ11をカセット1へ
収納する場合はこの逆の動作を行えばよい。・・・第1、第2図例ではカセット1
が1個の場合を示してあるが、・・・複数個(本例では最大5個)設置しておけ
ば、1個のカセットが終了しても連続して作業を行うことができる。」(7頁左上
欄2行~12行)との記載が認められ、これによれば、搬送装置によりロック室と
複数のカセットの1つとの間で被処理基板を搬送したり、ロック室と前記1つのカ
セットの1つとの間で処理済基板を搬送し該カセットの元の位置に収納することは
従来周知の技術であるとした決定の認定に誤りは見いだせない。
 そして、搬送系の他の部分が異なるとしても、このような周知の搬送装置を引用
例1記載の発明に適用することに阻害要因は認められない。
   イ 原告は、また、甲第7号証記載の発明では処理済みウエハを元のカセッ
ト内の元の位置に戻すという「位置による管理」はできていないと主張する。
 しかしながら、決定は、甲第6号証を例示として、ロック室と1つのカセットと
の間で処理済基板を搬送し該カセットの元の位置に収納することは従来周知の技術
であるとした上で、処理済基板を元のカセットの元の位置に収納するか別の空のカ
セットに回収するかは適宜選択される事項であることを示すものとして甲第7号証
を挙げているのであり、しかも、同号証の「さらにまた、前述した各カセット2
1,22,25,26,31に対するウエハ4の搬出入を各カセット内のウエハ4
の順序が途中で入れ替わらないようにカセット単位で行い、かつ搬出はカセットの
下側からとし、搬入はカセットの上側からとすれば、第1のカセット25から出て
再び第1のカセット25に戻されたウエハ4は、第1のカセット25内における順
序が元の状態に戻るので、カセット単位の管理のみならずカセット内の順番による
管理も可能である。」(5頁右上欄14行~左下欄3行)との記載は、処理済みの
ウエハが元のカセット内の「順序が元の状態」に戻ることを明確に記載しているか
ら、処理済みのウエハを元のカセット内の元の位置に収納することを明らかに示唆
しているということができる。したがって、甲第7号証についての原告の主張は、
甲第6号証に記載されたような周知の搬送装置を引用例1記載の発明に適用するこ
とに阻害要因はないとの前記判断を左右するものではない。
 (5) 作用効果について
 原告は、本件明細書の「発明の効果」の欄記載の「本発明によれば、装置全体を
クリーンルーム内に設置するのに比べてクリーンルームを小さくできるので、クリ
ーンルームの設備費を軽減できる。また、クリーンルーム内の維持管理費を軽減で
きる。」との効果は従来技術にない格別な作用効果であり、決定は、これを看過し
たものであると主張する。
 しかし、刊行物1に「第3図で、・・・スパッタ装置が設置されるクリーンルー
ムの仕切壁300を境にして架台200側をスパッタ装置の保守領域に、また、筐
体210側を清浄領域つまりクリーンルーム内に置くことができる。」(決定書5
頁12行~18行)との記載があることは既に認定したとおりである。原告主張の
効果は、刊行物1記載の発明も奏する効果であるということができ、格別のものと
認めることはできない。
 (6) 想到容易性の判断について
 原告は、本件発明の構成要件を細分化し各々の構成要件が各刊行物において周知
技術あるいは選択的事項としてしまえば、特許性が担保される特許発明は皆無とな
ると主張するが、構成を細分化することは、発明の対比を行うときに通常行われる
手法であり、対比を厳密に行うためのものであり、この手法自体に誤りはない。原
告の主張は失当である。
  (7) まとめ
 以上のとおりであるから、本件発明についての原告主張の取消事由は、理由がな
い。
 2 取消事由2(本件請求項2に係る発明の対比判断の誤り)
 原告は、本件請求項2に係る発明は本件発明(本件請求項1に係る発明)と同様
の理由により当業者といえども全く想到することができないものであると主張す
る。
 本件発明についての取消事由1に理由がないことは上記のとおりであり、本件請
求項2に係る発明についての取消事由2についても、同様に、理由のあるものとい
うことはできない。
 3 結論
 以上のとおりであるから、原告主張の決定取消事由は理由がなく、その他決定に
取り消すべき瑕疵は見当たらない。よって、原告の請求を棄却することとし、主文
のとおり判決する。
東京高等裁判所第18民事部
     裁判長裁判官  永  井  紀  昭
 裁判官古  城  春  実
         裁判官  田  中  昌  利

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
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