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○土地改良区の理事について,再選後の職務に関し収賄罪(土地改良法140条1項前段)が成立
とされた事例
平成15年1月30日判決宣告
仙台高等裁判所 平成14年(う)第162号 土地改良法違反被告事件
(原審 仙台地方裁判所 平成14年(わ)第57号 平成14年9月10日判決宣告)
          主     文
     本件控訴を棄却する。
          理     由
1 本件控訴の趣意は,弁護人松澤陽明が提出した控訴趣意書に記載のとおりであるから,これを
 する。
  論旨は,法令の適用の誤りの主張であり,要するに,被告人は,土地改良区の理事の地位にあ
 が,その任期は平成13年6月27日に満了することになっており,同月25日に現金の供与を
 た時点では,同月28日に施行される予定の新理事長選任についての職務権限はなかったのであ
 ら,新理事長選任に関連して現金を受け取ったとしても,職務に関して賄賂を収受したことには
 ず,土地改良法140条1項前段の収賄罪は成立しないというべきであり,その成立を認めた原
 には法令の適用の誤りがある,というのである。
2 そこで,記録を調査して検討する。
  記録によると,被告人は,平成13年6月25日当時,土地改良区の理事の地位にあり,その
 は同月27日満了するが,同月28日以降の次期も理事になることは,選出手続きによって確定
 いたところ,次期理事長への就任を望んでいた者から,次期の理事として行う理事長選出行為に
 る謝礼の趣旨として提供されるものであることを知りながら,現金10万円を受領したことが認
 れる。
  ところで,公務員による収賄罪の成立には,収受する賄賂が,公務員の一般的職務権限に属す
 項に関して供与されるものであれば足り,具体的な職務執行との対価関係は必要でないと解され
 るのであって,それは,およそ公務員の一般的職務権限に属する事項に関して賄賂の授受が行わ
 ときは,具体的な職務執行への影響いかんとは関係なく,公務の公正さに対する社会の信頼が損
 れるからであるといえる。これを本件に即してみると,現に土地改良区の理事にあり,かつ,次
 事への就任が確定している被告人に対して,次期理事の就任後の次期理事長選出という職務行為
 する対価として現金が供与されたときは,将来における具体的な職務の執行のみならず現在の職
 執行一般について,その公正さに対する社会の信頼が損なわれるおそれがあるといえるので,収
 の成立が肯定されるべきである(なお,最高裁昭和61年6月27日第三小法廷決定・刑集40
 号369頁参照)。所論は,土地改良法に事前収賄罪の規定がないことを指摘するが,現在まだ
 に就任していない者の場合と,既に理事に就いている者が次期の職務執行に関して金品を収受す
 合とでは,同列に論じることはできないといわねばならない。
  したがって,被告人について土地改良法140条1項前段の収賄罪の成立を認めた原判決に,
 の適用の誤りはない。論旨は理由がない。
3 よって,控訴趣意は理由がないから,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,主
 とおり判決する。
平成15年1月30日
  仙台高等裁判所第1刑事部
      裁判長裁判官   松  浦     繁
         裁判官   根  本     渉
         裁判官   春  名  郁  子

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