弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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  主文
被告人Aを懲役2年に,被告人Bを懲役1年に,被告人Cを懲役10月に,
それぞれ処する。
被告人3名に対し,この裁判が確定した日からいずれも3年間,それぞれそ
の刑の執行を猶予する。
 理由
【犯罪事実】
被告人Aは,昭和59年12月28日から平成13年3月30日までの
間,兵庫県加古川市a町bc番地に本店を置き,貨物自動車運送事業等を目的
とし,昭和34年12月1日,7200万円の株式を募集したことにより,
証券取引法による事業年度ごとの有価証券報告書の提出を義務づけられてい
たD株式会社の代表取締役社長として,同社の業務全般を統括,掌理してい
たもの,被告人Bは,平成2年3月29日から平成10年3月26日までの
間,同社副社長として,被告人Aを補佐するとともに,同社の経理部門を統
括し,その後,平成13年3月30日までの間,同社監査役として,同社の
監査業務等を担当していたもの,被告人Cは,平成5年3月25日から平成
10年3月26日までの間,同社常務取締役経理部長として,その後,平成
13年3月30日までの間,同社専務取締役として,同社の経理部門を統括
していたものであるが,被告人3名は,E監査法人の社員たる公認会計士
で,D株式会社の貸借対照表,損益計算書その他の財務諸表に関する書類を
監査し,有価証券報告書に綴じ込まれる監査報告書を作成して監査証明を行
う業務を執行していたF,G及びHらと共謀の上,同社の業務に関し,
第1 平成10年3月27日,大阪市d区ef丁目g番h号所在の近畿財務局に
おいて,大蔵大臣の委任を受けた同財務局長に対し,同社の平成9年1月1
日から同年12月31日までの第96期事業年度の決算には,約102億1
600万円の経常損失及び少なくとも約353億7500万円の当期未処理
損失があったのに,架空収益の計上により営業収益を約124億9100万
円水増し計上するとともに,原価の架空資産への振替計上により原価を約5
2億6600万円圧縮し,経常利益を4億6509万5000円,当期未処
分利益を1億9527万1000円と計上するなどした貸借対照表,損益計
算書等を掲載した同事業年度の有価証券報告書を提出し,
第2 平成11年3月31日,上記近畿財務局において,金融再生委員会の
再委任を受けた同財務局長に対し,同社の平成10年1月1日から同年12
月31日までの第97期事業年度の決算には,約86億8200万円の経常
損失及び少なくとも約477億7000万円の当期未処理損失があったの
に,架空収益の計上により営業収益を約144億1000万円水増し計上す
るとともに,原価の架空資産への振替計上により原価を約56億円圧縮し,
経常利益を20億6678万9000円,当期未処理損失を15億4205
万円と計上するなどした貸借対照表,損益計算書等を掲載した同事業年度の
有価証券報告書を提出し,
第3 平成12年3月31日,上記近畿財務局において,上記財務局長に対
し,同社の平成11年1月1日から同年12月31日までの第98期事業年
度の決算には,約54億7200万円の経常損失及び少なくとも約530億
5900万円の当期未処理損失があったのに,架空収益の計上により営業収
益を約155億2500万円水増し計上するとともに,原価の架空資産への
振替計上により原価を約44億円圧縮し,経常利益を5億9511万200
0円,当期未処理損失を7億6610万8000円と計上するなどした貸借
対照表,損益計算書等を掲載した同事業年度の有価証券報告書を提出し,
もって,重要な事項につき虚偽の記載をした有価証券報告書を提出したもの
である。
【法令の適用】
(被告人3名につき)
罰条
判示第1の所為  刑法60条,平成10年法律第131号附則4条によ
り同法による改正前の証券取引法197条1項1号,24条1項3号,4条
1項
 判示第2,第3の各所為  いずれも刑法60条,平成11年法律第16
0号附則26条により同法による改正前の証券取引法197条1項1号,2
4条1項3号,4条1項
刑種の選択いずれも懲役刑を選択
併合罪加重  刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い判示
第3の罪の刑に法定の加重)
刑の執行猶予刑法25条1項
【量刑の理由】
 本件は,判示の証券取引法違反の事案であるが,諸々の経済的要因や社内
の労使問題等が原因で会社の営業収益が悪化したことが背景事情となり,取
引銀行からの融資の確保などを目論んで,平成4年12月決算期から露骨な
粉飾決算をするようになったというもので,複数の公認会計士と通謀までし
て犯行を遂げており,犯情は相当に悪質である。本件起訴にかかる3事業年
度分の粉飾額も,それ自体,極めて高額に上っている。本件会社はいわゆる
上場会社ではないものの,本件の社会的影響の大きさをも考慮すると,被告
人らの刑事責任は相当に重く,とりわけ本件粉飾の中心的役割を果たした被
告人Aに対しては厳しい非難が妥当する。
 したがって,各被告人とも今回相応の懲役刑による処断を免れないが,他
方,本件が発覚するに至った経緯に関して,証券取引等監視委員会からの告
発に先立ち,被告人ら自身の判断により,本件会社につき民事再生法の適用
を申請したという事情が存すること(その後会社更生手続に移行),被告人
らは本件の事実関係を全面的に認めて,それぞれ反省の姿勢を顕著に示し,
被告人Aにおいては私財の大部分を会社のために提供し,被告人Bにおいて
は会社との和解契約に基づき6000万円を支払い,被告人Cにおいては妻
名義の分も含めて配当受領額の全額35万6176円を返還するなど,違法
配当によって会社が被った損失の補填に努めており,補填額は3億5000
万円近くに達していること,本件が広く報道されたこと等により,被告人ら
がそれぞれ受けた社会的制裁にも相当厳しいものがあること,被告人らはこ
れまで社会の中でそれぞれ重要な役割を果たしてきたものであることなど
の,被告人らのために酌むべき事情も少なからず認められるので,その他一
切の情状を総合勘案して,主文の刑を定め,いずれも相当期間その刑の執行
を猶予することとした。
 よって,主文のとおり判決する。
(求刑-被告人A・懲役2年,同B・懲役1年,同C・懲役10月)
 平成14年10月8日
  大阪地方裁判所第12刑事部
    裁判官 中  川  博  之

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