弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人らの負担とする。
         理    由
 一、 抗告の趣旨及び理由は別記のとおりである。
 二、 (1)申請の要旨
 抗告人らの本件仮処分申請の理由は、その疎明資料を参酌すれば、(一)抗告人
ら及び相手方らは、いずれも水産業協同組合法(以下法と略記する)により設立さ
れたa町漁業協同組合(以下組合と略記する)の組合員である。相手方らは、昭和
三五年三月三一日組合総会において、組合の理事に選挙され、現在相手方Aは組合
長、Bは専務理事の地位にある。(二)しかし、相手方らはいずれもつぎの理由に
より、組合の理事となりうる資格がない。すなわち、相手方らは、法第四四条第二
項但し書の規定による役員の改選請求に基いて招集された昭和三四年一一月八日の
組合臨時総会において同条同項但し書所定の違反を理由として解任され、これに対
し、法第一二五条第一項の規定により長崎県知事に解任議決取消の請求がなされた
が、同知事は、昭和三五年二月二三日右請求を却下し、右解任決議は確定した。組
合の定款第三一条によれば、役員の任期は三年で、法第四四条の規定による全員の
改選によつて就任した役員の任期は、前任者の残りの期間とし、定員の補充または
法第四四条第二項但し書の改選によつて就任した役員の任期は、現任役員の残りの
期間と定められているので、前示知事の却下処分の取消がないかぎり、相手方ら
は、現任者の残りの期間である昭和三六年六月までは、組合の理事となりうる資格
はないと解すべきである。(三)したがつて、相手方らが組合総会において理事に
選挙されても、その選挙当選は無効であり、相手方らは組合の理事ではない。それ
故、抗告人らは相手方両名に対し、理事資格無効確認並びに職務停止請求の訴を提
起しているが相手方らには、原決定の申請要旨四の(1)から(5)に記載してあ
るような不正行為があり、本案判決の確定をまつていては、組合は、相手方らの不
正行為により回復しがたい重大な損害を被るので、本件仮処分を求める。(四)な
お、抗告人らは、昭和三五年三月三一日の組合総会の選挙による相手方らの当選に
対し、法第一二五条第一項所定の取消の請求をしていないが、右選挙による当選が
当然無効な場合は、監督行政庁に対し取消の請求をなすまでもなく、直ちに裁判所
に無効を前提とする権利関係の確認等を求めて、出訴しうると解すべきであるとい
うにある。
 (2) 原決定の要旨
 ところで、これに対し原審は、法には中小企業等協同組合法第五四条のような規
定を欠く反面、法第一二二条ないし第一二七条のような組合に対する行政庁の監督
規定を設けてあること、及びこれら一連の規定特に第一二五条の立法趣旨は、組合
の内部的紛争たる総会の決議や選挙の効力の存否について、直接裁判所によつて純
法律的にこれを確定させるよりも、まず、日常その監督にあたり、組合の実際上の
運営その他の諸般の情勢に精通している監督行政庁に、合目的的にこれを確定させ
ることの方が、組合の健全な発展を期する上において、むしろ望ましいという点に
あるので、少くとも同条の明定する場合、すなわち総会の招集手続、議決の方法ま
たは選挙が法令等に違反する場合に当るかぎり(もつとも総会の決議や選挙が全く
不存在と目される場合は、しばらくおく)、組合員は、同条の定める要件に従つ
て、まず監督行政庁にその取消を求めるべきであり、直接裁判所に対しその取消請
求の訴を提起できないものと解すべきであると説示した上、本件仮処分の本案訴訟
は、昭和三五年三月三一日の組合総会における選挙が監督行政庁の処分に違反する
ことを理由として、抗告人らが組合のために、相手方両名の理事に当選の効力を争
い、その無効であることを前提として、右両名の理事たる資格の不存在確認を求
め、さらに両名に理事としての職務執行の停止を求めるものであるから、かかる場
合、抗告人らは先ず、法第一二五条所定の要件を具備して、監督行政庁に対しその
救済を求むべく、これをしないで直ちに裁判所に訴求し得ないので、本件仮処分申
請は許すべきでないとして却下したことは、原決定に徴して明らかである。
 (3) 当裁判所の判断
 (一) 法第一二五条は水産業団体法施行令第一九条の二を修正継受した規定
で、第一二五条はその規定により明らかなように、総会、選挙が存在することを前
提とし、その総会招集の手続議決の方法または選挙が法令等に違反する場合は、総
組合員の一〇分一以上の組合員は、監督行政庁に対し議決または選挙もしくは当選
の取消を請求しうることを明定し(いわゆる少数組合員権の規定)ているので、し
たがつてこの請求があつたときは、監督行政庁は同条の規定に従い請求認容(取
消)または請求拒否(却下)の行政処分をなすべく、この行政処分に対しては、行
政事件訴訟特例法により裁判所に出訴しうるものと解すべく、その反面、同条の適
用を受けるかぎりにおいては(いわゆる形式的違法の場合は)、各組合員はたんに
組合員たる資格に基いては、監督行政庁に対してはもとより、裁判所に対しても、
議決または選挙もしくは当選の取消を求め得ないものとすべきであるが、総会の決
議の内容または選挙が法令等に違反し、ために決議または選挙がその本然の効力を
生じない場合、及び法律上もしくは事実上存在しない総会においてなされ、または
なされたとする決議、選挙が形式上有効であるかのように存在する場合において
は、その決議、選挙は取消をまつまでもなく、当然無効であるから、前示少数組合
員はもちろん各組合員は、訴の利益存するかぎり、決議、選挙の当然無効ないし不
存在を主張しもつて、現在の権利または法律関係の存否確認もしくは給付の訴を提
起し得べく、法第一二二条ないし第一二七条の規定の存することは、なんら右の論
結を妨げるものではない。 抗告人らが論旨三点ないし五点において論ずるところ
は、当裁判所の前説示と異なり、にわかに組みし難い見解であるけれども、抗告人
らは、相手方両名に対し理事選挙、当選そのものの無効確認を訴求するものではな
く、理事選挙の当然無効を主張し、これを前提として、相手方両名が組合理事たる
資格を有しないことの確認及びその職務執行の停止を求める訴を本案訴訟として、
抗告の趣旨記載の仮処分を求めるのに対し、原審が前摘記のように説示して、たや
すく、本件仮処分申請を却下したのは、抗告人らの仮処分申請の趣旨を正解せず、
ひいて法第一二五条の解釈適用を誤つたものといわなければならない。
 (二) よつて以下本件仮処分申請の当否について考察する。組合理事の選挙、
当選の当然無効を理由として、所論のとおり各組合員が、当該理事の資格不存在確
認を訴求しうるかは、しばらくおいて、相手方両名を理事に<要旨第一>選任した選
挙が当然無効であるかどうかを考えるに、組合役員に、法第四四条第二項但し書の
違反あることを理由として役員改選の請求がなされ、この請求に基いて
招集された総会において、その役員が同条同項但し書違反を理由として解任を議決
され、これに対する法第一二五条第一項の解任議決取消の請求が、監督行政庁か却
下され、却下処分が確定したとしても、それは、監督行政庁において、役員の解任
を議決した組合総会の招集手続または議決の方法が、総会の決議を取り消すに値す
る程の法令、法令に基いてする行政庁の処分ないし定款に違反するとは認めなかつ
たにとどまり、解任された役員が現任役員の任期の残りの期間中に役員に就任する
ことを禁止するの効果を有するものではないので、その後組合総会において現任役
員の任期の残りの期間中、被解任役員を改めて役員に選挙し、選挙管理者は同人を
当選者と定めることを妨げないのである。法及びその関係法令、抗告人ら提出の組
合定款、組合役員選挙規程その他疎明資料を精査しても、抗告人ら主張のように、
被解任役員が現任役員の任期の残りの期間中は役員に選挙されうる資格を有しない
旨の規定は存しない(抗告人らが援引する定款第三一条は、補充または改選によつ
て就任した役員の任期を定めた規定で、被解任役員が現任者の任期の残りの期間中
に役員に就任することを禁ずるものではない。)ので、昭和三五年三月三一日組合
総会で、相手方両名を理事に選任した選挙は当然無効であるから、両名は組合の理
事たる資格を有しない旨の主張は採用に値しないので、これを前提とする仮処分申
請の理由は採用のかぎりでない。
 (三) 相手方両名に抗告人ら主張のような不正行為があり、組合は相手方らの
不正行為によつて回復しがたい重大な損害を被るおそれが現存すると仮定した場合
においても、相手方両名を理事に選任した選挙が無効でない<要旨第二>ことは、前
説明のとおりである以上、抗告人らがたんに組合員であるという資格だけでは(本
件組合の組合員は一、五〇〇余名で、抗告人らのみでは後記少数組合員
を構成しないことは疎明によつて、一応認定できる。)、相手方らがそれぞれ組合
の組合長、専務理事としての職務の執行を停止することを求めることはできないと
解すべきである。けだし、組合総会における選挙が法令等に違反することを理由と
して、監督行政庁に対しその選挙もしくは当選の取消を請求するには、総組合員の
一〇分の一以上の少数組合員の同意を要し(法第一二五条第一項)、役員に法令等
の違反あることを理由として、その役員の改選の請求をなすにも総組合員の五分の
一以上の少数組合員が連署し、その代表者から組合理事に対してなすことを要し
(法第四四条)、中小企業等協同組合法のように、各組合員に総会の決議の取消ま
たは無効を訴求し、理事の行為差止を請求しうることを明定する規定(同法第五四
条、第四二条)のない法に基く漁業協同組合においては、いわゆる少数組合員権の
行使により、仮処分をもつて組合理事の職務執行を停止しうることあるは格別、各
組合員はたんに組合員であるという資格だけでは、理事の職務執行停止の仮処分を
求めることはできないといわなければならない。
 抗告人らが抗告理由において主張するところは、以上の説示を妨げるものではな
いので、論旨につき逐一判断するまでもなく、本件仮処分申請は、この点において
却下を免れない。
 (4) 結論
 原審の説示は、当裁判所の見解と異るけれども、本件仮処分申請を却下した終局
の判断は結局相当である。よつて抗告を理由なしと認め、民訴第九五条第八九条第
九三条を適用し、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 鹿島重夫 裁判官 秦亘 裁判官 高石博良)

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