弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1埼玉県知事が原告に対し平成17年7月7日付けでなしたA専門学校の専
任教員調査書(平成11年度から平成17年度分)の教員氏名に関する情報
が記録されている部分を開示しないとの処分を取り消す。
2埼玉県知事は,原告が平成17年6月23日に開示の請求をしたA専門学
校の専任教員調査書(平成11年度から平成17年度分)の教員氏名に関す
る情報が記録されている部分について開示せよ。
3訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,埼玉県民である原告が,埼玉県情報公開条例(平成12年12月2
6日埼玉県条例第77号。以下「本件条例」という。)に基づき,A専門学校
に係る私立学校運営費補助金申請書類の専任教員調査書のうち「職名」,「氏
名」,「担当教科」の各欄(過去7年分)の開示を請求したところ(以下「本
件開示請求」という。),埼玉県知事から,「氏名」は個人に関する情報であ
って,特定の個人を識別することができるものであるから本件条例10条1号
に該当するとして不開示とする決定(以下「本件一部不開示処分」という。)
を受けたため,これを不服として本件一部不開示処分の取消しを求めた事案で
ある。
2法令の定め
埼玉県情報公開条例(本件条例)は,概略以下のとおり規定している。
(目的)
第1条
この条例は,県民の知る権利を保障するため公文書の開示に関し必要な
事項を定める等情報公開を総合的に推進することにより,県の諸活動を県
民に説明する責務が全うされるようにするとともに,県民の県政参加を一
層進め,もって地方自治の本旨に即した公正で透明な開かれた県政の推進
に寄与することを目的とする。
(定義)
第2条
1この条例において「実施機関」とは,知事,教育委員会,選挙管理委
員会,人事委員会,監査委員,公安委員会,警察本部長,労働委員会,
収用委員会,内水面漁場管理委員会,公営企業管理者及び病院事業管理
者をいう。
2この条例において「公文書」とは,実施機関の職員が職務上作成し,
又は取得した文書,図画及び電磁的記録であって,当該実施機関の職員
が組織的に用いるものとして,当該実施機関が保有しているものをいう。
(公文書の開示を請求できるもの)
第7条
次の各号のいずれかに該当するものは,実施機関に対し,当該実施機
関の保有する公文書の開示を請求することができる。
一県内に住所を有する者
二県内に事務所又は事業所を有する個人及び法人その他の団体
三県内に所在する事務所又は事業所に勤務する者
四県内に所在する学校に在学する者
五前各号に掲げるもののほか,実施機関が保有している公文書の開示
を必要とする相当の理由を有する個人及び法人その他の団体
(公文書の開示義務)
第10条
実施機関は,開示請求があったときは,開示請求に係る公文書に次の
各号に掲げる情報のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者
に対し,当該公文書を開示しなければならない。
一個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除
く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等
により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合する
ことにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含
む。)又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることに
より,なお特定の個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし,
次に掲げる情報を除く。
イ法令若しくは他の条例により又は慣行として公にされ,又は公に
することが予定されている情報
ロ人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが
必要であると認められる情報
ハ当該個人が公務員等である場合において,当該情報がその職務の
遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員等の職
及び当該職務遂行の内容に係る部分
二法人その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関
する情報であって,公にすることにより,当該法人等又は当該個人の
権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの。た
だし,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすること
が必要であると認められる情報を除く。
三以下省略
3基本的事実関係(当事者間に争いがない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨に
よって容易に認定できる事実)
(1)当事者
原告は,埼玉県内に住所を有する埼玉県民である。
A専門学校(以下「本件専門学校」ということがある。)は,学校法人B
が設置する私立専修学校である。「専門学校」という名称は,専門課程を置
いている専修学校についてのみ用いられる(学校教育法83条の2第2項参
照)。
(2)専任教員調査書
本件専門学校は,例年,被告に対し,私立学校運営費補助金の申請をし,
被告から運営費補助金の交付を受けている(なお,被告による私立学校運営
費補助金の額は,生徒数のほか,教員の人数,少人数学級編成か否かなどの
諸事情により決せられる)。そして,本件専門学校は,被告に対し,毎年,
私立学校運営費補助金の申請に際し,専任教員の氏名,担当教科,免許・資
格等の名称,最終学歴,給与,年齢等を記載した専任教員調査書(以下「本
件文書」ということがある。)を提出している。
(3)本件開示請求
原告は,平成17年6月23日,埼玉県知事に対し,次のとおり公文書の
開示を請求した。
ア開示を請求する公文書の名称又は内容
本件専門学校に係る私立学校運営費補助金申請書類の専任教員調査書
のうち,「職名」,「氏名」,「担当教科」の各欄(過去7年分)
イ求める開示の実施の方法
文書の写しの交付
なお,原告が本件開示請求をした動機は,次のようなものである。
原告は,本件で問題となっている本件専門学校を設置する学校法人Bの理
事だった者である(甲7)。原告は,近年,本件専門学校が埼玉県に運営費
補助金申請のために提出している専任教員調査書に記載されている教員の勤
務状況が「専任」の実体を伴うものか,ひいては本件専門学校に対する補助
金が適正に運用されているか疑念を持つようになった。そのため,まずは,
本件専門学校が県に提出した補助金申請書類のうち「専任教員調査書」に記
載されている教員氏名等を把握しようとして,本件専門学校に係る私立学校
運営費補助金申請書類の専任教員調査書のうち「職名」「氏名」「担当教
科」の各欄について開示を求めた(甲2)。
(4)本件一部不開示処分
埼玉県知事は,平成17年7月7日,本件文書のうち,専任教員5名につ
いて,「氏名」,「共済組合員番号」,「最終学歴」,「給与の内訳」,
「交通費を除く給与額」,「年齢」,「勤続年数」に関する情報は,個人に
関する情報であって,特定の個人を識別することができるものであり,本件
条例10条1号に該当するとして不開示とし,上記部分を除いた「職名」,
「担当教科」,「週当り出勤日数」,「免許・資格等の名称」の部分につい
て開示する旨決定した(本件一部不開示処分)。
(5)本件訴え提起
原告は,平成17年8月9日,本件訴えを提起した。
4争点
(1)本件専門学校の専任教員の氏名に関する情報(以下「本件情報」という
ことがある。)は,本件条例10条1号ただし書イの「法令…又は慣行とし
て公にされ…ている情報」に該当するか(争点1)。
(2)本件情報は,本件条例10条1号ただし書イの「法令…又は慣行として
…公にされることが予定されている情報」に該当するか(争点2)。
5争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件情報は,本件条例10条1号ただし書イの「法令…又は慣
行として公にされ…ている情報」に該当するか)について
(原告の主張)
ア「慣行」の有無の判断基準
「慣行」という場合,一般性を問題にするのが通常の解釈であって,
「慣行として」公にされている情報に該当するか否かの判断に当たって
は,情報を所持する個々の学校ごとに判断すべきものではなく,当該情
報が一般に公にされているか否かが問題とされるというべきである。
そもそも,情報開示を求める者は,通常,一般に公にされているか,
あるいはその性質上公にされるべき事柄であるにもかかわらず,当該事
案において公にされないという事情があるからこそ情報の開示を求める
のであって,後記被告の主張するように,情報を所持する個々の学校法
人又は学校ごとに「慣行」の有無を判断することは,結局,情報の保有
者自身が開示したくないと思えば情報開示が実現されないに等しく,情
報開示制度の趣旨を没却するものである。
イ本件情報が「慣行として公にされ…ている情報」に当たるか
(ア)「公にされ」とは,当該情報が現に公衆が知り得る状態に置かれ
ていれば足り,現に公知ないし周知の事実である必要はない。
ところで,公衆が教員の氏名を知るための媒体は,学校案内,募集
要項及びホームページに限定されるものではなく,講義概要,履修案
内,時間割,口頭によるもの等あらゆる媒体が考えられるが,被告の
提出した調査結果(乙7)によれば,埼玉県内の専修学校の専任教員
の氏名については,学校案内・募集要項やホームページのみという極
限られた媒体だけでも,既に少なくとも20%以上もの学校が全専任
教員氏名を公表し,さらに,少なくとも3分の1以上(33.3%か
ら36.4%)もの学校が専任教員氏名の一部は公表しているのであ
る。
(イ)そして,講義概要,履修案内,時間割には,通常教員氏名が掲載
される。なお,講義概要,履修案内,時間割は主として生徒に配布さ
れるものであるものの,専修学校の入学資格は極めて広範であるため,
結局,ほとんどの公衆が生徒としてこれらの配布を受け得ることにな
る。
また,少なくとも,専修学校の生徒に対しては,講義概要,履修案
内,時間割の配布や口頭により,教員の氏名が開示されるところ,生
徒には,教員の氏名につき秘密保持義務がないのであるから,公衆は,
生徒を通じて教員氏名を知り得る。
さらに,広く一般に参加の機会が与えられている体験入学の際に,
参加者が教員氏名を尋ねた場合には,学校は教員氏名を回答するはず
である上,求められれば講義概要,履修案内,時間割の配布も行われ
るはずであって,このことは,体験入学の際に限らなくとも同様のは
ずである。
(ウ)上記のような学校案内,募集要項,ホームページ,講義概要,履
修案内,時間割あるいは口頭によるもの等あらゆる媒体を考えれば,
専任教員を含めた教員の氏名が公にされている,すなわち,現に公衆
が知り得る状態に置かれていることは,もはや疑いのないところであ
る。
以上より,本件情報は,「慣行として公にされ…ている情報」に該
当する。
ウ私立大学に対する経常費補助金に関する文書に関する答申書の存在に
ついて
独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律に基づいてなされ
た特定私立大学に係る私立大学等経常費補助金に関する文書の開示請求
については,専任教員の氏名は慣行として公にされているものと認めた
上で専任教員の氏名は開示するのが相当であると判断した答申(平成1
5年度(独情)答申第41条。以下「本件答申」という。)が存在する。
本件条例10条1号と独立行政法人等の保有する情報の公開に関する
法律5条1項の趣旨は共通している上,私立専修学校と私立大学を別個
に考える必要はないから,私立大学に係る本件答申の論理は,本件にも
妥当するはずである。このことからしても,本件情報が「慣行として公
にされ…ている情報」に該当することは明らかである。
(被告の主張)
ア「慣行として公にされ…ている情報」に当たるか否かは,情報を所持
する個々の主体ごとに判断すべきものである。
そして,埼玉県知事は,本件一部不開示処分に先立ち,本件専門学校
における専任教員氏名公表の慣行の有無を調査した。その結果,同校が
作成し一般に配布している学校案内及び学生募集要項,同校のホームペ
ージ並びに同校の時間割表にはいずれも専任教員氏名が掲載されておら
ず,同校では講義概要を作成しておらず,教員の氏名は毎年度初回の講
義において教員が生徒に自己紹介しているだけとのことであった。その
ため,埼玉県知事は,同校においては専任教員の氏名を公にする慣行は
存在しないと判断した。
イ仮に,「慣行として公にされ…ている情報」に当たるか否かは,情報
を所持する個々の学校等ごとに判断すべきものではなく,埼玉県内にお
ける私立専修学校を基準にして判断すべきものであるとしても,埼玉県
内における私立専修学校においては専任教員の氏名を公にする慣行は存
在しない。すなわち,埼玉県内の私立専修学校の学校案内,募集要項及
びホームページを調査した結果,全員の専任教員氏名を公表している学
校は全体の約20%にすぎない一方,全く公表していない学校は約68
%にのぼった(乙7)。このようなことに照らすと,埼玉県内における
私立専修学校においては,専任教員の氏名の公表が慣行となっていない
のである。
なお,専修学校の生徒や体験入学の参加者は一定の手続を経た者であ
って「公衆」と同列に扱うことは妥当でないから,これらの者が専修学
校の教員の氏名を知ることができるとしても,それをもって専修学校に
専任教員の氏名を公表する慣行があるということはできない。また,一
般市民に尋ねられれば専任教員の氏名を回答する可能性があるとしても,
これをもって専任教員の氏名を公表する慣行があるということはできな
い。
ウ原告が指摘する本件答申と本件との関わりについての被告の反論
原告が指摘する本件答申は,私立大学の教員氏名等の開示請求に関す
るものであって,私立専修学校の教員氏名等の開示請求がなされた本件
とは事案が異なる。私立大学と私立専修学校とは,以下のとおり目的等
が異なるのであるから,専任教員の氏名の開示の可否を両者同様に考え
ることはできない。
(ア)私立大学
大学の目的は,「学術を中心として,広く知識を授けるとともに,
深く専門の学芸を教授研究し,知的,道徳的及び応用的能力を展開さ
せること」(学校教育法52条)であって,大学は,教育機関である
とともに研究機関という性格を持っている。
そして,大学の専任教員である教授や助教授には,博士の学位を有
し研究上の業績を有することや,特殊な技能に秀でているなど,高度
の教育上の能力が求められる(大学設置基準14条及び15条)。ま
た,大学の教員の研究上の業績については,学会での発表,学会誌や
専門誌への論文の掲載により広く一般に公表されることによって評価
されるものであり,一般に所属する大学名及び氏名が公表されている
状況にある。したがって,大学としても所属する教員の研究上の業績
について,大学の評価に関わることであるため,学校経営上積極的に
公表する性格を有するものである。
また,大学においては,公開講座(学校教育法69条),科目履修
生制度(大学設置基準31条),単位互換制度(大学設置基準28
条)があるため,学外に時間割や講義概要を冊子やホームページ等で
広く社会一般に公開しているところが多い。また,私立大学について
は「全国大学職員録」(私立大学編)が刊行されており,ほとんどの
私立大学で,教員の氏名,最終学歴,学位等が公表されている状況に
ある,
(イ)私立専修学校
これに対し,専修学校の目的は,「職業若しくは実際生活に必要な
能力を育成し,又は教養の向上を図ること」(学校教育法82条の
2)であるから,専修学校の専任教員は,「専門的な知識,技術,技
能等を有する者」とされており(専修学校設置基準18条),主に実
践的な職業教育を行う能力が求められる。
さらに,多くの専修学校においては,歯科衛生士などの国家資格の
取得を目指すなど,実践的な職業教育として授業が行われており,こ
の場合,教員に求められるのは,各種資格を取得するために必要な基
礎的な知識や技術,技能を,いかに着実に生徒に習得させるかであり,
学術的な研究の業績が求められるものではない。
したがって,専修学校においては,個々の専任教員の学術的な研究
業績等よりも,生徒の資格の取得率や就職率の方が,経営上重要であ
る。このため,専修学校においては,専任教員氏名を公表する度合い
が低いのである。
そして,私立専修学校においては公開講座を行っているケースは少
ないし,科目履修制度,単位互換制度もほとんど行われていない。
(ウ)小括
私立大学と私立専修学校は,以上のような相違点を有するのであっ
て,私立大学において専任教員の氏名が慣行として公にされていると
した答申が存在するからといって,私立専修学校においても専任教員
の氏名が慣行として公にされているということはできない。
(2)争点2(本件情報は,本件条例10条1号ただし書イの「法令…又は慣
行として…公にされることが予定されている情報」に該当するか。)につい

(原告の主張)
「慣行として…公にされることが予定されている情報」とは,将来公表
されることが時間的に予定されているもののみならず,ある情報と同種の
情報が公にされている場合に,当該情報のみ公にしないとする合理的な理
由がないなど,当該情報の性質上通例公表されるものも含む。
本件では,以下の理由から,専修学校の専任教員の氏名に関する情報は,
「慣行として…公にされることが予定されている情報」に当たるというべ
きである。
ア本件情報は,教育の公共性及び公益性からして性質上通例公表される
ものであること
専修学校における教育は,公共性及び公益性があるところ,本件情報
は,教育の公共性及び公益性の観点からすれば,性質上通例公表される
ものといえる。
(ア)専修学校における教育の公共性及び公益性
専修学校における教育の公共性及び公益性は,以下の法令から明ら
かである。
まず,教育基本法1条は,「教育は,人格の完成をめざし,平和的
な国家及び社会の形成者として,真理と正義を愛し,個人の価値をた
っとび,勤労と責任を重んじ,自主的な精神に充ちた心身ともに健康
な国民の育成を期して行われなければならない。」としている上,同
法6条1項は,「法律に定める学校は,公の性質をもつものであって,
国又は地方公共団体の外,法律に定める法人のみが,これを設置する
ことができる。」と規定し,同条2項は,「法律に定める学校の教員
は,全体の奉仕者であって,自己の使命を自覚し,その職責の遂行に
努めなければならない。」と規定している。また,私立学校法1条は,
「この法律は私立学校の特性にかんがみ,その自主性を重んじ,公共
性を高めることによって,私立学校の健全な発達を図ることを目的と
する。」旨規定する。かように,学校は,公立,私立の別を問わず,
系統的な学校制度の一環を担い,そこで行われる学校教育が,生徒,
学生等の多数の利益に重要な意義を有していることを明らかにしてい
る。
そして,専修学校は,学校教育法1条及び私立学校法2条1項の
「学校」には該当せず,専修学校の設置のみを目的として設立された
法人は私立学校法3条の「学校法人」には該当しない。しかしながら,
学校教育法82条の2は,専修学校が組織的な教育を行う教育機関で
あることを認めているし,学校教育法及び私立学校法において,「学
校」及び「学校法人」に関する規定が専修学校及び専修学校の設置の
みを目的として設立された法人に準用されている(学校教育法82条
の11第1項,私立学校法64条1項,4項,5項)。よって,専修
学校も「学校」と等しく,公共性及び公益性を有するといえる。
さらに,私立学校振興助成法は,私立専修学校に対する私学助成を
認めているところ,これは,専修学校が公の性質を有し,専修学校に
おける教育が公共性及び公益性を有していることを認めているためで
ある。
以上より,専修学校における教育が公共性及び公益性を有している
ことは明らかである。
(イ)教育機関の教育水準の向上及び教育活動の透明性が要請されるこ

そして,教育の公共性及び公益性の観点からすれば,教育機関の教
育水準の向上及び教育活動の透明性が要請される。このことは,以下
の法令の規定に照らし,明らかである。
すなわち,専修学校設置基準は,「専修学校は,この省令で定める
設置基準より低下した状態にならないようにすることはもとより,広
く社会の要請に応じ,専修学校の目的を達成するため多様な分野にわ
たり組織的な教育を行うことをその使命とすることにかんがみ,常に
その教育水準の維持向上に努めなければならない。」(1条3項),
「専修学校は,その教育水準の向上を図り,当該専修学校の目的及び
社会的使命を達成するため,当該専修学校における教育活動等の状況
について自ら点検及び評価を行い,その結果を公表するよう努めなけ
ればならない。」(1条の2第1項),「専修学校は,第1項の点検
及び評価の結果について,当該専修学校の職員以外の者による検証を
行うよう努めなければならない。」(同条3項),「専修学校は,当
該専修学校における教育活動等の状況について,広く周知を図ること
ができる方法によって,積極的に情報を提供するものとする。」(1
条の3)と定め,教育水準の維持向上に強く意が払われるとともに,
透明性が確保されるべく,積極的な情報の公表を強く求めている。
以上より,教育の公共性及び公益性の観点から,教育機関の教育水
準の向上及び教育活動の透明性が要請されていることは明らかである。
(ウ)教員氏名の公表の必要性
教育機関においては,教育が重大かつ公共的,公益的な役割を担っ
ていることから,その性質上,教育水準の維持向上,教育活動の透明
性の確保を実現すべく,積極的な情報の公表が強く求められている。
そして,誰が実際に教育をしているのかが分からなければ,教育活動
等につき,具体的かつ適切に点検,評価,批判をすることができない。
したがって,教員の氏名は,教育活動等の状況を周知させ教育の透明
化を確保する上で,最も基本的な情報の一つであり,最も公表すべき
情報の一つである。
(エ)小括
以上より,専修学校における教育は,公共性及び公益性を有すると
ころ,本件情報は,市民等が教育活動等の状況を監視し教育の透明化
を確保するため,開示が必要な情報であるから,性質上通例公表され
るものというべきである。
イ本件情報は補助金交付の適正の有無に関わるため性質上通例公表され
るものというべきであること
本件開示請求は,私立学校運営費補助金の申請に関わって行われてい
るものであるところ,このことからしても,補助金の申請において提出
されている専任教員調査書記載の専任教員の氏名は,性質上公にされる
べき情報,すなわち「慣行として…公にされることが予定されている情
報」に当たる。
(ア)不正な補助金交付に対する監視の必要性
私立専修学校は,公共性及び公益性を有するため,私立学校振興助
成法等が定められ,補助金交付等の私学助成が行われている。
他方,公的資金である補助金等が適正に運用されるよう,補助金交
付については,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律等に
基づき,様々な規制がされている。
しかしながら,現実には,事実を偽った不正な補助金等の申請及び
受給が後を絶たず,発覚しただけでも,ほぼ毎年のように全国で補助
金等不正受給問題が生じることについては周知の事実である。埼玉県
内の専修学校においても,近年,補助金の不正受給等の事実が発覚し,
刑事事件にまで至った。
かような私学助成の実態にかんがみれば,私学助成事業を行う公的
機関のみならず,私学助成の資金を税金として納めている一般市民に
も,広く,補助金等の不正な申請及び受給がなされていないか監視す
る手段が与えられるべきである。
そして,情報公開制度の趣旨が,公的資金の利用法につき最も利害
関係の深い市民に対し監視のための効果的な主眼を与えることによっ
て,その利用が適正に行われているかを監視することにあることから
すれば,補助金等の不正な申請及び受給がなされていないか監視する
手段として,情報の開示が認められるべきである。
(イ)不正な補助金交付に対する監視における教員氏名開示の必要性
適正な補助金申請がなされているか市民が監視機能を果たす上で,
申請書類の一つである専任教員調査書においては,そこに記載されて
いる専任教員氏名は,必要最小限の情報である。他方,当該教員にお
いては,前記のとおり教育という公益的,公共的な役割を果たしてい
る以上,氏名のみであれば,公にされてもやむを得ないものといえる
し,公にされることにより当該教員の法益が侵害されるということも
具体的には考えがたい。
(ウ)小括
したがって,本件開示請求が補助金交付の適正の有無に関わってい
るとからしても,専任教員調査書に記載されている専任教員の氏名に
ついては,その性質上公にされるべき情報,すなわち,「慣行として
…公にされることが予定されている情報」に該当することが明らかで
ある。
ウ乙7のデータは,むしろ専門学校の専任教員の氏名が「慣行として…
公にされることが予定されている情報」に当たることを裏付けているこ

被告が埼玉県内の専修学校について行った調査結果(乙7)によれば,
学校案内・募集要項及びホームページという極限られた媒体に限定して
さえも,既に20%以上もの専修学校が全専任教員氏名を公表し,30
%以上もの専修学校が少なくとも一部の専任教員氏名を公表していると
いうのであり,これだけでも,本件で開示が問題となっている,補助金
申請書類の一つである専任教員調査書に記載されている本件専門学校の
専任教員の氏名という情報と同種の情報が公にされているという状況に
あるのは明らかである。他方,本件専門学校において,同校のみが特に
自己の専任教員の氏名を公表しないという合理的な理由なども全く考え
られない。
したがって,乙7の調査データをそのまま受け入れたとしても,本件
情報が「慣行として…公にされることが予定されている情報」に該当す
ることが却って裏付けられたことになる。
(被告の主張)
ア私立学校の公共性及び公益性と個人情報の開示について
(ア)公益法人における個人情報開示の在り方
学校法人をはじめ,社会福祉法人,医療法人等の公益法人は,国や
自治体とは別の法人格であり,それぞれ法的性格,事業内容,国や自
治体の補助制度の有無などが様々であるから,公益法人に関する情報
開示については各公益法人ごとに規律されるべきである。
(イ)私立学校における個人情報開示の在り方
a私立学校の公共性及び公益性は個人情報の開示を内容とするもの
でないこと
私立学校は,「公共性を高めること」と並んで,「その自主性を
重んじ」ることが目的として規定されている(私立学校法1条)。
また,私立学校の公共性の確保については,私立学校法26条,
30条3項,35条,36条,38条1項,同条7項,41条,5
1条1項及び52条等の規定があるが,いずれも私立学校の専任教
員氏名の開示を義務付けるものではなく,専任教員氏名の開示の根
拠とはなり得ない。
そもそも,私立学校の公益性とは,営利を目的とせず(民法34
条),専ら公共の利益を目的とすることであり,より具体的には,
事業の主体が,収益配分や,解散後残余財産の分配をしない点にそ
の特徴がみられる。このように私立学校の公益性とは個人情報の開
示を内容とするものではないのである。
b専修学校設置基準は専任教員氏名開示を内容とするものでないこ

さらに,原告は専修学校設置基準の規定を引用した上で,教育の
公共性及び公益性の観点からすれば,教育機関の教育水準の向上及
び教育活動の透明性が要請されると主張する。
しかし,専修学校設置基準における自己点検,評価結果の公表に
ついては,各学校法人の判断により実施する努力規定に止まる(専
修学校設置基準1の2。なお,大学においては,学校教育法69条
の3により,自己点検及び評価とその結果の公表,認証評価機関に
よる評価を受けることが義務付けられている。)。しかも,専修学
校が行う自己点検及び評価の対象は,「教育課程,学習指導,生徒
指導,進路指導等の教育活動をはじめ,施設設備,修了者の就職状
況,生徒の資格取得状況,社会人の受入れ状況,附帯教育事業の実
施状況,留学生の受入れ状況,大学や高等学校との連携状況,産学
連携の実施状況など」であり(平成14年3月29日付け文部科学
省生涯学習政策局長通知。乙12),専任教員氏名等の個人情報は
含まれておらず,専任教員氏名を公表しなくてもその意義が損なわ
れるものではない。
また,専修学校設置基準1条の3において「専修学校は,当該専
修学校における教育活動等の状況について,広く周知を図ることが
できる方法によって,積極的に情報を提供するものとする。」と規
定されているが,この規定は「専修学校の概要,教育目標,教育課
程の内容,教育活動の状況,施設設備,修了者の就職状況,生徒の
資格取得状況,社会人の受入れ状況,附帯教育事業の実施状況な
ど」の情報を提供すべきと規定するものであって(平成14年3月
29日付け文部科学省生涯学習政策局長通知),専任教員氏名の開
示を目的としたものではない。
c教員氏名の公表の必要性について
専修学校設置基準には,生徒数に応じて教員数が定められるとと
もに(17条),教員の資格(18条ないし20条)が規定されて
いる。すなわち,専修学校においては,教育水準の維持向上のうち
教員に係る面については,教員数や教員の資格の観点から判断され
ているのである(これに対し,大学においては個々の教員の独創性
や業績など属人的な面が重要視されている。)。
そうすると,仮に専修学校の教育活動の透明性を図るべきである
としても,本件一部不開示処分においては教員の職名,資格,担当
教科及び人数は開示されているのであるから,教員の個人名を開示
しなくとも教育水準の判断の要素は開示されているというべきであ
る。
dしたがって,各私立学校における個人情報の開示は,まず,各私
立学校の自主性に委ねられているものであって,公共性や公益性を
個人情報開示の論拠とすることは失当である。
(ウ)他の公益法人における情報開示について
a病院や診療所については,医療法14条の2により,病院や診療
所内において診療に従事する医師又は歯科医師の氏名を掲示しなけ
ればならない旨規定されているが,学校法人や私立学校については
このような規定は存在しない。
b社会福祉法人については,公益性や投入税金が多額であること等
学校法人と類似するが,平成10年5月15日の内閣委員会におい
て,「情報公開を社会福祉法人が自主的に取り組むべき」との観点
から中央社会福祉審議会で制度改正を検討しているとの政府答弁が
なされ,その後,社会福祉法の改正により,事業報告書,財産目録,
貸借対照表及び収支計算書及びこれらに対する監事の意見を記載し
た書面を利害関係人の閲覧に供することとされた(社会福祉法44
条)。また,学校法人についても,財産目録,貸借対照表,収支計
算書及び事業報告書の備付け及び利害関係人への閲覧の規定が整備
されている(私立学校法47条,66条)。しかし,これらの公益
法人が開示を義務付けられている帳票類は,いずれも個人情報の記
載が必要なものではなく,社会福祉法や私立学校法が職員等の氏名
など,個人情報の開示を法定しているものということはできない。
イ補助金交付の適正を個人情報開示の論拠とすることは失当であること
補助金等に係る予算の執行並びに補助金等の執行の適正化に関する法
律においては,補助金等の交付の申請,決定等に係る予算の執行に関す
る基本的事項を規定しているが,個人情報の開示についての規定は設け
られていない(なお,被告による私立学校運営費補助金は,財源に国庫
金を含んでいないため,補助金等に係る予算の執行並びに補助金等の執
行の適正化に関する法律は適用されない。)。
また,本件答申は,「大学等専任教員等・個人票」では専任教員につ
いて,「大学等専任職員等・個人票」では専任職員について,氏名公表
の慣行の状況を職種ごとに論じている。さらに,私立大学専任職員氏名
の開示について学校法人ごとに慣行の状況を判断している。しかしなが
ら,私立大学における専任教員及び専任職員の給与に要する経費は,い
ずれも「私立大学等経常経費補助金政府開発援助私立大学等経常費補助
金交付要綱」(昭和52年11月30日文部大臣裁定)3条において補
助対象経費に定められており,性質上差異はない。そうすると,仮に,
原告の主張のとおり氏名開示の論拠を補助金受給に求めるのであれば,
開示の是非を職種ごとや学校ごとに判断する必要はないはずであるから,
補助金交付の適正を個人情報開示の論拠とすることは,本件答申と矛盾
しているといわざるを得ない。
第3争点に対する判断
1争点1(本件情報は,本件条例10条1号ただし書イの「法令…又は慣行と
して公にされ…ている情報」に該当するか。)について
(1)「法令…又は慣行として公にされ…ている情報」の意義
本件条例10条1号が個人情報を非開示情報とした趣旨は,プライバシー
を中心とする個人の正当な権利利益を保護することにあるところ,同号イが
個人情報であっても「法令…又は慣行として公にされ…ている情報」を非開
示情報から除外し例外開示情報としたのは,登記簿で明らかにされている法
人の役員,不動産の権利関係,叙勲者名簿,中央官庁の課長相当職以上の職
のように,既に一般に公表されている情報はプライバシー性がそれ自体稀薄
であり,これを開示することにより場合により個人のプライバシーを害する
おそれがあるとしても,受忍すべき範囲内に止まると考えられるからである
と解される。
そして,「慣行として」とは,事実上の慣行があれば足り,ある特定の情
報が公にされたとしても,それが個別的な事例にとどまり,その情報と同種
の情報についてみると公にしないことが一般と認められる場合には,「慣行
として」公にされているということはできず,逆に,ある特定の情報が公に
されていないとしても,それが個別的な事例にとどまり,それと同種の情報
については公にすることが一般と認められる場合には,その情報は「慣行と
して」公にされているものというべきである。
また,上述の本件条例10条1号ただし書イの趣旨からすれば,「公にさ
れ…ている」情報とは,現に公衆が知り得る状態に置かれている情報,つま
り開示請求時点で通常人であれば知り得る状態に置かれている情報をいうの
であって,限られた少数の人しか知り得ないような場合は,これには当たら
ないというべきである。
(2)これを本件についてみるに,関係証拠(適宜掲記する。)及び弁論の全
趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア本件専門学校の学校案内,学生募集要項,ホームページ,時間割表には,
専任教員の氏名が記載されていない(乙1ないし3,乙4の1ないし4)。
イまた,平成17年8月31日ないし9月2日当時,埼玉県内の専修学校
99校中,学校案内,募集要項又はホームページのいずれかにおいて,専
任教員の氏名を公表している専修学校の内訳は,以下のとおりであった
(乙7の1及び2。なお,乙7の1及び2において専任教員氏名を公表し
ていない学校として集計されている専修学校のうちC専門学校については,
ホームページ上,全員の専任教員氏名が掲載されていることについては争
いがない。)。
(ア)ほぼ全員の専任教員氏名を公表している学校21校
(イ)一部の専任教員のみの氏名を公表している学校12校
(ウ)専任教員氏名を公表していない学校66校
ウなお,私立大学の専任教員の氏名については,「全国大学職員録」(私
立大学編)に掲載されているほか,講義概要や履修案内において掲載され
ることが多い(公知の事実)。
一方,多くの専修学校において,入学後に学生に配布される履修案内,
時間割表の記載や授業における口頭説明等で,学生らは専任教員の氏名を
容易に把握し得る機会があると推定されるが,私立専修学校の専任教員の
氏名等について記載した「大学職員録」に類するような一般的な刊行物の
存在は認めがたい。
(3)判断
以上の事実によれば,本件情報は,私立専修学校である本件専門学校の専
任教員の氏名に係る情報であるところ,専修学校の専任教員の場合,私立大
学の教員氏名のようにそれを掲載した一般的な刊行物が流布している形跡も
ないし,埼玉県内の私立専修学校99校のうち,3分の1に当たる33校は
専任教員の全部又は一部の氏名をホームページ等で公表しているが,3分の
2に当たる66校は,学校案内,募集要項又はホームページのいずれにおい
ても専任教員の氏名を公表していないことが認められる。これらのことに照
らすと,私立専修学校の専任教員の氏名については,一般的,慣行的に公表
されている情報とまではいえない。上記のように埼玉県内の私立専修学校9
9校のうち,3分の1に当たる33校は専任教員の全部又は一部の氏名をホ
ームページ等で公表していることや,専修学校の学生やその家族らは,入学
後に配布される履修案内,時間割表などにおいて教員の氏名や担当課目を容
易に把握し得る機会があると推定されるが,これらのことを考慮しても前記
判断を左右するに足りない。そうすると,この点の原告の主張は採用できな
い。
2争点2(本件情報は,本件条例10条1号ただし書イの「法令…又は慣行と
して…公にされることが予定されている情報」に該当するか)について
(1)「法令…又は慣行として…公にすることが予定されている情報」の意義
本件条例において,「法令…又は慣行として…公にすることが予定されて
いる情報」が「法令…又は慣行として公にされ…ている情報」と並んで開示
情報とされたのは,「慣行として…公にすることが予定されている情報」は
「慣行として公にされ…ている情報」と同様に,これを開示することにより
プライバシーが侵害されるとしても,受忍すべき範囲内に止まると考えられ
るためと解される。そして,「法令…又は慣行として…公にすることが予定
されている情報」とは,請求時点においては公にされていないが,将来的に
公にする予定(具体的に公表が予定されている場合に限らず,求めがあれば
何人にも提供することを予定しているものも含む)の下に保有されている情
報や,ある情報と同種の情報が公にされている場合に当該情報のみ公にしな
いとする合理的理由がない情報,その他当該情報の性質上通例公にするのが
相当のものを含むと解するのが相当である。
(2)これを本件についてみるに,以下の事実が認められる。
ア専修学校の教育機関としての性格
(ア)専修学校は,学校教育法1条が規定する「学校」には当たらないも
のの,「職業若しくは実際生活に必要な能力を育成し,又は教養の向上
を図ることを目的として」「組織的な教育を行う」教育施設であり(学
校教育法82条の2),実際的な知識,技術を習得するための実用的,
専門的な教育機関としての性格を持つものである。
そして,専修学校の中でもとりわけ専門課程は,高等学校における教
育の基礎の上に教育を行うものであって(同法82条の3第1項,3
項),大学への編入学資格も一定の場合に有することになる(同法82
条の10)。
(イ)また,専修学校の健全な発達と専修学校教育の水準の維持向上を図
るため,専修学校は,監督庁の認可を受けなければ設置することができ
ず(同法82条の8第1項),一定の要件に該当する者でなければ設置
することができず(同法82条の5),設置基準は詳細に規定され(同
法82条の6,専修学校設置基準),校長は「教育に関する識見を有し,
かつ,教育,学術又は文化に関する業務に従事した者でなければならな
い。」とされ(学校教育法82条の7第2項),教員は「その担当する
教育に関する専門的な知識又は技能に関し,文部大臣の定める資格を有
するものでなければならない。」(同法82条の7第3項)とされる。
具体的には,専修字校の専門課程の教員は,概ね次の各号の一に該当
する者でその担当する教員に関し,専門的な知識,技術,技能などを有
するものでなければならないとされる(専修学校設置基準18条)。
一専修学校の専門課程を終了した後,学校,研究所等においてその担
当する教育に関する教育,研究または技能に関する業務(以下「関連
業務という。)に従事した者であって,当該専門課程の修業年限と当
該業務に従事した期間とを通算して6年以上となる者
二大卒後2年以上,高等専門学校又は短大卒後4年以上,関連業務に
従事した者
三高等学校において2年以上教諭の経験のある者
四修士の学位を有する者
五特定の分野について,特に優れた知識,技術,技能及び経験を有す
る者
六以上と同等以上の能力があると認められる者
また,学校教育法9条の校長又は教員の欠格事由についての規定は,
専修字校に準用される(同法82条の11)。
そして,教員となるべき者が,その担当する教育に関する専門的な知
識又は技能に関し専修学校設置基準で定める資格を有するものであるか
どうか,また同法9条に規定する欠格事由に該当する者でないかどうか
は,専修学校の設置の認可の申請に当たり,申請の内容が基準に適合す
るかどうかの一つの重要な審査基準となる(同法82条の8第2項)。
(ウ)専修学校には,学校教育法1条の「学校」に関する規定のうち同法
5条(学校の管理,経費の負担),6条(授業料),9条(校長,教員
の欠格事由),10条(私立学校の校長届出義務),11条(学生,生
徒等の懲戒),12条(健康診断等),13条(学校の閉鎖の命令)等
が準用される(同法82条の11)。
また,私立専修学校は,私立学校法にいう「学校」ではないものの
(私立学校法2条1項,学校教育法1条),「学校」に関する規定が準
用され(私立学校法64条1項,学校教育法82条の11),専修学校
の設置のみを目的として設立された法人(準学校法人)は私立学校法3
条の「学校法人」には該当しないものの,「学校法人」に関する規定は
準学校法人にも準用される(学校教育法82条の11第1項,私立学校
法64条1項,4項,5項)。
そして,平成10年現在の専修学校の実態は,総数3573校(国立
144校,公立220校,私立3029校)で,高等課程を置く学校数
760校,専門課程を置く学校数3020校であり,在学者総数は,約
76万1000人である(鈴木勲編・逐条学校教育法第4版改定版・学
陽書房793頁)。
イ私立専修学校に対する助成
さらに,私立学校振興助成法1条は,我が国の学校教育における私立学
校の果たす重要な役割にかんがみ,私立学校の教育条件の維持及び向上並
びに私立学校に在学する児童等に係る修学上の経済的負担の軽減等を目的
として私学助成を認めているが,「学校法人」のみならず準学校法人に対
する助成をも認めている(同法16条)。
そして,埼玉県では,私立専修学校に対する運営費補助金制度を設けて
おり,総額の75%を生徒数に応じて配分し,15%を専任教員数に応じ
て配分し,残りの10%を専任教員1人当たりの生徒数その他の基準をも
とに配分している。そして,私立専修学校は県に対する運営費補助金申請
において,専任教員調査書を提出しているところ,専任教員とは「週4日
以上勤務し,概ね1日7時間以上勤務する者をいう。」とされ,それに該
当する者の氏名,担当教科,週当たり出勤日数,免許・資格等の名称,給
与,年齢,勤務年数等が記載されている(甲6の1ないし7,甲10の1
ないし5,弁論の全趣旨)。
(3)判断
以上の事実によれば,私立専修学校とりわけ専門学校は学校教育法1条,
私立学校法2条1項にいう「学校」ではないが,「学校」に準ずるものとし
てわが国の高等教育の一翼をになうもので,それ自体教育機関としての高度
の公共的,公益的性格を有していることは明らかであって,専修学校の設置,
運営,教育が適切になされているかどうかは公共の関心事である。そして,
専修学校設置基準(乙6)の1条の3は,「専修学校は,当該専修学校にお
ける教育活動の状況について,広く周知を図ることができる方法によって,
積極的に情報を提供するものとする。」と定めているところ,これは私立専
修学校の上記性格,公共性等から要請される教育活動の透明性に配慮したも
ので,その中でも専任教員の氏名,資格,担当教科等に関する情報は教育活
動の要というべき情報であるから,できるだけ積極的に公開することが望ま
しいことはいうまでもない。
一方,私立専修学校の教員氏名に係る情報は,当該個人にとっては一定の
プライバシー性を有することは否定できないが,乙7の1及び2によれば,
埼玉県内の99の専修学校のうち3分の1に相当する33校において学校案
内やインターネット等で教員の全部又は一部の氏名を公開していることが認
められる。そして,専修学校の教員氏名は,学生に配布される履修案内や時
間割表の記載,実際の教育の過程等で自ずから学生らに伝わることは誰しも
予見しているところであり,専修学校の教員において,その氏名が相当広範
囲の第三者に伝わることをある程度予期していないということはできない。
そして,そうした情報は,一般的には当該個人の社会的地位を示すことにな
りこそすれ,社会生活において不都合をもたらす不名誉,不利益な情報にな
るとは認めがたい(したがって,乙7に記載された教員氏名を公開していな
いとする66校についても,すべてがそうした情報は公開すべきでないとの
判断から公開していないとみることはできず,むしろ,学校案内,インター
ネット等の限られたスペースにどの事項を掲載すべきかの広報上の判断から
教員氏名を掲載していないに過ぎない例も相当あると推定される。)。
このように考えると,専修学校の専任教員の氏名に係る情報は,これを一
般に他人に知られたくないと望むのが相当と考えられる個人情報とは考えに
くく,当該個人の保護すべきプライバシー性の程度は比較的薄いといわなけ
ればならない。
また,前記のように,私立大学においては専任教員の氏名は「大学職員
録」(私立大学編)に記載されているほか,一般に容易に入手できる講義概
要や履修案内に教員氏名が記載されることが多く,前記情報審査会の答申で
は私立大学専任教員の氏名は「慣行により公にされている情報」と認定され
ている。そして,大学と専門学校は,制度や組織,教育内容等に相違がある
としても,教育機関としての性格を共通にしており,専修学校の中でも専門
学校は,「学校」に準じ,高等教育の一翼をになうもので,私立大学の専任
教員の氏名に関する情報と専修学校の専任教員の氏名に関する情報との間で,
プライバシー保護の度合いにおいて取扱いを異にしなければならないほどの
実質的差があるかは疑問である。
以上を総合すれば,本件情報は,その情報の有する社会的,公共的性質か
ら,通例公にされることが予定される情報に該当すると認めるのが相当であ
る。そうすると,本件情報は,「法令…又は慣行として…公にされることが
予定されている情報」に該当するのであるから,本件条例10条1号ただし
書イにより,例外開示情報に当たるものと解される。
なお,弁論の全趣旨によれば,原告は,本件専門学校が被告が提出した補
助金申請書類のうち,専任教員調査書に記載されている教員の勤務状況が
「専任」の実体を伴うものか,ひいては補助金交付・運用が適正になされて
いるかどうかに関心を持ち,その調査の一環として本件開示請求をしたこと
が認められるが,調査の動機が上記のようなものであっても,本件情報の公
開を求めることが不当ということはできない。
(3)被告の主張に関して
これに対し,被告は,私立専修学校が公共性及び公益性を有するとしても,
私立専修学校の公共性及び公益性は個人情報の開示を内容とするものではな
く,専修学校設置基準も専任教員氏名の開示を内容とするものではないなど
として,本件情報は,「慣行として…公にされることが予定されている情
報」に該当しない旨主張する。
しかしながら,私立専修学校の公共性及び公益性に関する法律上の規定が,
直接的に個人情報の開示を定めたものではないとしても,先に述べたような
私立専修学校の公共性及び公益性から要求される私立専修学校における教育
活動の透明性の観点,本件情報のプライバシー性の度合い,私立大学の教員
氏名が「慣行として公にされている情報」として扱われていることとの対比
等からすれば,私立専修学校に関する情報のうち,少なくとも,専任教員の
氏名に関する情報は,一般に開示を相当とする情報に当たると解しても不合
理ではない。したがって,この点の被告の主張は採用できない。
3結論
以上の次第で,本件情報を不開示とした本件一部不開示処分は違法であり,
これを取り消すとともに本件情報を開示すべきことは法令上明らかであるとい
うべきであるから,これの開示を義務付けることが相当である(行政事件訴訟
法37条の3第5項)。そうすると,原告の請求は全部理由があるから認容す
ることとし,主文のとおり判決する。
さいたま地方裁判所第4民事部
裁判長裁判官豊田建夫
裁判官富永良朗
裁判官城阪由貴

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