弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人大原篤、同大原健司の上告理由第一点および第二点について。
 原審の確定するところによれば、被上告人B興産株式会社(以下、被上告会社と
いう。)は、昭和四一年七月訴外D物産株式会社(以下、訴外会社という。)に対
し共同住宅の新築工事に伴う空気調和設備工事を請け負わせたので、訴外会社は、
上告会社から本件冷暖房機器一九台外一合を買い受け、これを右共同住宅に設置し
て右請負工事を完成し、同四二年四月一五日頃被上告会社に引き渡したが、右機器
二〇台については、訴外会社と上告会社との売買契約において、その代金完済まで
所有権が上告会社に留保されていたところ、訴外会社は右代金を全く支払わなかつ
たので、訴外会社は右機器の所有権を取得していなかつたというのである。そして、
原審は、被上告会社が本件機器の引渡を受けるにあたり、その代表取締役Eにおい
て、本件機器が訴外会社の所有に属すると信じ、かつ、そう信ずるにつき過失がな
かつたとして、被上告会社が民法一九二条によりこれを即時取得したものと認めた
うえ、上告会社が所有権に基づき被上告会社を含む被上告人らに対し本件機器の引
渡を求める第一次請求を棄却した第一審判決を是認し、さらに、上告会社が予備的
に右所有権を喪失したことを前提として被上告会社に対し損害の賠償を求める請求
を審理し、これを棄却しているのである。
 おもうに、民法一九二条における善意無過失の有無は、法人については、第一次
的にはその代表機関について決すべきであるが、その代表機関が代理人により取引
をしたときは、その代理人について判断すべきことは同法一〇一条の趣旨から明ら
かである。したがつて、具体的に実質上取引が何者によりされたかを決することな
くしては、善意無過失を論ずることができないわけである(大審院昭和一二年一一
月一六日判決・民集一六巻一六二四頁参照)。ところで、記録に徴すると、上告会
社の主張の趣旨は、訴外会社の代表取締役であるFが本件工事の請負につき被上告
会社の専務取締役として深く関与したというにあると認められ、右取引当時、Fが
被上告会社の取締役であつたことは、原審の確定するところであり、同人が被上告
会社の業務執行に関与しうる立場にある以上、取引の形式いかんを問わず、右工事
請負について、被上告会社の代理人として行動した余地がありえないわけではなく、
同人は訴外会社の代表取締役であるから、本件機器の所有権の帰属については認識
をもつていたとも解しうるところである。したがつて、原審がこの点を審究するこ
となく、被上告会社の代表者であるEの善意無過失のみによりただちに本件機器の
所有権の即時取得の成立を認めたのは、民法一九二条、一〇一条の解釈を誤り、ひ
いて審理不尽、理由不備の違法をおかしたものといわなければならない。
 よつて、論旨は理由があるから、他の上告理由に対する判断をまつまでもなく、
原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととし、
民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 裁判官下村三郎は、出張中につき評議に関与しない。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝

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