弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人南出喜久治の上告理由一について
 不動産を目的とする譲渡担保権が設定されている場合において、譲渡担保権者が
譲渡担保権の実行として目的不動産を第三者に譲渡したときは、譲渡担保権設定者
は、右第三者又は同人から更に右不動産の譲渡を受けた者からの明渡請求に対し、
譲渡担保権者に対する清算金支払請求権を被担保債権とする留置権を主張すること
ができるものと解するのが相当である(最高裁昭和五五年(オ)第二一一号同五八
年三月三一日第一小法廷判決・民集三七巻二号一五二頁参照)。
 原審の適法に確定したところによれば、(1) 被上告人は、昭和六一年一〇月三
〇日までにDから三六〇万円を借り受け、同日、その担保のため、自己所有の本件
建物の所有権をDに移転し、売買を原因とする所有権移転登記を経由した、(2) 
被上告人が右貸金債務の返済を遅滞したことから、Dは、平成元年九月二一日ころ、
譲渡担保権の実行として、本件建物を株式会社E建設に売り渡した、(3) E建設
は、同日ころ、本件建物をFに売り渡した、(4) Fは、同日ころ、本件建物を上
告人に売り渡し、同月二六日、本件建物につき、Dから中間省略登記の方法により
上告人名義に所有権移転登記が経由された、(5) Dは本件譲渡担保につき被上告
人に対して清算金の支払義務を負っている、というのである。したがって、本件建
物を占有する被上告人は、上告人に対しても、Dから清算金の支払を受けるまで、
本件建物につき留置権を行使してその明渡しを拒絶することができるものというべ
きである。
 右によれば、上告人の本件建物の所有権に基づく明渡請求に対して、被上告人が
Dに対する清算金支払請求権を被担保債権とする留置権の抗弁を主張している本件
において、原審が、被上告人に対し、Dから清算金の支払を受けるのと引換えに本
件建物を上告人に明け渡すことを命じたのは、正当である。所論引用の判例は、事
案を異にし本件に適切でない。原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に
立って原判決の違法をいうものであって、採用することができない。
 その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属す
る事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎ
ず、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    河   合   伸   一
            裁判官    福   田       博

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