弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告Aに対し,6642万1097円及びこれに対する平成23年
11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告は,原告Bに対し,2214万0366円及びこれに対する平成23年
11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告は,原告Cに対し,2214万0366円及びこれに対する平成23年
11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告は,原告Dに対し,2214万0366円及びこれに対する平成23年
11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
原告らは,被告が開設する病院において診療を受けた患者の相続人らである。
上記患者は,B型肝炎ウイルスへの感染歴を有していたところ,上記病院におい
て,悪性リンパ腫の治療のため,強力な免疫抑制作用を有する薬剤の投与を反復し
て受けた。
本件は,原告らが,上記の治療に当たっては,肝内に残存するウイルスが免疫抑
制により再活性化する可能性があり,再活性化が生ずればこれによる肝炎が劇症化
して死に至る危険性が高いことに鑑み,一般公表されていたガイドラインに従い,
血中のウイルス量を定期測定してモニタリングし,ウイルスが検出された時点で直
ちに抗ウイルス薬の投与を開始すべき注意義務があったのに,上記病院の医師らが
これを怠ったため,上記患者がB型肝炎ウイルスの再活性化による肝炎を発症し,
肝不全により死亡したと主張して,被告に対し,主位的に不法行為,予備的に債務
不履行に基づき,法定相続分に応じ,損害賠償金計1億3284万2195円及び
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これに対する平成23年11月20日(上記患者が死亡した日の翌日)から各支払
済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1争いのない事実等(証拠等の記載のない事実は,当事者間に争いがない。な
お,診療経過については,争いのない部分であっても,原則として,診療録等の証
拠を付記して,その頁数を示す。)
(1)当事者等
甲(以下「本件患者」という。)は,昭和16年11月生の男性である。
原告Aは,本件患者の妻であり,原告B,原告C及び原告Dは,いずれも本件患
者の子である。
被告は,E大学医学部附属病院(以下「被告病院」という。)を開設する法人で
ある。
(2)本件患者の既往症(乙A1〔6,7,12,13頁〕)
本件患者は,49歳時及び54歳時に,それぞれ一過性脳虚血発作を発症し,6
1歳時に,狭心症に対し経皮的冠動脈形成術を受けた。
本件患者は,被告病院において,平成15年12月,胃がん及び胆石に対し,幽
門側胃切除術及び胆のう摘出術を,平成16年3月,大動脈弁閉鎖不全及び心房細
動に対し大動脈弁置換術及びMaze術(心房細動に対する手術の一種)を,平成
21年5月,腹部大動脈瘤に対しステント留置術をそれぞれ受けた。
その後,本件患者は,胃がんの既往については被告病院消化器外科において経過
観察を受け,大動脈弁置換術等及びステント留置術の既往については,抗凝固薬で
あるワーファリンを服用しつつ,被告病院心臓血管外科及び循環器内科において経
過観察を受けていた。
(3)診療経過の要旨
本件患者に対する平成21年10月以降の診療(以下「本件診療」という。)の
主な経過は,下記のとおりである。また,本件診療中の血液検査における主な検査
項目の結果は,下記のものを含め,別紙1のとおりである。
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ア悪性リンパ腫の診断及び1回目の入院治療
(ア)本件患者は,平成21年8月後半頃から疲れがたまる,同年9月初旬頃か
ら食事がとりづらい,動くのがつらい等の自覚症状があった。同年10月2日,F
病院PETセンターにおいて,悪性腫瘍のスクリーニングのためのPET-CT検
査を受診したところ,下腹部(右総腸骨動脈と椎体の間)に,ブドウ糖消費が多い
ことを示すFDG集積を伴う5cm×3cm大の腫瘤が認められ,精査を勧められ
た。(乙A1〔21頁,25頁〕)
(イ)本件患者は,同月13日,被告病院で腹部CT検査を受けた結果,仙骨前
面に5cm×3.5cm大の軟部腫瘤が認められた。(乙A1〔22頁〕,乙A2
〔8~9頁〕,乙A6の1の3)
本件患者は,同月14日から,被告病院の消化器外科,循環器内科,心臓血管外
科の各外来を受診し,悪性リンパ腫の可能性もあると判断され,同月28日,院内
紹介により血液腫瘍内科外来を受診した。同日の血液検査の結果,悪性リンパ腫の
腫瘍マーカーであるsIL-2R(可溶性インターロイキン2受容体)の値は85
3U/ml(以下単位省略。被告病院における基準値は145~519)であった。
(乙A1〔22頁,23頁,26頁〕,乙A2〔103頁〕,乙A7の1,乙B3
3,乙B34,弁論の全趣旨)
同年11月4日の腹部MRI検査の結果,腫瘤が7cmに増大していることが認
められた(乙A1〔27頁〕,乙A2〔10頁〕)。
本件患者は,同月6日,検査目的で腫瘍組織を採取するための開腹手術に向けて
消化器外科に入院し,同月11日,上記手術が実施された(乙A2〔2頁,8頁,
39頁,42頁,98頁〕)。
同月18日頃,上記組織の病理検査の結果が判明し,本件患者は,悪性リンパ腫
の一種であるびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)と確定診断された
(乙A1〔9~11頁〕,乙A2〔14頁〕)。
(ウ)本件患者は,同月25日,血液腫瘍内科に転科し,G医師が主治医,H医
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師が指導医となった(乙A2〔14頁,49頁〕,乙A4〔5頁〕)。
同月26日の血液検査の結果,sIL-2Rは2034,心不全のマーカーであ
るBNPは164.2pg/ml(以下単位省略。被告病院における基準値は40
以下),腎機能の指標であるCr(クレアチニン)は1.39mg/dl(以下単
位省略。被告病院における基準値は0.6~1.2),肝機能のマーカーである血
清トランスアミナーゼは,AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)が
26IU/l(以下単位省略。被告病院における基準値は40未満),ALT(ア
ラニンアミノトランスフェラーゼ)が9IU/l(以下単位省略。被告病院におけ
る基準値は40未満),LDH(乳酸脱水素酵素)は489U/l(以下単位省
略)で高値であった(甲A2,乙A2〔51頁〕,乙A7の1,乙A12,乙B4,
乙B10,弁論の全趣旨)。
さらには,同日,B型肝炎ウイルス(HBV)関連の抗原・抗体検査が実施され,
HBc抗体は高力価陽性,HBs抗原及びHBs抗体は陰性であった(甲A2,乙
A2〔51頁〕)。
G医師は,同日,循環器内科に対するコンサルトを,同月27日,腎臓内科,心
臓血管外科,消化器内科に対するコンサルトを行った(乙A2〔51頁,52
頁〕)。
同日,HBV-DNA定量検査及びHBe抗原・抗体検査のための採血と検査依
頼が行われた(甲A2,乙A7の1,乙B8)。
同日,CT検査の結果,腹部に11cm大の腫瘤が認められるとともに,胸水及
び腋窩リンパ節の腫大が認められ,病期(後記争いのない事実等(4)ア(ウ)参照)は
少なくともⅢ期である可能性が高いと診断された。また,Crが1.49と上昇し
ていた。(乙A2〔52~53頁〕,乙A6の1の11,乙A7の1)
(エ)同日,G医師及びH医師は,本件患者,原告A及び原告Bに対し,病状及
び治療について説明を行った。その際に用いられた説明書には,DLBCLに標準
的といわれる化学療法(薬剤の投与による治療法)であるCHOP療法(同時投与
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する薬剤の組合せを示した名称。後記(4)イ(ア)参照。)に類似した治療を行うこと
としている旨,胃がんや大動脈弁不全症に対する手術後であるなど余病があるので
標準より難しい治療になる旨,CHOP療法にリツキサン(後記(4)イ(イ)参照)を
組み合わせることで治療成績の改善が見込まれる旨,ただし,B型肝炎キャリアの
患者はB型肝炎が再燃する可能性があり,B型肝炎の評価とリツキサンの投与につ
いて検討が必要である旨,化学療法は数クール繰り返して行い,その回数は効果と
副作用を見て判断することになる旨,この治療による副作用と合併症として,B型
肝炎キャリアの患者の場合,それが再燃し,場合によっては劇症化することがある
旨の記載がある。(乙A2〔55頁,56頁〕)
(オ)同日,悪性リンパ腫に対する治療として,THP-COP変法(CHOP
療法の抗がん剤を一部毒性の弱いものに変更したTHP-COP療法の抗がん剤を
さらに一部変更した化学療法。後記(4)イ(ア)参照。なお,各抗がん剤の投与量は,
標準より減量された。)の第1クールが開始され,ステロイド薬であるプレドニン
の投与が同日から連続5日間,抗がん剤であるピノルビン,エンドキサン及びフィ
ルデシンの投与が同月30日に行われた(乙A2〔53頁,57~60頁〕,乙A
4〔6~7頁,13頁〕,乙A9)。
(カ)同年12月2日,同年11月27日に採取した血液のHBV-DNA定量
検査の結果が「ケンシュツセズ」であったことが報告された(甲A2,乙A2〔6
3頁〕)。
(キ)G医師及びH医師は,同年12月3日,本件患者,原告A及び原告Bに対
し,リツキサンの投与について説明を行った。その際に用いられた説明書には,リ
ツキサンの投与による副作用の1つとしてB型肝炎の再燃がある旨,HBV-DN
Aが陰性であったのでリツキサンの投与は可能であると考える旨,ただし,肝炎が
劇症化すると致死的になる可能性もあるので定期的にフォローを行う旨が記載され
ている。(甲A3,乙A2〔64頁,212頁〕)
(ク)同月11日,リツキサンの投与が行われた(乙A2〔69~71頁〕,乙
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A9)。
(ケ)同月14日頃から発熱があり,同月17日,間質性肺炎が認められたため,
悪性リンパ腫の治療を中断し,肺炎について抗生剤の投与をしつつ原因の検索が行
われたところ,真菌の一種であるアスペルギルスへの感染が最も疑われた(乙A2
〔71~89頁〕,乙A4〔7頁〕,乙A9)。
(コ)G医師は,平成22年1月4日のsIL-2Rが高値(1893)であった
こと,同月6日の胸腹部CT検査において肺炎が軽快傾向であったことから,TH
P-COP変法を再開し,プレドニンの投与を3日間に減量した上で第2クールを
実施することとし,同日,その旨を本件患者,原告A及び原告Bに説明した(乙A
2〔89~90頁〕,乙A4〔29頁,802頁〕,乙A6の2の3,乙A7の
1)。
同月12日,THP-COP変法の第2クールが開始され,ピノルビン,エンド
キサン及びフィルデシンの投与が同日に,プレドニンの投与が同日から連続3日間
行われた(乙A4〔7頁,1131頁〕,乙A5〔1頁〕,乙A9)。
(サ)本件患者には,その後,心不全の増悪がみられ,G医師及びH医師は,同
年2月頃,THP-COP変法の継続は困難であると判断し,放射線照射による治
療を検討し,本件患者及び原告Aは,同医師ら及び放射線科の医師らから説明を受
け,最終的に同月26日に放射線治療について同意した(乙A4〔7~8頁,84
7~848頁〕,乙A5〔14~47頁〕,乙A6の2の9・13・14)。
本件患者には,同年3月4日までに,心不全症状の回復がみられ,同日から同年
4月8日まで,放射線治療として,1日1回1.8Grの照射が25回(計45G
y)実施された。この間の同月1日のCT検査の結果,腫瘍の大きさが治療前とほ
とんど変わらないか若干縮小しており,仮に放射線治療の効果がなければ腫瘍が増
大するので,治療に反応していると判断された。(乙A5〔43頁,52~78
頁〕)
(シ)同年4月12日,同月19日及び同月26日,リツキサンの投与が行われ
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た(乙A4〔8頁,628頁,1132頁,1134~1135頁〕,乙A5〔8
0頁,83頁,84頁,87頁,88頁〕,乙A9)。
(ス)本件患者は,同年5月1日,退院した(乙A4〔8頁〕,乙A5〔78~
90頁〕)。
イ2回目の入院治療
(ア)本件患者は,同月中旬,複数科の外来を受診し,遅くともその頃から,歩
行時などに右側に偏る傾向を訴え,経過観察とされていた。本件患者は,同月26
日の循環器内科外来受診の際,右上肢失調,呂律の回りにくさも訴え,院内紹介に
より,同日,神経内科を受診し,同年6月2日に他院で頭部MRI検査を受ける手
配がされ,同日にMRI検査を受けた。
本件患者は,同年5月末頃から神経症状が増悪し,また,上記MRI検査の結果
右小脳に病変が認められたため,同年6月3日に被告病院神経内科外来を受診し,
悪性リンパ腫再発による脳腫瘍の疑いで血液腫瘍内科に緊急入院した。主治医はG
医師であり,指導医はI医師であった。
(以上(ア)につき,乙A4〔9頁,35~46頁〕,乙A10)
(イ)本件患者,原告A及び原告Bは,同月7日,放射線科の医師から説明を受
け,右小脳の病変が悪性リンパ腫の再発であるとの判断の下に放射線治療を受ける
ことにつき同意した。
同月10日から同年7月15日まで,放射線治療として,1日1回2Gyの全脳
照射が20回(計40Gy),2Gyの局所照射が5回(計10Gy)実施された
(以上(イ)につき,乙A4〔10頁,51~54頁,60頁,123頁〕)。
(ウ)上記(イ)の間に,神経症状の改善,画像所見による右小脳の病変の縮小,脳
浮腫の軽減がみられた(乙A4〔71頁,85頁,97頁,839頁〕,乙A6の
3の4・7)。
(エ)上記(イ)の間の同年6月16日,血液検査の結果,フィブリノゲンの低下
(98mg/dl。被告病院における基準値は150~350mg/dl)が認め
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られた。G医師は,本件患者に対し,健康食品を摂取しているのであれば中止する
よう指示するとともに,HBV関連の抗原・抗体検査,HBV-DNA定量検査,
腹部超音波検査を実施することとし,同月17日の血液検査の結果,HBc抗体は
10.0S/CO未満,HBs抗原及びHBs抗体は陰性,後日検査結果が得られ
たHBV-DNAは,「(+)<2.1LogC/ml」(LogCはlog10
copiesの意。以下単位省略)であった。その後,同年7月5日までに,フィ
ブリノゲンの値は回復した。(甲A2,乙A4〔74~75頁,77頁,104
頁〕,乙A7の1,弁論の全趣旨)
(オ)同日,同月12日,同月20日及び同月26日,リツキサンの投与が行わ
れた(乙A4〔11頁,104頁,118頁,132頁,141~142頁,63
0~634頁〕,乙A9)。
この間の同月14日,HBs抗原及びHBs抗体はいずれも陰性であった(乙A
7の1)。
(カ)同月26日の頭部MRI検査の結果,右小脳の病変の縮小が認められ,活
動性に乏しい所見であると判断された(乙A4〔142頁,840~841頁〕,
乙A6の3の13)。
(キ)本件患者は,同月30日,退院した(乙A4〔148頁〕)。
ウ3回目の入院治療
(ア)本件患者は,上記退院後,経過観察のため各科外来を受診した。同年9月
21日のPET-CT検査ではFDGの異常集積は指摘できないとされたが,平成
23年1月20日のPET-CT検査の結果,左副腎に腫大と強いFDG集積があ
るほか,腹部傍大動脈域及び右肺門部のリンパ節にもFDG集積が認められ,悪性
リンパ腫が多発性に再発したものと診断された。本件患者は,同月31日,血液腫
瘍内科に入院した(乙A4〔12頁,150~181頁,831~833頁〕,乙
A6の3の17)。
この間のsIL-2Rの推移は,平成22年9月21日に657,同年12月2
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2日に600,平成23年1月26日に812,同月31日に897であった(乙
A7の1)。
また,同日,HBs抗原・抗体検査が行われ,結果はいずれも陰性であった(乙
A7の1)。
(イ)同年2月3日,THP-COP変法(標準量投与)の第1クールが開始さ
れ,ピノルビン,エンドキサン及びフィルデシンの投与が同日に,プレドニンの投
与が同日から連続5日間行われた(乙A4〔13頁,187頁,635頁,990
頁〕,乙A9)。
(ウ)その後,抗がん剤の副作用である骨髄抑制症状(骨髄の造血機能の障害に
よる血球の減少)がみられ,白血球増加促進因子製剤(G-CSF製剤)の投与
(同月11日から同月16日まで)や赤血球輸血(同月14日から同月16日ま
で)が行われた(乙A4〔13頁,204頁,210頁,214頁,216頁〕,
乙A9,乙B4)。
(エ)同月22日の胸腹部CT検査の結果,左副腎の腫瘍の縮小が認められた一
方,肺炎像が認められたため,抗生剤の投与が開始された。また,同月25日頃か
ら予定されていたTHP-COP変法の第2クールを延期し,第2クールまでの間
にリツキサンの投与のみを行うこととされた。(乙A4〔13頁,226頁,80
7頁,819~820頁〕,乙A6の4の7,乙A6の5の1)。
(オ)同日,リツキサンの投与が行われた(乙A4〔13頁,233頁,636
~637頁,991頁〕,乙A9)。
(カ)同年3月3日の胸部レントゲン検査の結果,明らかな陰影がなかったため,
同月4日,THP-COP変法の第2クールが開始され,ピノルビン,エンドキサ
ン及びフィルデシンの投与が同日に,プレドニンの投与が同日から連続5日間行わ
れた(乙A4〔13~14頁,245~247頁,638頁,992頁〕,乙A6
の5の3,乙A9)。
(キ)その後,骨髄抑制症状がみられ,G-CSF製剤の投与(同月12日から
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同月17日まで)が行われた(乙A4〔14頁,262頁,272頁〕,乙A7の
1)。
(ク)同月29日,リツキサンの投与が行われた(乙A4〔14頁,293頁,
639~640頁,994頁〕,乙A9)。
(ケ)同月30日,THP-COP変法の第3クールが開始され,ピノルビン,
エンドキサン及びフィルデシンの投与が同日に,プレドニンの投与が同日から連続
5日間行われた(乙A4〔14頁,295頁,641頁,993頁〕,乙A9)。
(コ)その後,骨髄抑制症状がみられ,G-CSF製剤の投与(同年4月6日か
ら同月11日まで)や赤血球輸血(同月4日,同月6日,同月8日)が行われた
(乙A4〔14頁,303頁,308頁,312頁,317頁〕,乙A9)。
(サ)本件患者は,同月17日に一時退院し,同年5月18日に再入院した(乙
A4〔14頁,16頁,319頁,328頁〕)。
(シ)上記一時退院中の同月6日に全身のPET-CT検査が行われ,同年1月
20日の画像と比べ,左副腎へのFDGの異常集積は著明に低下し,そのほかリン
パ節への異常集積も明らかではなかった(乙A4〔17頁,834頁〕,乙A6の
5の10)
(ス)同年5月23日,リツキサンの投与が行われた(乙A4〔18頁,341
頁,642~643頁,996頁〕,乙A9)。
同月24日,THP-COP変法の第4クールが開始され,ピノルビン,エンド
キサン及びフィルデシンの投与が同日に,プレドニンの投与が同日から連続5日間
行われた(乙A4〔18頁,343頁,644頁,995頁〕,乙A9)。
(セ)その後,骨髄抑制症状がみられ,G-CSF製剤の投与(同年6月1日か
ら同月6日まで)が行われた(乙A4〔18頁,359頁,368頁〕,乙A9)。
また,同月9日の胸部CT検査の結果,肺炎がみられ,ウイルス感染が疑われたた
め,次のリツキサンの投与とTHP-COP変法を予定より遅らせることとなった
(乙A4〔18頁,375~375頁,379頁〕,乙A6の5の15)。
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(ソ)同月16日,リツキサンの投与が行われた(乙A4〔18頁,385頁,
645~646頁,997頁〕,乙A9)。
同月21日,THP-COP変法の第5クールが開始され,ピノルビン,エンド
キサン及びフィルデシンの投与が同日に,プレドニンの投与が同日から連続5日間
行われた(乙A4〔18頁,393頁,647頁,998頁〕,乙A9)。
(タ)その後,骨髄抑制症状がみられ,G-CSF製剤の投与(同月29日から
同年7月4日まで)や赤血球輸血(同月5日,同月6日)が行われた。副作用を考
慮し,次クール(最終である第6クール)の化学療法について,「THP」に相当
するピノルビンを除き,COP変法とすることとされた(乙A4〔18頁,407
頁,416頁,418頁〕,乙A9,弁論の全趣旨)。
(チ)同月12日,リツキサンの投与が行われた(乙A4〔18頁,428頁,
648~649頁,999頁〕,乙A9)。
同月13日,第6クールとしてCOP変法が開始され,エンドキサン及びフィル
デシンの投与が同日に,プレドニンの投与が同日から連続5日間行われた(乙A4
〔18頁,429頁,650頁,1000頁〕,乙A9)。
(ツ)その後,骨髄抑制症状がみられ,G-CSF製剤の投与(同月22日から
同月24日まで)や赤血球輸血(同月22日)が行われた(乙A4〔18頁,44
4頁,447頁〕,乙A9)。
(テ)本件患者は,同月28日,退院した(乙A4〔16頁,18頁,455
頁〕)。
エ4回目の入院治療及び死亡
(ア)本件患者は,上記退院後,経過観察のため,各科外来で検査や診察を受け
た。その間,同年8月4日の頭部MRI検査においてリンパ腫の再発を認めず,同
年9月29日の全身PET-CT検査において,明らかな残存活動性病変や新たな
再発を示唆するFDGの異常集積を指摘されなかった。血液検査におけるsIL-
2Rの推移は,同年8月31日は643,同年9月5日は728,同月29日は9
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47であった。なお,同年8月31日のAST/ALTは20/9であった。
本件患者は,この間の同年9月23日から同月25日まで,2泊3日の家族旅行
に出かけた。
(以上(ア)につき,乙A4〔456~462頁,835~836頁,843~84
4頁〕,乙A6の5の25・27,乙A7の1)
(イ)本件患者は,同年10月5日,血液腫瘍内科外来を受診し,J医師の診察
を受けた。J医師は,同日,同年9月29日のAST/ALTが75/54と上昇
していたことに鑑み,HBV関連の抗原・抗体検査及びHBV-DNA定量検査を
行った。J医師は,同年10月5日夜,HBs抗原が5000U/ml(以下単位
省略)を超えていることを確認し,悪性リンパ腫に対するリツキサンを含む化学療
法によりHBVが再活性化したものと考え,本件患者に電話をかけ,翌日である同
月6日に消化器内科を受診するよう指示した。同日までにHBV-DNA定量検査
の結果が判明し,定量上限である9.0を超えていた。(甲C15,甲C16,乙
A4〔463~464頁,981~982頁〕,乙A7の1,弁論の全趣旨)
(ウ)本件患者は,同日,消化器内科外来を受診し,K医師の診察を受けた。K
医師は,HBV再活性化による肝炎を発症したとの判断の下,核酸アナログ薬の一
種であるエンテカビルの製剤(錠剤)であるバラクルード(後記(4)オ参照)の投
与を開始した。(乙A4〔464~466頁,471頁〕,乙A9)
(エ)本件患者は,同月13日,消化器内科外来を受診し,K医師の診察を受け
た。同日,本件患者は倦怠感を訴え,AST/ALTは645/379と悪化して
おり,K医師は,バラクルードの投与を継続するとともに,翌日から入院による経
過観察を行うこととした。なお,同日のT-Bil(総ビリルビン)は1.7mg
/dl(以下単位省略。被告病院における基準値は0.2~1.2)であった。
(乙A4〔467~469頁〕,乙A7の1,弁論の全趣旨)
(オ)本件患者は,同月14日,消化器内科に入院した。同日からバラクルード
の投与が増量された。同日のHBs抗原は5000超,HBs抗体は陰性,HBV
-13-
-DNAは8.3(ただし結果判明は後日),AST/ALTは604/353,
T-Bilは1.8であった。同日の腹部CT検査において,軽度の肝腫大がある
が同年7月8日のCT所見と著変はないと判断された。
本件患者は,上記入院の日の頃,同年9月中旬頃から倦怠感があった旨を説明し
た。
(以上(オ)につき,乙A4〔20頁,471頁,474~476頁,824頁〕,
乙A6の5の29,乙A7の1,乙A9)
(カ)同年10月15日のAST/ALTは539/309と減少傾向であった
が,同月17日には800/396と上昇し,T-Bilの上昇(2.8)及びA
T-Ⅲ(アンチトロンビンⅢ)の低下(72%。被告病院における基準値は80~
120%)もみられ,同日,インターフェロン療法が開始されるとともに,同日か
ら3日間ステロイドパルス療法(大量のステロイド剤を集中的に点滴投与する療
法)が行われた。(甲A2,乙A4〔479頁,482~483頁,485~48
6頁〕,乙A9,弁論の全趣旨)
(キ)同月18日,同月19日及び同月20日のAST/ALTは,それぞれ6
60/381,421/316,261/248であり,T-Bilは,3.0,
3.1,2.6であった(乙A4〔485頁,485頁,491頁〕,乙A7の
1)。
(ク)同月18日,血糖値(グルコース)が390mg/dlと上昇していたた
め,インスリンの投与が開始された(乙A4〔485頁〕)。
(ケ)同月20日,ステロイドパルス療法後のプレドニンの投与が開始され,そ
の後漸減しつつ投与が継続された(乙A4〔483頁,491頁,505頁,57
6頁,760~773頁〕,乙A9)。
(コ)同月21日採取の血液検査の結果,AST/ALTは213/216,T
-Bilは2.4,HBs抗原は5000超,HBV-DNAは7.3であった。
同日の腹部CT検査の結果,少量の腹水と肝腫大が認められ,腹水は同月7日より
-14-
増加,肝腫大はわずかに増大していることが疑われた。また,左右の胸水が出現し
た。
同月24日及び同月26日のAST/ALTは,それぞれ182/205,15
0/189であり,T-Bilはそれぞれ3.1,3.0であった。
(以上(コ)につき,乙A4〔495~496頁,825頁〕,乙A6の5の31,
乙A7の1)
(サ)本件患者は,同月28日,倦怠感がやや改善した旨を述べた。同日の腹部
CT検査の結果,肝実質の縮小がみられ,腫大が改善したと判断されるとともに,
胸腹水の減少が認められた。同日採取の血液のAST/ALTは160/189,
T-Bil3.2であり,HBs抗原は5000超,HBV-DNAは7.3であ
った。(乙A4〔518~519頁,826頁〕,乙A6の5の36,乙A7の
1)
(シ)同月31日,同年11月2日,同月4日,同月7日のAST/ALTは,
それぞれ144/176,125/168,123/160,103/141であ
り,同月4日のHBV-DNAは6.9であった(乙A4〔526頁,531頁,
536頁,乙A7の1)。
(ス)同月9日の胸部CT検査の結果,活動性肺炎を疑う新たな陰影を認めなか
った(乙A4〔552頁,813~814頁〕,乙A6の6の2)。
(セ)同月10日及び同月14日のAST/ALTは,それぞれ161/158
及び162/147,T-Bilは3.2及び5.7,LDHは381及び533
であった。
同日,白血球数の減少が認められ(590/μl。被告病院における基準値は3
500~9000),血液細菌検査(検鏡・培養)の依頼,G-CSF製剤の投与
開始,抗生剤の投与開始がされた。また,血中アンモニアが119μg/dlであ
り上昇がみられた。同日,PT-INR(プロトロンビン時間国際標準化比。血液
凝固検査の1つである。)が3.16であり,抗凝固療法(前記(2))による目標
-15-
の範囲を超えて凝固能が低下したため,PT-INRの値により増減がされていた
ワーファリンの投与が一旦中止された。
同日の胸部及び腹部のCT検査の結果,活動性肺炎を疑う新たな陰影を認めなか
ったが,左鎖骨上窩及び縦隔内に同月9日の画像と比して増大傾向を示す複数の小
リンパ節が認められ,また,肝腫大がやや強くなっているように認められた。
(以上(セ)につき,乙A4〔555頁,565~568頁,573頁,815頁,
828頁〕,乙A6の6の5,乙A7の1,乙A9,乙B24,弁論の全趣旨)
(ソ)同月15日,同月14日採取の血液の細菌検鏡検査においてグラム陽性球
菌が観察されたとの報告に鑑み,バンコマイシンの投与が開始された。また,同月
15日,末梢静脈ルート先端血を検体とする細菌検査(検鏡・培養)の依頼がされ
た。
同日,sIL-2Rが18032と高値であり,AST/ALTは149/13
1,T-Bilは6.6,AT-Ⅲは52%,PT-INRは4.58,APTT
(活性化部分トロンボプラスチン時間。血液凝固検査の1つである。)は84秒
(正常値の目安は22~37秒),LDHは570であった。
同日,本件患者は倦怠感が強く,また,軽度の羽ばたき振戦が出現した。
同日,肝不全の進行に対し,新鮮凍結血漿2単位の輸血が行われた。また,同日,
肝性脳症改善薬であるアミノレバンの投与がされた。
同日採取の血液のHBs抗原は5000超,HBV-DNAは6.9であった。
同日,感染症対策を重視する観点から,主たる担当科が消化器内科から血液腫瘍
内科に変更された。
(以上(ソ)につき,甲A2,甲B14,乙A4〔574~580頁,773~77
5頁〕,乙A7の1~2,乙A9,乙B24)
(タ)同月16日,同月14日採取の血液の細菌培養検査の結果,MRSE(メ
チシリン耐性表皮ブドウ球菌。グラム陽性球菌の一種。)が同定された。また,同
月15日採取の末梢静脈ルート先端血の細菌検鏡検査においてグラム陽性球菌が観
-16-
察されたことが報告された。
同日の血液検査の結果,AST/ALTは179/129,T-Bilは9.3,
AT-Ⅲは51%,PT-INRは3.12,APTTは68秒,LDHは606
であった。
本件患者は,同日,倦怠感が強く,皮膚と眼球に黄染がみられた。
(以上(タ)につき,乙A4〔580頁,584~585頁〕,乙A7の1~2,
弁論の全趣旨)
(チ)同月17日,朝38℃の発熱がみられ,ロキソプロフェンが投与された。
同日の血液検査の結果,sIL-2Rは26441,AST/ALTは251/
134,T-Bilは13.3,AT-Ⅲは47%,PT-INRは4.42,A
PTTは80秒,LDHは936であり,アンモニアは84μg/dlであった。
同日,腹部超音波検査が実施された。
同日,抗生剤がバンコマイシンからザイボックスに変更され,sIL-2R高値
に対し,ステロイド薬であるソル・コーテフが投与された。
同日,新鮮凍結血漿2単位の輸血が行われた。
本件患者は,同日,倦怠感が持続し,皮膚及び眼球の黄染が持続していた。
(以上(チ)につき,乙A4〔586~587頁,590~593頁,772~77
3頁,775頁〕,乙A7の1,乙A8の1,乙A9)
(ツ)同月18日,肝造影超音波検査が実施された。
同日の血液検査の結果,sIL-2Rは49751,AST/ALTは275/
122,T-Bilは15.5,AT-Ⅲは43%,PT-INRは4.77,A
PTTは91秒,LDHは1166であった。
本件患者は,同日,全身の倦怠感が増強傾向であり,全身に著明な黄染があり,
声掛けに対し返答はあるが傾眠傾向であった。
同日,ステロイド薬がソル・メドロールに変更された。
同日,血液凝固因子の低下に対し,新鮮凍結血漿の輸血及びビタミンK剤の投与
-17-
が行われた。
(以上(ツ)につき,乙A4〔595頁,597~602頁,773頁〕,乙A7の
1,乙8の2~3,乙A9)
(テ)本件患者は,同月19日未明,身の置き所がない倦怠感を訴え,午前中に
かけても倦怠感が増悪傾向であった。本件患者は,同日,治療に対し拒否的であり,
予定されていた検査や点滴は全て中止された。
同日,午後0時15分頃以降,0時30分頃までに,著しい倦怠感の緩和のため,
眠剤(アタラックスP)の静脈注射が行われた。
同日午後0時40分頃,脈拍が40回/分に突然に低下し,午後0時57分,死
亡が確認された。
(以上(テ)につき,甲A1,乙A4〔603~607頁,772頁〕,乙A9)
(4)医学的知見
ア悪性リンパ腫及びDLBCL(乙B1,乙B4)
(ア)悪性リンパ腫は,白血球の一種で免疫に関与する細胞であるリンパ球に由
来する悪性腫瘍であり,大型で特徴的な形態の細胞がみられる「ホジキンリンパ
腫」と,それ以外の「非ホジキンリンパ腫」に大別される。
非ホジキンリンパ腫は,由来するリンパ球の種類(B細胞,T細胞,ナチュラル
キラー細胞)により分類されるとともに,細かな特徴により20種類以上に分類さ
れる。これらは,治療の観点から,無治療で経過した場合の進行の速さにより,年
単位で進行する低悪性度リンパ腫,月単位で進行する中悪性度リンパ腫,週単位で
進行する高悪性度リンパ腫に分類される。
本件患者が診断及び治療を受けたDLBCL(びまん性大細胞型B細胞性リンパ
腫。前記(3)ア(イ))は,B細胞由来の非ホジキンリンパ腫の一種で,中悪性度非ホ
ジキンリンパ腫の代表的疾患である。
(イ)中悪性度非ホジキンリンパ腫の臨床症状は多様であるが,最も多くみられ
る症状は,持続性のリンパ節腫大である。また,リンパ節以外にもリンパ腫が発生
-18-
すること(節外性病変)が非ホジキンリンパ腫の特徴であり,全身のほぼ全ての臓
器に発生し得る。
(ウ)非ホジキンリンパ腫の臨床病期は,病変部位が1か所にとどまる時期をⅠ
期,病変部位が横隔膜を挟んで上半身又は下半身のいずれかに偏っている時期をⅡ
期,横隔膜を挟んで上半身と下半身の両側に病変部位がある時期をⅢ期,骨髄,肝
臓,末梢血等リンパ節以外の臓器にびまん性にリンパ腫が広がっている時期をⅣ期
と分類される。
(エ)中悪性度非ホジキンリンパ腫の予後予測モデルのうち,もっとも代表的で
広く臨床の場で使われているのが,IPI(Internationalprognosticindex)
である。IPIによれば,①年齢60歳以上,②治療開始時の全身状態を良好な順
に1~4の4段階に区分したPS(PerformanceStatus)が2以上,③LDHが正
常値を超えること,④節外病変数2か所以上,⑤病期Ⅲ期又はⅣ期の5つの因子を
予後不良因子とした上で,予後不良因子が1つまでの症例を低リスク群,2つの症
例を中低度リスク群,3つの症例を中高度リスク群,4つ以上の症例を高リスク群
として層別化する。
中悪性度非ホジキンリンパ腫の5年生存率は,CHOP療法を受けた場合,低リ
スク群が73%,中低度リスク群が51%,中高度リスク群が43%,高リスク群
が26%と報告されている。
イDLBCLの治療
(ア)CHOP療法及びTHP-COP療法
CHOP療法は,それぞれ異なる機序で抗がん作用を有する3種類の抗がん剤,
すなわち,アルキル化剤のシクロホスファミド(エンドキサンはその製剤),アン
トラサイクリン系の薬剤であるドキソルビシン(アドリアマイシンともいう。),
ビンカアルカロイド系の薬剤であるビンクリスチン(オンコビンはその製剤)とス
テロイド薬であるプレドニゾロン(プレドニンはその製剤)とを同時に投与するこ
とを一定の期間ごとに複数回繰り返す治療法である。
-19-
CHOP療法により,骨髄抑制を生じ,好中球減少による易感染性,血小板減少
による出血性,赤血球減少による貧血が出現する。このうち好中球が最も減少しや
すく,減少程度が強ければG-CSFを投与する。赤血球や血小板は,輸血を必要
とするような著明な減少はまれである。
ドキソルビシンには心毒性があり,同系統の薬剤でより心毒性の少ないピノルビ
ンに変更したTHP-COP療法が選択される場合もある。さらに,副作用を考慮
し,薬剤の一部をより毒性の少ない同系統の薬剤に変更する場合もある(THP-
COP変法)。
なお,抗がん剤の臓器毒性の緩和のために輸液を行うが,心不全のある患者の場
合,水分量の増加による心不全悪化の原因となるため,輸液量と利尿剤投与量の調
整が必要である。
(イ)リツキサン
リツキシマブは,B細胞に特異的に発現している細胞表面抗原であるCD20抗
原に結合する抗体薬であり,CD20抗原を発現している細胞を傷害する免疫反応
を誘導する。また,抗がん剤に耐性のBリンパ腫細胞株の薬剤感受性を増強するこ
とも確認されている。抗がん剤に比べ,細胞毒性による副作用の少ないことがリツ
キシマブの特長であるが,強力な免疫抑制作用を有する。リツキサンは,我が国で
販売されているリツキシマブ製剤であり,平成13年9月に販売が開始された。
(ウ)標準治療
DLBCLのⅡ期,Ⅲ期,Ⅳ期に対しては,CHOP療法にリツキシマブを併用
したR-CHOP療法6~8コースが標準治療であり,60歳以上ではR-CHO
P療法8コースが標準治療である。ランダム化比較試験の結果として,R-CHO
P療法の治療成績がCHOP療法に比して明らかに優れていることが公表されてい
る。
ただし,R-CHOP療法の薬剤は,中枢神経系への移行性に乏しいため,中枢
神経内の腫瘍細胞に対しては作用しにくい。
-20-
(以上イにつき,甲B1,甲B2,甲B19,乙A12~13,乙B1,乙B3,
乙B4,乙B8,証人I医師,弁論の全趣旨)
ウHBV
(ア)HBVは,ヒトの肝臓を標的臓器とするDNA型ウイルスである。ただし,
増殖過程において,DNAから直接にDNAが複製されるのではなく,肝細胞の核
内に侵入したDNAが,二本鎖閉鎖環状DNA(cccDNA)の形態に変化し,
これを基にして複数種のRNAが転写され,これらのRNAを基にして,蛋白質の
合成やDNAの合成が行われる。
(イ)HBVの感染の形態には,持続感染と一過性感染がある。
出生時や幼児期など,免疫系が十分に働かない時期に感染すると,持続感染状態
に至り,HBVキャリアとなることがある。その後,宿主のHBVに対する免疫応
答が活性化すると,肝炎を発症するが,多くの場合,治療が必要な慢性肝炎とはな
らず,症状が出現しないまま,免疫によりウイルスの増殖が抑制されて肝炎が沈静
化し,血中から低量のウイルスが検出されるが肝機能検査値に異常のない非活動性
HBVキャリアとなる。また,慢性肝炎となっていても,自覚症状がないことが多
い。
これ以外の状態でHBVに感染した場合には,ほとんどが,数か月の感染期間の
後,HBs抗原(後記(ウ))が陰性となり臨床的に治癒したとみなされる一過性感
染の経過をとる。一過性感染の多くは症状がなく経過するが,約20~30%が急
性肝炎を発症し,急性肝炎のうち約1~2%が致死率の高い劇症肝炎に発展する。
一過性感染が臨床的に治癒した既往感染においても,ウイルスが体内から完全に
排除されるわけではなく,肝細胞の核内においてcccDNAの微量の複製が持続
しており,細胞傷害性T細胞の働きにより血中へのウイルス放出が極めて少量に抑
えられている。
(ウ)HBs抗原,HBc抗原,HBe抗原は,いずれもHBVが産生する蛋白
質の一種である。臨床的に,HBs抗原及びこれに対応する抗体であるHBs抗体,
-21-
HBc抗原に対応する抗体であるHBc抗体,HBe抗原及びこれに対応するHB
e抗体が,血清中のHBV関連マーカーとして測定される。なお,HBc抗原は,
血中で外被(HBs抗原)に覆われているため,測定するには特殊な方法を要し,
一般的なマーカーとしては用いられていない。
HBs抗原は,HBVが産生する蛋白質の中で最も産生効率が高く,他の産生蛋
白質との比較において,HBVが微量である場合でも血清から検出されるため,マ
ーカーとして機能する。
HBs抗体の存在及びHBc抗体の存在は,いずれもHBV感染があったことを
意味する。また,HBc抗体は,HBs抗体よりも長期間残存するため,既往感染
のマーカーとして有用である。
なお,我が国では,HBs抗原陰性,HBc抗体陽性の既往感染者が人口の約2
0%を占めると予測されている。
(エ)HBV-DNA定量検査は,血清中のHBV-DNAの量を測定すること
によりHBVの存在及びその量を調べる検査である。肝機能マーカー検査(後記カ
参照)やHBs抗原・抗体検査及びHBc抗体検査に比して,相対的に手間のかか
る検査である。高精度の検査法であるPCR法は,ターゲット遺伝子領域のDNA
をPCRという手法で増幅させるものであり,リアルタイムPCR法は,従来のP
CR法(検出限界値は2.6〔450コピー/ml〕)に比してより検出感度が高
い。
(以上ウにつき,甲B2~8,甲B19,乙B3,乙B8,乙B14,乙B15,
証人G医師〔p36〕,弁論の全趣旨)
エHBV再活性化及びdenovoB型肝炎
非活動性HBVキャリアが,移植や悪性腫瘍,リウマチ・膠原病などの治療のた
めに抗腫瘍薬や免疫抑制薬を使用した場合,免疫抑制作用のため,その使用中又は
使用後に,HBVが再活性化(一般にHBV-DNA量で10倍以上の増加がみら
れる場合をいう。)することがあり,免疫抑制状態からの回復に伴い肝炎を発症す
-22-
る。
HBV既往感染者であっても,免疫抑制作用を伴う治療により免疫作用が高度に
低下すると,HBV再活性化が生じることがある。HBV再活性化による肝炎であ
って,HBV既往感染者に起こるものは,denovoB型肝炎と呼ばれている。
(以上エにつき,甲B2,甲B19,乙B15)
オ核酸アナログ薬
HBVに対する核酸アナログ薬は,HBVのDNAがRNAを介して合成される
過程を阻害し,抗ウイルス薬として作用する。肝細胞内に存在するcccDNA
(上記ウ(ア)参照)を排除する作用はない。
我が国では,核酸アナログ薬であるラミブジンの製剤が,平成12年11月以降
にB型慢性肝炎に対し,平成17年9月以降に肝硬変に対しそれぞれ保険適応とな
り,より耐性化頻度が少なく抗ウイルス力も高いエンテカビルの製剤(商品名バラ
クルード)が,平成18年7月以降,B型慢性肝炎及び肝硬変に対し保険適応とな
った。
(以上オにつき,甲B3,乙B2,乙B7)
カ肝臓組織の傷害とAST/ALT
AST及びALTは,いずれも細胞内で合成される酵素であり,肝細胞が傷害さ
れると血中量が上昇するため,肝機能のマーカーとして用いられる(乙B10,弁
論の全趣旨)。
(5)「免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン」
ア厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班劇症肝炎分科会と,
「肝硬変を含めたウイルス性肝疾患の治療の標準化に関する研究」班は,平成20
年10月頃までに,「免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策」と題する
合同報告をまとめ,32名の医師の共同執筆として,専門誌である「肝臓」に寄稿
し(同月23日受付),同年12月8日,掲載が採択され,同誌50巻1号(20
09年〔平成21年〕1月号)に特別寄稿として掲載された(乙B8。以下,この
-23-
論稿を「本件合同報告」という。)。
本件合同報告には,上記の各研究グループが,全国調査により,早急なHBV再
活性化対策の必要性を認め,合同でワーキンググループを立ち上げ,「免疫抑制・
化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン」(以下「本件ガイドライン」
という。別紙2のとおり。)を作成した旨が記載されている。
イ本件ガイドラインの要旨は,以下のとおりである。
まず,免疫抑制・化学療法を行う全ての症例に対し,スクリーニング検査として,
HBs抗原,HBc抗体,HBs抗体を測定する。
HBs抗原が陽性の場合には,さらにHBe抗原,HBe抗体及びHBV-DN
A定量検査を実施した上,基本的に核酸アナログ製剤の予防的投与を実施する。
HBs抗原が陰性でHBc抗体及びHBs抗体がいずれも陰性の場合は,通常の
対応とする。
HBs抗原が陰性でHBc抗体又はHBs抗体のいずれか一方又は双方が陽性,
すなわち感染既往例と判断される場合には,更にHBV-DNA定量検査を実施し,
HBV-DNAが陽性(検出感度以上)の場合には核酸アナログ製剤の予防的投与
を行う。一方,HBV-DNAが陰性(検出感度未満)の場合には,HBV-DN
Aを毎月1回モニタリングしながら,陽性化した時点で直ちに核酸アナログ製剤を
投与する。
なお,リツキシマブ・ステロイド使用例,造血細胞移植例は,HBV再活性化に
つき高リスクであり,注意が必要であること,HBV-DNA定量検査は,PCR
法及びリアルタイムPCR法により実施するが,より検出感度の高いリアルタイム
PCR法が望ましいことが,注において記載されている。
ウ本件合同報告には,本件ガイドラインを作成した経緯,本件ガイドラインの
内容のほか,本件ガイドライン作成に当たり論点になった事項が記載されている。
例えば,①「B型キャリア例の急性増悪では発症後早期の核酸アナログ治療が有
効であるが,HBV再活性化による劇症化例は発症後の核酸アナログ治療では予後
-24-
不良であり,発症前の予防投与が必要である。しかし既往感染例でのHBV再活性
化率は明らかでなく,また本邦におけるHBc抗体ないしHBs抗体陽性の既往感
染例の頻度は高率であることより,全ての症例に核酸アナログの予防投与を実施す
るのは医療経済的にも困難である」こと,②海外の報告(Huiら。2006年)
では「HBs抗原陰性例のHBV再活性化では,HBV-DNAが陽性化し,肝炎
が発症するまでに12~28週(平均18.5週)を要しており,したがってHB
V-DNAをPCR法又はリアルタイムPCR法で毎月モニタリングし,検出感度
以上になった時点で直ちに核酸アナログを投与しても肝炎の重症化は予防可能であ
ると推測される」ことが記載されている。
エ本件合同報告の末尾には,「今後は本ガイドラインを血液内科をはじめとす
る関係領域に周知させていくとともに,各分野と協力して本ガイドラインの有効性
を検証していくことが重要である」との記載がある。
オ本件ガイドラインは,当初版の公表後に改訂が行われており,①HBs抗原
陰性かつHBc抗体陽性又はHBs抗体陽性の例において核酸アナログ製剤の投与
を行う基準について,当初版ではHBV-DNA定量検査において「検出感度以
上」の場合とされていたのが,平成25年改訂版では「2.1以上」の場合とされ,
また,②HBV-DNAのモニタリングの頻度について,当初版では,「1回/
月」かつ「治療終了後少なくとも12か月まで継続」とされていたのが,上記改訂
版では,「1回/1~3カ月」かつ「治療内容を考慮して間隔・期間を検討する」
とされている(平成25年10月28日付け被告第3準備書面参照)。
(6)疑義照会に対する回答
厚生労働省保険局医療課は,平成23年9月22日,地方厚生(支)局医療課,
都道府県民生主管部(局)国民健康保険主管課(部),都道府県後期高齢者医療主
管部(局)後期高齢者医療主管課(部)に宛て,「疑義解釈資料の送付について
(その10)」と題する事務連絡文書(以下「本件疑義解釈資料」という。)を送
付した。
-25-
本件疑義解釈資料には,保険診療報酬の算定に関し,別紙3のとおりの問い及び
答えが記載されている。
(以上(6)につき,乙B9)
2当事者の主張
(1)被告病院の医師らが,本件患者につきHBV-DNAが検出可能となった
時点で核酸アナログ製剤の投与を開始すべき注意義務を負っていたか
(原告らの主張)
ア本件ガイドラインは,公表当時までに既に普及していた知見に基づいて作成
されたものである。
したがって,大学医学部附属病院として最新の治療を提供すべき医療機関である
被告病院の性格や,本件ガイドラインを取りまとめ本件合同報告の共同執筆者とな
った厚生労働省の研究グループの構成員に被告病院消化器内科に所属する医師らが
含まれており,公表の時点で既にその内容を十分に知っていたことに照らし,本件
ガイドラインが公表された後は,被告病院の医師らが本件ガイドラインを遵守すべ
き注意義務を負っていたことは明白であるというべきである。
イよって,本件診療を担当した被告病院の医師らは,本件患者に対するリツキ
サンの投与開始後,平成22年6月17日採取の血清中のHBV-DNAが陽性
((+)>2.1)であったことが判明した時点で,直ちに核酸アナログ製剤の投
与を開始すべき注意義務があった。
仮に,本件ガイドライン(本件診療当時の版である当初版)により核酸アナログ
製剤の投与を開始すべきとされている「検出感度以上」の場合が,計測上検出され
た場合との意でなく,カットオフ値以上の場合との意であったとしても,本件ガイ
ドラインに従い毎月1回のHBV-DNA検査を行っていれば,肝機能値の異常が
現れた平成23年9月29日の12~28週前には,HBV-DNAの値がカット
オフ値を超えたはずであるから(前記争いのない事実等(5)ウ②参照),その時点
で直ちに核酸アナログ製剤の投与を開始すべき注意義務があった。
-26-
ウしかし,被告病院の医師らは,本件患者について,肝機能の指標であるAS
T/ALTの測定を行うにとどまり,上記注意義務を怠った。
なお,被告は,被告病院の医師らがHBV関連の抗原・抗体の検査を行って再活
性化に注意していたと主張するが,本件診療においてHBV関連の抗原・抗体の検
査がウイルス再活性化のモニタリング目的で行われたとはいえないし,測定頻度も
少なく,モニタリングの目的を達するものではない。
エ被告は,本件疑義解釈資料が示されるまで,臨床現場において核酸アナログ
製剤の予防的投与ないし早期投与が健康保険の適応外であると認識されていたと主
張するが,そもそも健康保険制度上の制約は医療水準として普及していたことを否
定する要素とはならない。
(被告の主張)
ア被告病院らの医師が,本件診療に際し,本件ガイドラインに記載されたHB
V-DNAの毎月測定や核酸アナログ製剤の予防的投与ないし早期投与を行うべき
注意義務を負っていたことは,否認する。本件ガイドラインは,下記の各事情に照
らし,本件診療当時,医療水準として確立,普及周知していたとはいえない。
そもそも,診療ガイドラインは,一般論として,医師に対しこれに従うべき法的
な注意義務を課すものではない。
また,本件ガイドラインは,確立した知見に基づくものではなく,今後行ってい
くべき治療の検討,検証のためのたたき台として公表されたものである。当時,H
BV-DNAの頻回測定や核酸アナログ製剤であるバラクルードの早期投与の有効
性についてのエビデンスは乏しく,その後,本件診療後に公表された論文や学会報
告においても,厚生労働省の研究グループにおいて検証が進行中である旨の報告が
されている。
本件診療の当時,平成22年9月下旬に本件疑義解釈資料が示される前は,臨床
現場では,本件ガイドラインに記載されているようなHBV-DNAの頻回測定は,
健康保険上容認されないと認識されていた。バラクルードの早期投与についても,
-27-
その添付文書上,肝機能の異常が確認されていない症例への適応は読み取れず,本
件疑義解釈資料により,例外的に早期投与の保険適応が認められることがはじめて
明らかになった。
さらに,平成24年10月に開かれた第74回日本血液学会総会における講演に
よりはじめて本件ガイドラインの内容が血液内科医に周知されたことや,平成25
年の第49回日本肝臓学会での最新の状況の報告からも,本件ガイドラインに従っ
たスクリーニング検査やHBV-DNAのモニタリングは普及していないことが分
かることからしても,本件診療の当時,本件ガイドラインが周知,普及していなか
ったといえる。
イなお,本件ガイドライン(当初版)にいう「検出感度以上」とは,改訂版に
おいて明記されたとおり,カットオフ値である2.1以上の意であるから,本件ガ
イドラインを前提としても,平成22年6月17日採取の血液のHBV-DNA定
量検査の結果によりバラクルードを投与すべきであったとはいえない。
ウ本件診療の当時,HBVの再活性化に対する注意は,肝機能マーカーである
AST/ALTを検査し肝機能をモニタリングして行うのが一般的であった。そし
て,被告病院の医師らは,本件診療において,denovoB型肝炎の発症リスクを考
慮し,化学療法開始後,第1回の投与後はほぼ連日,それ以降の化学療法中におい
ても週に2,3回,外来での経過観察時にも月に1,2回は,AST/ALTの測
定を行い,肝機能に注意を払っていた。本件診療中,同月16日の血液検査の結果,
肝機能の指標の1つであるフィブリノゲンの低下がみられたことに鑑み,同月17
日にHBV関連の抗原・抗体の検査及びHBV-DNA定量検査を行い,カットオ
フ値未満であることを確認したこと,平成23年9月29日の血液検査の結果,A
ST/ALTが軽度上昇していたことに鑑み,同年10月5日の血液腫瘍内科外来
診察時にHBV関連の抗原・抗体の検査及びHBV-DNA検査を行い,HBs抗
原の上昇を確認しdenovoB肝炎を疑い,同日中に本件患者に対し翌日の受診を
指示し,さらに同月6日にHBV-DNAの上昇も確認した上で直ちに抗ウイルス
-28-
薬による治療を開始したことは,その現れである。
さらに,被告病院の医師らは,本件患者に対し悪性リンパ腫の治療を開始してか
ら,適宜肝炎ウイルスマーカーであるHBs抗原の測定(本件診療の当時,肝炎ウ
イルスマーカーとは,通常,HBV関連の抗原・抗体を指していた。)を追加し,
肝炎発症のモニタリングを行っていた。すなわち,上記の平成22年6月17日に
加え,平成21年11月26日,平成22年7月14日及び平成23年1月31日
にHBs抗原の検査を行い,いずれも陰性であることを確認した。
(2)本件患者につきHBV-DNAが検出可能となった時点で核酸アナログ製
剤の投与を開始することにより本件患者の死亡を防ぐことができたかどうか(因果
関係)について
(原告らの主張)
ア被告病院の医師らが,上記(1)(原告らの主張)の注意義務を尽くし,平成
22年6月17日のHBV-DNA定量検査の結果が「(+)」であった時点,又
はその後の毎月のモニタリングによりHBV-DNAがカットオフ値を超えた時点
で核酸アナログ製剤の投与を開始していれば,本件患者が肝炎を発症することはな
かった。
ところが,被告病院の医師らが上記注意義務を怠ったことにより,本件患者は,
HBVの再活性化による肝炎を発症し,肝不全により,平成23年11月19日に
死亡するに至った。
イ本件患者の死因は,denovoB型肝炎による肝不全である。
(ア)一般的に,denovoB型肝炎の劇症化例は極めて予後不良であり,雑誌論
文(甲B19)には,全例で死亡に至ったとの海外の調査例が紹介されている。
(イ)本件患者は,平成23年10月14日の入院前から既に倦怠感が現れてお
り,入院後,容態は悪化の一途をたどった。特に,同年11月10日以降,急速に
容態が悪化した。
同月14日には,尿素サイクル(体内で生成される有毒物質であるアンモニアを
-29-
肝細胞が無毒な尿素に変換する回路)が機能不全に至り,血中アンモニアが119
に上昇し,同月15日には,アンモニアなどの中毒物質による肝性脳症が進行し,
羽ばたき振戦が出現した。羽ばたき振戦は,劇症肝炎の判断要素の1つである昏睡
度Ⅱの肝性脳症の症状である。また,本件患者のT-Bilは,同月14日に5を
超え,その後も上昇しており,肝機能悪化の重篤化が読み取れる。
(ウ)被告は,本件患者の死因について,悪性リンパ腫の肝浸潤による肝不全で
あると主張する。
しかし,本件診療の診療録上,被告病院の医師らが,同月18日の段階に至って
も,悪性リンパ腫再発の可能性を検討しながらもそのような判断をしていないこと
からすると,肝不全の進行の原因を悪性リンパ腫の再発に求めるのは不合理である。
被告が指摘するsIL-2Rの上昇は,T細胞の活性化の指標であるから,感染
症など悪性リンパ腫以外の疾患や,インターフェロン療法によっても上昇し得ると
ころ,本件患者は,血液細菌検査でブドウ球菌が検出され,インターフェロン療法
も受けていたから,sIL-2Rの上昇が悪性リンパ腫の肝浸潤によると結論付け
ることはできない。また,被告は,肝萎縮がなかったことを指摘するが,劇症肝炎
において必ず肝萎縮が生ずるわけではない。
なお,仮に同月17日の画像所見が悪性リンパ腫の再発の像であるとしても,既
に肝炎で全身状態が悪化していたところに悪性リンパ腫の病勢が現れたというにす
ぎず,denovoB型肝炎による死亡という機序に影響を与えるものではない。
ウ他方で,雑誌論文(乙B7)には,非活動性HBVキャリアに対する化学療
法の際に核酸アナログ製剤を予防的に投与することにより,再活性化をほぼ100
%抑制することができた旨の調査例が報告されている。また,本件合同報告には,
上記1(5)ウ②のとおり,HBV既往感染例について,HBV-DNAをPCR法
又はリアルタイムPCR法で毎月モニタリングし,検出感度以上になった時点で直
ちに核酸アナログ製剤を投与しても肝炎の重症化は予防可能であると推測されると
記載されている。したがって,上記アのいずれかの時点で核酸アナログ製剤の投与
-30-
が開始されていれば,本件患者が肝炎の重症化により死亡することはなかったとい
える。
エよって,原告ら主張の注意義務違反と本件患者の死亡との間には,因果関係
がある。
(被告の主張)
ア原告らの主張を否認する。本件患者の死因は肝不全であるが,悪性リンパ腫
の肝浸潤によるものであって,B型肝炎によるものではない。
(ア)本件患者は,HBV再活性化により肝炎を発症したが,平成23年10月
14日の入院の後にHBV-DNA量が減少していったこと,AST/ALTの値
が同月17日をピークに減少し,ピーク時の値からして広範な肝細胞壊死が生じた
とは考えにくいことなどからすると,同月28日の当時,本件患者の肝炎は改善し
ていたといえる。
加えて,劇症肝炎の際には,尿素サイクルが障害され,また,ビリルビン抱合能
の低下により総ビリルビンに対する直接ビリルビンの割合が増加するところ,本件
患者については,尿素窒素値の低下傾向はなく尿素サイクルは保たれ(なお,Cr
の値に照らし明らかな腎障害は認められないから,尿素窒素が低下傾向になかった
理由が腎障害のためであったとはいえない。),また,総ビリルビンに対する直接
ビリルビンの割合が保たれていることから,肝の代謝機能は維持されていたと考え
られる。
(イ)ところが,①同日頃以降,肝機能の改善にもかかわらず,全身倦怠感は増
悪しており,同年11月14日の血液検査の結果において白血球数が590に減少
し,同月15日の血液検査の結果においてsIL-2Rが18032と著増してい
たこと,②劇症肝炎では肝組織の破壊によって肝萎縮がみられるのが通常であるが,
診療経過において肝萎縮はみられず,反対に肝腫大があったこと,③同月17日か
ら同月18日にかけて実施された腹部超音波検査及び肝造影超音波検査の結果,肝
臓内に血流を伴う多発性の低エコー領域を認めたことは,劇症肝炎の通常の経過と
-31-
は異なる一方,悪性リンパ腫の所見に合致すること,そして,④上記①の後もsI
L-2Rのさらなる上昇がみられ,AST/ALTの上昇に比してLDH値の上昇
が強い上昇傾向を示していたことに加え,⑤本件患者がそれまでにも度重なる悪性
リンパ腫の再発を繰り返していたことなどからすると,この時点での肝機能の低下
及びこれによる種々の症状や所見は,悪性リンパ腫の肝浸潤による肝不全が原因で
あると考えるのが合理的である。
イ仮にB型肝炎による肝不全が本件患者の死因であったとしても,下記の点に
照らし,やはり,原告ら主張の因果関係はない。
(ア)HBV-DNAの検出がAST/ALTの上昇に必ず先行するというまで
の根拠はないこと。
(イ)本件診療の後,バラクルードの早期投与が肝炎の劇症化防止に有効である
との検証が得られているが,死亡率を低下させるとの根拠や,劇症に到らない肝炎
の発症を防止し得るとの根拠は,未だ得られていないこと。
(ウ)本件患者は,悪性リンパ腫の3度目の再発により,もはや治療の選択肢が
なく,極めて予後不良な状況にあったから,仮に原告ら主張の治療が行われたとし
ても,同月19日を超えて生存することができたとはいえないこと。
(3)損害の発生及び損害額について
(原告らの主張)
被告病院の医師らの注意義務違反により原告が受けた損害は,次のとおりであり,
その総額は1億3284万2195円となる。
ア逸失利益合計7934万9875円
(ア)給与賞与分(6607万9756円)
本件患者は,被告病院の医師らが上記注意義務を尽くしていたとすれば,平成2
1年9月以前の給与水準で精力的に働くことが可能であった。
本件患者は,同月以前,給与賞与として年間1704万円(L株式会社から給与
として1200万円,株式会社Mから給与賞与として504万円)の支給を受けて
-32-
いた。
本件患者は,死亡当時70歳であったから,平均余命(15.10年)のうち8
年を逸失利益算定の基礎とすると,これに対応するライプニッツ係数は6.463
2となる。また,本件患者は妻(原告A)を被扶養者としていたことから,生活費
控除率は40%とするのが相当である。
以上によれば,本件患者の死亡による逸失利益のうち給与賞与分は,次の計算式
のとおり6607万9756円となる。
1704万円×6.4632×(1-0.4)=6607万9756円
(イ)年金分(1327万0119円)
本件患者は,死亡当時,①国民年金から年額74万1200円,②厚生年金(年
額206万8600円〔ⅰ〕)のうち年額13万0750円〔ⅱ〕,③基金から年
額84万7236円の調整金を受給していた。
したがって,就労可能年数(8年間)は,上記①,②ⅱ及び③の金額を受給する
ものとし,その後の平均余命期間中は上記①及び②ⅰの金額を受給するものと考え
ると,本件患者の死亡による逸失利益のうちの年金分は,次の計算式のとおり13
27万0119円となる。
(74万1200+13万0750+84万7236)円×6.4632×(1-0.4)=666万6865円
(74万1200+206万8600)円×(10.380-6.4632)×(1-0.4)=660万3254円
666万6865円+660万3254円=1327万0119円
(ウ)以上によれば,本件患者の死亡による逸失利益は,合計7934万9875
円となる。
イ死亡による慰謝料2800万円
ウ付添看護費,看護に関する交通費等実費119万0570円
エ葬儀費用・仏壇仏具費用・墓地墓石費用1491万1750円
オ弁護士費用939万円
上記アないしエの合計額は1億2345万2195円であるところ,本件訴訟
-33-
に関する弁護士費用は939万円を下らない。
カ以上の総額は,1億3284万2195円である。
(被告の主張)
上記原告らの主張を否認する。
第3当裁判所の判断
1被告病院の医師らが,本件患者につきHBV-DNAの検出が可能となった
時点で核酸アナログ製剤の投与を開始すべき注意義務を負っていたかについて
(1)関連する医学的知見
後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各医学的知見が認められる。
ア核酸アナログ薬について
(ア)免疫抑制効果を伴う治療によるHBV再活性化を前提としない通常のB型
肝炎の治療においては,非活動性HBVキャリアは経過観察の対象であり,直ちに
治療の対象とはされない。このような非活動性HBVキャリアや若年の軽症肝炎に
対する肝炎発症予防目的での核酸アナログ製剤の投与は不適切であるとするのが一
般的な知見であり,肝炎発症後についても,直ちには核酸アナログ製剤投与による
治療の適応とはされていない。(甲B3,乙B7)
また,バラクルードの添付文書(平成23年1月改訂版)には,「効能又は効
果」として,「B型肝炎ウイルスの増殖を伴い肝機能の異常が確認されたB型慢性
肝疾患におけるB型肝炎ウイルスの増殖抑制」と記載されている(乙B2)。
(イ)核酸アナログ薬は,HBVのDNA合成を妨げるが,肝細胞内に存在する
cccDNAを排除する作用はなく(前記争いのない事実等(4)ウ(ア),同オ),そ
の投与を中止すると,血中HBV-DNAが再上昇し肝炎の再燃がみられることが
多いため,一旦投与を開始すると投与が長期にわたることが多い。したがって,長
期投与等についての安全性が完全に確認されているわけではないことを考慮すると,
核酸アナログ製剤の投与による治療の開始・適応の判断は慎重に行う必要がある。
バラクルードの添付文書(平成23年1月改訂版)においても,「警告」として
-34-
「本剤を含むB型肝炎に対する治療を終了した患者で,肝炎の急性増悪が報告され
ている。」との記載がある。なお,エンテカビルの耐性株誘導は,年間0~1%で
あると報告されている。
(以上(イ)につき,乙B2,乙B7)
イリツキサンについて
(ア)リツキサンの添付文書(平成20年改訂第12版)には,「警告」欄に,
「B型肝炎ウイルスキャリアの患者で,本剤の治療期間中又は治療終了後に,劇症
肝炎又は肝炎の増悪,肝不全による死亡例が報告されている」との記載があり,ま
た,「重大な副作用」欄に,頻度不明の副作用として,「B型肝炎ウイルスによる
劇症肝炎又は肝炎の増悪による肝不全があらわれることがあるので,肝機能検査値
や肝炎ウイルスマーカーのモニタリングを行うなど患者の状態を十分に観察するこ
と」との記載がある。(甲B1)
(イ)リツキサンの製造販売元会社は,平成18年12月,リツキサンに関する
安全性情報を発表し,「B型肝炎ウイルスキャリアにおける劇症肝炎について」と
題する文書を公表して注意喚起を行った。上記文書には,リツキサンの使用に当た
っての注意事項として,下記のとおりの記載がある。(甲B16)
「1.肝機能検査値等のモニタリングを行ってください。
本剤の投与により,B型肝炎ウイルスキャリアにおいて,劇症肝炎又は肝炎の
増悪,肝不全により死亡に至った症例が報告されておりますので,本剤の治療
期間中のみならず,治療終了後も継続して肝機能検査値や肝炎ウイルスマーカ
ーのモニタリングを行って下さい。
なお,投与開始前にHBs抗原陰性の患者に対して,本剤を投与した場合にお
いても,B型肝炎ウイルスによる劇症肝炎を発症し,死亡に至った症例が報告
されておりますのでご注意ください。
2.異常を認めたら直ちに抗ウイルス剤を投与してください。
肝機能検査値等の異常を認め,肝炎ウイルスマーカーの検査でB型肝炎ウイル
-35-
スの増殖が認められた場合は,本剤の投与を中止し,直ちに抗ウイルス剤を投
与するなど適切な処置を行ってください。」
(2)本件ガイドライン作成・公表当時の医学的知見についての検討
原告は,本件ガイドラインが,公表当時までに既に普及していた知見に基づいて
作成されたものであることを前提に,本件診療の当時,本件ガイドラインに従うこ
とが被告病院における医療水準であったと主張するので,本件ガイドラインが作成
・公表された当時の医学的知見及び本件ガイドラインの性格について検討する。
アHBV再活性化についての知見
本件合同報告においては,本件ガイドライン作成の契機となった知見として,①
以前から,HBVキャリアに合併した悪性腫瘍患者に対し,ステロイドを併用した
化学療法を施行した場合,HBVの急激な増殖すなわち再活性化により致死的な重
症肝炎が発症することが知られていたこと,②最近,HBs抗原陰性の既往感染者
についても,リツキシマブなど強力な免疫抑制剤の使用により,HBV再活性化に
より重症肝炎が発症することが報告され,denovoB型肝炎と呼ばれていることが
紹介されている(乙B8)。
上記①及び②は,上記(1)イのとおり,リツキサンの投与に関し同旨の知見に基
づき添付文書及び安全性情報により注意喚起がされていたことに表れているところ
と合致しており,本件ガイドラインが作成される以前から,悪性リンパ腫の治療を
行う臨床の現場における共通認識であったといえる。
すなわち,本件ガイドラインが作成・公表された当時,免疫抑制,化学療法によ
り,非活動性HBVキャリア及びHBs抗原陰性の既往感染者のHBV再活性化が
生じ得ることは,既に確立,周知された知見であったといえる。
イ核酸アナログ製剤のHBV再活性化に対する予防的投与ないし肝炎発症前の
早期投与の有効性に関する臨床知見
次に,本件ガイドラインが作成・公表された当時,非活動性HBVキャリア又は
HBs抗原陰性の既往感染者に対し免疫抑制,化学療法を行うに際し,これらの療
-36-
法に先立ち又はこれらの療法と同時に予防的に核酸アナログ製剤の投与を開始し,
あるいは肝炎発症前の早期に投与を開始することにより,HBV再活性化による肝
炎やその劇症化を防止し得るとの臨床的な知見が既に確立していたかについて検討
する。
(ア)桶谷眞(本件共同報告の共同著者),坪内博仁(本件共同報告の著者代
表)著,「抗悪性腫瘍薬,免疫抑制薬によるHBV再活性化とその対応」(日本臨
牀69巻増刊号4。平成23年5月。甲B2)は,本件ガイドラインに即してH
BV再活性化対策について述べた論文であるところ,上記論文には,非活動性HB
Vキャリアにおける再活性化に関連して,海外における30人のHBs抗原陽性の
悪性リンパ腫患者に対する化学療法において,ラミブジン予防投与群と非投与群を
比較したところ,非投与群では53%にHBV再活性化がみられたのに対し,投与
群では1例もみられず,ラミブジンの予防投与の有効性が示されたとの紹介があり,
平成15年発表の海外の論文が引用されている。
この海外の調査結果は,大規模な調査に基づくものではないものの,非活動性H
BVキャリアの悪性リンパ腫患者に対する化学療法の際に核酸アナログ製剤を予防
的に投与することにより,HBV再活性化防止に関し良好な効果が得られると考え
ることについて,相応の根拠となる知見であるといえ,ここから,HBs抗原陰性
の既往感染者である悪性リンパ腫患者に対する化学療法の際に核酸アナログ製剤を
予防的に投与することにより,良好なHBV再活性化防止効果を得ることができる
との推論も可能である。
もっとも,上記の調査結果は,調査の規模等に鑑み,HBV再活性化防止につい
ての確立した知見を導くことができるものであるとまではいえない。また,HBV
は遺伝子型により臨床像や治療反応性が異なり,国際的な地域間で優勢な遺伝子型
が異なること(甲B3,甲B10,乙B29)に照らすと,このような海外の臨床
研究に基づく成果が我が国の臨床医療においてどの程度妥当するかは,検証の対象
となるべきであると解される上,これが海外における研究であることに照らせば,
-37-
我が国の悪性リンパ腫治療の臨床現場において,本件ガイドライン公表時に既に周
知のものであったと認めるには足りない。
(イ)厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班劇症肝炎分科会
は,平成18年度から,全国の施設へのアンケート調査により劇症肝炎の症例につ
いて調査し,平成19年度には平成18年の発症例について調査,解析したところ,
その報告書(甲B18)には,①平成18年の劇症肝炎発症例73例のうち,B型
肝炎キャリアの症例6例(ここでいうキャリアには,一般にいう既往感染者を含み,
4例がdenovoB型肝炎と思われる症例であるとされている。)は全例が死亡に
至っており,うち5例では核酸アナログ製剤の投与が行われていた旨の記載がされ
ている。
また,上記報告書には,考察として,②HBVを原因とする症例に対しては全体
の89%で核酸アナログ製剤の投与が行われており,投与開始時期も脳症発現前の
症例が多かったが,これらが必ずしも予後の改善につながらず,特に免疫抑制・化
学療法後に発症するHBV再活性化症例では,肝炎発症後にラミブジン治療を開始
しても劇症化を必ずしも阻止できていないことから,今後は予防投与や肝炎発症前
の早期投与を目指した治療指針の確立が必要と思われる旨が記載されている。なお,
上記報告書には,上記のような治療方針の確立のために,劇症肝炎分科会のワーキ
ンググループは,厚生労働省「肝硬変を含めたウイルス性肝疾患の治療の標準化に
関する研究」班と合同で「免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎に対する診
療ガイドライン案」を作成した旨の言及がされている。
上記①及び②は,肝炎発症後の治療的介入の効果が十分でないこと,したがって,
核酸アナログ製剤の投与を予防的にないし早期に開始することが劇症肝炎の防止及
び救命の観点から有利であるとの仮説が合理性を有することを示すものとはいえる
が,結局のところは,これらの点から,予防的投与ないし早期投与の有効性を確認
し,そのような治療指針を確立する必要性が述べられていると解されるところであ
り,臨床の現場において行われるべき確立した治療指針を具体的に述べたものとは
-38-
いえない。
(ウ)そして,以上の他には,本件全証拠を検討しても,核酸アナログ製剤の予
防的投与ないし早期投与の有効性について,本件ガイドラインの作成・公表当時に,
既に確立されていたと認めるに足りる知見は見当たらない。
かえって,本件ガイドライン公表後の事情として,①医学誌の平成24年2月号
に掲載された論文に,厚生労働省の研究グループにおいて核酸アナログ製剤の予防
的投与による劇症化防止効果について前方視的臨床研究の方法で検証作業中である
との趣旨の記載があること(乙B12),②同年10月に実施された日本血液学会
学術集会の講演録にも,厚生労働省の研究グループにおいて,HBs抗原陰性のH
BV既往感染者についてB細胞性悪性リンパ腫に対するリツキシマブ及びステロイ
ドを併用した化学療法を行う場合のHBV-DNAモニタリングの有効性を検証す
るための多施設共同臨床研究が進行中である旨の報告があること(乙B15)は,
本件ガイドラインが作成・公表された当時には,核酸アナログ製剤の予防的投与な
いし早期投与の有効性に関する知見が未だ確立されたものではなかったことを示す
といえる。
ウdenovoB型肝炎が生ずる頻度についての知見
上記イ(ア)記載の論文(甲B2)は,既往感染者におけるHBV再活性化に関連
して,前記争いのない事実等(5)ウのとおり本件ガイドラインにおいて言及のある
Huiらの調査を紹介し,これによれば,HBs抗原陰性かつHBs抗体及びHB
c抗体のいずれか一方又は双方が陽性の悪性リンパ腫244例を対象に,前向きコ
ホートの手法によりdenovoB型肝炎の発症率を調査したところ,リツキシマブ
とステロイドを併用した化学療法では49例中6例であったことを述べる。
この知見は,リツキシマブとステロイドを併用した化学療法においてdenovo
B型肝炎が生ずる頻度について参考となる知見であると考えられる。
もっとも,denovoB型肝炎の発症率については,我が国の内外で調査がされて
いたが,平成21年頃以降に発表された調査結果においてもばらつきがみられるこ
-39-
と(甲B19〔137~141頁〕),上記イ(ア)記載の論文(甲B2〔523頁
の図2〕)及び平成24年10月の日本血液学会学術集会での田中靖人の発表論文
「がん薬物療法に伴うB型肝炎ウイルス再活性化と対策」(乙B15〔311頁の
図3)によれば,上記のHuiらの調査の後,HBs抗原陰性かつHBs抗体及び
HBc抗体のいずれか一方又は双方が陽性の患者に対するリツキシマブとステロイ
ドを併用した化学療法によるHBV再活性化の我が国における頻度についての研究
が進行途上であったことがうかがわれること等を考慮すると,本件ガイドラインが
作成・公表された当時,リツキシマブとステロイドを併用した化学療法において
denovoB型肝炎が生ずる頻度が十分に明らかになっていたとまではいえない。
エ本件ガイドライン作成・公表当時の医学的知見及び本件ガイドラインの性格
についての評価
以上によれば,本件ガイドラインが作成・公表された当時,非活動性HBVキャ
リア又はHBV既往感染者に対し免疫抑制,化学療法を行うに際し,核酸アナログ
製剤を予防的に投与すれば,HBV再活性化が生じない可能性が高いことを根拠付
ける相応な知見があったと解する余地はあるものの,特に,HBV既往感染例に関
しては,核酸アナログ製剤の予防的投与ないし早期投与によって得られる効用の程
度と,その投与によって生ずるリスク等(その投与及び投与中止によって生ずるリ
スクや,医療資源配分の観点や保険診療制度を前提とした医療経
済上の観点による社会的負担)の程度を比較考量するために必要な知見が確立して
いたとはいえないのであって,臨床の現場において具体的な治療に結びつけること
が可能な程度にまで確立した知見が存在したと認めることはできない。
そうすると,本件ガイドラインは,作成・公表の当時に確立,周知されていた知
見を取りまとめた性格のものではなく,HBV再活性化防止のため今後行うべき診
療,治療を検討,検証していくための案を提示したものであると認めるのが相当で
ある。
そして,本件合同報告末尾の記載(前記争いのない事実等(5)エ)は,その旨を
-40-
明確に表したものであるというべきである。また,前記
とおり,平成23年9月に本件疑義解釈資料が示されたことは,本件ガイドライン
が上記認定にかかる性格のものであることを裏付けるというべきである。
(3)まとめ
以上によれば,被告病院の大学医学部付属病院としての性格を考慮しても,本件
診療においてリツキサンの投与が開始された平成21年11月から,平成23年9
月29日の12~28週前頃まで(前記第2の2(1)(原告らの主張)イ参照)の
当時において,HBV既往感染者に対しリツキサンの投与を行うに当たり,本件ガ
イドラインに従ったHBV-DNAのモニタリング及び肝障害発症前のHBV-D
NA検出の時点で核酸アナログ製剤の投与を開始することが,被告病院における医
療水準であったということはできない。
したがって,本件診療において,被告病院の医師らが,本件患者につきHBV-
DNAの検出が可能となった時点で直ちに核酸アナログ製剤の投与を開始すべき注
意義務を負っていたとは認められない。
(4)本件診療についての検討
以上の認定判断を前提に,本件診療について検討しておく。
ア前記争いのない事実等(3)で認定した診療経過によれば,本件診療において,
被告病院の医師らは,平成21年11月26日の検査の結果,本件患者のHBc抗
体が陽性であったことに照らし,リツキサン併用THP-COP変法によるdeno
voB型肝炎の発症リスク及びそれが劇症化するリスクがあることを認識し,初回
のリツキサン投与の前にHBV-DNA定量検査を行って血中HBV-DNAが検
出されないことを確認し,その後は,主として肝機能マーカーであるAST/AL
Tを中心として,肝機能が悪化した際に変動する血液検査項目に注意を払い,異常
を認めたときにHBV-DNA定量検査やHBV関連の抗原・抗体検査を行い,A
ST/ALTの軽度上昇を契機に検査によりHBV再活性化を認め肝炎に対する治
療を開始したことが認められる。
-41-
イ上記(1)から(3)までにおいて検討したとおり,同月から平成23年9月29
日の12~28週前頃までの当時,HBV既往感染者に対し免疫抑制作用を有する
治療を行う場合について,核酸アナログ製剤の投与を予防的に又は肝障害発症前の
早期に開始することによって得られる効用の程度を評価するために十分な知見が確
立していなかったと認められ,そのような状況下では,本件診療に当たった被告病
院の医師らは,予防的投与ないし早期投与の効用とリスクを合理的に判断するよう
努めつつ,医療経済上の観点等に関する当時の実情を踏まえて,本件患者の具体的
病状に応じた裁量的判断を行うほかなかったこととなる。
そして,①本件患者は,既往症が多く,継続的服用が必要な薬剤の追加投与に対
し控えめな態度をとることにも合理性が認められること,②一般的には核酸アナロ
グ製剤投与の適応は慎重に解されており,また,バラクルードの添付文書には,免
疫抑制作用を有する治療を行う際のB肝炎発症予防は効能として示されていないこ
と(上記(1)ア),③本件疑義解釈資料が同年9月22日に示されたこと(前記争
いのない事実等(6))に表れているように,それ以前は,診療報酬算定の実務にお
いて,肝機能の異常が認められない場合の核酸アナログ製剤の投与が保険適応であ
るかどうかについて疑義があったこと,④本件診療当時のリツキサンの添付文書や
安全性情報にも,HBV-DNA定量検査の実施や肝障害発症前の抗ウイルス薬の
投与を推奨する記載はなかったこと(上記(1)イ)に照らせば,本件患者に対する
核酸アナログ製剤の予防的投与ないし早期投与に慎重な態度をとることにも一定の
根拠があったといえる。
ウ上記イを考慮すると,本件診療において被告病院の医師らが上記アのような
治療方針を採ったことが,診療における医師の裁量を逸脱したものとはいえない。
エなお,本件患者は,リツキサンによる治療を開始する前の平成21年11月
27日採取の血液では,HBV-DNA定量検査の結果が「ケンシュツセズ」であ
ったが,平成22年6月17日採取の血液では,「(+)<2.1LogC/m
l」であった。
-42-
この点について,被告は,2.1未満の検査結果は,カットオフ値未満であるか
ら,すなわち感度未満であり,何らかのPCR産物が検出されたとの意味である
「(+)」の検査結果は臨床上有意でない旨主張する。
しかし,上記検査の検査結果票(甲A2)には,HBV-DNA定量検査につき,
参考情報としての正常値が「カンドイカ」と記載された上で,検査結果が正常値で
ないことを示す「H」のサインが表示されている。
また,本件診療におけるHBV-DNA定量検査は,2.1から9.0までの定
量が可能であったから,高感度の検査方法であるリアルタイムPCR法によってい
たと解される(前記争いのない事実等(4)ウ(エ)参照)。そして,リアルタイムPC
R法は,反応チューブ内において,PCRによる増幅過程において,PCR産物で
あるDNAコピーを蛍光により検出してその強度をモニタリングする方法であるこ
と(乙B14)からすると,蛍光を検出した以上は,定量可能範囲までには至らな
くとも,検査対象のDNAコピーが有意な精度をもって検出されたことを意味し,
「(+)<2.1LogC/ml」は,定量可能範囲に至らない程度のHBV-D
NAが有意な精度をもって検出された,との意ではないかと考えられる。
そうすると,本件診療において,HBV-DNA定量検査の結果が,「ケンシュ
ツセズ」から「(+)<2.1LogC/ml」へと変化したことは,HBV増殖
の可能性を示すものとして留意することが望ましかったとも考えられるところであ
る。
もっとも,仮にそうであるとしても,上記(1)から(3)までにおいて検討したとこ
ろによれば,被告病院の医師らが本件患者について肝障害が表れる前に核酸アナロ
グ製剤を早期投与すべき注意義務を負っていたとはいえないのであるから,損害と
因果関係のある注意義務違反を見出すことはできない。
2本件患者につきHBV-DNAが検出可能となった時点で核酸アナログ製剤
の投与を開始することにより本件患者の死亡を防ぐことができたかどうか(因果関
係)について
-43-
(1)本件患者の死因について
ア(ア)本件患者は,平成23年10月5日採取の血液によるHBV関連の抗原
抗体検査及びHBV-DNA定量検査の結果,同月6日,HBVが再活性化しde
novoB型肝炎を発症したものと判断され,同日からバラクルード内服による治療
が,同月17日からインターフェロン療法が開始されるとともに,同日から3日間
のステロイドパルス療法が行われた。本件患者のAST/ALTは,同日の800
/396をピークに減少に転じた。
また,本件患者は,同月21日の腹部CT検査の結果,少量の腹水と肝腫大が認
められ,腹水は同月7日より増加,肝腫大はわずかに増大していることが疑われ,
また,左右の胸水が出現した。同月28日の腹部CT検査の結果,肝実質の縮小が
みられ,腫大が改善したと判断されるとともに,胸腹水の減少が認められた。
(以上(ア)につき,前記争いのない事実等(3)エ,乙A17の1)
(イ)仮に本件患者のdenovoB型肝炎が劇症肝炎に至っていたとすると,上記
のAST/ALTの減少は,治療に反応して肝細胞の傷害が抑えられたためではな
く,肝細胞の壊死が進んだことにより,傷害される肝細胞が減少したためであるこ
とになる。
しかし,本件患者は,同年11月10日の検査と同月14日の検査の間にT-B
ilの顕著な上昇がみられた上,同日には血中アンモニアの上昇が観察され,同月
15日には肝性脳症の症状である羽ばたき振戦が出現,ワーファリンの中止にもか
かわらずPT-INRが4を超え,肝不全の進行に対し輸血がされるなど,同月中
旬に至って肝不全が顕著となったのであって,同年10月17日の時点で既に広範
な肝細胞の壊死が生じていたとすることは,このような症状の経過と整合的でない。
また,上記のとおり,同月28日のCT所見は,同月21日のCT所見に比して改
善がみられており,同月17日の時点で既に広範な肝細胞の壊死が生じていたとす
ることは,このCT所見とも整合的でない。
(ウ)そして,本件患者には,肝萎縮や,AST/ALTの値が数千のレベルに
-44-
著増するなど,劇症肝炎を前提としなければ説明困難な所見がみられない。
(エ)そうすると,同年11月中旬以降の顕著な肝不全の原因がdenovoB型肝
炎の劇症化であると考えることには,疑問がある。
イ他方で,下記の各事情に照らすと,同月中旬以降に顕著に生じた肝不全は,
悪性リンパ腫の肝浸潤が原因であると考えるのが整合的である。
(ア)本件患者は,DLBCLの初回治療の当時,すでに体調不良があり,下腹
部に急速に増大する腫瘤が発現しており,平成21年11月27日のCT検査の結
果,胸水及び腋窩リンパ節の腫大が認められ,病期(前記争いのない事実等(4)ア
(ウ))は少なくともⅢ期である可能性が高いとされた(前記争いのない事実等(3)ア
(ア),(イ)及び(ウ))。
そうすると,本件患者は,治療開始時において,年齢は60歳以上,病期は少な
くともⅢ期,LDH高値であったから,IPI(前記争いのない事実等(4)ア(エ))
による高リスク群に属し,これによると,CHOP療法を受けた場合であっても予
後は厳しい見通しであると評価される状況であったといえる。
加えて,本件患者は,初回治療時に心不全の増悪のため化学療法を完遂すること
ができず,THP-COP変法2クールとリツキサンの投与,放射線治療を受ける
にとどまった上,初回治療後,中枢神経である小脳に早期再発し,放射線治療を受
け,さらには,2回目の治療を終えて退院した後,約半年後に体幹に多発性に再発
した(前記争いのない事実等(3))。
このように,本件患者は,初回治療時に根治的な化学療法を十分に行うことがで
きず,初回治療後,化学療法による治療が困難な中枢神経に早期再発し,その後多
発性の再々発がみられたのであって,このような経過と治療開始時の予後評価を併
せ考慮すると,再々発に対する治療後,治療が奏功したとはいえ,さらなる再発を
予想せざるを得ない状況であったと解される。
(イ)平成23年11月9日,胸部CT検査が行われ(前記争いのない事実等(3)
エ(ス)),読影担当医は,縦隔内に小さなリンパ節が複数あり,同年7月8日の画
-45-
像と比べて軽度目立つ旨の意見を述べた(乙A4〔552頁,813~814頁〕,
乙A6の6の2)。
その後,同年11月14日の胸部及び腹部CT検査の結果,左鎖骨上窩及び縦隔
内に同月9日の画像と比して増大傾向を示す複数の小リンパ節が認められ,また,
肝腫大がやや強くなっているように認められた(前記争いのない事実等(3)エ(セ),
乙A17の2)。
同月15日,悪性リンパ腫の腫瘍マーカーであるsIL-2Rが18032であ
り,著明に上昇していた(前記争いのない事実等(3)エ(ソ))。
同月17日の腹部超音波検査の結果,肝臓内に多発する数mmから8mm程度の
低エコーの病変が認められた。同月18日に肝造影超音波検査が行われたところ,
造影前は前日と同様の所見であり,かつ,造影後は病変部位に造影剤の取込みが認
められ,血流があることが確認された。なお,悪性リンパ腫の肝浸潤は,低エコー
域として描出される。(乙A4〔590頁,597頁〕,乙A8,乙A17の3,
乙B17)。
同月17日及び同月18日のsIL-2Rはそれぞれ26441,49751で
あり,著明に増加していた(前記争いのない事実等(3)エ(チ)及び(ツ))。
これらの各所見は,悪性リンパ腫の再発に合致する。
ウ(ア)ところで,被告病院消化器内科及び血液腫瘍内科の医師らは,同月14
日の夜にカンファレンスを行い,好中球減少の原因について検討し,血液腫瘍内科
の医師らは,上記カンファレンスの時点で悪性リンパ腫再発を疑う積極的な理由は
なく,骨髄検査を実施するかどうかは今後の状況をみて判断する旨の意見を述べた
ことが認められる(乙A4〔568頁〕,証人I医師)。
原告らは,上記カンファレンスをはじめ,被告病院医師らによる当時の検討状況
からしても,同日及び同月15日頃にみられた肝不全進行の原因は悪性リンパ腫で
はないと主張する。
(イ)しかし,上記カンファレンスでは,好中球減少の原因について,感染症,
-46-
薬剤性,悪性リンパ腫のいずれかであろうとの前提に検討がされていることからす
ると(乙A4〔567~568頁〕),「悪性リンパ腫再発を疑う積極的な理由は
ない」との意見の趣旨は,考えられる上記の3つの原因の中から悪性リンパ腫再発
であると結論付ける根拠は乏しいというものであると解され,悪性リンパ腫の可能
性を除外するものとは解されない。
また,上記カンファレンスに先立ち,同月8日,本件患者の歩行時に右に傾くよ
うなふらつきがあると家人から説明があったことから,同日,悪性リンパ腫再発を
除外する目的で頭部MRI検査が行われ著変がみられなかったが,同月14日にお
いても本件患者のふらつきが持続していた経緯があったことからすると(乙A4
〔547~564頁〕),上記カンファレンスの当時,被告病院の担当医師らは,
悪性リンパ腫の再発としては主として脳における再発を念頭におき検討を行ってい
たと解され,悪性リンパ腫の肝浸潤を念頭にその可能性について検討がされたとは
認められない。
なお,同日の胸腹部CT検査の結果指摘されたリンパ節の増大傾向は,後に判明
したsIL-2R高値や造影剤取込みを伴う肝臓内の多数の低エコー病変と併せ検
討することにより悪性リンパ腫の再発との判断の根拠となるものであるから,被告
病院の担当医師らが同日の時点で悪性リンパ腫の再発を強く疑っていなかったから
といって,上記CT所見が悪性リンパ腫の再発を示すものでないことにはならない。
そして,同日頃から同月16日頃まで,感染の疑いを優先した診療が行われたも
のの,その間の同月15日にsIL-2Rの測定が行われ,この結果が高値であっ
たことを受けて,悪性リンパ腫再発の可能性は低いと思われるが注意が必要である
との検討がされ,本件患者の体調により可能であれば同月18日にPET-CT検
査を行うとの計画が立てられており(乙A4〔564~577頁〕),悪性リンパ
腫再発についての検討が継続されていたと認められる。
そして,同月17日の腹部超音波検査の結果,肝臓全体に多数の低エコー病変が
観察されたことについて,膿瘍及びリンパ腫再発による腫瘍が考えられたが,鑑別
-47-
が困難であったため,本件患者の状態から可能であれば翌日に造影超音波検査を行
うことが予定された。同月18日,肝造影超音波検査が実施され,消化器内科の担
当医師は,低エコー病変に内部血流があるため膿瘍は否定的で,悪性リンパ腫の可
能性があるとの検討を行った。G医師及びI医師は,肝造影超音波検査の結果を踏
まえ,悪性リンパ腫と考えて矛盾はなく,そうであれば治療法がなく,確定診断の
ための生検は本件患者の状態に照らし困難であるから,サイトカインの一種である
sIL-2Rの高値に対し高サイトカイン血症としてステロイド投与による治療を
行い,反応がなければ,やはり悪性リンパ腫の再発であると判断せざるを得ないと
の検討を行った。(乙A4〔590頁,597~599頁〕)
このような経過からは,被告病院の担当医師らは,肝造影超音波検査の結果を得
た後には,悪性リンパ腫の再発である可能性が濃厚であると判断していたことがう
かがわれる。
他方で,被告病院の担当医師らが同月14日以降に行った上記検討過程において,
肝炎の悪化は常に除外されていた(乙A4〔567~598頁〕)。
(ウ)そうすると,本件診療当時の被告病院医師らによる検討状況は,本件患者
について悪性リンパ腫の肝浸潤が生じたことと矛盾しないというべきである。
エ以上によれば,同月中旬頃から顕著となった本件患者の肝不全の原因は,悪
性リンパ腫の肝浸潤であると考える合理的理由があり,本件患者がB型肝炎による
肝不全を原因として死亡したと認めるに足りない。
(2)小括
上記(1)の検討によれば,原告ら主張の注意義務違反と本件患者の死亡との間に
は,因果関係を認めることができない。
3結論
以上によれば,上記1のとおり,被告病院の医師らには原告ら主張の注意義務違
反が認められず,また,上記2のとおり,原告ら主張の注意義務違反と本件患者の
死亡との間には因果関係が認められないこととなる。
-48-
よって,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理
由がない。
以上の次第で,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第19民事部
裁判長裁判官川畑正文
裁判官塚田奈保
裁判官金好まや

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