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裁判例


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主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求の趣旨
被告が原告に対し昭和45年4月22日付けでした停職5か月とする懲戒処
分を取り消す。
第二 事案の概要
 一 前提事実(争いのない事実及び〔〕内に挙示した証拠あるいは弁論の全趣旨
  から明らかな事実)
  1 当事者
原告は,昭和43年4月1日付けで文部教官教育職(一)4等級として採用
され岡山大学教養部の講師(英語科)として赴任し,爾来その職にあった者であ
り,被告は国立岡山大学の長であり,同大学講師の任命権限を有するものである。
2 本件の懲戒処分及び審査請求前置要件の充足について
(一) 岡山大学における本件の懲戒処分
被告は昭和45年4月22日,原告に対し,国家公務員法(平成11年
法律第83号による改正前のもの。以下同じ)82条1号及び2号により,懲戒処
分として5月間停職することを大学管理機関である岡山大学評議会の審査・決議に
基づき決定し,上記決定を記載した懲戒処分書及び処分理由を記載した処分説明書
を同日原告に送達した(以下「本件処分」という)。上記処分説明書において,本
件処分の理由とされた事実は,原告が,①昭和44年4月19日,岡山大学教養部
(以下「教養部」という。)教官会議(以下「教官会議」という。)に出席せず,
かつ,その決定に拘束されない旨の文書を教養部長等に提出し,同年5月7日の教
官会議の開催通知を受けながら,教養部長宛に抗議声明文を提出して,同会議に出
席せず,以後,教官会議に出席しなかったこと,②同月26日,授業及び期末試験
を拒否する旨声明を発表し,全学授業再開後の同年9月21日に期末試験拒否の文
書を,同月28日には授業拒否の文書を教養部長宛に提出して授業及び試験の業務
に従事しなかったこと,③同年5月30日から数日間,警察機動隊導入と授業再開
に反対して,理学部前で座り込みを行い,同年6月18日には,構内
南北道路に一部学生によって築かれたバリケードの撤去を大学が決定していたにも
かかわらず,バリケード前に座り込み,撤去作業を妨害し,同月19日から約1か
月間にわたり南北道路歩道にテントを張り,随時座り込みを行い,全学的に授業が
再開された同年9月16日から,授業再開に反対して学生会館前で3日間のハンス
トを行ったことであり,上記各行為はいずれも国家公務員法82条1号及び2号に
該当するというものである〔乙第17号証の2〕。
(二) 審査請求前置要件について
原告は,昭和45年5月19日付けで,人事院に本件処分に対する審査
請求をし,人事院公平委員会は同年8月24日から同月28日にかけて5回に亘り
口頭審理を行ったが,上記手続きは中断した。原告はその後,審理再開の督促を人
事院に対して行ったが審理再開に至らず,本件口頭弁論終結時までに上記不服申立
てに対する人事院の結論は出ていない。
本件処分については,異議申立て又は審査請求に対する人事院の決定又
は裁決を経た後でなければ,取消しの訴えを提起できないのが原則となっている
(国家公務員法92条の2,行政事件訴訟法8条1項ただし書)が,本件処分に対
しては,審査請求があった日から3ヶ月を経過しても裁決がないから,行政事件訴
訟法8条2項1号により,本件処分取消しの訴えの提起は適法となる。
3 本件請求
  原告は,本件処分が,正当な処分理由を欠いたものであって実体的に違法
であり,あるいは,原告に防御の機会を十分に与えないままなされた瑕疵があり手
続的に違法であると主張して,本件処分の取消しを求めた。  
 二 争点
本件の争点は,本件処分についての正当な処分理由の存否と本件処分手続き
の適法性の2点であり,各争点に対する当事者の主張は以下のとおりである。
1 本件処分の正当性
(一) 被告の主張
被告が原告に対し本件処分を行ったことには次のとおり,正当な理由が
ある。なお,被告は本件訴訟では,争点を簡潔にして審理促進を図るため,前記処
分説明書において摘示した事由のうち,次の事実に絞って,正当理由として主張す
る。
(1) 原告の非違行為
 ① 昭和44年教官会議を欠席した行為
学校教育法59条は,大学に重要事項を審議するための教授会の設
置をしなければならず,その構成員に助教授その他の職員を加えることができると
の大枠を規定し,同法を受けた岡山大学教授会規程2条さらに教養部教授会議事規
程2条は,教養部教授会の構成員につき教養部長,教養部専任の教授とすることを
原則とし,人事関係事項以外の審議の場合で必要がある場合に専任助教授又は講師
を加えることができる旨定めるが,教授会とはいっても審議する案件により上記の
とおりその構成員を異にすることから,後者の構成による教授会を前者構成の構成
による教授会と区別する意味で「教官会議」と称していた。
また,教養部長は,他の教官に対し研究及び教育に関して指揮命令
権を有する上司たる地位にはないが,研究及び教育に付随して生じる各種の職務に
関しては教授会ないしは教官会議の決定等の執行機関として,また,部局の事項を
掌理する立場から指揮命令権を有する上司の地位にあり,その結果として,上記権
限の範囲内において上司として職務上の命令や警告・注意を発し,あるいは,督
促・問い合わせ等を行うことができるのであるから,教官会議への出席命令も上記
指揮命令権に含まれる。なぜならば,岡山大学教養部の設置根拠は国立学校設置法
3条2項,同法施行規則5条1項(平成6年9月文部省令第40号による改正前の
もの。以下同じ)であり,教養部局長たる教養部長の存在根拠は同条2項,教育公
務員特例法(平成11年法律第55号改正前のもの。以下同じ)2条3項,同法施
行令1条1号であるところ,教養部長は部局長とされ,同法25条1項により,そ
の採用,転任,降任,免職及び懲戒等は一般教官と異なる手続きによる旨定め,教
養部長に,他の教官とは区別された地位を与えられていること,岡山大学学則14
条2項は「教養部長は,教養部に関する事項を掌理する。」と規定して
いること,学校教育法59条1項,岡山大学学則27条により,岡山大学において
は教養部に教授会が置かれ,教養部における基本的事項に関しては,岡山大学学則
29条により,教養部連絡運営委員会において決定するほか,教養部内の事項に関
しては教授会又は教官会議において決定するものとされ,教養部長がその各決定を
執行する機関とされていること,教育公務員特例法11条1項,23条2項による
と,国立大学の教官について国家公務員法98条1項(法令及び上司の命令に従う
義務)の適用があることを併せ考えると,教養部長に研究及び教育に付随して生じ
る各種の職務に関しては,教授会ないし教官会議の決定の執行機関として,また部
局の事項を掌理する立場から上司たる地位に立つものと解されるからである。
しかるに原告は,教養部長から,昭和44年5月7日及び同月12
日の教官会議に出席するよう業務命令を受けながら,いずれの教官会議にも出席し
なかった。
 ②の1 昭和43年度後期試験及び単位認定を実施しなかった行為
教養部における昭和43年度後期試験は学生運動の影響でその実施
が遅れていたため,教養部長が昭和44年5月22日付けの文書をもって,各担当
教官に対し,後期試験の実施を要請したところ,原告は昭和43年度において英語
の授業を担当していたのであるから,当該授業を履修した学生に対し,後期試験を
実施の上,単位修得の認定をすべき職務を負っていたにもかかわらず,同月26日
ころに岡山大学学生会館前に張り出された文書をもって,後期試験,昭和44年度
の授業の実施を拒否する旨意思表明し,別の教養部英語科教官の問い合わせに対し
ても後期試験の実施を拒否する旨回答した。教養部長は同年7月2日付け及び同年
9月12日付け文書をもって,原告に対し,後期試験の実施を求めたが,原告はい
ずれの要請も拒否したために後期試験は代理教官によって同年10月に実施され
た。
原告は,この点,単位修得の判定結果を報告するに必要な担当授業
の履修者の成績表用紙を教養部教務課が原告に対して届けなかったから単位認定が
できなかった旨主張するが,仮にそうだとしても単位認定の重要性及び教務課に連
絡することで成績表用紙を手にすることは容易であったから,原告の前記行為を正
当化する根拠とはならない。
②の2 昭和44年度前期担当授業を実施しなかった行為
教養部長は,岡山大学の学生ストライキが収束に向かったことを受
け,昭和44年5月22日付け文書をもって,各授業担当教官に対し,同年度工学
部新入生に対する授業を開始するように要請したが,同学部の英語の授業を担当す
ることになっていた原告は,同月26日ころに学生会館前に張り出された文書をも
って,授業の実施を拒否し,他の教養部英語科教官の授業実施の問い合わせに対し
ても授業実施を拒否する旨回答した。その後,教養部長が同年7月2日付け及び同
年9月24日付け書面をもって,授業の実施を原告に要請したが,原告はいずれも
拒否する旨回答した。
ところで,原告は,「自主講座」の名目で同年5月ころから授業を
行っていたから職務放棄していない旨主張するが,授業は大学設置基準18条ない
し30条,岡山大学学則30条ないし40条,岡山大学教養部規程に定める内容を
岡山大学教養部規程11条に定める履修承認を経た者に対し,教官会議で定めた授
業時間表に従って実施すべきものであって,仮に原告が「自主講座」を開催してい
たとしても上記行為をもって授業を実施したことにはならない。また,原告は同年
12月に教養部長に対し授業を担当させるよう申し入れたが拒否された旨主張する
が,原告が担当する予定であった英語の授業は前期の途中で代理教官が授業をして
おり,教官を変更することは学生に無用の混乱を生じさせる危険があったこと,原
告は上記申し入れに際し授業内容について明らかにせず教養部の業務に非協力的な
態度をとっていたことから申入れを拒否したもので,原告が授業の実施を拒否した
ことによる結果である。
③ バリケード撤去を妨害した行為
岡山大学では,昭和44年1月25日の全学共闘会議の総決起集会
におけるストライキ宣言を受け,同大学各学部の建物封鎖,同大学構内南北道路の
バリケード封鎖が実施され,教職員と学生間で衝突が繰り返されたが,同年5月に
なると,正常化への動きがあり(同月14日に工学部,19日に農学部がストライ
キ解除。),岡山大学は,同年6月18日に全学共闘会議の学生らが築いた岡山大
学構内南北道路のバリケード封鎖を撤去しようとしたところ,上記バリケード撤去
に反対した原告は,学生らとともにバリケード前での座り込みを行い,同大学の再
三にわたる退去命令にも応じず,撤去作業を妨害した。
(2) 原告の非違行為に対する法令の適用
① 処分理由①について
教養部教官会議は学校教育法59条2項,岡山大学教授会規程2条
2項,岡山大学教養部教授会議事規程2条ただし書の規定に基づき設置された教養
部の重要事項を審議する機関であり,岡山大学教養部講師であった原告は教官会議
に出席すべき職務上の義務を負うのであるから,同会議へ出席しないことのみをも
っても国家公務員法82条2号に定める「職務上の義務に違反した場合」,同条3
号に定める「国民の全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」及び信
用失墜行為として同法99条に該当し,教養部長の職務命令にも違反したものであ
るから同法98条1項違反に該当する結果,同法82条1号に定める「この法律に
違反した場合」に該当する。
②の1 処分理由②の1について
授業担当教官が当該授業を履修した学生に対して試験を実施した上
で単位修得の判定を行うべきことは教官としての職務上の義務であり(大学設置基
準〔昭和31年文部省令第28号〕31条,岡山大学学則38条,岡山大学教養部
規程12条。),原告が上記職務に従事しなかったことは国家公務員法82条2号
に定める「職務上の義務に違反した場合」,同法同条3号に定める「国民の全体の
奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」及び信用失墜行為として同法99
条に違反し,同法82条1号に定める「この法律に違反した場合」に該当する。
②の2 処分理由②の2について
  学校教育法58条8項,5項,6項の規定によると,学生を教授す
ることは,教養部講師であった原告にとって職務上の義務であるところ,原告が,
前期授業を担当するよう決められていたのに職務に従事しなかったことは,国家公
務員法82条2号に定める「職務上の義務に違反した場合」,同条3号に定める
「国民の全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」並びに信用失墜行
為として同法99条及び職務専念義務違反として同法101条1項前段にそれぞれ
該当する結果,同法82条1号に定める「この法律に違反した場合」に該当する。
③ 処分理由③について
原告は,公衆の面前でバリケード前に座り込みその撤去を妨害した
ものであるから,国家公務員法82条2号に定める「職務上の義務に違反した場
合」,同条3号に定める「国民の全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった
場合」並びに信用失墜行為として同法99条及び職務専念義務違反による同法10
1条1項前段に違反する結果,同法82条1号に定める「この法律に違反した場
合」に該当する。
(二) 原告の反論
被告が本件処分事由とした四つの事実は以下で主張するとおりいずれも
原告を処分するために被告及び岡山大学当局が自らでっち挙げた虚偽の事実であ
り,これらの事実の存在を前提とした被告の原告に対する本件処分は違法である。
① 被告処分理由①について
ⅰ 教官会議は,以下の理由から学校教育法に定める教授会ではない。
まず,教官会議が教授会であることを示す教官会議自体の規程が存
在しない。
次に,教官会議は人事に関する事項について審議することができな
いところ,学校教育法に定める教授会は大学にとって重要な事項を審議するための
ものであって,人事に関する事項が大学の自治を全うする上で生命線となるもので
あることからすると,人事事項を審議項目としない教官会議が教授会に該当すると
解することはできない。
更には,教養部長が原告に対し出席を請求した教官会議は被告が定
める規程上の教官会議にさえ合致しない存在である。なぜならば,教官会議には助
教授又は講師を加えることができる旨の岡山大学教養部教授会議事規程が存する
が,助手の参加を認める規程はないところ,被告が原告に出席を求めた教官会議に
は従前から助手が参加していたこと,岡山大学教授会議事規程6条は教官会議の定
足数を過半数である旨定めるが,被告が原告に出席を求めた教官会議の定足数は原
告在職中を通じて3分の2以上である点でも,規程上の教官会議と現実に「教官会
議」と言われていた会議は異なるからである。
ⅱ 出席する対象である教官会議そのものが学校教育法に定める教授会
ではない以上,教養部長が原告に対し出席を命ずる職務命令を発することはできな
い。仮にしからずとしても,原告に対して教授会への出席を求めることを決するの
は教授会であるから,教授会が原告の出席を命ずる旨の議決等を一切行っていない
以上,教養部長の原告に対する命令はその根拠を欠く。また,仮に教養部長に原告
に対する出席命令権限がありかつ教官会議が法に定める教授会であったとしても,
教授会へ参加者の出欠の自由を侵害してまで教授会構成員全員に出席を求めるので
あればそれに応じた重要性の高い案件が審議される予定であることが必要であると
解されるところ,原告が出席を求められた両日における審議事項に重要性があった
事実はないから,上記発令は発令権限の濫用に当たり違法である。
ⅲ 処分の均衡
被告は原告の教官会議への欠席をもって本件処分事由としている
が,原告が教養部長から出席命令を受けつつも出席しなかった日には,原告と同様
の理由で懲戒処分を受けたA教官を除いて6,7名の欠席者がいるのに,上記欠席
者らに何らかの処分がなされた事実はない上,昭和44年度に限っても,開催され
た教官会議47回の欠席者は延べ418名以上であり,原告が参加した23回に限
っては出席率は50パーセント程度であるのに,上記欠席者で処分された者は全く
いないことを考え併せると,本件処分は他の欠席者との関係で著しく均衡を失する
処分であり違法である。
②の1 被告処分理由②の1について
  教養部の授業担当教官は,担当授業を履修する学生に対して単位修得
の判定をするに当たっては「試験又は報告書及び平常の成績等を考慮して」行うと
定められている(教養部規程12条)のであるから,単位認定につき試験を実施し
てその成果により判断するか,試験ではなくレポート等の提出により判断するかは
単位認定に関し権限を与えられた各授業担当教官の裁量事項であり,後期試験を実
施しないことをもって授業担当教官としての職務を原告が放棄したとはいえない。
原告が昭和46年度に実施した前期,後期試験とも試験を行わず履修者全員を一律
評価としたが,このことにつき大学から非違を問われたこともないし,他にも,試
験を実施しないで単位を認定する教官がおり,教養部長による昭和43年度後期授
業の試験実施報告の要請書面においてもその選択肢において「レポート,試験な
し」がある。また,試験の実施が単位認定の必須の行為ではなく,しかも,原告自
身,試験をもって単位認定の材料にする考えはなかったのであるから,教養部が代
理教官を立ててまで実施した後期試験の実施に従う義務はない。
なお,原告は昭和43年度後期の各授業に関しては,昭和44年1月
中旬の段階で講義時間の大部分を実施しており,受講学生の単位修得の判定をする
ことは十分に可能であったが,教養部教務係が,授業担当教官の単位修得の判定結
果の報告をするための3枚綴りの成績表用紙を原告に届けなかったために,原告が
単位認定をする機会を剥奪されたのであり,教養部側に責任がある。
②の2 被告処分理由②の2について
昭和44年度前期における担当授業の決定は,被告主張のように昭和
44年2月下旬になされた事実はない。ただ,原告は,同年3月末までに英語科内
部の話合いで紛争が解決し授業が可能になった段階での次年度の授業について,5
コマ(1コマは週1回100分)を担当する旨了承した事実はある。
原告が表明した事項は,大学の自治の対外的・内部的確立を目指した
5項目要求をいったんはほぼ同意しておきながら,これを覆し,機動隊導入と学生
の告発に明け暮れ,自らの手による紛争解決を放棄し,学校教育の荒廃と衰滅を招
く岡山大学の非教育的「正常化」方針に対する拒否であって,職務放棄をしたもの
ではない。原告は,実際には昭和44年4月中旬以降,同大学の時計台に通じる道
路沿いの芝生の上で(雨の日には,学生会館に移動するなどして),全学誰もが参
加しうる公開の自主講座を連日,朝から日暮れまで実施し,同年5月下旬からは,
原告が授業担当教官とされていたことが分かった工学部1年次生に対し,同講座へ
の参加を伝達した結果,上記担当授業の履修者の大半が同講座に参加し,同講座は
同年11月下旬まで続いた。
また,被告は,上記期間中原告が授業をしているにも拘わらず最初は
勝手に休講扱いにし,その後原告の名前を講義の時間表から抹消し,更には同年9
月16日の授業強行再開に際して発表した授業時間表において,追加的に法文学部
1年次生及び教育学部2年次生各2コマの担当教官名の欄の原告名を抹消すること
で,一方的に,原告の授業担当権限を剥奪したものであるから,原告が職務放棄を
したものではない。
また,原告は,昭和44年12月に前記主張した合計5コマの授業に
ついて担当させるよう教養部長等に対し申し入れたが全く聞き入れられず,被告に
よる原告の授業担当権限の剥奪が続行したのであるから,原告には放棄する職務と
しての授業そのものが存在しない。
③ 被告処分理由③について
被告主張にかかるバリケード撤去に当たっては,各学部の教授会や教
官会議に上記行為を行う旨諮られた事実はなく,全学の意思決定の下に上記撤去が
行われていないことは明らかであり,あくまで大学当局者の一部の独走による撤去
に過ぎない。
また,原告は,バリケードが築かれた昭和44年6月15日からバリ
ケードの是非に対する学生,教職員らによる討論に参加していたに過ぎず,学生ら
とバリケード付近に座り込みを行った事実あるいはバリケード撤去を妨害した事実
はない。
2 本件処分手続きの適法性
(一) 被告の主張
     被告は,以下の手続きを履行の上,原告に対して本件処分を行ったもの
であるから,本件処分はその手続上も適法なものである。
(1) 被告は,昭和45年1月28日,教養部長からの報告を受けて,教育
公務員特例法9条1項に基づき,大学管理機関である評議会に対し,原告に対する
懲戒処分の審査を求めた。
(2) 評議会は,原告の非違行為についての事実確認,法令の適用,処分案
の決定を行った上,昭和45年3月12日,教育公務員特例法9条1項による審査
をすることを決定し,同条2項に基づき審査事由を記載した説明書に,同法5条2
項,3項により陳述の請求をすることができ,原告が審査説明書を受領した後14
日以内に陳述の請求をした場合には,口頭又は書面で陳述の機会を与える旨付記し
て,同月14日,原告に陳述申出書用紙とともに交付した。
原告は,審査説明書交付前に評議会が原告の非違行為に関する審査を
終了しているので手続きが違法である旨主張するが,懲戒処分にかかる評議会の審
査方法につき具体的にいかなる方法を採用するかは評議会の裁量に任されていると
ころ,評議会は非違行為につき事実確認,法令の適用,懲戒処分の種類,程度を決
定し,その結果を審査説明書に記載して交付し,これに対する原告の弁明を聞き,
必要に応じて処分案を修正した上,決議するという方法をとったものであって,上
記審査方法は合理的方法であり,評議会の裁量の範囲を逸脱するものではない。
また,原告は,教育公務員特例法5条2項に「審査を行うに当たって
は」とあるのは,審査手続の冒頭ないしごく初期の段階を指すことは明らかであっ
て,本件における審査説明書の交付はその交付時期を遵守しておらず違法である旨
主張するが,そもそも同法9条2項,5条2項が,審査を行うに当たり,審査説明
書の交付を要するとした趣旨は,審査の過程で被審査者に審査についての防御と陳
述の機会を保障するにあると解されるから,審査説明書の交付が必ずしも審査冒頭
で行われる必要はなく,審査の過程で交付するのであれば,審査上のいかなる段階
で交付するかは評議会の裁量事項であって,本件における審査説明書の交付時期が
裁量の範囲を逸脱するものではないことは明らかである。
(3) 原告は昭和45年3月25日に評議会に対し陳述の請求及び釈明書を
郵送したが,陳述請求の内容は,陳述方式を書面及び口頭の双方で行うこと,陳述
に先立ち原告求釈明事項に回答すること,陳述を公開し陳述補助者,事実の証言者
の同席及び発言を求めるというものであり,上記請求を検討した評議会は,同月3
0日,陳述を文書陳述とし,提出期限を4月7日とすること,釈明要求には回答し
ないことを決定し,同決定の結果を3月31日付け文書をもって原告に通知した。
原告は同年4月1日に評議会に対し,前記通知の受領と再度原告の前
記要求をする旨記載した内容証明郵便を送付し,同月3日に評議会に対しさらに同
内容の文書を提出したため,評議会は同月6日に原告の上記請求を再度審査した
上,陳述を文書によること,上記提出期限を同月7日午後5時とすることを決定
し,同日付け文書をもって原告に上記決定の内容を通知した。
原告は同月7日に評議会に対し,原告の求釈明事項に回答すること,
陳述方法につき口頭又は書面の一方に限定する趣旨であれば口頭による公開の陳述
を請求することを内容とする文書を提出し,同月9日にさらに同内容の文書を評議
会に提出したため,評議会は同月10日に原告の上記請求を再度審議し,求釈明要
求には回答しないという事項以外の従前の方針を変更し,非公開による口頭陳述を
認めること,陳述の期日は同月11日午後1時30分からとし,陳述時間は45分
以内とすること,同日午後1時15分ころ原告を原告宅に迎えに行くことを決定
し,上記決定内容を同日原告に通知した。
(4) 評議会は,同月11日に原告の陳述を聴取するため係員を派遣した
が,補助者の同行要求を巡って2時間余りにわたって折衝が続けられたため,原告
の会議場への到着は午後4時45分ころとなった。評議会は原告に対し同日午後5
時30分ころから同8時30分ころまでの間に数回の中断を挟みながら口頭陳述の
機会を与えたが,原告は審理公開と求釈明要求に答えることが陳述の前提である旨
主張するだけで,審査説明書記載事項についての口頭陳述をしなかった。
(5) 評議会は同月19日に審議を行い,原告に対する陳述機会は十分に与
えており手続上問題はないと判断し,陳述を打ち切ることを決定し,同決定結果を
同月20日に原告に通知し,同月21日には懲戒処分として停職5月間が相当であ
るとの決議をなし,被告にその結果を答申した。
被告は,上記答申を受け,同月22日原告に対し国家公務員法82条
1号,2号に基づき懲戒処分として停職5月間とする旨の決定を行い,上記内容を
記載した本件の懲戒処分書及び懲戒事由を記載した説明書を原告に送達した。
 (6) 原告は,上記審査手続きにつき,審査事項が多岐にわたりかつ曖昧で
あったので評議会に再三にわたり釈明を求めたにも拘わらず評議会が応じない状況
下では陳述をすることが不可能であるから法に定める陳述の機会が与えられていな
い旨主張するけれども,審査説明書の内容には非違行為として問責されている事実
及び該当条項は十分に特定されており,原告が自己の権利を防御し陳述をするに当
たって何ら支障はないのであるから,上記主張は理由がない。
(二) 原告の反論
本件処分決定手続には以下の点において違法性があるから,本件処分は
取り消されるべきである。
(1) 審査前の処分決定・審査説明書の違法性
評議会は,昭和45年1月28日から合計4回に亘る審査を経た上,
原告に対し,教官会議への出席拒否,授業実施・試験実施拒否,大学が正式に決定
した事項に反対し妨害する等の行為が国家公務員法82条1号、2号に該当するこ
とを理由に,停職5月間の懲戒処分をする旨,審査前に既に実質的審査を済ませて
いるのであるから,本件処分は手続上違法である。
教育公務員特例法9条2項,5条2項は,懲戒処分の「審査を行うに
当たっては」被処分予定者に対し審査事由を記載した説明書を交付しなければなら
ないと定めており,上記規定は審査の冒頭ないし初期の段階で被審査者に対しその
防御すべき対象を明示し伝達することを評議会に義務づけるものであるところ,同
年3月12日の処分案決定に至るまで原告は手続きに全く関与させられず,審査説
明書らしき書面の交付も受けていないのであるから,上記規定に違反して違法であ
る。
(2) 書面交付後の陳述機会の剥奪
教育公務員特例法は懲戒処分の審査にあたり被処分予定者が請求した
場合は書面又は口頭による陳述の機会が付与される旨定めるが,教員に対する処分
審査過程はその結果が被審査者の仕事及び生活両面に及ぼす影響の重大性に鑑み,
刑事裁判制度に準じて考えられるべきところ,評議会における懲戒処分審査手続き
においては,被処分予定者には刑事裁判における弁護人にあたる存在がない一方
で,審査提案と判断者が同一に帰しているから,審査説明書に対し唯一その認否反
論弁明等のすべてを尽くすべき陳述の機会は極めて重要である。上記趣旨からすれ
ば,審査説明書は被処分者の防御権を保障すべく審査対象を明確に記載し,被処分
者からの釈明にも積極的に応じる必要があり,しかも本件処分については審査説明
書交付前に処分対象事実及びその法的意義につき処分案まで具体的に検討できてい
たのであるから,釈明に回答することは容易なことであったこと,被告が設定した
陳述の機会は書面であれば400字詰原稿用紙25枚分,口頭陳述であれば45分
という短いものであったことを併せ考えると,被告が審査対象を不明確にし,陳述
を制限することで原告の陳述する権利は著しく妨害されたものであるか
ら,本件処分手続きは違法である。
第三 争点についての判断
一 懲戒事由の存否について
1 教官会議への出席拒否について
(一) 乙第3号証の2,第28ないし第31号証,第38,第39,第45
号証,証人Bの証言,原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば,次のとお
り,認定することができる。
(1) 原告は,昭和44年4月21日実施までの教官会議には出席したが,
同月23日以降の同年中の教官会議を欠席し,教官会議に対し,同年4月19日付
け書面をもって,「教官会議が自己批判を自らのものとしない限りは」教官会議に
出席しない旨,また教官会議及び大学当局の決定には拘束されない旨の意見を表明
し,教養部長において,同年5月2日付けで原告に対し,議題は当日提出するとし
た上で,同月7日の教養部臨時教官会議に出席するよう業務命令を出したのに対
し,同日付け書面をもって「大学当局が5項目要求への対応の欺瞞性について」
「大衆的に自己批判するよう」「むしろ貴方に業務命令を出したい」と述べ,前記
意見のとおり,上記業務命令には従わない旨の回答をしてこれに出席しなかった。
(2) さらに,教養部長は同月9日付け書面で同月12日開催の教養部臨時
教官会議についても,原告に対し,前回と同様に,出席するよう業務命令を出した
が,原告は出席しなかった。
 (3) 学校教育法59条1項は重要事項を決定する教授会設置を大学に義務
 づけ,2項で上記教授会には助教授,その他の職員を加えることができ る旨定
めるにとどまり,大学の自治に配慮し,教授会に関する細則の決 定を個々の大学
に委ねたと解されるところ,岡山大学教養部教授会議事 規程2条は,教授会の構
成員につき,教養部長及び教養部専任の教授を もって構成することを原則としつ
つ,教官の人事に関しない議題につい ては,必要があるときは専任の助教授又は
講師を加えることができる旨 定め,岡山大学においては,後者の教授会を前者の
教授会と区別する意 味で「教官会議」と称していたものであり,教官会議も教授
会であると 認められる。
教授会で決定すべき「重要事項」とは,人事に限らず,大学の維持管
理,学問の研究,教育指導体制など学問の担い手たる大学として必要な事項を含む
ものと解され,人事決定権を有しないが故に教授会ではないとすべき根拠は見出せ
ない。
また,同法は教授会構成員につき「その他の職員」の参加も可能であ
る旨規定しているのであるから,事実上助手が参加している事実をもって法に定め
る教官会議に該当しないとはいえないし,仮に定足数が相違するものであっても,
かえって教養部教授会議事規程よりも厳格に運用(3分の2)されていたことから
すると,教官会議が教授会と異なるとは解し得ない。
(4) 教養部長は,教養部を置く国立大学に置かれ,その大学の教授をもって
充てられ(国立学校設置法3条2項,同法施行規則5条2項),教育公務員特例法
2条3項,同法施行令1条1号により,部局長とされ,同法25条1項でその採
用・転任・降任・免職及び懲戒に関し一般の教員とは異なる手続によるものとされ
ており,法が教養部長に他の教員とは区別された地位を与えていることは明らかで
あるところ,これを受けて岡山大学学則14条2項は教養部長に教養部に関する事
項を掌理する権限を与えている。国立大学の教員には研究及び教育の自由が認めら
れているが,教育公務員特例法は同法11条1項,23条2項で国家公務員法98
条1項の適用を予定しており,部局長たる教養部長は,他の職員に対し,研究及び
教育に関して上司たる地位に立つことはないものの,研究及び教育に付随して生じ
る各種の職務に関しては,教授会ないしは教官会議の決定等の執行を含め,教養部
に関する事項を掌理する立場から上司の地位に立つものと解される。
そして,教養部長は,教官会議の構成員である原告に対して教官会議
への出席を求めうる地位にあり,その限りで国家公務員法上の上司として職務上の
命令を発し得ると解すべきである。
また,教官会議への出席命令は教官会議開催に先立つものであって,
論理的に教官会議において出席命令を発すべき決議をすることは想定されないこと
からすると,教官会議の決議なくして,教養部長において,出席命令を発出し得る
ものと解される。
(5) 教官会議の欠席者は,原告だけではなく,通常,数名ないし10数名
あったが,原告のほかA教官のみが,原告と同様の対応をし,出席命令を受けて,
教官会議に出席しなかったことを処分の一理由として,原告と同様に,懲戒処分を
受けた。
(二) 以上認定したところによると,原告が,教養部長から,昭和44年5
月7日及び同月12日の教授会の性質を有する教官会議に出席するよう業務命令を
受けながら,いずれの教官会議にも出席しなかったという被告主張の処分理由にか
かる事実を認めることはできる一方,当該教官会議の議題も提示されておらず,上
記出席命令が会議の召集通知の性質を超えて業務命令としての性質を重視しなけれ
ばならない程の原告の出席の必要性を窺いうる資料もないことに鑑みると,原告が
教官会議の決議に拘束されること(上記拘束力があることは性質上明らかであ
る。)を覚悟しつつ,自らの思想に従い,2回欠席した事実をもって,非違行為と
して処分事由とすることは,他の欠席者との均衡に照らしても,相当とはいえな
い。
2 後期試験及び単位認定について
 (一) 乙第18ないし第21号証,第23,第25,第45,第47,第4
  9ないし第51号証(枝番の表示を省略する。以下同じ。),証人Bの  証
言及び弁論の全趣旨によれば,次のとおり認定できる。
 (1) 教養部長は,昭和44年5月22日付けの「昭和43年度後期試験に
ついて」と題する書面をもって,昭和43年度に教養科目を履修した工学部及び農
学部の学生全員に対し成績報告を目的とした試験を実施すること,同年6月17日
までに上記成績を報告することを要請したが,英語担当の原告は,同月26日に学
生会館前に掲示した「自己をのり越えて゛衆己゛への自立を!ー現段階の『正常
化』を拒否する」と題する書面中で,「これに加担する事(具体的には現段階で試
験,授業を行うこと)を拒否する。」と記載した。そこで,教養部英語科主任教官
千葉等が原告に対し上記真意を確認したところ,原告は,「後期試験は行わない。
また代理者で行うことは望ましくないが自由だ。また昭和44年度の授業も行わな
い。」旨回答したため,上記試験を代理教官で実施することとし(なお,上記試験
は学生の反対に遭い6月に実施できなかった。),教養部長は同年7月2日付けの
「岡山大学教養部原議書」と題する書面をもって,原告に対し,教養部長の業務命
令に従い,授業,試験等の業務を行うことに同意することを求めたが,原告は,業
務の内容を明示するよう釈明要求するなどしてこれに応じなかったこと
から,教養部長は更に,同年7月17日付けの「岡山大学教養部原議書」と題する
書面をもって前記の同意を求めた。しかし,原告は前回の釈明要求に対する回答が
ないなどとしてこれに応じなかった。
(2) 教養部長は,昭和44年9月12日付けの「昭和43年度後期試験に
ついて」と題する書面をもって,昭和43年度に教養科目を履修した者に対する試
験の実施方法について,授業担当教官に対し同月19日までに回答することを要請
したが,上記書面に記載されていた試験方法には方法としてレポートによる方法
(レポート実施方法として教養部で題目まとめて印刷し学生に送付する方法と学生
を集合させて題目を与える方法がある。),試験を実施する方法及びレポート・試
験とも行わない方法という大きく三つの方法が定められていた。上記書面は後期試
験に係る授業担当の原告のもとにも届けられたが,原告は9月21日付け書面をも
って教養部長に対し,「そのような授業再開の一端としての昭和43年度後期試験
に関する一切を拒否します。」と回答したため,原告担当授業についての後期試験
は,同年10月に代理の複数の教官によって実施された。
 前記教養部長の要請は,試験を必須とはせず,単位認定について述べ
 ているものであるから,試験そのものの実施ではなく,学生の履修科目 の単位
認定をするための成績を決定する旨促す趣旨であることは明らか であるところ,
原告は教養部長の要請に対して,試験以外の方法により 単位認定が可能である旨
回答したことはない。
原告本人尋問の結果中で原告は,「自己をのり越え゛衆己゛への自立
を!ー現段階の『正常化』を拒否する」と題する書面は原告作成の書面ではない旨
供述するが,前記認定の事実に照らし,上記供述部分はにわかに措信できない。ま
た,原告本人尋問の結果中で原告は,昭和44年5月22日付で教養部長から後期
試験を要請されたことはない旨述べているが,教養部長作成の同日付け「昭和43
年度後期試験について」と題する書面の名宛人は各授業担当教官であること,同年
5月26日付けの原告作成にかかる「自己をのり越え゛衆己゛への自立を!ー現段
階の『正常化』を拒否する」と題する書面には,「これに加担する事(具体的には
現段階で試験,授業を行うこと)を拒否する。」との記載があることなどの前記認
定事実に照らすと,上記供述部分はにわかに措信できない。さらに,原告本人尋問
の結果中で原告は,昭和44年9月12日付け「昭和43年度後期試験について」
と題する書面は受け取っておらず,数度に亘って大学から後期試験の実施について
要請を受けたことはない旨供述していることが認められるが,同書面の名宛人が各
授業担当教官であること,原告が昭和43年度後期試験についての問い
合わせを受けこれを拒否する趣旨の同月9月21日付けの回答書の内容や前記認定
事実に照らすと,上記供述部分もまた,にわかに措信することができない。
  また,原告は,教養部が成績表用紙を交付しなかったため,原告の単位
認定行為が妨害された旨主張するが,上記主張事実を認めるに足る証拠はない上,
原告に成績表用紙が交付されなかったとしても,原告の方から教養部に問い合わせ
る等の措置は容易になしうるにもかかわらず,一切行っていないことが明らかであ
る。
 (二) 授業担当教官が当該授業を履修した学生に対して単位修得の判定を行
うべきことは教官としての職務上の義務であり(大学設置基準〔昭和31年文部省
令第28号〕31条,岡山大学学則38条,岡山大学教養部規程12条。),これ
は,大学紛争があるべき姿で解決されていないとしても,大学が存続し,原告がそ
の教官である以上,不可欠で重要な職務上の義務であって,大学当局の紛争解決責
任の存在や,原告の教育方針,思想の自由等によって左右される性質のものではな
い。
   而して,前記認定したところによると,原告は,昭和43年度後期試験
実施の拒否のみならず,学生の単位認定行為そのものを拒絶したものというほかな
いから,かかる原告の行為は教官業務を放棄したものといわざるを得ず,非違行為
に該当する。
 (三) そして,上記非違行為は,国家公務員法82条2号の職務上の義務に
違反し,又は職務を怠った場合として,懲戒事由に該当する。
3 前期授業拒否について
(一) 前示2に認定した事実と,乙第18,第19,第21,第22号証,
第24ないし第27号証,第45,第49ないし第53号証,証人Bの証言,原告
本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば,次のとおり認定することができる。
(1) 教養部長は昭和44年4月10日付けの「昭和44年度の授業計画に
ついて」と題する書面をもって,前期授業担当教官に対し,同月25日までに時間
割,授業計画(講義概要,指定参考書等)の回答を求め,同年5月22日付け「工
学部新入生の授業開始について」と題する書面をもって,同年5月28日から昭和
44年度工学部入学生に対する英語等の授業を実施する旨担当教官に対し通知し
た。これに対して原告は同年5月26日に学生会館前に掲示した「自己をのり越
え゛衆己゛への自立を!ー現段階の「正常化」を拒否する」と題する書面中で,
「これに加担する事(具体的には現段階で試験・授業を行うこと)を拒否する。」
と意思表明したことから,教養部英語科主任教官等が,原告に対し,上記掲示書面
の真意を確認したところ,昭和44年度の授業をしない旨回答したため,教養部長
は同年7月2日付けの「岡山大学教養部原議書」と題する書面をもって,原告に対
し,教養部長の職務命令に従い,授業,試験等の業務を行うことに同意することを
求めたが,原告はこれに対して業務の内容を明示するよう釈明要求するなどしてこ
れに応じず,教養部長は更に同年7月17日付けの「岡山大学教養部原議書
」と題する書面をもって前記の同意を求めたが,原告は前回の釈明要求に対する回
答がないなどとしてこれに応じなかった。
(2) 教養部長は,同年9月24日に原告に対し,授業実施について更に照
 会したところ,原告は前回同様に,「現在の情況下での」授業実施を重 ねて拒
否したため,代理教官により授業を実施した。。
(3) その後原告は,同年12月19日付け書面をもって教養部英語科主任
教官等に対し,前期授業の実施の申し出をしたが,授業を開始する旨の同文書に
は,授業内容,授業計画について何ら明らかにされておらず,同封された「問題は
一切解決されていないー〈私〉の授業開始について」と題するビラを併せて読むと
大学教養過程としての英語の授業が実施されるか不明であった。これに対し,教養
部長は,上記申し入れには確たる授業計画の記載がないこと及び代理教官と変更す
ることは学生に無用な混乱を来すことを理由に,申し入れを拒否した。
(4) 教養部の授業時間表は,教官会議の了承を得て作成されるところ,昭
和44年5月中には作成されていた昭和44年度の当初の授業時間表には,原告が
英語を担当する旨記載されており,原告はこれを知悉していた。
原告本人尋問の結果中で原告は,昭和44年4月10日付け「昭和44
年度の授業計画について」と題する書面(乙24)をもって前期授業の授業計画の
提出を求められたことはない旨供述するが,同書面は各授業担当教官に宛てられた
ものであること,教養部長が担当の教官に照会して担当教官の授業計画に基づいて
授業時間表を作成するのが通常の手順であること(証人Bの証言),乙第27号証
によれば,遅くとも同年5月22日には(原告の供述によっても5月末頃には)昭
和44年度の授業時間表が作成されていることに照らし,にわかに措信することが
できない。
(二) 原告は自主講座を実施しており,授業を放棄したものでない旨主張す
るが,自主講座の内容を窺いうる資料はない。原告の自主講座は,岡山大学教養部
規程11条に定める履修方法を経た者に対し,教官会議で定めた授業時間表に従っ
て実施する授業でないことは明らかである。
原告は,被告が,講義の時間表から原告の名前を抹消し,同年9月16
日の授業強行再開に際して発表した授業時間表において追加的に法文学部1年次生
及び教育学部2年次生各2コマの担当教官名の欄の原告名を抹消することで一方的
に原告の授業担当権限を剥奪したものであるから,原告にはそもそも放棄すべき権
限そのものを有しない旨主張するが,原告が被告の度重なる要請にもかかわらず授
業を行うことを拒否していたことは前記認定のとおりであるから,被告が,原告の
意思に反して,その授業権限を剥奪したものとは認められない。
(三) 教官がその授業の履修の承認を受けた学生に対して,授業を行うべき
ことは,学校教育法58条8項,5項,6項の規定によるまでもなく,教官として
当然になすべき職務上の義務であり,これは,大学紛争があるべき姿で解決されて
いないとしても,大学が存続し,原告がその教官である以上,不可欠で重要な職務
上の義務であって,大学当局の紛争解決責任の存在や,原告の思想の自由等によっ
て左右される性質のものではない。
   而して,前記認定したところによると,原告は,教官会議で自己の担当
授業が決せられたことを知りながら,昭和44年度前期担当授業の実施を拒否した
ものであり,その内容も明らかでない自主講座の実施によって,授業の実施をなし
たものと評価できる事情は認められないものというほかないから,かかる原告の行
為は教官業務を放棄したものといわざるを得ず,非違行為に該当する。
 (四) そして,上記非違行為は,国家公務員法82条2号の職務上の義務に
違反し,又は職務を怠った場合として,懲戒事由に該当する。
3 バリケード撤去妨害について
 (一) 乙第32,第33,第40,第45,第48号証,証人Bの証言及び
弁論の全趣旨によると,次のとおり認定できる。
(1) 昭和44年6月15日午後8時ころ,岡山大学の全共闘系の一部学生
が他大学生らとともに,法文大講堂から連結机約200個を持ち出し,同大学を南
北に貫く通称南北道路の南北出入口に基部をコンクリートで固めた強固なバリケー
ドを構築した。
(2) 大学当局は,上記学生らに対し,再三の退去命令を出したが,学生ら
においてこれに応じなかったため,バリケードを撤去すべく,昭和44年6月18
日午後,教職員多数が出動してバリケードの排除にかかったが,学生らはゲバ棒を
振ってこれを妨害し,なお投石の準備を開始したため,大学当局は機動隊出動を要
請し,学生らを排除してバリケードの撤去を完了した。
(3) 原告は,上記バリケードの撤去に際し,学生らとともにバリケード前
  に座り込んでその撤去を妨害した。
  原告作成名義の「六・一八の〈私の坐り込み斗争〉総括とすべての 
  〈あなた〉へのアピール」と題する書面には,「私は6月18日,南北  道
路バリケードの一方的問答無用撤去に反対して座りこみを行った。」  と記載さ
れている。
  原告は話し合いのため,その場にいただけでバリケード撤去を妨害し
  たことはない旨,原告本人尋問において供述するが,上記認定事実に比  照
して,にわかに措信できない。
(二) 而して,前記学生らの大学内でのバリケード構築による教育,研究の
  妨害行為を正当化すべき法的根拠は認められず,バリケード撤去による  原
状回復行為は大学職員の正当な業務であるというほかないから,少な  くとも教
官たる原告においては,上記業務を妨害してはならない職務上  の義務を有する
ところである。したがって,原告が,上記業務を妨害す  るのは非違行為という
べきである。
(三) 原告の上記非違行為は,国家公務員法82条2号の職務上の義務に違
  反した場合として,懲戒事由に該当する。
二 本件懲戒処分の正当性
前記認定した懲戒事由につき本件処分内容が相当であるものとして,正当理
由を有するかどうかを検討するに,前記認定の経緯や原告の本件各行為の性質,態
様等に鑑みると,原告に対し5ヶ月の停職をなした本件処分が,その懲戒の程度に
照らし,懲戒権者に委ねられた裁量の範囲を超えているものとは未だ認め難いとこ
ろであり,本件処分には正当な理由があるものと認められ,実体的違法事由は認め
られない。
三 処分手続の違法性の存否について
 (一) 乙第3ないし第17号証及び弁論の全趣旨によれば,次のとおり認定で
  きる。
 (1) 原告及び訴外A教官の一連の行動の状況から,被告(当時の被告職に
あったのはE)は,昭和44年8月28日付け書面をもって,教養部長に対し,同
年4月以降の原告らの行動の概要,上記行動に対し教養部のとった措置及び上記行
動に対しての見解の回答を求めた。教養部長(当時,当該職にあったのはC)は,
調査の上,同年12月10日付け書面をもって,被告に対し,原告の同年4月19
日から9月28日までの行為,上記行為に対する同大学教養部の措置及び見解を記
載した報告書(A教官に関する報告も含む。)を提出した。被告は,上記報告書記
載内容を考慮した上,大学管理機関である評議会に対し,原告に対する懲戒処分に
ついて審査を求めた。
 (2) 評議会は,昭和45年1月28日に第1回審査評議会を開催し,審査事
案の発議及び事実確認を,同年2月5日に第2回審査評議会を開催し,事実確認及
び法的見解の検討を,同年3月7日に第3回審査評議会を開催し,処分案の検討
を,同月12日に第4回審査評議会を開催し,処分案,審査説明書案及び陳述方法
を各決定し,同月14日に原告に対し,審査事由を記載した審査説明書及び「審査
説明書を受領した後14日以内に陳述の請求をした場合には口頭又は書面で陳述の
機会を与える」旨付記した事務連絡書を陳述申出書用紙とともに交付した。
 (3) 原告は,昭和45年3月25日,評議会に対し陳述の請求及び釈明書を
 郵送し,上記書面で陳述方式を書面及び口頭の双方とすること,陳述に先 立ち
原告の求釈明事項を釈明すること,陳述を公開し,陳述補助者,事実 の証言者の
同席及び発言することを求めたが,評議会は検討の結果,同月 30日,陳述を文
書陳述とすること,提出期限を4月7日とすること,釈 明要求には回答しないこ
とを決定し,3月31日付け文書をもって原告に 同決定内容を通知した。原告
は,同年4月1日,評議会に対し上記通知の 受領事実及び従来の要求を再び繰り
返す内容の内容証明郵便を送付し,同 月3日に更に同内容の文書を提出したこと
から,評議会は同月6日に原告 の上記請求を再度審査し,陳述を文書によるこ
と,上記提出期限を同月7 日午後5時とすることを決定し,同日付け文書で原告
にその旨通知した。  原告は同月7日,評議会に対し,原告の求釈明に回答する
こと,陳述方 法につき口頭又は書面の一方とするのであれば口頭による公開の陳
述を請 求する旨の文書を提出し,同月9日に更に同内容の文書を提出したことか
 ら,評議会は同月10日に原告の上記請求を審議し,釈明要求に回答し
な いという事項以外の従前の方針を変更し,非公開による口頭陳述を認める こ
と,陳述の期日は同月11日午後1時30分からとし,陳述時間は45 分以内と
すること,同日午後1時15分ころ原告を原告宅に迎えに行くこ とを決定し,同
日原告にその旨通知した。
 (4) 評議会は,同月11日,原告の陳述を聴取するため,係員を上記時刻に
 派遣したが,原告方周辺には原告との同行を求める学生及び岡山大学D教 官ら
が同行を要求したため,この対応を巡って2時間余り折衝が続けられ, 原告が会
議場へ到着したのは午後4時45分ころとなった。評議会は原告 に対し,同日午
後5時30分ころから同日午後8時30分ころまで,途中 数回の中断を挟みなが
ら口頭陳述の機会を与え,陳述するように何度も原 告に促したが,原告は審理公
開と釈明要求に答えることが陳述の前提であ ると主張するのみで,審査事由に関
することを何ら述べず,結果的には審 査説明書記載事項についての口頭陳述をし
なかった。
(5) 評議会は同月19日に審議を行い,原告に対する陳述機会は十分に与え
 ており手続上問題はないとして,陳述を打ち切ることを決定し,同決定結 果を
同月20日に原告に通知し,同月21日には懲戒処分として停職5月 が相当であ
るとの決議をなし,被告にその結果を答申し,被告はこれを受 けて本件処分をな
した。
(二) 以上認定したところによると,本件処分にかかる評議会の一連の審査手
続においては,原告に防御する機会は与えられており,原告の防御権の保障ははか
られているものと認められる。
(三) 原告は,審査説明書の交付時期について,教育公務員特例法が「審査を
行うに当たっては」審査説明書を交付しなければならないと規定しているところ,
「審査を行うに当たって」とは,審査の冒頭ないし極めて早い時期に審査説明書の
交付を義務づける趣旨である旨主張するが,同法9条2項,5条2項が審査を行う
に当たり審査説明書の交付を要するとした趣旨は,審査の過程で被審査者に審査に
ついての防御と陳述の機会を保障するためであり,審査説明書の交付が必ずしも審
査の冒頭に行われなければならないものと解すべき根拠は見出せず,審査のいかな
る段階において行われるかは,審査を行う評議会の裁量に委ねられているものと解
するほかない。
  また,原告は,原告の陳述の前に既に評議会の審査がなされている点が違
法である旨主張するが,懲戒処分の審査に当たってどのような方法で審査するか
は,教育公務員特例法5条2項から4項に規定されている以外は評議会の裁量に任
されており,本件では,評議会は,原告の非違行為について事実の確認,法令の適
用,懲戒処分の種類及び程度の決定を行い,その結果を審査説明書に記載して原告
に交付し,これについて原告の弁明を聞いて必要に応じ処分案の修正を行った上,
懲戒処分を決議する方法を採ったものと認められるから,審査方法として合理性が
ないものとはいえず,違法な点は認められない。
  さらに原告は,審査説明書記載事項が不明確であり,その内容について評
議会に求釈明を行ったにもかかわらず,評議会は一切答えなかったものであり,こ
れでは陳述することは不可能であったとも主張しているが,審査説明書の内容から
は,非違行為として取り上げられている事実及びその該当法条は明らかとなってお
り,原告の陳述の前に釈明をすべき必要性は認め難いところである。
(四) そうすると,本件処分には手続上の瑕疵は認められず,本件処分は手続上
適法であるというほかない。
第四 結論
よって,原告の請求は理由がないのでこれを棄却すべく,訴訟費用の負担に
つき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する。
岡山地方裁判所第1民事部
裁判長裁判官   金馬健二
裁判官   金光秀明
裁判官   潮海二郎

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興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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