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裁判例


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       主   文
一 原告(反訴被告)の本訴請求をいずれも棄却する。
二 原告(反訴被告)は被告(反訴原告)古河電気工業株式会社に対し、別紙物件
目録記載の部屋を明渡せ。
三 訴訟費用は本訴反訴を通じ原告(反訴被告)の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 本訴
(一) 原告(反訴被告、以下単に原告という。)
1 原告が被告両名に対しそれぞれ雇用契約上の権利を有することを確認する。
2 原告が、被告(反訴原告)古河電気工業株式会社(以下単に被告古河電工とい
う。)中央研究所において勤務する義務が存在しないことを確認する。
3 被告らは原告に対し、連帯して九万九、六九六円及び昭和四八年三月以降毎月
二五日限り一か月四万九、八四八円の割合による金員を支払え。
4 本訴費用は被告らの負担とする。
5 第三項につき仮執行宣言。
(二) 被告両名
1 主文第一項と同旨。
2 本訴費用は原告の負担とする。
二 反訴
(一) 被告古河電工
1 主文第二項と同旨。
2 反訴費用は原告の負担とする。
3 仮執行宣言。
(二) 原告
1 反訴請求を棄却する。
2 反訴費用は被告古河電工の負担とする。
第二 当事者の主張
一 本訴
(一) 原告の請求原因
1 被告古河電工は金属の精錬、合金及び加工並びに科学工業等を目的とする株式
会社で、被告原子燃料工業株式会社(以下単に被告原燃工業という。)は被告古河
電工及び訴外住友電気工業株式会社(以下単に住友電工という。)両社が、各原子
燃料製造部門をそれぞれ切り離し、合併させて設立させた各種各燃料の製造及び販
売を目的とする株式会社である。
2 原告は昭和四五燃九月一六日に被告古河電工に雇用され、同社中央研究所に勤
務していたが、被告原燃工業設立に伴い、昭和四七年九月一日被告古河電工原子燃
料製造部門従業員一五〇余名と共に被告原燃工業に出向(以下単に本件出向とい
う。)し、これにより原告は被告原燃工業との間でも雇用関係を有するに至り、以
後被告原燃工業に勤務してきた。なお被告原燃工業との間に雇用関係が成立した根
拠は後記(四)2に述べるとおりである。
3 原告に支給される賃金月額は四万、八四八円で、毎月一六日から当月一五日ま
での文を当月二五日に支払われることになっていた。右のとおり原告は被告両社と
の間で雇用契約関係にあつたところ、労働者を雇用することは被告両社にとって附
属的商行為であることから賃金支払義務が内部的にどちらの負担となっているにか
かわらず、原告に対する関係では、商法五一一条により被告側が連帯してこれを負
担すべきものである。
4 被告古河電工は、原告に対し、昭和四七年一二月一六日付けで被告原燃工業か
ら被告古河電工中央研究所に復帰するように命じたところ、原告がこれに服さなか
ったので昭和四八年一月一一日付けで懲戒解雇する旨の意志表示をし、被告原年工
業は昭和四七年一二月一六日以降、被告古河電工も昭和四八年一月一二日以降、原
告との雇用関係の存在を争い、いずれも昭和四七年一二月一六日以降の賃金を支払
わない。
5 しかしながら、本件復帰命令及びその拒否を理由とする本件懲戒解雇はいずれ
も後述の理由により無効であるから、原告はなお被告両社に対し雇用契約上の権利
を有し、かつ賃金を請求する権利を有しており、しかも雇用契約上被告原燃工業に
勤務すべき義務を負うも、被告古河電工中央研究所に勤務する義務はない。
(二) 被告らの答弁
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実中、原告が被告原燃工業との間で雇用契約関係を有するに至つたと
の点は否認し、その余の事実は認める。
3 同3の事実中、原告の賃金月額、計算期間、支給時期に関する主張事実は認め
る。
4 同4の事実は認める。なお、被告古河電工だけでなく被告原燃工業も原告に対
し同旨の復帰を命じた。
(三) 被告らの答弁
1 本件出向の経緯
 被告古河電工はかねてより、エネルギー資源開発の一つとして各燃料の開発、事
業化に取組んでいたが、その需要に応ずるためには核燃料専業メーカーの出現が必
要と考えられたため、同種の研究に取組んできた住友電工と交渉を重ねた結果、両
社折半の出資による核燃料事業部門の設備の大部分を新会社に譲り渡し、以後新会
社が核燃料事業に専念することとする合意が成立し、これに基づき昭和四七年七月
八日被告原燃工業が設立された。この際原燃工業における従業員については、原則
として被告古河電工及び訴外住友電工の核燃料事業部門に従事する従業員を両社従
業員の身分を保有したまま被告原燃工業は以後経営の合理化に努め、将来適正従業
員数の目途が立つた場合には必要最小限度の従業員をもつて事業を遂行し、その余
の従業員(作業員及び女子を除く。)は両社ほぼ同数となるよう配慮することとさ
れた。そこで被告古河電工としても原告を含む原子力部門の従業員全員を被告原燃
工業の従業員として出向させるべく、昭和四七年七月三一日の三回にわたり、被告
古河電工の従業員で構成する訴外古河労働組合(以下単に組合という。)との間で
中央労働競技会を開き、組合に対して「原子燃料工業株式会社設立に関する件」と
題する書面に基づき、その設立理由及び被告原燃工業への出向(派遣)についてそ
の時期及び出向に際しての労働条件を詳細に説明した。組合は組合員の意向を充分
聴取したうえ代議員会においてこれを検討した結果、出向条件を了承した。そこで
被告古河電工は被告原燃工業との間で出向者の人数、職種、期間、労働条件等につ
いての出向協定を結んだうえ、同年九月一日付けで原告を含む原子力部門の従業員
一五一名を被告原燃工業に出向させた。右出向に関し被告古河電工が組合に対し明
らかにした出向条件等は(イ)被告原燃工業への出向についての取扱いは労働協約
第一八条第一項第四号に基づき休職派遣とし、休職期間を定めずまた休職給は原則
として支給しない、(ロ)被告原燃工業における給与が被告古河電工の給与を下廻
る場合はその差額を被告古河電工において保障する、(ハ)健康保険、厚生年金は
被告古河電工で加入し、失業保険、労災保険は被告原燃工業で加入する、(ニ)
寮、社宅、クラブ、食堂等は被告古河電工の施設を利用しうる、等の内容を含むも
のであった。原告は、組合を通じて、右労働条件を熟知し、これに何ら異議をとど
めず、右出向命令に応じ、以後被告原燃工業に従事した。
 出向にあたり被告古河電工が出向者に対して退職金を支給するということはな
く、出向後の出向者の賃金、賞与の支払いについても被告原燃工業において作成し
た労働時間集計表等の基礎資料の送付を受けてこれに基づき被告古河電工が給与等
の計算をし、被告古河電工名で支給しており、出向後の退職手続きについても出向
者の退職届は被告古河電工に提出すべく、被告古河電工が定める退職金規程により
計算した額を同被告が本人に支給するものとして取扱われた。また出向者の組合資
格は存続するものとされ、ただ出向中は役員選挙権、被選挙権、議決権、会費納入
義務が停止されるにすぎない。
2 本件復帰命令
(1) 原告は出向前被告古河電工勤務中においても、欠勤・遅刻・早退が多く、
昭和四六年一一月には無断欠勤六日、欠勤一二日にも及んだので、同年一一月一五
日付けで同人に、従来の態度を反省し被告古河電工に迷惑をかけない旨の制約書を
提出させたことがあったが、被告原燃工業に出向後も、昭和四七年一一月七日まで
に無断欠勤一日、遅刻早退三回及び、そのうえ同月九日以降被告原燃工業に何ら届
出をなさずに欠勤し、同月一四日にはじめて代理人を通じて、横浜市で行われた米
軍M四八戦車輸送阻止闘争に参加した結果逮捕・勾留されたので釈放されるまでの
間休暇を認めてほしい旨の休暇届を送付し、以後同月三〇日までの間欠勤した。以
上のとおり原告の勤務状況は甚だ不安定なものといわざるを得えなかったところ、
被告古河電工は、前記のとおり被告原熱工業が訴外住友電工との間で特に競争関係
を越えて設立された合併会社であるという経緯から訴外住友電工との関係について
特に留意してきたところであり、被告古河電工の出向者から原告のように長期欠勤
して業務の円滑に支障を生ぜしめたことは、その理由の如何を問わず訴外住友電工
及び被告原熱工業に対し信義上の責任を負うべきものと判断するに至つた。
(2) 一方、被告古河電工中央研究所加工室では、訴外aが昭和四七年三月三一
日限り退職し、そのため加工室の業務の一部である同研究所内他研究室からの依頼
加工業務の遂行に大巾な支障をきたしていた。被告古河電工はその人員補充を検討
したが、同社では間接部門の人員圧縮計画を推進中で、補充は原則として社内での
配転及び関係会社からの復帰により行うとの方針であつたから、とりあえず社内で
の配転につき検討したが、同研究所内での配転については困難な状況にあつた。そ
こで当面の処置として同加工室で行う依頼加工業務の一部を社外に依頼すると共
に、簡単な切削加工等の業務については依頼元である他研究室の従業員を技術指導
し、これに担当させる手段を講じたが、この結果は外注による不必要経費の増加及
び依頼元研究室従業員の技術並びに安全確保のための指導による加工室研究員の時
間的、精神的負担等わ癒起せしめるに至つた。
(3) そこで被告古河電工は被告原燃電工とも協議した結果原告が出向後従事し
てきたウラン製錬室における転換加工業務は、大口の動燃事業向け「常陽プランケ
ツト用二酸化ウラン粉末」の製造が昭和四七年一一月末で終了し、以後当分の間そ
の仕事が半減し、原告がいなくてもその業務を充分こなせるとの見通しであったと
ころから、被告原燃工業においても特に人員減少による業務上の支障もないとのこ
とであった。また原告が被告古河電工入社以来従事してきた業務内容と中央研究所
加工室における業務内容は特段に異なるところがなく、原告の既成の知識、経験等
をそのまま活用できるものであつたし、復帰前の職場と右加工室とは同一場所にあ
つた。
(4) 以上のとおり被告古河電工は訴外住友電工、被告原熱工業に対する信義上
の立場に加えて被告原熱工業の業務の支障の有無、被告古河電工における業務上の
必要等を考慮したうえ、被告原燃工業の了解を得て、原告を被告古河電工に復帰さ
せて右加工室に勤務させることとし、同年一二月一三日労働協約一七条の趣旨に則
り組合に通知のうえ、同月一四日原告に対し、被告原燃工業から被告古河電工に復
帰して右加工室に勤務すべき旨の復帰命令の内示をした。同時に被告原燃工業から
も同旨の内示をした。
 これに対し原告は、(イ)他に復帰したい人がいるのに戻りたくない原告を復帰
させることは納得できない、(ロ)二年間にわたつて蓄積した技術が新職場では生
かされない、(ハ)不当労働行為である、(ニ)従来同じ職場で働いてきた人達と
の人間関係を大切にしたい、との理由を挙げて拒否したが、いずれも右復帰命令を
とりやめる理由とはみとめえなかった。
 そこで被告古河電工及び同原燃工業は、同月一八日原告に対し、同月一六日をも
つて被告古河電工に復帰して右加工室に勤務すべき旨、業務命令を発した。
(5) 右に述べたとおり、本件出向は、従業員としての地位は被告古河電工との
間で継続しながら、出向期間中は休職として同被告における勤務を免除されている
のにすぎない。出向により勤務場所が被告原燃工業に移り、かつ同社の指揮命令の
下に業務に従事することになるが、これはあくまで被告古河電工との雇用契約の履
行としてなされるもので、その勤務形態が変更したのにすぎず、ただ出向は通常当
初の労働契約の内容として予定された範囲外であめために、出向については労働者
の同意を要すべきこととされているのにすぎないのであって、出向により原告と被
告原燃工業との間に別個の雇用契約が成立するものと解すべきではない。かかる在
籍出向の場合には、出向会社たる被告古河電工で労働給付することは当初の雇用契
約の履行そのものとして残存し、将来の一時期において出向者は出向元会社に復帰
することが当然予定されているというべき性質のものであり、あるいは、かかる出
向に同意することは、出向元及び出向先会社の経営上理由により出向元会社に復帰
することの包括的な合意を含むものと解さなければならない。従つて、出向後の復
帰は、いわゆる社内配転とその性質を同じくするものと解すべく、出向ないし出向
先会社の経営上の必要があり、復帰後の職場や職種が労働者にとって著しく不利で
あるなど特段の事情のない限り、当該労働者の同意を要しないものである。しかる
ところ本件において、原告に命じた復帰は、職場、職種の面において何ら原告に不
利益を与えるものでないことは、既に述べたとおりである。
 仮に出向に伴い原告と被告原燃工業との間にも雇用契約関係が成立するものと解
しても、この場合の被告原燃工業との雇用契約は、被告古河電工との雇用契約関係
及び被告原燃工業との間の出向協定と無関係に成立するのではなく、同協定と同内
容の出向条件等が原告ら出向者に提示され、その同意のうえで出向が命じられてい
るのであるから、出向協定中の復帰等を命じることができる旨の規定は、原告と被
告原燃工業との間の雇用契約の内容となつたのであり、被告原燃工業が本件復帰命
令を原告に告知したことは、原告との間の雇用契約を解約したまのとみることがで
きる。なお、右解約がなされても、原告と被告古河電工との雇用契約は当然に残存
し、同被告に勤務し、同被告に賃金を請求すべき権利義務関係が復活ないし残存す
るから、労働基準法一九条、二〇条等の予定する「解雇」に該当しないことは明ら
かであり、その適用はない。
 本件出向が、右のように復帰を予定した性質のものであることは、前記出向に際
しての出向条件等、出向後の賃金支払形態、出向後の退職の取扱い等の諸事情なら
びに出向に際しての経過等に照らしても肯定しうるところである。
3 懲戒解雇
 右のとおり被告両社は原告に対し有効に復帰命令を発したのだが、原告はこれを
拒否し、以後も従来の職場である被告原燃工業に出社し、新職場である被告古河電
工中央研究所加工室に就労しなかつた。そこで被告両社は、右発令後年を越えて昭
和四八年一月初めまでの間十数回にもわたり発令の理由を説明してこれに応ずるよ
うに説得し、指示したが、原告は従前の拒否理由の他に被告原燃工業から復帰の辞
令が文書で出されいないとの理由を付加して、拒否する旨繰り返すばかりで、命令
には従わなかつた。
 被告古河電工の労働協約二十五条四号及び就業規則六十二条によれば「職務上の
指示命令に従わず、職場の秩序を紊そうとしたとき」は、懲戒解雇に処する旨定め
られているところ、原告の右行為は、職場秩序を紊したと該当するから、同被告は
原告を懲戒解雇する旨の意志表示をし、かつ解雇予告手当を提供したが、原告が右
手当の受領を拒絶したので、後日これを供託した。
4 以上のとおりであるから、原告と被告古河電工との雇用契約は昭和四十八燃一
月十一日限り懲戒解雇により終了した。また原告と被告原燃工業との雇用契約は関
係はもともと成立しないが、仮に成立したとすれば昭和四十七年十二月十八日の復
帰命令(解雇告知)により同日限り終了した。
(四) 抗弁に対する原告の答弁と反論
(1)抗弁1の事実中、被告原燃工業が被告古河電工と訴外住友電工との共同出資
により昭和四十七年七月八日設立せれたこと、両社が各核燃料科事業部門に従事す
る従業員を被告原燃工業に出向させたこと、被告古河電工に対し(イ)ないし
(ニ)の内容を含む労働条件等を示し、組合がその出向条件を了承する旨の決議を
したこと、出向にあたつて被告古河電工が出向者に退職金を支給しなかつたこと、
出向者の組合員資格が存続するものとされていることは認め、組合が組合員の意向
を充分徴収したとの点は否認し、出向後の出向者の賃金を被告古河電工が支払つた
ことは争い、その余の事実は不知。
(2) 答弁2(1)の事実中、原告が被告古河電工在勤中欠勤、遅刻、早退が多
かったとの点、原告の勤務状態が不安定なものであり、被告原燃工業の業務の円滑
に支障を生ぜしめ、被告古河電工が訴外住友電工及び被告原燃工業に対し信義上の
責任を負うに至つたとの点は否認し、その余の事実は認める。なお原告が昭和四十
六年十一月に被告ら主張のとおり欠勤したのは、原告が同年一〇月二一日の国際反
戦デーに参加したところ不当にも機動隊により 誤認逮捕されたことによりやむを
えなかつたものであり、昭和四七年一一月九日以降の欠勤も、原告がM四八戦車輸
送阻止闘争に参加した際、不当にも警察により誤認逮捕されたためであつて、これ
ら欠勤につき原告が責を負うべきいわれはない。また原告が昭和四六年一一月一五
日付誓約書を提出した内容は、原告が比較的病弱で病休が多かつたことにより迷惑
をかけたことを反省したもので、右不当逮捕による欠勤を謝罪したものではない。
 同(2)の事実中、訴外aが昭和四七年三月三一日に被告古河電工中央研究室加
工室を退職したことは認め、その余の事実は否認する。
 同(3)の事実は争う。
 同(4)の事実中、被告古河電工が昭和四七年一二月一四日原告に対し復帰命令
の内示をしたこと、これに対し原告が、被告ら主張の四点を理由として拒否したこ
と、被告両社が原告に対し同月一八日、同月一六日付をもつて被告古河電工に復帰
すべく命じたことは認め、その余は争う。原告の主張した右拒否理由はいずれも正
当なものであつた。
 同(5)の主張は争う。これに対する原告の主張は後記2のとおりである。
(3) 抗弁3の事実中、本件復帰命令が有効であること、被告両社が原告に対し
被告ら主張のような復帰命令理由を説明したこと、原告の行為が労働協約及び就業
規則の解雇事由に該当することは争い、被告古河電工が原告に対する懲戒解雇に関
し通知したことは不知。その余は認める。
2 本件復帰命令における原告の同意の必要性と復帰命令の無効
 被告原燃工業は、被告古河電工と訴外住友電工から各原子力部門の機械、設備等
のほか、右二社で従来雇用、使用されていた労働者に対する使用者としての地位も
含めて譲渡を受けて設立されたもので、被告古河電工においては原子力部署属核燃
料製造第一製造係、開発課及び業務課全員に対して出向が命じられ、将来復帰させ
るのは被告原燃工業の人員配置上の理由による場合に限定されていた。このように
企業の一部門を切り離し、合併会社を設立する場合は、出向者の復帰を予定しない
のが通常で、原告ら出向者も新会社である被告原燃工業が倒産しない限り定年まで
同社に定着するという前提で出向したのである。 従つて本件出向の実質は営業の
譲渡に伴い雇用契約関係の使用者という地位を被告原燃工業へ譲渡し、これにより
被告原燃工業との間に雇用契約が成立したものであって、それにもかかわらず、な
お被告古河電工との雇用契約関係が残存するものとされたのは、原告と被告古河電
工間の継続による身分保障という有利な条件と引替えに原告ら出向者の承諾を容易
に得るための方策にすぎない。即ち、被告古河電工との雇用契約関係は、原告ら出
向者の身分保障としての意義を有するにすぎず、その限度を越えて同被告が原告ら
に対し人事管理権を有するものではないのである。
 出向者の承諾により出向した場合には旧来の雇用契約の要素の変更である。従つ
てこの変更は出向者の同意があるか、あるいは出向に際して予め復帰についての合
意があるのかいずれかでなければ有効になしえない。本件の出向に際して予定され
た復帰は、「両社対等の考え方から人員に均衛を欠く場合には調整することがあり
うる」との点においてだけである。しかるに本件復帰命令がこの理由によるもので
ないことは、被告らの主張自体から明らかである。
 よつて本件復帰命令は、雇用契約の要素の変更の申込にすぎず、これに対し原告
の承諾がないから、その効力を生じない。
3 本件懲戒解雇の無効
 右のとおり本件復帰命令が無効である以上、原告はこれに服する義務はなく、原
告が雇用契約上の義務として勤務すべき場所は被告原燃工業であり、復帰命令後原
告が被告古河電工中央研究所加工室に勤務しないことは正当であるから、被告らし
湯丁の懲戒解雇事由に該当せず、従つて本件懲戒解雇も無効である。
(5) 原告の再抗弁
1 不当労働行為による本件復帰命令及び本件懲戒解雇の無効
(1)昭和四六年八月被告古河電工原子力部の一部のものからフイルムバツジの異
常に高い線量記録が発見されたが、その原因がウラン貯蔵橋よ選択における取扱管
理の杜撰にあつたことから、原告を中心として安全管理闘争が展開され、原告らは
被告古河電工の責任を追求した。その結果被告古河電工は種々の安全衛生設備の設
置等を行う一方、この闘争に驚き、労務管理を強化し、同闘争の中心になつた主要
メンバーを安全対策会議に吸収し、個別的管理教育を始めるなどして原告らの闘争
の矛先をかわそうとした。
(2)昭和四七年春闘において原告は積極的に活動したが、その中で原告の職場に
おけるストも辞さない下部組合員の意向は、管理者し同じ態度で対応する組合本部
中執によつて抑圧され、かくして原告の活動により、原告の職場は反執行部の拠点
となつていつたのであるが、このような情勢の中で、被告古河電工は同年六月には
被告原門工業設立による原子力部の全員出向という事態に備え、戦闘的活動家たる
原告を排除しておくために、原告に対し同年八月中は被告古河電工武山研究所へ出
張するように命じ、同年七月には反中執の立場をとる原告ら四名が組合役員選挙に
立候補したとこめ、同被告は組合本部と一体となつて違反文書を配布して原告らの
当選を妨害した。
(3)被告原燃工業設立後同被告従業員により従業員会が結成されようとしたとこ
ろ、被告らは右従業員会の御用組合化へと働きかけ始めたが、組合形成に向けた準
備委員大井分室代表に選出されていた原告は、御用組合化に反対し、従業員会ボイ
コツトの活動を展開したので、被告原燃工業より嫌悪されるように至つた。
(4)昭和四七年一〇月頃、原告所属の被告原燃工業武山分室の廃止と武山への統
合のため、同分室所属の従業員が横須賀市<以下略>にある被告原燃工業武山研究
室に移転するについて、武山の独身寮の改善闘争が原告によつて提起され、原告ら
の要求が大幅に実現したが、右移転に伴い原告ら大井分室の戦闘的な従業員が武山
研究所の従業員と合流して健全な組合結成の運動を進展させることをおそれた被告
らは、大井分室代表準備委員であつた原告を武山研究所に移させないことにより右
運動を妨害させようとした。
(5)以上のとおり被告らは、これまで原告の戦闘的な組合活動を嫌悪しこれわ妨
害してきたのであるところ、原告が復帰命令を出したのであり、本件復帰命令及び
本件懲戒解雇は、原告を被告原熱工業における強固な新組合結成運動及び戦闘的組
合活動から排除することを決定的動機としてなされたものであるからいずれも不当
労働行為に該当し、無効である。
2 人事の濫用
 前記(四)1(2)に述べたとおり、被告らが、本件復帰命令の理由の一として
いる長期欠勤は、昭和四六年一〇月国際反戦デー闘争に参加した際、及び昭和四七
年一一月に米軍M四八戦車輸送阻止闘争に参加した際に、不当に逮捕拘留されたた
めにやむを得なかつたもので、原告に責任はない。また右昭和四六年一〇月の欠勤
については、当時誓約書を提出することによつて不問に付されたものであり、かつ
被告原燃工業の業務上の支障とは無縁である。その余の欠勤については、被告らか
ら原告に対し特段の注意がなされたことはないから、原告の出勤状況は業務上の支
障となる程度に至つていなかつた。
 一方、復帰後の勤務場所とされている中央研究所加工室では訴外aが昭和四七年
三月三一日に退職し、意向原告が出向するまでの間補充のため配転等の人事調整は
行われていないし、原告出向後本件し復帰命令までの人員補充が問題にされること
はなかつた。むしろ被告古河電工は組合(昭和四七年八月に単組化し、同組合が成
立。それ以前は中央研究所従業員組合と称した。以下単組化の前後を問わず、単に
組合という場合がある。)に対し、人員調整は年内においては行わないと言明して
いたことからみても、人員補充の必要性はなかつたのである。
 以上のとおり本件復帰命令は業務上の支障も人員捕充の必要性もなく、その他の
合理的理由もないのに、これに同意しない原告をあえて被告原燃工業から排除すべ
くなされていたものであるから、人事権の濫用として無効というべきであり、従つ
てその有効であることを前提とする本件懲戒解雇もまた無効である。
(六)再抗弁に対する被告らの答弁
1 同項(1)の事実中、被告古河電工原子力部の一部からフイルムバツチ゛に通
常より高い線量記録が発見されたこと、被告古河電工において種々の安全衛生設備
の改善を行つたことは認め、その余の事実は否認する。被告古河電工は昭和四六年
五月文のフイルムバツジについて通常よりやや大井放射線量が測定されたのでその
原因を究明し、これを機会にウランを取扱う業務関係部門の放射線安全管理体制の
見直しを行うこととし、各職場の意見を積極的に聴取して安全管理体制及び設備等
の改善を実施したのであり、原告を中心とする追求、交渉があつたとか、その結果
として改善がおこなわれたとの事実は全くない。
 同(2)の事実中、昭和四七年六月に原告に対し武山研究所へ出発するよう命じ
たことは認めるが、その余の事実は不知ないし争う。原告の出張は、武山研究所に
おかれている原子力部各燃料製造課第二製造係の担当業務が多忙となり、同係より
原告所属の第一製造係に出張依頼があつたことによるもので、被告古河電工は第一
製造係全員からアンケートをとり、その結果に基づいて各人の個人的事情も考慮、
検討して第二製造係への助勤者として原告らを決定し、出張させたのである。原告
は出張命令に対して異議苦情を述べなかったしね原告の出張期間も昭和四七年七月
三日から同月二一日までの短期間のものであつた。
 同(3)の事実は不知。
 同(4)の事実中、同年一〇月ころ被告原燃工業武山研究所大井分室の廃止と武
山への統合の従業員の一部が被告原燃工業の武山研究所へ移転したことは認め、そ
の余の事実は否認する。被告原燃工業大井分室の移転は同年九月から一〇月の間に
第一陣が実施されたが、原告はその中に入つていなかつたので移転説明会に参加し
なかつたし、移転は改善闘争というが如き行為もなく平穏裡に完了した。なお原告
ら所属の機械設備運転は第二陣として実施されたが、それは本件懲戒解雇後のこと
である。
 同(5)の事実は争う。
2 再抗弁1の事実に対する被告原燃工業の答弁
 同項(1)(2)の各事実は不知。
 同(3)の事実中、従業員会が結成されようとしたこと、原告が組合結成に向け
て準備委員大井分室代表に選出されたことは不知。その余の事実は否認する。
 同(4)の事実中、昭和四七年一〇月頃被告原燃工業武山研究所大井分室の廃止
と武山への統合のため、同分室所属の従業員の一部が被告原燃工業の武山研究所に
移したことは認め、その余は否認する。
 同(5)の事実は争う。
3 抗弁2の事実中、原告が昭和四六年一〇月国際反戦デー闘争に参加した際、及
び昭和四七年一一月に米軍M四八戦車輸送阻止闘争に参加した際に逮捕拘留され長
期欠勤したこと、中央研究所加工室では訴外aが同年三月三一日に退職し、以後原
告が出向するまでの間人員の補充が行われなかつたことは認め、その余は争う。
二 反訴
(一) 被告古河電工の請求原因
1 被告古河電工は原告の入社後、昭和四五年一二月一七日訴外bから賃借した別
紙物件目録記載の建物の部屋を原告に対し、原告が被告古河電工の従業員である間
無償で使用させるとの約束で貸与した。
2 前記本訴主張のとおり原告は本件懲戒解雇により昭和四八年一月一一日限り被
告古河電工の従業員たる地位を失うに至り、これにより右使用貸借契約は終了し
た。
3 よつて被告古河電工は原告に対し本件部屋の明渡しを請求する。
(二) 原告の答弁と抗弁
 請求原因1の事実は認める。
 同2は争う。
 本件懲戒解雇は本訴関係で主張するとおり無効であるから、原告は依然として被
告古河電工の従業員たる身分を有し、従つて使用貸借契約は終了していない。
第三 証拠(省略)
       理   由
第一 本訴について
一 被告古河電工は金属の精錬、合金及び加工並びに化学工業等を目的とする株式
会社で、被告原燃工業は被告古河電工及び訴外住友電工両社が各原子燃料製造部門
をそれぞれ切り離し合併させて設立させた各種核燃料の製造及び販売等を目的とす
る株式会社であること、原告は昭和四五年九月一六日被告古河電工に雇用され、同
社中央研究所に勤務していたが、被告原燃工業設立に伴い昭和四七年九月一日被告
古河電工原子燃料製造部門従業員一五〇余名と共に被告原燃工業に出向し、以後同
社に勤務してきたこと、原告に支給される賃金月額は四万九、八四八円で、前月一
六日から当月一五日までの分を当月二五日に支払われることになっていたこと、被
告古河電工が、原告に対し昭和四七年一二月一六日付で被告原燃工業から被告古河
電工中央研究所に復帰するように命じたのに原告の応ずるところとならなかったの
で、昭和四八年一月一一日付で懲戒解雇する旨の意思表示をし、被告原燃工業は昭
和四七年一二月一六日以降、被告古河電工は昭和四八年一月一二日以降、原告との
雇用契約関係を争い、いずれも昭和四七年一二月一六日以降の賃金を支払わないこ
と、
 以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 本件出向の経緯
 当事者間に争いのない事実に、成立に争いのない甲第三、第四号証、乙第一ない
し第五号証、第一九号証の一ないし三、第二〇号証の一ないし八、第二一ないし第
二五号証の各一、二、第三一、第三二号証、第三四号証、第四三、第四四号証、原
告本人尋問の結果により成立の認められる甲第八、第九、第二二号証(第二二号証
は被告原燃工業との間では成立に争いがない。)、証人cの証言により成立の認め
られる乙第二六、第四二号証、証人dの証言により成立の認められる乙第二八、第
二九号証、証人eの証言により成立の認められる乙第三〇号証の一、二、第三三号
証、証人d、f、e、cの各証言及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を綜
合すると、次の事実が認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。
1 被告古河電工はかねてより核燃料の開発、製造に取組んでおり、同社原子力部
においてその業務を遂行してきたが、原子力開発の発展に伴い、国内外の同業他社
に対抗しうる企業力が必要と考えられたことと純粋の国内資本による核燃料専業企
業を求める需要側の要請とから、同種の事業に取組んできた訴外住友電工との間
に、昭和四七年一月ころから合併会社設立の話合いが具体化し、同年五月には、両
者折半出資により核燃料専業の合併会社を設立し、両者の核燃料部門を当面そのま
ま引継いで同年九月一日をめどとして営業を開始するとの基本構想の合意に達し、
同年六月にはこれに関する基本契約を締結し、同年七月八日をもつて右合併会社と
しての被告原燃工業(以下単に新会社ともいう。)が設立された。新会社の将来の
構想としては、古河、住友両社から拠出された物的、人的施設を有機的に統合し、
重複部分を合理化して、独立の企業としての実体を具備すべきものとされ、当面は
従来の両社の核燃料製造部門の物的、人的施設の全部を移管しなければ、とりあえ
ずの操業に差支えるため、右のような措置がとられたが、将来右合理化等に伴い、
またその中で被告原燃工業の従業員数は両社からの出向者がほぼ同数になるよう人
員調整をするとの配慮から、一旦新会社に出向させた従業員の一部を両社に復帰さ
せることも予定された。被告古河電工における原子力部は、本部と業務課とが本社
所在地に、開発課と核燃料課第一製造係が同社中央研究所(東京都品川区<以下略
>所在)に、同課第二製造係が中央研究所武山分室(横須賀市<以下略>所在)に
置かれており、原告は入社以来右第一製造係に勤務していたが、新会社設立に伴
い、その物的施設は一部新会社にとって不要なものを除きそのまま新会社に譲渡さ
れ(ただし土地、建物についてはなお被告古河電工が保有し、新会社に賃貸するこ
ととなった。)従業員も原則として原子力部所属者全員が休職派遣(出向)の形で
新会社に移転することが予定された。
 そこで被告古河電工(以下単に会社ともいう。)は、右基本構想の合意に達した
後の同年五月二〇日組合本部(当時古河電工労働組合連合会)と本社の組合(当時
本社従業員労働組合)に対し、同月二三日中央研究所の組合(当時中央研究所従業
員組合)及び中央研究所内に勤務する原子力部従業員に対し、新会社設立の基本構
想を説明した。これを受けて組合は、組合員、特に出向対象者の意向を把握し、討
議を経て、同年六月下旬会社に対し、イ、転勤、配転の決定は個人の事情を考慮す
ること、ロ、新会社における賃金等の労働条件は会社におけるそれを下廻らないこ
と等を中心とする要望書を提出すると同時に、出向の定義、新会社の将来の見通し
等について質問書を提出した。右質問書に対し会社は同年七月五日文書をもって組
合に対し、出向の意義について、会社に在籍のまま新会社に勤務することであり、
「休職、新会社勤務」という発令によってなされること、その期間は定めないこ
と、新会社の将来について、我国唯一の純国内資本の独立系核燃料専業メーカーと
して、外国の同業有力企業に拮抗しうるものになることを期待していること等を回
答した。またそのころ、組合は、本件出向に関する交渉は、個々の従業員と直接に
するのではなく、組合を窓口としてほしい旨要望し、会社は大筋においてこれを了
解した。
 次いで同月三一日、同年八月一八日、同月二八日の三回にわたって、本件出向に
関し同被告と組合との間の中央労働協議会が開催された。同協議会には組合側か
ら、組合本部(同年八月当初に組合は単一化し、それ以前は古河電工労働組合連合
会、それ以後は古河労働組合本部)のほか、出向対象者を傘下に持つ本社組合(単
一化前は本社従業員労働組合、単一化後は古河労組本社支部)及び中央研究所の組
合(単一化前は中央研究所従業員組合、単一化後は古河労組中央研究所支部)の各
役員が出席した。第一回協議会において、会社は、新会社として新しい労働条件を
設定するにはその検討にも期間を要することになるので、この事情も踏まえての新
会社への出向者の取扱いとして、「(イ) 出向の形態は休職派遣とする。(ロ)
 古河、住友両社で現在原子力関係業務に従事している者は全員新会社勤務とす
る。但し、両社対等の原則からみて人員が均衡を欠く場合には調整を行うこともあ
る。(ハ) 発令日は新会社が両社から営業譲渡を受ける日と同日の九月一日とす
る予定である。(ニ) 新会社としては中央研究所と同居する大井分室を早晩武山
に統合する予定である。(ホ) 給与につき新会社が軌道に乗るまでは過渡的に暫
定措置をとる。
(ヘ) 新会社の給与が親会社の給与を下廻る場合はその差額は親会社が保障し、
昇給、賞与についても不利益な取扱いはしない。(ト) 健康保険、厚生年金保険
は親会社で加入し、失業保険、労災保険は新会社で加入する。(チ) 厚生施設は
各親会社の施設を利用しうるものとする。」などの趣旨の骨子を説明し了解を求
め、席上組合からの質問に答えて、右(ニ)の大井分室の武山統合に際し転勤不可
能者を会社に復帰させるかは個々に判断する旨説明した。これを受けて組合は第二
回協議会に先立ち書面をもって、「(イ) 人員調整(転勤、配置転換)について
は本人の意思を最大限配慮し、本人が希望しない限り親会社へ戻さないこと。
(ロ) 人員調整により親会社へ戻った場合はいかなる不利益もこうむらないよう
にすること。(ハ) 親会社における賃金体系及び水準は早急に一本化し(当時古
河電工、住友電工間において賃金格差があり、住友電工の方が高賃金であった。)
両親会社の現状を下廻らぬこと。」等を要求し、「(ニ) 人員調整の前提となる
「人員に均衡を欠く」とはどういう意味か、(ホ) 右武山統合に際し転勤不可能
者に対しどう考えているのか。」等を質問した。第二回協議会において会社は右要
求及び質問に対し、「(イ)について、一般的に人事異動に当っては本人の事情は
充分勘案するが、本人の意思を尊重できない場合もある。公平を期し、本人に充分
納得してもらうよう努力する。(ロ)について、配転者なるが故に不利益な取扱い
はしない。(ハ)について、現時点では賃金体系、水準とも当面現行のままで移行
し、新会社として労働条件全般につき整備する中で実施する。新会社発足直後の予
想される経営実態からは住友、古河両社を下廻らぬ統一的な賃金水準をすぐ設定す
ることはできない。しかし出向者には最低現行給与は保障されるし、今後水準調整
もされるので了解されたい。(ニ)について、九月一日以前の人員調整はない。人
員調整は新会社として態勢を整え操業遂行していく中で必要があればすることにな
ろう。(ホ)について、各々の事情を全て配慮することはできないが、個別に調整
可能な者についてはできる限り配慮する。」との趣旨を回答した。第三回協議会に
おいて、会社は組合の質問に対し、「人員調整に関し、新会社として操業上必要な
配置人員計画につきこれから具体的につめていくことになるが、これとの関係で生
ずる人員調整によって親会社に復帰させることは年内にはまずないと考える。大井
を武山に統合する時期は早ければ年内に、遅くとも昭和四八年三月中には実施する
ことを目標として計画中である。給与調整は武山統合予定の時期を目途とした
い。」等を回答した。その他出向後の諸々の労働条件等に関する質疑応答を経て、
組合は九月一日付の新会社への全員出向を執行部としては大綱的に了承し、なお本
社及び中央研究所各支部の代議員会の承認を得てから最終的回答をすることになっ
た。
 右の間、組合は組合ニュース等によって右協議会の経過を従業員に周知させた
し、中央研究所支部においては代議員会ないしその下部機構である対策委員会にお
いて、中央労働協議会に出席した支部役員の報告を受けて再三にわたり討議を重ね
てきた。そして最終的に同年八月三〇日の代議員会において九月一日からの全員新
会社出向を了解する旨の決議がなされた。原告は同年八月一日以降中央研究所支部
の正代議員に選出され、右代議員会に出席した。本社支部代議員会においてもその
ころ同様の決議がなされ、八月三〇日その旨が組合から会社に伝達され、ここに本
件出向に関し労使の合意に達した。
2 被告古河電工と原燃工業との間では、同年九月一日、前記基本構想に則り被告
古河電工の原子力部門の物的施設の譲渡ないし賃貸がなされるとともに、従業員の
出向に関する出向協定書が取り交わされた。その骨子は、「(イ) 出向者とは被
告古河電工から同原燃工業に出向を命ぜられ出向期間中被告原燃工業の役員又は社
員として被告原燃工業の業務に専任するものをいう。(ロ)出向者の出向期間は個
々に協議のうえ決めるものとする。出向解除の必要が生じたときは事前に双方協議
してこれを行う。(ハ) 給与は別段の定めがある場合を除き被告原燃工業の定め
るところにより同被告が負担するものとし、支払方法は別に定める。(ニ) 出向
者に対する退職金は被告原燃工業への出向期間も通算して被告古河電工がその基準
により支給することとし、被告原燃工業の負担すべき分は同被告から被告古河電工
に償還する。(ホ) 社会保険のうち、健康保険、厚生年金保険、失業保険は被告
古河電工が取扱い、労災保険は被告原燃工業が取扱う。」などとなっていた。しか
し右給与の支払いについては、発足当初は被告原燃工業の支払い能力が充分でない
ことを考慮し、右同日付をもって、「出向者に対する給与及び賞与の支給はすべて
被告古河電工が行い、被告原燃工業は同社の基準により計算した負担分を被告古河
電工に支払う。」との内容を含む出向協定書に関する覚書を取り交わし、かくして
当面給与及び賞与は被告古河電工が支払うこととなった。
 ただし右出向協定書や覚書の内容自体は、組合や出向者には事前に明らかにされ
ていない。
3 出向者と組合との関係は、出向者は引続き古河労組の組合員資格を保有し、役
員選挙権、被選挙権、議決権、組合費納入義務は停止されるが、出向先において不
当労働行為があった場合は古河労組組合員同様に取扱うこととされた。
4 被告古河電工と組合との間の労働協約一八条一項には「会社は組合員たる従業
員が次の各号の一に該当するときは休職を命ずることができる。」と定め、その四
号に「関連会社に派遣されたとき」を挙げ、同条二項には「休職を命じられたもの
について休職事由が消滅したときは復職を命ずる」旨定めており、また同被告の従
業員就業規則六五条の「従業員の休職については別に定める休職規程による。」と
の定めを受けた休職規程一条四号及び四条に、右労働協約の定めと同旨の定めがあ
る。
5 かくして、同年九月一日被告古河電工から原告を含む出向対象者一五一名に対
し「原子燃料工業株式会社勤務とする」旨の発令がなされ、同時に被告原燃工業か
ら原告ら核燃料製造部門従業員に対しては、「製造部武山研究所勤務とする」旨の
発令がなされ、出向者全員異議なくこれを受けて、以後被告原燃工業の業務に従事
した。なお住友電工からの出向者数は一〇五名であった。
 被告原燃工業は同日よりそれまでの被告古河電工及び訴外住友電工の核燃料事業
をそのまま引継いで業務を開始し、被告古河電工の旧核燃料製造課は被告原燃工業
の製造部に、同課第二製造係は同部武山研究所に、同課第一製造係は同部武山研究
所大井分室に改組されたが、右大井分室に勤務することとなった原告を含めその所
属従業員の勤務場所及び業務内容には全く変動がなかった。ただ、前示のとおり、
右大井分室は、やがて武山に移転統合されることが予定されていた。
 出向者に対する給与及び賞与は、前記出向協定書に関する覚書に従い、被告古河
電工から、出向前と同様の方法により支払われた。また被告原燃工業は同年一〇月
五日付をもつて出向者に対し給与額を通知した際、給与支給は出向前と同様親会社
の基準で親会社から行なわれる旨も併せて通知した。右覚書により被告原燃工業は
給与等のうち同社の基準により計算した負担分を被告古河電工に償還することとな
っているが、昭和五〇年六月の時点において現実にはそのとおりの償還はなされて
おらず、そして右当時まで給与減として被告古河電工が支給した額と右償還額との
差は約五五〇〇万円にのぼっている。
 出向後昭和五〇年五月末までの間に、被告古河電工に勤務するための二〇名、退
職のため四〇名の出向者が同社に復帰し、一方住友電工へは同社勤務のため三名、
退職のため一二名が復帰し、その結果右当時の被告原燃工業への出向者は、本件出
向後の出向者若干名を含め、被告古河電工九三名、住友電工一〇〇名となつてい
る。
三 本件復帰命令及び懲戒解雇
 当事者間に争いがない事実に、いずれも成立に争いのない乙第七号証の一ないし
三、第八号証、第九号証の一ないし三、第一三号証の一ないし三、第一四号証(甲
第一六号証)、第一七号証の一ないし三、証人eの証言により成立の認められる乙
第六号証の一ないし四、第一五、第一六号証、証人cの証言により認められる乙第
一一号証、証人e、c、d、gの各証言及び原告本人尋問の結果を綜合すると、次
の事実を認めることができ、この認定を左右するに足る証拠はない。
1 原告は、入社以来被告古河電工に勤務中も、元来病弱のため病気による欠勤が
多かったほか、その他の理由による欠勤や遅参も多く、無届欠勤も少なくなかつた
ところ、昭和四六年一〇月には、国際反戦デーに参加した際逮捕勾留されたため継
続して無届欠勤六日、欠勤一二日に及んだため、右欠勤後出勤した同年一一月一五
日原告は被告の求めに応じ、これまでの欠勤等については精神的なゆるみも一因と
認め深く反省する旨の誓約書を提出した。しかしその後も出勤率は必ずしもよくな
く、昭和四七年五月一日から同年八月末までをとってみると無届欠勤四回、欠勤三
回、遅参四回に及んだ。そして本件出向後も同年一一月七日までに無届欠勤一回、
遅参三回があったが、同月八日横浜市で行なわれた米車M四八戦車輸送阻止闘争に
参加した際逮捕され、引続き勾留されたため、同月九日から同月三〇日まで欠勤し
た。その間同月一四日原告から代理人を通じて、右の理由により釈放されるまでの
間休ませてほしい旨の休暇届が提出されて初めて被告原燃工業は欠勤の理由を知っ
た。右休暇届を受取った原告の上司である被告原燃工業武山研究所大井分室長g
は、直ちにそのことを被告古河電工中央研究所管理室長eに連絡して相談すると共
に、被告原燃工業総務部長cに連絡し、同人から、原告が出社したら注意を与える
よう指示を受けた。そこで同年一二月一日出勤した原告に対しgは、原告の右欠勤
につき、「こういうことがあると仕事上支障を生ずるし、原燃工業は古河電工と住
友電工との合弁会社であり住友電工に対する信義上の問題もあるから今後こういう
ことのないように」との注意を与え、また翌二日にはeの応援を得て二人で同旨の
注意を与えたが、原告は、これを聞き入れようとせず「それは退職勧告ですか」
「欠勤の理由は手紙でわかっているはずだ」「都合で休むこともある」「自分と住
友電工とは別段関係がない」などと答えることに終始した。
2 一方、被告古河電工中央研究所第五グループ加工室(以下単に加工室という)
では、昭和四七年三月三一日をもって所属従業員四名中の一人である訴外aが退職
して以来欠員を生じており、加工室の仕事は、中央研究所の各研究室からの依頼を
受けて材料に加工をすることであったが、右欠員のため加工業務の外注を増やし、
あるいは依頼元の各研究室員が直接加工業務に従事して糊塗していたものの、研究
室員は機械操作に習熟していないため加工業務に長時間を費やさざるをえず、その
ため各研究室の研究業務に支障を来たし、また外注費の増加を招いた。しかし、当
時は経済事情及び経営事情から大卒者以外の新規採用を中断していた時期であった
ため、中央研究所における人事面の担当者である右eは、中央研究所内部さらには
品川、千葉、平塚等の事務所、工場に対しても配転による右欠員の補充を要請した
が、いずれにもその余力がなく奏効しなかった。その一環として同年七月ころ当時
被告古河電工原子力部核燃料製造課第一製造係係長であった右gに対しても同様の
要請をしたが、同人からは、「現在常陽ブランケットの仕事があってとても無理だ
が、一一月か一二月かにその仕事が終れば、何とかなるかも知れない」との返答を
得ていた。
3 このようにして加工室の補充は新会社設立後もいぜんなされないまま経過して
いたところ、eは、前記のとおり一一月中頃gから原告の長期欠勤を聞き及び、こ
のように勤務不安定な原告を出向社員として被告原燃工業に派遣したままにしてお
くのは同社の共同出資者たる住友電工ないし同社からの被告原燃工業への出向者に
対する信義上妥当でないから、原告を被告古河電工に復帰させて加工室の補充に充
てるのが適当ではないかと考え、その旨をgに打診した。当時被告原燃工業では、
被告古河電工から引継いだ前記常陽ブランケットの仕事が同月中には終了する予定
であり、一二月以降は原告を復帰させても業務上の支障がなかったので、gはその
旨返答した。そしてeとgは、同年一二月一、二日の注意の際に示した原告の態度
に照らし、原告については将来ともかかる長期欠勤のおそれが払拭できないと判断
して、原告の復帰が適当であるとの判断を固め、そこでそれぞれ被告両社上層部に
その旨を上申した結果、被告両社は協議のうえ、同月六日原告を被告古河電工に同
月一六日付をもって復帰させ、同社の右加工室に勤務させる旨の意思決定をし、労
働協約一七条の趣旨に則り組合に通知のうえ、同月一四日原告に対し、e及びgに
おいてその旨を内示した。
4 原告は入社以来、昭和四五年九月から昭和四六年九月までは金属ウラン板の加
工作業、同年一〇月から昭和四七年三月までは酸化ウラン板の加工、主として研磨
作業、それ以降は転換加工、主として溶媒処理作業に従事してきたところ、前記三
品の補充として加工室で従事すべき作業は、一部異種の作業を含むけれども、大半
はこれまで従事してきた作業と同種の機械を操作して行うなど同種の作業であった
から、原告の経験、知識をもってすれば加工室の業務に従事するのに使用者の側か
らもまた原告にとっても特段の不都合はなかった。また、加工室は、原告がそれま
で従事してきた被告原燃工業の製造部武山研究所大井分室と同一建物内にあった。
5 右のとおり同年一二月一四日原告に対し右復帰の内示をし、前記のような復帰
の理由を説明したところ、原告は、(イ)欠勤問題は自分に責任のないことだか
ら、住友電工に対する信義の問題を平社員たる自分の責任問題とするのはおかし
い、(ロ)他に復帰したい人がいるのに戻りたくない自分を復帰させることは納得
できない、(ハ)二年間にわたって蓄積した技術が新職場では生かされない、
(ニ) 不当労働行為である、(ホ) 従来同じ職場で働いてきた人達との人間関
係を大切にしたい、等の理由を挙げて復帰を拒否する態度を示したが、被告両社
は、いずれも復帰命令を拒否するに足る理由とはなりえないと判断し、同月一八日
(一六、一七両日は休日のため)原告に対し、同月一六日付をもって被告古河電工
に復帰し、同社中央研究所加工室に勤務すべき旨の命令を通告した(被告古河電工
からは「開発本部中央研究所勤務とする」旨の辞令書が提示された。)。
 しかし原告は、右拒否理由に加えて、被告原燃工業からの辞令書がないのはおか
しい、被告古河電工が命ずるのはおかしい、との理由を付加してこれを拒否し、以
後も被告原燃工業に出社し、命ぜられた被告古河電工中央研究所加工室に就労しな
かった。被告古河電工は、e及び管理室長補佐hにおいて右発令日から昭和四八年
一月初めまでの間多数回にわたり加工室への就労を命じあるいは説得したが、原告
は全く態度を変えなかった。
 被告古河電工の労働協約二五条四号及び就業規則六二条四号によれば、「職務上
の指示命令に従わず、職場の秩序を紊し又は紊そうとしたとき」は懲戒解雇に処す
る旨定められているところ、同被告は、原告の右行為が職務上の指示命令に従わず
かつ同被告の職場秩序を紊したことに該当し、かつ原告を懲戒解雇に処するのが相
当と判断して、労働協約二二条に則り組合に通知のうえ、同月一一日原告に対し懲
戒解雇する旨の意思表示をし、かつ解雇予告手当を提供したが、原告が右手当の受
領を拒絶したので、後日これを供託した。
四 本件復帰命令についての原告の同意の要否
 右二項に認定したところによれば、本件における被告古河電工から被告原燃工業
への出向は、原告が被告古河電工との雇用関係を継続しながら、関連企業たる第三
者被告原燃工業に派遣され、その日常的な指揮監督の下にその業務に従事するもの
であり、一般に在籍出向と呼ばれる範疇に属するものであることが明らかである。
 ところで、雇用契約は一般に労働者が当該使用者の指揮命令下に当該使用者のた
めに労務を給付することを約するものであるから、使用者が労働者を第三者の指揮
命令下においてその者のために労務を給付させること、即ち出向を命じることは、
労働者が予めそのことを包括的に承諾しているか、労働者の個別的同意があるか、
若しくはその他これを正当づける特段の根拠なくしてはなしえない(当該労働者に
対し拘束力を生じない)ものと解されるのであるが、一旦出向した労働者を、再び
出向元の使用者の下に復帰させる場合については、必ずしも右と同様に考えること
はできない。けだし、出向先から出向元に復帰することは、労働者に対する直接の
日常的な指揮監督の主体の変動を伴う点において出向と同じであるが、出向元の指
揮命令下にその業務に従事することは、当初の労働者と出向元との雇用契約に基づ
く労務給付自体なのであり、出向の場合に第三者の指揮監督下での第三者のための
労務給付が当事者間において当初予定されていないのが一般であるのと事情を異に
するからである。即ち、使用者が労働者に対し出向後出向先又は出向元の業務上の
都合により再び出向元において労務供給することがありうることを予定しながら出
向を命じ労働者がこれに同意するという形態は多くの出向にみられることであり、
この場合は、復帰を相当とする事由の存する限り、出向復帰を命ずることは、使用
者の労務指揮権の範囲内のことがらとして、随時になしうるものと解すべきであ
り、これに反し使用者が労働者に対し出向後は恒久的に出向先において労務給付す
ることを予定して出向を命じ労働者がこれに同意した場合には、出向元へ復帰する
ことは再び雇用契約の要素の変更に当るものとして、出向の場合と同様原則として
当該労働者の個別的同意を要することになろう。
 従って、復帰について当該労働者の個別的同意を要するか否かは、出向に当って
の使用者と労働者の合意の内容により定まるものというべきであり、第一次的には
明示の合意によるが、それがない場合には、当該出向の目的、形態、出向の合意に
至る交渉の経緯等諸般の事情を綜合して、合理的な意思解釈によりこれを確定すべ
きものと解すべきである。
 そこで前記二項に認定したところによりこの点を考えると、本件出向は、被告古
河電工と訴外住友電工とが、その各核燃料製造部門をほぼ在来のまま新会社に引継
がせることにより、将来国内資本による核燃料専業企業として発展することを期し
て、合弁会社としての新会社を設立し、これに伴つてこれまで核燃料製造部門に従
事していた従業員を原則として全員新会社に出向させたものであり、従つて出向元
会社にはこれら従業員がこれまで従事してきた部門は残存しないことになるのであ
るから、この面からみれば、出向者は原則的に将来新会社が維持され発展していく
限り、新会社において勤務することができる。
 しかしながら、新会社が古河、住友両社の在来の業務を引継ぎ、従業員も全員出
向という形態をとつたのは、いわば新会社発足に当つての暫定的措置であり、特に
人員については被告古河電工からの出向予定者が住友電工からのそれよりも多かつ
たため、両社からの出向者がほぼ同数となるよう調整をするとの配慮から出向者の
一部を復帰させることが予定されていたのであつて、この趣旨は組合に対し示さ
れ、また組合を通じて原告ら出向者にも周知されていたのである。そしてこのよう
な合弁会社たる新会社としての性質上、その発足後間もない時期においては、新会
社としての事業の統一化、合理化を遂行しその基盤を確立するために、右のような
数の上での人員調整だけでなく、適材適所等の観点から適切な人員配置をする必要
がありそのために一部出向者を復帰させる事態の生じうることも当初より当然に予
想しうるところである。前記中央労働協議会において、組合側が会社に対し、人員
調整(転勤、配置転換)については本人の意思を最大限配慮し本人が希望しない限
り親会社へ戻さないことを要望したのも、右のような理由による復帰命令を予定し
たうえで、本人の意思の尊重を要望したものと解され、これに対し会社はこれを一
般的人事異動の問題として、本人の事情は充分勘案するが、本人の意思を尊重でき
ない場合もある旨回答し、組合は結局のところこの回答をもって出向を了解したの
である。もっともこの点に関連して、会社は、人員調整は年内にはまずない、旨回
答しているが、これは人員調整の時期についての会社としての見通しを述べたにす
ぎないものと解するのが相当であって、組合に対し出向者を年内に復帰させること
はしない旨、あるいは人員調整以外に出向者を復帰させることはしない旨を確約し
たものとみることはとうていできない。さらには、組合側から、新会社発足後早晩
予定される大井分室の武山統合に際し、武山に転勤できない者の復帰を要望さえし
ているのである。
 かかる事情のほか出向者の給与、社会保険料の負担等による被告古河電工の経営
援助その他前記二項に認定した被告両社の関係を綜合して考えると、少くとも被告
原燃工業が企業としての統一性、独立性を備え、独立の企業としての基盤を持つに
至るまでの間は、出向者が被告原燃工業の従業員として定着するかあるいは同社内
における人員調整、適切な人員配置等の人事上の都合により被告古河電工に復帰す
るかは、極めて流動的な状態にあって、これらの都合により同被告に復帰すること
のあるべきことを予定して本件出向及びこれに対する出向者の同意がなされたもの
と解するのが相当である。かかる見地に立てば、復帰命令はそれが人員調整を理由
とするものであると否とを問わず新会社の企業基盤確立の観点から合理性を肯認し
得る限り復帰予定者の個別的同意がなくても有効と解すべきである。
 ところで、本件において、出向者に対する復帰命令は被告両社いずれにより発せ
られるべきかを検討しなければならない。元来企業基盤確立のための人員調整等は
当該企業の独自の判断に基づいて行なわれるべきは当然であるが、既に認定したよ
うな新会社設立の趣旨、経緯及びその運用の実態にかんがみ被告古河電工の意向が
右人員調整等に反映されて然るべき関係にあるものということができ、それなれば
こそ被告両社の出向協定において「出向解除の必要が生じたときは事前に双方協議
してこれを行なう」旨が合意されたのである。かかる事情と、出向命令を発したの
も出向者を再び受け入れるのもともに被告古河電工であることにかんがみ、また出
向者の地位を不安定ならしめないために、これら人員調整等は同被告からの出向者
に関する限り、被告両社の一致した意見に基づく被告古河電工の復帰命令という形
式により行なわれるべきものと解するのが相当である。しかして、この関係は、出
向者が被告古河電工の従業員としての身分を保有したまま被告原燃工業との間でも
雇用関係を結ぶに至ったかあるいは単に同被告の日常の労務指揮権に服するにとど
まるかにより差異を生ずるものではなく、出向者は被告古河電工の復帰命令により
再び同被告に対する労務提供義務を負うと共に、被告原燃工業に対するそれを免
れ、かつ賃金請求権を失うに至るのである。
 しかして、本件復帰命令が被告両社の一致した意見に基づき被告古河電工により
発せられたことは前認定のとおりである。
 そこで、本件復帰命令の合理性について考えると、これが発せられた昭和四七年
一二月一八日の時点において、被告原燃工業が未だ右の意味において独立の企業と
しての基盤を有するに至っていないことは、前二項に認定したところにより明らか
である。そして、その理由とするところは右三項に認定したとおり、原告の長期欠
勤等勤務不安定とこのことについての訴外住友電工ないし同社からの出向者への信
義上の配慮にあるところ、本件復帰命令の直接の契機となった米車M四八戦車輸送
阻止闘争に参加した際逮捕勾留されたことによる長期欠勤の責が原告にあるかどう
かにかかわりなく、かかる不慮の欠勤が客観的に被告原燃工業の業務遂行に支障を
来たすものであることは明らかであり、前認定のように原告はそれまでにも同種の
事由により長期欠勤したことがあるほか欠勤が多く、かつ右長期欠勤の後上司が与
えた注意に対し原告が耳を貸そうとしない態度を示す以上被告原燃工業及び古河電
工において、将来にわたって原告の勤務不安定が改められずに業務に支障を来たす
べきことを懸念するのは、至極当然のことといわなければならず、発足間もなく未
だ企業基盤も定まっていない被告原燃工業にとって従業員のかかる勤務不安定性は
とりわけ重大である。そして住友電工との共同出資により合弁会社たる被告原燃工
業を設立した被告古河電工としては、その企業基盤の確立に寄与すべき信義上の義
務を、住友電工に対してもまた被告原燃工業に対しても負っているのであるし、ま
た被告原燃工業内部においても、被告古河電工からの出向者は住友電工からの出向
者に対して同種の信義上の義務を負っているものといえるから、かかる考慮から被
告両社が一致してこのように勤務不安定な原告を引続き被告原燃工業において勤務
を継続させるより被告古河電工に復帰させることを妥当と判断することは、合理性
あるものとして首肯しうるところである。
 そのうえ前認定のとおり、当時被告古河電工には加工室において補充を要する欠
員があり、一方被告原燃工業においては、常陽ブランケットに関する業務が終了
し、原告を復帰させても業務上支障のない状態にあったのであり、かかる事情をも
付加的に考慮のうえ原告の復帰を決定したのであるから、結局本件復帰命令は、客
観的に合理性のある理由に基づき発せられたものと認めることができる。本件復帰
命令は原告に対する不利益処分としてなされたものではないから、その直接の契機
となった前記逮捕勾留が原告の責に帰すべきものであるか否かが、その当否の判断
に直接の関係のないことは、いうまでもない。
 なお、本件復帰は、単に出向元の元の職場に復帰するのではなく(前述のとおり
元の職場はもはや存在しない。)、原告がこれまで従事してきた核燃料製造部門
(原子力部)から中央研究所加工室への職種の変更を伴うものであるから、この面
での原告の同意の要否も考慮する必要があるが、右三項4に認定したとおり原告が
それまで核燃料製造部門において従事してきた作業と加工室において予定された作
業との間には類似性があって、原告の従来の経験が生かせるのであり、また職場も
同一建物内の移動にとどまり、その他復帰に伴う異動により労働条件に変動が生ず
ると認むべき証拠はない。しかるところ、前掲乙第三号証によれば被告古河電工の
就業規則第六四条には、「業務上必要あるときは従業員に対し転勤、転職又は職場
変更させることがある。」旨定めており、一方原告本人尋問の結果によれば、原告
は同被告の中央研究所において採用され、その直後に原子力部に配属されたもので
あることが認められるところ、他に原告の職種を原子力製造部門に限定して採用し
たと窺うに足る証拠は存在しない。右によれば同じ事業所内での類似性のある職種
への本件の程度の異動は、当初の雇用契約において予定された範囲内のものと推認
するのが相当であるから、本件復帰命令はこの面でも原告の同意を要しないものと
いうべきである。
 以上のとおりであるから、本件復帰命令は原告の同意を要せずして有効になしう
るものというべく、従って右命令により原告は被告古河電工に対しその加工室に勤
務すべき雇用契約上の義務を負うに至ったものといわなければならない。
五 被告原燃工業との間の雇用関係の存否
 在籍出向は先に述べたように、出向元との雇用関係を維持しながら出向先の指揮
監督を受けてその業務に従事するものであるが、出向により出向者と出向元との間
においても雇用関係が成立するのか、単に日常の労務指揮の服従関係が存するのか
は一義的に決定することができない。当該出向がそのいずれに属するかは、第一次
的には当事者間の明示の合意によるが、本件出向においてかかる明示の合意は存し
ないから、この点も出向の目的、形態、出向に至る交渉経過及び出向後の賃金支払
い関係、労務指揮関係の実態等を綜合して判断しなければならない。
 そこで本件についてみると、前記のとおり、本件出向が、被告古河電工と住友電
工との核燃料部門を物的、人的施設ともにほぼ在来のまま新会社に引継がせ、核燃
料専業企業として発展することを期して新会社を設立し、これにともなってなされ
たものであることに照らせば、少くとも将来新会社が独立の企業基盤を備える時点
においては出向者と新会社たる被告原燃工業との間に独立の雇用関係を成立させる
べく予定したものとみなければならない。しかしながら被告原燃工業が右のように
独立の企業基盤を未だ持つに至らず、それまでの過渡的措置として、前認定のよう
に出向者に対する給与等支給関係、社会保険取扱いの関係、人員調整等の理由によ
る復帰を被告古河電工においてなしうる関係等、賃金請求権、労務指揮権両面の関
係において出向者と被告古河電工との間に極めて緊密な関係が維持されていること
に照らせば、出向者と被告原燃工業との間に、別個に独自の雇用関係が成立したも
のとは未だ認めえないものとみるべきであろう。
 なお被告原燃工業との間にも二重に雇用関係が成立したものと解するとしても、
その契約関係は、原告と被告原燃工業との間に別個の特段の合意がなされるのでな
い限り、出向に関する原告と被告古河電工間及び被告古河電工と被告原燃工業間の
各合意と無関係に成立するものではなく、右各合意の目的とするところの範囲内に
おいて成立するのにすぎないと解される。即ち、右各関係において有効に原告の出
向関係が解消されれば原告及び被告原燃工業のいずれからもその雇用関係を当然に
解約しうるものと解すべきである。従って前記のように復帰につき被告古河電工と
被告原燃工業との間に合意が成立し、これに基づき被告古河電工が原告に対し復帰
を命じた以上、被告原燃工業は他に何らの制約なく原告に対し解約をなしうるもの
というべきであり、前認定のとおり本件復帰に当り被告原燃工業もまた原告に対し
その命令を発しているのであるから、右の見地に立つときは、これは右解約の意思
表示に当る。そしてこの場合、解約に予告期間を置くというようなことは、各当事
者が出向に際し予め予定したところに反するばかりでなく、労働者の保護のために
も必要のないことであるから、解雇に関する民法上、労働基準法上の制約は受け
ず、その意思表示のときから直ちに効力を生ずるものと解すべきである。
 よって、いずれの観点からしても、少くとも本件復帰命令後においては原告と被
告原燃工業との間の雇用関係は存在しない。
六 本件懲戒解雇の効力
 以上のとおりであるから、本件復帰命令により原告は以後被告古河電工に対しそ
の加工室に勤務すべき雇用契約上の義務があるところ、前認定のとおり原告は同命
令及びその後同被告からの再三の就労命令、説得にかかわらず右加工室に就労しな
かつたのであるから、その行為が労働協約二五条四号、就業規則六二条四号に懲戒
解雇事由として定める「職務上の指示命令に従わず、職場の秩序を紊したとき」に
該当することは明らかである。よつて後述の再抗弁事由が肯認されない以上、同被
告のなした本件懲戒解雇の意思表示は有効である。
七 不当労働行為の成否
1 前掲乙第四三号証、成立に争いのない乙第四八号証の一ないし四、第五三、第
五四号証、証人i、同j、同k(但し後記採用しない部分を除く)の各証言及び原
告本人尋問の結果によれば次の事実が認められる。
 被告古河電工原子力部においては従来から放射線安全管理班を設けて核燃料取扱
区域及びそこで働く従業員の放射線被爆線量の測定、監視をし、その一環として各
従業員が胸にフイルムバツヂをつけ各月毎に放射線測定をして安全管理の一手段と
していたところ、同部開発課においては昭和四六年五、六月分フィルムバッヂにつ
いて従業員五名につき通常の被爆量を上廻る九〇ないし二七〇ミリレントゲンの放
射能が測定された(開発課員中から通常より高い線量記録が発見されたことは原告
被告古河電工間において争いがない。)。右量は被爆量の安全基準とされている三
か月三、〇〇〇ミリレントゲン、年間五、〇〇〇ミリレントゲンを下廻るものであ
ったが、従来の被爆量が一〇ないし三〇ミリレントゲン以下であったのに比較する
と相当高いものであった。被告古河電工では安全管理班を中心に原因を究明したと
ころ同年八月三日開発課のロッカー配置場所に隣接してベニヤ板で仕切られた貯蔵
庫にレッカウランを置いたことが原因であることが判明した。このことを契機とし
て開発課の階下にあたる原告所属の核燃料製造課第一製造係においても、原告らが
中心となって安全管理体制についての説明を要求し、四回にわたって開かれた説明
会等を通して休憩時間、清掃の徹底等を要望した。被告古河電工は貯蔵庫ウランを
撤去し、右問題を契機として安全管理体制を強化し(この点は原告と被告古河電工
間において争いがない。)、安全管理班員を増員して開発課研究員であった訴外l
を同班員とし、特殊健康診断を実施するなどして対処した。
 以上の事実が認められ前掲kの証言中右認定に返する部分は採用しない。
 右のとおり被告古河電工が原告らの安全管理体制強化の要望を拒み得なかつたこ
とは認められるが、被告古河電工において右安全管理問題を契機として労務管理を
強化したことを認めるに足る証拠はなく、また訴外lを安全管理班員としたことを
もって原告らの運動への懐柔策であるとまで認めるに足る証拠もない。
前掲乙第七号証の一ないし三と証人gの証言によれば、被告古河電工が原告に対し
昭和四七年六月に武山の第二製造係への出張勤務を命じ、これにより原告が同年七
月三日から同月二一日まで出張したことが認められるけれども、右証拠によれば、
右出張は、右第二係から七、八月中の助勤者を応援に出してくれるよう要請を受け
た同第一係係長gが、同係内部の連絡会議であるグループ長会議(同会議には原告
自身が支援して中央研究所の組合の執行委員長に当選したと述べるmもグループ長
として出席している。)にはかり、右第一係所属従業員全員に対し、七、八月中に
おける支障等につきアンケートをとったうえ、妻帯者や業務上及び業務外の都合に
より出張できない者を除外し、グループ長の意見を参酌するという方法により、出
張期間を三期に分け、その第一期出張者として原告ほか二名(その中に右mを含
む)を人選した結果命じたものであり、また第二期出張者としてほか二名の者にも
出張を命じたことが認められ、証人jの証言及び原告本人尋問の結果中右認定に反
する部分(特に、gは原告に対し当初二ケ月間の出張を命じ、これに対し原告が異
議を述べて後にアンケートをとり、その結果出張者として原告ほか二名を決定して
その旨原告らに通知したが、これに対し原告から期間が長すぎるとの抗議を受けた
ため期間を短縮したものである、とする部分)は、証人gの証言に比べその内容に
あいまいなところがあり、にわかに採用しえないところである。
 他に、右gないし被告古河電工が、被告原燃工業設立に伴う原子力部の全員出向
という事態に備えてことさら原告を職場から排除し、あるいは同年七月に行なわれ
た後記役員選挙における原告の選挙運動を妨害する目的で、右出張を命じたものと
認めるに足る証拠はない。
 また、証人iの証言と原告本人尋問の結果及びこれらにより成立を認めうる甲第
一〇ないし第一二号証によれば、原告が在来の組合の活動方針が専ら組合中央の執
行部により決せられ、一般組合員や職場の意向が十分に反映されていないとの批判
を抱くに至り、このような意向から昭和四七年春闘等に際し、原告の所属する核燃
料製造課の職場において、同職場従業員の組合意識を向上させ結集してその意見を
組合中央の方針に反映させようとする努力をしてきたこと、及び原告が、同年七月
に行なわれた組合中央研究所支部の執行委員選挙に志を語らつた者らと共に立候補
し落選したが、その選挙に関し違反文書配布等の不明朗な事態が生起したことを認
めることができる。しかしながら、被告古河電工ないしその職制が、このような原
告の組合活動や思想に関心を持ち、これを嫌悪し、あるいは右選挙に際し組合中央
執行部と一体となつて違反文書を配布するなどして原告らの当選を妨害したなどの
事実を認めるに足る証拠はない。
3 弁論の全趣旨によつて成立が認められる乙第四七号証及び原告本人尋問の結果
とこれによつて成立が認められる甲第二、第一三、第一四号証を綜合すると、原告
らが被告原燃工業へ出向した後被告古河電工からの出向者をもつて組織する労働者
組織結成に向って準備委員会が設けられ、同年九月三〇日原告らはその準備委員に
選出されていたところ、古河労組執行部としては将来住友電工からの出向者と合体
して独自の労働組合が結成されるまでの経過措置として、古河労組の下部連絡機構
に近い形での従業員会の結成を考え、右準備委員中にも同様の考えを持つものがい
たが、原告はこれと意見を異にし、正規の労働組合を結成すべきであるとの立場を
とっていたことを認めることができる。しかし、被告両社が原告の右意見に関心を
持ち、これを嫌悪し、右新組織結成問題に介入し、あるいは御用組合としての新組
織結成を働きかけたことを認めるに足る証拠はない。
4 昭和四七年一〇月頃原告所属の被告原燃工業武山研究所大井分室の廃止と武山
への統合のため、同分室所属の従業員の一部が武山研究所に移転したことは当事者
間に争いがないところ、証人n、iの各証言及び原告本人尋問の結果とこれにより
成立を認めるべき甲第一五号証によれば、同年一〇月一日を期して独身者従業員九
名が移転するにつき、被告原燃工業はその独身寮として元旅館の建物を賃借して用
意し、同年九月二一日、同月二七日の二回にわたって入寮予定者に対し説明会を行
い、その中で入寮予定者から出された要望の一部を容れて入寮条件が決定されたこ
と、その過程において原告は入寮予定者から当初同社より示された入寮条件につい
て相談を受けて、これについて従業員側の要求をとりまとめた独身寮に関する声明
文を起案しこれを入寮予定者に手渡したことが認められる。しかしながら、証人i
の証言及び原告本人尋問の結果によっても、右の問題に関する原告の関与は右の程
度にとどまり原告が直接同被告の職制に対し交渉に当ったわけでもないというので
あり、他に同被告の職制が右の問題に対する原告の関与を知り、そのことに関心を
抱いたことを認めるに足る証拠はない。
5 以上のとおり、原告が職場の問題について、また組合活動として、会社に対す
る対決的意見を持ち、その意見に基づいてある程度活発な活動をしてきたことは肯
認できるけれども、それらは未だ原告の所属する職場における比較的狭い範囲での
活動にすぎず、従って未だ被告両社ないしその職制において原告の活動に強い関心
を持ち、これを嫌悪するに至っていたものとは認めえないのであり、以上に示した
ほか、本件復帰命令が、原告が被告原燃工業の従業員の中において活発な組合活動
をしあるいは闘う労働組合の結成に向けて活動するのを妨害する意図をもってなさ
れ、さらには、原告が右命令を拒否するとの予測のもとにこれを理由とする解雇を
意図してなされたものと認めるべき証拠はさらにない。
 よって不当労働行為の主張は理由がない。
八 人事権濫用の成否
 本件復帰命令が合理性を有する業務上の理由に基づきなされたものであること、
原告が被告古河電工に復帰してその加工室において勤務することにつき、少くとも
客観的な労働条件の面において原告に特段の不利益を与えるものと認むべき事由の
存しないことは、既に四項において判断したとおりである。これに対し原告は右命
令を拒否する理由として、前記三項5に述べた五点を主張したのであるが、その
(ロ)、(ハ)の二点が右拒否の正当な理由になりえないことは既に述べたところ
から明らかであるし、(イ)の点についても、既に述べたように本件復帰命令は原
告に対し欠勤の責を追及してなされた不利益処分ではないのであるから同じく拒否
理由になりえない。また(ニ)の点については、前項に判断したとおり理由がな
く、(ホ)の点は専ら原告の主観の問題であって、被告側の復帰命令の理由と対比
して復帰命令を不当ならしめる理由とはなりえない。
 他に本件復帰命令が人事権の濫用に当ると認めるに足る証拠はないから、原告の
この点の主張も採用できない。
九 以上の次第であるから、被告古河電工が原告に対してした本件復帰命令及び本
件懲戒解雇の意思表示はいずれも有効であり、よって原告と同被告との間の雇用契
約関係は右懲戒解雇により終了したものというべく、また原告と被告原燃工業との
間の雇用契約関係は成立していないか、仮りに成立したとしても被告古河電工及び
原燃工業が原告に対してした本件復帰命令により終了したものというべきである。
 よって本訴請求中、被告両名に対し雇用契約上の地位の確認及び本件懲戒解雇後
の賃金の支払いを求め、被告古河電工に対し同社中央研究所において勤務する義務
の不存在の確認を求める部分は理由がない。また原告は、本件復帰命令後勤務すべ
き同被告の中央研究所での勤務を拒否しているのであるから、復帰命令後懲戒解雇
までの賃金の支払いを求める部分もまた失当である。
第二 反訴について
 反訴請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、被告古河電工が原告に対し昭和
四八年一月一一日有効に懲戒解雇の意思表示をし、これにより同日限り原告と同被
告との雇用契約関係が終了したことは、本訴について判断したとおりである。
 そうすると右当事者間の別紙物件目録記載の部屋に関する使用貸借契約は右同日
限り契約に定めた目的に従う使用を終わったことにより終了したものというべきで
あるから、同被告が原告に対し右部屋の明渡しを求める反訴請求は理由がある。
第三 結論
 以上のとおり、原告の本訴請求は全て理由がないから棄却し、被告古河電工の反
訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し
て、主文のとおり判決する。なお、反訴請求についての仮執行の宣言は相当でない
と認めこれを付さない。
(裁判長裁判官 松野嘉貞 浜崎恭生 牧弘二)
(別紙省略)

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