弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役三年に処する。
     原審における未決勾留日数中三〇日を右刑に算入する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人吉井規矩雄および被告人本人がおのおの作成した控訴
趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。これに対し、当裁判所は、つぎ
のとおり判断する。
 一 被告人本人の論旨中違憲を主張する部分について。
 所論は、原審が被告人が公訴事実を否認しているにもかかわらず、証人一名の取
調もしないで短時間内に審理判決したことをとらえ、このような審判手続は、憲法
三七条二項に違反するもので、破棄さるべきであるという。
 よつて、原審記録を検討すると、原審第一回公判調書によれば、その公判期日に
おいて、被告人は、本件常習累犯窃盗被告事件に対する陳述として、「私は、品物
を持つて、届けに行こうとしたのです。」と述べ、窃盗の犯意を否認したが、弁護
人(国選)は、別に述べることはない旨陳述し、検察官から、本件公訴事実、被告
人の前科および犯情等の立証としてAほか一名作成の現行犯人逮捕手続書等一七通
の書証の証拠調の請求が行なわれ、被告人がわから、これら書証全部につき、証拠
とすることについての同意があり、ただちに裁判所の証拠調の決定とその施行があ
つたこと、裁判官から被告人に対し事案の実体等につき質問が行なわれ、被告人
は、被告事件に対する前示陳述をふえんした供述をした後、検察官のいわゆる論告
求刑が行なわれ、弁護人より、被告人の弁解を信じたいが、それを認め難いのは残
念である、実害がなかつたのであるから寛大な処分を願う旨の弁論と、被告人の、
窃盗の犯意を否定するための、逮捕当時の捜査官の処置を非難する趣旨の最終陳述
があつて、結審となり、同期日において判決の宣告が行なわれたことが明白であ
る。そして、原審記録によれば、その一二丁に記載された、検察官申請の書証を証
拠とすることについての被告人がわの「同意」は、なんぴとがその意思表示をした
のかは、記録上は明らかでないけれども、本件のようないわゆる必要弁護事件にお
いて弁護人が出頭し審理が行なわれ、かつ、前示のように被告人が終始窃盗の犯意
差否認し<要旨>ておるのに対し、弁護人が被告事件に対する陳述以来審理の全過程
を通じて公訴事実を争わない態度を明示している事案においては、被告人の
窃盗の犯意の認定の資料となる重要な書証については、裁判所としては、弁護人が
証拠とすることに同意する旨陳述しても、これがはたして被告人の意思に添うもの
であるかどうかについて、さらに慎重に確かめるのが相当であつて、弁護人の右の
陳述だけで、ただちに被告人がかかる書証を証
拠とすることに同意したものと見ることはできない。(最高裁判所昭和二七年一二
月一九日第二小法廷判決―刑集六巻一一号一三二九ページ以下―は、弁護人だけが
「証拠調請求に異議がない」旨述べた事案であつて、本件の場合とは異なるもので
あるから、、この判決の趣旨をそのまま本件にあてはめることができないが、その
精神は、本件についても共通するものがあり、本件のような場合においても、上記
のように解すべきものである。)ところで、原審記録によると、被告人は、右公判
期日後、同期日の公判調書の記載の正確性について異議の申立をし、同公判期日に
おいて取り調べられたAの司法警察員に対する供述調書およびBの答申書の内容を
真実に反するものとして争つているのである。(右両名は、被告人を窃盗の現行犯
人として逮捕した鉄道公安職員である。)もとより、右申立は、公判調書の記載の
正確性に関する異議の申立の体をなさいものであるが、かかる事実を含む原審記録
に現われた事実とこれらの経緯に関する当裁判所の事実の取調の結果とを合わせて
考察すると、原審公判調書に記載された前示の、検察官申請の書証を証拠とするこ
とについての被告人がわの「同意」は、弁護人によつてなされたものであり、その
うち、被告人の窃盗の犯意を認定する資料となる重要な証拠であり、原判決も証拠
として挙示しているAの司法警察員に対する供述調書、Bの答申書および鉄道公安
職員(右両名)の現行犯人逮捕手続書については、右「同意」は、弁護人と被告人
との連絡が緊密でなかつたため、被告人の意思に反するものであつたことが認めら
れるのである。したがつて、これらの書証については、右弁護人の同意の意思表示
によつて、これを証拠とすることに被告人の同意があつたものとすることはできな
い。(最高裁判所昭和二六年二月二二日第一小法廷決定―刑集五巻三号四二一ぺー
ジ以下―の要旨は、「弁護人が書面を証拠とすることに同意した際、被告人が在廷
しながら何ら異議を述べなかつた場合には、被告人もこれに同意したものと認める
のを相当とする。」というものであるが、これは、通常の事案に関するものであ
り、前記昭和二七年の第二小法廷の判決の趣旨に照らしても、以上に詳述した本件
のような事案には、あてはまらないものというべきである。)これらの書証は、刑
事訴訟法三二一条ないし三二七条により公判期日における供述に代えて書面を証拠
とすることができるいずれの場合にも当たらないものであるから、これらの書面を
証拠として取り調べることは、許されないものといわなければならない。しかも、
これらの書面を除いては、被告人の原判示犯罪事実を認定することはできないので
あるから、これらの書面を証拠として採用し、罪証に供した原判決には、憲法三七
条二項の適合性について判断するまでもなく、刑事訴訟法三七八条四号前段所定の
判決に理由を付さない違法があるのみならず、原審には、同法三七九条所定の判決
に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反があるものといわなければなら
ない。それゆえ、原判決は、破棄を免れない。
 よつて、被告人本人および弁護人の事実誤認の論旨に対する判断を省略し、刑事
訴訟法三九七条、三七八条四号前段、三七九条により、原判決を破棄し、当審にお
ける事実の取調の結果をも総合して、同法四〇〇条但書に従い、つぎのとおり判決
する。
 (当裁判所が認めた罪となるべき事実)
 被告人は、昭和三九年一二月一七日立川簡易裁判所において窃盗罪により懲役二
年の、同四二年三月二三日東京地方裁判所において窃盗、有印私文書偽造、行使、
詐欺罪により懲役二年六月の、昭和四七年一月三一日東京簡易裁判所において窃盗
罪により懲役八月の各刑にそれぞれ処せられ、いずれもこれらの刑の執行を受け終
わつたものであるが、さらにその後常習として、昭和四七年八月一八日午後七時五
九分ころ、東京都台東区ab丁目c番d号CD駅Eホーム跨線橋階段において、F
所有の下着等在中のシヨルダーバツグ一個ほか一点(時価合計約四、二〇〇円相
当)を窃取したものである。
 (証拠の標目)省略
 (法令の適用)
 被告人の判示所為につき盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律三条、二条、刑法二三
五条
 累犯加重につき刑法五九条、五六条一項、五七条(同法一四条前段の制限に従
う)
 原審における未決勾留日数の算入につき刑法二一条
 原審および当審における訴訟費用の負担の免除につき刑事訴訟法一八一条一項但

 以上のとおりであるから、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 堀義次 判事 平野太郎 判事 和田啓一)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛