弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人両名の本件控訴はいづれもこれを棄却する。
     被告人Aの当審における未決勾留日数中一三〇日を同被告人の本刑に算
入する。
     当審における訴訟費用中、証人B、同C、同D、同Eに支給した分は、
被告人両名の負担とし、証人F及び国選弁護人中村武に支給した分は被告人Aの、
国選弁護人森岡庸光に支給した分は被告人Gの負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は末尾添付の被告人両名竝に被告人Aの弁護人中村武提出の控訴
趣意書記載のとおりであるからここにこれを引用する。これに対する当裁判所の判
断は左のとおりである。
 被告人両名の控訴趣意中事実誤認の論旨並に被告人Aの弁護人中村武の控訴趣意
第一点について
 原判決の認定した被告人両名の判示(一)、の詐欺、被告人Aの判示(二)、の
有印私文書偽造同行使詐欺の事実は、それぞれ原判決引用の証拠によりこれを認め
るに足り、記録を精査検討し当審における事実取調の結果に徴しても、原判決の右
各事実の認定が所論のように誤認であることを窺うことができない。すなわち凡そ
旅館に宿泊するときは特に反対の事情の存しない限り宿泊料の支払をすることが一
般慣例であるから旅館に対する宿泊の申込には自ら宿泊料支払の暗黙の意思表示を
包含するものと解するを通例として従つて宿泊者が宿泊料支払に要する所持金もな
く、且つ宿泊料を支払える見込もないのにかかわらず、その事情を告げず人を欺く
意思で単純に旅館に宿泊すれば、その宿泊の行為自体が欺岡行為であると認めるを
相当とするところ原判決が判示(一)、事実認定に引用した証拠によると、昭和二
十八年八月三日当時被告人Aは事業に失敗して借財が嵩み、被告人Gは軽飲食店営
業を休業中で共に資力竝に定職なく、偶々被告人Gが事業上の資金難に陥つた東京
都文京区a町b番地BからB商会B振出の約束手形十四枚金額合計三〇〇万円の割
引斡旋方を依頼されこれを承諾し、被告人Aもこれに協力することになつたのであ
るが、被告人両名はBに多額の負債があり、同人振出の約束手形の支払場所である
株式会社H銀行I支店にはB商会Bの当座取引がないこと等を知悉していて、同人
振出の手形の割引は極めて困難である事情を察知していながら、被告人Aの予て計
画していた鉄類引揚作業の船長に内定していたJから横須賀市で手形割引ができる
かも知れないと聞くや、前同日直ちに被告人両名は相共に横須賀市に赴き宿泊料支
払に要する所持金なく且つ宿泊料を支払える見込なく、その意思がないのにかかわ
らずこれあるように装い同市c町d丁目e番地KことL方に宿泊し、同人をして被
告人両名から宿泊料の支払を受け得るものと誤信させ、同日から被告人Aは同月三
十一日まで、被告人Gは同月二十日まてL方に宿泊滞在し、その間Lをして被告人
Aは代金一八、五六〇円に相当する宿泊飲食をさせ、被告人Gは代金一四、九六〇
円に相当する宿泊飲食をさせ、各その代金の支払をしないで右代金相当額の宿泊飲
食による利得をしたものであることを認めることができるのである。原判決が判示
(一)、として認定する事実もこれと同一事実を認定しているに外ならない。従つ
て被告人両名が前記期間KことL方に宿泊飲食したことは詐欺罪を構成するものと
いわねばならないのであつて、被告人両名が同旅館に宿泊滞左中所論のように手形
割引に奔走していたとしても、該手形の割引が至難であることを察知していたこと
は被告人両名の知悉していたこと前記の通りであるし、現にその後においてもB商
会ことB振出の約束手形は一枚も被告人等の手により割引し得なかつたことは原判
決引用の証拠により認められるのであるから、右所論の事由により被告人両名に宿
泊料を支払える見込があつたものということができないし、被告人両名に宿泊料支
払の意思があつたとする被告人両名の原審公判廷における各供述は原審裁判官がい
ずれも原判決引用の証拠により措信し難いものとして事実認定の証拠に引用しなか
つたものであり、原判決の引用する被告人Gの司法警察員に対する供述調書が所論
のように脅迫又は強要により作成されたものと認めるべき証拠はなく却つて当審証
人Dの当公廷における供述によれば同供述調書は被告人Gが任意にした供述に基い
て作成されたものであることを認めることができる。次に原判決が判示(二)、の
事実認定に引用した証拠によると、被告人Aは偽造した註文書をM株式会社におい
て同会社係員に提出し右註文書が真正な註文書のように誤信させ同会社係員から自
転車合計三十一台の交付を受けこれを騙取したものであることを認めることができ
るのであるから、被告人Aが所論のように右自転車の売込先から代金の支払を受け
これをM株式会社に支払う意思があつたとしても、これにより被告人Aは右自転車
三十一台を騙取した詐欺罪の刑責を免かれることはできないのである。しからば原
判決の事実誤認を主張する論旨はいづれも理由がない。
 被告人Gの控訴趣意中法令違反の論旨について
 記録によると、被告Gの原審弁護人福田庫文司は昭和二十九年十一月四日附証人
尋問請求書(記録第八十六丁)により被告人Gが被告人Aから横須賀で手形割引か
できる、旅費宿泊料は要らないと云われ被告人Aの案内によりKに宿泊した事実を
立証するため、証人J、同O、同L、B商会B振出の約束手形の割引に要する費用
はBの負担の約であつたことを立証するため、証人C、同B、被告人Gが司法警察
員の取調に際し被告人Gに刑事責任がないことを強調しその旨供述調書に記載する
ことを求めていた事実を立証するため証人D、同E、被告人GのKに宿泊した当時
の資産状態を立証するため証人Nの尋問を請求したので、原審裁判官は同年十一月
五日検察官の意見を聴いた上同日同弁護人請求にかかる証人中証人J、同O、同L
を採用し、右三名を同年十一月九日午前十時横浜地方裁判所横須賀支部で尋問する
旨を決定し、右三名を同年十一月九日の原審第二回公判期日において証人として尋
問したか、同弁護人から証人として尋問請求のあつたその余のC、B、D、E、N
の五名については採否の決定をしないで結審したことを認めることが<要旨>できる
のである。このように原審裁判官が弁護人から尋問請求のあつた証人について採否
の決定をしないで結審したことは刑事訴訟規則第一九〇条第一項に違反する
もので、原審の訴訟手続には法令違背があるといわねばならないのであるが、当審
の事実取調における証人B、同Cの当公廷における供述によると、B商会B振出の
約束手形の割引に要する費用はBの負担の約ではなく、割引を斡旋する被告人Gの
負担の約であつたことか認められ、証人D、同Eの当公廷における供述によると、
被告人Gは司法警察職員であるD、E等の取調に際し当初犯行を否認していたがそ
の後司法警察員作成の供述調書の通り任意に供述し、自己に刑事責任がないことを
調書中に記載することを求めたことはなかつたことが認められ、証人Nは当公廷に
おいて昭和二十九年八月Kに宿泊した当時における被告人Gの資産、資力の状況は
確実には知らない旨を供述しているので、これらの証人等の証言に徴すると、被告
人Gの原審弁護人が同証人等によつて立証しようとした事項は原審においてその所
期のように立証され得たものとは認められず、従つて右五名の証人尋問により原判
決の認定した被告人Gの判示(一)、の詐欺の事実が否定されるに至るべきものと
は到底認められないのであるから、原審訴訟手続における右の法令違反は結局判決
に影響を及ぼすものであるとは認められないのである。しからば被告人Gのこの点
の論旨も亦理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 近藤隆蔵 判事 吉田作穂 判事 山岸薫一)

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