弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人杉山朝之進の上告理由第一点について。
 記録に徴するに、所論指摘の点に関する原判決の事実摘示は、上告人の主張の趣
旨に反するものではなく、適切と認められる。そして、原判決の説示によれば、被
上告人Bが無免許で自動車運送事業を経営している旨および同人所有の自動車が公
道(歩道)にはみ出して公衆の通行を妨害している旨の上告人の主張については、
原審は、これらの事実を綜合しても、本件土地賃貸借契約の解除原因にならないと
判断していることが明らかであり、また、被上告人Bによる本件土地の用方違反の
点は、独立の解除原因の主張と認められるから、原審がこれにつき別個に判断して
いるのは、相当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができな
い。
 同第二点について。
 賃貸借の当事者の一方に、その義務に違反し、信頼関係を裏切つて賃貸借関係の
継続を著るしく困難ならしめるような行為があつた場合には、相手方は催告を要せ
ず賃貸借契約を解除することができるが(最高裁昭和二九年(オ)第六四二号同三
一年六月二六日第三小法廷判決・民集一〇巻六号七三〇頁)、ここにいわゆる義務
違反には、必ずしも賃貸借契約(特約を含む。)の要素をなす義務の不履行のみに
限らず、賃貸借契約に基づいて信義則上当事者に要求される義務に反する行為も含
まれるものと解すべきである。
 原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の確定するところはよれ
ば、被上告人Bは、本件借地一九四平方メートルのうち公道に面する九九・二八平
方メートルの空地部分を利用してトラツク置場とし、無免許で自動車運送事業を営
んでいるうえ、そのトラツク三台のうち二台は右置場に完全に格納できず、荷台後
部約一メートルが公道(歩道)にはみ出しているというのであり、そして上告人は、
被上告人Bの右行為は本件賃貸借の使用目的に違反するとともに、右無免許営業は
道路運送法四条一項に違反し、また、トラツクのはみ出しは公衆の通行を妨害し、
これに危険をも与えているので、かかる被上告人Bの行為は土地賃貸借契約上の信
義則に反し、本件賃貸借契約解除の原因となると主張している。しかしながら、右
事実その他原審認定の事情のもとにおいては、被上告人Bが右行為につき行政上の
取締や処罰(道路運送法一二八条)を受けたり社会的に非難されることがあるとし
ても、それがただちに賃貸人である上告人において法律的、社会的な責任を負うべ
き事由となるものでないことはいうまでもなく、しかも、なんらかの理由でこれに
つき上告人に責任が及び、同人が損害や迷惑を被るような特段の事情は、原審の認
定しないところである(とくに原審は、被上告人Bの行為につき歩行者や近隣から
苦情が出たことはないと認定している。)。そして、以上の行為が本件賃貸借の使
用目的に違反しないとした原審の判断は、首肯することができる。それゆえ、被上
告人Bが上告人に対し、本件土地賃貸借契約上の典型的義務はもとより、信義則上
の義務に反する行為をしたとは認められず、上告人の前記主張を排斥した原審の判
断は、結局正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができな
い。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一

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