弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人別府祐六の上告理由第一点について。
 しかし、記録によれば、所論一審判決は、昭和三二年三月一〇日被告(被上告人)
に対し、郵便により適法に送達されていることを看取し得るから、同年三月一九日
に提出された本件控訴状は、法定の控訴期間に提出されたものというべきであり、
従つて、この点に関する所論は採るを得ない。
 なお、記録によれば、上告人の原審訴訟代理人は、昭和三三年一二月二〇日の原
審口頭弁論期日において、「本件控訴は不適法であるとの従前の抗弁は撤回する」
旨陳述したことが明らかであるから、原審が本件控訴の適否について特に判断を示
さなかつたとしても、それはその必要がないとみたからであると考えられ、従つて、
この点に関する判断遺脱の所論は採ることを得ない。
 同第二点及び第四点について。
 しかし、原審は、所論借入金証書のほかに、挙示の各証拠を参酌してこれを綜合
し、昭和二六年一一月中旬頃、訴外D輸出産業株式会社の代表取締役であつた上告
人が、個人として、訴外E産業貿易株式会社に対し、右D輸出が負担する現在及び
将来の原判示取引上の債務につき、一三〇万円を限度として重畳的に債務を引受け
ることを約し、同引受債務を担保するために、上告人所有の本件建物に対し抵当権
を設定することを約するとともに、その際金額一三〇万円の単純な借用証書の形を
とつた所論借入金証書及びその他の原判示書面を授受した旨の事実を認定しており、
右事実認定は、挙示の証拠に照らし首肯し得なくはない。
 所論は、ひつきよう、原審の適法にした証拠判断及び事実認定の非難に帰するか
ら採るを得ない。
 同第三点について。
 しかし、原審は、挙示の証拠により、上告人が前記の如く債務引受及び抵当権設
定をするにつき、E産業と上告人との間に交渉が開始された昭和二六年一〇月二〇
日頃、E産業のD輸出に対する取引上の債権額は一五八方円余であつたこと、昭和
二七年二月二八日右債権は二〇四万八六七二円七七銭となり、この中には、上告人
が前記債務引受及び抵当権設定を約した昭和二六年一一月中旬当時の債権三〇〇万
円余のうち、少なくとも一〇〇万八六七二円七七銭が残存していたこと、及び、E
産業が昭和二七年五月初め、上告人が債務引受をした一三〇万円について、右と同
額の貸金債権ありとして、本件建物の競売手続を申請した旨の事実を認定判示して
いるのであり、右認定判示は挙示の証拠に照らし首肯できなくはない。
 所論は、原判示を正解しないに出ずるものであるから採るを得ない。
 同第五点について。
 しかし、原判示によれば、所論甲六号証覚書は、本件抵当権設定後に作成された
ものであつて、D輸出から所論注文品の納品があれば、当時の取引残高が十分に清
算できるため、そのような(覚書のような)約束がなされたのであるが、納品がな
かつたため本件のような競売手続がなされたものであるというのであり、右事実認
定は、挙示の証拠に照らし首肯し得なくはない。
 所論は、原判示に副わない事実を前提とするものであるから採るを得ない。
 同第六点について。
 しかし、記録によるも、原審が所論証人の尋問にあたり、所論のような尋問制限
を行なつたとみるべき証跡は認められないから、論旨は採るを得ない。同証人の尋
問事項書記載の尋問事項が、同証人の供述事項を上回るが如くみられなくはないが、
それだけでは論旨を裏付けるに足りるとすることはできない。
 もし、真に証人尋問制限の不当があつたとすれば、これに対して異議を申立てて、
その裁判を得べきであつたのに、そのような異議が述べられた事実は、記録上みる
ことができない。
 それゆえ、論旨は採るを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    高   木   常   七
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    斎   藤   朔   郎

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