弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主    文
1 被告A株式会社は,原告Cに対し,228万8150円及びこれに対す
る平成12年4月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
2 原告Cのその余の請求を棄却する。
3 原告Dの請求を棄却する。
4 訴訟費用は,原告Dと被告らとの間においては,同原告に生じた費用全
部と被告らに生じた費用の各2分の1を同原告の負担とし,原告Cと被告
B株式会社との間においては,同原告に生じた費用の2分の1と同被告に
生じたその余の費用を同原告の負担とし,原告Cと被告A株式会社との間
においては,同原告に生じたその余の費用と同被告に生じたその余の費用
を4分し,その1を同被告の負担とし,その余は同原告の負担とする。
5 この判決は,第1項及び第4項について,原告Cの勝訴部分に限り,仮
に執行することができる。
               事実及び理由
第1 原告らの請求
1 被告らは,原告Cに対し,連帯して971万4229円及びこれに対する
平成12年4月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,原告Dに対し,連帯して583万2889円及びこれに対する
平成12年4月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認め
られる事実)
  (1) 当事者
 被告A株式会社は,自動車及びその構成部品,交換部品並びに付属品の
開発,設計,製造,組立,売買,輸出入その他の取引業を目的とする株式
会社であり,自家用普通乗用自動車(デリカ・スペースギア。以下「本件
車両」という。)を製造した製造業者である。
 被告B株式会社は,各種自動車の販売等を目的とする株式会社であり,
本件車両を販売した者である。同被告の全株式は,被告A株式会社がこれ
を保有している。
 原告Cは,後記(2)の事故発生当時,本件車両を運転していた者であ
る。
 原告Dは,原告Cの妻であり,後記(2)の事故発生当時,本件車両の助
手席に同乗していた者である。
  (2) 事故(以下「本件事故」という。)の発生
ア 発生日時  平成12年4月20日午後7時50分ころ
イ 発生場所  北海道山越郡a町字b付近の国道5号線(片側1車線)

ウ 事故車両  原告Cが運転する本件車両
エ 事故態様  原告Cは,函館方面から札幌方面へ向けて本件車両を運
行し,先行車2台を追い越すために加速し,       対向
車線に出て追越しを行ったところ,本件車両のアクセルレバーが全開状態
となる等の異常が発生し       た。その後,本件車両は,安定性
を失いながら減速し,最終的には進行方向と逆向きの形になったとこ  
     ろで,折から対向してきた大型車両と衝突するに至った。
(3) 製造物の欠陥
 本件事故当時,本件車両の噴射ポンプ(エンジンのシリンダー内の燃焼
室に燃料を噴射するためのもの。)のワックスレバー部分が,追越しの際
に破断するなど,当該部品が通常有する安全性を欠いていた。ワックスレ
バーの破断により,燃焼室への燃料噴射量を制御するアクセルレバーがほ
ぼ全開状態となり,エンジンの回転が高回転になるに至った。
(4) 責任原因
 被告A株式会社は,本件車両の製造業者として,製造物責任法3条に基
づき,本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。
2 争点
(1) 過失相殺
(2) 損害額
(3) 被告B株式会社が製造物責任法3条に基づく損害賠償責任を負うか
(同被告が同法2条3項3号に定める実質的な製造業者に当たるか。)。
 3 争点に関する双方の主張
(1) 過失相殺について
(被告らの主張)
 原告Cは,対向車が迫ってきているにもかかわらず,安易に判断して追
越しを始めたものである。衝突前の走行速度ないし走行距離に関する原告
主張や,ワックスレバー破断後のアクセルレバーの開度等を前提に,本件
車両の客観的性能等を踏まえて勘案すると,原告Cが追越しを開始する段
階において,既に本件車両が法定速度をはるかに超えて高速走行(時速約
130キロメートル程度)していた事実が窺われる。また,エンジンが高
回転になったとしても,適切なブレーキ操作及びセレクターレバーの操作
をすれば十分減速できたにもかかわらず,原告Cは,セレクターレバーを
バックに入れる等の不適切な運転操作をしたために,本件車両を制御する
ことができなくなったものである。したがって,相当程度の過失相殺がさ
れるべきである。
(原告らの主張)
 エンジンが高回転にならなければ,十分に先行車両2台を追い越すこと
ができたのであるから,原告Cの追越し行為自体に過失はない。また,高
回転になった後,原告Cは,ブレーキを3,4回踏んだが,全く減速せ
ず,とっさにレバーをニュートラルに入れようとしてバックに入ったとこ
ろ,急激に減速した。エンジン全開後の非常時における運転操作について
責められるべき理由は全くない。
(2) 損害額について
(原告らの主張)
 原告らに生じた個々の損害の項目及び金額等については,判断中(第3
の2項)に適宜記載した。
(被告らの主張)
 不知ないし争う。
(3) 被告B株式会社の製造物責任について
(原告らの主張)
 被告B株式会社は,被告A株式会社の製造する自動車の北海道における
販売を専属的に引き受けており,被告A株式会社の100パーセント子会
社であり,Eという名称において共通し,パンフレット(甲20)におい
て被告B株式会社の名称が大きく記載されている。
 こうした,被告B株式会社における販売形態や製造業者との組織的な関
係,製品に付された表示全体の内容及び態様等に照らせば,同被告は,製
造物責任法2条3項3号に定める「販売に係る形態その他の事情からみ
て,当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表
示をした者」と言うことができる。
(被告B株式会社の主張)
 製造物責任法2条3項3号に該当するためには,販売者と表示していて
も当該表示者が当該製造物の製造者として社会的に認知されている者であ
るとか,製造及び加工等の実情から考えて実質的な製造者を言うものと理
解されている。一般に,自動車の販売会社が全国各地に存在しており,販
売のみを行っていることは周知の事実であるから,社会的に製造者として
認知されているわけではないし,また,製造及び加工等の実情から考えて
も実質的な製造者とは言えない。したがって,被告B株式会社が製造物責
任を負うことはない。
第3 当裁判所の判断
 1 過失相殺について
 証拠(原告ら本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告Cが本件車両を運転
して先行車両2台の追越しをほぼ終了しかけたところで,車両の急加速等の
異変を感じたこと,その後,直ちに,ブレーキ及びアクセルペダルを踏んだ
が,一向に減速しなかったこと,引き続きセレクターレバーをニュートラル
に入れようとしてバックに入ってしまったところ,急激に減速し始めたこ
と,更に蛇行を続け,車両の向きが逆向きになって後方へ進んだところで,
対向車両と衝突したことなどの事実を認めることができる。
 以上の事実関係のほか,関係証拠によっても,原告Cにおいて,法定速度
を大幅に超える速度で追越しを開始したとか,無謀な追越し行為を行ったな
どの事実は認めることができない。確かに,車両性能をもとにした上記被告
らの分析自体については,特に不自然な点は認められないものの,分析の基
礎となっている対向車両運転手の供述内容(乙5。前方100メートル以上
先で,本件車両が追越しをかけているのを見たという供述部分。)について
は,本件車両との距離ないし衝突までの時間的な関係等の面において,原告
ら本人供述によって窺われる上記一連の事実経緯にそぐわない面もあり,直
ちに信用することができないものと言うほかない。
 また,本件事故を惹起した最大の原因は,本件車両のワックスレバーが破
断して,エンジンが高回転を続けるような状態が一定時間持続するなど,異
常事態の発生によることが明らかであると言い得るところ,まさにこうした
非常事態に直面した原告Cにおいて,上記のような運転操作をしたからとい
って,それがとりたてて不適切であったとは言えないし,これが相当程度の
割合で損害の発生に結び付いていることを示す事情というのも特段窺われな
い。
 よって,過失相殺に関する被告らの主張は,理由がない。
 2 損害額について
(1) 原告Cの損害について
ア 代車使用料(原告の請求 78万7500円)      15万円
 本件において認められる諸事情を考慮の上,本件事故と相当因果関係
を有する代車使用料としては,15万円(1日5000円として30日
程度)と認めるのが相当である。
イ 車両代金(原告の請求 151万円)         151万円
 本件車両の全損代金151万円を損害として認める。
ウ 平成12年度自動車税(原告の請求 4万8700円)    0円
 関係証拠を精査しても,本件事故と相当因果関係がある損害とは認め
られない。
エ 自動車廃棄手数料(原告の請求 4万5150円) 4万5150円
 本件車両の廃棄に要した費用4万5150円(甲6)を本件事故と相
当因果関係のある損害として認める。
オ 交通費(原告の請求 1500円)             0円
 関係証拠を精査しても,本件事故と相当因果関係がある損害とは認め
られない。
カ 糊付機(原告の請求 44万6000円)         9万円
 関係証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件車両に積載していた糊付機
が破損した事実を認めることができる。ただし,証拠上,同糊付機の破
損の程度や本件事故当時の時価等は不明であると言わざるを得ないの
で,諸般の事情を総合考慮の上,定価の約2割程度に相当する9万円を
もって,本件事故と相当因果関係のある損害と認めるべきである。
   キ 休業損害(原告の請求 20万3268円)         0円
 関係証拠を精査しても,本件事故と相当因果関係がある損害とは認め
られない。
ク レッカー代(原告の請求 24万円)          24万円
 本件車両のレッカー代24万円(甲9,甲10)を本件事故と相当因
果関係のある損害として認める。
ケ 駐車場代(原告の請求 4万5000円)     4万5000円
 本件車両をレッカー移動後,被告らによる検査までの間に要した駐車
場代4万5000円(甲10)を本件事故と相当因果関係のある損害と
して認める。
コ 慰謝料(原告の請求 500万円)             0円
 原告Cは,本件事故の態様及び程度等に照らし,独立の精神的損害を
被ったと主張しているが,関係証拠を精査しても,以上に記載した各損
害の填補とは別途に独立して精神的損害を認めるに足りる事情は,何ら
窺われないと言うべきである。
サ 弁護士費用(原告の請求 138万7111円) 20万8000円
 本件訴訟の難易度,審理の経過,認容額,その他本件において認めら
れる諸事情を考慮の上,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当
額は,20万8000円と認めるのが相当である。
 以上,原告Cの被った損害額の合計は,228万8150円である。
(2) 原告Dの損害について
ア 慰謝料(原告の請求 500万円)             0円
 原告Dも,原告C同様に慰謝料を請求しているが,これについて理由
がないと認められることは,既に判断したとおりである。
イ 弁護士費用(原告の請求 83万2889円)        0円
 損害が生じているとは認められない。
 3 被告B株式会社の製造物責任について
 原告らが主張する諸事情を勘案しても,本件において,被告B株式会社が
本件車両の実質的な製造業者(製造物責任法2条3項3号)に該当すると認
めるに足りる証拠は,何ら存しないと言うべきである。
 したがって,この点に関する原告らの主張は,理由がない。
第4 結論
 以上のとおり,原告Cの請求は,主文第1項の限度で理由があり,原告D
の請求は理由がないので,主文のとおり判決する。
    札幌地方裁判所民事第3部
    裁判官  佐 伯 恒 治

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛