弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 原判決を取消す。
二 被控訴人らの控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
○ 事実
一 控訴人ら訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴人ら訴訟代理人は「本件
控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。
二 当事者双方の主張は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりで
あり、証拠関係は、原審記録中の書証目録及び証人等目録並びに当審記録中の書証
目録記載のとおりであるから、これを引用する。
1 被控訴人らの追加主張
(一) 仮に本件金員の支出が地方自治法二四二条の二第七項の弁護士の報酬相当
額の支払のためではなく、補償金又は見舞金(町議会では見舞金として支出する旨
議決されている)としてなされたものとしても、補償金は、地方公共団体の適法な
公務の執行により特定の者に財産上の損失を与え又は精神上の損失を与えた場合そ
の損失を償うため必要な経費であるところ、本件金員の実質は訴訟費用及び弁護士
費用を償うものであるから、右補償金には該当しない。
また、見舞金は社会的儀礼の範囲にとどめで初めで有効であり、本件のような実質
は訴訟費用及び弁護士費用に該当するものを見舞金名目で甲田町が支出することは
許されないから、いずれにしても、本件公金の支出は違法である。
(二) 仮に本件金員が和解金として支払われたものとすれば、甲田町が和解をす
るについては地方自治法九六条一項一二号の規定により町議会の議決を要するとこ
ろ、本件金員はその原因たる和解につき町議会の議決を経ることなく支払われたも
のであるから、その支出は違法である。
仮に本件和解金の支出は地方公営企業法に基づく甲田町水道事業特別会計からなさ
れたものであるから、和解をするにつき町議会の議決を要しないとしても(同法四
〇条二項)、甲田町水道事業の管理者たる当時のA町長が本件和解契約を締結する
については書面をもってなすことを要するところ(地方自治法二三四条五項)、右
和解契約は書面をもってなされていないから無効であり、従って無効の契約に基づ
いてなされた本件公金の支出は違法である。
2 被控訴人らの追加主張に対する控訴人らの答弁
(一) (一)は否認する。予算上の名目はともかく、本件金員は和解金として支
出されたものである、。
(二) (二)中本件金員が甲田町と「正す会」との和解に基づいて支出されたこ
とは認めるが、その余は争う。A甲田町長は、甲田町を代表して第三者である「正
す会」と和解をしたところ(地方自治法一四七条)右和解契約に基づく金員の支払
は、普通地方公共団体の事務処理に必要な経費(同法二三二条一項、一四八条一
項)として、又は地方公営企業に必要な経費として、当然に甲田町水道事業特別会
計から支出し、又は甲田町の一般会計から同特別会計に繰り入れることができる
(地方公営企業法一七条の二)ものであるところ、A町長は、昭和五九年第六回甲
田町議会宝例会に四二号甲田町水道会計補正予算案として本公金支出を上程し、本
支出が「終戦処理費」という名の実質的和解金である旨説明し、議会もこれを了解
し右補正予算案を可決したものであるから、本件金員の支出は適法である。
なお、本件公金支出の予算項目は(款)水道事業費用(項)営業費用(目)総係費
(節)補償金となっていたところ、前示のように、和解金であれば正しくは(節)
雑費として支出すべきものとしても、同一目内の流用は差し支えないものと解され
るから、右公金の支出には会計上も何らの違法はない。
また、地方自治法二三四条五項は普通地方公共団体が契約をするすべての場合につ
き契約書の作成を要求している訳ではないから、本件の場合契約書の作成がなくと
も和解契約は有効である。
3 控訴人らの抗弁
(一) 仮に本件金員が地方自治法二四二条の二第七項の弁護士の報酬相当額とし
て支出されたとしても、本件和解により水道料金滞納者一二四名が甲田町に対し合
計五二三万七九〇〇円の水道料金を納入したのであるから、本件裁判外の和解とそ
れに伴う住民訴訟の取下げは、本件金員の支払を受ける住民らが住民訴訟において
実質的に勝訴したと同視し得る事情がある場合に該当するから、本件支出は適法で
ある。
(二) 仮に本件金員の支出が法令に違反する違法な支出であったとしても、本件
支出は甲田町町議会の議決を経て行われているから、A町長には故意又は過失はな
く、従ってA町長は損害賠償責任を負わない。
4 抗弁に対する被控訴人らの答弁
(一) (一)は否認する。地方自治法二四二条の二第七項に基づく報酬額相当額
の支払は、住民訴訟のうち同条一項四号の規定による訴訟の勝訴判決が確定した場
合に限り許されるものであって、住民が住民訴訟において実質的に勝訴をしたと同
視し得る事情がある場合であっても、その支払は許されない。
(二) (二)は争う。
○ 理由
一 (当事者)
請求原因1の事実(当事者の地位)は当事者間に争いがない。
二 (監査請求)
請求原因6の事実(監査請求)は当事者間に争いがない。
三 (甲田町における水道紛争の経緯)
請求原因2、3の(一)、並びに被告らの主張1の(一)及び(二)の各事実(甲
田町水道事業、甲田町水道紛争の経緯の一部)は当事者間に争いがなく、右争いの
ない事実に成立に争いのない甲第一一号証の一ないし西、第一四ないし一八号証、
第三一号証の一、四、乙第一号証、原本の存在及びその成立に争いのない甲第一二
号証の一、二、証人Bの証言により真正に成立したと認められる乙第二、第三号
証、証人B、同Cの証言、被控訴人D本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認
められ、右認定を覆すに足る的確な証拠はない。
1 旧小田村(後に甲立村と合併して甲田町となる。)の尾津谷、正学地域(以
下、「尾津谷地域」という。)の住民においては、古くから同地域の湧水を水源と
して灌漑用水を取水し、余水を生活用水に利用していたところ、芸備線の開通に伴
い吉田口地区の住民が漸次増加したので、その要望に応じ、これらの住民に対して
も右余水を生活用水として利用させていた。
2 尾津谷簡易水道は、昭和三〇年八月、旧小田村の村営水道として発足したが、
その際右水道の水源は尾津谷水系に求められ、旧小田村は、昭和三〇年七月二二
日、尾津谷水系灌漑水利権者との間で右水利権の譲水契約を締結した。以後、甲田
町において尾津谷簡易水道が利用されることとなり、昭和三一年に尾津谷簡易水道
条例が制定、施行された。
3 その後、昭和四九年には甲田町水道事業が発足し、右事業に基づく給水地域は
甲田町のほぼ全域とされ、その水源は尾津谷水系とは別の水系の可愛川に求められ
た。そして甲田町水道事業給水条例が制定、施行され、これに伴い尾津谷簡易水道
条例は廃止されたが、甲田町水道事業給水条例中、附則2但し書において「旧尾津
谷簡易水道管理及び料金徴収については上水道給水開始時まで従前通りこれを行う
ものとする」とされた。
一方、尾津谷地域の水利権者らは、右新条例の制定に伴い、以後は甲田町には甲田
町水道による給水がなされるに至ったことから、従前の尾津谷簡易水道の水利につ
いては前記譲水契約を解除して尾津谷地域の水利権者に返還するように求めて甲田
町との交渉を始め、昭和五〇年三月頃尾津谷地域の住民らと当時の町長Eとの間
で、昭和五一年三月三一日までに(その後の話合いで同年四月三〇日まで返還期限
を延長)これを返還する旨の話合が或立した。
右上水道事業による給水は昭和五一年ころに開始されたが、給水開始後も、吉田口
地区の一部住民は、尾津谷簡易水道に比して甲田町水道によるときは、使用料が高
額であることや水質が落ちること等を理由として、その給水装置の設置を拒み、尾
津谷簡易水道からの受水を主張したため、従前の旧尾津谷簡易水道設備による給水
も事実上継続され、吉田口地区においては甲田町水道管系と簡易水道管系の二系統
の給水が併存するに至った。
そうして、甲田町は、甲田町水道の給水開始後も依然として簡易水道管系から受水
している者については、前示給水条例附則2項但書(同但書は、甲田町水道事業条
例制定後実際に同町が給水を開始する時まで時日を要するところからその間の経過
措置を定めたもので、甲田町が給水を開始し、甲田町水道から受水ができるにも拘
わらずこれをしない者に対する水道の給水ないし料金額を定めることを目的とした
ものではない。)に従い、旧来の廉価な水道料を徴収していたところから、甲田町
水道から給水を受けている者との間に著しく料金較差が生じ、甲田町水道管系利用
者ないし譲水契約の早期解除を主張する水利権者らと依然として尾津谷簡易水道か
らの受水を継続している吉田口地区の一部住民らとの間に対立が生ずるに至った。
4 昭和五三年八月ころ、当時のE町長は、旱魃により尾津谷地域の灌漑用水の不
足が生じたことから、尾津谷簡易水道の水利権者のため、同水道による配水を一時
停止し(前記譲水契約には潅瀧用水優先の趣旨が明記されている。)尾津谷簡易水
道利用者に対しては、これに代わって甲田町水道管系を尾津谷簡易水道管系に直結
して給水した。その後、同町長は水利権者である尾津谷地域等の住民らからの強い
要請を受けたことから、昭和五三年九月一六日、専決処分により前記2記載の譲水
契約を解除して、甲田町の譲水を受ける権利を水利権者に返還した(なお同月一八
日、議会は右専決処分を承認した。)。
しかし、右譲水契約解除処分については、前記吉田口地区住民により結成された
「尾津谷水道既得権を守る会」と称する団体(以下「守る会」という)に属する住
民が反発し、尾津谷簡易水道の給水の停止は、旱魃による一時的な措置であり、旱
魃による緊急事態が解消した以上は尾津谷簡易水道の水源からの配水を再開するべ
きである旨を町に対し強く求めていた。
その間も、甲田町水道管系の直結による尾津谷簡易水道管系への給水は続けられた
が、接続された尾津谷簡易水道管の老朽部分の破損箇所から多量の漏水が生ずるこ
とになった。そこでE町長は、「守る会」に対し、甲田町水道から直接給水管を接
続して受水すろように求めたが、右交渉は進展せず、「守る会」の住民の多くは甲
田町水道の利用を拒否した、,そのため、E町長は、昭和五五年四月二日、漏水に
よる給水事業への支障を避けるために、尾津谷簡易水道系を通じて行う甲田町水道
による給水を停止したところ、右措置に反発した「守る会』住民は、町の許可なく
甲田町水道の支管や同水道利用者の給水管に尾津谷簡易水道の給水管等を接続して
給水を受けるに至った。
更に甲田町が尾津谷水系からの給水を停止し、尾津谷簡易水道の給水管を通じて甲
田町水道の水を給水するようになってからも、右給水を受けている「守る会」の住
民らに対しては、尾津谷簡易水道の給水管には量水器の付設がないため使用水量の
計量ができないこと、右住民らからは正式には甲田町水道の給水申込みがなされて
いないから、法的には甲田町水道事業給水条例に基づく給水とはいえないこと等を
理由に、前示附則但書に基づき従前どおり尾津谷簡易水道としての旧水道料金の賦
課、徴収しか行われなかったため、その他の住民らから、既に尾津谷簡易水道は廃
止されており、同じ甲田町水道の水を利用しているのに水道料金に著しい較差が生
じているのは不公平だとの声が一段と高まった。勝手に甲田町水道の支管や同水道
利用者の給水管に接続して水道を利用している一部「守る会」の住民らに対して甲
田町が見るべき措置を講じようとしなかったことも他の住民らの不満を一層募らせ
た。
5 昭和五五年五月には、E町長にかわりFが町長に就任したが、吉田口地区に
は、尾津谷簡易水道配水管に代わる水道管設備を設置することとし、その経費三五
〇万円を予算に計上してその議決を経た。これは、後述のごとく尾津谷簡易水道の
給水管には量水器が付設されていなかったことから、吉田口地区の「守る会」ら住
民の尾津谷簡易水道設備から新水道管設備への切替えを促進するため、町の費用を
もって新水道管設備の措置をしようというものであったが、吉田口地区には既に甲
田町水道管系の配水管が敷設されていて、吉田口地区の住民で尾津谷簡易水道管系
から甲田町水道管系からの受水に切り替えようとする者は、条例どおり自ら給水工
事費用を負担して既設の配水管に自己の給水装置を取り付ければ足りるのに、甲田
町がその費用を負担するのは不公平であるとして、更にはF町長が右新設備の水源
を明らかにせず、譲水契約は解除されていないから水利権者との話合いさえつけば
再び尾津谷水系から水を引くことがあるかのようなあいまいな言動をしたところか
ら、再び尾津谷地域に水源を求めるものだとして、尾津谷地域の水利権者その他の
住民の反発を招く結果となった。
6 以上の実情に不満を持った尾津谷地域の水利権者らは、Cを代表とする前記
「正す会」を結成し、甲田町に対する水道料金の不払いを開始するとともに、昭和
五八年一月二一日C外一七名が申請人となって甲田町を相手方として旧尾津谷簡易
水道水源取水設備利用による取水の差止、右設備の執行官保管、譲渡・占有移転禁
止を求める仮処分を申請し(被告らの主張記載の「仮処分事件」)、昭和五八年四
月二五日、C外五名が原告となり、甲田町長F及び同町長個人を被告として、旧水
道料金賦課の差止、不平等な水道科金の是正措置を執らないことの違法確認、地方
自治法二四二条の二第一項四号に基づき甲田町水道の漏水等の放置をしたことによ
る損害の賠償を甲田町に代位して求める旨、及び前記吉田口地区の新水道管設備の
工事費予算三五〇万円の支出ないし右工事の施行の差止めを求める旨の訴えを提起
した(請求原因記載の「住民訴訟」)一方、甲田町は、水道料金の支払いを拒んで
いる住民の一部を被告として水道料金の支払いを求める訴えを提起した(請求原因
記載の「水道料金訴訟」)。
また前示仮処分申請に対抗して、吉田口付近の住民であるG外一九名らは、その頃
「正す会」のC外一七名を被告として、尾津谷地域を水源とする湧水利用権の確認
等を求める訴訟(広島地方裁判所昭和五八年(ワ)第五九九号湧水利用権確認等請
求事件)を提起した。
7 こうして、水道問題は甲田町全体を捲き込も問題にまで発展し、新たに町長選
挙に立候補したAは、水道問題の全面的解決を選挙公約として掲げて町民多数の支
持を受け、町長選挙に当選し、昭和五九年六月一七日町長に就任した。
四 (甲田町長と「正す会」との間の和解の成立について)
前記甲第一四号証、第一五号証、乙第二号証、いずれも成立(甲第二八号各証につ
いては原本の存在、成立とも一に争いのない甲第三号証の一ないし三、第六号証、
第一三号証、第二八号証の一ないし三、第三六号証、第三七号証の一、二、第三八
号証ないし第四〇号証、証人B、同C、同Hの各証言並びに弁論の全趣旨を総合す
ると次の事実が認められ右認定を覆すに足る的確な証拠はない。
1 甲田町町長に就任したAは、前記選挙公約に従い前記三認定の甲田町における
水道問題を解決したいとの意向をもち、「正す会」会長のCに対し、甲田町と「正
す会」との間の前記紛争等に関し、話し合いによる解決を申し出、以後Cとの間で
数度話し合いを行ったが、その際、A町長は、甲田町と「正す会」住民との間の訴
訟の双方の取下げ、小田小学校屎尿排水管埋設工事及び町道尾津谷線の拡幅工事へ
の協力方、及び一正す会」住民の未払い水道料金の支払いを要望し、他方、Cは
「正す会」側の条件として、甲田町から「正す会」側に対するいわゆる慰藉料名目
による金員の支弁や、水道料金徴収の不公平の是正、未払い水道料金の善処方を求
めたところ、A町長は「正す会」側に対する町費の支出や右の不公平の是正、不払
い水道料金の処置について「正す会」側の要望に応じる旨を答えた。
同年九月初旬頃、C宅で、町側はA町長と教育次長が「正す会」側はC外三名が出
席のうえ、最終的に、「正す会」側は、(1)前記住民訴訟、仮処分申請を取り下
げる、(2)町が水道料金訴訟を取り下げる代りに速やかに滞納水道料金を町に納
付する。他方甲田町は、(1)前記住民訴訟、水道科金訴訟及び仮処分事件につき
「正す会」住民らが既に負担し、あるいは負担すべき訴訟費用の実費即ち右訴訟に
つき「正す会」住民らの負担に係る弁護士費用相当額全額を町から支出する、
(2)前記水道料金訴訟を取り下げ、「正す会」住民らの納付した水道科金の一部
還付をし、並びに昭和五二年度ないし五七年度の未払水道料金の支払を一部免除す
る旨の合意がなされた。
また、右話合いの際、地権者である「正す会」の住民らの小田小学校屎尿排水管工
事及び尾津谷線の道路拡幅工事への協力についても約束が取り交わされた。
なお、話合いの際、双方から出された条件や合意の内容については、すべて口頭に
より提示ないしは取り交わされたものであって、書面の作成はなされなかった。、
(なお、本件水道問題の発端となった「守る会」の住民らに対する水道料金徴収の
不公平の是正等につき話合いないしは一定の了解がなされたことを認めうる確たる
証拠はないが、前掲甲第一一号証の三(監査通知)によれば、「守る会」の住民ら
も量水器の取付けを始めていることが窺われること、前示のとおり、「正す会」側
も水道料金の一部還付ないし減免を受けたこと、「正す会」は前記住民訴訟を取り
下げる合意をしていること並びに弁論の全趣旨によれば、依然として簡易水道管系
を通じて受水しでいる吉田口地区の「守る会」の住民に対しては、甲田町の行政指
導により順次甲田町水道管系からの受水に切り替えさせて行くことで「正す会」も
了承し、過去の水道料金較差の是正については不問に付す旨の了解が成立したもの
と推認される。一
2 前記住民訴訟は、昭和五九年七月一六日付で「正す会」に属する原告らが訴え
を取下げ、これにA町長及びFが同意したことにより終了し、水道料金訴訟及び仮
処分事件も、そのころ、取下げ及びそれに対する相手方住民らの同意により終了し
た。
右各取下げにより、甲田酊と「正す会」住民との間では、当時係属していた訴訟事
件、仮処分事件はすべて終了することとなった。
3 「正す会」の住民ら一二四名は、甲田町長との前示合意が成立した直後滞納水
道料金合計五二三万七九〇〇円を納付した。
4 その後、小田小学校屎尿排水管工事が着工されたが、その際、「正す会」の住
民が任意に土地を提供するなどしたため、町道を経由する計画の許に予算措置(約
一九七〇万円)を講じていた当初の工事に比して、はるかに低額の費用(約五~六
〇〇万円)で工事が完成した。
5 なお、「正す会」住民らの未払い水道料金の支払いに関しては、前示合意に基
づき昭和五九年九月二〇日、A町長は、甲田町水道事業会計の処理により、未払い
水道料金合計一八二万九二二〇円の支払いを減免し、既に右住民らから支払い済み
の水道料金合計八五万三五〇〇円を還付することとし、同月二五日、右額の金員を
対象者に還付した。
五 (本件公金支出)
請求原因3(三)記載のとおり本件公金の支出がなされた事実は当事者間に争いが
ないところ、右の争いのない事実に前掲甲第三号証の一ないし三、第六号証、第二
八号証の一ないし三、成立に争いのない甲第一号証、第二号証、第四号証、第五号
証、原本の存在及び成立に争いのない甲第二三号証の一ないし四、第二四号証、第
二五号証の一、二、第二六号証、第二七号証、証人B、同H、同Cの各証言、被控
訴人銘分元三本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認めら
れ、右認定を覆するに足る証拠はない。
1 昭和五九年九月一七日、A町長は、前示弁護士費用相当額一七八万七六一〇円
を町費から支出すること並びに前記「正す会」との合意による水道科金の減免及び
還付により不足する水道事業会計の財源を補填すること等を目的として、後記のと
おりの甲田町一般会計補正予算案及び甲田町水道事業補正予算案を議会に提出した
が、右金員支出についてA町長からなされた説明は、次のとおりである。すなわ
ち、まず提案理由として、「水道問題が解決して、その関係する終戦処理費」であ
る旨の説明がなされ、その後、出席議員の質問に対し、右金員は訴訟費用である旨
の答弁がなされた。そして、その後の質疑において、A町長は、「補償費で、この
位の答弁でゆるしていただきたい」、「弁護士から請求書が来ており、別に何でも
ない金ではない」、「議員さんにはつきり申し上げてよいかどうかということは今
悩んでいる」、「町民の金を使わせてもらうので、波紋になるかも知れないので、
終戦処理費位でおさめていただきたい」、「それが条件で水道問題を解決しな。滞
納も整理し、従来のように町に協力していただくということで条件として私がのん
だ」、「補償の意味にはあたらないかも知れず、見舞金にあたるかも知れないが、
色々それが条件で和ぼくした」といった旨の答弁をなし、その際水道事業会計補正
予算のうち、前記予算の「説明」を「訴訟費用補償金」から「見舞金」に訂正し
た。その後、質疑が打ち切られ、右両予算案は賛成多数で可決された。なお、右審
議の休憩中になされた議論においても、反対議員の質問に対するA町長の答弁の趣
旨は、前記金員の支出によって町が当事者である紛争は解決するという意味での終
戦処理費であり、字句が悪ければ訂正する、
というものであった。
2 昭和五九年度甲田町一般会計予算一第三号一案は同日挙手多数により原案通り
可決されたが、右案においては、歳入歳出予算の総額に、歳入歳出それぞれ二七五
三万四〇〇〇円を追加することとされ、うち歳出につき款を衛生費、項を上水道費
として四二八万八〇〇〇円の補正がなされ、右は上水道施設費として甲田町一般会
計から水道特別会計に対して補助金として支出されることとされた。また同日、A
町長は、昭和五九年度甲田町水道事業会計補正予算(第一号)案を提出し、同日こ
れも議会で挙手多数により原案通り可決された。右案においては前記四二八万八〇
〇〇円のうち、三二五万二〇〇〇円は款を水道事業費、項を営業費用として支出さ
れ、そのうち一七八万七六一〇円が、目を総係費、節を補償金、説明を見舞金(当
初は「訴訟費用補償金」として提出されたが、議会での審議中に「見舞金」と訂正
された。)として支出されることとなった。
3 同年九月一九日、A町長は、前記一般会計補正予算に基づき、上水道事業会計
補助金として前記四二八万八〇〇〇円の支出を命じ、当時収入役であった境章造よ
り、水道事業会計出納員Iの口座に右金額が振り込まれた。
4 同年九月二〇日、町長として甲田町水道事業の管理者の地位を兼ねるA町長
(甲田町水道事業において町長が管理者の権限を行うものとされることは請求原因
2のとおりであって、当事者間に争いがない。)は、「正す会」会長Cに対し、甲
田町水道事業会計から、前記一七八万七六一〇円を、款を水道事業費、項を営業費
用、目を総係費、節を補償金、摘要を見舞金として、同額の小切手を振り出し、
「正す会」において、これを受領した、。
5 右の一七八万七六一〇円は、「正す会」の住民が前記仮処分事件、水道科金訴
訟及び住民訴詮の代理人であった加藤公敏弁護士に対して負担し、あるいは負担す
べきいわゆる弁護士費用を含む訴訟費用(仮処分事件の費用が計五一万三六五〇
円、水道料金訴訟の費用が計五一万円、住民訴訟の費用が計七六万三九六〇円。但
し右公金支出当時すでに支払い済みのものを含む)の合計額に相当するものであ
り、右の金員は右公金支出の後に「正す会」を通じて同弁護士に対して前記費用の
うち未払い分が支払われ、あるいはすでに支払い済みの費用相当分は「正す会」が
補填をうけたものとして、これを取得した。
被控訴人らが、違法な公金支出として本訴で争っているのは、前記4の一七八万七
六一〇円の公金支出のうち、右の住民訴訟費用七六万三九六〇円に相当する金員の
支出(請求原因記載の「本件公金支出」、その内訳は着手金五〇万円、印紙代等一
万三九〇〇円、報酬二五万円で右着手金は当時「正す会」において支払い済みであ
った)である。
六 (本件公金支出の違法性の有無について)
被控訴人らは、本件公金支出は、「正す会」の住民が提起した前記住民訴訟は取下
げにより終了したにすぎず、住民が勝訴したものではないにもかかわらず、「正す
会一側が支払うべき訴訟費用を甲田町が負担するものとして、その支出がなされた
ものであるから、地方自治法二四二条の二第七項の規定に反する違法なものと主張
し、控訴人らは、同規定は地方公共団体が紛争解決の手段として住民に対して訴訟
費用相当額を支出することまでも禁止したものではなく、本件公金支出は、甲田町
における水道問題を解決するために「正す会」との間でなした和解の一条件として
「正す会」に対する補償金(見舞金)として、その支出がなされたものであるとこ
ろ、甲田町町長が町長として、また町の実施する水道事業の管理者の権限を行う者
として、その水道事業の円滑な遂行その他町政全般の円滑な遂行を図るため、「正
す会」住民らとの間に和解契約を締結することは、地方自治法、地方会営企業法そ
の他の法規によって当然許されるところであるから、本件公金の支出は当然有効で
ある旨主張するので、以下検討する。
1 前認定の事実経過並びに弁論の全趣旨によれば、甲田町とその住民との間の水
道問題をめぐる軌轢は、遂に住民による住民訴訟の提起と水道料金の不払運動並び
にこれに.対抗しての甲田町の水道料金訴訟にまで発展し、甲田町において手を洪
いたまま事態が推移すれば、その水道事業の運営に重大な支障を来たすばかりか、
町行政全般にわたってさまざまの弊害をもたらす虞があるような重大な段階に差し
かかっていたごとが認められるが、町政全般の執行責任者であり、甲田町の経営す
る水道事業の管理者の権限を行う者としてその経営にも責任を負うべきA町長とし
ては、地方自治法その他の法令により与えられた権限を最大限に行使して、かかる
事態の打開を図り、円滑な町政の実現と水道事業の正常な運営の回復をすべき責務
があったといわなければならない。
そこでA町長は、甲田町における右水道問題を解決するため、「正す会」との話合
により、前認定のとおり昭和五九年九月一七日、同会との間で、「正す会」側は、
(1)記住民訴訟、仮処分申請を取り下げる、(2)町が水道料金訴訟を取り下げ
る代りに「正す会」側は速やかに滞納水道料金を町に納付する、甲田町側は、
(1)前記住民訴訟、水道料金訴訟及び仮処分事件につき「正す会」住民らの負担
に係る訴訟費用中弁護士費用相当額の金員を町から支出する、(2)前記水道料金
訴訟を取り下げ、「正す会」ら住民の既払水道科金及び未払水道料金の一部の還付
ないし免除をする旨の合意を成立させたものであるが、前認定の右合意成立の経緯
並びに右合意の内容に鑑みれば、右合意は民法六九五条に規定する和解契約ないし
は和解類似の契約であると解するのが相当である。
而して前記住民訴訟の如き行政事件訴訟において、訴訟物たる権利ないし法律関係
については、訴訟上の和解はもとより、私法上の和解をもすることができないこと
は言うまでもないが、訴訟物以外の点につき私法上の和解をなした上、訴訟外で当
該行政事件訴訟の取下げの合意をすることはもとより可能であり、また前示甲田町
水道事業給水条例三七条の規定によれば「管理者は、公益上その他特別の理由があ
ると認めるときは、この条例によって納付しなければならない料金、メーター使用
科、手数料その他の費用を軽減又は免除することができる」とされているから、A
町長が右規定を根拠にして水道料の減免措置をとることは法律上も可能であるとこ
ろ、前認定の水道紛争の経過に鑑みれば、甲田町の水道行政の非を鳴らして住民訴
訟を提起し、水道料金の不払運動をしている「正す会」住民らの行動には誠に無理
からぬものがあり、その言分にも聞くべき点が十分あったのであるから、これら住
民の協力を取り付けて住民訴訟を取り下げさせ、水道料金の不払運動をやめさせて
滞納料金を納付させ、甲田町の水道事業ひいては町政を正常化するために、右訴え
取下げ等の代償として右住民らが要求する訴訟費用のうちの弁護士費用相当額の支
払あるいは「守る会」の住民らに対する旧水道料金の賦課の差止、不平等な水道料
金の是正請求の代りに「正す会」住民らの水道料金の一部の減免措置等を講ずるこ
とはけだしやむを得ない措置というべく、従ってA町長が、本件水道紛争解決のた
め、「正す会」住民らの負担に係る弁護士費用を町費から支出し、あるいは水道料
の減免措置を講ずることを内容とする前示和解契約を締結することは、地方自治法
その他の法規に適う行為であり、かつ、町行政ないし水道事業の執行者である町長
の行政裁量の範囲内の行為であって、何ら違法の点はないものといわなければなら
ない。
2 被控訴人らは、本件公金支出は地方自治法二四二条の二第七項の弁護士の報酬
費用として支出されたものである旨主張し、なるほど前記の各事実によると、本件
公金支出を含む前記一七八万七六一〇円の支出は、前記認定のA町長と「正す会」
との話合いの際に、「正す会」側から、「正す会」が負担し、あるいは負担すべき
前記の各訴訟における弁護士報酬を含も訴訟費用については、甲田町において、そ
の支弁方を図って欲しい旨の申し入れがなされたのに対し、A町長において、水道
問題をめぐる町を当事者とする住民との間の訴設の係属を解消する目的のために、
これを受け容れて、その支出を承諾し、甲田町町長及び水道事業の管理者として、
前記認定の予算措置を講じて、「見舞金(訴訟費用補償金)」として「正す会」に
対し、これを支出したものであり、かつ、前記認定のとおり、本件公金支出にかか
る七六万三九六〇円は、前記住民訴訟における「正す会」側の訴訟代理人であった
前記弁護士に支払った着手金、同弁護士に支払うべきいわゆる成功報酬及び印紙代
にあたる金員に相当する額であり、「正す会」は、右の支出を受けた後に未払いの
成功報酬及び印紙代を支払い、かつ既払いの着手金相当分を取得したものであるか
ら、本件公金の支出は、「正す会」が前記住民訴訟を委任した弁護士に対し支払う
べき報酬等を甲田町において負担し、これを支弁するためになされたもの、即ち本
件公金の支出は地方自治法二四二条の二第七項に規定する報酬として支出されたも
のの如くである。
しかし、前認定のとおり、A甲田町長と「正す会」との和合において、水道問題を
めぐる住民と甲田町との紛争を円満に解決するためになした和解の一内容として、
結局「正す会」側が住民訴訟等を取り下げる代償として右住民訴訟ほか二件の訴訟
等に係る訴訟費用のうち住民らが弁護士等に支払うべき手数料、報酬及び印紙代相
当額を和解金として甲田町が支払うことになったことから、本件公金の支出がなさ
れたものであるから、本件公金の支出は地方自治法二四二条の二第七項に規定する
弁護士報酬相当額として支出されたものである旨の被控訴人らの主張は採用できな
い。
もっとも、地方自治法二四二条の二第七項の規定によれば同項に規定する住民訴訟
を提起した住民らは、その勝訴判決が確定した場合に限り弁護士の報酬相当額の支
払を当該普通地方公共団体に対し請求することができるとされており、本件住民訴
訟は訴えの取下げにより終了したものであるから、本件が右条項に基づいて支出し
得る場合に該らないことは明らかであるところ、本件公金の支出が右規定を潜脱す
る趣旨でなされたものとすれば、本件公金の支出は正に違法であるといわざるを得
ないことになるが、前示の如く、住民訴詮の場合であっても訴訟外で訴訟物以外の
点について私法上の和解をすることはもとより可能であり、前認定の和解の経緯に
よれば、本件住民訴訟を収り下げさせるため「正す会」住民らの負担に係る弁護士
費用相当額を甲田町が支払う旨の合意をすることはやむを得ない措置というべく、
住民訴訟の取下げとそれに伴う水道料金不払運動の取りやめとは、甲田町にとって
水道紛争を円満に解決し、水道事業の正常な運営の回復のための不可欠の事項であ
ることに照らせば、本件和解に基づく公金の支出が、前記地方自治法の規定を潜脱
する目的でなされたものとは到底認められない。
また、前認定のとおり、本件公金の支出をするための前示昭和五九年度甲田町水道
事業会計補正予算においては、「補償金」として計上されていることが認められる
ところ、本件公金の性質は、補償金や見舞金ではなく正に和解金であるが、同一目
内の予算の流用は差し支えないものと解されるから、予算上補償金として計上され
た金員を和解金として支出しても何ら違法な点はない。
3 被控訴人らは、本件金員の支出が和解金としての支出であるとすれば、その支
出の原因となる和解について甲田町町議会の議決を要するところ、A町長は、本和
解につき町議会の議決を得ていない旨主張する。
しかし、前認定のとおり本和解は甲田町の水道事業に係る和解であるところ、地方
公営企業法四〇条は、地方公営企業については、条例で定める場合を除き、その和
解について議会の議決を要しないものとしているのであるが、甲田町の条例に同町
の経営する水道事業に係る和解についても町議会の議決を要する旨の規定があると
は認められないから、被控訴人らの右主張は採用できない。
4 被控訴人らは、地方公共団体の締結する和解契約については書面によってなす
ことを要する旨主張し、本件和解が書面によってなされたものでないことは前認定
のとおりであるが、地方公共団体のする契約の締結につき契約書の作成を要する旨
の規定は存しないから、被控訴人らの右主張は理由がない。
七 (結論)
以上の次第で、本件公金支出は、地方自治法二四二条の二第七項の規定に反する違
法の支出である旨の被控訴人らの主張は理由がないから、これを前提とする被控訴
人らの本件請求はその余の点について判断するまでもなく失当として棄却すべきと
ころ、これと異る判断のもとに被控訴人らの請求を認容した原判決は相当でないか
ら、これを取り消して被控訴人らの控訴人らに対する請求をいずれも棄却すること
とし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条、九
三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 篠  清 宇佐見隆男 難波孝一)
(原裁判等の表示)
○ 主文
一 被告Jは、広島県高田郡甲田町に対し、金三八万一九八〇円、被告K及び被告
Lは、同町に対し、各自金一九万〇九九〇円及び右各金員に対する昭和五九年九月
二一日から支払い済みまで年五分の割合による各金員をそれぞれ支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
l原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 (当事者の地位)
原告らは、いずれも広島県高田郡甲田町(以下「甲田町」という)の住民であり、
亡Aは、昭和五九年六月一七日から同六一年ころまでの間同町町長の職にあった者
である。亡Aは、昭和六一年一〇月三一日死亡し、被告らは、いずれも相続により
同人の地位を共同して承継した。
2 (甲田町水道事業)
甲田町では、地方公営企業法に基づき水道事業を行い、その経理は甲田町水道事業
会計として、特別会計を設けて行っているものであるが、右水道事業においては、
甲田町水道事業の設置等に関する条例(昭和四九年三月二三日条例第二三号一第三
条により管理者を置かないものとすると定められているものであって、同町水道事
業の管理者の権限は、町長であるA町長が行うものである。
3 (本件公金の支出等)
(一) 甲田町水道事業は昭和四九年に発足したものであるが、従来同町内では尾
津谷簡易水道が利用されていたところから、昭和五三年ころより甲田町と同町内の
一部住民との間で、両水道の取水・給水等をめぐって紛争が生ヒ、尾津谷簡易水道
の水源地域に水利権を有すると主張する住民らが、「甲田町政を正す会」と称する
団体(代表者C、以下「正す会」という)を結成したうえ、昭和五八年四月二五
日、当時の甲田町町長F及び同町長個人を被告として、旧水道料金賦課の差止等と
地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき甲田町水道の漏水等を放置したことに
よる損害の賠償を甲田町に代位して求める住民訴訟(広島地方裁判所昭和五八年
(行ウ)第三号旧水道料金賦課差止等請求事件、以下これを「住民訴訟」という)
等を提起した。
(二) その後、右訴訟は、F町長に代わって就任したA町長のもとで、昭和五九
年七月一六日「正す会」に属する原告らが訴えを取下げ、A町長及びFがこれに同
意したことにより終了した。
(三) 右訴訟の終了に伴い、「正す会」では、訴訟代理人として訴訟の提起、追
行を委任していた弁護士に対し、着手金及び報酬笠として金七六万三九六〇円を支
払うものであったところ、A町長は、同町町長として、同年九月二〇日、甲田町水
道事業会計から見舞金ないし補償金の名目のもとに「正す会」が負担すべき右弁護
士報酬等の支払いに充てさせるために、右と同額の金員を支出して、「正す会」に
支払った(以下「本件会金支出」という。なお、右七六万三九六〇円は、「正す
会」から同弁護士に対し、着手金ないし報酬として、支払われた)。
4 (本件公金支出の違法性)
(一) 「正す会」所属の住民らが提起した前記住民訴訟は、前記のとおり取下げ
により終了したものであって、住民訴訟の原告が勝訴し、しかもその判決が確定し
たものではないから、地方自治法二四二条の二第七項の規定によっても、地方公共
団体たる甲田町が右の弁護士報酬等を支払うべき場合に該当しないことは明らかで
あって、甲田町においてこれを負担すべきなんらの理由もないものである。にもか
かわらず、本件公金支出は、本来「正す会」が負担、支払うべき右の弁護士報酬等
を同会に代わって負担すべく、「正す会」に対し、その支出がなされたものである
から、同規定に違反する違法な公金の支出である。
(二) なお付言するに、本件公金支出にかかる金員の性質を見舞金、補償金ない
し賠償金などに該当するとして、その支出を適法と解することはできない。
地方公共団体の支出する見舞金とは、支出根拠が必ずしも明確ではないものの、通
常、災害等に遇った住民を見舞う目的で支出される社会的通念上儀礼の範囲を超え
ない低額な金員をいうものであり、また補償金とは、地方公共団体の適法な公務の
執行により特定の者に財産上または精神上の損害を与えた場合にその損害を償うた
めに支出する金員であり、賠償金とは、右公務の執行にあたって違法な行為により
他人の権利または利益を侵害した場合にその与えた損害を補填するために支出する
金員であり、さらに補助金は、「公益上必要がある場合にわいて(地方自治法二三
二条の二)」、各種の行政上の目的から支出することができる金員とされているも
のであって、いずれも右のそれぞれの場合において所定の手続きを経てその支出が
許されるものである。しかし、前記のような本件公金支出の目的、その支出先、そ
の額、その支出の経緯(なお「正す会」自体はなんら損失あるいは損害を被ったも
のではない)からすれば、本件公金支出が、以上のいずれにも該当しないことはい
うまでもない。
5 (A町長の賠償責任)
しかるにA町長は、前記のとおり甲田町長の職にあるものとして、故意または過失
により違法な本件公金支出をなし、甲田町に同額の損害を被むらしめなものである
から、甲田町に対し、前記損害金七六万三九六〇円の賠償とこれに対する右金員支
出の日の翌日である昭和五九年九月二一日から支払い済みまで民法所定の年五分の
割合による遅延損害金を支払うべき責任がある。
6 (監査請求)
本件原告らを含む五〇名の甲田町町民は、昭和六〇年九月一二日甲田町監査委員に
対し、本件公金支出について、地方自治法二四二条一項に基づき監査請求を行った
が、同委員は、同年一一月五日本件公金支出には違法性は認められず、監査請求は
理由がない旨の監査結果を下した。
7 一結語〕
よって、原告らは、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、A町長の行った
本件公金支出によって、甲田町が被った前記損害について、甲田町に代位しで、A
町長の死亡により同人の地位を法定相続分に従い共同して承継した被告らに対し、
請求の趣旨記載の各金員を甲田町に対してそれぞれ支払うべきことを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2、3(一)、(二)の各事実はいずれも認める。同3の(三)
記載の事実のうち、A町長が、同記載の日時、甲田町水道事業会計から七六万三九
六〇円を支出し、「正す会」に支払ったことは認める。
2 同4及び5の主張は争う。
3 同6の事実は認める。
三 被告らの主張
1 本件公金支出の経緯に次のとおりである。
(一) 前記甲田町水道事業により昭和四九年から設けられた上下水道(以下「甲
田町水道」という)は、従来利用されていた尾津谷簡易水道の水源及び取水給水設
備等とは別個に新設されたものであって、これによって、同町内では甲田町水道系
と尾津谷簡易水道系の二系統の水道が併存することとなった。
ところで、昭和五三年八月ころ旱魃による灌漑用水の不足が生じたこと等から、当
時のE町長は、尾津谷簡易水道の水源地域の水利権者のために、同水道系の水源か
らの取水を停止したうえ、甲田町水道の給水管を尾津谷簡易水道系の給水管に接続
するなどして、それまで尾津谷簡易水道を利用しできた住民に対しても甲田町水道
によって給水することとし、甲田町は、前記の水利権者に対し、甲田町が前記水源
から譲水を受ける権利を返還したが、これに反対する一部住民らが甲田町水道の利
用を拒否したため、同町長は、甲田町水道系から尾津谷簡易水道系に対する給水を
も停止したところ、さらに右住民らは甲田町水道の給水管に右尾津谷簡易水道の給
水管を直結して無断で受水する所為に及んだ、,
(二) そして、昭和五五年五月からE町長に代わって同町町長に就任したF町長
は、前記両水道とは別個にさらに新たな給水管設備を設置したが、前記の住民らの
受水行為を黙認し、しかも尾津谷簡易水道の給水管を通じて甲田町水道の給水を受
けている右住民らに対しては尾津谷簡易水道としての旧水道料金を賦課するにとど
め、甲田町水道系の利用者との間の料金格差を残置した、、このような状況のもと
において、尾津谷簡易水道系の水源地域の水利権者ら(その多くが前記「正す会」
に所属している者である)は、甲田町の前記のごとき水道事業行政に不公平感を募
らせ、昭和五八年一月二一日前記C外一七名が申請人となって、甲田町を相手方と
して旧尾津谷簡易水道水源取水設備利用による取水の差止等を求める仮処分を申請
したうえ(広島地方裁判所三次支部昭和五八年(ヨ)第一号仮処分申請事件、以下
「仮処分事件一という)、甲田町に対して水道料金の不払いを開始したため、同町
も、右料金不払いの住民の一部を被告として水道料金の支払いを求める訴えを提起
し(広島地方裁判所昭和五八年(ワ)第七六〇号事件、以下「水道料金訴訟一とい
う)、さらに「正す会」所属の住民らのうちC外五名は、水道料金格差の是正等を
求めて、F町長及び同町長個人を被告として前記住民訴訟を提起するに至った。
(三) 昭和五九年六月、F町長に代わって就任したがA町長は、広島県内に広く
知れ渡った前記甲田町の水道紛争問題と右紛争に起因する同町内における他の水道
事業問題を解決し、町政の混乱を解消するため、就任当初から「正す会」所属の住
民らと必死の交渉を続けたが、紛争の経過や町政の状況等を総合的に判断したう
え、「正す会」との間で要旨次のとおりの合意(和解)を成立させた。
(1) 甲田町が提起している水道料金訴訟並びに「正す会」所属の住民が提起し
でいる仮処分事件及び前記住民訴訟は、それぞれ訴えもしくは申請を取下げる。
(2) 甲田町は、「正す会」に対し金一七八万七六一〇円(なおこのうちに、本
件公金支出にかかる七六万三九六〇円を含も一を支払う。
(3) 水道料金滞納者は、甲田町に対し滞納水道料金を支払う。
(4) 「正す会」は、甲田町の行う小田小学校屎尿配水管埋設工事や町道尾津谷
線拡幅工事につき協力する、、
(四) 右合意成立の結果、住民訴訟は、前記のとおり昭和五九年七月一六日「正
す会」所属の住民らが訴えを取下げ、また仮処分事件及び水道料金訴訟も同様にい
ずれも取下げによって終了したほか、水道料金滞納者一二四名が甲田町に対し合計
五二三万七九〇〇円の水道料金を納入し、さらに「正す会」所属の住民らの協力に
より、小学校屎尿排水管埋設工事及び町道拡幅工事は早期に施行完了し得たもので
あり、特に前者については年間九二万四〇〇〇円の屎尿汲取料の支出が不要となっ
たうえ、当初予算においてその工事費用は一九七〇万余円と予定されていたが、わ
ずか四五〇万円の費用で工事を完了し得たものであり、前記合意が成立したことか
ら、甲田町にとって多大の予算節減の利益をもたらすこととなったものである。
(五) 他方、甲田町は、前記合意に従い、原告ら主張の本件公金支出にかかる金
員を含む金一七八万七六一〇円を、甲田町水道事業会計から補償金(見舞金)とし
て支出して「正す会」に対し支払ったが、その支出に際しては甲田町議会による議
決を経ているものであるうえ、右金員は、すべて、前記紛争の解決にあたり、甲田
町の当時までの前記行政上の失策によって「正す会」所属の尾津谷簡易水道系の水
源地域の水利権者に対し与えてきた財産上及び精神上の損害を填補するために、そ
れを支払うこととなったものであるから、その実質からしても和解金の性質を有す
る補償金(見舞金)である。
2 以上のとおり、前記合意成立の経緯や本件公金支出の趣旨、殊にその当時あら
ゆる町政運営の支障となっていた前記の紛争を解決するためには他に取り得る施策
がなく、しかも、右合意によってその後の町政の円滑な運営が可能となった等の事
情を総合すれば、A町長の行った本件公金支出は、実質的には甲田町に対し何ら損
害を与えていないものであるのみならず、むしろ甲田町に利益をもたらしているも
のであって、およそ違法性を有するものではない。
原告らが本件公金の支出を違法と主張する根拠とする地方自治法第二四二条の二第
七項は、同法第一項四号のいわゆる代位請求訴訟を提起した者が勝訴した場合に、
いわゆる公平の理念から勝訴した住民に対して相当と認める弁護士報酬を「請求
権」「権利」として認めた規定であって、右規定はその紛争の渦中にあってその紛
争の経過、状況等を総合的に判断して、地方自治体が住民に対してその紛争解決の
条件として、住民が要した費用を支出することまでも違法として、これを禁止した
ものではなく、それは、その紛争の解決の方式が和解であるか、あるいは訴えの取
下げによるものか、またそれが弁護士報酬相当額あるいは訴訟費用相当額であるか
は、全く影響するところがないといわなければならない。
四 被告らの主張に対する認否
1 被告らの主張のうち、同1の(一)及びこの事実はいずれも認める。同(三)
の事実のうち、甲田町において前記水道紛争問題の解決が町行政上の一課題であっ
たことは争わないが、甲田町と「正す会」との間に、被告ら主張のごとく和解が成
立したことは否認する、A町長が「正す会」との間で行った交渉や合意内容はすべ
て知らない。同(四)事実のうち、前記住民訴訟のほか仮処分事件や水道料金訴訟
がいずれも取下げによって終了したことは認めるが、その余の事実は知らない。同
五の事実のうち、A町長によって甲田町水道事業会計から「正す会」に対し本件公
金支出にかかる金員を含む合計金一七八万七六一〇円が支出されたこと及び右支出
に関し甲田町議会の議決がなされていることは認めるが、その余の事実は否記す
る。
なお、前記金員のうち本件公金支出にかかる金員を除くその余の金員も、「正す
会」においで前記仮処分事件及び水道料金訴訟の訴訟代理人であった前記弁護士に
対して支払うべき各着手金や報酬等につき、本件公金支出と同様にして、甲田町が
「正す会」に代わってこれを負担すべく同会に対し、その支出がなされたものであ
る。また違法な公金支出は、議会の議決を経たことによって適法になるものでない
ことはいうまでもない。
2 同2の主張はすベて争う。
一 (当事者)
請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 (監査請求)
請求原因6の事実は当事者間に争いがない。
三 (本件公金支出に至る経緯)
請求原因2、3の(一)、並びに被告らの反論1の(一)及び(二)の各事実は当
事者間に争いがなく、右争いない事実に成立に争いのない甲第一一号証の一ないし
四、第一三ないし一八号証、第三一号証の一、四、乙第一号証、原本の存在及びそ
の成立に争いのない甲第一二号証の一、二、証人Bの証言により真正に成立したと
認められる乙第二、第三号証並びに証人Bの証言及び原告D本人尋問の結果を総合
すると、次の事実が認められ、右認定を覆す証拠はない。
1 甲田町においては、尾津谷簡易水道の水源のある尾津谷・正学地域(以下「尾
津谷地域」という)の尾津谷水系灌漑水利権者と、従前尾津谷簡易水道より給水を
受けていた吉田口地区の住民との間において、従来より尾津谷水系の水利権の帰属
に関連する紛争が存在していた。その紛争の経緯の概要は以下のとおりである。す
なわち、
2 尾津谷簡易水道は、昭和三〇年八月、旧小田村の村営水道として発足したが、
その際右水道の水源は尾津谷水系に求められ、陪小田村は、昭和三C年七月平石、
尾津谷水系灌漑水利権者との間で右水利権の譲水契約を締結した。以後、甲田町に
おいて尾津谷簡易水道が利用されることとなり、昭和三一年に尾津谷簡易水道条例
が制定、施行された。
3 その後、昭和四九年には甲田町水道事業が発足し、右事業に基づく給水地域は
甲田町のほぼ全域とされ、その水源は尾津谷水系とは別に求められた。そして甲田
町水道事業給水条例が制定、施行され、これに伴い尾津谷簡易水道条例は廃止され
たが、甲田町水道事業給水条例中、附則2但し書において「旧尾津谷簡易水道管理
及び料金徴収については上水道給水開始時まで従前通りこれを行うものとする」と
された。
一方、尾津谷地域の水利権者らは、右新条例の制定に伴い、以後は甲田町には甲田
町水道による給水がなされるに至ったことから、従前の尾津谷簡易水道の水利につ
いては前記譲水契約を解除して尾津谷地域の水利権者に返還するように求めて町に
対する交渉を始め、他方では、尾津谷水系を水源とする水を生活用水として利用す
る権利を有すると主張する吉田口付近の住民との対立が深まった。
右上水道事業による給水は昭和五一年ころに開始されたが、給水開始後も、吉田口
地区の一部住民は、尾津谷簡易水道に比して甲田町水道によるときは、使用料が高
額であることや水質が落ちること等を理由として、その給水措置の設置を拒み、尾
津谷簡易水道からの受水を主張したため、従前の旧尾津谷簡易水道設備による給水
も事実上継続され、吉田口地区においでは甲田町水道管系と簡易水道管系の二系統
の給水が併存するに至った。
4 昭和五三年八月ころ、当時のE町長は、旱魃により尾津谷地域の灌漑用水の不
足が生じたことから、尾津谷簡易水道の水利権者のため、同水道による配水を一時
停止し、尾津谷簡易水道利用者に対しては、これに代わって甲田町水道管系を尾津
谷簡易水道管系に直結して給水した。その後、同町長は尾津谷地域等の住民らから
の強い要請を受けたことから、昭和五三年九月一六日、専決処分により前記2記載
の譲本契約を解除して、甲田町の譲水を受ける権利を水利権者に返還した(なお同
月一八日、議会は右結処分を承認した)。
しかし、右譲水契約解除処分については、前記吉田口地区住民により結成された
「尾津谷水道既得権を守る会」と称する団体(以下「守る会」という)に属する住
民が反発し、尾津谷簡易水道の給水の停止は、日旱魃による一時的な措置であり、
旱魃による緊急事態が解消した以上は尾津谷簡易水道の水源からの配水を再開する
べきである旨を町に対し強く求めていた。
その間も、甲田町水道管系の直結による尾津谷簡易水道管系への給水は続けられた
が、接続された尾津谷簡易水道管の老朽部分の破損箇所から多量の漏水が生ずるこ
とになった。そこでE町長は、「守る会」に対し、甲田町水道から直接給水管を接
続して受水するように求めたが、右交渉は進展せず、「守る会」の住民の多くは甲
田町水道の利用を拒否した。そのため、E町長は、昭和五五年四月二日、漏水によ
る給水事業への支障を避けるために、尾津谷簡易水道系を通して行う甲田町水道に
よる給水を停止したところ、右措置に反発した「守る会」住民は、町に許可なく甲
田町水道の支管や同水道利用者の給水管に尾津谷簡易水道の給水管等を接続して給
水を受けるに至った。
5 昭和五五年五月には、E町長にかわりFが町長に就任したが、吉田口地区に
は、尾津谷簡易水道配水管に代わる水道管設備を設置することとし、その経費三五
〇万円を予算に計上してその議決を経た。これは、後述のごとく尾津谷簡易水道の
給水管には量水器が付設されていなかったことから、新水道管設備による給水に代
えることにより、前記の旧給水管によって給水を受けている者も使用水量の計量を
可能とすることを一目的としたものではあったが、右新設備の水源を未確定のまま
にしたために、尾津谷地域の水利権者からは、尾津谷地域に水源を求めるものだと
して反発を招いた。
また、尾津谷簡易水道の給水管を通じて甲田町水道の給水を受けている「守る会」
の住民らに対しては、尾津谷簡易水道の給水管には量水器の付設がないため使用水
量の計算ができないこと、及び、正式には甲田町水道の給水申込がなされていない
等の理由から、前記甲田町水道事業給水条例の附則規定に基づき、従前どおり尾津
谷簡易水道としての旧水道料金の賦課・徴収しか行われなかったため、甲田町水道
の利用者に比して、水道料金が低額になるという格差が残されたままになってい
た。
6 以上の実情に不満を持った尾津谷地域の水利権者らは、Cを代表とする前記
「正す会」を結成し、甲田町に対する水道料金の不払いを開始するとともに、昭和
五八年一月二一日C外一七名が申請人となって甲田町を相手方として旧尾津谷簡易
水道水源取水設備利用による取水の差止、右設備の執行官保管、譲渡・占有移転禁
止を求める仮処分を申請し(被告らの主張記載の「仮処分事件」)、昭和五八年四
月二五日、C外五名が原告となり、甲田町長F及び同町長個人を被告として、旧水
道料金賦課の差止、不平等な水道料金の是正措置を執らないことの違法確認、地方
自治法二四二条の二第一項四号に基づき甲田町水道の漏水等を放置したことによる
損害の賠償を甲田町に代位して求める旨、及び前記吉田口地区の新水道管設備の工
事費予算玉五〇万円の支出ないし右工事の施行の差止めを求める旨の訴えを提起し
た(請求原因記載の「住民訴訟」)一方、甲田町は、水道料金の支払いを拒んでい
る住民の一部を被告として水道料金の支払いを求める訴えを提起した(請求原因記
載の「水道料金訴訟」)。
その後、昭和五九年六月一七日、甲田町町長には新たにAが就任することとなっ
た。
四 (本件公金支出)
請求原因3(二)及び同(三)記載のとおり本件公金の支出がなされた事実は当事
者間に争いがないところ、右の争いない事実に、成立に争いのない甲第一、第二号
証、第三号証の一ないし三、第四ないし第六号証、原本の存在及びその成立に争い
のない甲第二三号証の一ないし四、第二四号証、第二五号証の一、二、第二六、第
二七号証、第二八号証の一ないし三並びに証人B、同H、同Cの各証言及び原告D
本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められ、右認定を覆す証拠はない。
1 A町長は、昭和五九年九月一七日、甲田町議会に対し、昭和五九年度甲田町一
般会計補正予算(第三号)案を提出し、右案は同日挙手多数により原案通り可決さ
れたが、右案においては、歳入歳出予算の総額に、歳入歳出それぞれ二七五三万四
〇〇〇円を追加することとされ、うち歳出につき款を衛生費、項を上水道費として
四二八万八〇〇〇円の補正がなされ、右は上水道施設費として甲田町一般会計から
水道特別会計に対して補助金として支出されることとされた。また同日、A町長
は、昭和五九年度甲田町水道事業会計補正予算(第一号)案を提出し、同日これも
議会で挙手多数により原案通り可決された。
右案においては前記四二八万八〇〇〇円のうち、三二五万二〇〇〇円を水道事業
費、項を営業費用として支出され、そのうち一七八万七六一〇円が、目を総係費、
節を補償金、説明を見舞金(当初は「訴訟費用補償金」として提出されたが、議会
での審議中に「見舞金」と訂正された)として支出されることとなった。
2 同年九月一九日、A町長は、前記一般会計補正予算に基づき、上水道事業会計
補助金として前記四二八万八〇30円の支出を命じ、当時収入役であった境章造よ
り、水道事業会計出納員Iの口座に右金額が振り込まれた。
3 同年九月二〇日、町長として甲田町水道事業の管理者の地位を兼ねるA町長
(甲田町水道事業において町長が管理者の権限を行うものとされることは請求原因
2どおりであって、当事者間に争いがない))は、「正す会」会長Cに対し、甲田
町水道事業会計から、前記一七八万七六一〇円を、款を水道事業費、項を営業費
用、目を総係費、節を補償金、摘要を見舞金として、同額の小切手を振り出し、
「正す会」においで、これを受領した。
4 右の一七八万七六一〇円は、「正す会」の住民が前記仮処分事件、水道料金訴
訟及び住民訴訟の代理人であった前記弁護士に対して負担し、あるいは負担すべき
いわゆる弁護士費用を含も訴訟費用(仮処分事件の費用が計五一万三六五〇円、水
道料金訴詮の費用が計五一万円、住民訴詮の費用が計七六万三九六〇円。但し右公
金支出当時すでに支払い済みのものを含む)の合計額に相当するものであり、右の
金員は右公金支出の後に「正す会」を通じて同弁護士に対して前記費用のうち未払
い分が支払われ、あるいはすでに支払い済みの費用相当分は「正す会」が補填をう
けたものとして、これを取得した。
原告らが、違法な公金支出として本訴で争っているのは、前記3の一七八万七六一
〇円の公金支出のうち、右の住民訴訟費用七六万三九六〇円に相当する金員の支出
(請求原因記載の「本件公金支出」、その内訳は着手金五〇万円、印紙代等一万三
九〇〇円、報酬二五万円で右着手金は当時「正す会」において支払い済みであっ
た)である。
五 (本件公金支出の違法性及びAの責任)
1 原告らは、本件公金支出は、「正す会」の住民が提起した前記住民訴訟は取下
げにより終了したにすぎず、住民が勝訴したものではないにもかかわらず、「正す
会」側が支払うべき訴訟費用を甲田町が負担するものとして、その支出がなされた
ものであるから、地方自治法二四二条の二第七項の規定に反する違法なものと主張
するところ、被告らは、同規定は地方公共団体が紛争解決の手段として住民に対し
て訴訟費用相当額を支出することまでも禁止したものではなく、本件公金支出は、
甲田町における水道問題を解決するために「正す会」との間でなした和解の一条件
として「正す会」に対する補償金(見舞金)として、その支出がなされものであ
り、その結果、その後の町政の円滑な運営が可能となったものであるから、その違
法性を欠くと主張するので、以下、右の各主張について検討する。
2 前記甲第三号証の一ないし三、第四ないし第六号証、成立に争いのない第一三
ないし第一五号証、第三六号証、第三七号証の一、二、第三八ないし第四〇号証、
前記甲第二三号証の一ないし四、第二四号証、第二五号証の一、二、第二六、第二
七号証、第二八号証の一ないし三、乙第二号証並びに証人B、同H、同Cの各証言
及び原告D本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められ、右認定を覆す証拠
はない。
(一) 昭和五九年六月一七日に甲田町町長に就任したAは、前記三認定の甲田町
における水道問題を解決したいとの意向をもち、「正す会」会長のCに対し、甲田
町と「正す会」との間の前記紛争等に関し、話し合いによる解決を申し出、以後C
との間で数度話し合いを行ったが、その際、A町長は、甲田町と「正す会」住民と
の間の訴訟の双方の取下げ、小田小学校屎尿排水管埋設工事及び町道尾津谷線の拡
幅工事への協力方、及び「正す会」住民の未払い水道料金の支払いを要望し、他
方、Cは「正す会」側の条件として、甲田町から「正す会」側に対するいわゆる慰
藉料名目による金員の支弁や、水道料金徴収の不公平の是正、未払い水道料金の善
処方を求めたところ、A町長は「正す会」側に対する町費の支出や右の不公平の是
正、不払い水道料金の処置について「正す会」側の要望に応じる旨を答えた。
同年九月初旬ころ、C宅で、町側はA町長と教育次長が、「正す会」側は、C外三
名が出席のうえ、最終的に話合いがまとまったが、その際、A町長は「正す会」側
の要求を受け容れ、甲田町から「正す会」に対し、前記住民訴訟、水道料金訴訟及
び仮処分事件につき「正す会」住民が負担し、あるいは負担すべき費用の相当額で
ある前記一七八万七六一〇円を町から支出し、その支払いをする旨の合意がなされ
た。また、右話合いの際、右各訴訟の双方による取下げとその同意をなす旨のほか
併せて、「正す会」住民の従前の滞納水道料金の支払い、小田小学校屎尿排水管工
事及び尾津谷線の犯幅工事への協力についても約束が取り交わされた。
なお、甲田町から右の一七八万七六一〇円を支出するについては、A町長限りの判
断で決定したものであった。また、話合いの際、双方から出された条件や合意の内
容については、すべて口頭により提示ないしは取り交わされたものであって、書面
の作成はなされなかったものである(前記各訴訟の取下げと前記滞納水道料金の支
払いのほかには、前記のいわゆる水道問題をめぐる水道事業に関する確たる話合い
ないし了解がなされたことを認め得る証拠はない)。
(二) 前記住民訴訟は、昭和五九年七月一六日付で「正す会」に属する原告らが
訴えを取下げ、これにA町長及びFが同意したことにより終了し、水道料金訴訟及
び仮処分事件も、そのころ、取下げ及びそれに対する相手方住民らの同意により終
了した。
右各取下げにより、甲田町と「正す会」住民との間では、当時係属していた訴訟事
件、仮処分事件はすべて終了することとなったが、甲田町の水道紛争問題に起因す
るとみられる訴訟としては、他に、吉田口付近の住民であるG外一九名が「正す
会」のC外一七名を被告として提起していた尾津谷地域を水源とする湧水利用権の
確認等を求める訴訟(広島地方裁判所昭和五八年(ワ)第五九九号湧水利用権確記
等請求事件、以下「湧水利用権確認訴訟」という)があり、右訴訟はその後も依然
として係属したままであった。
(三) 昭和五九年九月一七日、A町長は、右(1)の金員一七八万七六一〇円を
町費から支出することを一目的として、前記四1認定のとおり、甲田町一般会計補
正予算案及び甲田町水道事業補正予算案を議会に提出し、同日可決の決議を経た
が、右金員支出についてA町長からなされた説明は、次のとおりである。すなわ
ち、まず提案理由として、「水道問題が解決して、その関係する終戦処理費」であ
る旨の説明がなされ、その後、出席議員の質問に対し、右金員は訴訟費用である旨
の答弁がなされた。そして、その後の質疑において、A町長は、「補償費で、この
位の答弁でゆるしていただきたい」、「弁護士から請求書が来ており、別に何でも
ない金ではない」、「議員さんにはつきり申し上げてよいかどうかということは今
悩んでいる」、「町民の金を使わせてもらうので、波紋になるかも知れないので、
終戦処理費位でおさめていただきたい」、「それが条件で水道問題を解決した。滞
納も整理し、従来のように町に協力していただくということで条件として私がのん
だ」、「補償の意味にはあたらないかも知れず、見舞金にあたるかも知れないが、
色々それが条件で和ぼくした」といった旨の答弁をなし、その際水道事業会計補正
予算のうち、前記予算の「説明」を「訴訟費用補償金」から「見舞金」に訂正し
た。その後、質疑が打ち切られ、右両予算案は賛成多数で可決された。なお、右審
議の休憩中になされた議論においても、反対議員の質問に対するA町長の答弁の趣
旨は、前記金員の支出によって町が当事者である紛争は解決するという意味での終
戦処理費であり、字句が悪ければ訂正する、というものであった。
(四) その後、小田小学校屎尿排水管工事が着工されたが、その際、「正す会」
の住民が任意に土地を提供するなどしたため、町道を経由する計画の許に予算措置
を講じていた当初の工事に比して、低額の費用で工事が完成した。
(五) なお、「正す会」住民らの未払い水道料金の支払いに関しては、昭和五九
年九月二〇日、A町長は、甲田町水道事業会計の処理により、未払い水道料金合計
一八二万九二二〇円の支払いを減免し、既に右住民らから支払い済みの水道料金合
計八五万三五〇〇円を還付することとし、同月二五日、右額の金員を対象者に還付
した(したがって、右の住民は、右減免額ないし還付額に相当する額の水道料金の
支払いを免れたことになるものであった)。
3 そこで前記2認定の事実及び前記三、四認定の各事実によって、本件公金支出
が違法というべきかについて検討する。
一 前記の芥事実に圭ると、本件公金支出を合む前記一七八万七六一〇円の支出
は、前記認定のA町長と「正す会」との話合いの際に、「正す会」側から、「正す
会が」が負担し、あるいは負担すべき前記の各訴訟における弁護士報酬を含む訴訟
費用についでは、甲田町において、その支弁方を図って欲しい旨の申し入れがなさ
れたのに対し、A町長において、水道問題をめぐる町を当事者とする住民との間の
訴訟の係属を解消する目的のなめに、これを受け容れて、その支出を承諾し、甲田
町町長及び水道事業の管理者として、前記認定の予算措置を講じて、「見舞金(訴
訟費用補償金)」として「正す会」に対し、これを支出したものであり、かつ、前
記認定のとおり、本件公金支出にかかる七六万三九六〇円は、前記住民訴訟におけ
る「正す会」側の訴訟代理人であった前記弁護士に支払った着手金、同弁護士に支
払うべきいわゆる成功報酬及び印紙代にあたる金員に相当する額であり、「正す
会」は、右の支出を受けた後に未払いの成功報酬及び印紙代を支払い、かつ既払い
の着手金相当分を取得したものであるから、本件公金の支出は、「正す会」が前記
住民訴訟を委任した弁護士に対し支払うべき報酬及び右訴訟に要した手数科を、甲
田町において負担し、これを支弁するなめになされたものというべきである。
そしで、前記住民訴訟は、「正す会」の住民が勝訴したものではなく、訴えの取下
げによって終了したものであることは、先に認定したとおりであるから、本件公金
支出は、地方自治法二四二条の二第七項に基づいて支出し得る場合にはあたらない
ことは明らかである。
二 ところで、被告らは、前記1記載のとおり主張するところ、確かに、前記
(2)認定のとおり、A町長と「正す会」との間で、数度話合いの席がもたれ、そ
の際、本件公金支出相当額を含む一七八万七六一〇円の公金支出の合意にともなっ
て、甲田町と「正す会」住民との間の訴訟等の取下げのほか、「正す会」住民の滞
納水道科金の支払い、小田小学校屎尿排水管工事及び町道尾津谷線の拡幅工事への
「正す会」住民の協力についても話合いがなされたことが認められ、また、その
後、前記住民訴訟、水道料金訴訟及び仮処分事件はそれぞれ取下げにより終了しさ
らに難航していた小田小学校屎尿排水管工事も完了し、右の工事費用額は当初予算
額よりも低額にとどまったとの事情も認められるものであって、以上の事実からす
れば、A町長と「正す会」との間で、本件公金支出をその内容の一部とする話合い
がなされ、合意をみたことにより、結果的には甲田町に利益をもたらした面も存す
ることは、直ちには否定し難いところではある。
しかし地方自治法二四二条の二第七項は、「第一項第四号の規定による訴訟を提起
した者が勝訴(一部勝訴を含む。
)した場合において、弁護士に報酬を支払うべきときは、普通地方公共団体に対
し、その報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払いを請求することができ
る。」と規定するところ、右規定の趣旨は、同法二四二条の二の住民訴訟が、住民
の個人的な権利利益を擁護するためではなく、住民全体の公共の利益を確保するた
めに提起されるものであることから、訴訟に要した費用の全部を常に原告たる住民
に負担させるのは適当ではなく、特に同条一項四号の代位請求訴訟にあっては、住
民が普通地方公共団体に代わって訴訟を提起するものであり、原告たる住民が勝訴
したときは、普通地方公共団体が利益を受けることとなるため、公平の理念から、
原告たる住民は相当と認められる弁護士報酬額の支払いを請求し得るとしたものと
解される。
したがって、右規定は、住民訴訟における住民側の弁護士報酬あるいは訴訟費用等
について、必ずしも住民側が勝訴した場合のほかは、およそ地方公共団体がこれを
負担することを直接禁止したものとは解されないとしても、右規定は、普通地方公
共団体が住民の勝訴により明確に利益を受けることから、住民側の弁護士報酬を負
担することを肯定した趣旨の規定であることに鑑みるならば、当該地方公共団体以
外の訴訟当事者が本来負担すべきものである住民訴訟における弁護士報酬あるいは
訴訟費用等を、地方公共団体が支出、負担することが適法視されるためには、右支
出が地方公共団体と住民との間の住民訴訟にかかる紛争の解決のためになされた合
意に基づくものであれば、その支出を受ける住民が住民訴訟において実質上勝訴し
たと同視し得る事情がある場合に限られるものと解すべきであり、右事情が存在し
ないのにもかかわらず、地方公共団体が、住民との合意により、住民が負担すべき
である弁護士報酬その他の費用を支弁するために、当該住民に対し右相当額を支出
することは、右規定を潜脱する違法なものというべきである。そして、右の理は、
その支出が地方公営企業の特別会計からなされる場合であっても異なるものではな
い。
まず、被告らは、本件公金支出をも含む前記の合意により、甲田町におけるいわゆ
る水道問題が解決したと主張するところ、甲田町を当事者とする訴訟は終了したも
のの、なおも町民間においては、前記のとおり水道問題に関連する湧水利用権をめ
ぐる訴訟が係属しているものであって、抜本的な解決に至ったといい得るか疑問な
きを得ない。のみならず、前記認定のとおり前記の合意中には、住民訴訟等の取下
げ、未払水道料金の支払いの合意がなされてはいるものの、それらのほかには、前
記住民訴訟において違法との主張がなされていたいわゆる水道問題をめぐる諸事項
に関しては、他にはみるべき合意等はないものであることに、その後の町側の右の
合意に基づくという措置等をも併せ検討すると、前記住民訴訟において住民が違法
と主張した甲田町の水道事業に関する行為ないしその施設の管理、公金の支出に関
しては、それらのうち違法と評価すべきものについては、前記の合意に基づき、そ
の適正な是正がなされたものとは、これを認め難いものであって(ちなみに、前記
のとおり滞納水道料金についても、「正す会」の住民は、還付ないし減免措置を受
けて、その負担を免れているものである)、住民が住民訴訟に勝訴したと同視し得
る事情があるものとはにわかに解し難い。
また、被告らは、前記合意がなされたことにより、屎尿排水管工事及び道路拡幅工
事について住民の協力が得られたものであって、その結果、甲田町に対し利益をも
たらしたと主張するところ、住民訴訟を含む前記の各訴訟の係属やそれをめぐる住
民の反発が、これら施策の円滑な実施を事実上困難としていた事情があるものとし
ても、これらの施策は、たまたま関係する住民が共通であったというに過ぎず、い
わゆる水道問題とはその事案ないし紛争の実質を異にする案件であって、これら
は、本来水道問題や前記住民訴訟等の帰趨とは別に、町において、町政上その実施
の必要あるときは、それを理由に協力を求めるべき行政上の案件というべく、他の
町政上の懸案を処理するために、右の協力を要請することは町政の正常な運営とは
直ちにはいい難い。しかるに、前記認定の事実によると、A町長においては、本件
公金支出を含も前示町費を支出することによって、住民が利得を得ることから、い
わばその代償として、それら案件に対する地元住民の協力方を要請したものであ
り、住民らもその意を酌んでこれに応じたものと窺われるところであって、前記の
諸工事が円滑に進行し得たなどの事情があるとしても、そのことから、本件公金支
出を適法視し得るものではなく、もとより、これら事情が「正す会」住民が前記住
民訴訟において勝訴したと同視し得る事情たり得るものとは解し難いから、これを
もって、本件公金支出を適法とするには至らないものというべきである。従って本
来「正す会」住民が負担すべき前記弁護士報酬相当額等を支出した本件公金支出
は、地方自治法二四二条の二第七項の規定の趣旨に反する違法なものといわざるを
得ない。
4 また、被告らの主張中には、本件公金支出は、「正す会」住民に対して甲田町
が行政上の失策によって与えてきた財産上及び精神上の損害を填補するための補償
金として支出したものであると主張するものと解されるところもあるが、補償金と
は、地方公共団体が適法な公務の執行により特定の者に対して財産上または精神上
の損害を与えた場合にその損害を填補するために支出するものであるところ、「正
す会」住民の被ったという財産上または精神上の損害の具体的内容が不明であるば
かりでなく、前記認定の公金支出の経緯からすれば、本件公金支出を右趣旨の補償
金の支出として適法と解することはできない。
5 前記認定の公金支出の経緯からすれば、Aは、本件公金支出当時、甲田町長な
いしは甲田町水道事業管理者として、本件公金支出が違法であることを知っていた
か、少なくとも知らなかったことに重過失があったと認められるから、故意又は重
大な過失により違法に本件公金支出をなしたものというべきであるつ
六 (損害の発生、被告らの承継)
そうすると、Aは、本件七六万三九六〇円の公金支出により、右と同額の損害を甲
田町に対して被むらせたものである。
なお、被告らは、本件公金支出が一条件となっている前記合意の成立により、「正
す会」所属の住民が、小田小学校屎尿排水管埋設工事に協力したことから、年間九
二万四〇〇〇円の汲取料が不要となったうえ、当初一九七〇万余円とされていた工
事費用がわずか四五〇万円にとどまったのであるから、本件公金支出によりなんら
甲田町は損害を受けていないとも主張するが、前記認定の本件公金支出の経緯から
すれば、仮に右のように甲田町にとって利益となる事情も存したとしても、それが
直接本件公金支出による損害を填補する関係に立つものとは到底解し難い以上、前
記損害の発生を否定する理由とはならない。
そうすると、甲田町長であったAは、甲田町に対し、前記七六万三九六〇円の損害
の賠償と、これに対する本件公金支出の日の後で損害発生の後である昭和五九年九
月二一日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務ある
ところ、同人は請求原因1記載のとおり昭和六一年一〇月三一日死亡したものであ
って、被告らが同記載のとおりその相続人であることは、前記のとおり争いがない
から、被告らは、Aの甲田町に対する前記債務につき、その相続分に応じて、これ
を承継したものというべく、従って、甲田町に対し、被告Jにおいては、金三八万
一九八〇円とこれに対する前同日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害
金を、被告K、同Lにおいては、金一九万〇九九〇円とこれに対する前同日から支
払い済みまで同率の遅延損害金を支払うべき義務あるものというべきである。
七 (結論)
よって、原告らが被告らに対し、甲田町に対じ前記金員の支払いを求める本訴請求
はその理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条
一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

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