弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
     右部分につき、本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人花村哲男の上告理由について。
 原審の確定した事実および右事実関係のもとにおいて原審のした判断は次のとお
りである。
 本件建物はもと訴外Dの所有であつたが、Dおよび訴外D被服株式会社は、連帯
債務者として、昭和三三年五月一二日上告人から、弁済期同年七月一一日、利息年
一割八分、利息の支払期限毎月一一日、利息の支払を一度でも遅滞したときは日歩
九銭八厘の割合による遅延損害金を支払う旨の約定のもとに二〇万円を借り受け、
Dは、その担保として、本件建物につき、上告人を権利者として抵当権を設定する
とともに、Dらが右期限に右債務の弁済を怠つたときは、上告人は、代物弁済とし
て本件建物の所有権を取得しうる旨の代物弁済予約をなし、即日その旨の抵当権設
定登記および代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記の各手続を
した。右予約締結当時には、本件建物については、Dを債務者として、訴外E住宅
相互株式会社(以下、E住宅という。)を権利者とする抵当権設定登記および代物
弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記、ならびに訴外株式会社F相
互銀行(以下、F相互という。)を権利者とする根抵当権設定登記および代物弁済
予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記があり、右先順位の各担保権を負
担した状態における本件建物の当時の価値は、少なくとも七〇万円を超えるもので
あつて、上告人とDとの間の右代物弁済予約は、金銭債権の担保を目的とするもの
と解すべきものである。上告人は、前記各登記手続を経由したのち、昭和三三年五
月一五日右抵当権の共同担保物件としてDより本件建物の敷地の提供を受け、その
旨の共同担保物件追加の登記を経由し、さらに、Dに対して金銭の貸与を続け、そ
の合計額が一五〇万円となつたので、昭和三四年二月二八日Dとの間で、前記代物
弁済予約に基づく二〇万円の貸金債権の元利、損害金の代物弁済およびその後の貸
付金一五〇万円の債権の元利金の代物弁済として、本件建物をE住宅およびF相互
を権利者とする前記各担保権を負担した状態のままで上告人において取得する旨の
合意をしたうえ、同年四月二〇日本件建物について上告人を取得者として右代物弁
済を原因とする所有権移転の本登記手続を経由した。ところが、上告人とDとの間
の右代物弁済契約の成立に先き立ち、昭和三三年七月被上告人とDとの間に、Dは
被上告人に対し本件建物を代金七〇万円、代金の支払方法は即日四五万円を支払い、
残額二五万円は後日所有権移転登記手続と引換えに支払う、特約として、DのE住
宅に対する債務は被上告人において引き受け、割賦弁済する旨の売買契約が成立し、
即日被上告人はDに対し四五万円を支払い、ついで同年八月五日被上告人とDの間
に、将来万一右売買契約が履行に至らないで解消される場合に備えて、被上告人の
Dに対する前記支払済みの売買代金および立替金の返還請求権を担保するため、右
返還義務不履行の場合には、その代物弁済としてDから被上告人に対して本件建物
所有権を譲渡する旨の代物弁済予約がなされ、翌六日本件建物について権利者を被
上告人として代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記手続がなさ
れた。
 以上の本件建物についての権利関係によると、上告人とDとの間に昭和三四年二
月二八日に締結された代物弁済契約は、前記二〇万円の貸金債権の元利、損害金の
代物弁済に関するかぎりでは、上告人を権利者とする前記仮登記のある代物弁済予
約の完結行為に該当するが、その余の債権の代物弁済の関係では、予約に基づかな
い新たな代物弁済契約であるところ、上告人を権利者とする代物弁済予約を原因と
する右仮登記よりも後順位で、かつ、上告人を取得者とする代物弁済を原因とする
前記所有権移転登記よりも先順位の登記として、被上告人を権利者として代物弁済
予約を原因とする前記仮登記があるので、上告人は、右二〇万円の貸金債権の元本
と民法三七四条が準用される結果最後の二年分の損害金について被上告人に優先し
て弁済を受けることができるだけで、その余の債権については、被上告人を権利者
とする右仮登記上の権利によつて担保される債権に優先して弁済を受けることはで
きないわけである。したがつて、本件建物の時価がE住宅およびF相互の各担保権
の被担保債権額と上告人のDに対する右二〇万円の元本と二年分の損害金の合計額
を超過する計算になるならば、被上告人は、上告人から右超過額の範囲内で、被上
告人を権利者とする右仮登記上の権利をもつて担保される債権の弁済として、清算
金の支払を受けうる地位にあるわけである。
 さて、上告人の本訴請求は、上告人が昭和三五年法律第一四号による改正前の不
動産登記法に基づいて、昭和三三年五月一二日受付の上告人を権利者とする仮登記
に基づいて昭和三四年四月二〇日受付で所有権移転登記を受けたので、右仮登記よ
り後順位の昭和三三年八月六日受付の被上告人を権利者とする仮登記は抹消さるべ
きものであるから、被上告人に対してその抹消登記を求めるというのであるが、右
の場合においても、被上告人は、上告人から清算金の支払を受けうる地位にあるか
ら、上告人の右仮登記抹消登記手続の請求に対し、右清算金の支払いと引換えにの
み被上告人を権利者とする前記仮登記の抹消に応ずる旨の主張をすることができる。
 本件建物については、E住宅を権利者とする抵当権設定登記および代物弁済予約
を原因とする仮登記は昭和三四年一〇月六日受付で同年九月八日の弁済および解約
を原因として、また、F相互を権利者とする根抵当権設定登記および代物弁済予約
を原因とする仮登記は同年一〇月一二日受付でいずれも同年一〇月九日の解約を原
因としてそれぞれ抹消登記手続がなされているので、各担保権の被担保債権がその
頃皆済されているものと認められるところ、被上告人は、前記売買契約の特約の一
部の履行として、DのE住宅に対する債務につき、Dに代位して、昭和三三年七月
三〇日から昭和三四年二月一九日までの間に合計五八万二九一二円を支払つた。な
お、本件建物の前記先順位の担保権が消滅し、その負担のない現在価額は、最少限
に見積つても二〇〇万円を超える。
 以上の事実関係によると、本件建物の価額をもつて決済さるべき現存の債権は、
第一順位として上告人のDに対する貸金債権元本二〇万円とその二年分の損害金一
四万三〇八〇円合計三四万三〇八〇円、第二順位として被上告人のDに対する売買
代金四五万円、前記立替金五八万二九一二円の返還請求権合計一〇三万二九一二円
およびこれに対する右返還請求のあつた日の翌日である昭和四五年一二月一七日以
降支払済みに至るまで年五分の割合による金員(ただし、民法三七四条の準用によ
り二年分を超えることはできない)があり、上告人のDに対するその余の債権は第
三順位にあたる。
 以上の理由により、被上告人は、上告人に対して、上告人から前記第二順位の債
権の支払を受けるまで、被上告人を権利者とする前記仮登記の抹消登記手続をする
ことを拒否することができるが、右債権の支払があつたときは、その支払と引換え
に右仮登記の抹消登記手続をしなければならない関係にあるというのである。
 原審の右認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、原審が前記第一順位の上
告人の二〇万円の貸金債権元本に対する利息、損害金のうち、上告人が優先弁済を
受けうるのは最後の二年分の損害金のみであるとする点、および被上告人は、前記
第二順位の被上告人の債権一〇三万二九一二円に対する昭和四五年一二月一七日以
降支払済みに至るまで年五分の割合の金員をも清算金としてその支払を求めうると
する点を除き正当として是認することができ、原判決に所論の違法は認められず、
論旨は採用することができない。
 職権をもつて考えるに、原審は、前に述べたとおり、上告人が第一順位として本
件建物の価額から優先弁済を受けることのできるのは、前記二〇万円の貸金債権の
元本と民法三七四条が準用される結果、その利息、損害金のうち最後の二年分の損
害金であるとして、優先弁済を受けうる利息、損害金を制限しているが、債権担保
を目的とする代物弁済の予約につき同条を準用してかかる制限をなすべき根拠はな
く、上告人は右制限を受けないで本件建物の価額から元金二〇万円、その利息、口
頭弁論終結時までの損害金の優先弁済を受けうるものと解するのが相当である。そ
うすると、本件建物の価額が最少限に見積つても二〇〇万円を超えるものであると
いうだけでは、原審の説示するような清算金額の支払を上告人に命じえないことは
計数上明白であつて、原審としては、さらに本件建物の評価をし、その価額と右に
述べたところに従つて算出される上告人が優先弁済を受けうる債権額との差額が被
上告人の債権額以上になるのでなければ、右のような結論には達しえなかつたもの
である。
 また、前述のように、原判決は、被上告人は、上告人に対し、被上告人のDに対
する返還請求権合計一〇三万二九一二円とこれに対する返還請求のあつた日の翌日
である昭和四五年一二月一七日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を
清算金として請求しうる旨説示しているが、清算金としては、元本とこれに対する
口頭弁論終結の日までの利息ないし損害金しか求めえないものと解するのが相当で
あるところ、本件記録に徴し明らかなように、原審口頭弁論終結の日は昭和四五年
一二月一六日であつて、右説示するところからして、被上告人は、その翌日である
同月一七日以降は、被上告人の右返還請求債権に対する年五分の割合の金員を清算
金として上告人に対し請求しえないものというべきである。
 したがつて、原判決には、以上の点につき、法律の解釈、適用の誤り、審理不尽
の違法があるものといわなければならない。
 よつて、原判決中上告人敗訴部分を破棄し、さらに審理を尽させるため右部分に
つき本件を原審に差し戻すこととし、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一

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