弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決のうち別紙記載の部分を破棄する。
     前項の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
     上告人のその余の上告を棄却する。
     前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人楠本博志の上告理由一について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属す
る証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
 同二について
 一 本件訴訟において、上告人は、被上告人らとの間において上告人が第一審判
決別紙物件目録三記載の建物(以下「本件建物」という。)の所有権並びに同目録
一及び二記載の土地(以下「本件土地」という。)の賃借権を有することの確認等
の請求をし、その請求原因として、上告人が、昭和二一年ころに、Dから本件土地
を賃借し、その地上に本件建物を建築したとの事実を主張した。被上告人らは、こ
れを否認し、本件土地を賃借して本件建物を建築したのは、上告人ではなく、上告
人の亡父Eである旨を主張した。原審は、(1) 上告人主張の右事実を認めるに足
りる証拠はなく、かえって、被上告人らの主張するとおり、本件土地を賃借し、本
件建物を建築したのはEであることが認められるとして、(2) その余の点につい
て判断することなく直ちに、上告人の請求を認容した第一審判決を取り消し、上告
人の請求をすべて棄却した。
 二 しかしながら、右(2)の点は是認することができない。その理由は、次のと
おりである。
 1 原審の確定したところによれば、Eは昭和二九年四月五日に死亡し、Eには
妻F及び上告人を含む六人の子があったというのである。したがって、原審の認定
するとおり、本件土地を賃借し、本件建物を建築したのがEであるとすれば、本件
土地の賃借権及び本件建物の所有権はEの遺産であり、これを右七人が相続したこ
とになる。そして、上告人の法定相続分は九分の一であるから、これと異なる遺産
分割がされたなどの事実がない限り、上告人は、本件建物の所有権及び本件土地の
賃借権の各九分の一の持分を取得したことが明らかである。
 2 上告人が、本件建物の所有権及び本件土地の賃借権の各九分の一の持分を取
得したことを前提として、予備的に右持分の確認等を請求するのであれば、Eが本
件土地を賃借し、本件建物を建築したとの事実がその請求原因の一部となり、この
事実については上告人が主張立証責任を負担する。本件においては、上告人がこの
事実を主張せず、かえって被上告人らがこの事実を主張し、上告人はこれを争った
のであるが、原審としては、被上告人らのこの主張に基づいて右事実を確定した以
上は、上告人がこれを自己の利益に援用しなかったとしても、適切に釈明権を行使
するなどした上でこの事実をしんしゃくし、上告人の請求の一部を認容すべきであ
るかどうかについて審理判断すべきものと解するのが相当である(最高裁昭和三八
年(オ)第一二二七号同四一年九月八日第一小法廷判決・民集二〇巻七号一三一四
頁参照)。
 三 原審がこのような措置を執ることなく前記のように判断したことには、審理
不尽の違法があり、この違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
論旨は、右の趣旨をいうものとして理由がある。したがって、原判決のうち別紙記
載の部分は破棄を免れず、右部分につき、被上告人らの抗弁等について更に審理を
尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととし、右破棄部分以外の原判決は正当
であるから、この点に関する上告を棄却することとする。
 よって、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、八九条に従い、裁判官藤井
正雄の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官藤井正雄の補足意見は、次のとおりである。
 私は、法廷意見に同調するものであるが、なおこれに若干の意見を補足しておき
たい。
 本件は、上告人の建物所有権及び土地賃借権に基づく請求の訴訟において、被上
告人らが、上告人の主張した所有権及び賃借権(以下「所有権等」という。)の取
得原因事実は否認したが、「上告人の父の所有権等の取得と同人の死亡」という別
の取得原因事実を先行的に陳述した場合に、裁判所のとるべき措置に関する。
 ある当事者が訴訟上自己に不利益な事実を陳述したとき、相手方がその陳述を援
用すると否とにかかわらず、裁判所はこれを訴訟資料として斟酌すべきであると説
かれる。法廷意見の引用する最高裁昭和四一年九月八日判決は、原告の所有権に基
づく土地明渡請求訴訟において、原告が、被告に対して土地の使用を許したとの事
実を先行して陳述したという事案である。使用貸借は被告側から主張すべき権利障
害事由であるが、原告がこれを先行陳述したことにより、自己の請求の有理性(首
尾一貫性)を欠如させる結果となっており、被告の援用いかんにかかわらず、請求
棄却を免れないことになる。
 これに対して、本件は、被告ら(被上告人ら)が原告(上告人)の主張すべき請
求原因事実を先行陳述した場合である。不利益陳述に関するさきの理論は、原告の
場合と被告の場合とを区別せず、請求原因についてであろうと抗弁についてであろ
うと、等しくどちらについても妥当するというのが、一般的な理解のようである。
しかし、本件では、被上告人らの陳述した「父の取得、死亡」の事実は、上告人の
所有権等の全部を理由あらしめるものではなく、その一部(九分の一の共有又は準
共有持分)を基礎づけるに過ぎないのである。そして、(準)共有持分権は、所有
権等の割合的一部ではあるけれども、共有物の利用管理等については、単一の所有
権等とは異なる種々の制約があり、単純な分量的一部とはいえない。訴訟物として
は所有権等の中に包含されているといってよいが、被上告人らが持分権の取得原因
事実を先行的に陳述しているからといって、裁判所が、上告人に何らの釈明も求め
ることなく、直ちに所有権等の分量的一部として共有持分権の限度でこれを認容し
てよいということにはならない。もしそのようなことをしたならば、当事者、殊に
被上告人らにとっては、予期しない不意打ちとなるであろう。したがって、相続分
の限度での一部認容判決をするためには、裁判所としては、上告人に対し、九分の
一の共有持分権の限度の請求としてもこれを維持する意思があるかどうかについて
釈明を求めた上、予備的に請求の趣旨を変更させる措置をとるのが普通である。裁
判所がそのような措置をとらないままで、上告人の所有権等の取得は認められない
とする請求棄却の判決をし、これが確定したときは、上告人は目的物の所有権等を
有しないとの判断につき既判力が生じるから、上告人が右判決の既判力の標準時以
前に生じた所有権等の一部たる共有持分権の取得原因事実、すなわち亡父の遺産の
相続の事実を再訴で主張することができないということになる(最高裁平成五年(
オ)第九二一号同九年三月一四日第二小法廷判決・裁判集民事一八二号登載予定)。
そうした事態はなるべく起こらないことが望ましい。
 しかし、このことは、裁判所が常に当然に釈明義務を負うということを意味する
ものではない。本件において、上告人は、本件土地建物の所有権等が自己の固有の
財産であるとする主張に固執し、一、二審を通じて、遺産の共有持分の限度での請
求をする気配を見せていなかったのであり、このようなときに、裁判所が、遺産共
有を前提として共有持分権の主張をするかどうかについて釈明を求めてまで、請求
の一部を認めてやる義務があるというべきかは一考を要する。相続開始後年月を経
て、他の相続人間では格別の紛争もなく、一定の事実状態が形成されてきているよ
うな場合だと、裁判所の介入がかえって紛争の拡大を助長する結果となることもあ
り、事案に応じた慎重な配慮が求められるのである。
 記録によると、父Eが死亡したのは昭和二九年で、本訴が提起されたのはそれか
ら三六年後であり、相続紛争としては今更の感が深い。しかし、上告人は、被上告
人らの主張に対する反論としてではあるが、仮に被上告人らのいうように本件土地
建物が亡父の遺産であるとするなら遺産分割協議は未了であるということを述べて
いるのであり、遺産とされた場合の法律関係のことも一応念頭にあったことがうか
がわれる。のみならず、平成元年の母Fの死亡後に、被上告人B1と同B2、同B
3、同B4及びG(一審相被告)の間で、遺産をめぐる紛争が起こっており、本件
土地建物の所有権等の帰属は、今なお未解決の状態にある。そうすると、本件にお
いては、父Eの死亡から相当の年月を経ているとはいえ、事態はなお流動的である
ので、本件土地建物に関する上告人の相続上の権利の有無について、この際判断を
加えておくことを躊躇する理由はないことになり、これを拒んだ場合には上告人の
再訴における主張が既判力で妨げられる結果になることをも考慮すると、原審とし
ては、上告人に対し所要の釈明を求めて判断をすべきであったということができる。
以上の理由により、上告人の共有持分権に関する部分につき、審理不尽、釈明義務
違背があるものと認めるのを相当と考える。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    藤   井   正   雄
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    高   橋   久   子
            裁判官    遠   藤   光   男
            裁判官    井   嶋   一   友
 (別紙)
 上告人の左記各請求について持分九分の八の限度を超えて請求を棄却した部分
 一 第一審判決別紙物件目録三記載の建物の所有権確認請求
 二 同目録一及び二記載の土地について上告人が第一審判決別紙賃借権目録記載
の賃借権を有することの確認請求
 三 右建物についての真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続請

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛