弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1 被告らは,連帯して,原告Aに対して,2685万円及びこれに対する平成1
0年7月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告Aのその余の請求及び原告Bの請求を棄却する。
3 訴訟費用は,原告Aと被告らとの間では,これを5分し,その2を被告らの負
担とし,原告Aがその余を負担することとし,原告Bと被告らとの間では各自の負
担とする。
4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告らは,原告Aに対し,各自6686万2580円及びこれに対する平成1
0年7月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,原告Bに対し,各自200万円及びこれに対する平成10年7月2
1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
  本件は,膵頭部癌等に対する手術後,胆管閉塞に対し減黄のため胆汁のドレナ
ージ処置を受けた患者が,ドレナージの不全による胆汁漏出によって胆汁性腹膜炎
を発症したためショック死したとして,患者の遺族である原告らが,主治医及びそ
の使用者である病院の経営法人に対し,民法709条及び715条に基づき,損害
賠償及び遅延損害金の支払を求める事案である。
【争いのない事実(当事者に異議のなかった主張整理案に基づく。)】
 (以下,医学用語等につき,適宜【】内に略語を,[]内に用語の意味を付記す
ることがある。)
1 当事者等
(1)平成10年7月20日に死亡したEは,昭和3年7月2日生まれ(死亡当時7
0歳)の男性であり,生前は内科の開業医であった。
(2)原告A,F,原告Bは,それぞれEの妻,長男,二男である。
(3)被告財団法人日本生命済生会(以下「被告法人」という。)は,社会福祉厚生
事業を営むこと等を目的とし,附属日生病院(以下「日生病院」という。)を経営
する法人である。
(4)被告Dは,被告法人に勤務する外科医であり,Eの主治医であった者である。
2 診療の経過(以下,日付は,特に記載のない限りいずれも平成10年であ
る。)
(1)入院,検査及び診断
ア Eは,6月上旬から上腹部に圧迫感があり,黄疸が出たことから,同月10
日,日生病院内科外来を受診し,同月11日,黄疸,急性肝炎,胆管炎の疑いによ
り,精密検査のため,日生病院に入院した。
イ 同月12日に腹部CT検査が,同月15日に腹部超音波検査が施行され,肝内
胆管の軽度拡張及び中部胆管に狭窄像が認められた。
ウ 同月16日,胃内視鏡検査が施行されたが,内視鏡的逆行性胆管膵肝造影【E
RCP】は,アカラシアなどのためファイバースコープが届かなかったため施行で
きず,直視鏡検査により幽門前部が狭窄しているとの所見が得られた。
エ 同月17日,経皮経肝胆道造影及びドレナージ(以下「PTCD」ということ
がある。)が施行され,中部胆管に2センチメートルにわたる狭窄が認められた。
オ 同月18日,胃透視の実施により,食道の著明な拡張と残渣の貯留が認められ
た。
カ 同月22日,PTCD再造影と生検により,腺癌の疑い(グループⅣ)と診断
された。
キ 同月25日,血管造影を行ったところ,右肝動脈が上腸間膜動脈から分岐し,
膵後前動脈に血管浸潤像と閉塞が認められ,胃十二指腸動脈と上前膵動脈,胃大網
動脈分岐部に血管浸潤像が認められた。このため,血管浸潤を伴う胆管癌の疑いと
診断した。
ク 同月30日,ダイナミックCT検査の実施により,膵頭部に約3センチメート
ルの腫瘍陰影が認められ,胆管癌よりは進行膵頭部癌が疑われた。
(2)患者及び家族への説明
 Dは,6月27日,F及びBに対し,胆管癌の疑いがある旨説明した。F及びB
は,Dに対し,E及びAにはEが癌であることを告知をしないよう依頼し,Dはこ
れを了承した。
Dは,7月3日に開腹手術を実施することとし,同月2日,E及びAに対し,癌の
告知はせずに術前説明を行った。また,これとは別に,Fに対し,膵頭部癌の疑い
があるとして,胆管膵頭十二指腸切除術等の手術を行うことなどを説明した。
(3)開腹手術(7月3日)
ア Dら日生病院の担当医師らは,7月3日午前9時ころから午後2時30分ころ
まで,Eの開腹手術を行った(以下「本件手術」という。)。
開腹すると,少量の腹水を認めたので,これを採取して細胞診に提出したところ,
癌性腹膜炎と診断された。
Dらは,膵頭部に存在した腫瘤が周辺組織を巻き込んで横行結腸と一塊となってい
たため,腫瘤の切除を断念し,アカラシアの手術及び幽門狭窄に対するバイパス手
術(食道粘膜外筋層切除,胃底部縫着術,胃空腸吻合術)のみを施行して閉腹し
た。また,胆管閉塞に対しては,後日ステントを留置する方針とした。
イ 術後説明
Dは,同日午後3時ころ,手術室の前で待機していたEの親族らに手術の結果を説
明した。また,同日午後5時ころ,F及びBに対し,予後の見通し等について説明
した。
(4)手術後の経過
ア 術直後の経過
Eは,術直後は感染の兆候も縫合不全もなく経過したが,時折頻脈発作が見られ,
これに対する薬剤投与がなされた。
イ ステント留置の試み(7月15日)
  日生病院の放射線科の医師は,7月15日,ステント留置を試みたが,ステン
トの挿入はできず,再度のPTCDチューブ[経皮経肝胆道造影用チューブのこ
と。カテーテルということもある。]の挿入もできなかった。このため,PTCD
チューブを肝内の肝表面近傍まで挿入した位置に留置してドレナージ[排出するこ
とをいう。]を行うこととして処置を終えた。
  この日,Eは右側腹部痛を訴え,Dは,これに対して2度にわたりボルタレン
坐薬[鎮痛及び解熱作用がある。]を処方した。
ウ 7月16日の経過
PTCDチューブからの排液量は,7月16日には約200ミリリットルであり,
透き通った胆汁が排出されていた。また,黄褐色の排便が見られた。Eは右側腹部
痛を訴え,ボルタレン坐薬が処方された。発熱はなかった。Dは,腹部CT検査を
行うことにした。
エ 7月17日の経過
  PTCDチューブからの排液量は,7月17日以降激減し,同日には20ミリ
リットルの排液があっただけであった。Eの腹部痛は続いており,ボルタレン坐薬
が処方された。また,同日,腹部CT検査が実施された。
オ 7月18日の経過
7月18日の生化学検査では,総ビリルビン値は3.8であった。また,炎症の検
査値であるCRP値は37.8まで上昇していた。この日のPTCDチューブから
の排液量は,5ミリリットルであった。
カ 腹腔ドレナージの施行(7月19日)
7月19日の夕方ころから,EのPTCDチューブからの排液の性状が,胆汁から
黄色腹水に変化し,腹部が膨満して腹水の貯留を疑わせた。Dは,同日午後8時こ
ろにEを診察し,PTCDチューブの脱落により漏出した胆汁が腹腔に拡がって胆
汁性腹膜炎を起こしたものと判断し,ドレナージを行う必要があると考えて,A,
F及びBに対し,病状等の説明を行った。
  Dは,同日午後10時30分ころ,PTCD挿入部からペンローズドレーン2
本を挿入してドレナージを施行し,200ミリリットルの排液を確認した。
(5)ショックから死亡に至るまでの経過(7月20日)
7月20日午前5時の時点では,Eには呼吸困難もなく,酸素飽和度は98パーセ
ントで正常値であった。
ところが,Eの容態は同日午前6時20分ころに急変し,酸素飽和度は70パーセ
ントに低下し,呼吸困難となり,血圧は低下し,末梢に冷感が見られ,チアノーゼ
が発現した。
Eの急変を知らされたDは,同日午前7時30分ころに日生病院に到着し,同日午
前8時30分ころから,バルーン留置,動脈ライン確保,中心静脈ルート作成等の
処置を行い,昇圧剤,タンパク製剤等の投与を行った。
同日午前11時10分ころ,気管内挿管が行われ,その際,気管内に黒褐色の不消
化物残渣が多量に認められた。
Eは,同日午前11時15分ころ,心停止,呼吸停止となり,心臓マッサージ等の
蘇生術にも反応せず,同日午前11時30分ころ,死亡が確認された。
【争点】
1 Eの死亡原因(胆汁性腹膜炎によるショック死であるか否か)
2 Dの治療上の過失の有無(ドレーンチューブの管理の適否,胆汁性腹膜炎の診
断及びこれに対する処置の適否)
3 Dの説明義務等違反の有無(癌の不告知,術式変更についての説明,病状説明
に関する義務違背の有無)
4 損害及び損害額の算定
【当事者の主張】
1 争点1(Eの死亡原因)について
(原告らの主張)
Eの死亡は,7月15日のステント留置術が不適切で,このころから胆汁が漏出し
ていたにもかかわらず,後記のDの過失によりこれが放置されたため,胆汁性腹膜
炎となり,ショックを合併して重篤化したことが原因である。
(被告らの主張)
 (1)Eは,横臥のまま食事をすることが多く,拡張した食道内に食物が留まって
いたものと考えられるところ,死亡直前の気管内挿管時に食道内に黒褐色の不消化
物残渣が多量に認められたことからすると,7月20日午前6時20分ころ生じた
ショックは,このころ生じた誤嚥が原因となったと考えられる。とすれば,Eの直
接の死因は,誤嚥によるショックである。
(2)この点,原告らは,胆汁性腹膜炎によるショックが直接の死因であると主張す
る。
しかし,①本件においては,白血球の増多が見られず,発熱,呼吸障害はなく,血
圧は安定し,脈圧(収縮期血圧と拡張期血圧との差)も小さく,敗血性ショックを
疑わせる臨床症状はない。また,②同日の尿比重の上昇も,7月17日に施行した
CT検査の際に使用した造影剤の影響と考えられ,循環血液量の相当の減少は認め
られない。さらに,③血清電解質異常の点でも,急性汎発性腹膜炎の臨床症状は,
電解質(Na,Cl,K)の喪失が見られるとされているが,7月18日の生化学
検査では,Na,Clは低下しているものの,Kは上昇しており,必ずしも急性汎
発性腹膜炎を示唆するものではない。加えて,④腹膜炎ではハイパーダイナミック
ショックをとるとされているが,本件ではこのようなプロセスを経ていない。以上
によれば,Eの死亡
原因が胆汁性腹膜炎によるショックであるとは考えられない。
2 争点2(Dの治療上の過失の有無)について
  (原告らの主張)
(1)胆汁性腹膜炎に対しては,緊急に腹腔内の清浄化とショック防止のための治療
を行う必要があり,仮に限局性と判断される場合でも,早期に治療を開始すべきこ
とに変わりはない。
Eの血液検査の結果や腹部痛の状況,7月17日以降のPTCDチューブからの排
液量の減少,同日の腹部CT写真に見られる胆汁貯留の状態からすると,Dは,遅
くとも7月17日までには,チューブ脱落による胆汁漏出と,これによる汎発性胆
汁性腹膜炎への移行の危険性を認識し,①ドレーンチューブの再装着,腹腔内ドレ
ナージ等の胆汁性腹膜炎の原因除去のための処置,及び②輸液内容の改善,ショッ
ク防止薬の投与等のショック防止のための処置を開始すべきであった。
(2)しかるに,Dは7月19日午後8時ころに患者を診察するまで,Eの病状の悪
化にも気づかず,上記の処置をいずれも怠った。
(被告らの主張)
(1)7月15日のPTCD造影結果によれば,同日までPTCDチューブは先端が
胆管内にあり,側孔も肝内にとどまっており,胆汁は腹腔内に漏出しておらず,7
月15日以前は胆汁性腹膜炎を発症していないからDがPTCDチューブの再挿入
等を検討しなかったとしても過失はない。
(2)また,Dは,7月17日の腹部CT写真等を検討し,CTの所見からは腹膜の
癒着により横隔膜下から肝表面に限局されたスペースがあり,炎症が腹腔内に拡が
らない可能性が高いと考えられたこと,黄褐色の排便があり胆汁は十二指腸に流れ
ているものと考えられたことから,腹膜炎は限局性に留まると判断した。
胆汁性腹膜炎が発生した場合でも,腹膜が癒着して腹腔内のスペースが限局されて
おり,胆汁の十二指腸への流出に障害がなく,胆汁のドレナージも行われていれ
ば,汎発性腹膜炎に移行する可能性は低い。限局性腹膜炎に対しては,保存的治療
が原則であり,必ずしも緊急処置は要しない。
したがって,Dの措置に過失はない。
(3)原告らが主張する処置のうち,チューブの再装着については,7月15日にス
テント留置の試みが奏功せず,また,DがEに再度PTCDチューブ穿刺が必要で
あると説明したが,Eの理解が得られないため施行せず,肝内の肝表面近傍で留置
した。その上で,同月22日にPTCDチューブ再挿入を実施するために予約をし
たものである。7月17日時点では十分な肝内胆管の拡張がないため,医学的に不
可能であった。
(4)また,ショック防止措置については,7月18日に輸液内容を変更・補正し
て,タンパク製剤【PPF】を同日朝の点滴分から追加して投与した。また,患者
は,7月19日までの段階では,悪寒,発熱,頻脈などもなく,血圧も安定してい
たし,同日夕方には食物を経口摂取しており,翌朝のショックは予見できなかっ
た。
(5)以上により,被告医師が外科的処置をとらずにドレナージを続行したことに誤
りはなく,また,ショック予防のために可能な処置は尽くされていた。
3 争点3(Dの説明義務等違反の有無)について
(原告らの主張)
(1)Dは,7月2日,Fに対する術前説明の際,予定どおりに胆管膵等十二指腸切
除,胃部分切除,胃食道空腸吻合術の手術を行うが,膵頭部癌の疑いがあり,全摘
不能な場合もあり得ると述べ,術中に術式を変更する場合には手術室前で家族の了
解を得たいので待機して欲しいと要請した。
したがって,Dは,術式を変更する場合には術中に家族の了解を得る義務を負って
いた。
 ところが,Dは,7月3日の手術時,A,BらEの親族がDの指示に従い手術室
前にて待機していたにもかかわらず,術中にその了解を得ないまま,膵頭部の腫瘤
の切除を断念して術式を変更して手術を行った。
(2)また,Dは,6月27日,F及びBに対する説明の際,E及びAに対しては癌
の告知をしないことを約束したにもかかわらず,Dは,手術直後の午後3時ころ,
手術室前で,待機していたAらに対して,癌ができていたが予後を考えて摘出しな
かったと説明し,Aに癌の告知をしてしまった。
(3)さらに,Dは,主治医として,Eの病状を正確に把握し,家族に適切な説明を
すべき義務を負っていた。
しかし,Dは,7月19日夜に胆汁性腹膜炎に対する処置を行う際,Aに対しては
緊急開腹手術が必要であると告げたが,他方でFに対しては手術ではなくチューブ
の入替えを行うと説明するなど,態度が一貫せず,また,出張先にいたBに対し,
全身状態には問題ないとの楽観的な見通しを告げるなど,Dの家族に対する説明は
極めて不適切であった。
(被告らの主張)
Dは,術前の説明において,術中の判断で術式を変更することがありうるとは説明
したが,その場合に術中に家族の了解を得ると約束したことはない。
また,Dは,手術直後の親族に対する説明では,黄疸の原因はできものであり,切
除は困難であったと説明したが,Aが同席していたため,癌性腹膜炎での予後不良
であるとの説明はしなかった。
さらに,7月19日夜には,Aに対して病状・処置を説明しようとしたところ,F
及びBに説明してもらいたいとの希望であったので,両名の来院を依頼したが,B
は,非協力的な態度であり,帰阪に消極的であった。Bは,Dに対してEの全身状
態について質問したことはなく,Dが「大丈夫です。」などと答えたという事実も
ない。
4 争点4(損害及び損害額の算定)について
(原告らの主張)
(1)Eの損害
ア Eの余命
Eは,当時70歳の男性であり,平均余命は13.50年である。また,Eが,S
tageⅣbの膵臓癌であっとしても,余命は15か月あったと考えられる。
イ 逸失利益 2736万2580円
  Eの平成9年度の年収は,診療報酬が2288万1479円,産業医や校医と
しての給与収入が585万7565円であり,診療報酬の3割に相当する経費を差
し引いても,Eの年間の収入は2100万円を下らない。また,本件による死亡が
なければ,Eは少なくとも2年間は従来どおりの収入を維持できた。したがって,
   2100万円 × (1-0.3) × 1.8614 = 2736万2580円
         生活費控除  ホフマン2年
 が,Eの逸失利益である。
ウ 慰謝料  2500万円
Eは,Dの医療過誤がなければ,開業医,産業医,校医として,薬剤師である妻A
ら家族とともに悠々自適の生活を送ることができた。また,Dは,本件手術に先立
ち,開腹後膵臓癌の摘出する否かEの親族の判断を求めると説明したにもかかわら
ず,Eの親族の了解を得ないまま切断を断念しており,Eの自己決定権が侵害され
たものと評価できる。
これにより,Eが受けた精神的苦痛を慰藉するには2500万円が相当である。
エ 上記イ及びウの損害に基づく損害賠償請求権は,Aが相続した。
(2) 原告らの損害
ア 慰謝料 
(ア)Aにつき         600万円
Aは,夫EをDの医療過誤により失い,Aに対しては,Eが癌であるとしても,癌
であることを告知しないようBとFからDに伝えていたにもかかわらず,本件手術
終了後,Dは,Aに対し,Eが癌であることを告知した。
これにより,Aが受けた精神的苦痛を慰藉するには600万円が相当である。
(イ)Bにつき     200万円
Bは,父EをDの医療過誤により失い,また,Dの病状診断の誤りにより,Eの臨
終に立ち会えなかった。
これにより,Bが受けた精神的苦痛を慰藉するには200万円が相当である。
イ 葬儀費用(Aの損害)     200万円
ウ 弁護士費用(Aの損害) 650万円
(3)以上により,原告らは,Dに対して不法行為に基づき,被告法人に対して使用
者責任に基づき,Aにおいて6686万2580円,Bにおいて200万円の損害
賠償金及びこれらに対する不法行為の最終日の翌日である平成10年7月21日か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第3 当裁判所の判断
   (証拠につき,証人及び原告ら本人の調書については,口頭弁論期日の回数
及び供述者によって略記し,鑑定人川原田嘉文作成の鑑定書は,平成13年8月2
9日付けのものを「鑑定書」,平成14年2月26日付けのものを「回答書」とし
て引用する。)
1 事実経過
証拠(乙4,乙27,第2回・第4回被告D本人のほか各摘示事実末尾の証拠によ
る)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(1)Eの診療経過入院,検査及び診断
ア Eは,6月10日,日生病院内科外来を受診し,同月11日,黄疸,急性肝
炎,胆管炎の疑いにより,精密検査のため,日生病院第3内科に入院した(乙2
7・1頁)。
日生病院は,同日からEの精密検査を順次行い,その結果,Eにつき閉塞性黄疸で
あると診断した(第2回被告D本人・2頁)。
閉塞性黄疸とは,胆汁が生成される肝臓から十二指腸に至る肝外の胆管のいずれか
の場所において閉塞が起こり,胆汁が排泄されずに血管へ逆流することで,血管中
に総ビリルビン【TBIL】,直接ビリルビン【DBIL】等の胆汁成分が上昇す
ることにより生じる黄疸のことをいう。閉塞性黄疸が生じる基礎疾患の多くは,
癌,結石である(第2回被告D本人・2頁)。
イ そこで,日生病院では,閉塞性黄疸の基礎疾患の診断及び減黄[血中の胆汁性
分の減少]を目的として,6月17日,PTCDを施行した。これは,肝臓内の胆
管に針【PTBD針】を患者の皮膚を通して穿刺してPTCDチューブを胆管に挿
入することにより,胆管付近を造影をして診断をつけるとともに,PTCDチュー
ブから胆汁のドレナージ[排出]を行う術法である(甲5,甲6,乙4・81頁,
乙28,第2回被告D本人・2頁ないし5頁)。このとき挿入されたPTCDチュ
ーブは,7.2フレンチ【7.2F】のものであり,上部胆管【Bs】,中部胆管
【Bm】を越えて,下部胆管【Bi】まで達していた(乙4・10頁,81頁,第
2回被告D本人・4頁)。
同日以降,7月2日に至るまで,PTCDチューブを通して,一日平均約400ミ
リリットルの胆汁がドレナージされていた。なお,PTCDチューブからの胆汁の
排液量は,一日平均500ミリ前後のドレナージが平均とされ,日生病院の看護計
画でも1日500ミリリットルが目標とされていた(鑑定書・6頁,乙4・89頁
ないし93頁,129頁,第2回被告D本人・5頁,第4回被告D本人・17頁な
いし19頁)。
ウ 日生病院は,Eについて手術が必要であると判断し,6月18日,Eを外科と
の共観とし,DがEの主治医となった。また,同月30日には,Eの病室を内科病
棟から外科病棟へ転棟した(第2回被告D本人・2頁・5頁)。
エ 6月22日,より鮮明な造影を得るため,PTCDを再造影するとともに(乙
10,乙29),生検【バイオプシー】を実施したところ,胆管癌の疑い(グルー
プⅣ)と診断された。
なお,癌の診断のための区分として,グループⅠから同Ⅴまでが定められており,
グループⅤが癌の診断,グループⅣが癌の疑いを意味している(乙4・91頁,第
2回被告D本人・6頁ないし9頁)。
そして,同月25日に実施した血管造影の結果により,膵臓に繋がる動脈【PSP
DA】に浸潤を伴う胆管癌が疑われた。
このとき,PTCDチューブを7.2フレンチのものから10フレンチのものに入
れ替えた。この際も,PTCDチューブは,中部胆管を越えて下部胆管まで達して
いた。
(以上,乙10,乙27・2頁,乙29,第2回被告D本人・6頁,第4回被告D
本人・11頁)
オ しかし,6月30日にダイナミックCT検査を実施したところ,胆管癌よりは
門脈浸潤を伴った進行膵頭部癌が疑われた(乙4・85頁,第2回被告D本人・5
頁,9頁ないし10頁)。
(2)本件手術の実施
ア 上記診断結果を基に,Dらは,膵頭十二指腸切除及びアカラシアの根治手術を
行うこととし,7月3日午前9時ころから午後2時30分ころまで,本件手術を行
った(乙4・31頁,第2回被告D本人・10頁)。膵頭部の腫瘍は,門脈(PV
3)浸潤が見られ,上腸管膜静脈【SMV】を巻き込んでおり,また,術中に採取
した腹水の細胞診で癌が発見され,StageⅣbの癌であった。このため,D
は,膵頭癌の切除を断念した(鑑定書・6頁,回答書4頁,乙4・14頁ないし1
6頁,第2回被告D本人・11頁ないし13頁,39頁ないし41頁)。
なお,日本膵臓学会は,癌の治療方針の選択,予後判定などのため,膵癌取扱い規
約により癌のStage分類を定めており,進行度に応じてStageⅠ,Ⅱ,
Ⅲ,Ⅳa,Ⅳbに分類されている(甲14)。
イ Dは,膵癌の切除を断念したため,アカラシアの手術と幽門狭窄に対するバイ
パス手術のみを行い,胆管閉塞に対しては,後日ステントを留置することとした
(乙27・2頁,第2回被告D本人・14頁)。ステントの留置とは,PTCDチ
ューブを用いて胆汁を排出することに代えて,ステントというコイル様の形状記憶
金属の筒を入れて内瘻化する[胆管の内腔を維持して胆汁を胆管より排出すること
を可能とすることをいう。]術法のことである(甲6,第2回被告D本人・7頁,
14頁)。
(3)手術後の経過
ア 術直後の経過
7月3日以降,PTCDチューブからのドレナージは,平均で約200ミリリット
ルと減少した(乙4・93頁ないし99頁)。また,血液検査,生化学検査を行っ
たところ,白血球数[【WBC】。正常値は5.0-8.5。単位は103/μ
l。],C反応性タンパク[【CRP】。炎症の有無を示す。正常値は0.00-
0.40。単位はmg/l。],総ビリルビン[【T-Bil】。正常値は0.3
-1.0。単位はmg/dl。]の検査値は以下のとおりであった(以下,単位は
いずれも省略する)。
     7月3日 7月4日 7月6日 7月10日 7月14日
WBC   22.73  12.61  9.98   11.53  13.85
CRP   1.54  14.48 18.96   5.72 28.53
T-bil1.7 1.71.61.62.9
(乙4・36頁,37頁,39頁,40頁)
イ 7月11日,手術時に挿入したドレーン及び経鼻チューブを抜去した。この際
抜去したドレーンについて細菌検査を行ったところ,汎発性腹膜炎の起炎菌となる
エンテロコッカスフェカーリス[腸中菌の一種]が(+)と検出され,菌の存在が
疑われた(甲2・377頁,乙4・75頁,乙6・213頁)。
ウ ステント留置の試み
日生病院の放射線科の医師は,7月15日,ステントを留置するため,まず造影を
行った(乙15,乙30,第2回被告D本人・15頁)。このときの造影写真で,
6月22日には下部胆管まで刺さっていたPTCDチューブが,上部胆管から肝門
部胆管【Bp】の付近まで抜けており,肝外で屈曲していた。同医師は,ガイドワ
イヤーをPTCDチューブを通じて上部胆管,下部胆管胆管【Bi】から十二指腸
まで挿入し,一度PTCDチューブを抜去した。そして,ガイドワイヤーに沿って
ステント留置を試みたが,屈曲のためステントの挿入はできなかった。このため,
再度,PTCDチューブを挿入することを試みたが,屈曲が強いため挿入できなか
った。
  放射線科の医師は,Dに相談の上,Eに対して再穿刺の必要性を説明したが,
Eの了承が得られなかったため,PTCDチューブを肝内胆管に到達させることが
できないまま,肝内の肝表面近傍まで挿入した位置に留置し,その状態でドレナー
ジを行うこととして処置を終えた。
7月15日には,Eは右側腹部痛を訴え,ボルタレン坐薬が二度処方された。
(以上,乙4・110頁,157頁,乙10,乙15,乙27・2頁,乙29,乙
30,第2回被告D本人・14頁ないし19頁,同調書末尾添付図面)。
(4)7月16日以降の経過
ア 7月16日の経過 
PTCDチューブからの排液量は,7月16日に約205ミリリットルであり,透
き通った胆汁が排出されていた。また,黄褐色の排便が見られた。
Eは右側腹部痛を訴えたので,ボルタレン坐薬が午前11時20分と午後10時の
2回処方された。しかし,発熱は見られなかった。
Dは,膵臓癌の肥大等を考慮して,7月17日に腹部CT検査を行うことにした。
このころから,尿量は,1日当り1000ミリリットル近くあった状態から,減少
し,16日は300ミリリットル+α,17日は235ミリリットル+α,18日
は400ミリリットルと減少しており,尿比重も,15日は1.003,16日は
1.004であったものが,17日は,1.057,18日は1.038と増加し
ていた(いずれも7月)。
(以上,乙4・19頁,97頁から98頁,乙27・2頁から3頁,第2回被告D
本人・19頁ないし21頁)。
イ 7月17日の経過
日生病院では,上腹部CT検査を実施した。この際のCT検査の画像では,肝前面
に胆汁の貯留が確認できる。
同日のPTCDチューブからの排液は20ミリリットルのみであった。
Eは,午後2時ころに右腹部痛を訴え,午後2時50分ころボルタレン坐薬が処方
された。また,Eは,午後10時ころ再び右側腹部痛を訴え,ボルタレン坐薬が処
方された。
しかし,Eは,午後11時45分ころ,今まで痛みのなかった左下腹部から左腰に
かけての痛みを訴え,苦痛様を頻貌したため,午後11時55分ころ,当直医が診
断し,左下腹部圧痛,左腰痛が認められたので,午後12時ころ,ボルタレン坐薬
が処方された。
(以上,鑑定書・5頁,回答書・5頁,乙4・97頁・157頁,158頁,乙1
6ないし乙19,乙27・3頁,第2回被告D本人・26頁)。
ウ 7月18日の経過
日生病院は,血液検査,生化学検査を行ったが,いずれも7月14日の検査結果と
比較して悪化傾向にあった。(なお,白血球数は,増加すれば感染の悪化を示す
が,著減した場合には重篤な感染が疑われる(回答書・8頁,甲2・376
頁))。
7月14日   7月18日
WBC13.85  2.8
CRP28.5337.78
T-bil     2.9      3.8
また,Na,Clが減少し,Kが上昇する電解質異常を起こすとともに,血中尿素
窒素【BUN】値も上昇していた。
さらに,PTCDチューブからの排液量は,5ミリリットルと著減していた。
Dは,7月17日のCT検査の画像を検討し,限局性ながら胆汁性腹膜炎を発症し
ていると診断した。
Eは,午前中から午後にかけては腹痛を訴えなかったが,午後10時40分に左下
腹部痛を訴え,ボルタレン坐薬が処方された。
(以上,乙4・36頁から41頁,97頁,158頁,乙27・3頁,第2回被告
D本人・26頁から27頁)
エ 腹腔ドレナージの施行(7月19日)
7月19日の夕方ころから,EのPTCDチューブからの排液の性状が,胆汁から
黄色腹水に変化し,腹部が膨満して腹水の貯留を疑わせた。また,PTCDチュー
ブ挿入部で漿液性で黄土色膿様の汚染が認められた。Dは,午後8時ころにEを診
察し,PTCDチューブの脱落により漏出した胆汁が腹腔に拡がって汎発性腹膜炎
を起こしたものと判断した。
このため,Dは,開腹手術を行う必要があると考えて,Aに対しその旨の説明を行
うとともに,副院長ともEに対してとる措置を相談をしたが,Eの予後等を考慮
し,Eの開腹手術を行わないこととし,ペンローズドレーンによるドレナージを行
うこととした。このころ,Dは,F,Bそれぞれに対して,Eの開腹手術を行わ
ず,ドレーンによるドレナージによって対処する旨を説明した。
  Dは,同日午後10時30分ころ,正中創を切開し,PTCD挿入部からペン
ローズドレーン2本を挿入した。この時,ペンローズドレナージからは,200ミ
リリットルの排液を確認された。
(以上,乙4・20頁,159頁,乙27・3頁から4頁,乙20,乙21,第3
回証人F・6頁,第3回原告B本人・7頁ないし9頁,第2回被告D本人・26頁
ないし30頁,第4回被告D本人・24頁ないし37頁)。
(5)ショックから死亡に至るまでの経過(7月20日)
7月20日午前3時ころ,日生病院看護婦がEを訪室したところ,Eに不可解な発
言が見られ,幻覚があった。また,午前5時ころ,Eは呼吸困難もなく,酸素飽和
度は98パーセントで正常値であったが,灰色便があった。
ところが,Eの容態は午前6時20分ころに急変し,酸素飽和度は70パーセント
に低下し,呼吸困難となり,血圧は低下し,末梢に冷感が見られ,チアノーゼが発
現した。
Dは,Eの急変を知らされ,午前7時30分ころに日生病院に到着し,Eを診断し
たところ,呼吸が困難で,血圧が低下しており,ショック状態となっていた。この
ため,Eを処置室に移し,午前8時30分ころから,バルーン留置,動脈ライン確
保,中心静脈ルート作成等の処置を行い,昇圧剤,タンパク製剤等の投与を行っ
た。
午前11時10分ころ,気管内挿管が行われ,その際,気管内に黒褐色の不消化物
残渣が多量に認められた。
Eは,午前11時15分ころ,心停止,呼吸停止となり,心臓マッサージ等の蘇生
術にも反応せず,午前11時30分ころ,死亡が確認された。
(以上,乙4・22頁,160頁から161頁,乙27・4頁から5頁,第2回被
告D本人・30頁ないし32頁,第4回被告D本人・33頁ないし40頁)
2 争点1(Eの死亡原因)について
(1)汎発性腹膜炎発症時期について
ア 医学的知見
文献[新外科学大系25巻A(乙6・1991年発行),今日の治療方針 1993年版
(甲4),今日の診断方針(甲1・1992年発行)]及び鑑定書,回答書によれば,
汎発性腹膜炎については以下のとおり認められる。
(ア)原因
腹膜炎の原因としては,臓器の疾病の外,医原性のものがあり,PTSDチューブ
の抜去も医原性の原因の一つに挙げられる。
(イ)臨床所見
顔貌は発症とともに苦悶状を呈し,進行とともにやや和らぐ。
初発時,反射的な嘔吐が見られることがあるが,炎症が進むと嘔吐が見られるよう
になる。
また,発症初期には発熱は見られないが,進行とともに発熱が見られる。老人,体
力低下状態にある患者では,発熱は見られないこともあり,あっても軽度である。
病初は,呼吸が浅く,頻回となる。病勢が進むと呼吸障害が起こる。
循環機能については,激痛による神経性ショックが見られ,放置すれば細菌性ショ
ックといった症状となる。
血液所見としては,白血球の増多は必発の所見である。敗血症に進行すれば白血球
の増多は著明となる。
電解質の喪失が見られ,腸液貯留が進むと多量のカリウム喪失が進行する。
(ウ)なお,限局性腹膜炎は,汎発性腹膜炎と症状等が共通しているが,限局性腹膜
炎は,疼痛部が限局し,自発痛,圧痛ともに弱い点で汎発性腹膜炎と異なってい
る。
イ 争いのない事実,前記認定事実によれば,Eの状況について以下のとおり認め
られる。
7月3日以降,胆汁が十分に排出されなくなっていた(したがって,そのころPT
CDチューブが逸脱していたものと推認できる。)ところ,同月15日にPTCD
チューブを再挿入できず肝外で留めたため,同月17日にはPTCDからほとんど
排出されなくなっていた。また,7月3日以降,総ビリルビン値は正常値を上回っ
ており,同月14日,同月18日と著しく増加していた。そして,同月19日に
は,黄土色膿様の胆汁がドレナージされている。
Eは,同月15日,腹痛を訴えて二度ボルタレン坐薬を投薬され,同月16日には
二度右側腹部痛を訴えてボルタレン坐薬を処方され,同月17日にも,二度右腹痛
を訴えて午後2時50分と午後10時にボルタレン坐薬を処方された。さらに,同
日,Eは,左下腹部痛を訴え,苦痛様頻貌し,左下腹部圧痛,左腰痛が見られたの
で,当直医により午後12時ころ,ボルタレン坐薬が再度処方された。このように
同月17日には痛みは腹部全体に拡がっていたが,同月18日は痛みは自制できる
範囲に治まるようになった。
白血球数,C反応性タンパクは,同月14日に増加に転じ,同月18日には白血球
が著減し,重篤な感染状態となっていた。
同月16日から同月18日にかけて,尿量が減少しており,同日には尿比重,血中
尿素窒素が上昇していて,循環血液量の相当の減少があった。
また,7月17日のCT検査結果では肝前面に胆汁が貯留している。
発熱は確認されていないが,原告は70歳と高齢であり,解熱作用あるボルタレン
坐薬が同月16日から頻回に処方されているため,発熱があったかどうか判然とし
ない。
ウ 以上を総合すると,7月3日以降,胆汁のドレナージが不全となっていたとこ
ろ,同月16日ころには胆汁がほとんど体外にドレナージされていないこと,同月
14日には,Eの症状が悪化しており,同月17日には,胆汁の貯留が確認でき,
同月18日の夜には腹部全体に腹痛が拡がり,圧痛もあったのであり,炎症が重篤
化していたものとうかがわれるから,少なくとも同日15日には胆汁性腹膜炎が発
症し,同月17日夜ころには,汎発性腹膜炎が発症したものと認められる(鑑定
書・3頁,回答書・2頁参照)。
エ 被告らは,白血球の増多が見られないと主張するが,7月14日には白血球は
増多しており,同月18日の白血球数の著減(正常値を下回っている)について
は,重篤な状態のもとで著減したものと評価できるから,上記認定に反するもので
ない。また,発熱がないという点についても,上記判示のとおり,高齢者には発熱
が見られないことがあるとされている上,解熱作用あるボルタレン坐薬が投与され
ていたのであるから,前記認定に反するものでない。血圧が安定し,脈圧も小さく
ないとしても,前記認定を覆すに足りるものではない。
さらに,尿比重の上昇について,被告らは造影剤の影響を指摘するが,上記認定の
とおり,輸液が十分になされている中で尿量が減少しており,被告らの指摘は当を
得ない。
被告らは,電解質のカリウムは上昇していたと主張し,汎発性腹膜炎でカリウムが
減少するとされている(乙4)ことと矛盾すると主張するが,他の文献(甲1,甲
4)にはこのような記載がなく,実際電解質異常は生じていること,高カリウム状
態は,胆汁性腹膜炎が重症化した場合に見られるものであること(回答書・9頁)
からして,被告らの主張は採用できない。
加えて,被告らは,腹膜炎でハイパーダイナミックが必見であると主張している
が,後記医学的知見によれば,重篤化した場合ハイパーダイナミックをとらないと
いうものであるから,上記認定を覆すに足りるものではない。
オ したがって,Eは,7月15日に胆汁性腹膜炎を発症し,同月17日の夜には
汎発性腹膜炎となっていたものと認めることができる。
(2)Eの死亡原因について
ア 前記認定のとおり,Eは,7月20日午前6時20分ころに,酸素飽和度は7
0パーセントに低下し,呼吸困難となり,血圧は低下し,末梢に冷感が見られ,チ
アノーゼが発現したことが認められるから,Eは,敗血性ショックによりハイポダ
イナミックショックを生じて同日死亡したものと認められる(鑑定書・2頁,回答
書・10頁参照)。
イ 医学的知見
文献[ショック患者における対応(甲2・1989年10月),新外科学大系5巻(乙
3・1990年)]及び鑑定書,回答書によれば以下のとおり認めることができる。
(ア)ショックは,①循環血液量減少性ショック,②心減性ショック,③細菌性ショ
ック,④神経原性ショック,⑤アナフィラキーショックに分類される(甲2・37
1頁)。
(イ)細菌性ショックでは,ハイパーダイナミックショックが多いものの,ハイポボ
ヘミア[循環血液量が減少した状態]・心筋の疲労下ではより重篤なハイポダイナ
ミックショックとなる(甲2・373頁,回答書・10頁・同添付資料3)。
(ウ)ハイパーダイナミックショックは,感染症で最も特徴的とされる循環動態の異
常で,発熱,末梢血管の拡張である(乙3)。
(エ)ハイポダイナミックショックでは,冷感,チアノーゼ,皮膚蒼白の症状が見ら
れる(回答書添付資料・3・956頁)。
(オ)汎発性腹膜炎が進行すると敗血性ショックに至り,死亡することもある(鑑定
書,甲3)。
ウ Eのショックの原因
前記判示のとおり,Eは,7月15日には胆汁性腹膜炎,7月17日には汎発性胆
汁性腹膜炎を発症していたものであり,Eのショック症状は,ハイポダイナミック
ショックによるものであるところ,7月18日には感染症が重篤化していたこと,
循環血液量が減少していたことが認められるから,Eのショック死の原因は,7月
17日に発症していた汎発性胆汁性腹膜炎であると認められる(鑑定書3頁,回答
書参照)。
エ 被告らの主張について
被告らは,7月20日にEがショックとなったのは,誤嚥によるものであると主張
する。
確かに,証拠(乙4,第2回・第4回被告D本人)によれば,Eは同月20日午前
3時ころに少量の嘔吐をしたこと,同月20日午前11時ころの気管挿入をした際
食道内に残渣があったこと,呼吸を確保するために食道から1.5リットルの吸引
をしたこと,Eはアカラシアの手術を受けており誤嚥の危険があったことが認めら
れ,誤嚥があったことは確かであるが,一方,証拠(乙4,第3回原告A本人)に
よれば,Eは,7月16日,同月17日と絶食しており,19日も一度しか食事が
できていない状態で,同月20日まで嘔吐を繰り返したということではないと認め
られるから,同日午前6時30分ころに,Eが気道閉塞を起こす程度の誤嚥をした
とまでは認め難い(鑑定書・3頁参照)。
加えて,上記(1)の汎発性腹膜炎の医学的知見によれば,汎発性腹膜炎でも嘔吐が起
きるのであるとされているから,嘔吐と汎発性腹膜炎が認められることは矛盾する
ものでない
以上の事情を総合して判断すれば,Eのショックが,誤嚥によるものであるとは認
めることができない。
(3)したがって,Eの死因は,汎発性腹膜炎によるショック死であると認めること
ができる。
3 争点2(Dの治療上の過失について)
(1)Dの地位
前記認定事実によれば,Dは,6月30日からEの主治医となっていたものであ
り,7月3日の本件手術で執刀をした外科医である。また,PTCDチューブの挿
入は,7月3日の手術の術前処置としたものであって,その後のPTCDチューブ
からのドレナージについても,術後管理として行われていた。さらに,Eは,6月
30日以降,外科病棟に入院をしていたものである。
したがって,Dは,Eの主治医として,Eの症状を診察するとともに,日生病院に
おいて,他の医師や看護師らを監督してEの術後管理をし,適正な治療行為を選択
すべき地位にあったものである。
(2)Dの治療上の過失
経皮経肝的にドレナージをしている場合には,PTCDチューブの逸脱による胆汁
性腹膜炎発症の危険性は,当該術法を記した文献に必見の記載であり(甲3の1,
甲3の2,甲5,甲6,乙6),日生病院の看護計画でも,繰り返し記載されいる
(乙4・120頁[内科],128頁[外科])。
しかるに,Dは,前記判示のとおり,Eが7月3日の手術以降,ドレナージ量が減
少し,同月14日には,血液検査結果が悪化しており,同月15日にはステント留
置が失敗してPTCDチューブを肝外に留置してドレナージができておらず,同月
18日には重篤な感染状態であるとの検査結果を得ていたものである。
したがって,Dは,同月3日以降にPTCDチューブからの胆汁のドレナージ量が
十分となるような措置をとるべき注意義務があり,また,同月15日以降について
は,感染症を軽減するための治療をすべき注意義務があったというべきである。
にもかかわらず,Dは,7月3日以降にPTCDチューブからのドレナージ量が十
分でないことについて,同月15日にステント留置するまで何ら治療行為を行って
いない。また,Dは,同月18日に生化学検査,血液検査の結果を踏まえて輸液の
変更などの措置をとっていたものの,同月18日にはまだ限局性の胆汁性腹膜炎と
認識して感染症の対策はとらず,同月15日以降の胆汁性腹膜炎に対して抗生物資
の投与,外科的術法の実施などの必要な措置を講じていないものである。
前記判示のとおり,Eは,同月15日までは胆汁性腹膜炎を発症していないのと認
められるから,同月15日以前にドレナージ量が500ミリリットルとなるように
管理をすれば,細菌感染を防ぐことができたものであり,相当高度の蓋然性をもっ
て救命することができたものと推認できる。また,前記判示のとおり,同月18日
に至るまでは,胆汁性腹膜炎は未だ限局的であったと認められるので,同月15日
以降の腹膜炎発症については,早期であれば抗生物質の投与等による感染対策をと
ることで,また,18日以前であれば,感染源となった胆汁のドレナージをするこ
とでその後の腹膜炎の増悪を防止できるから,高度の蓋然性をもって救命すること
が可能であったと推認できるものである(鑑定書・6頁,回答書・14頁,甲1・
672頁,甲3・7
61頁,乙6・224頁から225頁)。
しかし,Dは,いずれの措置もとらず,その結果,Eは,7月15日には胆汁性腹
膜炎を,同月17日は汎発性胆汁性腹膜炎を発症して,同月20日にショック死し
たものである。
したがって,Dは,上記注意義務違反によりEを死亡させたものであると認めるこ
とができる。
(3)被告らの主張について
ア 被告らは,7月15日までは,PTCDチューブは先端が胆管にあり,側孔も
肝内にあったので,胆汁が腹腔内漏出することなく,十分にドレナージもできてお
り,7月15日に胆汁性腹膜炎を発症していなかったと主張する。
しかし,前記認定のとおり,7月3日以降ドレナージ量は半減し,また,同月17
日以降,ほとんどドレナージされなくなっていたこと,証拠(乙28)によれば,
逸脱したPTCDチューブからドレナージされることもあると記載されているに過
ぎず,本来は胆管内に挿入されていてなければならないものであることが認められ
る。したがって,被告主張のPTCDチューブの先端が胆管にあり,側孔が肝内に
あったとしても,7月15日以前にPTCDチューブは逸脱をして,ドレナージが
十分になされなくなったとともに,胆汁が腹腔内に漏出していたこと,及び,7月
15日には胆汁性腹膜炎を発症していたことを認めることができるから,7月3日
以降のPTCDチューブの管理にDの過失がなかったものとは認めることができな
い。
イ次に,被告らは,7月17日のCT検査の結果,腹膜が癒着して腹腔内のスペ
ースが限局され限局性腹膜炎にとどまるとDは診断したものであるから,Dに過失
はないと主張する。また,被告らは,7月17日の時点では,十分な肝内胆管の拡
張がないため医学的にPTCDチューブの再装着は不可能であったと主張する。
しかし,前記判示のとおり,7月17日の深夜には腹痛は下腹部全体に拡がってい
たこと,7月18日の血液検査の結果では,白血球数が正常値よりも低下する著減
を示すなど症状の悪化を示していたのであるから,7月17日のCT造影におい
て,限局した胆汁性腹膜炎であると読影できるとしても,他の臨床所見,検査結果
を踏まえて総合的に見れば,7月18日には汎発性腹膜炎を発症していたことを認
識することができたものであり,Dの過失が否定されるものではない。
また,前記判示のとおり,7月3日の手術以降,PTCDチューブからのドレナー
ジ量は半減していたのであるから,Dは,7月3日以降同月15日に至るまでにP
TCDチューブの再装着をすべきであり,7月17日の時点のことを問題とする被
告の主張には理由がない(なお,証拠(乙4)によれば,D医師は,7月16日の
カルテに「CTみてPTC-redo【再試行】来週ask【依頼】」との記載を
しており(乙4・19頁),DがPTCDチューブの再挿入を行わなかったのは,
CTの造影写真による診断をした結果であるかは疑問がある。)
ウ また,被告らは,Dが7月15日,Eにステント留置後のPTCDチューブ再
挿入を申し入れをしたのに,Eから拒否されたもので,同月19日には再挿入のた
めの手術を予約しており,Dに過失はないと主張する。
しかし,前記判示によれば,Dは,同月15日ステント留置が失敗した後も再挿入
したPTCDチューブからのドレナージができると判断していたものである。この
ように,Dは,PTCDチューブが抜けたことによる感染の危険性があって,場合
によって死に至るとの認識を欠いたまま,Eに対してステント留置失敗後のPTC
Dチューブの再挿入の同意をするように説明したものにすぎない。
したがって,Eとしては,PTCDチューブの再挿入をしないと,胆汁性腹膜炎を
起こして死亡する危険性があることを認識せず,また,認識する可能性もなかった
ものである。
そうだとすれば,Eは,胆汁性腹膜炎を発症する危険を知ってPTCDチューブの
再挿入を拒否したものでないから,Dとしては,Eに対して,PTCD再挿入を7
月15日にしなければ,胆汁性腹膜炎を発症して,場合により死亡する危険がある
などの事情を説明してEから同意を得られるように求めるべきであって,Dが不十
分な認識のままでPTCDチューブの再挿入の必要性を説明し,Eがこれを承諾し
なかったとしても,Dは術後管理に関する注意義務を免れるものではないと解され
る。
エ さらに,被告らは,7月18日に輸液の変更等の措置をとっており,Eがショ
ックとなったのは突然の出来事であって,予見できなかったと主張する。しかし,
Dの措置は,汎発性腹膜炎を前提とした措置でないことは前記判示のとおりであ
り,Eがショックになったことを予見できなかった点についても,汎発性腹膜炎を
発症したことを的確に診断しておれば,上記医学的知見によれば,十分にショック
になることも予見できたものである。
オ 以上のとおり,被告らの主張はいずれも採用できない。
(4)したがって,Dは,前記(2)の注意義務に違反してEの死亡の結果を生じさせた
ものであるから,Eに対して不法行為に基づく損害賠償責任を負うものである。
4 争点3(Dの説明義務違反)について
(1)Dの説明内容について
証拠(第3回・第4回証人F,同原告A本人,同B本人,第2回・第4回被告D本
人)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実を認めることができる。
ア 7月3日の術前説明について
6月27日,Bは,Dに対して,E及びAに癌であることを告知をしないように依
頼し,Dは,本来日生病院では告知をしていると説明をした上で,Bの依頼を承諾
した。
Dは,7月2日,E,Aに対し,癌であることは言わないで手術をすることの説明
をした。Dは,その後,Fに対して,根治手術を目指して膵臓癌手術をすること,
切除することを目指すが,予後のことを考えて切除しないことがあること,根治手
術ができない場合あるいは根治手術から危険が生じることがあることを説明し,万
が一のことを考えて手術中に原告らも待機して欲しいと言った。これを聞いて,F
は,Dが癌の切除をするかどうかの判断を原告らに委ねたものと理解し,Bに,切
除しない場合には承諾を求めるとDが言っていると伝言した。
7月3日,Fは,午前9時にEが手術室に入室したのを見届けて,午前10時には
病院を出て,午後1時に自宅に一度帰宅した。
イ 7月3日の術後説明について
Dは,手術を終えて手術室を出たところ,手術室前に,Bがいたので,手術内容を
説明しようとしたところ,Aもおり,Bとともに説明を受けにきた。このため,D
は,原告らに対し,膵臓に悪いものができていて,これを取らなかったというよう
に説明をし,癌であるとは言わなかった(第2回被告D本人・14頁,第4回B・
4頁)。
ウ 7月19日のBに対する説明
7月19日ころ,Aは,DからEの開腹手術が必要であるかも知れないと説明され
たので,午後9時ころ,Bに連絡をした。Bは,午後9時30ころ,Dに連絡をし
たところ,Dから,PTCDチューブが抜けたが開腹はしないで様子を見ると説明
した(第3回原告B本人5頁ないし9頁)。
(2)Dの説明義務違反について
ア 原告らは,Dが手術中に根治手術をしない場合には,原告ら家族の承諾を得る
と説明したがこれに反したと主張する。
しかし,Dは,膵臓癌の切除をするか否かの判断が必要となるのは,開腹後の状況
に鑑み,切除が技術的に可能であっても,医師として切除しない方がEの予後のた
めにはかえってよいと診断できる場合であると考えていたというのであり(第4回
被告D本人・9頁ないし13頁),それ自体としては妥当な見解というべきであ
る。とすれば,そのような状況下における切除をしないことの判断は,執刀医であ
るDこそが行うべき事柄であって,原告ら家族の要請もないのに,あえてDの方か
ら,原告らに対し,切除をしないことの承諾を求めるために,手術室の前で待機す
るよう要請するというのはたいへん不自然なことである。
以上からすると,Dが,癌の摘出手術を家族の承諾を得てから行うと説明したとの
証人Fの証言は採用できず,この点に関する原告らの主張も認められない。
イ また,原告らは,DにAに対してEが癌であることを告知しないように依頼し
ていたにもかかわらず,7月3日の手術後,Eが癌であることを告知したと主張す
る。
しかし,前記認定事実のとおり,Dは,Aがいる前では,癌であるとは言わずに
「悪いものができている」として癌であることを告げない配慮をして説明している
ものであるから,DがAに癌であることを告知したものとは認められない。もっと
も,「悪いものができているが,取らなかった。」といえば,一般人でも癌を疑う
ことができるであろうことは容易に予想できるとも言い得る。しかしながら,手術
直後にBに伴ってDの説明を聞きに来たAに対し,Dが,Aのみを排除して手術内
容を説明することはきわめて不自然であり,その場面で事実に反した説明をするこ
とも困難と言うべきである。Bらにおいて,手術後においてもAにEが癌であるこ
とを悟られないことを強く望むのであれば,むしろ,医師であるBにおいてこそA
をその場に立ち会わせ
ないよう配慮すべき事柄であったはずである。そもそも,Aは,自分自身が薬剤師
である上,開業医であるEの手伝いをしていた者であるから(甲7),Aに対して
癌であることを悟られないように配慮することには自ずから限界がある。
以上を総合すれば,Dの手術直後の発言をもって,Aに対して癌を告知しないよう
にする義務に反したものとは認めることはできない。
ウ さらに,原告らは,7月19日,Bに対して,Eが重篤であることを説明すべ
きであったのにもかかわらず,説明しなかったと主張している。
上記認定事実のとおり,Dは,7月19日にBに対して,Eの状態が汎発性腹膜炎
で先行きについて良くないことの説明をしておらず,また,当日の対処方針も当初
の開腹手術からチューブによるドレナージに変更し,これに応じて説明内容も一貫
しなかったことがうかがわれるものであり,Eの病状説明として不十分であったと
認めることができる。
したがって,Dは,Bに対して,Eの病状を説明すべき義務があったのに十分に説
明しなかったものであると認めることができる。
5 争点4(損害及び損害額)について
(1)上述のとおり,Dは,EのPTCDによる胆汁の排出の管理を怠ったこと等に
より,同月20日にEが死亡するに至らせた過失及び病状説明の義務違反があり,
かかるDの過失ないし義務違反に基づく損害があれば,Dとその使用者である被告
法人は連帯してそれを賠償すべき責任を負う。
ここで,前記認定事実のとおり,Eは,7月3日の手術時点において,Stage
Ⅳbの膵臓癌であり,摘出手術ができなかったものである。このような場合,証拠
(鑑定書,回答書,乙26)によれば余命期間は最高でも15か月であり,約4割
の人が2月以内に,2割近くの人が4か月以内に,約2割の人が6月以内に,残り
の人の多くが10か月以内にその命を終えることを強いられているものである(回
答書・添付資料2,乙26)。
したがって,上記認定事実を総合して,Eの平均余命は5か月である算出するのが
相当であり,これに従い,以下,原告Eの損害を算定することとする。
(2)そこで,以下,Eの損害について順次検討する。
ア 逸失利益 821万円
原告らは,Eの年収は少なくとも2100万円であり,2年間は従来どおり収入を
維持できたと主張する。
証拠(甲10,甲11)及び弁論の全趣旨によれば,平成8年及び同9年の所得税
申告に基づくと,診療報酬としての平均収入は約2400万円あったが,経費支出
も少なくとも約1000万円あるから,診療報酬による実収入は1年で約1400
万円であったものと認めることができる。また,Eは,産業医,校医としての給与
所得が1年間で約571万円あったものと認められる。
しかし,前記判示のとおり,EはStageⅣの進行性癌であって,Eの余命は約
5か月であったものと認められるから,Eの逸失利益としては上記1年の収入合計
1971万円の約5か月分である821万円をもって相当と認める。
イ 慰謝料                 1500万円
前記認定事実のとおり,Eは,当時70歳の男性であるが,地域の開業医として,
あるいは,校医・産業医として,社会的な信頼や尊敬を得て,これに生き甲斐を感
じて生活を送っていたことが偲ばれるところ,本件手術の術後管理が不適切であっ
たことから死亡に至っており,同人が著しい精神的苦痛を受けたであろうことは容
易に推察できるところである。他方,本件手術がEの進行癌のために膵臓癌の根治
という当初の目的を達することが不可能な手術であったこと,患者の予後の見通し
等諸般の事情をも考慮する必要がある。これらを総合すれば,Eの慰謝料としては
1500万円をもって相当と認める。
(3)原告らの損害
ア 慰謝料
さらに,原告らは,原告ら固有の損害を主張するところ,Dの説明義務違反は,B
に対して7月19日にした説明について認められる。
しかし,これを含めて,A,Bの固有の精神的苦痛は,Eが不慮に死亡したことに
端を発するものであるから,Eの精神的苦痛が慰謝されれば,通常は原告らの精神
的苦痛も慰謝されるものであり,原告ら独自に遺族固有の慰謝料を請求できるの
は,原告らが独自にDの過失により精神的苦痛を被ったといえる特段の事情がなけ
ればならないと解される。
そうであるところ,上記Bに対する説明義務違反は,Eの状態についてのDの判断
の誤りという,Eの治療上の違反と同一の原因に基づくものであって,Dの説明義
務違反は独自にBに対する精神的苦痛を与えたものとは評価できず,その他,原告
らとの関係でDの治療行為が原告らに独自に精神的苦痛を与えた特段の事情がある
とまでは認めることはできない。
したがって,本件で,原告ら固有の慰謝料請求を認めることはできない。
イ 葬儀費用120万円
葬儀費用については,妻であるAについて,120万円をもって相当と認める。
ウ 弁護士費用244万円
一件記録から,原告らが代理人弁護士に本件訴訟の追行を委任したことが認めら
れ,本件訴訟の経過,認容額等諸般の事情を考慮すると,相当因果関係のある損害
として認めるべき弁護士費用は,Aについて244万円をもって相当と認める。
(4)原告らの認容額
原告らは,Eの損害についてはAが全て相続したと主張するところ,これに沿う遺
産分割協議書等的確な証拠はないものの,被告らもこの点について特段争うもので
はなく,弁論の全趣旨によってこれを認めることとする。
そうすると,原告らの被告らに対する請求は,Aに対する2685万円の不法行為
及び使用者責任に基づく損害賠償金及びこれに対する平成10年7月21日から支
払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を請求する限度で理由がある
から,その限度でこれを認容し,Aのその余の請求及びB請求は理由がないからこ
れを棄却することする。
よって,主文のとおり判決する。 
大阪地方裁判所第13民事部
裁判長裁判官 塚本伊平
裁判官上杉英司
 
裁判官小山恵一郎

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