弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人四宮久吉同小川徳次郎の上告趣意第一点について。
 原判決が判示事実を認定する証拠の一つとして原審証人Aの証言を引用している
ことは所論のとおりである。そして右証人は連合国軍隊に所属する連合国人である
こと及び原審において右証人を訊問するに際し裁判長が偽証の罰を告げて宣誓を為
さしめたことは原審公判調書の記載により明かである。しかし連合国軍隊に所属す
る連合国人でも日本の裁判所の法廷で証人として訊問し得ない訳ではない、唯連合
国人はその意思に反して強制的に証人としてこれを訊問することはできないが任意
に出廷して証人として供述する場合は日本の裁判所がその者を訊問して差支えない
のである又日本の裁判所がそれ等の者を宣誓せしめて訊問できるかどうかの問題に
ついては裁判所はその証人に対して訊問前に宣誓することを欲するかどうかを聞い
て証人が宣誓することを欲すると答えた場合には宣誓の上訊問することができるの
である、但しこの場合でも裁判所はその証人に対して偽証の罰を告げることは許さ
れないのである、そこで原審公判調書をみると前記の証人は在廷証人として立会検
事から訊問の請求があつたもので原審は右請求を容れて同証人を宣誓せしめて訊問
したのであるがその訊問が証人の意思に反して強制的に行われたものであるとみら
れる事跡はすこしもないのである、又右宣誓に際して裁判長が宣誓を欲するかどう
かを聞き証人が宣誓を欲する旨答えたかどうかの点については公判調書には何等の
記載はないが裁判長が宣誓を強いたものとは認められないから右証人は自ら進んで
宣誓したものと認められるのである、ただ原審裁判長は右証人に対し偽証の罰を告
げているのであるが連合国人の偽証罪を日本の裁判所において審判し得べきもので
はないのであるから偽証の罰を告げることは許されないのである、しかしそのこと
のために同証人の証言の証拠能力を否定し去るべきではない。然らば原判決が右証
人の証言を本件事実認定の証拠としたことは正当であつて論旨は理由がない。
 同第二点について。
 しかし原判示第一の事実は被告人BはGHQの自動車運転手であつた当時昭和二
十二年十月二十九日東京都文京区a町b番地の被告人C方前で自己の運転しておる
ジープ内から業務上保管中の連合国占領軍の財産であるガソリン約二ガロン半を抜
取つて横領したというのであつて右事実によると被告人BはGHQの自動車運転手
であつて当時ジープを運転していたのである、そしてそのジープのガンリンは連合
国占領軍の財産であるというのであるから右ガソリンはジープの運転用として正規
の補給を受けたものであることを確定しているのである、そしてその事実は原判決
挙示の証拠によつて十分認定できるのである。然らば被告人Bが自動車運転手とし
て当時運転していたジープのガソリンは正に右被告人が業務上保管していたもので
あるから原判決が右被告人を業務上横領として処断したのは正当であつて、原判決
には所論のような違法なく論旨は理由がない。
 同第三点について。
 しかし贓物故買罪は犯人が贓物たる情を知つて買受けることを承諾しその引渡を
受けた以上その目的物の数量やその代金額について具体的の取り極めがなくても成
立するものである、よつて原判決挙示の証拠によつて本件事実をみると判示の日相
被告人Bから同人の運転していたジープのガソリンタンクの中にあるガソリンを買
わぬかと申し出た為被告人Cは贓物たる情を知りながらこれを買うことにして自宅
から石油空鑵とゴム管とを持つてジープの置いてあるところに行き右Bがそのゴム
鑵をもつてガソリンタンクから石油空鑵にガソリンを注入し石油鑵に約二、三ガロ
ン入つた際偶々同所を通りかかつたAに発見逮捕されたことが明かであるから被告
人Cは相被告人Bから贓物たるガソリンをその情を知りながら買受けることを承諾
したものでありそのガソリンは被告人Cが自宅から持つてきた同人の石油鑵に注入
されたのであるから右注入と同時に右ガソリンの引渡を受けたものである、然らば
その目的物の数量や代金額等が具体的に取り極められなくとも被告人Cに対して贓
物故買罪が成立するのである、論旨は被告人Cはガソリンを受領していないと主張
するけれどもそれは原判決に副わない主張である。又論旨は本件被告人両名共百円
位の闇値で売る心算であり買う心算であつたが数量や価格については全く何等の具
体的な交渉がなされていないのであつて売買についての単なる下交渉の程度で売買
は成立していないから本件犯罪は不成立であると主張する、しかし前に説明したよ
うに被告人Cは相被告人Bから本件ガソリンを買受けることを承諾したものであり
そしてその引渡を受けているのである、その数量や価格について具体的の交渉がな
されていないとしても既にその買受を承諾し引渡を受けた以上それをもつて単なる
売買の下交渉の程度で本件贓物故買罪が不成立であると言うことはできないのであ
る。然らば原判決が被告人Cを贓物故買罪として処断したことは正当であつて論旨
は理由がない。
 よつて刑訴施行法第二条旧刑訴第四四六条により主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 岡本梅次郎関与
  昭和二四年七月九日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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