弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人花村聡、同石井夢一の上告理由について
 一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 上告人及び被上告人の父である亡D(以下「亡D」という。)は、第一審判
決添付物件目録記載(一)の借地権(以下「本件借地権」という。)を有するととも
に、その土地上にある同目録記載(二)の建物(以下、「本件建物」といい、本件借
地権と併せて「本件借地権等」という。)を所有していた。
 2 亡Dは、昭和四五年五月六日、公正証書遺言により本件借地権等を含む全財
産を上告人に包括遺贈し、同年一〇月二四日に死亡した。
 3 被上告人は、右包括遺贈に対して遺留分減殺請求権を行使し、その結果、本
件借地権等は、上告人が六分の五、被上告人が六分の一の持分割合で、共有ないし
準共有(以下、併せて「共有」という。)するに至った。
 4 上告人は、昭和二五年ごろから、本件建物のうち第一審判決添付建物図面「
A」の部分に家族と共に居住している。一方、被上告人も、長年、本件建物のうち
同図面表示「B」、「D」の部分に家族と共に居住し、昭和四五年以降は、これを
自らが代表者を務める有限会社E工務店の事務所としても使用している。なお、同
会社は、昭和五八年に本件借地権の目的である土地を前所有者のFから買い受け、
これを所有している。
 5 本件建物は、経年による老朽化が著しく進行し、通常の建物としての機能を
具備していない現状にあって、その経済的価値はないに等しい。これに対し、本件
借地権の価格は、第一審で実施された鑑定の結果によれば、平成五年一二月二五日
現在で合計九六二八万五〇〇〇円であり、このうち被上告人の持分に相当する価格
は、一六〇四万七五〇〇円である。
 6 上告人は、被上告人との間の分割協議が調わなかったため、本件借地権等の
共有物分割を求める本件訴えを提起した。上告人は、本件借地権等の分割方法とし
て、第一次的に、本件借地権等を第一審判決添付借地権図面及び同建物図面に記載
のとおり、東側部分と西側部分とに分割し、東側部分を被上告人に、西側部分を上
告人に取得させた上、過不足の調整をするために、被上告人から上告人に対して二
七六一万円余の価格賠償をさせる方法による分割を、第二次的に、自らが本件借地
権等を単独で取得し、被上告人に対してその持分の価格を賠償するいわゆる全面的
価格賠償の方法による分割を提案している。
 7 これに対し、被上告人は、本件借地権等の分割方法として、競売による分割
を提案している。
 二 原審は、(1) 共有物分割に当たっては、持分の価格を超える現物を取得す
る共有者に当該超過分の対価を支払わせて過不足を調整することも許されるが、現
物分割の調整としての価格賠償にはおのずから一定の限度があり、全共有者が合意
しているとか、共有者中の一部の者が他の共有者の承諾の下に長年にわたり共有物
件を生活の本拠として使用してきたなどの特別の事情がないにもかかわらず、現物
を持分の割合と著しく異なる価格割合で分割し、その不均衡を価格賠償によって調
整するような分割方法を定めることは許されないとした上で、(2) 上告人提案に
係る第一次的分割方法については、このような現物分割を命ずることは相当でない
とし、(3) 上告人提案に係る第二次的分割方法については、このような分割が許
されないことは明らかであるとして、本件について、全面的価格賠償の方法による
共有物分割を認める余地があるか否かについて具体的に審理判断することなく、競
売による分割をすべきものと判断した。
 三 しかしながら、原審の右(1)、(3)の判断は是認することができない。その
理由は次のとおりである。
 1 共有物分割の申立てを受けた裁判所としては、現物分割をするに当たって、
持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の
調整をすることができるが(最高裁昭和五九年(オ)第八〇五号同六二年四月二二
日大法廷判決・民集四一巻三号四〇八頁参照)、これにとどまらず、当該共有物の
性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状
況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合
理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取
得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有
物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の対価を取得させる
こととしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情があるとき
は、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から
他の共有者に対して持分の価格を賠償させる全面的価格賠償の方法による分割をす
ることも許されるものというべきである(最高裁平成三年(オ)第一三八〇号同八
年一〇月三一日第一小法廷判決・民集五〇巻九号二五六三頁参照)。
 2 これを本件についてみるに、前記一のとおり本件借地権等は亡Dから上告人
に対して遺贈されたものであり、被上告人がこれに対して遺留分減殺請求権を行使
した結果、その共有関係が発生したものである上、六分の一の持分を有するにすぎ
ない被上告人が競売による分割を提案してでるのに対し、六分の五の持分を有する
上告人は、今後も本件建物に居住することを希望し、自らがこれを単独で取得する
全面的価格賠償の方法による分割を提案していることにかんがみると、本件借地権
の存続期間などの事情によっては、必ずしも本件借地権等を上告人に取得させるの
が相当でないとはいえないし、上告人の支払能力次第では、本件借地権等の適正な
価額に従って被上告人にその特分の対価を取得させることとしても、共有者間の実
質的公平を害することにはならないものと考えられる。
 四 そうすると、本件について、全面的価格賠償の方法により共有物を分割する
ことの許される特段の事情の存否について審理判断することなく、直ちに競売によ
る分割をすべきものとした原審の判断には、民法二五八条の解釈適用の誤り、ひい
ては審理不尽、理由不備の違法があるというべきであり、この違法が原判決の結論
に影響を及ぼすことは明らかである。この点をいう論旨は理由があるから、原判決
は破棄を免れず、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決
する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    福   田       博
            裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    河   合   伸   一

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