弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     上告人A1の上告を棄却する。
     右上告人の上告費用はその負担とする。
     原判決中、上告人A2の敗訴部分を破棄し、本件を福岡高等裁判所に差
し戻す。
         理    由
 上告代理人提千秋の上告理由第一点について。
 論旨は、所論五口の債務は上告人A1の債務に非ず上告人A2の債務であるとの
原審認定外の事実を掲げ、原判決を非難するものであつて採用できない。
 同第二点について。
 所論は、まず、甲一三号証に「五万八千二百九十八円也大和受取り」とあつて右
は被上告人の自筆であるから、同書証により、同金額を上告人らの本件債務に充当
さるべき弁済金額と認定判断すべきところ、原判決が何らの理由を示さず同号証を
排斥した点に採証法則違反があるという。
 しかし、右記載自体では勿論、同号証の他の部分の記載と照し合せて見ても、必
ずしも右が上告人ら主張の本件弁済の直接証拠たるものとは認められず、これを排
斥した原審の証拠判断に所論法則違反は存しないものというべきであつて、所論は
採用できない。
 次に所論は、甲一八号証につき右と同様の原判決の瑕疵を唱えるが、記録によれ
ば、同号証は、作成名義、作成年月日の記載もないメモ様のものであつて、成立に
つき不知をもつて争われているところ、その成立が認められるとの判示はないので
あるから、原審がこれを採用しなかつたことに採証法則違背はないし、右排斥につ
き原判決に理由不備があるとの所論も採用できない。
 同第三点について。
 論旨は、上告人A2に関し、原判決が所論三〇万円の債務の弁済について、昭和
二八年七月二一日一〇万円、同年一一月一九日一万円の各弁済のみを認め、残額完
済の抗弁を排斥したことにつき、審理不尽の違法があるという。
 よつて按ずるに、右三〇万円の借用証であることに争いのない乙一号証が貸主た
る被上告人の手許にはなくて、借主たる上告人A2の手中にある事実をもつて、右
完済を立証する趣旨であることが明白な本件において、他にも右完済の事実を窺わ
しめる証拠のある以上、右証拠価値の有無について十分納得のいく理由説示を要す
るものというべきところ、原判決が右の取捨につき何等明確な判断を示すことなし
に、ただ漫然、右残額完済を認めるに足る適確な証拠がないとした点に、審理不尽
ないし理由不備があるものというべく、原判決は上告人A2の敗訴部分に関する限
り爾余の論旨につき判断するまでもなく破棄を免れず、民訴四〇七条により原裁判
所に差し戻すべきものといわなければならない。なお、上告人A1に関する上告は、
前示のとおりすべて理由なく、同法三九六条、三八四条により棄却すべく、その上
告費用は、同法九五条、八九条により同人の負担とする。
 よつて、裁判官全員一致をもつて、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介

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