弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役4年に処する。
未決勾留日数のうち550日を刑に算入する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(犯罪事実)
被告人は
第1 学校法人A学園(理事長B)との間において締結する名古屋市所有の土地購
入に関する業務委任契約名下に同学園から金員を詐取しようと企て,Cと共謀の上
 1 平成9年9月11日ころ,名古屋市a区bc丁目d番e号所在の前記学園2
階応接室において,被告人がDらから譲渡を受けて所有する同市f区gh丁目i番
地所在の建物に対する名古屋市の収用に伴う代替地として,同市から同市土木局道
路部自転車駐車対策室が自転車保管場所として使用管理している同市a区bc丁目
j番所在の宅地(約330.58平方メートル)の払下げを受けて,これを同学園
に譲渡できる見込みがないのに,これをあるように装い,同学園理事長B(当時6
6歳)及び同学園不動産取引担当職員のE(当時55歳)に対し,代替地譲渡要望
書の写しを見せながら,「被告人が名古屋市に掛け合って自転車保管場所の土地が
取得できるようになりました。」「ここに書いてあるように330.58平米,約
100坪取得できる
ように話をしてきました。」「理事長が要望してたとおり100坪出るようになり
ました。」「間違いなく払い下げが受けられるようになった。」「Dさんが持って
いた収用される建物を被告人が9000万円で買い受けた。」「権利者が9人いた
からそのぐらいかかった。」「被告人が,Dほかに,もう既に払ってしまったか
ら。」などと嘘を言い,上記B及びEの両名をしてその旨誤信させて,同学園と被
告人との間において,被告人が上記Dらから購入した建物の購入代金のうちの45
00万円及び被告人が名古屋市から払い下げを受けて取得する上記宅地を同学園に
譲渡するとの業務委任契約に基づく報酬前渡金として1000万円を同学園が被告
人に支払う旨を約した業務委任契約を締結させ,よって,上記業務委任契約に基づ
く上記建物の購入代金
及び業務委任報酬前渡金名下に,上記Eから,同学園内において,同月16日こ
ろ,額面1500万円の小切手1通の,同月18日ころ,額面4000万円の小切
手1通の各交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させた。
 2 平成9年12月8日ころ,1記載の前記学園2階応接室において,被告人が
Dらから同市f区gh丁目i番地所在の土地に対する名古屋市の収用に伴う代替地
取得権利の譲渡を受けた事実はなく,かつ,同市から同市土木局道路部自転車駐車
対策室が自転車保管場所として使用管理している同市a区bc丁目j番所在の宅地
(約219.21平方メートル)の払い下げを受けて,これを同学園に譲渡できる
見込みもないのに,これをあるように装い,前記B及び前記Eに対し,Dさんから
代替地取得の「権利を買ったことによって市と交渉し,それによって代替地として
60坪くらいのものを取得できる話がまとまりました。」「前に要望いただいた1
00坪に隣接してあと219平米が取得できるようになりました。」「被告人がD
さんから」「代替地
を取得できる権利を5000万で買った。」「使いやすくなるし,既存の建物にも
もっと接近する。」「坪単価が安くなる。」「全体で160坪ぐらいにしたほう
が,土地の単価が少しでも安くなるんじゃないか。一団の土地になる。」などと嘘
を言い,上記B及びEの両名を誤信させて,同学園と被告人との間において,被告
人が上記Dらから購入した代替地取得権利の購入代金の内の3000万円及び被告
人が名古屋市から払い下げを受けて取得する上記宅地を同学園に譲渡するとの業務
委任契約に基づく報酬前渡金として1000万円を同学園が被告人に支払う旨を約
した業務委任契約を締結させ,よって,同月11日ころ,同学園内において,上記
Eから,上記業務委任契約に基づく上記代替地取得権利の購入代金及び業務委任報
酬前渡金名下に,額面
2000万円の小切手1通及び各額面1000万円の小切手2通の交付を受け,も
って,人を欺いて財物を交付させた。
第2 前記学園の不動産取引を仲介していたものであるが,同学園と被告人との間
における不動産取引にかかわる民事調停を同学園が一方的に打ち切ったことに憤慨
し,平成11年12月16日午後4時30分ころから同日午後5時40分ころまで
の間,同学園2階3号応接室において,同学園の不動産取引担当職員であるF(当
時39歳)に対し,「俺自身がかかっとるんじゃ。ええか,あんた,甘く考えとる
なよ。あんたら,嘘ばっか言うなら,俺,体で勝負したるちゅうの。理事長ぶち切
って,懲役なら俺なんか20年も行っとるで。ほんとにおらあ,ケジメとったる
よ。俺はG会の連中の叔父さんにあたる。いかな毎日座り込むで,いかなこの家本
当にバーッとガソリンまいてまるやけにしたろうと思っとるで。G会から射殺命令
がでたH,アポとれた
で。だけど,やつはもうタマとられるもんで。射殺されるんだわ,見つかったら。
Fさん,どうするや。当然あんたもターゲットになるぞ。その男をのう,殺しかけ
とるんやに,分かる,意味。地元のI会ちゅうたら,知っとったろう,あの暴力
団。俺,そこの副会長やってたぞ。俺も100人ぐらい兵隊は持っとるよ。接触す
ればとぶて。これまあ限界だわ。俺の最後のお願いだと思っときゃあ。」などと語
気鋭く申し向け,同人の生命,身体等に危害を加えるような気勢を示し,もって,
団体の威力を示して脅迫した。
(証拠)(省略)
(事実認定の補足説明)
第1 被告人は,判示第1の1(以下「9月の件」という。)及び2(以下「12
月の件」という。)の各事実について,Cと共謀したことはなく,詐欺の故意はな
かったと弁解し,弁護人も同様に主張して,被告人は無罪であると主張する。そこ
で,当裁判所が判示第1の各事実を認定した理由を以下に補足して説明する。
第2 前提事実
 1 関係証拠によれば,本件第1の1,2に関して以下の事実が認められる。
  (1) 平成9年1月18日(以下,平成9年については月日のみを記載す
る。),名古屋市a区bc丁目所在の学校法人A学園(以下「A学園」という。)
2階応接室において,被告人,C,J,A学園の理事長であるB(以下「B理事
長」という。)及びA学園の不動産担当職員のEが会い,名古屋市土木局道路部自
転車駐車対策室が自転車保管場所として使用管理している同市a区bc丁目j番所
在の宅地(以下「本件土地」という。)を,被告人が取得してA学園に売り渡すこ
とについて話し合いをした。
  (2) 被告人は,B理事長から本件土地取得の依頼を受け,K事務所と交渉を始
め,当初は本件土地全部の払下げを要求していたが,当時の所長Lは,本件土地は
行政財産であって払下げはできないとこの要求を拒み続けた。そこで,被告人は,
6月か7月ころからは本件土地のうち東側に出っ張った部分である約49坪の土地
(以下「へその部分」という。)の払下げを要求していた。
  (3) ところで,D他8名(以下「Dら相続人」という。)が所有する名古屋市
f区gh丁目i番地所在の土地(以下「Dの土地」という。)及びその土地上にあ
る建物(以下「Dの建物」という。)が名古屋市のk線拡幅工事のため収用の対象
となり,不動産業者のMとNがDら相続人間の調整をしていたが,Nは,平成9年
の初めころ,JにDの土地,建物の収用の件を話した。
  (4) Dの土地建物の収用の件は,相続人間の分配割合や拡張用地以外の残地の
取扱いが障害となっていた。NはJから被告人を紹介され,被告人がK事務所と折
衝し,その結果,名古屋市土木局が建物の移転補償費として2450万3700
円,拡幅工事にかかる土地の買収額3517万465円,拡幅工事にかからない残
地の買収額7269万5469円と算定するに至った。また,Dの取り分を550
0万円とすることで相続人間の分配問題が決着し,8月8日,Jが手付け500万
円をDに渡し,JとDとの間でDの土地,建物(但しDの持ち分である5分の1)
の不動産売買契約が成立した。
  (5) 上記売買契約成立後,被告人はDの建物の名義を被告人名義にするように
要求し,交渉の結果,Dら相続人は被告人に建物を3450万3700円で売却す
ることを承諾した。そして,9月9日,Dの建物について,Dら相続人と被告人の
間で同月8日の売買を原因とする所有権移転登記がされた(甲27)。この際,被
告人は手元に金がなかったことから,Nに立て替えてもらって建物の代金を支払っ
た。
  (6) 同月10日,被告人とCは,K事務所に行き,本件土地のうち100坪を
代替地として要望する旨の代替地譲渡要望書を提出した。K事務所のLはこの要望
書に収受印を押して,その写しを被告人に渡した。Cは,被告人から収受印の押さ
れた代替地譲渡要望書の写しを受け取った後,自宅で,被告人がDら相続人らから
名古屋市所有地の払下げ権利付建物を9000万円で購入し,その結果名古屋市か
らその建物買収の代替地として本件土地のうち330.58平方メートルの払下げ
を受けることができることになったとの虚偽の事実を内容とする業務委任契約書の
原稿を作成した。
  (7) 同月11日,Cは,業務委任契約書について被告人に署名をしてもらい,
自らが所持する被告人名義の印鑑を押捺した後一人でA学園に行き,B理事長とE
に対し,代替地譲渡要望書の写しを示しながら,本件土地の北側の100坪の土地
(以下「北側の土地」という。)の払下げが受けられるようになったこと,それに
関して被告人が既にDら相続人に9000万円を支払ったことなど判示第1の1記
載の虚偽の事実を述べ,平成9年9月16日付業務委任契約書を締結し,その契約
に基づき合計5500万円がA学園から被告人に支払われることとなった。
  (8) その結果,同月16日,CがA学園で,EからA学園振り出しの1500
万円の小切手を受け取った。Cはこの小切手を株式会社OのP(以下Pという。)
に手渡して同人からの借金の返済に充てた。
  (9) 同月18日,Cは,喫茶店で被告人と待ち合わせた後一人でA学園に行
き,Eから残りの分としてA学園振り出しの4000万円の小切手を受け取った。
CとEがA学園から出てきたとき,A学園の玄関前に被告人が来て待っており,被
告人,C及びEの3人でQ銀行a支店に行って,その小切手を現金化した。そし
て,その4000万円のうち1570万円は,Cが被告人の借金の返済として有限
会社RのS信用金庫l支店の口座(以下「R口座」という。)に振り込んだ。ま
た,残金2430万円は被告人が受け取り,自分の借金の返済のために費消した。
  (10) 10月20日,A学園が2000万円の小切手を振り出したが,同日,
R口座に「被告人」名義で2000万円が振り込まれた。また,同月24日には,
A学園が1000万円の小切手を振り出した。
  (11) 11月20日,被告人と名古屋市との間でDの建物に関する移転補償契
約が2450万3700円で成立し,同月26日,被告人は,Dの土地に関して借
地権不存在の確認をした。
  (12) 同月25日,Dの土地が名古屋市(一部については名古屋市土地開発公
社)に売却された。
  (13) 12月8日,CがA学園に行き,理事長とEに対し,代替地取得権利の
売買契約書やDら相続人名義の偽造領収書を見せながら,被告人がDら相続人から
代替地取得の権利を5000万円で買って,本件土地に関して北側の土地の他に新
たに土地が取得できるようになったなどと判示第1の2記載の虚偽の事実を述べ,
その結果A学園は被告人と平成9年12月11日付業務委任契約書を締結して,合
計4000万円の小切手の振出しを約した。この業務委任契約書の被告人の署名
は,被告人自らが書いたものである。
  (14) その結果,同月11日,CがA学園で,EからA学園振出しの2000
万円,1000万円,1000万円の小切手3通を受け取った。そして,同日,被
告人は,Cから2000万円の小切手と1000万円の小切手1通を現金化した3
000万円を受け取り,Cは,その中から550万円をCのTに対する借金の返済
に充て,さらに410万円をR口座に振り込んだ。残りの現金のうち少なくとも,
1090万円は,被告人が自分の借金の返済に充てた。また,残りの1000万円
の小切手1通は,被告人がUのVに割り引いてもらった。
  (15) 平成10年1月19日,本件土地のうちへその部分の分筆登記がされ,
同年2月17日には,へその部分の払下げが可決された。
  (16) 同年6月9日,A学園と被告人との間で本件土地のうち北側の土地やへ
その部分などについての合意書が取り交わされ,A学園が3000万円の小切手を
振り出し,被告人がこれをQ銀行a支店で現金化した。同日,「W(被告人別
名)」名でR口座に1230万円の振り込み入金がされた。
(17) 同年10月5日,名古屋市a区mn丁目o番,同区mp丁目q番計7筆の土
地(以下「mの土地」という。)と本件土地との交換に関する話をするために名古
屋市の担当者がA学園を訪れ,同月9日,A学園はmの土地を購入した。
(18) 同年12月22日,国鉄清算事業団が所有していたa区rの土地と名古屋市
が所有していたs区tの土地を交換してrの土地が名古屋市所有となった。
  (19) 同年12月25日,被告人と名古屋市の間で4100万円でへその部分
の売買契約が成立した。また,被告人とA学園との間で9123万3940円でへ
その部分の売買契約が締結された。
    同日,被告人は,A学園から,同年6月9日付合意書の残金として150
0万円及び500万円を受け取った。
(20) 平成12年12月,自転車保管場所が本件土地からa区rの土地に移転し
た。
 2  以上のとおりであって,CがB理事長らに虚偽の事実を述べて,2度にわ
たり,不動産に関する業務委任契約を締結し,これに基づき小切手を詐取した事実
は疑いなく認められる。そして,この業務委任契約は被告人とA学園との間で締結
されたものであり,現に被告人は各業務委任契約書に自ら署名をしている事実,A
学園側からCが受け取った小切手を現金化した金員のうち,被告人が,少なくと
も,9月18日に4000万円,12月11日に3000万円を受け取っている事
実も認められる。そうすると,以上の事実だけからも,被告人が本件第1の1,2
の各犯行に加担したものと推認できなくもない。
    その上,Cは,公判廷において,後記のとおり,各犯行は被告人との共謀
のもとに行ったとの趣旨の供述をしている。そこで,次にC供述の信用性について
検討する。
第3 Cの公判供述
 1 Cは,被告人と知り合った経緯,A学園から小切手を詐取した状況等につい
て,以下のとおり供述する。
  (1) 自分は,不動産ブローカーをしていて,平成4年ころからA学園と取引が
あり,土地の仲介をしたことで約1億円の利益を上げたことがあった。A学園では
Eが不動産の取引を扱っており,最終的な判断者はB理事長であった。自分は,そ
のころから不動産の取引に関しA学園の窓口的な立場にあった。
  (2) そして,平成7年2月ころに,被告人が名古屋市の土地の払下げを受け
て,その土地をA学園に売却した際に被告人と知り合い,その後,被告人との付き
合いが始まった。この交渉の過程で,自分は被告人に100万円を貸し,その後返
してもらった。
  (3) その後,被告人に手形と引き替えに1000万円の貸付をしたが,これは
返してもらっていない。さらにその後,名古屋市の収用物件であるuのvの物件
で,A学園と取引できるということであったので,被告人に1000万円か150
0万円を貸した。このとき,Pから融資を受けて貸し付けた。しかし,容積率の関
係で,A学園が途中で依頼を断ったため,この取引の話はなくなった。このときに
貸し付けた金も返してもらっていないが,このころは自分も儲けており,被告人も
儲けていると思っていたので,貸付が焦げつくとは考えていなかった。このvの件
で被告人から文句を言われたこともあって,その後も被告人に金員を貸し付けた。
  (4) 現在,被告人から返済されていない貸付が約1億6000万円くらいある
ほか,平成9年ころから,被告人が借金をする際保証をしてきており,その保証額
も約1億円くらい残っている。
  (5) 1月18日の夜に,A学園の2階応接室において,被告人やJと一緒にB
理事長と面談した。以前にも,A学園に名古屋市の土地を何度か紹介しており,当
日は土地の公図や住宅地図も用意して,名古屋市交通局の土地と水道局の土地を紹
介したが,いずれも断られた。そこで,B理事長に欲しい土地はないかと聞くと,
B理事長は,Eに指示して住宅地図と宝典の写しを持ってこさせて,本件土地を指
し,ここだったら欲しいと言ってきた。本件土地については前から何度も聞いてお
り,駐輪場で利用している行政財産であることを知っていたので難しいと思った
が,行政財産だから難しいとは話さなかった。
  (6) そのとき,被告人は,名古屋市の土地であるから取得できると喜び,vの
件でA学園から出た金額を念頭に置いていたのか,坪単価300万,400万で買
っていただきたい旨B理事長に言った。これに対し,B理事長はちゅうちょして坪
数を減らし北側の土地のみを希望した。A学園から帰る途中,被告人とJが300
万,400万という話をしていたが,本件土地近辺の路線価などから坪単価が80
万円くらいであると認識していたので,被告人に対し,200万を切る数字でない
と無理であろうと言った。
  (7) その後,被告人はK事務所に行って本件土地の払い下げ交渉をしていた。
最初は,被告人1人で交渉をしていたが,その後は自分も加わった。交渉状況につ
いて,被告人は難しいと言っており,行政財産で出るわけないということも言って
いた。
  (8) 被告人は,へその部分を取ってしまえば利用勝手が悪くなり,全体が駐輪
場として成り立たなくなって払い下げが容易になるというアドバイスを名古屋市の
職員から受けたと言い出し,K事務所に対し,北側の土地ではなく,へその部分の
払下げを求めるようになった。しかし,Lは,本件土地は駐輪場で使用している行
政財産だから払下げはできないと言っていた。
  (9) 被告人は何度もK事務所に足を運び,へその部分については使用されてい
ないこともあったので,「使ってないがや。」などと強い言葉で迫り,交渉を進め
ていた。
  (10) 同年夏ころになると,Lは,仕方なくへその部分を受け付け,名古屋市
本庁と根回しを始めたが,Lもへその部分が精一杯だと言っており,へその部分に
ついてさえも払い下げができるという確約はしなかった。
  (11) 自分は平成9年ころに,移転補償金を手に入れようとして,wのパチン
コ店「X」が建設される付近に病院の建設をはじめた(以下「Xの件」とい
う。)。この件は,自分が言いだしたことで,被告人も関与している。Xの件で,
Pから自分の名義で被告人のために五,六月ころに1500万円を借りたことがあ
り,その返済期日が八,九月ころだった。
  (12) このころ,被告人から,A学園から手形か小切手を持ち込んで金を借り
られないかと言われ,A学園は金貸しではないから無理だと答えたことがある。す
ると,被告人は,金を借りることはあきらめたが,Dの物件に関して,「代替地取
得ということでへその部分で何とかならないか。」と言ってきた。
    その当時は,あうんの呼吸でやっていたから,「何とかならないか。」と
いう意味を,Dら相続人の権利をA学園に売るという意味と,本件土地を代替地と
して買い受ける交渉をしているから,前渡金が出ないかという話という意味の二通
りの解釈をした。
  (13) そこで,A学園にへその部分を買わないかと話をもっていったが,A学
園側は使い勝手が悪いので要らない,北側の土地が欲しいと言ったので,そのこと
を被告人に伝えた。しかし,被告人はその後もへその部分の交渉を続けていた。
  (14) その後,被告人から,Dの建物を購入し,その代金が5000万円くら
いだと聞き,関係書類も見せられた。そして,Dの建物に関して,被告人が「これ
何とかならないか。」と,金になる方法はないかという話をし,4000万円欲し
いと言ってきた。
  (15) 自分は,A学園は北側の土地を希望しているから北側の土地を出す状況
を作らないと無理だと答えた。すると,被告人は,名古屋市から北側の土地を取る
方法でA学園に話をするしかないから,K事務所に行って取ろうと言ってきた。そ
こで,自分が,その話の信憑性を持たせるために,100坪の要望書を受け付けさ
せようという提案をし,自分が要望書を作成して二人でK事務所に行くことになっ
た。自分は,今までへその部分の交渉をしていて北側の土地の話はしてなかったの
で,K事務所が要望書を受け付けてくれるとは思っていなかった。
    被告人は「受け取らせる。」と言っていたが,その意味は,受け付けさせ
たら被告人が強引に名古屋市に交渉して北側の土地を出させることだと考えてい
た。名古屋市に対しては,へその部分の交渉をしていたのを100坪の北側の土地
に転換し,A学園に対しては,収受印の押された要望書を見せてA学園から前渡金
をもらおうと,被告人と話をした。
  (16) 被告人と,K事務所に北側の土地についての要望書を受け付けさせて,
それを利用してA学園からお金を引っ張るという話をした当日に,自分がワープロ
で代替地譲渡要望書と代替地取得要望書の2種類の要望書を作成した。そして,翌
日の9月10日に,被告人に見せて署名押印をしてもらってからK事務所に要望書
を持って行った。
  (17) 要望書をK事務所に出そうとしたが,Lは無理だと拒否した。しかし,
被告人は,「受け付けるだけ受け付けろ。」という話を何度もして,最終的にL
は,「受け付けるだけだよ。」と言った上で代替地譲渡要望書(以下「譲渡要望
書」という。)を受け付けた。そこで,要望を市が受理したことの証拠として,収
受印を押したこの要望書の写しをもらった。この要望書の「代替地として要望する
土地」は北側の土地を示している。
  (18) 被告人との間で,被告人がDら相続人の関係で金を使っているから,そ
の分をA学園に補填して欲しい,要望書で話がまとまったことで,成功報酬の一部
を払って欲しいという形でA学園に話をすることを相談した。これは嘘であった
が,この当時はだますという感覚ではなくて,利益の先食いぐらいの感覚で将来的
に問題にならないように解決したいと思っていた。そして,被告人が希望していた
4000万円に,被告人が忘れていたPからの借金1500万円の返済期日が来て
いたので,これを加えて,合計5500万円をA学園からもらおうということにな
った。
  (19) A学園から金を出してもらう方法としては,被告人とA学園で業務委任
契約を結んで,前渡金という名目で支払ってもらうという考えであった。業務委任
契約書に記載する金額は,A学園は2億は出さないだろうし,坪当たり100万円
の利益を出したいという被告人の希望もあったので,売却価格の上限を1億800
0から9000万とすることを前提とし,路線価の1.24倍ぐらいで計算した坪
当たり86万円に,100万円をプラスした186万円くらいの数字を出した。そ
して,経費と言えばA学園の方も払いやすいと思い,被告人がDら相続人関係で立
て替えた分の4500万円くらいとそれに成功報酬の一部を払って欲しいというこ
とで,5500万円ということにした。以上のことは被告人に話をした。
  (20) 平成9年9月16日付業務委任契約書は,自分がワープロで3部作成し
て,被告人にも読んで確認してもらってから,署名してもらい,そのあと自分の署
名押印をして,自分が持っていた被告人の印鑑で被告人名のところに押印をした。
被告人は署名するときに,「間違いなく銭が乗るようにやってくれ。」と言ってい
た。9月11日の午前11時に,被告人に契約書の確認と署名をしてもらってか
ら,その夜A学園に自分が1人で行き,B理事長とEに会った。
  (21) A学園の応接室で,譲渡要望書の写しと業務委任契約書を示して,被告
人がDら相続人の権利を取得したことで代替地の要望が通ったなどと業務委任契約
書の記載に沿って説明した。B理事長は9000万円は高いと言ったが,Dの物件
に相続人が9人いたから高くなったと説明し,既に被告人が支払っているから払っ
ていただくしかないなどと嘘を言って,了承してもらった。しかし,A学園側が5
500万円を同月16日一日で支払うのは厳しいというので,被告人に電話して,
16日に1500万円,18日に4000万円という支払いでよいと確認した上,
そのように決めた。
  (22) 同月16日,一人でA学園に行ってEから1500万円の小切手を受け
取って,被告人の名義で領収書を渡した。この被告人の名前は被告人自身が書い
て,押印は自分がした。被告人が金を受け取るのだから,署名だけは被告人本人に
させなければいけないと考えていた。自分が代筆する場合には代理人の肩書きで書
く。この1500万円の小切手は,Pに被告人の了解を受けて持参した。
  (23) 同月18日,Eから残りの4000万円の小切手を受け取った。このと
きは,被告人と近くの喫茶店のYで待ち合わせをしていたが,A学園から出てきた
ら,被告人が玄関口で待っていた。その後,被告人,Eと自分の3人でQ銀行a支
店に行き,小切手を現金化した後自分が被告人の代わりに1570万円をRの口座
に振り込んだ。残りの現金については被告人が受け取ってそのまま持っていった。
  (24) 被告人と一緒になって犯罪まがいのことをしたのは,その時自分も預金
等が枯渇していて,被告人が不渡りを出せば,被告人のために保証などしている自
分も返済を求められて困るという状況にあったからである。
  (25) Xの件で利益を4億円くらい見込み,それをあてにして被告人と自分は
借金をしていたが,この件が平成9年10月ころに失敗した。
  (26) 10月ころ,被告人から,また,A学園から金が引けないかとの話があ
ったが,その話をB理事長にしないでいたところ,被告人が直接A学園に電話した
ため,Eから被告人にはA学園に電話させるなと言われた。そこで,被告人が経済
的に苦しいから金を出してほしいと頼んで,2000万円と1000万円の小切手
を出してもらうことにした。2000万円については,A学園に裏書きしてもら
い,現金化してR口座に振り込んだ。
    平成9年10月20日付2000万円の小切手及び同月24日付1000
万円の小切手については,自分が受け取って被告人に渡した。そして,その領収書
に署名することを被告人が拒否したので,被告人の事務所で被告人の若い衆のZが
被告人名を書いた。10月23日付約定書は,被告人が受け取っている金額を明示
するために作ったもので,領収書と同じようにZが署名した。
  (27) 11月23日ころ,被告人から手形の回りが2000万円くらいあって
苦しいと,3000万から4000万くらいの金策を頼まれた。A学園からの金策
に関してはある程度の計画を立てないといけないので,自分が一時的にTから50
0万円を借りて被告人に回した。
  (28) Dら相続人の残地で何とかならないかという話が被告人から出て,北側
の土地のほかに本件土地の中から60坪くらいの土地が代替地として譲ってもらえ
るということにしてA学園と契約を締結して金を出してもらおうという話し合いを
した。へその部分についてLは動いていたが,譲渡要望書を受け付けた後も北側の
土地については進展はなかった。また,代替地の取得権利に関しては,一つの収用
について一つの払い下げだから,Dら相続人からの代替地取得権利による払下げは
あり得ない。
  (29) その後,Eに,本件土地の件でまた別の代替地が取れるから理事長の予
定を空けておくように電話した。あらかじめ代替地取得権利の売買契約書を偽造し
たが,その際,Dの署名押印部分は被告人が持っていた書類でDの署名押印がある
ものをコピーして切り張りして作成し,被告人分は被告人に署名押印してもらっ
た。この作業は最初のうちは被告人の事務所で行ったので,被告人は知っているは
ずである。そして,Dの署名の切り貼りを自分の会社でしていたときに,代替地取
得権利の売買契約書だけでは説得力が弱いから,既に代金を支払ったことを証明す
るためにDら相続人の名前の領収書があった方がいいと考え,再び被告人の事務所
に行った。そして,その話を被告人にして,被告人の事務所にいた若い衆を使って
署名を書かせて相続人
の数だけ領収書を作成した。この領収書はA学園に見せたと思うが,その後に破っ
て捨てた。
  (30) 平成9年12月11日付業務委任契約書,報告書も自分がワープロで作
成した。業務委任契約書には被告人に署名をしてもらってから,自分が被告人名義
の印鑑を押印した。被告人は,A学園から金を取ることが目当てであったから,金
が取れるかどうかを確認するためにこの業務委任契約書を当然読んだと思うが,自
分は内容の説明をしていない。
  (31) 最初,被告人は3000万円くらい欲しいと言っていたが,一時的にT
から借りた分もあったので,最終的には4000万円をA学園に提示することにし
た。A学園には,代替地取得の権利を5000万円で買ったので,払い下げ権利の
取得代金5000万円のうち3000万円と,被告人の報酬2000万円のうちの
1000万円の合計4000万円を請求することにした。
  (32) 12月8日,B理事長やEと会う前に,被告人と打合せをしたが,その
とき被告人から「間違いなく頼むよ。」と言われ,A学園が了承したか否かについ
て被告人に電話することになった。
  (33) A学園には,代替地取得権利の売買契約書,業務委任契約書,報告書,
領収書等の書類を持っていき,2階応接室でそれらの書類を示しながら,被告人が
Dら相続人から代替地取得の権利を買ったことによって名古屋市と交渉して代替地
として60坪くらいのものを取得できる話がまとまったと話をした。しかし,A学
園としてはもともと北側の土地を要望していただけなので,反応はよくなかった。
そこで,全体で160坪ぐらいにしたほうが,土地の単価が少しでも安くなるし,
A学園が持ってる東側の土地に接して一団の土地になる,それに被告人がDら相続
人に5000万円を既に支払っているから仕方ないなどと説得して,B理事長に了
承してもらった。
  (34) B理事長は,成功報酬も権利売買代金もすべてが高いと言って,立腹し
て,これが最後だということの了解を被告人に取るように言ってきたので,合意書
を作って被告人の署名押印をもらい,確定日付を取ることをB理事長に話をした。
そして,同月11日ころに4000万円が欲しいという話をして,了承を得たの
で,被告人に連絡をした。すると,被告人は金額面について小切手を1000万,
1000万,2000万というふうに分けてくれと言ってきたが,なぜ分けてくれ
と言ったかについては聞いていない。
(35) B理事長に合意書を作ると言ったので,合意書がないと金が出ないと思い,
合意書を作って被告人に署名をしてもらって,印鑑は自分が押した。内容について
も説明したと思うし,確定日付を押したものを被告人にも渡したと思うので,内容
は被告人は知っていると思うが,被告人は金が出ればどんな書類でもいいという意
識があったと思うから,説明を聞いていたかどうかは分からない。
  (36) 12月11日に,A学園に行って,Eから受けとった3通の小切手のう
ち,2000万円と1000万円の小切手を現金化した。あとの1000万円の小
切手はそのまま被告人に渡した。Eとの待ち合わせで時間がなく,被告人と会う時
間がなかったことから,最初はEに被告人の代理人として自分が署名した領収書を
渡したが,後で被告人から領収書を書いてもらって差し替えた。署名は被告人がし
て,押印は自分がした。
  (37) 現金化した3000万円のうち550万円は借金したTに利息を付けて
返済するために自分が持って行き,また,被告人から言われてR口座に410万円
くらい振り込んだ。後の現金は被告人の事務所で被告人に渡した。
  (38) 平成10年10月ころ,名古屋市の職員がmの土地と本件土地との交換
について説明するためA学園にやってきたが,一人は土地交換は難しい作業だと言
い,もう一人の当時のK事務所の所長はできるような話をしていた。その場には,
B理事長もいて,職員の対応が芳しくなかったので,後日再び名古屋市の甲を訪ね
た。そのときも反応は弱かったが大丈夫であろうと判断をした。その後,名古屋市
の用地部長から話があったことで,平成12年10月末日にはA学園に交換用地と
して取得してもらったmの土地と本件土地を交換できると思った。
  (39) 自分が,平成10年以降も本件土地の払下げを受けるためにいろいろ交
渉したり,mの土地との交換の交渉をしていたのは,2つの業務委任契約につき,
その詐欺の発覚を防ぐためであった。
 2 Cの供述の信用性について
  (1) Cの供述は,おおむね上記のとおりであるが,その供述内容については弁
護人が指摘するとおり,平成9年9月16日付1500万円の小切手の領収証はC
が被告人名で署名したものであることが明らかであるにもかかわらず,Cは被告人
が自分で署名したと供述していること,9月の件につき,被告人がCに対し当初要
求した金額について捜査段階(5500万円)と公判供述(4000万円)とで変
遷があること,10月20日及び10月24日付の2枚の領収証の署名は被告人の
了解のもとでZがしたと供述するが,被告人が署名を拒否する合理的な理由は認め
られず不自然であること,平成9年1月18日にB理事長が本件土地全体ではな
く,北側の土地のみを要望したと供述する点については,CがA学園にへその部分
を買わないかと持ちか
けたり,A学園が現実にへその部分を取得したり,また本件土地全部との交換取得
を実現するためにmの土地を取得していることに鑑みると不自然であること,Cが
被告人の印鑑を持っていたこと自体不自然であることなど,そのまま措信すること
のできない部分が存することは否定できないところである。
    しかしながら,Cの供述は,前記第2の1の客観的事実に大筋において符
合しているほか,他の証拠と符合している部分も多い。すなわち,A学園から金を
出させられないかと被告人から言われて各詐欺の犯行に及んだという点は,本件各
詐欺の結果,詐取した金額の半分以上の多額の金員が被告人の手に渡り,それを被
告人が自己のため費消した事実と符合しており,各犯行時点においてA学園から金
員を出してもらえる条件が整っていなかった点は,K事務所との交渉が進展してい
なかった状況に照らし明らかである。また,9月の件で,譲渡要望書を無理を言っ
てK事務所に受け付けさせた状況についてはLの供述と符合している。平成9年9
月16日付業務委任契約書を作成して被告人に確認してもらったとの点に関して
は,Cの手帳の記載内
容と符合しており,その経緯も自然である。さらに,9月16日には1500万円
しか払えず,残りの4000万円は18日になるということを被告人に電話で伝え
たという点及び12月の件でCがDら相続人の領収書を持ってきたという点につい
てはEの供述と符合している。
    そして,被告人の借金を保証したり,多額の貸し付けをしていたため,被
告人に不渡りを出されると自分も困るので,被告人と共謀して詐欺をすることを決
意したとのCの犯行動機に関する供述も,Cにそれなりの利益があったという点で
納得できる説明である。
    また,Cの供述は,細部に変遷はあるものの,被告人から話を持ちかけら
れてA学園に嘘の話しをして小切手を振り出させたという大筋については終始一貫
している。
  (2) 先に指摘したとおり,A学園側が当初から本件土地全部でなく北側の土地
のみを要望していたとの供述をそのまま信用することはできないが,9月の件の時
点でA学園が求めていたのは北側の土地であったのであり,そのときに北側の土地
の払い下げが受けられる状況ではなかったという客観的事実や,12月の件でCが
A学園に対して述べたことが真実でなかったことに変わりはないのであるから,上
記の事実によって,被告人がA学園から正当に報酬等を受け取る権利があったこと
にはならないし,被告人から詐欺を持ちかけられたとするCの供述の信用性を揺る
がす事情にもならない。
  (3) また,9月の件に関して,被告人と共謀が成立する過程についてのCの供
述内容には,「あうんの呼吸」などというようにあいまいな点があり,C自身,当
初は詐欺という認識はなかったとも供述している。
    しかし,9月の件に関するCと被告人との共謀についてのCの供述内容は
第3の1の(14)ないし(16)とおりであり,被告人からA学園から金を取ってくれと
言われ,そのために要望書を作成してA学園に話をしに行く過程についての被告人
との関わりについては比較的具体的に供述されている。そして,この点に関するC
の検察官調書の概要が同人の公判供述と同じであることも併せると,被告人との共
謀内容に関するCの供述が信用できないとはいえない。
    また,Cは公判廷で詐欺という認識がなかった旨述べているものの,その
意味は,後で何とかすればいいと思っていたというにすぎないものと理解されるの
であって,同人は,その当時B理事長らに嘘の事実を述べてA学園から小切手を取
ったことについては一貫して供述している。この点において,Cの検察官調書と公
判供述とでその内容が変遷しているとまではいえない。
  (4) 被告人は,本件はCの単独犯であり,Cが自己が着服したのを隠すために
被告人を共犯者として引き入れたものであると供述する。
    しかし,被告人の供述を前提にしても,被告人は約6000万円もの利益
をCを介して得ているところ,このような多額の利益を被告人に交付してまでCが
単独で詐欺を行う危険を冒すとは考えがたい。また,Cは,本件第1の1,2の各
犯行につき,被告人に金額を記載した業務委任契約書や確定日付のある合意書を渡
しており,これら書面によればA学園から被告人に交付された金額はごまかしよう
がないのであるから,Cが被告人に無断で流用することは考えにくい。
  (5) 確かに,Cの供述は共犯者の供述であるが,C自身は既に自己の刑が確定
しており,公判廷において被告人に責任を転嫁して自己の責任の軽減を図る利益は
小さい。その上,第2の2記載のとおり,被告人が本件に加担したことを示す客観
的事実が認められるのであり,Cの供述内容はこれらの事実によく符合しているの
であるから,犯行に加担しなかった被告人をCが虚言を用いて責任転嫁したものと
みることはできない。
  (6) なお,弁護人は,被告人には,Cの供述するような借金はないから,被告
人が本件犯行に及ぶ動機は存在しないと主張する。
    しかし,被告人も述べるように,被告人は,A学園から得た金員を自己の
借金の返済のために使用しており,また,捜査段階においても,平成9年夏ころに
は,Xの件のためにした借金の金利だけで毎月300万円くらいの支払いを迫られ
ていた,12月ころは,Xの件が頓挫したことにより先使いしていた金が借金とな
っていた時期であったなどと,この当時被告人に借金が存在していたことを供述し
ている。また,被告人の妻が平成11年1月ころ,被告人の借金1億円程度を清算
したと述べるところも,このころまでに被告人に多額の借金が存在したことを示し
ている。さらに,Dの建物を取得する際被告人がNに建物代金約2450万円を立
て替えてもらったという事実も,本件当時被告人が資金繰りに窮していたことを示
している。
    したがって,被告人に動機が存在しないという弁護人の主張は採用できな
い。
 3 以上のとおりであって,Cの供述は,上記のとおり細部において,そのまま
信用できない点があるものの,A学園から金を引き出して欲しいとの被告人の依頼
を受けて同学園に嘘の話をして小切手を振り出させ,その多くは被告人が利得し
た,9月の件で利用した譲渡要望書は,被告人らが無理を言ってLに受け付けさせ
たもので,Lは「受け付けるだけ。」と言って受け付けた,詐取に用いた業務委任
契約書は被告人がその内容を分かった上で署名をしたなどという大筋においては十
分信用できる。細部における信用できない点が,この大筋の信用性を揺るがすもの
ではない。
第4 被告人の公判供述
 1 被告人は,おおよそ以下のとおり弁解する。
  (1) 自分は,1月18日にB理事長から依頼のあった本件土地の払下げの交渉
をK事務所としていた。B理事長から依頼されたのは,北側の土地ではなく,本件
土地全部である。
  (2) 以前,名古屋市の収容にかかっていた土地上の賃借人を立ち退かせたこと
で,代替地の斡旋を受けたことがあったので,自分には代替地を要望できる権利が
あると考えて,本件土地を代替地として要求した。しかし,K事務所は,本件土地
は行政財産であるから払い下げることはできないと拒否した。
  (3) そこで,元K事務所所長乙からアドバイスを受けて,全体を瓦解させる,
すなわち,本件土地の用途を廃止し,全体を払下げ可能な土地とするために,へそ
の部分から交渉を始めた。そして,六,七月ころ,Lからへその部分について払下
げの内諾をもらった。
  (4) Dの建物についても元K事務所所長乙に相談しており,同人から同建物だ
けでも本件土地のうち100坪くらい要望できると聞いており,要望書を提出した
ほうがいいともアドバイスを受けていた。Dの建物の所有者となり,100坪の要
望をし,これを受理してもらったので,前の権利と合わせて本件土地のうち合計約
150坪について払下げを受ける権利を取得したと考えた。
  (5) そこで,Cに,「そろそろ私も銭がいるんだ。」「150坪の私の権利の
うちの先銭を出してもらうようにはできんか。」と,払下げが受けられそうだか
ら,前渡金が欲しいと言うと,Cが本件土地は坪85万くらいだから,坪200万
円で話をすると言って,前渡金をもらえることになった。その合計額である約1億
7500万円が自分の報酬と考えており,Cもその範囲内でA学園から前渡金をも
らってくるものと考えていたので,A学園から受け取る金額についてCと話し合っ
たことはない。
  (6) そして,Cが要望書をA学園に持っていって説明することは分かっていた
が,Cが作ってきたので署名押印しただけである。要望書の対象が100坪となっ
たのは元K事務所所長乙のアドバイスに従った結果であると思う。
  (7) 要望書をK事務所に持っていったとき,自分が「受け付けるだけでいいか
ら受け付けろ。」などと言ったことはないし,Lも「受け付けるだけ。」とも言っ
ていない。これまで市側が書面を受理すれば必ず払下げを受けることができたの
で,譲渡要望書を受け付けてもらったことで,本件土地のうち100坪の払下げを
受けられると思った。
  (8) 平成9年9月16日付業務委任契約書は,Cから署名欄を示され,金をも
らうために必要な経理上の書類だと言われて,ここにサインしてくれということだ
った。自分は,当時Cを信用していたため,内容を確認せずに署名した。
  (9) 12月の件は,Cから,「また出るようにしたるから。」と言われて,書
類にサインをさせられただけであって,代替地取得権利の売買契約書は見たことも
ないし,署名もしていない。また,Dら相続人の領収書の偽造を自分の若い衆に頼
んだこともなく,平成9年12月11日付業務委任契約書も合意書も,9月の件と
同様にCから言われて内容を確認せずに署名しただけである。
  (10) したがって,自分は,A学園から本件土地取得に関する前渡金を受け取
っただけで,A学園をだましたことはない。
 2 そこで,被告人の弁解について検討する。
  (1) 被告人は,1(7)のとおり,譲渡要望書を受け付けてもらった際,自分ら
が「受け付けるだけ受け付けろ。」などとは言っていないし,Lも「受け付けるだ
け。」などと言っていないと供述するが,この供述は,前記のCの供述に反するば
かりか,行政財産であるから払い下げることはできない,受理することはできない
として拒んだものの,無理矢理受理させられた旨供述するL供述にも反しており,
信用できない。
    また,被告人は,これまで市側が書面を受理すれば必ず払下げを受けるこ
とができたので,譲渡要望書を受け付けてもらったことで,本件土地のうち100
坪の払下げを受けられることになったと思ったと述べるが,この当時,本件土地に
ついて用途廃止の目途は全く立っておらず,払下げを受けることができる状況には
なかったのだから,受け付けさせたからといって100坪の払下げを受ける権利を
取得したというのは無理な話であり,まして「受け付けるだけ。」と言われている
のであるから,被告人がそのように思いこむとは考えがたい。
  (2) このように,本件土地のうち100坪について払下げを受ける目途が全く
立っていなかったのであるから,交渉状況をありのまま話せば,A学園が何千万円
もの金を被告人に払うとは到底考えられない。この点で被告人は多額の報酬等を受
け取ることができると考えた根拠について合理的な説明をしていないことになる。
  (3) また,被告人は,業務委任契約書に署名した際,内容や金額は確認しなか
ったと弁解するが,Cに前渡金を要求した以上は,何らかの金銭が必要であったと
考えられ,現実に被告人自身A学園から取得した現金をいずれかの借金に充てたと
いうのであるから,Cから経理の都合上の書類にすぎないと言われたとしても,金
額も確認せずに署名したというのは不自然である。さらに,各業務委任契約書は3
通ずつ作成され,被告人はそれぞれに署名をしているのであるから,A学園の経理
の都合だけという話をそのまま信用したというのはなおさら不自然であり,信用で
きない。
  (4) この各業務委任契約書に署名したことについて,弁護人は,当時被告人は
Cに対して絶大な信頼をおいていたから,奇しくもZが平成9年10月23日付約
定書に署名したときのように,内容を確認せずに署名したのであって,また,署名
したときには内容を把握するような時間的余裕はなかったと主張する。
    しかし,Zのように自分と関係のない書類に他人の署名をするのとは異な
り,被告人にとっては自分が金をもらえるか否かという重要な書類であるのである
から,同視することはできない。
  (5) また,被告人の供述には,受け取った金額について変遷がある。つまり,
9月16日の1500万円,10月20日の2000万円,同月24日の1000
万円,12月11日の1000万円について,当初はこのすべてについて受け取っ
たと供述していたが,その後受け取っていないと供述を変遷させている。しかも,
一旦,9月16日の1500万円について受け取っていないとしながら,その余に
ついては受け取ったと供述し,その後,すべてについて受け取っていないと言い出
したものであって,信用性に乏しい。そして,被告人は,A学園と民事訴訟をする
にあたり,Cから合計1億7500万円を受け取っていると言われたのを信用して
いたことを変遷の理由とするが,このような大金について記憶があいまいであると
いうのは不自然であ
る。被告人はA学園と民事訴訟をしていて,自分の署名と異なる領収書を見ていた
と考えられるのであるから,なおさらである。
  (6) さらに,12月の件について,被告人は,捜査段階では,11月下旬こ
ろ,Cに対し,A学園から土地取引の前渡金をもらってくれと頼んでいたと供述し
ていたのを,公判廷において,その時期は8月の話であって,捜査段階では勘違い
していたと供述を変遷させたが,9月の件で取り調べられた後に,12月の件で取
り調べられていたという経緯からすると,時期について勘違いしていたというのは
不自然である。
  (7) そのほか,被告人の供述は変転したり,あいまいな点が多く,また,A学
園から受け取った金の使い道やへその部分を要求したか否かなど捜査段階の供述と
の食い違いを指摘されると,勘違いしていたというばかりでその変遷について合理
的に説明してない。
 3 以上のとおりであって,被告人の弁解は,捜査段階からほぼ一貫している点
を考慮しても,譲渡要望書をLに受け付けさせる際「受け付けるだけ受け付け
ろ。」と言っておらず,Lも「受け付けるだけだ。」と言っていない,A学園から
前渡金名目で業務委任契約書を作成したことについて被告人が全く関知していない
などという被告人の弁解は到底信用できない。
第5 結論
 1 判示第1の1の事実について
   以上からすると,前記第2の2で示したとおり,業務委任契約の主体が被告
人であり,被告人がこれに署名した事実,現に被告人が詐取した小切手を現金化し
た金員のうち4000万円を受け取った事実に加え,被告人がCにA学園から金が
もらえないかと言った後,要望書を作成してK事務所に提出したこと,被告人もC
が要望書をA学園に示して金を出してもらうように説明することは知っていたこ
と,客観的には北側の土地の払下げが受けられる状況ではなかったこと,そのまま
の事実をA学園に話したとしてもA学園が金を払うことは考えられないこと,さら
に,被告人とCが,譲渡要望書をK事務所に受け付けさせた直後にCがA学園に譲
渡要望書を持っていき,その結果A学園から小切手が振り出された経緯も併せる
と,少なくとも,被告人
がA学園から金を受け取るためには,CがA学園に対し,客観的事実と異なり,
「要望書を受け付けたから,これで払下げが受けられるようになった。」という程
度の嘘をつくことは承知していたものと推認できる。その上,前記のとおり大筋で
信用できるCの供述によれば,被告人とCは,A学園に北側の土地が払い下げられ
るという話をするために要望書を作成することを話し合ったこと,K事務所のLに
「受け付けるだけ受け付けろ。」と言って受け付けさせ,受け付ける際Lが「受け
付けるだけ。」と言っていたこと,その時点で実現不可能な内容である平成9年9
月16日付業務委任契約書の内容を被告人が確認して署名したことが認められる。
以上を総合すれば,被告人がA学園に嘘の事実を述べて金を騙し取ろうと,Cと共
謀した上犯行に及んだ
事実が認定できる。そして,いまだ実現する目途の立っていない事実をさも実現す
るかのように述べてA学園から金を出させることを被告人が認識していた以上,被
告人に詐欺の故意も認められる。
 2 判示第1の2の事実について
   12月の件についても,現に被告人がA学園から振り出された小切手によっ
て多額の利益を得ており,Cが一人でA学園をだまして被告人に利益を与える理由
はないことが認められる。そして,9月の件から12月の件までの間に,被告人と
K事務所との交渉でも北側の土地やへその部分についてほとんど進展がなく,その
他の土地についての交渉もない状況において,A学園が被告人に対してさらに金を
出す理由は考えられず,被告人もその理由を説明できないのであるから,被告人
は,A学園が被告人に金を出す理由がないことを認識していたものと認められる。
そうすると,そのような状況において,被告人がA学園から金を出させるようにC
に頼んだ以上,CがA学園に対し,客観的事実と異なった嘘をつくことになること
は当然であり,少なく
とも,CがA学園に対して嘘を言うことを被告人は十分認識していたものと推認で
きる。その上,Cの供述によれば,被告人からCに対して,A学園から金を引き出
せないかと持ちかけたこと,被告人は,客観的に存在しない事実を記載した平成9
年12月11日付業務委任契約書及び同日付合意書の内容を分かった上で署名した
ことも認められる。したがって,被告人がA学園に虚偽の事実を述べて金を騙し取
ろうとCと共謀したことも,被告人に詐欺の故意があったこともともに十分認定で
きる。
 3 以上の次第であるから,判示第1の1,2のとおりの各事実が認められる。
   なお,証拠によれば,被告人らは第1の1,2の犯行後もK事務所と本件土
地の払下げの交渉を継続し,その結果,本件土地の払下げを受けられることが可能
な状況を実現した事実が認められる。しかし,被告人らは本件土地の一部について
すでに多額の報酬を得ていたのであり,払下げが実現することで第1の1,2の犯
行の発覚を免れることになり,また,そのことによりその余の土地の払下げを受け
てさらに利益を得ることにもなることからすると,上記の交渉を継続したことが,
本件当時被告人らに詐欺の故意がなかったことを示すものとはいえない。
(法令の適用)
罰 条
第1の1,2       それぞれ刑法60条,246条1項
第2           暴力行為等処罰に関する法律1条,刑法222条1項
刑種の選択
第2           懲役刑
併合罪の処理        刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情
の最も重い第1の1の罪の刑に加重する。)
未決勾留日数の算入     刑法21条
訴訟費用          刑事訴訟法181条1項本文
(量刑の理由)
 本件は,共犯者と共謀して,被害法人が希望する名古屋市所有の土地の払下げに
関して,被害法人の理事長らに対し,払下げの見込みがたっていない土地をあたか
も取得できるようになったかのような虚偽の事実を申し向けて,被害法人からその
取得に要した費用や報酬前渡金名目に合計9500万円の小切手を詐取し(第1の
1,2),この不動産取引に関して被害法人が被告人との民事調停を不調に終わら
せたことに憤慨して,被害法人の職員に対して,暴力団の威力を示して脅迫した
(第2)という事案である。
 詐欺の各犯行は,自己の借金の返済のため,被害法人の窓口的存在であった共犯
者を誘い,被害法人から多額の小切手を詐取したものであって,その動機に酌むべ
きものはない。そして,事前に被害法人を欺くための書類を作成し,これを名古屋
市の関係機関に提出して収受印を押させ,その写しや,偽造した関係者の領収書や
書類を使用するなどしており,本件は計画的犯行であって,態様が悪い。多額の小
切手を詐取しており,結果もまた重大である。その上,被告人は,共犯者との共謀
の事実を否認するなどしていて,反省が十分ではない。また,民事調停を被害法人
が打ち切ったことに対し,その職員を脅迫した犯行についても特に酌むべき事情は
ない。被告人が暴力団組織の元副会長であることを誇示するなどして脅迫した態様
も悪質であり,被告
人には同種の前科もある。また,被告人は,被害法人及び被害者に対して被害弁償
等慰謝の措置をとっていない。
 そうすると,被告人の刑事責任は重いといわなければならない。
 一方,本件詐欺の各犯行は,被告人が主導的であったことは認められるものの,
詐取金すべてが被告人のためだけに費消されたものではないこと,共犯者が犯行計
画を立案して行動し,欺罔の手段として用いた業務委任契約書等も作成しているの
であって,共犯者も重要な役割を果たしたと考えられること,そして,犯行の後
も,被告人らは,被害法人の希望した土地が取得できるように交渉を続け,本件土
地の払下げを受けられることが可能な状況を実現したことなどの事情が認められ,
このような事情に鑑みると,被告人の犯情が特に悪質とまではいえない。また,判
示第2の事実については認めて反省の情を示していること,現在63歳と高齢であ
ることなどの事情もある。
 そこで,これらの諸事情を総合考慮して,主文のとおり判決することとする。
(求刑-懲役7年)
平成15年4月24日
名古屋地方裁判所刑事第3部
裁判長裁判官  片  山  俊  雄
裁判官  岩  井  隆  義
裁判官  石  井     寛

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また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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