弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
特許庁が、昭和五七年審判第八七〇一号事件について、昭和六一年二月二七日にし
た審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた判決
一 原 告
主文同旨
二 被 告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
 原告は、名称を「袋詰包装機における挾持腕対の開度調節装置」とする考案(以
下「本願考案」という。)につき昭和五三年三月一○日実用新案登録出願をしたと
ころ、昭和五七年二月二○日拒絶査定を受けたので、同年四月三〇日審判を請求し
た。特許庁はこれを同年審判第八七〇一号事件として審理し、昭和六一年二月二七
日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年三月二六日
原告に送達された。
二 本願考案の実用新案登録請求の範囲
 施回軸に固定された施回円板7の外周部分に一定の角度間隔で複数組の挾持腕対
を軸支し、その各挾持腕対に互に反対方向に連動する連動装置を設けてなる袋詰包
装機において、開度調節用の調節円板10を施回円板7と同心に装着し、各挾持腕
対の一方の挾持腕を施回円板7に設けた軸21aに軸支して、その一方の挾持腕に
軸21aを越えて直線上に突出する突片27を設け、さらに、前記の軸21aに他
方の挾持腕の軸21bの方向に突出する揺動腕28の基端を軸支すると共に、突片
27の突出端に、前記の揺動腕28とほぼ平行にした第一リンク29を軸連結し、
第一リンク29の自由端と揺動腕28とを前記突片27とほぼ平行に配した第二リ
ンク30により軸連結し、調節円板10の縁部の軸子15に一端を連結したリンク
16の自由端を第一リンク29と第ニリンク30との連結軸32に連結したことを
特徴とする袋詰包装機における挾持腕対の開度調節装置。(別紙図面参照)
三 審決の理由の要点
1 本願考案の実用新案登録請求の範囲は前項のとおりである。
2 昭和六〇年九月二六日付拒絶理由通知書で指摘した明細書の記載の不備につい
て検討すると、同年一二月一四日付の全文を訂正した明細書(以下「本願明細書」
という。)には、「本願の考案は、実開昭五一-一五九六八四号公報に開示されて
いる装置を改良し、円板に相当する調節板によつて送りねじ等を介することなく揺
動腕対の開度を調整できるようにしたものである」旨の記載があることは認められ
る。
3 しかし、右明細書には、実開昭五一-一五九六八四号公報(以下「引用例1」
という。)及び特開昭四九-九六八九四号公報(以下「引用例2」という。)に記
載された考案との異同、長短等に関する説明、記載は存在しないし、右「送りねじ
等を介することなく」と記載された部分は、送りねじ等の代りとなる別の要素(部
材、部品)を必要としないことを明確に意味するものではないから、依然として漠
然としたものにすぎない。
4 そうだとすると、前記拒絶理由通知書で指摘したとおり、本願明細書は、本願
のリンク機構が引用例1に記載されたピニオン付送りねじ等や引用例2に記載され
たローラ及びレバー等と区別される独特の効果は何かという点の記載を欠き、実用
新案法五条三項の要件を満たしていないから、本願は拒絶すべきものである。
四 審決の取消事由
1 審決の理由の要点1、2は認めるが、3、4を争う。
2 本願明細書(甲第二号証)及び願書添付図面(甲第六号証の三)には、本願考
案に特有なリンク機構を有する「袋詰包装機における挾持腕対の開度調節装置」の
構造と作用効果が明記されており、引用例1(甲第七号証)のピニオン付送りねじ
等による構造及び引用例2(甲第八号証)のローラー及びレバーによる構造との相
違と本願装置のリンク機構による特有な効果が必要十分に記載されている。
 したがつて、実用新案法五条三項の要件を満たしていないとした審決の認定は誤
つており、取り消されるべきである。
 すなわち、本願考案の実用新案登録請求の範囲には、二に記載したとおり、図面
の記載を引用して本願挾持腕対の開度調節装置を構成する調節円板10、施回円板
7、挾持腕軸21a、21b、突片27、揺動腕28、第一リンク29、第二リン
ク30、
連結軸32等の要素と関連機構が記載されている。また、本願明細書の考案の詳細
な説明の項には、本願考案の対象について、「この考案は袋詰包装機が備える包装
袋支持の挾持腕対の開度を、使用する包装袋の巾に合わせて任意に調節するように
した操作の極く簡単な開度調節装置に関する。」(甲第二号証二頁一一行ないし一
四行)と説明したうえ、包装袋の横巾に応じて挾持腕対の開度を調節する必要があ
ることが記載され、ついで、公知技術として、実開昭五一―一五九六八四号公報
(引用例1)の円板及び歯車の回転によりピニオンを介した送りねじ等の複雑な連
動機構を有する挾持腕対の開度調節装置が説明され、本願考案がかかる公知装置を
改良し、「調節板によつて送りねじ等を介することなく揺動腕対の開度を調整でき
るようにしたもので」あることが説明されている(同四頁三行ないし六行)。
 そして、右明細書には、従来のピニオン付送りねじ等の機構あるいはローラ及び
レバー等の機構と全く別異のリンク機構(ただし、リンク機構自体は周知であ
る。)を有する本願開度調節装置の具体的実施例が添付図面を引用して詳細に記載
されている(同五頁四行ないし一一頁四行)。
 さらに、同明細書に「本考案は以上の説明で明らかなように、各挾持腕対の一方
の挾持腕を施回円板7に設けた軸21aに軸支して、その一方の挾持腕に軸21a
を越えて直線状に突出する突片27を設け、さらに、前記の軸21aに他方の挾持
腕の軸21bの方向に突出する揺動腕28の基端を軸支すると共に、突片27の突
出端に前記の揺動腕28とほぼ平行にした第一リンク29を軸連結し、第一リンク
29の自由端と揺動腕28とを前記突片27とほぼ平行に配した第二リンク30に
より軸連結し、調節円板10の縁部の軸子15に一端を連結したリンク16の自由
端を第一リンク29と第二リンク30との連結軸32に連結した構成からなり、調
節円板10を施回円板7に対して相対的に回転することにより、該調節円板10の
前記の軸子15が挾持腕対24a、24bの一方の挾持腕24aの旋回円板7に設
けた軸21aに対して近づいたり遠ざかつたりする移動を生ずるが、前記一方の挾
持腕24aには軸21aを越えて直線状に突出する突片27を設けてあり、その突
片27の突出端に、第一リンク29の一端を軸連結し、該第一リンクの他の一端の
連結軸32に前記の軸子15に一端を連結したリンク16の他の一端を連結してい
るので、」(同一一頁五行ないし一二頁一二行。以下(a)の記載という。)と本
願考案に特有な構造が説明され、つづいて「前記のように軸子15が移動すると、
第一リンク29及び突片27を介して一方の挾持腕24aが揺動し、公知の連動装
置及び引張ばねが設けてある挾持腕対の開度を包装袋の巾に応じて可成りの範囲で
一斉にかつ無段階に調節できる特有の作用効果を生じて、袋詰包装機に用いる包装
袋の横巾の変化に適応させ得る効果をもつ。」(同一二頁一二行ないし一三頁三
行)と記載され、かかる構造としたことによる特有な効果が説明されている。この
記載は、まさに、引用例1、同2記載の発明、考案にない本願に特有の効果を記載
したものである。
第三 請求の原因に対する認否及び主張
一 請求原因一ないし三は認めるが、四の主張は争う。
二 原告主張の審決取消事由は失当であり、審決には違法の点はない。
 原告のいう「本願考案の効果」は、引用例1のピニオン付送りねじ等によつても
得られる効果、換言すると、本願考案のリンク構機によらずとも得られる、きわめ
てありふれた周知の効果でしかない。
 目的及び効果を重くみる一つの側面では引用例1の考案と同一でありあるいは進
歩性を有せず、構成を重くみる別の側面ではリンク機構を必須要件とする点で引用
例1の考案と相違する考案であるような本願の考案にあつては、送りねじ等でな
く、ローラー及びレバー等でもない、まさにリンク機構であることの効果(リンク
機構自体は周知であるから、この効果は送りねじ等と対比して容易に明確になるも
のと認められる)、つまり独特の効果を記載してはじめて実用新案法五条三項の
「考案の効果」が記載されたことになるのである。
 「『考案の効果』には、当該考案によつて生じた特有の効果をなるべく具体的に
記載する。
」とする実用新案法施行規則二条の様式第三の備考13ハも右の趣旨を支持するも
のである。
 また、構成が異なると通常はそれに基づく独特の効果が存在し、その効果の存在
によりその構成の相違による意味が明確となり、ひいてはその考案が明確になるも
のである。本件の場合も、従来のピニオン付送りねじ等やローラー及びレバー等に
代えてリンク機構を用いているのであるから、その相違に基づく独特の効果を記載
することよつてはじめてそのように構成を変えたことの意味、したがつて本願考案
が明確になるものと認められ、その意味で、リンク機構が、ピニオン付送りねじ等
(引用例1)やローラー及びレバー等(引用例2)と区別される独特の効果は何
か、この点の記載を欠く点で明細書の記載は不備である旨の拒絶の理由を通知した
ものである。しかるに、これに対して、本願考案がリンク機構を用いたことによる
効果を従来のものと対比して記載することなく、本願考案の独特の効果には全く触
れず、単に「送りねじ等を介することなく」としたのでは、本願考案は、送りねじ
等に代えてリンク機構を用いているのであるから、送りねじを介していないのは理
の当然であつて、拒絶の理由にこたえたことにはならない。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
一 特許庁における手続の経緯、本願考案の実用新案登録請求の範囲、審決の理由
の要点が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。
二 そこで審決の取消事由の存否について検討する。
(一)成立に争いのない甲第二号証及び同第六号証の三によれば、本願明細書の考
案の詳細な説明の項には、本願考案の属する技術分野として、「この考案は袋詰包
装機が備える包装袋支持の挾持腕対の開度を、使用する包装袋の巾に合わせて任意
に調節するようにした操作の極く簡単な開度調節装置に関する。」(二項一一行な
いし一四行)と記載され、先行技術である引用例1記載の考案の技術内容につき、
「従前の同目的の調節装置で旋回円板と同心に設けた円板に環状の歯車を設け、そ
の歯車にピニオンを係合した送りねじを設け、その送りねじに、一方の挾持腕に連
結した揺動アームの端部のナツトを螺合し円板及び歯車の小回転によりピニオンを
介して送りねじを連動回転し、その回転で前記ナツトを送り、揺動アームを介して
一方の挾持腕を移動させると共に、連動機構を介して他方の挾持腕を反対方向に連
動し、それらによつて挾持腕対の開度を調整するようにした装置」(三頁七行ない
し四頁一行)であると説明したうえ、本願考案の目的、効果として、「本考案はか
かる公知技術を改良し、前記の円板に相当する調節板によつて送りねじ等を介する
ことなく揺動腕対の開度を調整できるようにしたもので」(四頁三行ないし六行)
あることが記載され、つづいて添付図面を引用して本願考案の構成及びその作用が
実施例により説明され、原告引用の(a)の記載の後に、本願考案の効果として、
「前記のように軸子15が移動すると、第一リンク29及び突片27を介して一方
の挾持腕24aが揺動し、公知の連動装置及び引張ばねが設けてある挾持腕対の開
度を包装袋の巾に応じて可成りの範囲で一斉にかつ無段階に調節できる特有の作用
効果を生じて、袋詰包装機に用いる包装袋の横巾の変化に適応させ得る効果をも
つ。」(一二頁一二行ないし一三頁三行)と記載されていることが認められる。
 以上の記載によれば、本願考案はリンク機構を用いた袋詰包装機における挾持腕
対の開度調節装置にかかるものであり、その目的、効果は引用例1記載の考案の送
りねじ等を介することなく揺動腕対の開度を調整することであることが明らかであ
る。そして、リンク機構自体が周知であることは当事者間に争いがなく、本願明細
書のリンク機構の構成及びその作用についての前記記載に不備な点はないので、当
業者が本願明細書記載のリンク機構をみればリンク機構を用いたことによる効果は
容易に理解することができるものと認められる。
 したがつて、本願明細書の考案の詳細な説明の項には当業者が容易に実施するこ
とができる程度に本願考案の目的、構成及び効果が記載されているということがで
きる。
(二) 被告は、本願明細書の目的、効果についての前記記載(四頁三行ないし六
行)は、本願考案が送りねじ等に代えてリンク機構を用いるものであるから本願考
案の特有の効果とはいえない、本願明細書の効果についての前記記載(一二頁一二
行ないし一三頁三行)は引用例1の考案によつても得られる効果であるから本願考
案の特有の効果ではない旨主張し、実用新案法施行規則二条の様式第三備考13ハ
を援用する。
 右様式第三備考13ハにいう「当該考案によつて生じた特有の効果」は先行技術
と対比して当該考案だけが生ずる効果の意味に解すべきことは被告主張のとおりで
ある。しかし、実用新案法五条三項は当業者が容易にその考案の実施をすることが
できる程度に出願人に考案の内容を開示させるために、明細書の考案の詳細な説明
にその考案の目的、構成と並んで効果の記載を要求していると解すべきであるか
ら、右の特有の効果は必ずしも技術的に高度な意味を有するものである必要はな
く、当業者において考案の目的、構成の記載から効果が容易に理解することがで
き、考案を容易に実施することの妨げとならないときは、先行技術と区別する特定
の事項を効果として記載することで足りると解するのが相当である。本願明細書に
おいては、前叙のとおり、リンク機構の構成、作用の記載からリンク機構を用いた
ことによる効果は容易に理解することができるのであるから、仮に本願明細書の効
果についての前記記載(一二頁一二行ないし一三頁三行)が被告の主張するとおり
引用例1の考案の効果と同一であるとしても、前記「送りねじ等を介することな
く」との記載をもつて本願考案の効果の記載があると認めて差支えないというべき
である。
 もつとも、考案の効果の記載はその考案に新規性、進歩性があるか否かの判断の
重要な資料となることがあることは被告主張のとおりであるが、前叙の実用新案法
五条三項の立法趣旨に照らせば、効果の記載が右の判断の資料として不十分である
ときは、明細書の記載の不備の有無の問題として判断すべきではなく、新規性、進
歩性の有無の問題として判断すべきである。
 したがつて、被告の右主張は採用できない。
(三) そうすると、本願明細書が実用新案法五条三項の要件を満たしていないと
した審決の判断は誤りであるから、審決は違法として取り消しを免れない。
三 よつて、原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につ
き行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 瀧川叡一 清野寛甫 木下順太郎)
<10195-001>

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