弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成17年(行ケ)第10755号審決取消請求事件
平成18年10月11日判決言渡,平成18年9月20日口頭弁論終結
判決
原告ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
訴訟代理人弁護士片山英二,長沢幸男
訴訟代理人弁理士小林純子,松本研一,小倉博
訴訟復代理人弁理士荒川聡志
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人高橋学,田良島潔,小池正彦,田中敬規
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が不服2003-10426号事件について平成17年6月14日にし
た審決を取り消す」との判決。。
第2事案の概要
本件は,原告が,名称を「接触器を保護した電気車輌の駆動列」とする発明につ
き特許出願をして拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判
,。請求は成り立たないとの審決がなされたため同審決の取消しを求めた事案である
1特許庁における手続の経緯
()本件出願(甲第2号証)1
出願人:ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ(原告)
発明の名称:接触器を保護した電気車輌の駆動列」「
出願番号:特願平6-518287
出願日:平成6年2月7日(国際出願)
優先権主張日:1993年(平成5年)2月11日(米国)
()本件手続2
手続補正日:平成14年4月23日(甲第3号証)
拒絶査定日:平成15年3月5日(甲第7号証)
審判請求日:平成15年6月9日(不服2003-10426号)
審決日:平成17年6月14日
審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない」「。
審決謄本送達日:平成17年6月28日
2本願発明の要旨
審決が対象とした発明(平成14年4月23日付け手続補正後の請求項1に記載
,「」。,。)された発明であり以下本願発明というなお請求項の数は27個である
の要旨は,以下のとおりである。
「電気車輌用の駆動列であって,
牽引用蓄電池と,
,,電動機と該電動機に送り出される電力の制御をできるようにするゲート手段と
実質的に容量性の入力フィルタとを含み,前記牽引用蓄電池に接続され,前記車輌
の1つ又は更に多くの車輪を駆動する電力駆動手段と,
前記牽引用蓄電池と前記電力駆動手段との間に電気的に接続されている一対の接
点を有している主接触器であって,前記接点は,前記牽引用蓄電池と前記電力駆動
手段の容量性の入力フィルタとをそれぞれ接続すると共に切り離すように閉位置と
開位置との間で可動である,主接触器と,
前記牽引用蓄電池及び前記容量性の入力フィルタに接続されており,前記接点が
前記開位置にあるときに前記容量性の入力フィルタを充電する予備充電手段と,
該主接触器に接続されており,前記接点を前記開位置及び前記閉位置のうちの一
方の位置に移動させるように前記主接触器を作動させる制御手段であって,
前記予備充電手段と協働して,前記接点を前記開位置から前記閉位置へ移動させ
る前に前記容量性の入力フィルタを充電する予備充電制御手段と,
前記接点の間の電圧を検出する電圧検出手段と,
該電圧検出手段に応答して,前記接点の間の電圧が所定の値を超えることに応答
して前記接点が前記開位置から前記閉位置へ移動するのを防止するように前記接触
器を作動させる電力駆動禁止制御手段とを含んでいる制御手段と,
を備えた電気車輌用の駆動列」。
3審決の理由の要点
審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本願発明は,特開平3-22
2602号公報(甲第4号証。以下「引用刊行物1」という)及び実願昭63-。
13857号(実開平1-119121号)のマイクロフィルム(甲第5号証。以
下「引用刊行物2」という)にそれぞれ記載された発明に基づいて,当業者が容。
易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許
を受けることができない,というものである。
1引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張の日前である平成3年10月1日に頒
布された特開平3-222602号公報(引用刊行物1)には,次の事項が記載されている。
(1-1「ところで,従来の電気自動車用電力変換器としては,第3図に示す装置が周知で)
ある。
図において主バッテリ1は,電気自動車を駆動させる誘導電動機(モータ)10への電力E
供給用であり,また,補機バッテリE2では車載機器,例えば車両制御に関する機器や車両ラ
ンプ等に電力を供給するために配置されている。
主バッテリE1からの電力は,ヒューズ12及びリレー14を介してインバータ16へ供給
されている。ここで,リレー14は,インバータ16への電力供給をオン・オフ切替するもの
である。
インバータ16は,主バッテリE1の直流電力を交流に変換してモータへ供給しており,そ
の変換動作は,インバータコントローラ18にて制御されている。
また,インバータ16には,その入力端子間に電流平滑用コンデンサ20が接続され,イン
バータ16動作時における供給電流及び電圧を安定に保っている。
そして,平滑用コンデンサ20は,インバータ16起動前に初期充電され,この場合には,
リレー22がオンになり,充電用抵抗23を介して主バッテリから電流が供給される(第2。」
ページ左上欄第6行目~同ページ右上欄第8行目)
(1-2「以下にこの装置の動作を第4図に基づいて説明する。)
車両のイグニッションキー(図示せず)の操作によりECU30のシステムが起動すると,
リレー28がオンになり,また,DC/DCコンバータ26が動作を開始する。次に,リレー
,。,,22がオンになりコンデンサ20に初期充電が行われるそしてリレー14がオンになり
インバータ16に電力が供給され,インバータコントローラ18がインバータ16の動作制御
を行うことによりモータ10にて回転力が生じる(第2ページ左下欄第15行目~同ページ。」
右下欄第3行目)
この記載事項によると,引用刊行物1には「電気自動車用電力変換器であって,,
主バッテリE1と,
電気自動車を駆動させる誘導電動機(モータ)10と,主バッテリE1の直流電力を交流に
変換してモータへ供給しており,その変換動作は,インバータコントローラ18にて制御され
ているインバータ16と,電流平滑用コンデンサ20と,インバータ16への電力供給をオン
・オフ切替するリレー14と,
リレー22がオンになり,充電用抵抗23を介して主バッテリから電流が供給されてインバ
ータ16起動前に電流平滑用コンデンサ20が初期充電される回路と,
リレー14を開閉駆動制御するECU30のシステムが,車両のイグニッションキーの操作
により起動すると,リレー28がオンになり,また,DC/DCコンバータ26が動作を開始
し,次に,リレー22がオンになり,コンデンサ20に初期充電が行われるようにした制御手
段を有する電気自動車用電力変換器」の発明が記載されている。
また,同じく原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張の日前である平成1年8
月11日に頒布された実願昭63-13857号(実開平1-119121号)のマイクロフ
ィルム(引用刊行物2)には,次の事項が記載されている。
(2-1「本考案は,電源と負荷との間に挿入されるスイッチを保護するスイッチ保護回路)
に関し,スイッチと並列に,スイッチよりは早くオンとなって負荷に制限された電流を供給す
るスイッチ回路を接続すると共に,スイッチの出力側電圧を電圧検出回路によって検出し,出
力側電圧が所定レベルに達したときに,スイッチの駆動回路に対しスイッチをオンさせる信号
を与えることにより,特に,負荷が容量性である場合のサージ電流を抑え,スイッチを構成す
る接点や半導体素子の劣化もしくは最大定格オーバによる破壊等の問題を解消できるようにし
たものである(第1ページ第17行目~第2ページ第8行目)。」
(2-2「しかし,負荷が例えばスイッチング電源等のように,容量性である場合には,ス)
イッチの投入と同時に,きわめて大きなサージ電流が流れ,スイッチとして用いられている接
点が劣化し,寿命が短くなる(第2ページ第20行目~第3ページ第4行目)。」
2対比
引用刊行物1に記載された「電気自動車「主バッテリ「リレー14,および「コンデ」,」,」
ンサ20」は,それぞれ本願発明の「電気車輌「牽引用蓄電池「主接触器,および「容」,」,」
量性の入力フィルタ」に相当し「リレー」が一対の接点を有する構成は電力用のリレーの一,
般的な構成であり,また,引用刊行物1に記載されたインバータ16がインバータコントロー
ラ18にて制御されていることから「電動機に送り出される電力の制御をできるようにするゲ
ート手段」を有することは明らかであり,また,リレー22がオンになり,コンデンサ20に
初期充電が行われ,リレー14がオンになるので,主接触器の接点を開位置から閉位置へ移動
させる前にコンデンサを充電していることは明らかである。
また,本願発明の「電気車輌用の駆動列」は,電気車輌用の電動機を駆動するための装置に
他ならないので引用刊行物1に記載された電気自動車用電力変換器に対応するものである。
したがって,引用刊行物1に記載された発明と本願発明を対比すると,両者は,
「電気車輌用の駆動列であって,
牽引用蓄電池と,
電動機と,該電動機に送り出される電力の制御をできるようにするゲート手段と,実質的に
容量性の入力フィルタとを含み,前記牽引用蓄電池に接続され,前記車輌の1つ又は更に多く
の車輪を駆動する電力駆動手段と,
前記牽引用蓄電池と前記電力駆動手段との間に電気的に接続されている一対の接点を有して
いる主接触器であって,前記接点は,前記牽引用蓄電池と前記電力駆動手段の容量性入力フィ
ルタとをそれぞれ接続すると共に切り離すように閉位置と開位置との間で可動である,主接触
器と,
前記牽引用蓄電池及び前記容量性の入力フィルタに接続されており,前記接点が前記開位置
にあるときに前記容量性の入力フィルタを充電する予備充電手段と,
該主接触器に接続されており,前記接点を前記開位置及び前記閉位置のうちの一方の位置に
移動させるように前記主接触器を作動させる制御手段であって,
前記予備充電手段と協働して,前記接点を前記開位置から前記閉位置へ移動させる前に前記
容量性の入力フィルタを充電する予備充電制御手段と,
を備えた電気車輌用の駆動列」で一致し。
本願発明が「前記接点の間の電圧を検出する電圧検出手段と,
該電圧検出手段に応答して,前記接点の間の電圧が所定の値を超えることに応答して前記接
点が前記開位置から前記閉位置へ移動するのを防止するように前記接触器を作動させる電力駆
動禁止制御手段とを含んでいる制御手段」を有するのに対して,引用刊行物1に記載された発
明ではこの点が明らかでない点で相違している。
3相違点に対する判断
上記相違点について検討すると,引用刊行物2には,スイッチング電源のような容量性負荷
に対し,スイッチよりは早くオンとなって負荷に制限された電流を供給するスイッチ回路を接
続すると共に,スイッチの出力側電圧を電圧検出回路によって検出し,出力側電圧が所定レベ
ルに達したときに,スイッチ駆動回路に対しスイッチをオンさせる信号を与えることにより,
特に,負荷が容量性である場合のサージ電流を抑え,スイッチを構成する接点や半導体素子の
劣化もしくは最大定格オーバによる破壊等の問題を解消できるようにした接触器の保護回路の
発明が記載されている。
この引用刊行物2における電圧検出位置は,スイッチの出力側電圧であるが,これはスイッ
チの負荷側端子,すなわち,容量性負荷の充電電位とアース電位間の電位差を検出するもので
あり,一端がアースに接続された電源1の電位差を介してスイッチの入力側と出力側の電位差
を検出することと実質的に等価であり,電源1から容量性負荷への突入電流の可能性を判断す
る手段としてスイッチ両端間の電圧検出と同様の効果を奏するものである。
また,出力側電圧が所定レベルに達したときに,スイッチ駆動回路に対しスイッチをオンさ
せる信号を与える手段は,スイッチ両端間の電位差が大きいときにオンした場合に生じるサー
ジ電流防止のための手段であるから,出力側電圧が入力側電圧にほぼ同じとなるまでの,スイ
ッチ両端間の電位差が所定レベル以上の時には前記接点が前記開位置から前記閉位置へ移動す
るのを防止する電力駆動禁止制御手段に相当する。
そして,引用刊行物1,および2に記載された発明は,いずれも容量性負荷に対して電源か
ら突入電流が流れてスイッチが破壊されることを防止する点で同様の目的を有するものである
から,引用刊行物1に記載された発明において,容量性の入力フィルタを予備充電してから閉
となるリレー(主スイッチ)の閉動作を,引用刊行物2の記載を参照して,前記接点の間の電
圧が所定の値を超えることに応答して前記接点が前記開位置から前記閉位置へ移動するのを防
止するように前記接触器を作動させる電力駆動禁止制御手段を設けることで本願発明の構成と
することは当業者が容易になし得たことと認められる。
4むすび
したがって,本願発明は,引用刊行物1および2に記載された発明に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受ける
ことができない。
第3原告の主張(審決取消事由)の要点
1審決の本願発明と引用刊行物1記載の発明(以下「引用発明1」という)と。
の一致点及び相違点の認定は認める。審決は,当該相違点についての判断を誤った
ものであるから,取り消されるべきである。
2取消事由(相違点についての判断の誤り)
審決は,その認定に係る本願発明と引用発明1との相違点につき,引用発明1に
おいて,引用刊行物2の記載を参照して,相違点に係る本願発明の構成とすること
は,当業者が容易になし得たものと判断したが,以下のとおり,誤りである。
()引用発明2の認定の誤り1
ア審決が認定するとおり,引用刊行物2記載の発明(以下「引用発明2」とい
う)における電圧検出位置は,スイッチの出力側電圧であり,容量性負荷の充電。
電位とアース電位間の電位差を検出するものである。しかるところ,審決は,この
「容量性負荷の充電電位とアース電位間の電位差を検出すること」が「一端がア,
ースに接続された電源1の電位差を介してスイッチの入力側と出力側の電位差を検
出することと実質的に等価であり,電源1から容量性負荷への突入電流の可能性を
。」判断する手段としてスイッチ両端間の電圧検出と同様の効果を奏するものである
と判断した。
,「」しかしながら容量性負荷の充電電位とアース電位間の電位差を検出すること
と「一端がアースに接続された電源1の電位差を介してスイッチの入力側と出力,
側の電位差を検出すること」とは「実質的に等価」ではない。,
すなわち,本願発明のような電気車輌用の駆動列に使用される蓄電池は,運転状
,,,況に従って予測できない充放電が繰り返されまた蓄電池内の温度変動も大きく
これらの要因により,蓄電池電圧が変動するものであり,その変動割合が5%以上
となることも珍しくない。そして,本願発明の電圧検出手段は「接点の間の電圧,
を検出する」ものであるから,蓄電池電圧が変動した場合でも,スイッチの入力側
と出力側(接点の間)の電位差を確実に検出することができるのに対し,引用発明
2のように,検出の対象が,容量性負荷の充電電位とアース電位間の電位差である
ときには,蓄電池電圧が変動した場合に,スイッチの入力側と出力側との間(接点
の間)に,スイッチに損傷を与える可能性のある電位差が発生しているか否かを判
断することができなかったり,システムを作動することができなかったりすること
があるのである。例えば,引用発明2の「容量性負荷の充電電位とアース電位間の
電位差を検出する」電圧検出手段を,引用発明1の電気車輌に組み込んだ場合にお
いて,公称蓄電池電圧が300V,接点の間の電位差の所望値が10V以下である
とすれば,制御手段は,電圧検出手段が検出した容量性負荷の充電電位とアース電
位間の電位差が290Vに達すれば,スイッチを閉とするように設定されることに
。,,,,なるそうすると蓄電池電圧が変動し325Vとなった場合でも制御手段は
電圧検出手段が検出した容量性負荷の充電電位とアース電位間の電位差が290V
になれば,スイッチを閉としてしまうが,その時点では,スイッチの入力側と出力
,。,,,側の電位差は所望値を超える35Vであるこの場合蓄電池の電圧すなわち
蓄電池のスイッチ側の電位とアース側の電位(アース電位)との電位差が拡大して
も,電圧検出手段のアース電位には影響しない。また,蓄電池電圧が変動し,28
5Vとなった場合,容量性負荷は蓄電池以上の電荷を保持できないので,容量性負
荷の充電電位とアース電位間の電位差は290Vに達することがなく,スイッチが
閉とならないから,システムは全く作動しないことになる。これに対し,本願発明
の「接点の間の電圧を検出する」電圧検出手段では,蓄電池電圧が325Vとなっ
た場合でも285Vとなった場合でも,スイッチの入力側と出力側(接点の間)の
電位差が10Vになるまでスイッチを閉とせず,あるいは当該電位差が10Vにな
ればスイッチを閉とすることになるから,引用発明2の電圧検出手段のように,ス
イッチに損傷を与える可能性のある電位差が発生しているか否かを判断することが
できなかったり,システムを作動することができなかったりすることはない。
したがって「容量性負荷の充電電位とアース電位間の電位差を検出すること」,
と「一端がアースに接続された電源1の電位差を介してスイッチの入力側と出力,
側の電位差を検出すること」とが「実質的に等価」であるということはできず,,
引用発明2の電圧検出位置が,電源1から容量性負荷への突入電流の可能性を判断
する手段として,スイッチ両端間の電圧検出と同様の効果を奏するものとした審決
の判断は誤りである。
イ被告は,電気車輌用の蓄電池に係る電圧変動と関連させて「容量性負荷の,
充電電位とアース電位間の電位差を検出すること」と「スイッチの入力側と出力,
側の電位差を検出すること」との効果の差異を明らかした原告の主張が,本願明細
書(甲第2号証)の記載に基づくものではないと主張するが,本願明細書は,牽引
用電池が300Vから350Vまでの範囲の電圧を有することが記載されている
(7頁右上欄末行~左下欄2行,8頁左上欄3~4行)ほか,牽引用蓄電池の電圧
が充放電の状況により変動することは,多くの文献に記載され(甲第8号証,本)
件特許出願に係る優先権主張日(平成5年2月11日)当時,当業者の技術常識で
あった。
また,被告は,電気車輌用の蓄電池における電圧変動は,蓄電池や電力駆動手段
,,等の負荷側が許容し得るあらかじめ想定される範囲内の変動であるはずとした上
285V~325Vの変動に対し,出力電圧側の閾値を280Vに設定する例を挙
げて「容量性負荷の充電電位とアース電位間の電位差を検出する」場合と「スイ,,
ッチの入力側と出力側の電位差を検出する」場合とは,突入電流防止という効果に
おいて本質的な差異はないと主張する。しかしながら,285V~325Vの変動
,。,,は蓄電池の温度の変化や運転の状況に伴う正常範囲の変動であるそこで仮に
被告主張のとおり,出力電圧側の閾値を280Vに設定すると,蓄電池の長期使用
による性能低下や,ヘッドライト等を多少点灯したままにする等の原因で,正常範
囲より5Vの電圧低下があっただけで,作動しなくなるという状況が生じてしまう
という問題が残るのである。
ウまた,審決は「出力側電圧が所定レベルに達したときに,スイッチ駆動回,
路に対しスイッチをオンさせる信号を与える手段は,スイッチ両端間の電位差が大
きいときにオンした場合に生じるサージ電流防止のための手段であるから,出力側
電圧が入力側電圧にほぼ同じとなるまでの,スイッチ両端間の電位差が所定レベル
以上の時には前記接点が前記開位置から前記閉位置へ移動するのを防止する電力駆
動禁止制御手段に相当する」との判断をした。
しかしながら,上記アのとおり,引用発明2のように,電圧検出位置を出力側電
圧として,容量性負荷の充電電位とアース電位間の電位差を検出することによって
は,蓄電池電圧が変動した場合に,接点の間の電位差を所望値に止めることができ
ず,スイッチをオンしたときに突入電流(サージ電流)が発生する可能性があるの
に対し,本願発明のように,スイッチ両端間の電位差を検出し,所定レベル以上の
時にはスイッチがオンしないようにする制御手段は,突入電流の発生を防止するこ
とができる。したがって「出力側電圧が所定レベルに達したときに,スイッチ駆,
動回路に対しスイッチをオンさせる信号を与える手段」と「出力側電圧が入力側電
圧にほぼ同じとなるまでの,スイッチ両端間の電位差が所定レベル以上の時には前
記接点が前記開位置から前記閉位置へ移動するのを防止する電力駆動禁止制御手
段」とは,技術的に等価ではなく,前者が後者に相当するものではない。
()容易想到性判断の誤り2
審決は「引用刊行物1,および2に記載された発明は,いずれも容量性負荷に,
対して電源から突入電流が流れてスイッチが破壊されることを防止する点で同様の
目的を有するものであるから,引用刊行物1に記載された発明において,容量性の
入力フィルタを予備充電してから閉となるリレー(主スイッチ)の閉動作を,引用
刊行物2の記載を参照して,前記接点の間の電圧が所定の値を超えることに応答し
て前記接点が前記開位置から前記閉位置へ移動するのを防止するように前記接触器
を作動させる電力駆動禁止制御手段を設けることで本願発明の構成とすることは当
業者が容易になし得た」と判断した。
しかしながら,上記()のとおり,引用発明2の,出力側電圧(容量性負荷の充1
電電位とアース電位間の電位差)を検出して,これが所定レベルに達したときに,
スイッチ駆動回路に対しスイッチをオンさせる信号を与える手段と,本願発明の,
スイッチ両端間の電位差を検出して,これが所定レベル以上の時には接点が開位置
から閉位置へ移動するのを防止する電力駆動禁止制御手段とは,技術的に等価では
なく,前者が後者に相当するものではないから,そもそも引用発明1に引用発明2
を適用しても,相違点に係る本願発明の構成とすることはできない。
また,引用発明1は,すでに電気車輌の駆動列の第1リレー(主接触器)に突入
電流が発生することを防止するという問題を解決するに満足したものであり,当業
者にとって,引用発明2に依拠して問題を解決しようとする,さらなる問題は存在
していない。
加えて,引用発明2は,電池電圧がさほど変動しない電源技術の分野に属する技
術であるのに対して,引用発明1は,電池電圧が大きく変動する電気車輌の牽引用
蓄電池に関する技術分野に属するから,引用発明1の技術分野と引用発明2の技術
分野とは大きく異なるものである。
したがって,引用発明1,2が「いずれも容量性負荷に対して電源から突入電,
流が流れてスイッチが破壊されることを防止する点で同様の目的を有する」という
ような,極めて高次の上位概念が共通しているという理由のみで,当業者が引用刊
行物2を参照し,本願発明の構成とすることを容易になし得たとする審決の判断は
誤りである。
()乙第1~第3号証について3
被告は,特開昭56-58774号公報(乙第1号証,特開平1-17036)
5号公報(乙第2号証)及び特開平3-22867号公報(乙第3号証)に,スイ
ッチ投入時の電源側から容量性負荷側への突入電流を防止する技術として,スイッ
チの入力端子と出力端子間の電位差を直接に検出する周知技術が記載されていると
主張する。
しかしながら,乙第1号証は,直流電源から電源供給を受ける断続負荷及び駆動
,,,,回路を乙第2号証は直流電源から電源供給を受ける電源回路を乙第3号証は
三相交流電源から電源供給を受けるインバータ及び誘導電動機をそれぞれ開示する
ものの,乙第1~第3号証には,これらの回路等が,電気車輌用の電力変換装置に
関するものであることを開示又は示唆するものではないのみならず,乙第2号証に
記載のものは,その発明当時,一般に耐圧性が低かった電界効果トランジスタが使
用されているものであって,高電圧が使用される電気車輌用の電力変換装置に関す
るものではなく,また,乙第3号証に記載のものは,交流電源と整流回路が示され
ていることから,やはり,電気車輌用の電力変換装置に関するものではない。した
がって,乙第1~第3号証記載の技術は,引用発明1の電気車輌用の電力変換装置
に関する技術分野の当業者に周知ではなかった。そして,被告の主張は,周知技術
の名の下に新たな公知文献を組み合わせるものであり,拒絶査定の理由とは異なる
新たな拒絶理由に基づくもので許されない。
また,引用発明1及び引用発明2に乙第1~第3号証を適用したとしても本件発
明には到達しない。
第4被告の反論の要点
1審決には,原告主張の誤りはなく,原告の請求は理由がない。
2取消事由(相違点についての判断の誤り)に対し
()「引用発明2の認定の誤り」に対し1
ア引用刊行物2は,スイッチ投入時に電源側から容量性負荷側に突入電流(サ
ージ電流)が流れることを防止するために,スイッチをオンすることに先立って,
容量性負荷側のコンデンサをあらかじめ充電し,その後,電源電圧と容量性負荷側
のコンデンサ電圧との電位差が十分に小さいことを検出してスイッチをオンするこ
とで,突入電流を防止することが可能であるとの技術思想を前提として,上記スイ
ッチをオンするための判断を行うために,出力側電圧(容量性負荷の充電電位とア
ース電位間の電位差)Voの検出を行うものである。
他方,特開昭56-58774号公報(乙第1号証,特開平1-170365)
号公報(乙第2号証)及び特開平3-22867号公報(乙第3号証)には,いず
れも,スイッチ投入時の電源側から容量性負荷側への突入電流を防止する技術とし
て,スイッチの入力端子と出力端子間の電位差を直接に検出することが示されてお
り,このような技術は,本件特許出願に係る優先権主張日(平成5年2月11日)
当時,周知技術であった。このような周知技術の存在を考慮すると,引用刊行物2
における出力側電圧Voの検出が,その機能から見て,スイッチの入力側と出力側
の電位差を検出していることと実質的に等価であることは明らかである。
原告は,電気車輌用の蓄電池に係る電圧変動と関連させて「容量性負荷の充電,
電位とアース電位間の電位差を検出すること」と「スイッチの入力側と出力側の,
電位差を検出することとの効果の差異を主張するがこの主張は本願明細書甲」,,(
第2号証)の記載に基づくものではない。仮に,電気車輌用の蓄電池において電圧
変動が存在するとしても,その変動は,蓄電池や電力駆動手段等の負荷側が許容し
得る,あらかじめ想定される範囲内の変動であるはずで,そのようなものは,電気
車輌ならずとも,通常の電源において,温度の影響等により生じ得るものであり,
引用発明2おいては,実際上,そのような想定範囲内の電源電圧の変動を考慮した
上,出力側電圧Voの比較値である所定レベルの値(閾値)が決定されることにな
る。例えば,本願明細書には「約300ボルトから350ボルトまでの範囲内の,
電圧を有している牽引用蓄電池では,接点26は,その間の電圧が約50ボルト未
満,又は牽引用蓄電池13の一杯の電圧の約15%未満でなければ,閉路しないこ
とが典型的である(8頁左上欄3~7行)との記載があるから,接点間の電圧が。」
50V未満,あるいは52V未満であれば,スイッチを閉じてよいことが従来より
知られていたと理解できるところ,原告が挙げた,公称蓄電池電圧が300V,電
,,圧変動が285V~325Vという条件の下では最小電圧値285Vを考慮して
閾値を280Vに設定すれば,最大電圧325Vとの差は45Vとなって,許容さ
れる接点間電圧の範囲内であるし,システムを作動することができないということ
も生じない。このように,仮に蓄電池の電圧変動があったとしても「容量性負荷,
の充電電位とアース電位間の電位差を検出する」場合と「スイッチの入力側と出,
力側の電位差を検出する」場合とは,突入電流防止という効果において本質的な差
異はないのである。
したがって,審決が「引用刊行物2における電圧検出位置は,スイッチの出力,
側電圧であるが,これはスイッチの負荷側端子,すなわち,容量性負荷の充電電位
とアース電位間の電位差を検出するものであり,一端がアースに接続された電源1
の電位差を介してスイッチの入力側と出力側の電位差を検出することと実質的に等
価であり,電源1から容量性負荷への突入電流の可能性を判断する手段としてスイ
ッチ両端間の電圧検出と同様の効果を奏するものである」と判断したことに,何。
らの誤りもない。
イ原告は,引用発明2のように,容量性負荷の充電電位とアース電位間の電位
差を検出することによっては,蓄電池電圧が変動した場合に,接点の間の電位差を
所望値に止めることができず,スイッチをオンしたときに突入電流が発生する可能
性があるのに対し,本願発明のように,スイッチ両端間の電位差を検出し,所定レ
ベル以上の時にはスイッチがオンしないようにする制御手段は,突入電流の発生を
防止することができるから「出力側電圧が所定レベルに達したときに,スイッチ,
駆動回路に対しスイッチをオンさせる信号を与える手段」と「出力側電圧が入力側
電圧にほぼ同じとなるまでの,スイッチ両端間の電位差が所定レベル以上の時には
前記接点が前記開位置から前記閉位置へ移動するのを防止する電力駆動禁止制御手
段」とは,技術的に等価ではないと主張するが,たとえ,蓄電池の電圧変動を考慮
したとしても,引用発明2のように,容量性負荷の充電電位とアース電位間の電位
差を検出することによって,接点間電圧を許容範囲内に収めることができ,突入電
流を防止することができることは上記アのとおりである。したがって,原告の主張
は失当であり,審決が「出力側電圧が所定レベルに達したときに,スイッチ駆動,
回路に対しスイッチをオンさせる信号を与える手段は,スイッチ両端間の電位差が
大きいときにオンした場合に生じるサージ電流防止のための手段であるから,出力
側電圧が入力側電圧にほぼ同じとなるまでの,スイッチ両端間の電位差が所定レベ
ル以上の時には前記接点が前記開位置から前記閉位置へ移動するのを防止する電力
駆動禁止制御手段に相当する」と判断したことに,何らの誤りもない。。
()「容易想到性判断の誤り」に対し2
引用刊行物1には,予備充電手段と協働して,主接触器の接点を開位置から閉位
置へ移動させる前に容量性負荷側の容量性入力フィルタを充電する予備充電制御手
段を備えた電気車輌用の駆動列の発明である引用発明1が記載されており,引用刊
,()行物2にはスイッチ投入時に電源側から容量性負荷側への突入電流サージ電流
防止のために,スイッチオンに先立って,あらかじめ容量性負荷側のコンデンサを
充電し,その後電位差が十分に小さいことを検出してスイッチをオンするとの技術
思想が記載されている。そして,両者はいずれも,スイッチ投入時の電源側から容
量性負荷側への突入電流の防止方法に関し,その解決方法として,容量性負荷側の
コンデンサをあらかじめ充電するという基本的な技術思想の点で共通するから,引
用刊行物1,2との間に応用分野の相違があるとしても,引用刊行物2に記載され
た突入電流防止の方法に関する技術思想を,引用発明1の主接触器の開位置から閉
位置への移動の判断のために用いることに,阻害要因はない。
また,乙第1~第3号証に示された,スイッチ投入時の電源側から容量性負荷側
への突入電流を防止するため,スイッチの入力端子と出力端子間の電位差を直接に
検出する周知技術を考慮すれば,引用刊行物2における,出力側電圧(容量性負荷
の充電電位とアース電位間の電位差)Voの検出が,その機能から見て,スイッチ
の入力側と出力側の電位差を検出していることと実質的に等価であることは上記
()のとおりである。そして,上記のような引用刊行物2の記載と技術的背景に照1
らせば,引用刊行物2に記載された突入電流防止の方法に関する技術思想を,引用
発明1の主接触器の開位置から閉位置への移動の判断のために用いる際に,その具
体的手段として,接触器(スイッチ)の入力端子と出力端子間の電位差(接点間電
圧)を直接に検出し,これが所定値を超えることに応答して,接点が開位置から閉
位置へ移動するのを防止するように接触器を作動させる電力駆動禁止制御手段を想
起することは,当業者にとって容易に想到し得るものである。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(相違点についての判断の誤り)について
()「引用発明2の認定の誤り」について1
引用発明2における電圧検出位置はスイッチの出力側電圧であり,容量性負荷の
充電電位とアース電位間の電位差を検出するものであることは,当事者間に争いが
ない。
しかるところ,引用刊行物2には「<産業上の利用分野>本考案は,電源と,
負荷との間に挿入されるスイッチを保護するスイッチ保護回路に関し,スイッチと
並列に,スイッチよりは早くオンとなって負荷に制限された電流を供給するスイッ
チ回路を接続すると共に,スイッチの出力側電圧を電圧検出回路によって検出し,
出力側電圧が所定レベルに達したときに,スイッチの駆動回路に対しスイッチをオ
ンさせる信号を与えることにより,特に,負荷が容量性である場合のサージ電流を
抑え,スイッチを構成する接点や半導体素子の劣化もしくは最大定格オーバによる
破壊等の問題を解消できるようにしたものである(1頁16行~2頁8行「<。」),
考案が解決しようとする問題点>上述のように,電源と負荷との間に挿入されたス
イッチをオンにして,電源から負荷に電力を供給する簡単な回路構成であっても,
・・・負荷が例えばスイッチング電源等のように,容量性である場合には,スイッ
チの投入と同時に,きわめて大きなサージ電流が流れ,スイッチとして用いられて
いる接点が劣化し,寿命が短くなる(2頁15行~3頁4行「スイッチ回路。」),
5はスイッチ3と並列に接続され,信号線Aを通してスイッチ3をオンさせる信号
が与えられたときに,スイッチ3よりは早くオンとなって負荷2に制限された電流
を供給する。電圧検出回路6はスイッチ3の出力側電圧Voを検出し,出力側電
圧Voが所定レベルに達したときに,駆動回路4に対しスイッチ3をオンさせる信
号を与える(5頁9行~17行「第2図は本考案に係るスイッチ保護回路の。」),
更に具体的な回路構成を示す図である。この実施例では,スイッチ3はリレー接点
で構成されている。駆動回路4は,スイッチ3を構成するリレー接点を駆動するリ
レーコイル41及びこのリレーコイル41に直列に接続されたトランジスタ42を
備える。43はダイオードである。スイッチ回路5はトランジスタ51を備え,
このトランジスタ51のコレクタを電流制限用の抵抗52を通して,電源1に接続
されているスイッチ3の入力側に接続すると共に,エミッタをスイッチ3の出力側
(ロ)に接続してある。トランジスタ51のベースは抵抗7及び抵抗8を通して電
源1側に接続すると共に,抵抗7及び抵抗8の接続点(イ)にスイッチ3をオン,
オフさせる信号を供給する信号緑ABを接続してある。信号線ABには抵抗9を直
列に接続してある。53は保護用のダイオードである。電圧検出回路6はツェナ
ーダイオード61と抵抗62とを直列に接続し,抵抗62の両端を,駆動回路4を
構成するトランジスタ42のベースとエミッタの間に接続してある。ツェナーダイ
オード61は,抵抗8及びダイオード10を経由して,スイッチ3の出力側(ロ)
に接続してある。次に動作について説明する。まず,信号線ABを通してスイッ
,,,チ3をオンさせる高レベルの信号が供給されると電源1から抵抗78を通して
スイッチ回路5を構成するトランジスタ51のベースに電流が流れ込み,トランジ
スタ51がオンとなる。トランジスタ51がオンになると,抵抗52によって制限
された電流がトランジスタ51を通して負荷2側に流れ,容量性である負荷2が充
電され,出力側(ロ)の電圧が時間と共に上昇してゆく。出力側(ロ)の電圧V
oが所定レベルに到達すると,ダイオード10及び抵抗8を介して出力側(ロ)に
結ばれているツェナーダイオード61が導通する。この結果,駆動回路4を構成す
るトランジスタ42にべースドライブが加わり,トランジスタ42がオンとなる。
トランジスタ42がオンになると,リレーコイル41が励磁されるので,そのリレ
ー接点であるスイッチ3がオンとなり,スイッチ3を通して電源1から負荷2に電
力が供給される。スイッチ3がオンとなる時点では,スイッチ回路5のトランジス
タ51の導通による負荷2の充電が進んでおり,スイッチ3をオンにした場合のサ
ージ電流が小さくなる(6頁18行~9頁5行)との各記載がある。そして,こ。」
れらの記載及び第2図を総合すると,引用発明2は,直流電源から容量性負荷に電
力を供給する回路において,電源と負荷との間に挿入されたスイッチをオンにした
ときに発生する突入電流(サージ電流)を抑え,スイッチを構成する接点や半導体
素子の劣化もしくは最大定格オーバによる破壊等の問題を解消できるようにしたス
イッチ保護回路の発明であること,当該保護回路は,スイッチ3がオンされるのに
先立って,電源1から抵抗52によって制限された電流を容量性負荷2に流して容
量性負荷2を充電し,スイッチ3の出力側電圧を高めるものであること,電圧検出
回路6は,スイッチ3の出力側電圧Voを検出しており,容量性負荷2への充電が
進んで,出力側電圧Voが所定レベルに達したタイミングで,駆動回路4に対しス
イッチ3をオンさせる信号を与える機能を有するものであること,また,この回路
では,電源1はスイッチ側と反対の側がアースされていることが,それぞれ認めら
れる。
ところで,上記引用発明2の回路では,電圧検出回路6が検出しているのは,ス
イッチ3の出力側電圧Vo,すなわち,アース電位と容量性負荷の充電電位(した
がって,スイッチ3の出力端の電位)との電位差であるが,スイッチ側と反対の側
がアースされている電源1の出力電圧,すなわち,スイッチ3の入力側電圧は,ア
ース電位とスイッチ3の入力端の電位との電位差となるから,電源1の出力電圧が
一定である限り,出力側電圧Voがあるレベルに達したときの,スイッチ3の入力
側電圧と出力側電圧との差(アース電位を基準としたときの,スイッチ3の入力端
),,の電位と出力端の電位との電位差の値は一定であるはずであってこの場合には
スイッチ3の出力側電圧Voを検出することと,スイッチ3の入力側と出力側との
,,。電位差を検出することとが実質的に等価であることは技術常識上明らかである
他方,引用刊行物2には,電源1の出力電圧が変動する場合に関する記載は見あた
らない。そうすると,引用発明2は,電源1が一定の電圧を出力していることを前
提として,スイッチ3の出力側電圧Voを検出することにより,スイッチ3の両端
電圧(入力端と出力端の電位差)の検出に代えていることは,当業者であれば容易
に理解し得る技術事項である。
しかしながら,仮に電源1の出力電圧が変動するものであれば,スイッチ3の出
力側電圧Voを検出するのみでは不十分であって,実質的にはスイッチの入力端と
出力端との電位差を検出する必要があることも,当業者であれば,たやすく認識し
得る事柄である。なぜなら,突入電流,すなわち,直流電源から容量性負荷に電力
を供給する回路において,電源と負荷との間に挿入されたスイッチを投入したとき
に発生する過大電流と,これを防止する手段に関しては,引用刊行物2に上記記載
があるほか,例えば,特開昭56-58774号公報(乙第1号証)には「例え,
ばDC-DCコンバータの如く直流,特に大電流を断続する装置は,その直流入力
回路に大容量の平滑用コンデンサを設け,直流断続により発生する雑音が直流電源
側に及ぶのを阻止することが行われている。かかる装置を起動する際,直流電源を
入力に投入すると,前記平滑用コンデンサにラッシュ電流が流れ,入力回路にある
コネクタあるいはスイッチ等を損傷し,また直流電源電圧の瞬時低下を生じ負荷側
の誤動作を招きかねない(1欄12~20行「起動時,入力スイッチSWを。」),
投入すると,平滑用コンデンサCの充電電流は電流制限抵抗Rを介して流れる。該
充電電流で電流制限抵抗Rに生ずる電圧降下により,該電圧降下を監視する目的で
設けられたトランジスタは導通状態となり,従ってトランジスタも導通状TrTr12
態となり,トランジスタは非導通状態を続ける。平滑用コンデンサCの充電がTr3
完了に近づき充電電流が減衰すると電流制限抵抗Rに生ずる電圧降下は遂にはトラ
ンジスタのベース・エミッタ間電圧および該トランジスタベース電流による抵Tr1
12抗RBに生ずる電圧降下の和以下となりトランジスタ続いてトランジスタ,TrTr
33は非導通状態となり従ってトランジスタは導通状態となるトランジスタ,。TrTr
が導通状態となると起動リレーAは動作し,接点aにより電流制限抵抗Rを短絡す
る。以後断続負荷Lおよび同駆動回路Dに対する電源供給は,直流電源Eから電流
制限抵抗Rを介さずに行われる(3欄16行~4欄14行)との記載があるとお。」
り,スイッチを投入し,電圧を加えた瞬間に,初期状態で電荷が0ないしそれに近
い容量性負荷(平滑用コンデンサ)に対し流れ込む巨大な充電電流が,突入電流で
あり,これを防止するためには,スイッチを投入するに先立って,予備回路により
容量性負荷を十分に充電しておく手段を講ずる必要があることは,本件特許出願に
係る優先権主張日(平成5年2月11日)当時,当業者に周知の技術事項であった
と認められるところ,そうであれば,電源の出力電圧が変動する場合には,電源電
圧が一定であることを前提に,スイッチをオンさせるための所定値として想定して
(),いたスイッチの出力側電圧アース電位を基準とした容量性負荷の充電電位では
容量性負荷に対する充電がまだ不足している事態が生じることもあり得るから,変
動する電源の出力電圧(したがって,スイッチの入力側電圧)に対応して,スイッ
チをオンさせるタイミングの値としてのスイッチの出力側電圧(アース電位を基準
とした容量性負荷の充電電位)の値も変動するよう設計する必要があり,このこと
は,結局,スイッチの入力端と出力端との電位差(スイッチの入力側電圧と出力側
電圧との差,すなわち,接点間の電圧)を検出することに帰することは,当業者で
あれば,容易に想到し得るからである。
原告は,乙第1号証記載の技術は,電気車輌用の電力変換装置に関するものでは
なく,当該技術分野の当業者に周知ではなかったとするが,仮に,乙第1号証の特
許請求の範囲に記載された技術そのものが,電気車輌用の電力変換装置に関する技
術分野の当業者に周知ではなかったとしても,当該技術の前提である,突入電流発
生の機序,及びその防止に関する,予備回路によりあらかじめ容量性負荷を十分に
充電しておくという程度の一般的な技術手段自体は,これと全く同一の問題を抱え
る電気車輌用の電力変換装置に関する技術分野の当業者にも周知であったと認めら
れるから,上記主張を採用することはできない。
そうすると「引用刊行物2における電圧検出位置は,スイッチの出力側電圧で,
あるが,これは・・・一端がアースに接続された電源1の電位差を介してスイッチ
の入力側と出力側の電位差を検出することと実質的に等価であり,電源1から容量
性負荷への突入電流の可能性を判断する手段としてスイッチ両端間の電圧検出と同
様の効果を奏するものである」とした審決の判断は,電源電圧が一定である場合に
は何らの誤りもなく,また,電源電圧が変動する場合には,引用刊行物2に記載さ
れた,スイッチの出力側電圧を検出するという技術手段が,当業者に周知の技術事
項を介して,スイッチの入力側と出力側の電位差(接点の間の電圧)を検出するこ
とを示唆しているという趣旨で,誤りであるとまではいえない。
なお,原告は「出力側電圧が所定レベルに達したときに,スイッチ駆動回路に,
対しスイッチをオンさせる信号を与える手段は,スイッチ両端間の電位差が大きい
ときにオンした場合に生じるサージ電流防止のための手段であるから,出力側電圧
が入力側電圧にほぼ同じとなるまでの,スイッチ両端間の電位差が所定レベル以上
の時には前記接点が前記開位置から前記閉位置へ移動するのを防止する電力駆動禁
止制御手段に相当する」との審決の判断が誤りであると主張するが,審決のこの。
記載は,電圧検出手段が,スイッチに損傷を与えるような突入電力の発生を防止す
るために十分な程度にまで容量性負荷が充電されたことを検出した場合に,初めて
スイッチをオンにする(スイッチがオンになることを許可する)手段として,引用
発明2の「出力側電圧が所定レベルに達したときに,スイッチ駆動回路に対しスイ
ッチをオンさせる信号を与える手段」と「スイッチ両端間の電位差が所定レベル以
上の時には前記接点が前記開位置から前記閉位置へ移動するのを防止する電力駆動
禁止制御手段」とが,技術的意義を同じくし,前者が後者に相当するという趣旨で
あって,容量性負荷に十分な充電がなされたことを前提とするものであるから(こ
の前提の当否は,上記「引用刊行物2における電圧検出位置は,スイッチの出力側
電圧であるが,これは・・・一端がアースに接続された電源1の電位差を介してス
イッチの入力側と出力側の電位差を検出することと実質的に等価であり,電源1か
ら容量性負荷への突入電流の可能性を判断する手段としてスイッチ両端間の電圧検
出と同様の効果を奏するものである」という判断に関する問題であって,これにつ
いては上記説示のとおりである,その限りにおいて,審決のこの記載に誤りはな。)
い。
()「容易想到性判断の誤り」について2
審決の「引用刊行物1,および2に記載された発明は,いずれも容量性負荷に対
して電源から突入電流が流れてスイッチが破壊されることを防止する点で同様の目
的を有するものであるから,引用刊行物1に記載された発明において,容量性の入
力フィルタを予備充電してから閉となるリレー(主スイッチ)の閉動作を,引用刊
行物2の記載を参照して,前記接点の間の電圧が所定の値を超えることに応答して
前記接点が前記開位置から前記閉位置へ移動するのを防止するように前記接触器を
作動させる電力駆動禁止制御手段を設けることで本願発明の構成とすることは当業
者が容易になし得たことと認められる」との判断に関し,原告は,引用発明1に。
引用発明2を適用しても,相違点に係る本願発明の構成とすることはできないと主
張するが,審決は「引用刊行物2の記載を参照して」とあるとおり,引用発明1,
に引用発明2をそのまま適用して,相違点に係る本願発明の構成となし得るとする
ものではなく,引用刊行物2によって示唆される技術事項を適用することにより,
本願発明の構成となし得るとするものであると解されるところ,引用刊行物2に記
載された,スイッチの出力側電圧を検出するという技術手段が,当業者に周知の技
術事項を介して,スイッチの入力側と出力側の電位差(接点の間の電圧)を検出す
ることを示唆していることは上記()のとおりであるから,原告の上記主張を採用1
することはできない。
また,原告は,引用発明1は,既に電気車輌の駆動列の第1リレー(主接触器)
に突入電流が発生することを防止するという問題を解決するに満足したものであ
り,当業者にとって,引用発明2に依拠して問題を解決しようとする,さらなる問
題は存在していないと主張する。しかしながら,審決の本願発明と引用発明1との
一致点及び相違点の認定は当事者間に争いがないから,引用発明1は,相違点に係
る本願発明の構成を除き,容量性の入力フィルタ(容量性負荷)に対する予備充電
手段及び予備充電制御手段を含めて,本願発明と相違のない構成を備えるものであ
るが,審決が,引用発明1の認定のため摘記した引用刊行物1の記載(審決書2頁
6行~32行。引用刊行物1の2頁左上欄6行~右上欄8行,同頁左下欄15行~
右下欄3行)の冒頭に示されているとおり,上記のような構成を備えた引用発明1
は,従来周知の電気自動車(電気車輌)用電力変換器である。そして,引用刊行物
1に「発明が解決しようとする課題]しかしながら,上記従来の電力変換器に[
おいては,インバータに電圧が印加された状態で放電用抵抗にて常に電力が消費さ
れているという問題を有していた。即ち,放電用抵抗は,一方では保護的機能を
なすが,他方,即ちインバータへ電圧印加時には,電力を消費する負荷として働く
のである。そして,電気自動車ということに照らしてみても,電気エネルギー損
失の問題は,-充電走行距離等に係る大きな問題であり,その電力損失を解消すべ
き装置が切望されていた。発明の目的本発明は,上記従来の課題に鑑みなされ
たものであり,その目的は,電力損失を招く放電用抵抗を取り除き,経済性の高い
電力変換を行なう簡便な電気自動車用電力変換器を提供することにある(2頁右。」
下欄17行~3頁左上欄13行)と記載されているとおり,引用刊行物1の特許請
求の範囲に記載された発明は,上記従来周知の電気自動車用電力変換器における,
放電用抵抗による電力の空費の問題を解決すべき課題とするものであって,容量性
負荷に対する充電の程度との関係における,第1リレー(主接触器)を閉じるタイ
ミングに関しては,第2,第4図に,平滑用コンデンサ20の両端電圧が最高値と
なる(すなわち,充電が完了する)直前に第1リレーがオンされることが示されて
いるものの,そのようなタイミングで第1リレーをオンするための技術手段につい
ては,引用刊行物1に何らの記載もない。そうすると,引用発明1は,電気車輌の
駆動列の主接触器に突入電流が発生することを防止するという問題を解決するに満
足したものというよりは,突入電流の発生防止については,従来周知の予備充電回
路に係る構成を採用するに止め,それ以上は,問題(課題)として採り上げていな
いというべきであるから,引用発明1にあって,突入電流の発生防止に関し,当業
者が引用発明2に依拠して問題を解決しようとするさらなる問題は存在していない
とする,原告の上記主張を採用することもできない。
原告は,さらに,引用発明2は,電池電圧がさほど変動しない電源技術の分野に
属する技術であるのに対して,引用発明1は,電池電圧が大きく変動する電気車輌
の牽引用蓄電池に関する技術分野に属するから,引用発明1と引用発明2とは技術
分野が異なると主張する。しかしながら,上記()のとおり,そこに摘記した引用1
刊行物2の各記載によって,引用発明2は,直流電源から容量性負荷に電力を供給
する回路において,電源と負荷との間に挿入されたスイッチをオンにしたときに発
生する突入電流(サージ電流)を抑え,スイッチを構成する接点や半導体素子の劣
化もしくは最大定格オーバによる破壊等の問題を解消できるようにしたスイッチ保
護回路の発明であることが認められるところ,このことは,このような突入電力の
発生防止の課題が,直流電源から容量性負荷に電力を供給する回路を用いる各技術
分野に共通した課題であることをも示すものであり(引用刊行物2に引用発明2の
具体的な応用分野についての記載がないことや,乙第1~第3号証の記載からもこ
のことが窺われる,当該課題との関係においては,電気車輌の牽引用蓄電池に関。)
する分野も,上記のような電力供給回路の分野における一応用分野であるというに
すぎない。引用発明2が,電源が一定の電圧を出力していることを前提とする発明
であることは,上記()のとおりであるが,引用発明2に記載された電圧検出回路1
の構成が,電源電圧が変動する場合の電圧検出回路の構成を示唆していることも,
上記()のとおりであり,電源電圧が変動するか否かは,課題の共通性に影響を及1
ぼすような本質的な相違ということはできない。そうであれば,引用発明1,2と
も,上記のような電力供給回路の共通した分野に関するものというべきである。そ
して牽引用蓄電池の電圧が変動することが本件特許出願に係る優先権主張日平,,(
成5年2月11日)当時,当業者の技術常識であったことは,原告が自認するとこ
ろであるから,電気車輌の牽引用蓄電池に関する引用発明1につき,上記()のと1
おり,引用刊行物2が開示する技術を参照して,本願発明の相違点に係る構成を付
加ことは,当業者が容易になし得たものと認めることができる。
したがって,審決の上記判断に誤りはない。
2結論
以上によれば,原告の主張はすべて理由がなく,原告の請求は棄却されるべきで
ある。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
石原直樹
裁判官
高野輝久

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛