弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人A1、同A2に関する部分を破棄する。
     被告人A2を懲役壱年六月に、被告人A1を懲役壱年に各処する。
     但し本裁判確定の日から夫々参年間右刑の執行を猶予する。
     原審訴訟費用のうち証人B1(昭和二七年一〇月二日出頭分)、同B2
に支給した分は被告人A2の負担とし、証人B3に支給した分は被告人A1の負担
とし、証人B4、同B5(昭和二七年一〇月一七日出頭分)、同B6(同上)、同
B7、同B8、同B9に各支給した分は被告人A1及び原審相被告人A3の連帯負
担とし、証人C1、同B10、同B11、同B12、同B13、同B14、同B1
5、同B16、同B17、同B18、同B19、同B20、同B21、同B22、
同B23、同B24、同B25、同B26、同B27、同B1(昭和二八年七月二
九日出頭の分)、同B28、同B29及び同B30に支給した分は被告人A2、同
A1及び原審相被告人A4の連帯負担とし、当審訴訟費用は被告人A2、同A1、
同A4の連帯負担とする。
     本件公訴事実中、被告人A2が、昭和二七年九月一一日午後八時三〇分
頃法定の除外事由がないのに山梨県南巨摩郡a村bc番地B14方に在つたC1巡
査所持の実包六発装填の拳銃一挺及び実包一二発入の帯革を持ち出して同家より同
村d十字路附近迄約六〇米の間を往復携帯所持したとの点については被告人A2は
無罪。
     検察官の被告人A3、同A5、同A4についての各控訴及び被告人A
3、同A5、同A4、同A1からの各控訴は夫々これを棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は末尾に添附した原審検事大津広吉名義及び被告人等五名全員の
弁護人池田輝孝、同関原勇共同名義、被告人A1、同A3各名義の控訴趣意書のと
おりであり、検察官の控訴趣意に対する答弁は弁護人池田輝孝名義の答弁書のとお
りであり、これらに対し次のとおり判断する。
 弁護人論旨第三点
 原判決挙示の証拠によれば、原判示第二の一のとおり本件暴行の行われた当時C
1巡査は一般犯罪の予防、検挙及び選挙違反取締のため夜警邏勤務に従事していた
ことを認めるに十分である。
 所論は本件当時C1巡査は公務の執行中ではなかつたので、単にその勤務時間中
にすぎなかつた旨主張する<要旨第一>のであるが、刑法公務執行妨害罪における公
務の執行とは公務員がその為すべき職務とされた執務行為に従事するこ
とをいうのであるから、或公務員がその職務に従事中である所謂勤務時間中という
のは、その間特に休憩していたというような特段の状況のない限り、その公務員が
職務を執行している時間中と解すべきものである。殊に、警邏という執務はその本
質上、歩行していても或は立ち止つていても絶えず警邏区域内における犯罪の発
見、予防等に感覚を働かせてその職務をつくすべきものであるから、警邏という勤
務状態につくことはとりも直さず公務の執行となるものと解せられ、その間たまた
ま他人と雑談を交したからといつて、その間公務の執行から離脱したものとは云え
ないのである。又本件記録によつてはC1巡査が本件当時休憩をしていたという状
況は認め得ないのである。よつて同巡査の本件行動を目して所論のように単に勤務
時間中の行動にすぎず、公務の執行中ではなかつたとは認められないのである。原
判決には所論のような事実誤認の存するものとは認められない。所論は公務の執行
ということについて独自の見解を披歴するにすぎない。論旨は採用できない。
 弁護人の論旨第四点及び第五点
 本件拳銃等不法所持の公訴事実は被告人A2は昭和二七年九月一一日午後八時三
〇分頃法定の除外事由がないのに南巨摩郡a村bc番地B14方に在つたC1巡査
所持の実包六発装填の拳銃一挺及び実包一二発入の帯革を持出して同家より同村d
十字路附近迄約六〇米の間を往復携帯して所持したものであるというのであるとこ
ろ、原判決は被告人A2は昭和二七年九月一一日法令上許された場合でないのに拳
銃一挺を山梨県南巨摩郡a村de番地B19方附近から同所c番地B14方まで携
帯して所持したものである旨認定し、公訴事実中のB14方から持ち出した点は認
めなかつたものと認められるのである。ところで、本件記録によつて原判決挙示の
関係証拠を検討すれば、なる程これらによつては被告人A2が本件拳銃をB19方
附近からB14方まで携帯した事実は肯認しうるのであるが、本件公訴事実の如く
B14からこれを持ち出したという点はこれを肯認し得ないのである。
 その他原審が取り調べた全証拠によつてもこれを確認し得ないのである。
 而して、本件記録によると、本件日時頃C1巡査は自己の職務としてa村d町屋
地区内を夜警邏する途次、当日はたまたま選挙演説がその地区内で行われる日であ
つたので、制服制帽を着用して警邏するより、略装で警邏を続ける方がよいと考
え、制帽や制服上衣及び拳銃(実包装填及び実包入の帯革附)を右B14ことB1
4方に預けて同家を立ち出でようとしているところを本件暴行を受け公務の執行を
妨害されている中に何人かが右拳銃及び帯革をB14から持ち出したところ、被告
人A2がこの拳銃及び帯革を後にB19附近から右B14へ持つて行つたというの
であるから、通常の経験則によれば同被告人の右所為はそれ自体が右拳銃等を元あ
つた場所え戻す為のものであつたことを示しているのである。のみならず他方証人
B20の原審並びに当審における供述によれば、右B14に持つて来られた拳銃と
帯革を発見した同人から直ちにC1巡査に返還されている事実が認められるのであ
るから、これらによれば、被告人A2の本件拳銃の携帯は右B19附近からB14
迄これを返還しに行く為のものであつたと認めるに十分である。原判決が同被告人
の右所為をもつて拳銃を返えしに行つた行為とは認められないとしにのは事実を誤
認したものというべきである。
 要するに本件においては原判決も認定する如く、被告人A2がB14から本件拳
銃及び実包入帯革を不法に持ち出したという事実はこれを認めるに足る証拠なく、
認めうる事実は同被告人が一旦不法に持ち出された拳銃及び実包入帯革を元あつた
場所へ返還しに行つたという事実だけである。 而して最初拳銃を不法に持ち出し
た者が後にこれを元の場所に返還しておいても、これは拳銃の不法所持であること
は云うまでもないところと認められるのであるが、或者が不法に持ち出した拳銃を
これを知つた他の者(持ち出しについて共謀があつてはならない。)が元の場所に
返還しに行く為の携帯行為が果して拳銃等の不法所持罪を構成するであろうか。
 元来拳銃等の不法所持を罰する理由は一般人に対し危害を加えるに役立つこの種
物件が隠匿保存されることを根絶しようとすることにあるのであるから、この所持
とは右隠匿保存されることに何等かの関連と影響のあるものでなければならない。
よつてこの所持とは勿論これを自己の実力支配関係の下に置く意味の把持がなけれ
ばならず、この程度の把持のない以上たとえ携帯しても犯意のないもので、所持罪
は構成しないものと解する。例えば道に落ちている拳銃を警察署に届ける為に拾つ
て警察署に届出る間の携帯の如きものは、これらを隠匿保存することに何等の関連
性も影響力もないのであるから、未だ自己の実力支配関係の下に置く意思のある把
持とは解せられず、従つて犯意のない行為というべきである。
 尤も届出の意思はあつたとしても直ちに届出られる状態にあつたのに、これを自
宅に持ち帰えるが如き場合は最早自己の実力支配関係の下に置いているのであり、
犯意ある行為というべきである。
 以上のとおり、右のように届出の為にする携帯は拳銃の不法所持罪を構成しない
と解するのを相当とする。
 <要旨第二>ところで本件のように或者により特定場所に置かれていた拳銃が不法
に持ち出された後これを知つた右の者とは全く別個の他の者(本件にお
いて被告人A2と拳銃を持ち出した者とが同一人であることは勿論、この二者間に
意思の連絡のあつたという事実も認められない。)がこれを元の場所に返還しに行
く為のみの携帯行為が右届出の為の携帯行為と何処が相違する点があるであろう
か、回じく自己の実力支配関係の下に置く意思のある把持とは認められず、所謂不
法所持とは認められないのである。
 これを要するに、被告人A2がB14から本件拳銃帯革を持ち出した事実が認め
られない以上、原判決が認める同被告人の拳銃携帯の所為はこれの不法所持とは認
められず、被告人A2に対する本件拳銃不法所持の公訴事実は結局これを認めるに
足りる証拠のないことに帰する。しかるに原判決が原判示の如き事実を認めてこれ
を銃砲刀剣類等所持取締令第二六条第一号、第二条に該当すると認めたのは法令の
解釈適用を誤つたか、事実を誤認したかの何れかであつて、この誤は勿論判決に影
響を及ぼすものであるから、論旨は何れも理由がある。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 久礼田益喜 判事 武田軍治 判事 石井文治)

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