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平成18年(行ケ)第10034号特許取消決定取消請求事件
平成18年10月11日判決言渡,平成18年9月20日口頭弁論終結
判決
原告昭和電工株式会社
訴訟代理人弁護士片山英二,江幡奈歩,弁理士小林純子
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人高木康晴,徳永英男,柳和子,田中敬規
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が異議2003-72171号事件について,平成17年12月9日に
した決定を取り消す。」との判決。
第2事案の概要
本件は,特許異議の申立てに係る特許を取り消した決定の取消しを求める事件で
ある。
1手続の経緯
(1)原告は,発明の名称を「はんだ粉末,フラックス,はんだペースト,はん
だ付け方法,はんだ付けした回路板,及びはんだ付けした接合物」とする特許第3
385272号(請求項の数20。平成11年6月10日に出願(パリ条約による
優先権主張同年5月24日米国),平成14年12月27日に設定登録。以下「本
件特許」という。)の特許権者である。
(2)本件特許について特許異議の申立てがされ(異議2003-72171号
事件として係属),これに対し,原告は,平成16年7月20日,明細書の訂正
(甲3。以下「本件訂正」という。)を請求した。
(3)特許庁は,平成17年12月9日,「訂正を認める。特許第338527
2号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定をし,同月26日,そ
の謄本を原告に送達した。
2本件訂正後の請求項1及び2の記載(その余の請求項に係る記載は省略)
【請求項1】他のはんだ粒子の表面に付着しているはんだ粒子を含み,はんだ粉
末を構成するすべてのはんだ粒子のうち,粒径20μm以下のはんだ粒子が個数分
布で30%以下であり,はんだ粉末中の酸素原子含有量が500ppm以下であ
り,はんだ粉末が,SnおよびZn,又はSnおよびAgの元素を含有することを
特徴とするはんだ粉末。
【請求項2】はんだ粉末が,SnおよびZnの元素を含有する請求項1に記載の
はんだ粉末。
3決定の理由の要旨
決定の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件訂正を認めるとした上,
訂正後の請求項1及び2に係る発明(以下,各発明は請求項の番号に従い「本件訂
正発明1」のようにいう。)は,引用された刊行物に記載された発明及び周知の事
項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件訂正発明1
及び2についての特許は特許法29条2項の規定に違反してされたから,特許法1
13条2号に該当し,取り消されるべきものである,というのである。
()訂正の内容1
本件訂正請求は,特許法120条の4第2項及び同条第3項で準用する126条2項,3項の規定
に適合するので,本件訂正を認める。
()取消理由についての判断2
ア引用された刊行物に記載の事項
(ア)刊行物1:特開平6-142975号公報(本訴乙2)
a「【請求項1】30μm未満の粒径のハンダ粒子を含み,かつ,前記ハンダ粒子の粒径の下限
が1μm以上であることを特徴とするハンダペースト。」(特許請求の範囲)
b「【0005】・・・ハンダ粒径が30μm~50μmというハンダペースト2を使用した場
合には,そのハンダペースト2中のハンダ粒子1の粒子間空隙率が大きいため,・・・ハンダペース
ト2の溶融前後での体積変化率が大きく,ハンダ溶融後の配線パターン3上のハンダ厚さを精度よく
制御することは困難であった。」
c「【0012】また,ハンダペースト中のハンダ粒子の粒径の下限を1μm以上としているの
で,ハンダ粒子の微小化に伴って顕著となるハンダ粒子表面の酸化物によるハンダの濡れ性の低下を
防ぐことができ,微細なパターンでもハンダを良好に付着させることができる。」
d図1と図6に実施例におけるハンダ粒子の粒径分布が示され,粒子数(%)で,1μm以上2
0μm以下の粒子数がそれぞれ,図面に基づくと約11%と約5%であるハンダ粒子が開示されてい
る。
(イ)刊行物2:「SMT」1997年2月,66,68頁(本訴甲7,10,本訴乙3)
66頁に,ペーストビヒクル中に分散されたはんだ粒子の顕微鏡写真が,そして,68頁の図1に
は,メッシュサイズ-325/+500のふるいで分級されたはんだ粉末A,B,Cの重量基準の粒
度分布が示されている。
(ウ)刊行物3:特開昭60-12295号公報(本訴乙1)
a「はんだ粉末を有するはんだペーストにおいて,はんだ粉末のほとんどを径が5μより大きい
粉末粒子にて構成したことを特徴とするはんだペースト組成物」(特許請求の範囲)
b「本発明は,以上のように,従来のはんだペーストはプリント配線板に塗布されてからそのは
んだ付け時までの間にはんだが酸化されることからいろいろの問題を生じていた点を改善するため
に,はんだ粉末の粒子径を5μより大きいものにすることによりはんだ粉末の酸化を少なくしたはん
だペースト組成物を提供するものである。」(2頁左下欄)
c「・・・本発明に使用されるにはこの5~10重量%の5μ以下のはんだ粉末が除去される。
このように,粒子径の小さいものを除去することの効果は,粒子径の小さいはんだ粉末程その全粒子
の表面積の和が大きくなるので空気と接触する部分が多くなる結果,酸化が起こり易いものと考えら
れる。この点からすると,はんだ粉末の粒子径が大きいほどその酸化は起こりにく(くなる)ので好
ましく,・・・しかし,・・・塗布性が悪くなるので,この点からすればはんだ粉末の粒子径は最大
150μが適当である。」(2頁右下欄~3頁左上欄),
d実施例に,粒子径が20μより大きいSn系はんだ合金粉末を用いたペーストと,粒子径が5
μ以下のはんだ合金粉末をはんだ合金粉末全体の5重量%加えた比較ペーストを,室温で種々の時間
放置した後の酸化の程度が第1図,第2図に示されている(3頁左下欄~5頁)。
(エ)刊行物4:特開平10-52790号公報(本訴乙6)
a「このことは,はんだ粉末を小径化すればするほど単位体積当たりの酸化量が増える(これは
酸化膜の膜厚を一定と仮定した場合であるが)ことを意味する。図3は酸素量とはんだ粒径の関係を
計算値で示した図である。」(【0011】)
b「この図3は,粒径が35μmのはんだ粉末の酸化量を100ppmと仮定すると酸化膜厚さ
が11nm(110Å)となることを条件として計算した値を示している。図3から明らかなよう
に,はんだ粒径が10μm以下になると酸素量が急激に増加している。はんだ粉末の酸素濃度が高く
なればはんだ付け性が低下してソルダボールの発生度が高くなることは周知のとおりである。なお,
ソルダボールというのは,はんだ付け後にはんだが粒状のまま残っている現象を指すのであって,は
んだ付け性の良否はこのソルダボールの発生度によって判断される。」(【0012】)
c「図2はインジウムによる酸化抑止効果を示す図であって,前記実施例2を適用した場合の温
度と酸素濃度の関係を模式的に示した図である。図2から明らかなように,はんだ粉末の酸化量は温
度が100°Cを超えると急激に増加するが,このはんだ粉末にWt%のインジウムを添加して0.5
やると酸化量の上昇率は図示のとおり抑制される。」(【0025】)と記載され,図3に,酸素量
とはんだ粒径の関係を示す図が示されている。
(オ)刊行物5:第10回マイクロ接合研究委員会ソルダリング分科会資料「窒素リフロー用低残
渣ソルダーペーストの諸特性」1991年2月7日,7~9頁(本訴乙7)
従来のはんだ粉末とOZ粉末の酸素含有量の分析結果がTable1に示されており,従来はんだ
の酸素含有量は平均176.8ppmである。
(カ)刊行物6:「」1989年,111頁(本訴乙8)SolderPasteinElectronicsPackaging
酸素含有量の項に,「はんだ粉末の酸素含有量ははんだ付け特性に影響するので,はんだ粉末の製
造や,貯蔵の段階で酸化量を最小にする。」旨記載されている。
(キ)刊行物7:特開平3-281094号公報(本訴乙9)
「(1)溶融はんだの連続流れを冷却液面との接触時または接触前に分断して粒状化し,該粒体を
冷却液中において冷却により凝固する粉末はんだの製造方法において,粉末はんだの1g当りの酸素
量を150PPm以下とするように冷却底面上雰囲を調整することを特徴とする粉末はんだの製造方
法。」(【特許請求の範囲】)
(ク)刊行物8:特開平8-192291号公報(本訴乙10)
「【請求項4】はんだ材料が,スズと銀を基本組成とし,かつスズが主構成成分であり,銀の含有
量が0.1~20重量%である合金の中に,ビスマスを0.1~20重量%,またはインジウムを
0.1~20重量%,または銅を0.1~3.0重量%,または亜鉛を0.1~15重量%,または
アンチモンを0.1~20重量%のいずれか一種以上を含有するスズ-銀系はんだ材料であることを
特徴とする請求項1記載のクリームはんだ。」(【特許請求の範囲】)
(ケ)刊行物9:特開平9-327789号公報(本訴乙11)
「そこで最近ではSn-Ag系合金やSn-Sb系合金よりも溶融温度の低い鉛フリーはんだ合金
のSn-Zn系合金が注目されるようになってきた。Sn-Zn系合金はSn-9Znの組成が共晶
となり,その溶融温度は199℃であるため,Sn-Pbの共晶はんだに近い溶融温度である。しか
しながら,Sn-9Zn合金は濡れ性に乏しく,またはんだ付け部の接着強度が充分でない等の問題
がある。そこで,このSn-Zn系合金の濡れ性を改良するするとともに接着強度を向上させるため
にBi,In,Ag,Cu,Ni等を添加した鉛フリーはんだ合金が提案されている。(参照:特開
平6-344180号公報,同7-51883号公報,同7-155984号公報)」(【001
1】)
(コ)刊行物10:粉体工学会編「粉体工学便覧」日刊工業新聞社発行,昭和61年4月30日大
阪府立中之島図書館受け入れ印,15~33頁(本訴乙4)
よく利用されている粉体の粒度測定法に関し,粒子の形状と大きさを直接観測する顕微鏡法では,
試料の写真や顕微鏡の視野を点走査し,粒子の存在によるコントラストの差を検出して粒子径と数求
める旨,細孔通過時の電圧パルスから粒度分布を求めるエレクトロゾーン法(コールターカウン
タ),或いは,媒質中を沈降する粒子の大きさと沈降速度の関係から粒子径を測定する沈降法等につ
いて記載されている。
イ判断
(ア)本件訂正発明1について
刊行物3には,「はんだ粉末を有するはんだペーストにおいて,はんだ粉末のほとんどを径が5μ
より大きい粉末粒子にて構成したことを特徴とするはんだペースト組成物」(ア(ウ)a)に係る発明
(以下「刊行物3発明」という。)が記載されている。
そこで,本件訂正発明1と,刊行物3発明とを対比する。
本件訂正発明1は,「保存安定性に優れ,リフロー時およびリフロー後の特性に優れたはんだ粉
末」(本件訂正明細書【0001】)に関するものであって,「最近,産業界の電子製品の小型化に
よるファインピッチ化の要望に応えるため,はんだ粒子の平均粒子径を下げることがなされている
が,反面はんだ粒子全体の比表面積が増大するため,はんだ粒子とフラックスとの反応が促進され,
はんだ粒子の酸化が進行して,はんだペーストの保存安定性が一層悪化する」(同【0004】,
【0005】)という問題に対して,「保存安定性,リフロー特性,はんだ付け性,接合すべき金属
との濡れ性あるいは印刷性などの特性に優れ,またリフロー時には,はんだボールの発生が少ないは
んだフラックス,はんだペースト,及びこれに用いられるはんだ粉末を提供することを目的とする」
(同【0010】)ものであるところ,「はんだ粉末の表面には微粒子のはんだ粉末が静電気などに
より付着していることが多く,JISのふるい分け方法では,はんだ粉末に付着する微粒子が十分に
分離できず,測定されるはんだ微粒子の量は実際にはんだ粉末に含まれる微粒子の量より少なくなっ
てしまう。例えばJISによる粒度分布測定の,ふるい分け後のはんだ粉末を顕微鏡観察してみる
と,大きなはんだ粒子の表面に多数のはんだ微粒子が付着しているのが観察され,はんだ粉末中の,
これらの微粒子の存在量が増加すると,はんだ粉末が酸化しやすくなり,はんだペーストの保存安定
性,リフロー特性が低下する」(同【0015】)ことから,「はんだ粉末の粒度分布測定に,JI
Sに規定されている方法に加えて,はんだ粉末に含まれる微粒子成分の個数分布を用いることにより
特性の優れたはんだ粉末が得られる」(同【0016】)ことを見出し,上記本件訂正発明1記載の
構成としたものである。
一方,刊行物3発明において,ハンダ粉末の粒径の殆どを径が5μ(m)より大きい粉末粒子にて
構成した理由は,その発明の詳細な説明の項に記載されるとおり,「プリント配線板に塗布されてか
らそのはんだ付け時までの間にはんだが酸化されることからいろいろの問題を生じていた点を改善す
る」(ア(ウ)b)という課題に対し,「粒子径の小さいはんだ粉末程その全粒子の表面積の和が大き
くなるので空気と接触する部分が多くなる結果,酸化が起こり易い」(ア(ウ)c)という技術上の常
識に基づき,「5μ以下のはんだ粉末を除去」(ア(ウ)c)するためであることが記載されている。
そして,「はんだ粉末の粒子径が大きいほどその酸化は起こりにくくなるので耐酸化性という点では
好ましいが大きすぎると,ペースト塗布性等の他のはんだ特性が悪くなるので,はんだ粉末の粒子径
は最大150μが適当」(ア(ウ)c)と述べられている。
また,「粒子径が20μより大きいSn系はんだ合金粉末を用いたペーストと,粒子径が5μ以下
のはんだ合金粉末をはんだ合金粉末全体の5重量%加えた比較ペーストの,室温での種々の時間放置
した後の酸化の程度を比較した」(ア(ウ)d)例が示されており,この結果を示す第1図,第2図に
よれば,「5μ以下の微粒子を含まない前者の方が優れた耐酸化性を示し,安定性に優れること」が
知見されている。
したがって,両者は,酸化して保存性に悪影響を及ぼす細かいはんだ粒子を除いたはんだ粉末であ
る点で共通している。
しかしながら,刊行物3発明においては,本件訂正発明1の構成のうち,
イ.「他のはんだ粒子の表面に付着しているはんだ粒子を含み,はんだ粉末を構成するすべてのはん
だ粒子のうち,粒径20μ以下が,個数分布で30%以下であり」,
ロ.「はんだ粉末中の酸素原子含有量が500ppm以下であり」,
ハ.「SnおよびZn,又は,SnおよびAgの元素を含有する」,
という各点が明記されていない点で相違する。
以下,上記相違点イ~ハについて検討する。
・相違点イについて,
はんだ粒子の粒度分布状態を,はんだ粒径と個数で表すことは,例えば,刊行物1に示されるよう
に一般的に採用されている表現法である。
本件明細書の記載によれば,JISによる粒度分布測定の,ふるい分け後のはんだ粉末を顕微鏡観
察してみると,大きなはんだ粒子の表面に多数のはんだ微粒子が付着しているのが観察され,はんだ
粉末中の,これらの微粒子の存在量が増加すると,はんだ粉末が酸化しやすくなる(【0015】)
から,本件訂正発明1では,はんだ表面に付着したこのような微粒子に着目し,はんだ粉末の粒度分
布測定にJISに規定されている方法に加えて,はんだ粉末に含まれる微粒子成分の個数分布を規定
(【0016】)し,本件明細書の【0017】~【0020】に記載される手法により,はんだ粒
子の表面に付着しているような微細なはんだ粒子をも除去している。
しかしながら,本件訂正発明1において,はんだ粉末に付着した微粒子成分が分離されやすく,は
んだ粉末の微粒子含有量の測定に好ましい手法であるとされるコールターカウンタ法も,顕微鏡法や
沈降法と並んで周知の粒度測定法の1つであること(刊行物10参照),及び,はんだ粒子を顕微鏡
を用いて観察した結果,はんだ粒子表面に微粒子が付着していることも,刊行物2に示されるよう
に,当業者に既に知られた事項であることを考慮すると,「はんだ粒子中の細かい微粒はんだは好ま
しくなく,除去すべきである」という上記刊行物3に開示された技術的教示にしたがえば,当業者
は,はんだ粉末全体の酸化抑制を図るという目的から,個々の分離した微粒子だけでなく,大きなは
んだ粒子表面に付着した微粒子についても着目して,これを除く必要性を認識するものと考えられ
る。
そして,その除去すべき粒径や割合の程度として,刊行物3では,粒径5μ以下の粒子を含有する
のは好ましくなく(比較例),粒径20μ~150μ程度のものが好ましいとして例示している(ア
(ウ)c,d)のであり,同様に,刊行物1では,「30μm未満の粒径のハンダ粒子を含み,かつ,
前記ハンダ粒子の粒径の下限が1μm以上であること」(ア(ア)a)を規定しているのである。
したがって,所望する保存安定性,すなわち,はんだ粉末に求める酸化抑制の程度に応じて,混入
を許容しうるはんだ微粉末の最大粒径とその割合を設定することは,当業者が適宜決定し得る事項で
あるから,例えば,本件訂正発明1のように粒径の数値や微粉混入比率を,粒径20μ以下のはんだ
粒子を個数分布で30%以下と規定することは,当業者が格別の創意工夫や困難性を要することな
く,適宜に決定し得るものと認められる。
したがって,この相違点イは,当業者が刊行物3の技術的教示及び周知の技術水準に基づいて容易
に規定し得る事項にすぎない。
・相違点ロについて,
刊行物4には,はんだ粉末が酸化されるとはんだ付け特性が低下するので,はんだの酸化を防止す
る必要があること,実例として酸化が抑制されたはんだ中の酸素量は100ppmであることが,刊
行物5には,従来はんだの酸素含有量は平均176.8ppmであることが,刊行物6には,はんだ
粉末が酸化されるとはんだ付け特性が低下するので,はんだの酸化を防止する必要があることが,そ
して,刊行物7には,粉末はんだの1g当りの酸素量を150PPm以下とする粉末はんだの製造法
が記載されている。
このように,はんだ粉末が酸化されるとはんだ付け特性が低下するので,はんだの酸化を防止する
必要があること,そして,はんだ粉末中の酸素含有量は一般的に100ppmレベル程度に低減され
ているのであるから,本件訂正発明1のように,はんだ粉末中の酸素原子含有量を500ppm以下
に規定することは当業者が適宜になしうることである。
・相違点ハについて
本件明細書には,【0012】及び【0013】に本件の種々のはんだ粉末材が示され,そのうち
Sn-Ag系,Sn-Zn系のはんだ合金材(【0014】)が好ましい例としてあげられるてい
る。
しかして,刊行物8及び刊行物9に例示されるように,Sn-Ag(-Zn)系,或いは,Sn-
Zn系のはんだ合金材は公知の材料である。
そして,刊行物3記載の「はんだ酸化防止のために微粉末を除去する」という上記の考え方は,一
般はんだ材に共通していえることであるから,この技術的教示を,本件訂正発明1のようにSn-A
g系,或いは,Sn-Zn系合金組成のはんだ材に適用することに格別の困難性はないし,また,こ
の適用を阻害する格別の要因も存しない。
よって,この相違点ハは容易に定めうることである。
また,本件訂正発明1の作用効果は,刊行物1及び3の教示にしたがえば,当然に予期しうる程度
のものである。
したがって,本件訂正発明1は,刊行物1~刊行物10に記載された発明及び周知の事項に基づい
て,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は,本件訂正発明1を引用し,はんだ粉末が「SnおよびZnの元素を含有する」
ことを特定したものであるが,本件訂正発明1記載のはんだ粉末もSnおよびZnの元素を含有する
態様を含んでいるから,両者は重複している。
したがって,本件訂正発明1に記載される発明と同様,本件訂正発明2は,刊行物1~刊行物10
に記載された発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
()特許権者の主張について3
特許権者は,刊行物1に記載の発明は,「積極的に『30μm未満のハンダ粒子を含む事を特徴と
している』もの」であるのに対し,本件訂正発明1は,「JISによる粒度分布測定の,ふるい分け
後のハンダ粉末を顕微鏡観察してみると,大きなはんだ粒子の表面に多数のはんだ微粒子が付着して
いるのが観察される。はんだ粉末中の,これらの微粒子の存在量が増加すると,はんだ粉末が酸化し
やすくなり,はんだペーストの保存安定性,リフロー特性が低下する」(特許明細書の段落【001
5】)ことに着目し,極力このような微粒子,具体的には粒径20μm以下のはんだ粒子を減らそう
とするものであるから,両者は技術的思想が全く相反している旨主張している。
しかしながら,特許権者も認めるように,刊行物1の図1及び図6には,実施例として,1μm未
満のハンダ微粒子を含まず,20μm以下の粒子の個数が30%未満のハンダ粉末が記載されている
うえ,刊行物1発明においても,所定粒径以下のハンダ粒子では,表面の酸化が進んで好ましくない
ことが認識されているのであるから,ハンダ粉末の酸化を抑制することを課題として,刊行物1の図
1ないしは図6に開示された実施例における粒度分布を参照することは,当業者であれば容易になし
得ることであり,両者は技術的思想が全く相反するとの特許権者の主張は採用できない。
また,刊行物3に関して,特許権者は,「はんだ粉末の粒径に着目し,粒径の小さいはんだ粒子の
量を少なくすることにより,はんだ粉末の酸化を抑制する構成を採用している点で,本件訂正発明1
と刊行物3に記載の発明とは技術的思想が共通しているように見受けられる」としつつも,本件訂正
発明1が,「はんだ粒子の表面に付着しているはんだ微粒子がはんだ粉末の酸化性に多大な影響を与
えていることに着目した物であるのに対し,刊行物3に記載の発明では,このような点に何ら着目し
ておらず,はんだ粒子の表面に付着したはんだ微粒子の存在や,はんだ粉末の粒径の評価方法につい
て記載が全くない以上,刊行物3に記載の発明では,ハンダ粒子の表面に付着したはんだ微粒子の多
くが残っているものと解され,その量によっては,はんだ粉末の表面積が著しく大きくなり,はんだ
粉末が酸化されやすくなるため,本件訂正発明1の効果は得られない旨主張している。
しかしながら,刊行物3は,その(ア(ウ)b)乃至(ア(ウ)d)に記載されるように,はんだ粉末か
ら,その粒子径の小さいものを除去してはんだ粉末全体の酸化を抑制するものであり,実際に酸化抑
制を達成しているのであるから,特許権者の上記主張は根拠がなく,採用することのできないもので
ある。
()決定のむすび4
以上のとおりであるから,本件訂正発明1及び2は,上記刊行物1~10に記載された発明及び周
知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件訂正発明1及び2につ
いての特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって,本件訂正発明1及び2についての特許は,特許法113条2号に該当し,取り消され
るべきものである。
第3当事者の主張の要旨
1原告主張の決定取消事由
(1)取消事由1(一致点の認定の誤り)
決定は,本件訂正発明1と刊行物3発明とは,「酸化して保存性に悪影響を及ぼ
す細かいはんだ粒子を除いたはんだ粉末である点で共通している。」と認定した
が,誤りである。
ア本件訂正明細書(甲3)には,従来の技術について,「はんだ粒子の平均粒
子径を下げることがなされているが,一方はんだ粒子全体の比表面積が増大するた
め,はんだ粒子とフラックスとの反応が促進され,はんだペーストの保存安定性が
一層悪化するという問題点があった。」(段落【0004】),「はんだペースト
の保存安定性低下の最大の原因は,保存中にはんだ粉末がフラックスと優先的に反
応し,はんだ粒子の酸化が進行してフラックス中の活性剤が消費され,フラックス
の活性度が低下すると同時に,反応生成物によりはんだペーストの粘度が増加して
しまうためである。」(段落【0005】)との記載があり,これらの記載によれ
ば,本件訂正発明1は,はんだペーストの保存中(はんだペーストの保存が大気中
の酸素を遮断した環境下で行われることは,当業者の技術常識である。)のフラッ
クスとはんだ粉末の反応による酸化を問題としている。
イこれに対し,刊行物3(乙1)には,「本発明は,はんだペースト組成物に
係り,特にプリント配線板用はんだペーストにおいて,その塗布後はんだ付けまで
の間はんだ粉末が酸化されにくいようにはんだ粉末の粒子径を5μより大きくした
ものに関する。」(1頁左下欄10ないし14行),「塗布されたはんだペースト
はそのはんだ粉末が鉛,錫からなるのでこのはんだ粉末が空気中に晒されることに
なり,空気酸化される状態におかれることになる。」(2頁左上欄10ないし13
行),「本発明は,以上のように,従来のはんだペーストはプリント配線板に塗布
されてからそのはんだ付け時までの間にはんだが酸化されることからいろいろの問
題を生じていた点を改善するために,はんだ粉末の粒子径を5μより大きいものに
することによりはんだ粉末の酸化を少なくしたはんだペースト組成物を提供するも
のである。」(2頁左下欄7ないし13行)との記載があり,これらの記載によれ
ば,刊行物3発明は,はんだペーストが塗布された後のはんだペースト中のはんだ
粉末の空気による酸化を問題としている。
ウ本件訂正発明1と刊行物3発明とでは,問題となるはんだ粒子の酸化の場面
も種類も全く異なるものである上,刊行物3は,はんだペーストの塗布後の酸化の
みを問題としていて,塗布前のはんだペーストの保存安定性のことについては触れ
ていないから,本件訂正発明1と刊行物3発明とを,酸化として同列に論じること
はできない。
したがって,本件訂正発明1と刊行物3発明とが「酸化して保存性に悪影響を及
ぼす細かいはんだ粒子を除いたはんだ粉末である点で共通している。」とした決定
の認定は,誤りである。
(2)取消事由2(相違点イの判断の誤り)
決定は,「この相違点イは,当業者が刊行物3の技術的教示及び周知の技術水準
に基づいて容易に規定し得る事項にすぎない。」と判断したが,決定のこの判断
は,以下のような誤った認定判断に基づくものであるから,誤りである。
ア決定は,「はんだ粒子の粒度分布状態を,はんだ粒径と個数で表すことは,
例えば,刊行物1に示されるように一般的に採用されている表現法である。」と認
定した。
確かに,刊行物1(乙2)は,はんだ粉の粒度分布状態をはんだ粒径の個数分布
で表しているが,異議手続で提出された資料の中で,はんだ粉の粒度分布状態をは
んだ粒径の個数分布で表した文献は,刊行物1のほかにない(例えば,特開平5-
33017号公報(甲11),刊行物2及び刊行物6は,粒度分布状態をはんだ粒
径と質量で表しているし,異議手続で提出された資料ではないが,はんだ材料の基
礎知識について記載する日刊工業新聞社発行の「標準マイクロソルダリング技術」
(甲4)も,粒度分布を質量%で表している。)。しかも,刊行物1に記載された
発明は,30μm未満のはんだ粉末を積極的に含むようにするという本件訂正発明
1とは逆方向の発想の発明であり,刊行物1は,このような特殊な目的から,はん
だ粒子の粒度分布状態をはんだ粒径と個数で表したにすぎない。
したがって,刊行物1のみを根拠に,はんだ粒子の粒度分布状態をはんだ粒径と
個数で表すことが一般的に採用されている表現法であり,周知技術であるというこ
とはできないから,決定の上記認定は,誤りである。
イ決定は,刊行物10(乙4)を参照して,「はんだ粉末に付着した微粒子成
分が分離されやすく,はんだ粉末の微粒子含有量の測定に好ましい手法であるとさ
れるコールターカウンタ法も,顕微鏡法や沈降法と並んで周知の粒度測定法の1つ
である」と認定した。
しかしながら,刊行物10は,「粉体工学便覧」の抜粋であって,広く粉体一般
の粒度測定方法について述べたものであり,はんだ粉末の流度測定方法について述
べたものではない。また,コールターカウンター法等の個数分布による粒度分布状
態の測定方法を用いた場合とふるい振とう法のような質量分布による粒度分布状態
の測定方法を用いた場合とでは,その数値が大きく異なるから,本件訂正発明1の
ような,他のはんだ粒子の表面に付着した微粒子をも含めてはんだ粉中の微粒子の
量を管理するという特別の目的がない限りは,質量分布による粒度分布状態の測定
方法を用いるのであって,そのような中で,あえて個数分布による粒度分布状態の
測定方法を用いる必要はない。そうすると,はんだ粉末について個数分布による粒
度分布状態の測定方法を用いることには阻害要因がある。
したがって,刊行物10を根拠に,個数分布の測定を行うコールターカウンター
法等がはんだ粉末の粒度測定方法として周知であると認定することはできないか
ら,決定の上記認定は,誤りである。
ウ決定は,「はんだ粒子を顕微鏡を用いて観察した結果,はんだ粒子表面に微
粒子が付着していることも,刊行物2に示されるように,当業者に既に知られた事
項である」と認定した。
刊行物2(甲7,10,乙3)の66頁右下の写真に示される落花生型又はひょ
うたん型のはんだ粒子は,はんだ粉の製造工程において粒子同士が凝着して一体と
なったものであると考えられるのであって,本件訂正発明1が着目するような,は
んだ粉の製品において静電気等によって他のはんだ粒子の表面に付着している微粒
子とは異なるものである。
したがって,刊行物2を根拠に,はんだ粒子表面に微粒子が付着していることが
当業者に既に知られた事項であるとした決定の上記認定は,誤りである。
エ決定は,「当業者は,はんだ粉末全体の酸化抑制を図るという目的から,個
々の分離した微粒子だけでなく,大きなはんだ粒子表面に付着した微粒子について
も着目して,これを除く必要性を認識するものと考えられる。」と認定した。
(ア)はんだ粉の粒度測定法としては,通常,JISにより定められた標準ふる
いと天秤による方法があるが,大きなはんだ粉の表面に静電気等によって付着した
微粒子は,大きなはんだ粉の一部として,一緒にふるい分けされ,分級されてしま
うのであって,通常のふるい分け法を使った粒度測定では,他の大きなはんだ粉の
表面に静電気等により付着したはんだ粒子の量を分離して測定することはできず,
その存在及び量を認識することはできないから,これを取り除く必要性を認識する
ことはない。
(イ)また,仮に他の大きなはんだ粉の表面に静電気等により付着したはんだ粒
子があることを認識したとしても,次のとおり,これを取り除く必要性を認識する
ことはない。すなわち,はんだ材料の基礎知識について記載する日刊工業新聞社発
行の「標準マイクロソルダリング技術」(甲4)68頁の表2.3.2,表2.
3.3には,JISで規定されている球形粉及び不定形粉の粒子径の規格が記載さ
れているが,これによれば,球形粉の場合において粒径が22μm未満の粉末は1
0質量%以下であればよく,不定形粉の場合において粒径が22μm未満の粉末は
15質量%以下であればよいとされている。粒径の小さい粉末ほど質量が小さく,
粒度分布を質量分布で表した場合と個数分布で表した場合とでは,その値が大きく
異なるから,JISで規定されている球形粉の規格(22μm未満の粉末が10質
量%以下)を個数分布で表すとすると,22μm未満の粉末が相当多数含まれるこ
とになる。そして,このように多数の微粒子を含むはんだ粉がJIS規格として規
定され,実用されているのであるから,他のはんだ粉の表面に付着した微粒子の存
在を認識しても,これに着目し,あえて手間のかかる個数分布による測定方法を併
用して他のはんだ粉の表面に付着した微粒子も含めて微粒子全体の数を把握し,管
理しようとは考えないし,その必要性を認識することもない。
(ウ)したがって,「大きなはんだ粒子表面に付着した微粒子についても着目し
て,これを除く必要性を認識するものと考えられる。」とした決定の認定は,誤り
である。
オ決定は,「本件訂正発明1のように粒径の数値や微粉混入比率を,粒径20
μ以下のはんだ粒子を個数分布で30%以下と規定することは,当業者が格別の創
意工夫や困難性を要することなく,適宜に決定し得るものと認められる。」と認定
した。
本件訂正発明1の発明者らは,Sn-Ag系,Sn-Zn系のPbフリーはんだ
について,はんだ粒子表面に静電気などにより付着したはんだ粉も含めてはんだ粉
における微粒子の存在量を一定量以下に管理することにより,はんだペーストの保
存安定性を向上させることができることを見出した。そして,そのような他のはん
だ粉の表面に付着した微粒子は,通常のふるい分け方法では十分に分離できないこ
とから,本件訂正発明1の発明者らは,はんだ粉末の粒度分布測定に,JISに規
定されている方法に加えて,はんだ粉末に含まれる微粒子成分の個数分布を用いる
ことにより,特性の優れたはんだ粉末が得られることを見出した。20μm以下と
いうはんだ粉の粒径の基準は,静電気等によるはんだ粒子表面への付着が生じる微
粒子の粒径を実験的に把握して定めたものであり,また,30%以下という個数分
布の基準も,リフロー時におけるはんだ粉末の融解性,はんだペーストの保存寿
命,タック力への悪影響を考慮して定めたものである。
そして,刊行物3は,他のはんだ粒子の表面に付着したはんだ微粒子による悪影
響がほとんどないSn-Pb系のはんだに関するものであって,かつ,5μm以上
20μm以下のはんだ粒子を積極的に含むようにするものである上,刊行物3に
は,はんだ粒子の表面に付着したはんだ微粒子の存在及びその量について何の記載
もない。
したがって,「粒径20μ以下のはんだ粒子を個数分布で30%以下と規定する
ことは,当業者が格別の創意工夫や困難性を要することなく,適宜に決定し得るも
のと認められる。」とした決定の認定は,誤りである。
カそして,刊行物3では,はんだ粉末のほとんどを径が5μより大きい粉末で
構成するようにするための方法として,単にふるいによる分級や風力分級を挙げて
いるが,このような方法では,分離された微粒子を取り除くことはできるものの,
大きなはんだ粒子の表面に付着したはんだ微粒子を取り除くことは困難であり,む
しろ,ふるいでふるうことにより静電気が発生してはんだ微粒子の付着が生じやす
くなってしまうから,他のはんだ粉の表面に微粒子が付着する可能性が極めて高
い。ところで,刊行物3は,Sn-Pb系のはんだに関するものであるところ,S
n-Pb系のはんだ粉末は,本件訂正発明1に用いられるSn-Ag系,Sn-Z
n系のPbフリーはんだ粉末に比べて,フラックス成分により酸化されにくい性質
があるから,刊行物3は,Sn-Pb系のはんだに関するものであるが故に,他の
はんだ粉の表面に微粒子が付着している可能性が極めて高いものであっても,はん
だペーストの保存安定性の問題が生じず,また,はんだペーストの塗布後の空気酸
化を抑制するという目的を達成したということができるのであるから,このような
刊行物3の技術的教示から,本件訂正発明1のように,はんだペーストの保存安定
性の向上のために,他のはんだ粒子の表面に付着しているはんだ粒子を含めて,は
んだ微粒子の存在量を一定量以下に管理することの動機付けは生じない。
キしたがって,「この相違点イは,当業者が刊行物3の技術的教示及び周知の
技術水準に基づいて容易に規定し得る事項にすぎない。」とした決定の判断は,誤
りである。
(3)取消事由3(相違点ロの判断の誤り)
決定は,相違点ロについて,刊行物4ないし7を引用して,「本件訂正発明1の
ように,はんだ粉末中の酸素原子含有量を500ppm以下に規定することは当業
者が適宜になしうることである。」と判断した。
ア刊行物4(乙6)は,Sn-Pb系のはんだに関する文献であって,ここに
記載された100ppmの酸素量は,Sn-Pb系のはんだの酸素含有量である。
また,刊行物5(乙7)には,「従来のはんだ粉末とOZ粉末の酸素含有量の分析
結果をTable1に示す。またこのOZ粉末の酸化被膜の厚さを測定するため
の深さ方向による炭素,酸素すず鉛の分析結果をFig.1に示す。」(8頁
下から7行目から5行目)と記載されているから,刊行物5の従来のはんだ粉末の
酸素含有量は,すず(Sn)と鉛(Pb)からなるSn-Pb系のはんだ粉末の酸
素含有量である。さらに,刊行物6(乙8)には,「solderpowder」(はんだ
粉)としか記載されていないから,刊行物6のはんだ粉末は,従来から広く一般に
使われているSn-Pb系のはんだ粉末のことを述べているものと考えられる。さ
らにまた,刊行物7(乙9)には,「何れの実施例においても,はんだには63S
n-37Pbの共晶はんだを用い」(3頁右上欄2ないし4行)と記載されている
から,刊行物7の酸素量は,Sn-Pb系のはんだに関する酸素量である。
イ以上のように,決定が引用する刊行物4ないし7は,いずれもSn-Pb系
のはんだの酸素量に関するものであるから,Pbフリーはんだのはんだ粉末に関す
る本件訂正発明1において,はんだ粉末中の酸素原子含有量を500ppm以下に
規定することは当業者が適宜になし得ることではない。
ウしたがって,相違点ロについて,「本件訂正発明1のように,はんだ粉末中
の酸素原子含有量を500ppm以下に規定することは当業者が適宜になしうるこ
とである。」とした決定の判断は,誤りである。
(4)取消事由4(相違点ハの判断の誤り)について
決定は,「刊行物3記載の「はんだ酸化防止のために微粉末を除去する」という
上記の考え方は,一般はんだ材に共通していえることであるから,この技術的教示
を,本件訂正発明1のようにSn-Ag系,或いは,Sn-Zn系合金組成のはん
だ材に適用することに格別の困難性はないし,また,この適用を阻害する格別の要
因も存しない。」と判断した。
刊行物3は,他のはんだ粒子の表面に付着したはんだ微粒子による悪影響がほと
んどないSn-Pb系のはんだに関するものであって,その「はんだ酸化防止のた
めに微粉末を除去する」という考え方からは,本件訂正発明のように,Sn-Ag
系又はSn-Zn系のPbフリーはんだのはんだ粉体について,大きなはんだ粉体
の表面に静電気等により付着したはんだ粉体の存在量を粒径20μm以下のはんだ
粒子を個数分布で30%以下と規定するという考え方は導き出されない。
したがって,決定の上記判断は,誤りである。
2被告の反論
(1)取消事由1(一致点の認定の誤り)に対して
ア本件訂正明細書によれば,本件訂正発明1の「粒径20μm以下のはんだ粒
子が個数分布で30%以下」という発明特定事項は,はんだ粉末の保存安定性等を
向上させるために,表面積が大きく酸化しやすいはんだ微粒子の含有量を少なくし
て,はんだ粉末の保存安定性を向上するために,はんだ微粒子の含有し得る量の上
限値を規定するものである。
イ刊行物3発明は,「プリント配線板に塗布されてからそのはんだ付け時まで
の間にはんだが酸化されることからいろいろの問題を生じていた点を改善する」
(2頁左下欄8ないし10行)という課題に対し,「粒子径の小さいはんだ粉末程
その全粒子の表面積の和が大きくなるので空気と接触する部分が多くなる結果,酸
化が起こり易い」(2頁右下欄9ないし12行)という技術上の常識に基づき,
「はんだ粉末のほとんどを径が5μより大きい粉末粒子にて構成」(特許請求の範
囲)するというものである。
ウそうすると,本件訂正発明1と刊行物3発明とは,酸化して保存安定性に悪
影響を及ぼすはんだ微粒子を少なくしたはんだ粉末である点で,本質を共通にする
ものであるから,決定の認定に誤りはない。
(2)取消事由2(相違点イの判断の誤り)に対して
以下のように,決定の認定判断には誤りがないから,「この相違点イは,当業者
が刊行物3の技術的教示及び周知の技術水準に基づいて容易に規定し得る事項にす
ぎない。」とした決定の判断に,誤りはない。
ア決定は,はんだ粒子の粒度分布状態をはんだ粒径と個数で表すことが「一般
的に採用されている表現法」であるとするものであって,これを周知技術であると
認定したものではなく,しかも,刊行物1のみを根拠としているものでもない。
そして,刊行物10には,粉末の粒度分布状態を粒径と個数で表す表現法が記載
されているし,また,日刊工業新聞社発行の「標準マイクロソルダリング技術」
(甲4)68頁には,はんだ粉末の粒度測定法として顕微鏡等による方法が例示さ
れているところ,少なくとも顕微鏡法は,刊行物10の16頁に記載されているよ
うに,粒度分布状態を粒径と個数で表すものである。しかも,刊行物3にも,「そ
の分布からすると,粒子径の小さいものほど多く粒子径が大きくなるにしたがって
次第に少なくなる」(2頁右下欄1ないし3行)との記載があるから,はんだ粉末
について,粒度分布状態をはんだ粒径と個数で表すことは,特別の表現法ではな
く,「一般的に採用されている表現法」であるということができる。
したがって,「はんだ粒子の粒度分布状態を,はんだ粒径と個数で表すことは,
例えば,刊行物1に示されるように一般的に採用されている表現法である。」とし
た決定の認定に,誤りはない。
イコールターカウンタ法等は,粉体の分野において,特別な粒度測定法でな
く,刊行物10のような書籍にまで記載されているように,周知の粒度測定法であ
るから,はんだ微粒子を含むはんだ粒子の粒度分布状態をはんだ粒径と個数で表す
ときは,その測定方法として,粉体の分野における周知慣用の方法を当然に採用す
るのである。
したがって,「はんだ粉末に付着した微粒子成分が分離されやすく,はんだ粉末
の微粒子含有量の測定に好ましい手法であるとされるコールターカウンタ法も,顕
微鏡法や沈降法と並んで周知の粒度測定法の1つである」とした決定の認定に,誤
りはない。
ウ刊行物2の66頁右下の写真に示されるはんだ粉末は,どのような条件で製
造されたものであるのかは明らかではないが,主な粒径が特定サイズ域(30ない
し50μm)であることや刊行物2全体の記載からみて,粒度に分布があるものか
らふるいにより分級されたはんだ粉(68頁の図1から-325/+500篩分)
であるということができる。そして,そのはんだ粉末の中には,原告が主張する落
花生型又はひょうたん型のはんだ粒子だけでなく,10μm程度以下のはんだ微粒
子も若干見られるところ,このはんだ微粒子は,ふるいにより特定のサイズ域の粒
子径のものに分級されたにもかかわらず,大きいはんだ粒子の表面にはんだ微粒子
が付着した状態で分級された結果の証にほかならない。
したがって,「はんだ粒子を顕微鏡を用いて観察した結果,はんだ粒子表面に微
粒子が付着していることも,刊行物2に示されるように,当業者に既に知られた事
項である」とした決定の認定に,誤りはない。
エ本件訂正発明1において,はんだ粉末は,「他のはんだ粒子の表面に付着し
ている」はんだ粒子を含む一方,「20mμ以下の微粒子」のはんだ粒子を含み得
ることを規定されているにすぎず,存在しうる又は除去される「20mμ以下の微
粒子」のはんだ粒子が他のはんだ粒子に付着しているか否かを問わないから,そも
そも,付着した微粒子を除く必要はないのであって,原告の主張は,特許請求の範
囲の記載に基づくものではない。
また,刊行物3の「酸化しやすいはんだ微粒子を取り除く必要性がある」,「微
粒子ほどその数が多い」という技術的教示によれば,他の大きなはんだ粒子の表面
に付着しているか否かにかかわらず,はんだ粉末から,質量当たりの表面積が大き
く酸化しやすいはんだ微粒子を取り除く必要があることは明らかである。さらに,
刊行物3には,はんだ粉末に含まれるはんだ粒子の最小粒径を大きくする方が耐酸
化性が優れていることも具体的に開示されているから,所望する実用上の耐酸化性
によって,はんだ粉末において,他の大きなはんだ粉末粒子の表面に付着している
か否かにかかわらず,はんだ微粒子の混入,すなわち,そのはんだ微粒子の存在そ
のものに耐酸化性の問題を生じさせる原因があったと認識することができるのであ
る。
したがって,「当業者は,はんだ粉末全体の酸化抑制を図るという目的から,個
々の分離した微粒子だけでなく,大きなはんだ粒子表面に付着した微粒子について
も着目して,これを除く必要性を認識するものと考えられる。」とした決定の認定
に,誤りはない。
オ刊行物3に開示された「酸化しやすい微粒子を除く」,「粒子径が小さい程
その数が多い」という技術的教示に照らすと,はんだ微粒子が他のはんだ粒子の表
面に付着しているか否かにかかわらず,はんだ粉末の酸化を防ぐという目的のため
に,所望する耐酸化性に応じて,特定の粒子径以下のはんだ微粒子を除去すべきこ
とは明らかであり,しかも,上記アのとおり,はんだ粉末の粒度分布状態をはんだ
粒径と個数で表すことは特別な表現法でもないから,はんだ粉末の酸化を防ぐため
に,はんだ粉末のほとんどを特定の粒子径より大きい粉末粒子で構成しようとする
する際に,そのはんだ粉末の管理手法として,所望する保存安定性,すなわち,は
んだ粉末に求める酸化抑制の程度に応じて,混入を許容し得るはんだ微粉末の最大
粒径とその割合(個数)を設定することは,当業者が適宜に決定することができる
事項であり,例えば,刊行物3の実施例1にも記載されているように,粒径20μ
mより大きいはんだ粉末からなり,20μm以下の微粉末がほとんど入らないよう
に,20μm以下の粉末の個数を30%以下と規定することは,刊行物3の上記技
術的教示及び周知の技術水準に基づき,当業者が格別の創意工夫や困難性を要する
ことなく,適宜に決定し得るものである。
したがって,「本件訂正発明1のように粒径の数値や微粉混入比率を,粒径20
μ以下のはんだ粒子を個数分布で30%以下と規定することは,当業者が格別の創
意工夫や困難性を要することなく,適宜に決定し得るものと認められる。」とした
決定の認定に,誤りはない。
(3)取消事由3(相違点ロの判断の誤り)
ア本件訂正発明1は,「SnおよびZn,又はSnおよびAgの元素を含有す
ることを特徴とするはんだ粉末」であって,Pbフリーはんだに限定されていない
から,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
イ「はんだが酸化することからいろいろの問題を生じていた」(刊行物3の2
頁左下欄9,10行)ことは,刊行物3のほか,刊行物4(段落【0012】),
刊行物5(8頁)及び刊行物6(111頁)に記載されているように周知であり,
それら酸素に起因する問題を回避するためにはんだ粉末の酸素含有量を低く(「1
00ppm」(刊行物4の段落【0012】),「平均176.8ppm」(刊行
物5の8頁「Table1」)及び「100ppm以下」(刊行物7の3頁右下
欄14ないし17行))することも周知である。
そして,Pbの人体へ悪影響を考慮したSn-Zn系又はSn-Ag系のPbフ
リーはんだ合金は,刊行物8,刊行物9,特開平8-164495号公報(乙1
2)及び特開平8-164496号公報(乙13)等に記載されているように周知
であるし,Sn-Zn系のPbフリーはんだペーストが,Znの酸化やZnのフラ
ックスとの反応により「保存安定性」が悪いことも,本願出願前に知られていた
(刊行物9,特開平8-164495号公報(乙12)及び特開平8-16449
6号公報(乙13))から,Sn-Zn系のPbフリーはんだ合金からなるはんだ
粉末に関して,酸化されにくく,「保存安定性」がよくなるように,酸素原子含有
量を500ppm以下に規定することは,当業者であれば格別創意工夫を要しない
ものである。
ウしたがって,相違点ロについて,「本件訂正発明1のように,はんだ粉末中
の酸素原子含有量を500ppm以下に規定することは当業者が適宜になしうるこ
とである。」とした決定の判断に,誤りはない。
(4)取消事由4(相違点ハの判断の誤り)について
ア上記(3)イのとおり,Pbの人体へ悪影響を考慮したSn-Zn系又はSn
-Ag系のPbフリーはんだ合金は周知であるから,従来から用いられているSn
-Pb系はんだ合金に代えて,人体への影響がないSn-Zn系又はSn-Ag系
のPbフリーはんだ合金をはんだ粉末として単に用いることは,刊行物3の「酸化
しやすいはんだ微粒子を取り除く必要性がある」,「微粒子ほどその数が多い」と
いう技術的教示及び周知技術に基づき,当業者であれば容易に想到することができ
た。
イしたがって,「刊行物3記載の「はんだ酸化防止のために微粉末を除去す
る」という上記の考え方は,一般はんだ材に共通していえることであるから,この
技術的教示を,本件訂正発明1のようにSn-Ag系,或いは,Sn-Zn系合金
組成のはんだ材に適用することに格別の困難性はないし,また,この適用を阻害す
る格別の要因も存しない。」とした決定の判断に,誤りはない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(一致点認定の誤り)について
(1)本件訂正発明1について
ア本件訂正明細書(甲3)には,次の記載がある。
「本発明は保存安定性に優れ,リフロー時およびリフロー後の特性に優れたはん
だ粉末,フラックス及びはんだペースト・・・に関する。」(段落【0001】)
「はんだペーストには,ファインピッチ対応の印刷性能が要求され・・・はんだ
粒子の平均粒子径を下げることがなされているが,一方はんだ粒子全体の比表面積
が増大するため,はんだ粒子とフラックスとの反応が促進され,はんだペーストの
保存安定性が一層悪化するという問題点があった。」(段落【0004】)
「はんだペーストの保存安定性低下の最大の原因は,保存中にはんだ粉末がフラ
ックスと優先的に反応し,はんだ粒子の酸化が進行してフラックス中の活性剤が消
費され,フラックスの活性度が低下すると同時に,反応生成物によりはんだペース
トの粘度が増加してしまうためである。このため,はんだペーストの使用におい
て,適正な印刷特性が維持出来なくなる上に,リフロー時に溶解しなくなるという
問題が生じる。」(段落【0005】)
「本発明は,保存安定性,リフロー特性,はんだ付け性,接合すべき金属との濡
れ性あるいは印刷性などの特性に優れ,またリフロー時には,はんだボールの発生
が少ないはんだフラックス,はんだペースト,及びこれに用いられるはんだ粉末を
提供・・・することを目的とする。」(段落【0010】)
「はんだ粉末中の・・・微粒子の存在量が増加すると,はんだ粉末が酸化しやす
くなり,はんだペーストの保存安定性,リフロー特性が低下する。本発明者らは,
はんだ粉末の粒度分布測定に,JISに規定されている方法に加えて,はんだ粉末
に含まれる微粒子成分の個数分布を用いることにより特性の優れたはんだ粉末が得
られることを見出した。」(段落【0015】,【0016】)
「本発明における個数分布の管理条件として,はんだ粉末に含まれる20μm以
下のはんだ粒子が個数分布で30%以下・・・にコントロールすることが好まし
い。20μm以下のはんだ粒子の個数分布が,上記の範囲を超えると,単位重量あ
たりの表面積が大きくなり,酸化されやすくなるため,はんだペーストを作製した
場合のリフロー時におけるはんだ粉末の融解性に悪影響を及ぼす。また,フラック
スとの反応が進みやすくなるため,はんだペーストの保存寿命が短くなり,タック
力も低下する。」(段落【0019】)
イ本件訂正発明1のはんだ粉末は,その粒径が「はんだ粉末を構成するすべて
のはんだ粒子のうち,粒径20μm以下のはんだ粒子が個数分布で30%以下」で
あり,上記アの記載によれば,はんだ粉末は,微粒子の個数が多いと表面積が大き
くなって酸化されやすく,はんだペーストの保存安定性,リフロー特性が低下する
ので,これを防ぐために,はんだ粉末中の微粒子を除去して粒径分布を上記のよう
にしたというのであるから,本件訂正発明1のはんだ粉末は,「フラックスとの反
応で酸化して塗布前のはんだペーストの保存性に悪影響を及ぼす細かいはんだ粒子
を除いた,粒径20μm以下のはんだ粒子が個数分布で30%以下である,はんだ
粉末」であると認められる。
(2)刊行物3発明について
ア刊行物3(乙1)には,次の記載がある。
「本発明は,はんだペースト組成物に係り,特にプリント配線板用はんだペース
トにおいて,その塗布後はんだ付けまでの間はんだ粉末が酸化されにくいようには
んだ粉末の粒子径を5μより大きくしたものに関する。」(1頁左下欄10ないし
14行)
「例えば連休で休業日が重なると,塗布されたはんだペーストはそのはんだ粉末
が鉛,錫からなるのでこのはんだ粉末が空気中に晒されることになり,空気酸化さ
れる状態におかれ・・・このような酸化されたはんだ粉末を有するはんだペースト
塗布物を製造ラインの再開により溶融工程に移すと,酸化されないはんだ粉末は溶
融されて凝集するが,酸化されたはんだ粒子は黒ずんで完全溶解しないで凝集した
はんだから分離して塗布位置に残り,あるいは溶融が遅れて離散し,これらがはん
だボールになって導体間のショートを起こさせるという問題を生じる。また,この
ようにはんだが分離されると,はんだ付け強度を減少するとともに,はんだ付けの
仕上がりの外観を悪くする。」(2頁左上欄9行ないし右上欄3行)
「本発明は・・・従来のはんだペーストはプリント配線板に塗布されてからその
はんだ付け時までの間にはんだが酸化されることからいろいろの問題を生じていた
点を改善するために,はんだ粉末の粒子径を5μより大きいものにすることにより
はんだ粉末の酸化を少なくしたはんだペースト組成物を提供するものである。」
(2頁左下欄7ないし13行)
イ刊行物3発明は,「はんだ粉末を有するはんだペーストにおいて,はんだ粉
末のほとんどを径が5μより大きい粉末粒子にて構成したことを特徴とするはんだ
ペースト組成物」であり(このことは,原告も争わない。),上記アの記載によれ
ば,はんだペーストの塗布後はんだ付けまでの間にはんだペースト塗布物中のはん
だ粉末が空気酸化されにくいように,はんだ粉末の粒子径を5μより大きくしたと
いうのであるから,刊行物3発明のはんだ粉末は,「空気酸化して塗布後のはんだ
ペーストの保存性に悪影響を及ぼす粒子径5μ以下の細かいはんだ粒子を除いた,
はんだ粉末」であると認められる。
(3)以上によれば,本件訂正発明1のはんだ粉末と刊行物3発明のはんだ粉末
とは,いずれも,「酸化して保存性に悪影響を及ぼす細かいはんだ粒子を除いたは
んだ粉末」であるということができる。
(4)原告は,本件訂正発明1と刊行物3発明とでは,問題となるはんだ粒子の
酸化の場面も種類も全く異なるものである上,刊行物3は,塗布前のはんだペース
トの保存安定性のことについては触れていないから,本件訂正発明1と刊行物3発
明とを,酸化として同列に論じることはできないと主張する。
上記(1)及び(2)のとおり,本件訂正発明1は,はんだペーストの保存中のフラッ
クスとはんだ粉末の反応による酸化を問題としており,刊行物3発明は,はんだペ
ーストが塗布された後のはんだペースト中のはんだ粉末の空気による酸化を問題と
しているから,酸化を問題としていることに変わりはない。原告の上記主張は,採
用の限りでない。
(5)したがって,本件訂正発明1と刊行物3発明とが,「酸化して保存性に悪
影響を及ぼす細かいはんだ粒子を除いたはんだ粉末である点で共通している。」と
した決定の認定に誤りはないから,原告主張の取消事由1は,理由がない。
2取消事由2(相違点イの判断の誤り)について
(1)「はんだ粒子の粒度分布状態を,はんだ粒径と個数で表すことは,例え
ば,刊行物1に示されるように一般的に採用されている表現法である。」との認定
について
ア刊行物1(乙2)は,はんだ粉の粒度分布状態をはんだ粒径の個数分布で表
しているところ,このことは原告も争わない。
イそこで,さらに,原告が援用する特開平5-33017号公報(甲11),
刊行物2(甲7,10,乙3),刊行物6(乙8)及び「標準マイクロソルダリン
グ技術」(甲4)やその他の文献についてみることにする。
(ア)特開平5-33017号公報(甲11)には,図2,図4,図6,図8,
図10,図12及び図14に,実施例1,5,6,7,8,9及び10の低融点金
属微粒子(表1,2によれば,低融点金属の種類は半田である。)の粒度分布状態
が示されているところ,その横軸は「粒径分布(μm)」,縦軸は「volumefract
ion(%)」とされている。
(イ)刊行物2には,図1に,ふるいのメッシュサイズ「-325/+500」
の3種の粉末A,B,Cの粒子サイズの分布が示されているところ,その横軸は
「粒径(μm)」,縦軸は「相対重量(weight)(%)」とされている。また,表
1に,6種の粉末タイプの粒子サイズの分布がふるいのメッシュサイズとともに示
されている(例えば,メッシュサイズが「-325/500」である「タイプ3」
は,25ないし45μmが80%超,20μmは10%未満,45μmは1%未
満,50μmは0%である。)。
(ウ)刊行物6には,図4.36(a)に,メッシュサイズが「-200/+32
5」の粒子サイズの分布が示されているところ,その横軸は「直径(μm)」,縦
軸は「累積質量(%)」とされている。
(エ)「標準マイクロソルダリング技術」(甲4)には,
「(2)形状と粒度分布
1)形状
形状の分類は,粉末の縦横比(アスペクト比)が1:1.2以内の粉末が全体の
90%以上を含んでいるものを球形粉とし,それ以外のものを不定形粉としてい
る。
2)粒度分布
ソルダ粉末の分級は,ふるいで行われる。表2.3.2はJISで規定されてい
る球形粉の粒子径の規格である。表2.3.3は不定形粉の規格である。
粒度分布の測定法には,ふるい振とう法以外にも,
・顕微鏡による方法
・レーザ回折法
・レーザスキャニング法
・沈降法
などがある。しかし,これらの方法の精度,互換性などについては,まだ十分に研
究されていない。」(68頁7行ないし69頁1行)との記載があり,表2.3.
2及び表2.3.3に,5種又は4種のクラスの粉末サイズの分布が重量%で示さ
れている。
(オ)刊行物3には,「はんだは鉛と錫からなるが,その粉末は粒子径が広い範
囲に分布している。例えばアトマイズ法により製造されたはんだ粉末の粒度分布
は,その重量からいえば例えば30μにピークを有し,その前後5μ以下,150
μ以上に及ぶ。しかしその数の分布からすると,粒子径の小さいもの程多く粒子径
が大きくなるにしたがって次第に少なくなる。このようにアトマイズ法により製造
されたもので,ハンダペーストに使用されるはんだ粉末の粒度分布では,粒子径5
μ以下のはんだ粉末は全重量の5~10重量%を占める。」(2頁左下欄16行な
いし右下欄6行)との記載がある。
(カ)刊行物4(乙6)には,「錫と鉛を主成分とするはんだの中に0.1乃至
5.0重量%のインジウムを添加し,粒径を10乃至40μmにしたことを特徴と
するはんだ粉末。」(特許請求の範囲の請求項1),「実施例1~4は「はんだ粉
末の粒径」を一定(10μm~40μm)とし,」(段落【0021】)との記載
がある。
(キ)刊行物10(乙4)は,はんだ粉末に限定されない粉体一般の技術に関す
るものであるが,「4.粒度測定法」,「4.1粉体の粒度測定法」の表4.1
(よく使われる粒度測定法)に,各種の測定方法が,原理ごとに,測定範囲(mm
ないしnm),測定粒子径(長さ,面積等の別),分布(個数,体積,重量)とと
もに示されているところ,例えば,顕微鏡法は,原理が計数,分布が個数とされ
(なお,「顕微鏡法は,粒子の形状と大きさを直接観測できるので,他の方法より
情報量が多く信頼性が大きい。」(17頁6,7行)と記載されている。),エレ
クトロゾーン法(コールターカウンター法)は,原理が計数,分布が体積とされ,
標準ふるい法は,原理がふるい,分布が重量とされ,重力沈降法は,原理が沈降速
度,分布が重量とされている。
ウ上記イの記載によれば,はんだ粉末の粒径分布の表し方には,JIS規格の
ある質量分布が一般的であるが,重量分布(上記イ(イ))やvolumeすなわち体積に
よる分布(上記イ(ア))のほか,重量分布と個数分布を同時に考えたり(上記イ
(オ)),単に粒径の上限と下限で表したりする(上記イ(カ))ものがある。また,顕
微鏡写真を掲載する文献(特開平5-33017号公報(甲11),刊行物2,
「標準マイクロソルダリング技術」(甲4))があることを併せ考えると,はんだ
粉末の形状を顕微鏡で観察することも一般に行われていたと認められる。なお,は
んだ粉末に限定されない粉体の一般的な粒度測定法としては,顕微鏡による粒径や
その個数分布の測定とふるいによる重量分布の測定とのいずれもが周知であったと
いうことができる。
そして,はんだ粉末を顕微鏡で観察する場合は,多数のはんだ粒子の形状と大き
さを同時に観察することができるから,その結果を数値化するときには,はんだ粒
子の粒径の個数分布として表すことになるものである。
エそうであれば,はんだ粒子の粒径の個数分布として表すことは一般に行われ
ているということができるから,「はんだ粒子の粒度分布状態を,はんだ粒径と個
数で表すことは,例えば,乙2(刊行物1)に示されるように一般的に採用されて
いる表現法である。」とした決定の認定に,誤りはない。
(2)「はんだ粉末に付着した微粒子成分が分離されやすく,はんだ粉末の微粒
子含有量の測定に好ましい手法であるとされるコールターカウンタ法も,顕微鏡法
や沈降法と並んで周知の粒度測定法の1つである」との認定について
決定の説示によれば,決定は,コールターカウンター法が「顕微鏡法や沈降法と
並んで周知の粒度測定法の1つである」と認定したのであって,コールターカウン
タ法がはんだ粉末の粒度測定方法として周知であると明言したわけではない。
そして,上記(1)イ(キ)のとおり,粉体工学会編で日刊工業新聞社によって発行さ
れた刊行物10には,はんだ粉末に限定されない粉体一般の技術に関するものであ
るが,よく使われる粒度測定法として,顕微鏡法,エレクトロゾーン法(コールタ
ーカウンター法),標準ふるい法及び重力沈降法等が記載されているのであるか
ら,「はんだ粉末に付着した微粒子成分が分離されやすく,はんだ粉末の微粒子含
有量の測定に好ましい手法であるとされるコールターカウンタ法も,顕微鏡法や沈
降法と並んで周知の粒度測定法の1つである」とした決定の認定に,誤りはない。
(3)「はんだ粒子を顕微鏡を用いて観察した結果,はんだ粒子表面に微粒子が
付着していることも,刊行物2に示されるように,当業者に既に知られた事項であ
る」との認定について
ア本件訂正発明1の「他のはんだ粒子の表面に付着しているはんだ粒子」につ
いて
(ア)本件訂正明細書には,次の記載がある。
「はんだ粉末の粒径としては,日本工業規格(JIS)には,ふるい分けにより
63~22μm,45~22μm及び38~22μm等の規格が定められている。
はんだ粉末の粒度測定には通常,JISにより定められた,標準ふるいと天秤によ
る方法が用いられる。しかし,はんだ粉末の表面には微粒子のはんだ粉末が静電気
などにより付着していることが多く,この方法では,はんだ粉末に付着する微粒子
が十分に分離できず,測定されるはんだ微粒子の量は実際にはんだ粉末に含まれる
微粒子の量より少なくなってしまう。例えばJISによる粒度分布測定の,ふるい
分け後のはんだ粉末を顕微鏡観察してみると,大きなはんだ粒子の表面に多数のは
んだ微粒子が付着しているのが観察される。」(段落【0015】)
「はんだ粉末の微粒子含有量の測定は,顕微鏡による画像解析や,エレクトロゾ
ーン法によるコールターカウンターでも行うことができる。・・・なお顕微鏡によ
る画像解析も,コールターカウンターによる方法でも測定できる微粒子の下限界は
1μm程度である。1μm以下の微粒子の混入量はいずれの方法でも測定が困難で
あるが,通常のアトマイズ法にて作製されるはんだ粉末には,1μm以下の微粒子
は殆ど含まれず,上記によるはんだ微粒子の個数分布測定は1μm以上の粉体に限
定して良い。」(段落【0017】,【0018】)
「はんだ粉末中の微粒子の混入量を低減するためには,はんだ粉末の分級時の分
級点を目標粒度より大きい側に設定したり,はんだ粉末の風選,ふるい分けを,は
んだ粉末中の微粉の混入量が目標レベル以下になるまで繰り返したり,粉体の供給
速度を遅くして微粒子が除去されやすくしたり,水以外の溶剤を用いて湿式分級し
たりする方法を用いることができる。」(段落【0020】)
(イ)上記(ア)の記載によれば,本件訂正発明1における「他のはんだ粒子の表面
に付着しているはんだ粒子」は,他のはんだ粒子の表面に付着させるために特別な
操作をした状態のはんだ粒子ではなく,ふるい分けのような分級の後などに,静電
気などによりはんだ粉末の表面に付着している微粒子のはんだ粉末を意味するもの
であって,このような微粒子は,JIS規格のふるい分けでは測定することができ
ないが,顕微鏡による画像解析やコールターカウンターによる方法では測定するこ
とができるというものである。
イ刊行物2について
(ア)刊行物2には,「ペースト/フラックスビヒクル内に保持されたはんだ粉
の顕微鏡写真。」との説明が付された顕微鏡写真が掲載されている。この顕微鏡写
真には,はんだ粉末の由来は説明されていないが,100μmのスケールととも
に,ほぼ球形のはんだ粒子が多数写っているところ,スケールを参考に粒子の径を
みてみると,径が約20ないし50μmの粒子が大部分であるが,それよりも明ら
かに小さいと認められるものも混じっている。
また,刊行物2の図1は,メッシュサイズ「-325/+500」の3種の粉末
A,B,Cの粒径分布図で,横軸を「粒径(μm)」で1μm刻みに15ないし5
5μmの範囲とし,縦軸を「相対重量(%)」で示したものであり,その下に,
「図1.3種の粉末はメッシュサイズ-325/+500を指定して調整されたも
のであるが,比較してみると,異なる粒子サイズの分布を示している。ペーストの
特性における粒子分布の影響を調査するために,各粉末から3種類のペーストを調
整した。」との記載がある。この「メッシュサイズ-325/+500」は,表1
によれば,「タイプ3」に当たるもので,粒子サイズ分布は25ないし45μmが
80%超,20μmは10%未満,45μmは1%未満,50μmは0%というも
のであるが,図1によると,粉末Aは大部分の粒子が28ないし45μmの範囲,
粉末Bは大部分の粒子が25ないし50μmの範囲,粉末Cは大部分の粒子が29
ないし55μmの範囲にあるが,いずれの粉末も,20μm以下の粒子を少量含ん
でいる。
そして,表1及び図1について,「粉末の分類粉末は・・・6種の粒子タイプ
に分類される(表1)。表1には粒子を選別する時に用いる,ふるいのメッシュサ
イズ(ASTMB-214試験方法1)による粉末の通例の名称も記載されてい
る。ある特定の用途に使用される粉末の分類は,印刷要件(最も大きい粒子がスク
リーン/ステンシル開口より2.5~5倍小さいことが通例要求される)によって
決定される。・・・タイプ2とタイプ3の粉末が・・・適している。・・・実際問
題として,粉末の選別及び測定は,使った道具と技術に影響を受けるのと同様に,
粒子の径とふるいのメッシュ材質に影響を受ける。現に,粉末の製造要因とふるい
工程の組み合わせは,はんだペーストの特性に影響を及ぼす粒子サイズの分布に完
全な相違をもたらす。」,「粒子サイズの分布図1は3つの製造業者によって生
産された63Sn/37Pb粉末の個々の粒子サイズに該当する重量パーセントを
プロットしている。これら3種類ともメッシュサイズは-325/+500を指定
しているにもかかわらず,それぞれ独特の粒子サイズの異なる分布を示している。
例えば,粉末Aには微小粒子及び粗粒子はほとんど含まれておらず,主に含まれて
いるものの粒子径は,サイズレンジの中央付近のものである。粉末Bは「フラッ
ト」なサイズ分布を示し,微小粒子と粗粒子の存在(微小粒子が最も多く含まれ
る)が目立っている。粉末Cは,含まれる微小粒子量は最も少ないが,粗粒子量は
最も多い。」(68頁左欄19行ないし中欄10行)との記載がある。
(イ)刊行物2の顕微鏡写真によれば,20μm以下のはんだ粒子が存在するこ
とまでは確認することができるものの,この顕微鏡写真だけでは,はんだ粒子表面
に微粒子が付着していること,しかも,それが後から除こうと思えば除くことがで
きるような微粒子であることが示されているということはできない。
しかし,図1の下には,粉末A,B,Cから3種類のペーストを調製した旨の記
載があり,はんだ粉末は複数のタイプにふるい分けされたものから用途に応じては
んだペーストに使用されるところ,図1によれば,表1の「タイプ3」に相当する
メッシュサイズ「-325/+500」のはんだ粉末は,3つの製造業者による3
種のはんだ粉末A,B,Cがそれぞれ異なる粒径分布をもちながらも,いずれも2
0μm以下の粒子を含んでいる。また,表1によれば,「タイプ3」は,メッシュ
サイズ「-325/+500」で25ないし45μmが80%超,「タイプ2」
は,メッシュサイズ「-200/+325」で45ないし75μmが80%超とい
うものであるが,いずれも20μmが10%未満とされていて(刊行物10の表
4.4(主な標準ふるいの規格)を参照すると,200メッシュは75μm,32
5メッシュは45μmである。),ふるい目の寸法に比べて相当に小さい寸法の粒
子の同伴が想定されているものである。
そうであれば,ふるい分けされたはんだ粒子に,ふるい目の寸法に比べて相当に
小さい寸法の微粒子が同伴していることは,当業者によく知られた事項であると認
められる。
そして,刊行物2の顕微鏡写真は,ふるい分けされたはんだ粉末A,B,Cのい
ずれかから調製したはんだペースト中のはんだ粒子を写したものであると考えるの
が自然であるから,20μm以下の粒子は,ふるい分けの際にはんだ粒子に同伴し
た微粒子であると推認することができる。
ウ以上によれば,刊行物2の顕微鏡写真の20μm以下の粒子は,ふるい分け
の際に同伴した微粒子であるところ,これは,本件訂正発明1の「他のはんだ粒子
の表面に付着しているはんだ粒子」に相当すると認められる。
したがって,「はんだ粒子を顕微鏡を用いて観察した結果,はんだ粒子表面に微
粒子が付着していることも,刊行物2に示されるように,当業者に既に知られた事
項である」とした決定の認定に,誤りはない。
(4)「当業者は,はんだ粉末全体の酸化抑制を図るという目的から,個々の分
離した微粒子だけでなく,大きなはんだ粒子表面に付着した微粒子についても着目
して,これを除く必要性を認識するものと考えられる。」との認定について
ア上記(3)イのとおり,ふるい分けされたはんだ粒子に,ふるい目の寸法に比
べて相当に小さい寸法の微粒子が同伴していることは,当業者によく知られた事項
であり,また,上記(1)ウのとおり,はんだ粉末を顕微鏡で観察することは一般的
に行われているから,これにより,他の大きなはんだ粉の表面に静電気等により付
着したはんだ粒子があることを認識するものであると認められる。
イそして,多数の微粒子を含むはんだ粉がJIS規格として規定され,実用さ
れているとしても,その性能をより良くしようという課題は常に存在しているし,
また,別に新たな課題を発見することもあるのであって,そのような課題の解決を
図ることは研究開発活動の中で日常的に行われるものであるから,JIS規格とし
て規定され,実用されているものであっても,当業者がさらに改良を試みることが
ないというわけではない。
決定は,「刊行物3に開示された技術的教示にしたがえば,当業者は,はんだ粉
末全体の酸化抑制を図るという目的から,個々の分離した微粒子だけでなく,大き
なはんだ粒子表面に付着した微粒子についても着目して,これを除く必要性を認識
するものと考えられる。」と判断しているところ,はんだ粉末全体の酸化という課
題は,酸化による不都合が起こるはんだ粉末にあっては,普遍的な課題である(現
に,刊行物3では,はんだ粉末の粒子径を5μmより大きくすることで解決を図っ
ている。)から,当業者がその課題の解決を図ろうとすることは,むしろ当然のこ
とである。
ウしたがって,「大きなはんだ粒子表面に付着した微粒子についても着目し
て,これを除く必要性を認識するものと考えられる。」とした決定の認定に,誤り
はない。
(5)「本件訂正発明1のように粒径の数値や微粉混入比率を,粒径20μ以下
のはんだ粒子を個数分布で30%以下と規定することは,当業者が格別の創意工夫
や困難性を要することなく,適宜に決定し得るものと認められる。」との認定につ
いて
ア本件訂正発明1について
(ア)本件訂正明細書には,次の記載がある。
「本発明における個数分布の管理条件として,はんだ粉末に含まれる20μm以
下のはんだ粒子が個数分布で30%以下,好ましくは20%以下にコントロールす
ることが好ましい。20μm以下のはんだ粒子の個数分布が,上記の範囲を超える
と,単位重量あたりの表面積が大きくなり,酸化されやすくなるため,はんだペー
ストを作製した場合のリフロー時におけるはんだ粉末の融解性に悪影響を及ぼす。
また,フラックスとの反応が進みやすくなるため,はんだペーストの保存寿命が短
くなり,タック力も低下する。」(段落【0019】)
「はんだ粉末中の微粒子の混入量を低減するためには,はんだ粉末の分級時の分
級点を目標粒度より大きい側に設定したり,はんだ粉末の風選,ふるい分けを,は
んだ粉末中の微粉の混入量が目標レベル以下になるまで繰り返したり,粉体の供給
速度を遅くして微粒子が除去されやすくしたり,水以外の溶剤を用いて湿式分級し
たりする方法を用いることができる。」(段落【0020】)
(イ)上記(ア)の記載によれば,本件訂正発明1の相違点イに係る発明特定事項
は,はんだ粉末が酸化されにくいように,また,フラックスとの反応が進みにくい
ように,はんだ粉末の表面積を小さくするとの観点から,通常のふるい分け操作で
は静電気などにより付着して同伴される微粒子の存在に着目し,これも含めて,粒
径20μm以下の粒子が個数分布で30%を超えないようにするというものであ
り,これを実現するための手段は,「はんだ粉末の分級時の分級点を目標粒度より
大きい側に設定したり,はんだ粉末の風選,ふるい分けを,はんだ粉末中の微粉の
混入量が目標レベル以下になるまで繰り返したり,粉体の供給速度を遅くして微粒
子が除去されやすくしたり,水以外の溶剤を用いて湿式分級したりする方法を用い
ることができる。」というものである。
イ刊行物3について
(ア)刊行物3には,次の記載がある。
「はんだ粉末を有するはんだペーストにおいて,はんだ粉末のほとんどを径が5
μより大きい粉末粒子にて構成したことを特徴とするはんだペースト組成物。」
(特許請求の範囲第1項)
「本発明は,はんだペースト組成物に係り,特にプリント配線板用はんだペース
トにおいて,その塗布後はんだ付けまでの間はんだ粉末が酸化されにくいようには
んだ粉末の粒子径を5μより大きくしたものに関する。」(1頁左下欄10ないし
14行)
「本発明は・・・従来のはんだペーストはプリント配線板に塗布されてからその
はんだ付け時までの間にはんだが酸化されることからいろいろの問題を生じていた
点を改善するために,はんだ粉末の粒子径を5μより大きいものにすることにより
はんだ粉末の酸化を少なくしたはんだペースト組成物を提供するものである。」
(2頁左下欄7ないし13行)
「本発明のはんだペースト組成物に使用されるはんだ粉末は,その粒子径が5μ
より大きいものである。はんだは鉛と錫からなるが,その粉末は粒子径が広い範囲
に分布している。例えばアトマイズ法により製造されたはんだ粉末の粒度分布は,
その重量からいえば例えば30μにピークを有し,その前後5μ以下,150μ以
上に及ぶ。しかしその数の分布からすると,粒子径の小さいもの程多く粒子径が大
きくなるにしたがって次第に少なくなる。このようにアトマイズ法により製造され
たもので,ハンダペーストに使用されるはんだ粉末の粒度分布では,粒子径5μ以
下のはんだ粉末は全重量の5~10重量%を占める。本発明に使用されるにはこの
5~10重量%の5μ以下のはんだ粉末が除去される。このように,粒子径の小さ
いものを除去することの効果は,粒子径の小さいはんだ粉末程その全粒子の表面積
の和が大きくなるので空気と接する部分が多くなる結果,酸化が起こり易いものと
考えられる。この点からすると,はんだ粉末の粒子径が大きいほどその酸化は起こ
りにくいので好ましく,はんだ粉末の粒子径を上記5μより大きくするかわりに1
0~20μより大きくするとこの5μの場合例えば48時間の放置によってもはん
だ酸化物の発生がみられないのに比べ,これよりさらに空気酸化に対して安定とな
り,例えば10日間もはんだ酸化物が出来ないようにできる。」(2頁左下欄14
行ないし右下欄末行)
「粒子径の小さいはんだ粉末を除去する方法としては,篩による分級や風により
はんだ粉末を飛ばし,その飛距離から遠くに飛んだものを除去する風力分級が利用
される。」(3頁左上欄9ないし12行)
「実施例1
はんだ合金粉末(Sn63重量%,Pb37重量%,粒子径
20μより大きいもの)85部
ビヒクル(・・・)15部
を混合してはんだペースト(粘度2000ポイズ)を得た。このはんだペーストを
厚さ0.1mmのメタルマスクを用いて予めフラックスを塗布しておいたアルミナ
基板上に・・・シルクスクリーン印刷を行い,風乾した後室温で0,12,24,
48,72,120,240時間(hr)それぞれ放置する。この放置後のものを2
30℃のはんだ浴上で20秒放置してはんだペーストを溶融させ,溶融後自然冷却
させる。・・・本実施例のものは放置時間0時間すなわち印刷直後に溶融させた第
1図(a)のものは,はんだ酸化物の発生は見られず,フラックス残渣の色も透明
な黄褐色を示した。放置時間12~240時間のそれぞれ(b)~(h)のものも
(a)と同様にはんだ酸化物は見られず,フラックス残渣の色も透明な黄褐色を示
した。・・・
実施例2
実施例1においてはんだ合金粉末を10μより大きくした以外は同様にしてはん
だペーストを得,これを実施例1と同様にして塗布して放置し溶融させたところ,
7日間放置したものでもはんだ酸化物は見られなかった。
実施例3
実施例1においてはんだ合金粉末を5μより大きくした以外は実施例2と同様に
してはんだペースト塗布物を溶融させたところ,48時間放置してもはんだ酸化物
は見られなかった。」(3頁左下欄1行ないし4頁右上欄4行)
(イ)上記(ア)の記載によれば,刊行物3には,刊行物3発明のほかに,「はんだ
粉末を有するはんだペーストにおいて,はんだ粉末のほとんどを径が10μより大
きい粉末粒子にて構成したはんだペースト組成物」の発明や「はんだ粉末を有する
はんだペーストにおいて,はんだ粉末のほとんどを径が20μより大きい粉末粒子
にて構成したはんだペースト組成物」の発明が記載されていて,はんだ粉末の全粒
子の表面積の和を小さくするとの観点から,「5μより大きい粉末粒子」,「10
μより大きい粉末粒子」又は「20μより大きい粉末粒子」という構成が採用さ
れ,より大きい粉末粒子までが除かれた後のものほど,はんだ粉末がより酸化され
にくくなっている。そして,この構成を実現するための手段は,「粒子径の小さい
はんだ粉末を除去する方法としては,篩による分級や風によりはんだ粉末を飛ば
し,その飛距離から遠くに飛んだものを除去する風力分級が利用される。」という
ものである。なお,ふるいによる分級では,上記(3)イ(ア)で刊行物2の図1につい
てみたとおり,ふるいのメッシュサイズが同じでもふるい分けの操作条件等により
粒度分布が異なるものであるところ,刊行物3には,ふるい分けの具体的な操作や
分級の精度,同伴される微粒子についての記載はないものの,はんだ粉末の全粒子
の表面積の和を小さくするとの観点に照らせば,5μ,10μ又は20μ以下の粒
子径の小さいはんだ粉末が実際に除去されるように,相当程度精密に分級すること
を想定していると考えられる。
ウ刊行物1について
(ア)刊行物1には,次の記載がある。
「30μm未満の粒径のハンダ粒子を含み,かつ,前記ハンダ粒子の粒径の下限
が1μm以上であることを特徴とするハンダペースト。」(特許請求の範囲の請求
項1)
「従来・・・スクリーン印刷によって,配線パターン上にハンダを供給する場合
に用いられるハンダペースト2に含まれるハンダ粒子1は,図12に示すようにそ
の粒径が30μm~50μmの間に分布しており,この範囲から外れる粒径のハン
ダ粒子1は分級により取り除かれていた。」(段落【0002】,【0003】)
「本発明のハンダペーストにあっては,30μm未満のハンダ粒子を含むことを
特徴としているため,・・・例えば30μmあるいはそれ以上の粒径を有する比較
的粒径の大きなハンダ粒子の隙間に,数μmから30μm未満の粒径の小さいハン
ダ粒子が入り込むこととなり,ハンダペースト中のハンダ粒子の粒子間空隙率が小
さくなる。したがって,ハンダペースト溶融前後の体積変化率を小さくすることが
できるため,ハンダ溶融後のハンダ厚さを精度よく制御することが可能になる。
また,ハンダペースト中のハンダ粒子の粒径の下限を1μm以上としているの
で,ハンダ粒子の微小化に伴って顕著となるハンダ粒子表面の酸化物によるハンダ
の濡れ性の低下を防ぐことができ,微細なパターンでもハンダを良好に付着させる
ことができる。」(段落【0011】,【0012】)
「図6に,本実施例3のハンダペーストに含まれるハンダ粒子の粒度分布の一例
を示す。」(段落【0022】)
図6は,実施例3のハンダペースト中のハンダ粒子の粒度分布を示す図で,横軸
は「粒子径(μm)」,縦軸は「粒子数(%)」とされている。そして,粒度分布
曲線は1μmないし90μm超にわたるもので,50μmにピークを有していると
ころ,20μm以下の部分の粒度分布曲線の下の面積は,粒度分布曲線全体の下の
面積の30%より相当に小さい。
(イ)上記(ア)の記載によれば,刊行物1には,ハンダペースト中のハンダ粒子の
充填率を高くしてハンダ溶融後のハンダ厚さを制御するために,30μm未満の粒
径のハンダ粒子を含ませ,ハンダ粒子表面の酸化物によるハンダの濡れ性低下を防
ぐために,ハンダ粒子の粒径の下限を1μmすることが記載されている。また,図
6によれば,実施例3のハンダペースト中のハンダ粒子は,粒径20μm以下が個
数分布で30%以下であると認められる。
エ以上によれば,本件訂正発明1における相違点イに係る発明特定事項は,は
んだ粉末が酸化されにくいようにはんだ粉末の表面積を小さくするとの観点から,
粒径20μm以下の粒子が個数分布で30%を超えないようにするというものであ
るが,刊行物3には,はんだ粉末が酸化されにくいようにはんだ粉末の全粒子の表
面積の和を小さくするとの観点から,はんだ粉末のほとんどを径が20μmより大
きいはんだ粒子で構成することが記載され,また,刊行物1には,はんだ粒子表面
の酸化物によるはんだの濡れ性低下を防ぐために,はんだ粒子の粒径の下限を1μ
mにすることが記載され,その図6には,粒径20μm以下のはんだ粒子が個数分
布で30%以下に相当するはんだ粉末の具体例が示されている。
そうであれば,はんだ粉末が酸化されにくいようにはんだ粉末の表面積を小さく
するとの観点から,はんだ粉末のほとんどを径が20μmより大きいはんだ粒子で
構成されるように,顕微鏡などで測定して,「粒径20μm以下のはんだ粒子が個
数分布で30%」などと決めることは,当業者が適宜に行い得る程度のことである
と認められる。
オしたがって,「本件訂正発明1のように粒径の数値や微粉混入比率を,粒径
20μ以下のはんだ粒子を個数分布で30%以下と規定することは,当業者が格別
の創意工夫や困難性を要することなく,適宜に決定し得るものと認められる。」と
した決定の認定に,誤りはない。
(6)なお,本件訂正発明1は,はんだ粉末の合金組成として,「SnおよびZ
n,又は,SnおよびAgの元素を含有する」と規定しているところ,元素の存在
割合やそれ以外の成分元素の存在は何ら規定していないから,本件訂正明細書の段
落【0014】に記載されているように,「Pbフリーはんだ,特に好ましくはS
nおよびZn,又はSnおよびAg元素を含有するはんだから選ばれた合金組成」
が該当するとしても,このPbフリーはんだに限定されるわけではない。そうであ
れば,刊行物3がSn-Pb系のはんだに関するものであって,原告が主張するよ
うに,Pbフリーはんだに比べて,フラックス成分により酸化されにくい性質があ
るとしても,刊行物3の技術的教示を適用することに格別の困難はない。したがっ
て,刊行物3の技術的教示から,本件訂正発明1のように,はんだ微粒子の存在量
を一定量以下に管理することの動機付けは生じないとの原告の主張は,採用するに
由ない。
(7)以上のように,決定の認定判断に誤りはないから,これに基づき,「この
相違点イは,当業者が刊行物3の技術的教示及び周知の技術水準に基づいて容易に
規定し得る事項にすぎない。」とした決定の判断に誤りはなく,原告主張の取消事
由2は,理由がない。
3取消事由3(相違点ロの判断の誤り)について
(1)決定は,「刊行物4には,はんだ粉末が酸化されるとはんだ付け特性が低
下するので,はんだの酸化を防止する必要があること,実例として酸化が抑制され
たはんだ中の酸素量は100ppmであることが,刊行物5には,従来はんだの酸
素含有量は平均176.8ppmであることが,刊行物6には,はんだ粉末が酸化
されるとはんだ付け特性が低下するので,はんだの酸化を防止する必要があること
が,そして,刊行物7には,粉末はんだの1g当りの酸素量を150PPm以下と
する粉末はんだの製造法が記載されている。」と認定するところ,このことは原告
も争わない。
(2)上記(1)の事実によれば,はんだにおいて,酸素量すなわち酸素原子含有量
を200ppm程度以下とすることは,通常のことであると認められるところ,本
件訂正発明における相違点ロに係る発明特定事項は,酸化されているはんだ粉末の
程度が酸素原子含有量で500ppm以下であるというものであって,上記の20
0ppm程度以下を包含し,はるかに緩い条件を規定しているのであるから,この
程度のことは,当業者が適宜に決定することができたものというほかない。
なお,上記2(6)のとおり,本件訂正発明1は,「SnおよびZn,又はSnお
よびAgの元素」の元素の存在割合やそれ以外の成分元素の存在は何ら規定してい
ないから,刊行物4ないし7がいずれもSn-Pb系のはんだの酸素量に関するも
のであるとしても,これを適用することができないとする理由もない。
(3)以上のとおりであって,「本件訂正発明1のように,はんだ粉末中の酸素
原子含有量を500ppm以下に規定することは当業者が適宜になしうることであ
る。」とした決定の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由3は,理由がな
い。
4取消事由4(相違点ハの判断の誤り)について
(1)刊行物8(乙10)及び9(乙11)について
ア刊行物8には,次の記載がある。
「はんだ材料中に,ホイスカー,ホイスカー粉砕物のいずれか一方もしくは双方
を添加したことを特徴とするクリームはんだ。」(特許請求の範囲の請求項1)
「はんだ材料が,スズと銀を基本組成とし,かつスズが主構成成分であり,銀の
含有量が0.1~20重量%である合金の中に,ビスマスを0.1~20重量%,
またはインジウムを0.1~20重量%,または銅を0.1~3.0重量%,また
は亜鉛を0.1~15重量%,またはアンチモンを0.1~20重量%のいずれか
一種以上を含有するスズ-銀系はんだ材料であることを特徴とする請求項1記載の
クリームはんだ。」(特許請求の範囲の請求項4)
「本発明によれば,ホイスカーあるいはホイスカー粉砕物を添加することによ
り,クリームはんだの機械的強度を向上させることができる。また,はんだ材料に
おいてスズを主構成成分とし,さらに銀,アンチモン,銅,亜鉛のいずれか一種以
上を添加することにより,さらに高強度のクリームはんだを提供することができ
る。」(段落【0024】)
表2には,実施例1ないし16におけるはんだ材料の各成分組成(重量%),融
点,濡れ性,ホイスカーあるいはホイスカー粉砕物を添加した場合及び添加しない
場合の引張り強度の測定結果が記載されている。成分組成及び融点をみると,実施
例1は,成分組成がSn63.0重量%,Pb37重量%で,融点が183℃,実
施例9,13,15は,成分組成にSn及びZnの元素を含有するもので,融点が
210ないし219℃,実施例2,5ないし9,12ないし14,16は,成分組
成にSn及びAgの元素を含有するもので,融点が187ないし230℃である。
なお,実施例1以外は,Sb,Bi,In,Cuを含むものもあるが,Pbは含む
ものはない。
イ刊行物9には,次の記載がある。
「Sn-Zn系合金粉末と松脂主成分のペースト状フラックスとを混和したソル
ダペーストにおいて・・・有機酸と・・・有機系化合物が添加されていることを特
徴とするソルダペースト。」(特許請求の範囲の請求項1)
「従来より鉛フリーはんだ合金としてSn主成分のSn-AgやSn-Sb合金
はあった。Sn-Ag合金は,最も溶融温度の低い組成がSn-3.5Agの共晶
組成で,溶融温度が221℃である。・・・溶融温度が高いため,これらの合金の
溶融温度を下げる手段を講じたはんだ合金が多数提案されている。」(段落【00
08】,【0009】)
「最近ではSn-Ag系合金やSn-Sb系合金よりも溶融温度の低い鉛フリー
はんだ合金のSn-Zn系合金が注目されるようになってきた。Sn-Zn系合金
はSn-9Znの組成が共晶となり,その溶融温度は199℃であるため,Sn-
Pbの共晶はんだに近い溶融温度である。しかしながら・・・濡れ性に乏しく・・
・接着強度が十分でない等の問題がある。・・・濡れ性を改良するとともに接着強
度を向上させるためにBi,In,Ag,Cu,Ni等を添加した鉛フリーはんだ
合金が提案されている。」(段落【0011】)
「一般のSn-Pb合金用のはんだ付け装置でSn-Zn系合金を使用すると,
酸化物が大量に発生してはんだ付けが困難となる。これはSn-Zn系合金が酸化
しやすいためであり,」(段落【0013】)
「本発明のソルダペーストは,酸やハロゲンに侵されやすいZnを含むSn-Z
n系合金粉末のソルダペーストにおいて,Znを分子量の小さな亜鉛塩にして・・
・粘度が増加しにくい。また・・・Sn-Zn系合金粉末の表面が有機酸化合物で
覆われていて・・・長期間にわたって金属的特性を失うことがなくリフロー時に完
全に溶解して信頼あるはんだ付け部を形成できるものである。」(段落【003
5】)
実施例1ないし3及び比較例1(段落【0030】ないし【0033】)のソル
ダペーストで用いるSn-Zn系合金粉末は,実施例1及び比較例1が「Sn-5
Zn-24Bi-0.1Ag」,実施例2及び3が「Sn-7Zn-8Bi-0.
2Ag」である。
ウ上記ア,イの記載によれば,はんだ粉末の技術分野では,鉛を含まないはん
だ合金として,Sn及びZnの元素,又は,Sn及びAgの元素を含有する合金で
あって,溶融温度をSn-Pbの共晶はんだに近づけたものは,本件訂正発明の特
許出願当時周知であったことが認められる。また,Sn-Zn系合金が酸化しやす
い,また,酸やハロゲンに侵されやすいことも知られていたことが認められる。
(2)上記(1)によれば,刊行物3の技術的教示を適用して,相違点ハに係る「S
nおよびZn,又は,SnおよびAgの元素を含有する」との構成にすることに,
格別の困難はないといわなければならない。
なお,上記2(6)のとおり,本件訂正発明1は,Pbフリーはんだに限定される
わけではないから,刊行物3の技術的教示を適用することに格別の困難はないので
あるが,仮に本件訂正発明1がPbフリーはんだに限定されるものであるとして
も,少なくとも「SnおよびAgの元素を含有する」との構成については,刊行物
8及び9をみても,酸化しやすい等の問題点はなく,溶融温度もSn-Pbの共晶
はんだに近づけているのであるから,刊行物3の技術的教示を適用して,粒径分布
が相違点イに係る発明特定事項を満足するようにし,併せて,酸素原子含有量が相
違点ロに係る発明特定事項を満足するようにすることは,当業者が容易になし得る
程度のことであると認められる。
(3)以上のとおりであって,刊行物3の技術的教示を適用して,「本件訂正発
明1のようにSn-Ag系,或いは,Sn-Zn系合金組成のはんだ材に適用する
ことに格別の困難性はないし,また,この適用を阻害する格別の要因も存しな
い。」とした決定の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由4は,理由がな
い。
第5結論
よって,原告主張の決定取消事由はすべて理由がないから,原告の請求は棄却さ
れるべきである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
高野輝久
裁判官
佐藤達文

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