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平成20年1月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成18年(行ケ)第10413号審決取消請求事件
平成19年12月18日口頭弁論終結
判決
原告X
訴訟代理人弁理士笹島富二雄,小川護晃
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人柴沼雅樹,永安真,高木彰,高木進,森山啓
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2003−17324号事件について平成18年5月2日にし
た審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「テレスコピックシャフト」とする発明につき,平成
5年12月27日(パリ条約による優先権主張1992年12月30日,19
93年3月31日,スペイン国),特許を出願(以下「本件出願」という。)
し,平成14年1月16日付け及び同年9月3日付け手続補正書により補正を
行ったが,平成15年7月2日付けの拒絶査定を受けたため,同年7月31日,
審判を請求した。
特許庁は,上記審判請求を不服2003−17324号事件として審理した
結果,平成18年5月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決
をし,同月17日,審決の謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲
平成14年1月16日付け及び同年9月3日付け手続補正書(甲第3及び第
4号証)による補正後の本件出願の請求項1(請求項は全部で4項である。)
は,次のとおりである。(以下,補正後の明細書を「本願明細書」という。)
【請求項1】円形断面を有する2つの管状部材を,夫々の摺動領域の周面に
並設された溝及び歯を互いに噛合させて,回転の一体性を補償し,軸長方向の
摺動を可能とすべくテレスコピックに嵌め合わせてなり,自動車の操舵コラム
を構成するために特に計画されたテレスコピックシャフトにおいて,
前記2つの管状部材の一方に設けられ,該管状部材が他方の管状部材に対し
て摺動し,予め設定された最小軸長に対応する摺動位置に達したとき,前記他
方の管状部材の摺動領域に設けた少なくとも1つの歯に作用して,前記摺動位
置を超える短縮を前記歯の変形抵抗を伴って生じさせる抵抗手段を備えること
を特徴とするテレスコピックシャフト。
(以下,審決と同様に,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)
3審決の理由
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,実願昭53−1
60290号(実開昭55−76764号)のマイクロフィルム(甲第1号証。
以下,審決と同様に,「第1引用例」という。)記載の発明(以下,審決と同
様に,「引用発明」という。)及び従来周知の技術に基づいて,当業者が容易
に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特
許を受けることができないとするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,引用発明の内容並びに本願発明と引用発
明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1)引用発明の内容(以下,「シヤフト」とあるのを「シャフト」に統一し
た。)
円形断面を有し,かつ,外側部材及び内側部材からなる2つの部材を構成
する管状部材であるアウターシャフト17とインナーシャフト18とを,夫
々の摺動領域の周面に並設された雌・雄セレーシヨン19,20を互いに噛
合させて,回転の一体性を補償し,軸長方向の摺動を可能とすべくテレスコ
ピックに嵌め合わせてなり,自動車の操舵コラムを構成するために特に計画
されたステアリングシャフトにおいて,
前記両シャフトの一方のインナーシャフト18に設けられ,該インナーシ
ャフト18が他方の管状部材であるアウターシャフト17に対して摺動し,
前記他方の管状部材であるアウターシャフト17の摺動領域に設けた雌セレ
ーシヨン19に作用して,塑性変形を生じつつ収縮しエネルギ吸収の効果を
奏する突起21′を備えたステアリングシャフト。
(2)一致点
円形断面を有する外側部材及び内側部材からなる2つの部材を,夫々の摺
動領域の周面に並設された溝及び歯を互いに噛合させて,回転の一体性を補
償し,軸長方向の摺動を可能とすべくテレスコピックに嵌め合わせてなり,
自動車の操舵コラムを構成するために特に計画されたテレスコピックシャフ
トにおいて,
前記外側部材及び内側部材からなる2つの部材の一方に設けられ,該部材
が他方の部材に対して摺動し,前記他方の部材の摺動領域に設けた歯に作用
する抵抗手段を備えるテレスコピックシャフトである点
(3)相違点
ア円形断面を有する2つの部材について,本願発明は,この2つの部材とも
管状部材であるのに対し,引用発明では,2つの部材のうち,外側部材であ
るアウターシャフト17は管状部材であるといえても,内側部材であるイン
ナーシャフト18まで管状部材であるとはいえない点(以下「相違点1」と
いう。)
イ外側部材及び内側部材からなる2つの部材の一方に設けられた抵抗手段に
係る事項として,本願発明は,2つの管状部材が予め設定された最小軸長に
対応する摺動位置に達したとき,他方の管状部材の摺動領域に設けた少なく
とも1つの歯に作用して,前記摺動位置を超える短縮を前記歯の変形抵抗を
伴って生じさせる抵抗手段を備えるように構成しているのに対し,引用発明
では,他方の管状部材(アウターシャフト17)の摺動領域に設けた歯(雌
セレーシヨン19)に作用して,塑性変形を生じつつ収縮しエネルギ吸収の
効果を奏する抵抗手段(突起21′)を備えるように構成してはいるものの,
この抵抗手段が前記の“歯”に作用する条件として,本願発明でいうような,
“2つの管状部材が予め設定された最小軸長に対応する摺動位置に達したと
き”という限定事項についてまでは言及していない点(以下「相違点2」と
いう。)
第3審決取消事由の要点
審決は,本願発明と引用発明との一致点の認定を誤り,相違点を看過し(取
消事由1),これに基づいて相違点2について判断したためにその判断を誤っ
た(取消事由2)ものであるところ,これらの誤りがいずれも結論に影響を及
ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1取消事由1(一致点認定の誤り,相違点の看過)
(1)引用発明の「ステアリングシャフト」と本願発明の「テレスコピックシャ
フト」
引用発明の「ステアリングシャフト」は,本願発明の「テレスコピックシ
ャフト」に相当しない。
ア「テレスコピック(telescopic)」とは,「伸縮自在であること」を意味
するから,「テレスコピックシャフト」と言えば,伸縮自在に構成されたシ
ャフトのことである。これに対し,従来の「テレスコピックシャフト」は,
本願明細書の段落【0008】に記載されているように,「取付け及び調節
の目的のためには望遠鏡式シャフトのようには動作をせず,剛体のように不
変の長さのままでいる」ことは,本願明細書の【発明が解決しようとする課
題】に記載したとおりである。
イ本願発明の「テレスコピックシャフト」は,特許請求の範囲に記載されて
いるとおり,「自動車の操舵コラムを構成するために特に計画されたもので
あ」って,「前記2つの管状部材の一方に設けられ,該管状部材が他方の管
状部材に対して摺動し,予め設定された最小軸長に対応する摺動位置に達し
たとき,前記他方の管状部材の摺動領域に設けた少なくとも1つの歯に作用
して,前記摺動位置を超える短縮を前記歯の変形抵抗を伴って生じさせる抵
抗手段を備えることを特徴とするテレスコピックシャフト」である。したが
って,本願発明は,最大軸長から最小軸長に至るまでは「伸縮自在」に構成
され,最小軸長に至ると抵抗手段が歯に作用するようになり,最小軸長を超
える「短縮」については歯の変形抵抗を伴うものであるから,本願発明の
「テレスコピックシャフト」は,単に最大規模の力に対して「収縮」するシ
ャフトのことではなく,「伸縮自在」に構成されたシャフトのことであるこ
とは明らかである。
ウこれに対して,引用発明の「ステアリングシャフト」は,上記の最大規模
の力に対してのみ「収縮」するものであり,「伸縮自在」に構成されていな
い。
エしたがって,引用発明の「ステアリングシャフト」が本願発明の「テレス
コピックシャフト」に相当するとした審決の認定は誤りである。
(2)引用発明の「突起21′」と本願発明の「抵抗手段」
引用発明の「突起21′」は本願発明の「抵抗手段」に相当しない。
本願発明では,「歯の変形を生じさせない自由な相対移動(摺動)」と
「歯の変形を伴う相対移動(短縮)」とを明確に区別しており,一方の管状
部材が「摺動」によって最小軸長に対応する摺動位置に達することにより,
一方の管状部材に設けた抵抗手段が他方の管状部材の摺動領域に設けた歯に
作用する,すなわち,一方の管状部材がまず摺動し,この摺動によって抵抗
手段が他方の管状部材の摺動領域に設けた歯に作用するようになるのである
(そして,その後は,歯の変形を伴うことで最小軸長を超える「短縮」が可
能となるのである)。
これに対して,引用発明は,伸縮自在に構成されておらず,「アウターシ
ャフトとインナーシャフトの相対移動「時」に雌セレーション及び圧着部
(突起21′)が塑性変形をする」のであり,雌セレーション19又は突起
21′の変形を伴わないアウターシャフト17及びインナーシャフト18の
相対移動はあり得ない。また,「作用する」とは,2つの物体間において一
方に力を及ぼすことを意味するところ,引用発明における「突起21′」は,
初めから雌セレーション19に作用している。
したがって,引用発明の「突起21′」が本願発明の「抵抗手段」に相当
するとした審決の認定は誤りである。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)
上記1のとおり,審決は本願発明と引用発明の一致点の認定を誤り,相違点
を看過しており,これに基づいて相違点2に係る構成についての容易想到性の
判断をしたために,その判断を誤ったものである。
第4被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
以下の反論においては,本願発明の構成事項のうちの前半部分の「円形断面
を有する2つの管状部材を,夫々の摺動領域の周面に並設された溝及び歯を互
いに噛合させて,回転の一体性を補償し,軸長方向の摺動を可能とすべくテレ
スコピックに嵌め合わせてなり,自動車の操舵コラムを構成するために特に計
画されたテレスコピックシャフトにおいて,」を「本願発明の前提構成」とい
い,本願発明の構成事項のうちの後半部分の「前記2つの管状部材の一方に設
けられ,該管状部材が他方の管状部材に対して摺動し,予め設定された最小軸
長に対応する摺動位置に達したとき,前記他方の管状部材の摺動領域に設けた
少なくとも1つの歯に作用して,前記摺動位置を超える短縮を前記歯の変形抵
抗を伴って生じさせる抵抗手段を備えることを特徴とするテレスコピックシャ
フト。」を「本願発明の特徴構成」という。
1取消事由1(一致点認定の誤り,相違点の看過)について
(1)引用発明の「ステアリングシャフト」と本願発明の「テレスコピックシャ
フト」
ア「テレスコピック(telescopic)」という用語には「伸縮自在」という意
味もあるが,本願発明の前提構成においては,「伸縮自在」との直接の記載
はなく,どのような状態において「伸縮自在」であるのかについて,具体的
な限定はされていない。他方,本願発明の特徴構成においては,「該管状部
材が他方の管状部材に対して摺動し,予め設定された最小軸長に対応する摺
動位置に達したとき」及び「前記摺動位置を超える短縮を前記歯の変形抵抗
を伴って生じさせる」という限定があるが,これらの限定事項は,シャフト
の収縮する方向への移動に止まるものである。
したがって,本願発明の前提構成の「軸長方向の摺動を可能とすべくテレ
スコピックに嵌め合わせてなり」は,本願発明の特徴構成であるシャフトの
収縮する方向への移動を可能とするための前提構成としての嵌め合い構造を
限定したに止まると解釈される。
イ第1引用例のステアリングシャフトは,シャフトの収縮する方向への移動
を可能とするためにアウターシャフト17とインナーシャフト18とを軸方
向にのみ相対移動自在に嵌合したものと認められる。
ウ以上のとおり,本願発明のテレスコピックシャフトは,シャフトの収縮す
る方向への移動を可能とするための嵌め合い構造を超えるような「伸縮自
在」の構成については何ら限定がないものであるから,シャフトの収縮する
方向への移動を可能とするためにアウターシャフト17とインナーシャフト
18とを軸方向にのみ相対移動自在に嵌合した第1引用例のステアリングシ
ャフトと変わるところはない。
したがって,引用発明の「ステアリングシャフト」が本願発明の「テレス
コピックシャフト」に相当するとした審決の認定に誤りはない。
(2)引用発明の「突起21′」と本願発明の「抵抗手段」
審決では,本願発明の特徴構成のうちの「予め設定された最小軸長に対応
する摺動位置に達したとき」及び「前記摺動位置を超える短縮を前記歯の変
形抵抗を伴って生じさせる」は一致点と認定しておらず,相違点2としてい
る。すなわち,審決は,引用発明の「突起21’」が,アウターシャフト1
7の摺動領域に設けた雌セレーシヨン19に作用して,塑性変形を生じつつ
収縮し,エネルギー吸収の効果を奏するという機能に着目して,本願発明の
「抵抗手段」に相当すると認定したのであり,それ以外の本願発明の特徴構
成のうちの各事項に関しては,相違点2として認定している。
したがって,引用発明の「突起21′」が本願発明の「抵抗手段」に相当
するとした審決の認定に誤りはない。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
上記1のとおり,審決に本願発明と引用発明の一致点の認定を誤り,相違点
を看過したところはなく,これに基づいてされた相違点2に係る構成の容易想
到性の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(一致点認定の誤り,相違点の看過)について
(1)本願発明の「テレスコピックシャフト」と引用発明の「ステアリングシャ
フト」について
原告は,本願発明における「テレスコピックシャフト」は2つの管状部材
が「伸縮自在」である点において,引用発明におけるアウターシャフトとイ
ンナーシャフトが専ら「収縮」するだけの「ステアリングシャフト」と異な
るとして,両者が一致するとした審決の判断は,一致点を誤認し,相違点を
看過したものであると主張するところ,引用発明の上記構成については,当
事者間に争いがないので,以下,本願発明の「テレスコピックシャフト」の
技術的意義について検討する。
ア「テレスコピックシャフト」の一般的意義
まず,「テレスコピック」の一般的な語義について見るに,この語が英語
の「telescopic」に由来するもので,その一般的な語義は「伸縮
自在の」,「入り子式の」などの意味を有するものであることは各種の英和
辞典から明らかであり,被告においてもこの点を争うものでないことは弁論
の全趣旨に照らして明らかである。そして,本願発明と技術分野を同じくす
る自動車技術に関する「自動車用語中辞典」(平成8年9月15日,株式会
社山海堂)305頁(甲第8号証)には,「テレスコピック・ステアリン
グ」について「ステアリングホイールが軸方向に伸縮するもの」との記載が
あることからすると,自動車の技術分野において,「テレスコピック」とい
えば,一般的には,「伸縮自在な」動きを意味するものと解するのが相当と
いうべきである。
しかしながら,当然のことではあるが,語句の解釈は,上記のような当該
語句が有する一般的な語義を前提としつつも,当該語句が使用される文脈と
の関係においてその意味を確定することが不可欠であり,上記のような一般
的な語義をそのまま適用すればよいといったものではない。そこで,本件に
おける「テレスコピック」の語の意味を本願発明の請求項1の文脈において
検討することとする。
イ本件出願の請求項1の記載における「テレスコピックシャフト」の意義
請求項1は前段と後段の2つの段落から成るところ,前段には,2つの管
状部材を「・・・軸長方向の摺動を可能とすべくテレスコピックに嵌め合わ
せて成り,自動車の操舵コラムを構成するために特に計画されたテレスコピ
ックシャフト」と規定されているから,上記「テレスコピック」を前項の一
般的な語義に照らすならば,「2つの管状部材が「伸縮自在に」嵌め合わせ
て成(る)・・・テレスコピックシャフト」を意味するものと一応理解する
ことができる。
そこで,更に進んで上記の理解が請求項1の後段においても矛盾なく採用
され得るか否かについて検討するに,後段においては,「テレスコピックに
嵌め合わせて成(る)」2つの管状部材は,そのうちの1つの抵抗手段を備
えた管状部材が,他方の管状部材の摺動領域に設けた歯に作用して,所定の
摺動位置を超える短縮を歯の変形抵抗を伴って生じさせるものであることを
規定しているから,後段における2つの管状部材の動きは,専ら,「収縮方
向」の動きであって,2つの管状部材が伸張する方向に動く場合を含むもの
でないことは後段の記載から明らかである。
そして,以上のことを踏まえて,請求項1を全体として見るならば,本願
発明の特徴的構成が後段部分にあることや「テレスコピックに嵌め合わせて
成(る)」と規定する前段部分において,2つの管状部材の動きの態様につ
いては何ら具体的に規定していないことなどに照らすと,請求項1は,後段
に規定した本願発明の特徴的な構成,すなわち,上述した「収縮方向の動
き」を実現するために,2つの管状部材の関係が「テレスコピック」の嵌め
合い構造であることを規定したものと解するのが相当というべきである。
ウ本願明細書における「テレスコピック」の用語法
念のため,本願明細書の記載において,2つの部材が上記のように「収縮
方向」にだけ動く場合にも「テレスコピック」なる用語が用いられるかどう
かについて見るに,本願明細書には以下の記載がある。すなわち、
「【0003】技術の現状において,前記シャフトの少なくとも一方は,特
定の相対位置を保持して相互に嵌合させられた少なくとも2つの管状部材を
備えるテレスコピック構造を有している。前記管状部材の組立物は,これら
に予め定められた大きさの軸方向力が加えられたとき,その長さを減じるよ
うに前記相対位置から変位することができる。このようなテレスコピック構
造は,例えば,正面衝突の際に操舵コラムが,車両の運転者又は乗員に非常
に重大な怪我を与えかねない危険を避けるという,主として安全の目的のた
めに採用されている。」
「【0008】他方,公知の多くの解決法においてテレスコピックシャフト
は,最大規模の力に対してのみ,具体的には衝突又は事故に対してのみ収縮
するが,取付け及び調節の目的のためにはテレスコピックシャフトとしての
動作をせず、剛体のように不変の長さのままである。」
上記の各記載によれば,本願明細書においては,2つの管状部材から成る
シャフトで専ら「収縮方向」にのみ動くものであってもこれを「テレスコピ
ック構造」,「テレスコピックシャフト」などと呼んでいたことが認められ
るから,原告主張のように「テレスコピック」なる用語から直ちに嵌合関係
にある2つの部材が「伸縮自在に動く」ことまで規定したものと解すること
は困難であるといわざるを得ない。
したがって,本件出願の請求項1における「テレスコピックに嵌め合わせ
て成(る)」との規定部分をもって,2つの管状部材が原告主張のように
「伸縮自在に動く」ことまで規定したものと解することは困難というべきで
あり,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張といわざるを
得ないから,採用することは出来ない。
エ結論
引用発明のステアリングシャフトにおけるアウターシャフトとインナーシ
ャフトが専ら「収縮」方向だけの動きをすることは当事者間に争いがないか
ら,これと本願発明の「テレスコピックシャフト」を上記の点において一致
するとした審決の判断に誤りはなく,審決に相違点の看過はない。
(2)引用発明の「突起21′」と本願発明の「抵抗手段」
ア原告は,引用発明の「突起21′」が本願発明の「抵抗手段」に相当しな
いことの根拠として,本願発明が「伸縮自在」であることを挙げるが,上記
(1)のとおり,本件出願の請求項1の記載において,「伸縮自在」であるこ
とが特定されているとはいえないから,これを前提とする原告の主張を採用
することはできない。
イ原告は,引用発明の「突起21’」は,初めから雌セレーション19に作
用しているものであるのに対し,本願発明の「抵抗手段」は,摺動によって
最小軸長に対応する摺動位置に達することにより,抵抗手段が他方の管状部
材の摺動領域に設けた歯に作用するようになるものであるから,審決の認定
は誤りであると主張する。
しかし,審決は,相違点2として,「…本願発明は,2つの管状部材が予
め設定された最小軸長に対応する摺動位置に達したとき,他方の管状部材の
摺動領域に設けた少なくとも1つの歯に作用して,前記摺動位置を超える短
縮を前記歯の変形抵抗を伴って生じさせる抵抗手段を備えるように構成して
いるのに対し,引用発明では,…この抵抗手段が前記の“歯”に作用する条
件として,本願発明でいうような,“2つの管状部材が予め設定された最小
軸長に対応する摺動位置に達したとき”という限定事項についてまでは言及
していない点」を認定しているから,審決が引用発明の「突起21′」が本
願発明の「抵抗手段」に相当するとしたのは,両者が外側部材及び内側部材
からなる2つの部材の一方に設けられ,一方の部材が他方の部材に対して摺
動し,その摺動領域に設けた歯に作用する抵抗手段である点で共通するから
であると解される。本願発明の「抵抗手段」は「前記2つの管状部材の一方
に設けられ,該管状部材が他方の管状部材に対して摺動し,予め設定された
最小軸長に対応する摺動位置に達したとき,前記他方の管状部材の摺動領域
に設けた少なくとも1つの歯に作用して,前記摺動位置を超える短縮を前記
歯の変形抵抗を伴って生じさせる」(特許請求の範囲請求項1)ものであり,
引用発明の突起21’は,「ステアリングシャフトの相対移動時に雌セレー
シヨン19及び突起21′の少なくとも一方が塑性変形を生じつつ収縮しエ
ネルギ吸収の効果を奏す」るもの(第1引用例9頁11行∼13行)である
から,上記の限度で差異はない。
ウしたがって,引用発明の「突起21′」が本願発明の「抵抗手段」に相当
するとした審決の認定に誤りはない。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
原告が相違点2についての判断の誤りとして主張するのは,いずれも取消事
由1における一致点の認定の誤り,相違点の看過があることを前提としている
ところ,前記1のとおり,審決には原告の主張する誤りはないから,これに基
づいてされた相違点2に係る構成についての容易想到性の判断にも誤りはない。
3結論
以上に検討したところによれば,審決取消事由はいずれも理由がなく,審決
を取り消すべきその他の誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
田中信義
裁判官
古閑裕二
裁判官
浅井憲

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