弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件訴えのうち行政文書開示決定の義務付けを求める部分をいずれも却
下する。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
(第1事件)
被告法務大臣が原告に対してした次の各行政文書不開示決定を取り消す。
平成16年12月21日法務省人試第××××号をもってした行政文書不(1)
開示決定(以下「本件第1不開示決定」という)。
平成16年12月28日法務省人試第××××号をもってした行政文書不(2)
開示決定(以下「本件第2不開示決定」という)。
平成17年2月17日法務省人試第×××号をもってした行政文書不開示(3)
決定(以下「本件第3不開示決定」という)。
平成17年2月17日法務省人試第×××号をもってした行政文書不開示(4)
決定(以下「本件第4不開示決定」という)。
(第2事件)
法務大臣は,原告に対し,次の各行政文書の開示決定をせよ。
原告が平成16年11月22日受付第401号をもって開示請求をした次(1)
の各行政文書
ア平成16年10月7日に開催された司法試験委員会の議事の内容を録音
したテープ(以下「本件文書①」という)と,発言者名のわかる議事を。
記録した文書(以下「本件文書②」という)。
イ平成16年11月9日に開催された司法試験委員会の議事の内容を録音
したテープ(以下「本件文書③」という)と,発言者名のわかる議事を。
記録した文書(以下「本件文書④」という)。
原告が平成16年12月17日受付第403号をもって開示請求をした次(2)
の各行政文書
ア平成16年11月26日に行われた司法試験委員会の議事の内容を録音
したもの(以下「本件文書⑤」という)と,発言者名のわかる議事を記。
録した文書(以下「本件文書⑥」という)。
イ平成16年12月10日に行われた司法試験委員会の議事の内容を録音
したもの(以下「本件文書⑦」という)と,発言者名のわかる議事を記。
録した文書(以下「本件文書⑧」という)。
原告が平成17年1月20日受付第460号をもって開示請求をした,平(3)
成17年1月20日に開催された司法試験委員会の会議の内容を録音したも
の(以下「本件文書⑨」という)。
原告が平成17年2月1日受付第458号をもって開示請求をした,平成(4)
17年2月1日に開催された司法試験委員会の会議の内容を録音したもの
(以下「本件文書⑩」という)。
(第3事件)
1法務大臣が原告に対し平成17年3月31日法務省人試第×××号をもって
(「」。)。した行政文書不開示決定以下本件第5不開示決定というを取り消す
2法務大臣は,原告に対し,原告が平成17年3月2日受付第519号をもっ
て開示請求をした次の各行政文書の開示決定をせよ。
平成17年2月28日に開催された司法試験委員会の会議の内容を録音し(1)
たもの(以下「本件文書⑪」という)。
平成17年1月20日に開催された司法試験委員会の発言者名のわかる会(2)
議内容を記録したもの(以下「本件文書⑫」という)。
平成17年2月1日に開催された司法試験委員会の発言者名のわかる会議(3)
内容を記録したもの(以下「本件文書⑬」という)。
第2事案の概要
本件は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」
という)4条1項の規定に基づいて,法務大臣に対し,司法試験委員会の会。
議の内容を録音したもの及び発言者名の分かる会議内容を記録した文書の開示
請求をした原告が,開示請求に係る文書を行政文書として保有していないこと
を理由に不開示決定を受けたことから,当該不開示決定の取消しと,開示請求
に係る行政文書の開示決定の義務付けを求める事案である。
1前提となる事実(当事者間に争いがない)。
司法試験委員会は,平成16年10月7日に第11回会議を,同年11月(1)
9日に第12回会議を,同年11月26日に第13回会議を,同年12月1
0日に第14回会議を,平成17年1月20日に第15回会議を,同年2月
1日に第16回会議を,同年2月28日に第17回会議を,それぞれ開催し
た(以下,これらの会議を「本件各会議」という。。)
原告は,情報公開法4条1項の規定に基づき,法務大臣に対し,平成16(2)
年11月22日受付第401号をもって本件文書①ないし④(第11回及び
第12回会議に係る録音物及び発言者名の分かる文書)の,同年12月17
日受付第403号をもって本件文書⑤ないし⑧(第13回及び第14回会議
に係る録音物及び発言者名の分かる文書)の,平成17年1月20日受付第
460号をもって本件文書⑨(第15回会議に係る録音物)の,同年2月1
日受付第458号をもって本件文書⑩(第16回会議に係る録音物)の,同
年3月2日受付第519号をもって本件文書⑪ないし⑬(第17回会議に係
),る録音物並びに第15回及び第16回会議に係る発言者名の分かる文書の
それぞれ開示請求をした(以下,これらの開示請求を「本件各開示請求」と
いい,本件文書①ないし⑬を併せて「本件各文書」という。。)
法務大臣は,本件各開示請求に対し,本件文書①ないし④については平成(3)
16年12月21日付け本件第1不開示決定をもって,本件文書⑤ないし⑧
については同年12月28日付け本件第2不開示決定をもって,本件文書⑨
については平成17年2月17日付け本件第3不開示決定をもって,本件文
書⑩については同日付け本件第4不開示決定をもって,本件文書⑪ないし⑬
については同年3月31日付け本件第5不開示決定をもって(以下,これら
の不開示決定を「本件各不開示決定」という,いずれも「当該請求に係。)
る対象文書は,行政文書として作成又は取得しておらず,保有していないた
め」との理由を付して不開示とした。。
なお,本件文書⑨ないし⑪の不開示については「仮に,当該請求に係る,
対象文書が行政文書として存在するとしても,当該文書には,特定の個人を
(),識別できる個人に関する情報法第5条第1号該当が記録されているほか
公にすることにより,率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損な
われるおそれ(同条第5号該当,司法試験実施事務の適正な遂行に支障を)
来すおそれ(同条第6号該当)があるため,不開示とすべきものである」。
との理由も併せて付されていた。
原告は,本件各不開示決定を不服として,平成17年2月25日に第1事(4)
件,同年8月31日に第3事件を提起して,本件各不開示決定の取消しを求
めるとともに,第3事件及び同日提起の第2事件において,本件各文書の開
示決定の義務付けを求めた。
2本件各不開示決定の取消請求に係る当事者の主張
被告らの主張(1)
ア「組織的に用いるもの」に該当しないこと
,,,,,(「」。)本件文書①③⑤⑦⑨⑩及び⑪以下本件録音物という
は以下のような作成目的・状況等に照らし情報公開法2条2項中の当,,「
該行政機関の職員が組織的に用いるもの」に該当しないので,いずれも同
法の「行政文書」に該当しない。
録音目的(ア)
本件各会議の内容の一部は,司法試験委員会の庶務を担当する法務省
大臣官房人事課の新司法試験担当補佐官(課長補佐級の職員)から本件
各会議の議事要旨の起案を命ぜられた新司法試験係所属の係員以下事(「
務取扱者」という)により,ミニディスクレコーダーを用いてミニデ。
ィスクに録音されていた。なお,この事務取扱者は,新司法試験係の特
定の職員というように固定されているわけではなく,司法試験委員会の
会議ごとに,職務の繁忙の度合いや他の職務との調整等により変更され
ることがあった。
司法試験委員会が会議を開催し,司法試験法12条2項2号(法務大
臣からの諮問事項)及び3号(法務大臣への意見具申事項)に掲げる事
項について審議したときは,議事録を作成し(顕名による,原則として
逐語体のもの,これを公開するが,その他の案件については,議事要)
旨を作成し,これを公開する(司法試験委員会議事細則5条2項。本)
件各会議の案件は,いずれも司法試験法12条2項1号・4号に該当す
る案件であるから,本件各会議の議事については,議事要旨が作成・公
開される。議事要旨は,顕名による逐語的な記録の必要がないため,議
事要旨の作成に当たっては,当初から発言者の名前を明示せず,発言に
ついても逐語的に記録するのではなく,その要旨のみを記載する方法に
より作成される。このため,本件各会議の内容を録音することは必要不
可欠ではなく,その録音を義務付ける規定もない。事務取扱者は,議事
要旨の起案に備え,委員の発言及び議事進行の流れ等を筆記して自らの
手控えを作成していた。ただし,事務取扱者は,その筆記した手控えの
補充として,必要に応じ,委員の発言等の必要部分を官用のミニディス
クレコーダーを用いてミニディスクに録音していた。そして,事務取扱
,,,,者は筆記した手控えを基に委員の発言内容等を確認し必要に応じ
ミニディスクを再生して筆記した手控えの不足を補い,議事要旨を起案
していた。
以上のとおり,本件各会議の内容の録音は,議事要旨を起案するため
の事務取扱者の個人的な手控えの一つにすぎず,その録音目的は,当該
事務取扱者個人の便宜のためにのみなされていたものである。
なお,原告の指摘する第11回会議の議事要旨は,第12回会議での
決定を待って作成されたものではない。第11回会議の翌日である平成
16年10月8日,司法試験委員会で新旧司法試験合格者数に関する法
務省素案が提出されたかのような誤った報道が行われたため,その直後
から,司法試験委員会内部や事務局内部において,司法試験委員会会議
の議事のうち「併行実施期間中の現行司法試験と新司法試験合格者数,
に関する方針」については,議事の経過が分かるやや詳細な議事要旨を
作成して公表した方がよいのではないか,次回委員会でその点を明確に
決定すべきではないかとの検討が行われた。そのため,事務取扱者は,
上記議事については,詳細な議事要旨を作成して公表することになるこ
とが当然予測できた。また,詳細な議事要旨が作成されるのは,第11
回会議が初めてではなく,第9回会議(平成16年8月2日開催)にお
いて,新司法試験の問題について検討を行っていた新司法試験問題検討
会の委員から,各科目の検討状況について報告が行われた際には,国民
や法科大学院関係者の関心が高いことから,委員の発言内容につき,や
や詳細な議事要旨が公表されたことがあった。これらの事情の下,事務
取扱者は,第11回会議の終了直後から,詳細な議事要旨の作成を求め
られた場合であっても,それに対応できるように詳細な議事要旨の起案
に着手した。したがって,第12回会議における委員会決定前に,事務
取扱者は,第11回会議の詳細な議事要旨の起案を終えていた。
録音状況(イ)
本件各会議において,録音することにつき,司法試験委員会による許
可や出席者の承認を得る手続は執られていない。司法試験委員会の出席
者は,会議の議事要旨が作成されることを認識しているので,事務取扱
者が専ら自己の職務の遂行の便宜のために会議の内容を筆記や録音の方
法で記録することを事実上黙認しているが,当該録音物を組織的に用い
ることについてまで許可ないし承認しているのではない。
また,議事要旨の起案という職務命令には,会議の内容を録音するこ
とは含まれておらず,会議の録音を行うか否かは,事務取扱者の裁量判
断である。したがって,録音状況や録音の質について,格別の配慮は行
われておらず,各発言者の発言を正確に集音・録音できているかどうか
について,機械的・技術的に担保されていない。
このように,本件各会議のミニディスクへの録音は,事務取扱者の判
断でなされたものであって,司法試験委員会の意思や,議事要旨の作成
という職務上の命令に基づいて行われたものではない。
録音体の利用状況(ウ)
議事要旨の作成は,事務取扱者が議事要旨を作成した後,その直接の
上司である補佐官,人事課付,人事課長の順で,各自が個人的に筆記し
て作成した手控えを参照しながら,議事要旨を確認し,修正を加える。
その上で,議事要旨は,本件各会議に出席した各委員に配付され,各委
。,,員もその記載内容を確認するこの際委員の修正意見があったときは
他の箇所と齟齬しないかなどについて,再び人事課の事務取扱者,補佐
官,課付及び課長が確認を行った上で,その修正意見を反映した議事要
旨が作成される。
こうして作成された議事要旨の決裁は,事務取扱者が,決裁のための
,,,,頭書を当該議事要旨に付して決裁文書とし人事課係員係長補佐官
総括補佐官,試験管理官,人事課付及び人事課長の順で決裁を了する。
この最終の決裁段階においては,字句の誤り等の形式的な修正がなされ
ることはあるが,通常,内容の変更に係る修正等はなされない。
上記の議事要旨の作成及び決裁過程において,人事課長,人事課付,
各委員等が,事務取扱者が会議内容を録音したミニディスクを受領する
。,,ことはない補佐官人事課付又は人事課長等の決裁を了するまでの間
議事要旨の内容について事務取扱者と補佐官等の間に意見の違いが生じ
た場合には,お互いの手控えメモに基づいて協議したり,発言者に直接
,,確認するなどすれば足り録音物を再生して確認する必要は生じないし
実際に確認することもない。担当職員の急病などの緊急事態が生じた場
合,別の職員が職務を代行し,担当職員の個人用メモを利用する事態は
想定し得るが,その際,個人用メモを使用し得るか否かは,個人間の信
頼関係に基づき,担当職員が使用を許諾するか否かによるのであり,当
該メモを組織的に用いられるものとして保有しているからではない。
以上のとおり,事務取扱者以外の者は,会議内容を録音したミニディ
スクを再生して会議の発言内容を確認することはなく,当該ミニディス
クを再生して利用するのは,当該録音を行った事務取扱者のみである。
録音体の管理状況(エ)
本件各会議の内容を録音したミニディスクは,人事課長等他の議事要
旨の作成に携わる者に配付ないし貸与されることはない。
また,事務取扱者が議事要旨を起案した時点でその録音内容は用済み
となるため,事務取扱者は,議事要旨を起案し終えた後,通常,自らの
判断により,当該ミニディスクに録音された内容を消去する。
さらに,このミニディスクは,特に司法試験委員会会議の録音専用の
ものとして備え付けられているものではなく,他の会議の記録を作成す
るなど,必要に応じて他の用途の録音にも使用されるものであり,本件
各会議の内容を消去した後は,他の会議等の録音にも使用される。
イ物理的に不存在であること
,,(),,本件文書①③⑤及び⑦本件録音物の一部並びに本件文書②④
⑥,⑧,⑫及び⑬(以下「本件発言者名記録文書」という)は,物理的。
に不存在であって,情報公開法2条2項中の「行政機関が保有するもの」
に該当しないので,いずれも同法の「行政文書」に該当しない。
本件文書①,③,⑤及び⑦について(ア)
原告は,本件文書①,③,⑤及び⑦として,第11回ないし第14回
司法試験委員会会議の内容が録音されたものの開示を求めている。
しかしながら,確かに上記各会議の内容の必要部分が議事要旨の事務
取扱者により録音されたものの,その録音内容は,事務取扱者により上
記各会議の議事要旨が起案され,事務取扱者が当該ミニディスクを再生
して上記各会議の内容を筆記した手控えを補充する必要も消滅した時点
において,事務取扱者により消去されており,原告が本件文書①,③,
⑤及び⑦の開示請求をした日より前にいずれも消去されていた。
通常は,議事要旨起案作業に数日から1週間程度を要し,業務が繁忙
の場合,2週間程度を要する場合がある。本件各会議について事務取扱
者が議事要旨を起案し終えた時期は,第11回会議が平成16年10月
中旬ころ,第12回会議が同年11月中旬ころ,第13回会議が同年1
2月上旬ころ,第14回会議が同年12月中旬ころである。
したがって,本件文書①,③,⑤及び⑦は,いずれも,それらの開示
請求がされた時点で既に物理的に存在していなかった。
本件録音物は,そもそも行政文書として組織的に用いるものとして利
用・保存されているものではないから,これらに対する開示請求があっ
たとしても,行政文書として存在しないことは明らかであり,不存在を
理由とする不開示決定をすれば足りるのであって,不開示決定をするに
当たり,あえて,事務取扱者が個人的に利用・保有している録音物の物
理的存在について確認する必要はない。平成16年12月15日に,原
告からの電話に対応した職員が,本件文書①を消去済みである旨回答し
たのは,同文書が既に10月中旬に消去済みであることを事務取扱者か
ら聞くなどして知っていたからであり,本件文書③の物理的存在につい
て不明である旨回答したのは,既に事務取扱者による議事要旨が起案済
みであったことから,おそらく消去済みであろうと推測したものの,録
音物を消去した正確な時期が不明であったところから,回答が不明確に
なるのを避けたものである。また,当該職員は,同年12月24日,再
び原告からの電話で,原告から本件文書③,⑤及び⑦の物理的存在につ
,,いて確認され行政文書ではないので把握していない旨回答したところ
さらに原告から物理的存否についての回答を求められたので,実際に録
音物を保有していた事務取扱者に確認した上でなければ明確な回答はで
,,,きないと考えたが事務取扱者が休暇を取得していたため原告に対し
物理的存在については確認できない旨回答し,後日回答することを約し
た。そして,当該職員は,事務取扱者が休暇を終えて出勤した同年12
月27日,事務取扱者から本件文書③,⑤及び⑦を消去した時期等を聴
取し,原告に対し,開示請求時点でこれらの文書が既に消去されていた
旨を連絡したものである。
なお,第15回ないし第17回司法試験委員会会議の内容を録音した
ミニディスク(本件文書⑨ないし⑪)については,原告から開示請求が
なされたことから,その録音内容の消去を見合わせている。
本件発言者名記録文書について(イ)
原告は,本件発言者名記録文書として,第11回ないし第16回司法
試験委員会会議に関する発言者名の分かる議事を記録した文書の開示を
求めている。
しかしながら,上記各会議は,いずれも司法試験法12条2項1号・
4号に掲げる事項について審議されたものであり,顕名による議事録の
作成は義務付けられていないため,司法試験委員会は,上記各会議につ
いて,顕名による逐語体の議事録を作成していない。
発言者に発言内容を確認するに当たっても,顕名による議事要旨は作
成していない。そのため,各発言者は,議事要旨の中から委員自身の発
言を確認しなければならないが,司法試験委員が7名しかいないという
こともあり,各自の発言については,容易に確認されている。
,,。したがって本件発言者名記録文書はそもそも物理的に存在しない
ウ情報公開法5条1号本文に該当すること
本件文書⑨ないし⑪は,司法試験委員会の会議中に生じた音を録音した
ミニディスクであって,司法試験委員や事務局職員の発言が音声として記
。,,,録されたものであるしたがってその全体が個人に関する情報であり
かつ,音声や発言内容等により特定の個人を識別することができるもので
あるから,情報公開法5条1号本文に該当する。
なお,情報公開法5条1号ハは,公務員の氏名等の個人識別情報と公務
員の職名及び職務遂行の内容とを区別しており,前者については,同号イ
に該当しない限り,同号本文により不開示とするものである。このことか
らすると,公務員の職名及び職務遂行の内容と個人識別情報とが一体とな
って不可分の状態である場合には,同号ハには該当しないというべきであ
る。本件の司法試験委員会会議における委員及び事務局職員の音声や発言
内容は,その職務内容になっているとはいっても,声や口調などから氏名
等が明らかとなるものであって個人識別情報とは不可分一体となっている
から,同号ハには該当しないというべきである。
エ情報公開法5条5号に該当すること
本件文書⑨ないし⑪に記録されている情報を公にすることにより,率直
な意見の交換及び意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり,情
報公開法5条5号に該当する。
国の機関の内部における審議,検討又は協議に関する情報が記録され(ア)
ていること
司法試験委員会は,司法試験を行うこと,法務大臣の諮問に応じ,司
法試験の実施に関する重要事項について調査審議し,法務大臣に意見を
述べること等を所掌事務として,司法試験法及び司法試験委員会令に基
づき,法務省に設けられた委員会である。したがって,本件文書⑨ない
し⑪中に記録されている内容は「国の機関の内部における審議,検討,
又は協議に関する情報」に該当する。
自由かつ活発な議論の必要性(イ)
本件文書⑨ないし⑪に係る司法試験委員会において審議された具体的
な内容について見ると,法科大学院の在り方,新司法試験の在り方,旧
司法試験と新司法試験との関係,今後の司法試験における合格者数の見
込み及びその公表など,司法試験制度の中核にかかわる重要な議題を取
り扱っており,これらの議題に関する議論は,今後の法曹制度の在り方
にも影響を与えるものである。そして,よって立つ考え方が異なること
から,各委員の意見が分かれる議題も多数見られる。司法試験制度の変
革期にある現在,これらの議題については,旧司法試験制度の下での受
験生,新司法試験制度の下での受験が予想される法科大学院生,各法科
大学院はもちろんのこと,裁判所,検察庁,弁護士会といった関係各機
関,法曹有資格者,一般の大学,経済団体など数多くの利害関係者が存
在し,司法試験制度の在り方次第では,深刻な利害の衝突を生じ得る状
況にある。新旧司法試験の併行実施期間中の合格者数については,第1
7回司法試験委員会において,平成18年及び平成19年の合格者数に
関して一定の目安が示されたものの,平成20年以降の合格者数に関し
ては,今後の法科大学院における教育の実績,受験者の動向等を見定め
ながら,更に検討することが適切であるとされたところであり,司法試
験委員会において,引き続き,従前の議論を踏まえながら協議が行われ
る予定である。
また,司法試験委員会においては,問題の作成に関する相当具体的な
事項についても,適宜,話題に差しはさみつつ議論がされており,司法
試験委員会の議論をそのまま明らかにした場合,将来の司法試験の出題
傾向や成績判定の在り方・方向性など,司法試験の秘密にわたる事項を
推測し得る情報が明らかになるおそれもある。
司法試験委員会の各委員は,それぞれの専門的知識や経験に基づき,
にわかに着想を得た意見,直観に基づく意見も含めて自由かつ活発に意
見を述べ合い,多角的な検討を行うことが期待されている。そして,社
会的な関心が高い議題を取り扱うに当たり,幅広い国民の支持を得られ
る方向性を見出していくためには,各委員が,その所属する機関・団体
等の意見・利益に固執することなく,また,司法試験委員会での意見と
他の機会で表明する自説等との一貫性等を問題とされたり,外部から不
当な圧力を加えられることなどを懸念するあまり,発言をためらったり
することなく,また,必要があれば,秘密にわたる事項についても,適
宜,議論をしながら,有識者等として自由かつ活発に意見を交換し,議
論の動向等に応じ,発言の訂正・修正・変更はもちろん,撤回も柔軟に
行い,場合によっては,妥協して合意を形成し,あるいは自論ではない
考え方を採用した上,そのような合意・考え方を前提として,次の議論
へ進むことも必要となる。
自由かつ活発な議論確保のための方策(ウ)
司法試験委員会の運営に当たり,可能な限り,会議又は議事内容の公
開に努め,透明性を確保する必要があることは軽視できないが,司法試
験委員会においては,各委員が自由かつ活発な意見交換をし得る状況を
確保するために,会議を非公開とし,議事録又は議事要旨を公開するに
とどめている。
率直な意見の交換及び意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ(エ)
本件文書⑨ないし⑪を開示するときは,議事要旨に記載されていない
発言者名が音声等により特定され,発言の語気・語調,発言に対する会
議の場の反応,言い間違いまで含めたすべてが公にされ,秘密にわたる
事項が明らかになるといった事態を招くこととなり,ひいては,会議に
おける自由かつ活発な議論を損ない,率直な意見の交換及び意思決定の
中立性が不当に損なわれるおそれが大きい。
すなわち,司法試験委員会における審議は,非公開とすることが前提
とされているが,これが公開されることになれば,各委員は,司法試験
委員会における発言について,各方面からの批判等がされることを前提
とした議論をせざるを得ない。そうなれば,発言内容はもとより,用い
,,,る言葉語気・語調等にも常に慎重にならざるを得ず各委員の発言は
消極的かつ低調なものとなり,自由かつ活発な意見交換を期待すること
は困難になる。特に,発言者名を公表することは,各委員ごと,又は利
害関係者ごとに意見が対立する議題について,正に各委員の信条や理念
をも明らかにすることにほかならず,本件文書⑨ないし⑪が開示されれ
ば,各委員を名指しして非難する等の圧力を加えることにより,今後の
議論の方向に不当な影響を与えようとする動きが生ずることが懸念され
るし,各委員が,今後の会議において,自由に発言することを自制ない
し躊躇するおそれも認められる。
本件文書⑨ないし⑪に係る会議において議論の主題となっていた新旧
司法試験の合格者数問題については,平成16年10月8日の新聞報道
を皮切りに,連日のように紙面をにぎわしたほか,法務省に対しても,
新旧司法試験の合格者数に関する多数の問い合わせや要望が寄せられ,
司法試験委員会に対しても各種の要望書が提出され,衆参両議院の本会
議,予算委員会,法務委員会,質問主意書のいずれにおいても,この問
題が取り上げられて質疑が行われるなど,法務省(司法試験委員会を含
。)。,むの想定の枠を超えた国民的な議論となっていたこのような報道
要望書の提出状況,国会における審議状況からすると,司法試験委員会
における発言者名とその発言内容を明らかにするならば,各司法試験委
員に対する個人攻撃が行われることが,単なる抽象的なおそれにとどま
らず,現実的な危険性のあることは明らかである。
なお,司法試験委員会の審議の場においても「併行実施期間中の現,
行司法試験及び新司法試験の合格者数について」の議事要旨の公表につ
いては,審議の透明性確保の観点から発言者名を明らかにすべきではな
いかとの点につき,何回か協議がなされたことがある。その際,各委員
から,仮に発言者名が明らかにされるのであれば発言を控えたいとの意
見,出身団体や関連団体からのプレッシャーが相当強く,自由に発言す
るためには発言者名は明示すべきでないとの意見,また,ある別の審議
会で発言者名が公表された際,相当量の郵便物が送り付けられて本来業
務に支障が出たなどの経験談が紹介され,協議の結果,発言者名を明ら
かにしない詳細な議事要旨を公表することとされた。
公開することの必要性(オ)
司法試験委員会における議論の内容は,議事要旨又は議事録を公表す
ることにより明らかにされている。そこには,各委員が有する見解やこ
れらの見解の対立点,さらには,各委員間における合意又は妥協に至る
経緯等も記載されているのであるから,国民に対する説明責任の観点か
らも,会議の透明性の観点からも,必要かつ十分な情報が提供されてい
るということができ,原告が重視すると思われる新旧司法試験の合格者
数に関する議論についても同様である。
そして,議事要旨又は議事録による公表内容を超えて,会議でされた
生の発言内容,発言者名等を公表すれば,前記のとおり,様々な弊害(エ)
を生じることが容易に予想される反面,公表に伴う利益は存在せず,公
表する必要性は認められないというべきである。
オ情報公開法5条6号に該当すること
本件文書⑨ないし⑪に記録されている情報を公にすることにより,司法
試験委員会の所掌事務である司法試験の実施という事務の適正な遂行に支
障を及ぼすおそれがあり,情報公開法5条6号に該当する。
国の機関が行う事務又は事業に関する情報に該当すること(ア)
司法試験委員会は,前記エのとおり,司法試験を行うこと等を所掌(ア)
事務として,司法試験法及び司法試験委員会令に基づき,法務省に設け
られた委員会である。したがって,本件文書⑨ないし⑪中に記録されて
,「」。いる内容は国の機関が行う事務又は事業に関する情報に該当する
事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ(イ)
司法試験委員会においては,司法試験の実施に直結する具体的な事項
について,自由かつ活発な議論が行われる必要がある。司法試験委員会
での議題については,社会的関心も高い上,各委員の意見が対立するこ
とも多く,利害関係も複雑であるが,このような委員会において,各委
員が,専門的知見に基づいて議論を行い,的確な合意・妥協に至るため
には,外部からの圧力,非難等のおそれを感じさせずに議論できる状況
を確保する必要がある。
また,司法試験委員会においては,司法試験の実施に関する詳細な事
項,試験問題の作成に関する相当具体的な事項についても,適宜,話題
に差しはさみつつ議論がされており,司法試験委員会の議論をそのまま
明らかにした場合,将来の司法試験の出題傾向や成績判定の在り方・方
,,,向性など司法試験の秘密にわたる事項が推測可能となりそうなれば
司法試験の適正な遂行に支障を及ぼすおそれは大きい。
そのため,司法試験委員会では,上記のような自由かつ活発な議論が
できる状況を確保し,司法試験に関する秘密を保持しつつ,他方で司法
試験委員会の会議内容を公表する必要性も否定できないことから,議事
要旨又は議事録を公開することとしているのである。
これに反して,本件文書⑨ないし⑪を開示すれば,前記エと同様,司
法試験委員会における自由かつ活発な意見交換を期待することは困難と
なり,また,司法試験の適正な実施を確保することは困難となる。この
ことは,多数の利害関係者の利益調整を図りつつ,長期的な展望に立っ
て今後の新旧司法試験の在り方を定め,これらの試験を適正に実施する
ことの妨げになることは明らかである。
原告の主張(2)
ア本件各文書の重要性及び開示の必要性
本件各会議においては,併行実施期間中の新旧司法試験合格者数に関す
る方針など,司法制度改革の中心課題の一つである将来の法曹養成につい
。,,て極めて重要な事項が議論されているそもそも司法試験の合格者数は
法曹人口と連動するため,司法制度の在り方,内容等の根幹にも繋がるも
のである。すなわち,国民にとっては,法曹人口が増えることは,司法制
度を利用する側として,多様なリーガルサービスへアクセスする可能性が
高まったり,提供されるサービスの質を比較できるという利益を得ること
ができる点で,その利害に直接関係するものである。そして,とりわけ新
司法試験の合格者数は,法科大学院を受験生の主たる給源とするため,受
験生にとっては,自らが合格できるのか,合格できなかった場合その後の
合格の機会はどの程度見込まれるのかという法曹としての出発点に直結す
る深刻な内容である。また,合格者数の目安及びどのような意図で合格者
数が決定されるのかは,次世代の青少年が法曹を目指すかどうかを決定す
るうえでも重要な要素となる。さらに,新司法試験の合格者数は,司法制
度改革の目指す法曹養成を担っている法科大学院にとっても,その教育の
方向性を決定するために意義を有する情報でもある。したがって,司法試
験の合格者数の議論はこのように社会的重要性を有しているのであり,国
民にとってその経過の詳細を知ることが必要であることは疑いない。
そして,国民が,このような重要な議論を正確に知るためには,各発言
者がどのような立場からいかなる発言をしたかを知る必要がある。すなわ
ち,司法試験委員は,法曹三者にとどまらず学識を有する公益委員から構
成されているが,これは,有識性に加え,開かれた法曹,国民のための法
曹といった観点を考慮しているからにほかならず,これらの委員が,いか
,,なる法曹養成が我が国にとって望ましいかを様々な利害を調整しながら
議論を経て決定しているのである。当該議論の内容を正確に理解するため
には,委員のどの立場の者がどの立場の者に対して発言をしたか,各委員
が自らの立場との関係でどのような発言をしているかなどを把握すること
が不可欠であり,各発言者の氏名は,開示されなければならない。
仮に,被告らの本件録音物が行政文書でない,不開示とされるべきとの
主張が肯定されるならば,我が国の将来の司法制度の方向性を決定するう
えで極めて重要な議論を記録した文書であるにもかかわらず,法務省内で
行政文書として現に保管され公開される文書は,発言者名の入らないホー
ムページ上で公表している議事要旨のみとなってしまい,政策形成や意思
形成過程に関する政府の説明責任は,発言者名が分からない文書すなわち
行政文書の匿名性のもとでのみ果たされることとなる。そして,司法試験
委員会の会議出席者や担当部署のごく一部の者のみが,その会議の内容と
発言者を知ることができ,発言者が誰であるかという情報を独占するとい
う状況が作り出されることとなる。しかし,時が経過し,司法試験委員会
の担当部署に所属する職員が異動し,委員会の構成メンバーも替わった場
合,発言と発言者との結びつきは絶たれてしまい,それを復元することは
容易ではない。将来司法試験制度の見直し等が思考され,過去の議論を検
証するため,議事要旨を検討した際に,発言と発言者との結びつきが分か
らないまま,匿名の行政文書で内容を検討することとなる。これでは,司
法制度という国の三権の一つに関する政策を,国民が将来再検討すること
に大いに支障が生ずることとなる。そして,行政機関自身が政策の再検討
をしようとしたときにも,発言者と発言内容が断絶した行政文書では,同
様の支障が当然に生ずるはずである。
以上により,発言者名の分かる本件録音物の行政文書性は当然に肯定さ
れ,これらがすべて開示される必要性がある。そして,その開示の結果,
,,「」被告らは国民に対し政府の有するその諸活動を国民に説明する責務
(情報公開法1条)すなわちアカウンタビリティを果たすこととなるので
ある。
イ本件録音物は組織共用文書であること
司法試験委員会の会議の録音は同委員会の許可又は承認があること(ア)
一般的に,本件各会議のような非公開の会議においては,出席者は,
事務局はもとより委員であっても,委員会の許しを何ら得ず,個人的に
又は任意に録音を行うことはできないものと解される。本件において事
,,務取扱者が会議の録音を行っていたのは事務局の職務上の義務として
議事要旨の作成が求められているため,その目的で会議を録音すること
を司法試験委員会が認めていたからにほかならない。
また,会議の録音に際して,録音機やそれに接続するマイク等が委員
の目に触れるところに置かれているのが通例であり,それが特に問題も
されずに録音がされているのは,その録音は議事要旨の作成のためにさ
れているとの了解が司法試験委員会にあるからにほかならない。
さらに,録音機の設置等により,委員会出席者全員の目に触れるよう
な形で,事務取扱者が録音をしているのであろうから,それは,司法試
験委員会の事務局が,事務取扱者に対して,職務上,議事要旨作成のた
め録音を許したとみるのが自然である。そうでなければ,仮に委員会の
委員が,事務取扱者による録音を見とがめた場合,事務局として説明が
つかなくなるであろう。
したがって,会議の録音を行うか否かが,あくまで事務取扱者の意思
にゆだねられているということはない。
利用目的,取得状況,利用状況からも組織共用文書といえること(イ)
司法試験委員会が録音を認めたのは,同委員会の議事の内容を正確に
保存するためであることは明らかであって,これが事務取扱者個人の便
宜のためにのみなされているとはいえない。したがってまた,会議の議
題に関わる部分は,職務上当然に録音すべき義務が生じ,その取捨選択
の裁量は著しく制限されているはずである。
また,本件録音物は,通常は,議事要旨の作成をする事務取扱者がそ
れを利用するとしても,担当職員に急病などの緊急事態が生じた場合に
は,別の者がその職務として当該録音を利用することが想定されるので
あるから,本件録音物は,司法試験委員会の事務局の誰もが利用し得る
という点において,司法試験委員会が組織的に同委員会の議事の内容を
正確に保存するためのものにほかならない。
,,「」さらに本件録音物は行政文書の管理方策に関するガイドライン
によれば,1年未満の期間保存する行政文書として,所定の手続をとら
ない廃棄が認められており,事務取扱者がその判断で廃棄しても何ら差
し支えない文書であるから,本件録音物の消去を事務取扱者が行ってい
ることを理由に,本件録音物の行政文書性が否定されることはない。
詳細で正確な議事要旨の作成には本件録音物が必要不可欠であること(ウ)
本件各会議の議事要旨は,結論のみではなく,委員の発言をそのまま
記載する形式の非常に詳細な議事要旨となっているのであって,仮に逐
語的に写し取ったのでないとしても,逐語的に写し取ったといっても遜
色ないほどに非常に詳細な内容となっている。このような内容は,仮に
事務取扱者が筆記で手控えをとっていたとしても,手控えですべて網羅
できるものとは到底考えられず,手控えの内容をはるかに超えるもので
あって,議事要旨が本件録音物に依存し,本件録音物の再生によって作
成されていることは間違いない。すなわち,本件録音物は「手控えの補
充」などではなく,議事要旨の大元になったものというべきである。
特に,第12回会議で,遡って第11回会議の議事要旨を詳細なもの
とすることを決定した関係で,第12回会議の時点では,第11回会議
の議事要旨はいまだ作成されておらず,法務省のホームページ上にも公
開されていなかった。会議の開催日をみると,第11回会議は平成16
年10月7日に,第12回会議は同年11月9日に開催されており,約
1か月の間隔が空いている。第11回会議の議事要旨のうち,法曹養成
検討会の議事概要を資料に基づいて報告した部分を除くその他の部分
は,発言内容をそのまま記載したと思われるような内容になっており,
これらの内容を,会議の内容を筆記した手控えをもとに,約1か月後に
詳細に再現することは不可能である。仮に,第11回会議の終了直後か
ら,詳細な議事要旨を求められた場合に備えて準備していたとしても,
議事録に近い極めて詳細な議事要旨が本件録音物の再生により作成され
たことに変わりはない。
ウ本件各文書は物理的に存在していること
本件文書①,③,⑤及び⑦について(ア)
司法試験委員会の事務取扱者の議事要旨作成については,会議の内容
。,を正確に伝えるということが最も重要な点のはずであるそのためには
少なくとも委員が議事要旨を確認するまでは議事の録音物を保存してい
,。る必要があり保存をしていなければ業務に支障が生ずる可能性がある
すなわち,事務取扱者の起案した議事要旨の内容について委員が発言内
容の確認を行う場合に,委員が発言したと考えていた内容と議事要旨の
案が齟齬する場合,委員から議事要旨の案について聞き合わせがあるこ
とも考えられ,また,委員が案とは異なる修正をした場合に,実際の会
議の内容の確認をする必要性が生ずる可能性もあり得る。したがって,
少なくとも議事要旨の確認作業を終えた時期,すなわち,被告らの主張
によっても,本件文書①は平成16年11月26日ころ,本件文書③は
,,同年12月22日ころ本件文書⑤及び⑦は同年12月27日ころまで
物理的に存在していたと考えざるを得ない。これらの日は,いずれも原
告の開示請求日より後である。
また,原告と法務省司法試験係との具体的なやり取りをみても,本件
録音物の廃棄がされているとは考えられない。すなわち,原告は,平成
16年11月22日,第11回及び第12回会議の録音物(本件文書①
及び③)の開示請求をしているが,同開示請求について原告が司法試験
係から,職員のメモであり情報公開請求の対象文書とならない旨の連絡
を電話で受けたのは,同年12月15日である。この際,原告は,司法
,,試験係に対し録音物が物理的に存在しているか否かを確認したところ
司法試験係は,第11回会議の録音物(本件文書①)は物理的に存在し
ていないが,第12回会議の録音物(本件文書③)については不明であ
ると回答した。原告は,行政文書性を行政不服審査法及び行政事件訴訟
法で争うことが認められている以上,対象文書の存在を確認し,開示請
求受付以降は保全しておかなければならないはずである旨を告げ,同時
に,第13回及び第14回会議の録音物の開示請求書も郵送したことを
説明している。その後,原告は,同年12月24日,本件文書①ないし
④について不開示決定通知を受け取ったため,直ちに司法試験係に対し
電話をし,第12回会議の録音物(本件文書③)並びに第13回及び第
14回会議の録音物(本件文書⑤及び⑦)の物理的な存在を確認した。
しかし,この時点になっても,司法試験係は,本件文書③の物理的存在
を確認しておらず,既に開示請求書を受理した本件文書⑤及び⑦につい
ても物理的存在を確認していなかった。同年12月27日になって,司
法試験係は,原告に対し,いずれの録音物も開示請求日受付時点で既に
廃棄され存在していなかったと説明した。以上の経過から明らかなとお
り,司法試験係は,開示請求書を受け付けながら,その時点で録音物の
物理的存在を何ら確認しておらず,原告の要求を受けはじめて物理的存
在を確認しているのであって,これらの行為が情報公開制度の運用に違
反していることは明らかであり,受付日を相当期間過ぎた後での確認は
およそ信頼のおけるものではない。
また,被告らの主張する録音物の消去時期は,特に,本件文書③につ
いては,開示請求日である平成16年11月22日(会議開催日から1
3日後)に,本件文書⑦についても,開示請求日である同年12月17
(),,。日会議開催日から7日後にほとんど重なっており不自然である
これは,開示請求日に合わせて遡って消去の時期を主張しているとしか
思えない。
以上から,本件文書①,③,⑤及び⑦は物理的に存在していると考え
ざるを得ない。
本件発言者名記録文書について(イ)
本件各会議の開催から委員への議事要旨の配布までにかなりの期間が
かかっており,被告らの主張によれば1か月以上を要した場合もある。
また,委員全員が,議事要旨案を受領してすぐ確認するわけでもない。
,,,さらに委員の中には他の委員の発言を誤って自分の発言と勘違いし
。,,訂正してしまうこともあり得るしたがって会議の議事内容について
発言者名のない議事要旨案から,委員に自らの発言を特定させ発言内容
の確認を受けているとは思われず,司法試験委員会の事務局において,
議事要旨に発言者名を入れたものを作成し,各委員に送付し,確認を受
けていると考えざるを得ない。
仮に,委員に対して送付される議事要旨案に発言者名が入っていない
としても,ときに委員が自らの発言でないものを訂正してしまう誤りが
生じかねず,議事要旨が適切に作成されない可能性もあり得る。そのよ
うな場合,委員の訂正部分が,当該委員の発言部分であるか否かを対照
する必要性も生じ得る。また,被告らの主張によれば,事務取扱者が議
事要旨を起案した時点で録音物を消去しているというのであるから,録
音物を再生して確認する手立てすら残されていないこととなる。そのよ
うな事態になれば,行政の業務が停滞しかねないので,少なくとも事務
局サイドにおいて発言者名を入れた議事要旨が作成されていると考えざ
るを得ない。
また,前記アで述べた行政機関のアカウンタビリティの観点からも,
発言者名を入れた文書は当然に作成されているはずである。
よって,本件発言者名記録文書は物理的に存在している。
エ情報公開法5条1号イ及びハに該当すること
情報公開法5条1号ハは「職」に関する情報と「氏名」に関する情報,
とを切り離し「職」に関しては,個人情報でもあるが,アカウンタビリ,
ティを優先させて,例外なく開示することとしたものである。そして,公
務員の職務遂行に係る情報に含まれる当該公務員の氏名については,同号
イに該当する場合には開示される。
本件文書⑨ないし⑪に係る情報は,司法試験委員という「職」にある者
が,その職務遂行として行った会議の情報である。そして,当該情報に含
まれる発言者の音声から司法試験委員の氏名が明らかになるとしても,司
法試験委員の氏名は公表されており,司法試験委員の氏名を職名と別に不
開示とすべき事情は存在しない(情報公開法5条1号イの「慣行として公
にされ」ている情報に該当する。また,このことは議事要旨に氏名が記。)
載された会議出席者すべてについて当てはまる。
したがって,音声から発言者名が識別されるとしても,同情報が情報公
開法5条1号イ及びハに該当することは明らかであり,本件文書⑨ないし
⑪に係る情報が同号本文で不開示とされることはない。
オ情報公開法5条5号に該当しないこと
以下のとおり,本件文書⑨ないし⑪を開示することによって,率直な意
見の交換又は意思決定の中立性が「不当に」損なわれるおそれはない。
方針の最終決定があったこと(ア)
本件各文書に係る議論は,合格者数の最終決定を目的としたものでは
ない。合格者数の最終決定は当該年度における司法試験実施後に行われ
るものである。
本件各文書に係る司法試験委員会の議論は,併行実施期間中の新旧司
法試験合格者に関する方針を決定することを目的としているところ,同
方針は第17回会議で最終決定され,司法試験委員会の考え方として公
表されている。
したがって,合格者数の方針については,本件各文書に係る議論の中
で最終決定があったのである。また,最終決定という表現にこだわらず
とも,情報公開法5条5号の趣旨は,最終的な決定前の(決裁等の事案
処理手続が終了していない)事項に関する情報が開示され,意思決定が
損なわれないようにするところにあるが,司法試験委員会としての考え
方を国民に公表した以上,会議体としてその時点での意思決定は終了し
ており,これが事後的に損なわれることはあり得ないから,同号をもっ
て不開示とすることはできない。
将来の議論にも「不当な」影響を与えないこと(イ)
本件各文書に係る議事内容の詳細は既に議事要旨として公表されてお
り,本件録音物に含まれる情報は,声から識別される発言者名及び各発
言の語気・語調といった情報に限定される。
被告らが,発言者名とその発言内容が明らかになると各司法試験委員
に対する個人攻撃が行われる現実的な危険性があるとする根拠は,すべ
て国の公の機関に対する要望か,国会・新聞等公の場で行われた議論で
あって,何ら違法不当な個人への働きかけではなく,かかる状況をもっ
て,各司法試験委員の個人攻撃の現実的な危険性があるというには論理
の飛躍がある。
審議会の議事録を公開すると,委員に対し,外部の利害関係者からの
圧力が掛かるおそれがあるため,委員が自由闊達な発言をすることがで
きなくなり,率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれ
るおそれがあるというのは,従来,各機関が議事録の公開を拒んできた
最大の理由であったが,審議会の密室性を排除し議論を透明化すること
こそが重要なのであって,いやしくも審議会の委員としての就任を受諾
した者が,外部の圧力をおそれて自由な発言をしないなどとは,そのこ
と自体許されないことである。審議会の委員は,常に堂々と議論をすべ
きなのであり,それが無理だというためには,無理であるということ,
例えば,委員の現実の身の危険を防ぐには不開示しかないといった事情
が,具体的かつ詳細に説明されるのでなければならない。
しかしながら,最も議論に影響力があるといえる(最も働きかけを受
けやすい)司法試験委員会委員長の発言部分は,議事要旨において◎で
明示されており,当時,委員の現実の身の危険を防ぐには発言者名を伏
。,せるという手段しかないという事情があったとはおよそいえないまた
司法試験委員の数は委員長を除き6名と限られており,働きかけるべき
人は限定されているから,発言者名を示さないことにより,各委員に対
する働きかけを排除する効果は極めて少ないといえる。
なお,以上のことは,司法試験委員会自身の決定により,発言者の具
体的な氏名を公表しないことにした事実によって,何ら左右されるもの
ではない。
発言者名を知る必要があること(ウ)
本件各文書に係る議論は,被告らも認めるように,国会・マスコミで
大きく取り上げられたほか,個々の国民からも様々な意見が出され,司
法改革の方向性を決定する極めて重要な議論であった。
前記アでも述べたとおり,国民が,このような重要な議論を正確に知
るには,各発言者が,どのような立場からいかなる発言をしたかを知る
必要がある。誰がどのような発言をしたかが不明では,司法改革の議論
を正確に知ることは不可能となる。
すなわち,法曹三者という当事者や利害関係者の団体から選出される
委員で構成される司法試験委員会は,利害関係者間の様々な利害を調整
しながら司法改革を実現する場として,存在しているのである。
したがって,会議の発言者名が開示されないのでは,委員のどの立場
の者がどの立場の者に対して発言をし,これについて,他の立場の者は
どのように発言をしたのかも不明なままとなる。議論はその内容さえ分
かればよいというものではなく,発言者がいかなる立場に立ってどのよ
うな意見を述べるのかも,重要な要素とされるはずである。
また,各委員は,もちろん,公正中立な立場で意見を表明するのが建
前であるが,その所属する団体の意見・利益を熟知している関係上,そ
れを他の利害関係者の団体出身者の委員に説明するという側面があるこ
とも否定できないところである。国民にとって,会議の発言者名を知る
ことは,委員が特定の立場のいわば代表のような形で発言をしているの
か,又は特定の立場を超えた大局的な見地に立って発言を行っているの
かを正確に理解することができることになり,司法改革の実像をはじめ
て掌握し,その意見の形成・表明を行うことができることになる。
したがって,発言者名を知ることは,国民にとっては,司法改革がい
かなる立場の者の議論によってリードされ動いているのかを知るための
重要な手掛かりであるから,大きな関心事であり,知らされるべき重要
な情報である。
カ情報公開法5条6号に該当しないこと
被告らが情報公開法5条6号に該当すると主張する根拠は,同条5号に
おける主張と同じであって,前記オのとおり,事実に反し,誤りである。
よって,本件文書⑨ないし⑪の公開により,何らの法的保護に値する事務
事業の支障が生ずる蓋然性は存在しない。
したがって,本件文書⑨ないし⑪が,公開により,司法試験の実施とい
う事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれは存在しない。
3本件各文書の開示決定の義務付けの訴えに係る当事者の主張
被告らの主張(1)
本件各文書の開示決定の義務付けを求める原告の訴えは,行政事件訴訟法
,,3条6項2号に定められたいわゆる申請型の義務付けの訴えであるところ
当該訴えについては,同法37条の3第1項2号に定められた「当該法令に
基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場
合において,当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり,又は無効若
しくは不存在であること」との訴訟要件を満たす必要がある。そして,前記
2のとおり,本件各不開示決定が適法であって,取り消されるべきもので(1)
ない以上,原告の義務付けの訴えは,同号所定の訴訟要件を欠いていること
は明らかである。
したがって,本件各文書の開示決定の義務付けを求める原告の訴えは,い
ずれも不適法なものとして,却下されるべきである。
原告の主張(2)
本件訴訟のような申請型義務付け訴訟の拒否処分型においては「当該処,
分が取り消されるべきものであること」については,原告が,取り消し得べ
き瑕疵の存在のみを主張すれば足りる。取り消されるべきものであるか否か
の判断すなわち拒否処分の違法の存在は,本案勝訴要件であり,訴訟要件で
はない。
第3当裁判所の判断
1前記第2の1の事実のほか,証拠(各付記のもの)及び弁論の全趣旨によれ
ば,次の事実が認められる。
司法試験委員会について(1)
司法試験委員会は,司法試験法及び裁判所法の一部を改正する法律(平成
14年12月6日法律第138号(以下「平成14年改正法」という))。
1条の規定による改正後の司法試験法(平成16年1月1日施行)の定める
ところにより,国の行政機関に置かれる審議会等(国家行政組織法8条)と
して,法務省に設置された合議制の機関であり,司法試験を行うこと(司法
試験法12条2項1号,法務大臣の諮問に応じ,司法試験の実施に関する)
重要事項について調査審議すること(同項2号,司法試験の実施に関する)
重要事項に関し,法務大臣に意見を述べること(同項3号,その他法律に)
よりその権限に属させられた事項を処理すること(同項4号)をその所掌事
務とする。
,(),司法試験委員会は委員7人をもって組織され司法試験法13条1項
委員は,裁判官,検察官,弁護士及び学識経験を有する者のうちから,法務
大臣が任命する(同条2項。本件各会議開催時の司法試験委員会は,高等)
裁判所長官の経歴を有する弁護士1名(委員長,新聞社編集局次長1名,)
大学教授3名,検事正1名,弁護士1名の7名の委員で構成されていた。
司法試験委員会には,幹事を置くことができ(司法試験委員会令5条1
項,幹事は,関係行政機関の職員及び学識経験のある者のうちから,法務)
大臣が任命し(同条2項,委員会の所掌事務のうち司法試験法12条2項)
2号及び3号に掲げる事務について,委員を補佐する(同条3項。)
司法試験委員会の庶務は,法務省大臣官房人事課において処理する(司法
試験委員会令6条,法務省組織令15条6号。)
司法試験委員会の議事の手続その他委員会の運営に関し必要な事項は,司
法試験委員会令に定めるものを除き,委員長が委員会に諮って定めることと
されており(同令7条,司法試験委員会では,これを受けて,第1回会議)
平成16年1月20日開催において司法試験委員会議事細則以下議(),(「
事細則」という)が決定されている(甲9の1,2,乙1。議事細則に。)
は,司法試験委員会の会議は公開しないこと(議事細則5条1項,会議を)
開催したときは,議事要旨を作成し公開するものとし,ただし,司法試験法
12条2項2号及び3号に掲げる事項について審議したときは,議事録を作
成し公開するものとすること(同条2項,議事録又は議事要旨を公開する)
ことにより,試験の実施等に支障を及ぼすおそれがある場合又は当事者若し
くは第三者の権利,利益や公共の利益を害するおそれがある場合は,議事録
又は議事要旨の全部又は一部を公開しないことができること(同条3項,)
委員長が必要があると認めるとき又は会議において議決したときは,幹事及
びその他の者の出席を求め,その説明又は意見を聴くことができること(議
事細則4条)などが定められている。
司法試験法12条2項2号及び3号に掲げる事項(法務大臣からの諮問事
項及び法務大臣への意見具申事項)について審議したときに作成・公開され
る議事録は,例えば第9回会議(平成16年8月2日開催)の議題「新司法
試験選択科目の選定について」に係る議事録(乙4)や第18回会議(平成
17年3月17日開催)の議題「新司法試験における試験科目の範囲につい
」(),,てに係る議事録乙12のように顕名による逐語体のものが作成され
法務省のホームページに掲載されて公開されている。また,その他の事項に
ついて審議したときに作成・公開される議事要旨は,原則として議事の結果
等が簡潔に記載されるのみであるが(甲9の2,甲10等,例えば第9回)
会議,第12回会議及び第14回会議の議題「新司法試験問題検討会におけ
」(,,),る検討状況について等に係る議事要旨乙4甲11甲13のように
報告者の報告内容が詳細に記載されたものや,本件各会議(第14回会議を
除く)の議題「併行実施期間中の現行司法試験及び新司法試験合格者数に。
関する方針について」等に係る議事要旨(甲10ないし甲12,甲14,乙
2,甲37,乙5。なお,甲37と乙5はいずれも第17回会議の議事要旨
であり,同じものである)のように,発言者名は明らかにしないものの,。
委員長,委員,幹事及び事務局の区別を明らかにした上で,逐語体に近い詳
細な発言要旨が記載されたものもあり,こうして作成された議事要旨が法務
省のホームページに掲載されて公開されている。
司法試験の合格者数に関する従前の議論について(2)
司法制度改革審議会意見書(平成13年6月12日付け)において,①法
曹人口については,計画的にできるだけ早期に,年間3000人程度の新規
法曹の確保を目指す必要があり,具体的には,平成16年には合格者150
0人を達成することを目指し,さらに,法科大学院を含む新たな法曹養成制
度の整備の状況等を見定めながら,平成22年ころには新司法試験の合格者
数を年間3000人とすることを目指すべきであること,②法曹養成制度の
,「」,,改革については司法試験という点のみによる選抜ではなく法学教育
司法試験,司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制
度を新たに整備し,その中核を成すものとして,法科大学院を設置すべきで
あり,また,法科大学院の教育内容及び教育方法については,厳格な成績評
価及び修了認定が行われることを不可欠の前提とした上で,法科大学院の課
程を修了した者のうち相当程度(例えば約7∼8割)の者が新司法試験に合
格できるよう,充実した教育を行うべきであること,③新司法試験への移行
措置については,新司法試験は,平成17年度に予想される法科大学院の初
めての修了者を対象とする試験から実施することとすべきであり,新制度へ
の完全な切替えに至る移行措置として,旧司法試験の受験生に不当な不利益
を与えないよう,新司法試験実施後も5年間程度は,これと併行して旧司法
,(,)。試験を引き続き実施すべきであることなどが提言された甲10甲16
これを受けて,司法制度改革審議会意見に関する対処方針(平成13年6
月15日閣議決定(甲17)において,司法制度改革審議会意見を最大限)
に尊重して司法制度改革の実現に取り組み,速やかにこれを推進するための
所要の作業に着手することが決定され,司法制度改革推進計画(平成14年
3月19日閣議決定(甲18)において,①法曹人口の拡大として,司法)
試験の合格者の増加に直ちに着手することとし,法科大学院を含む新たな法
曹養成制度の整備の状況等を見定めながら,平成22年ころには司法試験の
合格者数を年間3000人程度とすることを目指すこと,②法科大学院につ
いては,司法制度改革審議会意見が制度設計に関して具体的に提言している
ところを踏まえ,学校教育法上の大学院としての法科大学院に関する制度を
,,設けることとし平成16年4月からの学生の受入れ開始が可能となるよう
所要の措置を講ずること,③司法試験については,法科大学院の教育内容を
踏まえた新たな司法試験を法科大学院の最初の修了者を対象とする試験から
実施することとし,ただし,新司法試験実施後も5年間程度は併行して旧司
法試験を引き続き実施することとして,所要の法案を提出するなど所要の措
置を講ずること,などが決定された。
その結果,平成14年改正法によって司法試験法等の改正が行われるとと
もに,法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律(平成14年
12月6日法律第139号(以下「連携法」という)が制定され,この)。
中で,①基本理念として,司法試験は,法科大学院課程における教育及び司
法修習生の修習との有機的連携の下に行われるべきものであることが明記さ
れ(司法試験法1条3項,連携法2条,②司法試験の実施については,平)
成18年から同23年までの間において,法科大学院課程を修了した者等に
受験資格が与えられる新司法試験を行うほか,旧司法試験(平成23年にお
いては,平成22年の第二次試験の筆記試験に合格した者に対する口述試験
に限る)も行うこととされた(平成14年改正法附則7条1項。。)
その後,司法制度改革推進本部法曹養成検討会第20回会合(平成15年
12月9日開催)において「司法試験に関する意見の整理」として,旧司,
法試験の年間合格者数は,当時の約1200名から平成16年度には約15
00名に増加するものと想定されているところ,今後の新規受験生が法科大
学院を経由して新司法試験を受験するようになることなどを考慮すれば,平
成18年度以降の旧司法試験の合格者数については,年間数百名程度とし,
毎年漸減させることとしても,現在の受験生に不当な不利益を与えることに
はならないものと考えられる,との取りまとめが行われ,座長から,この取
りまとめを司法試験委員会に引き継ぎたい旨,ただし,司法試験の実施主体
は司法試験委員会なので,この取りまとめが尊重されることを期待するが,
司法試験委員会における検討を拘束するものではない旨の発言があった(甲
10,甲19。)
さらに,司法制度改革推進本部顧問会議第17回会議(平成16年9月8
日開催)においても,新旧司法試験の併存期間の合格者数について議論がな
され,最終的な取りまとめとして,法科大学院が基幹的な高度専門教育機関
であるとの趣旨に照らし,その成長発展を促すとの国の方針にのっとり,関
連諸制度の運用が図られるべきであり,特に,平成18年から始まる新司法
試験の実施の在り方もこのような観点から検討されるべきである,との要望
が述べられた(甲10。)
司法試験委員会における議論の経緯について(3)
以上のような従前の議論を踏まえ,司法試験委員会においては,第11回
から第17回までの本件各会議(第14回会議を除く)において,併行実。
施期間中の新旧司法試験の合格者数に関する方針が検討された。
第11回会議(平成16年10月7日開催)では,まず,幹事代表から,
前述のような司法制度改革審議会意見書以来の経緯の説明と,幹事会合にお
ける検討結果の報告があり,その後,委員から幹事に対する質疑等が行われ
た(甲10。)
第11回会議の翌日の新聞で,初年度の新旧司法試験の合格者数を各80
0人の計1600人とし,法科大学院1期生の合格率を34%とするなどの
「政府素案」が司法試験委員会に示されたことが報じられ(乙3,これを)
きっかけとして,その後,法科大学院生,法科大学院,弁護士会等からの司
法試験委員会に対する問い合わせや要望書等の提出が相次ぎ,また,新聞各
紙もこれら各方面からの意見等に関する記事を掲載したほか,国会の質疑等
でもこの問題が繰り返し取り上げられた(乙6ないし乙10。これら各方)
面からの意見等の論調は,司法制度改革審議会意見書の中で,法科大学院の
「」,教育目標として約7∼8割の合格率という数値が示されたことを受けて
法科大学院修了者の新司法試験合格者数を「政府素案」よりも引き上げるべ
きであるとするものが多かったが,他方で,旧司法試験受験者に対しても公
平な配慮をすべきであるとの意見も見られた(乙6ないし乙9。)
第12回会議(平成16年11月9日開催)では,併行実施期間中の新旧
司法試験の合格者数については,上記のとおり社会的に注目を集めているこ
とを踏まえ,かつ,第11回会議翌日の「政府素案」に関する新聞報道が不
正確であったとの認識の下で,報道対応及び議事の公開についての審議が行
われ,審議の結果,第11回及び第12回会議における議事の内容について
は,議事の経過が分かるやや詳細な議事要旨を作成して公開することとされ
た(甲11。その後,第11回会議の議事要旨は平成16年11月30日)
ころ,第12回会議の議事要旨は同年12月28日ころ,それぞれ法務省の
ホームページに掲載された。
第13回会議(平成16年11月26日開催)では,各委員から法科大学
院を見学しての感想が述べられた後,合格者数の問題について自由に議論が
行われ,司法試験委員会としては,新しい法曹養成制度,法科大学院を育て
ていく方向で,司法制度改革審議会意見書等を尊重して議論を進めていくと
いうことで概ね意見の一致が見られた。また,新聞報道されたような新旧司
法試験の合格者数を同数に扱うということには問題があり,新司法試験の合
格者の方を多くするべきであるとの意見が大勢であった。しかしながら,合
格者数問題については不確定な要素が多いので,現段階においてきちっとし
た数字まで決めることができるのか,併行実施期間中の全期間にわたって定
めることができるのか,数字の示し方は一定範囲の幅のある数字で示さざる
を得ないのではないか,などの議論も行われた。さらに,協議の結果,平成
17年1月18日にヒアリングを行うこと,ヒアリングは報道関係者に公開
すること,ヒアリングの内容について法務省ホームページに顕名で掲載する
ことが決定された(以上,甲12。第14回会議(平成16年12月10)
日開催)では,併行実施期間中の新旧司法試験の合格者数に関する方針は議
題とされず(甲13,第13回及び第14回会議の議事要旨は,いずれも)
平成17年1月17日ころ,法務省のホームページに掲載された。上記のヒ
アリングは,上記の決定のとおり,法科大学院関係者等を対象として行われ
た。
第15回会議(平成17年1月20日開催,第16回会議(同年2月1)
日開催)及び第17回会議(同年2月28日開催)では,合格者数の見通し
を示すべき期間及び示すべき合格者数等について具体的な議論が行われた
(甲14,乙2,甲37,乙5。その結果,第17回会議において「併),
行実施期間中の新旧司法試験合格者数について」と題する文書が司法試験委
員会の総意として取りまとめられ,平成17年2月28日付けで公表された
(甲37,甲43,乙5。この中では,①「合格者数についての基本的な)
考え方」として,併行実施期間中の新旧それぞれの司法試験を受験しようと
する者に対し,自らの進路を選択する上での手掛かりとすることができるよ
う,各試験における合格者について一応の目安となる概括的な数値(概数)
を示しておく必要があり,また,各年において併存する新旧司法試験の合否
判定が別個に行われることになるため,司法試験委員会が各試験における合
格者の概数を示しておくことは,新旧司法試験を円滑に実施するための指針
ともなり得ること,②「対象期間」として,現時点では法科大学院の教育成
果を確認できる十分な客観的資料を得るまでには至っていないことから,新
司法試験の合格者については,とりあえず平成18年及び同19年の2年間
についての概数を示すに止めることとし,同20年以降については,今後の
法科大学院における教育の実績,受験者の動向等を見定めながら,更に検討
することが適切であり,他方,旧司法試験の合格者数については,同試験の
併行実施が新制度への切替えに至る移行措置として位置付けられていること
から併行実施期間全般にわたる一応の方向性を示すこととすること③平,,「
成18年と同19年における合格者数」として,新司法試験については,法
科大学院への誘導効果や法科大学院制度を社会的に定着させることの重要性
を特に勘案して,平成18年の合格者の概数は,900人ないし1100人
程度を一応の目安とするのが適当であり,同19年は,受験者数の激増が予
想されることに配慮して,同18年の合格者についての上記概数の2倍程度
の人数を一応の目安とするのが適当であり,旧司法試験については,法曹養
成検討会における意見の整理を尊重して,平成18年は500人ないし60
0人程度を,同19年は300人程度をそれぞれ一応の目安とするのが適当
であり,さらに,旧司法試験が新制度導入に伴う移行措置として実施される
ことを考慮すれば,同20年以降の合格者数は,同19年の合格者数から更
に減少させたとしても,受験者に不当な不利益を与えるものではないこと,
などが示されている(甲43。なお,第17回会議の審議の冒頭,議事内)
容の公開について,委員から,発言者名を明らかにしない議事要旨を公開す
るだけでは審議の透明性確保の観点からは不十分ではないかとの問題提起が
なされ,公開する議事要旨において発言者名を明らかにするかどうかの点に
ついて改めて協議がなされた結果,従来どおり,発言者名を明らかにしない
詳細な議事要旨を公開することが確認された(甲37,乙5。)
2本件各不開示決定の取消請求について
本件録音物の組織共用文書該当性について(1)
「」,,ア情報公開法において行政文書とは行政機関の職員が職務上作成し
又は取得した文書,図画及び電磁的記録であって,当該行政機関の職員が
組織的に用いるものとして,当該行政機関が保有しているものをいう(同
法2条2項本文。)
「組織的に用いる」とは,作成又は取得に関与した職員個人の段階のも
のではなく,組織としての共用文書の実質を備えた状態,すなわち,当該
行政機関の組織において,業務上必要なものとして,利用又は保存されて
いる状態のものを意味すると解され「組織的に用いる」ものといえるか,
どうかは,当該文書等の作成又は取得の状況,利用の状況,保存又は廃棄
の状況等を総合的に考慮して実質的に判断すべきものである。
イ被告らの主張によれば,本件録音物は,本件各会議の議事内容を録音し
たミニディスクであり,司法試験委員会の庶務を担当する法務省大臣官房
人事課において本件各会議の議事要旨の起案を命ぜられた事務取扱者が,
議事要旨の作成の用に供するために,本件各会議に出席して録音したもの
であることが認められる(なお,原告の開示請求において本件文書①及び
③は「テープ」と特定されているが,これは録音テープに準ずるミニディ
スク等の電磁的記録を含む趣旨と解され,この点は被告らも特に争ってい
ない。。)
そして,ミニディスクとしての性質上,本件録音物には,本件各会議に
おける委員等の発言の音声,語気・語調など,本件各会議の場で生じたあ
らゆる音の様子が,集音できる限りの機械的な忠実さでそのまま記録され
ていることが推認される。
ウ前記のとおり,司法試験委員会においては,議事細則の定めにより,会
議そのものは公開せず,議事録又は議事要旨の形で議事の内容を公開する
こととされている。これは,司法試験委員会が,司法試験の実施機関であ
り,また,司法試験の実施に関する重要事項に関し,法務大臣の諮問に応
じて調査審議し,及び法務大臣に意見を述べること等を任務とする機関で
あることから,会議の内容をできる限り公開することの重要性に配慮しつ
つも,司法試験の出題内容や成績判定の基準など,司法試験の秘密にわた
る事項が公になることにより,司法試験の円滑かつ適正な実施が妨げられ
ることのないようにするとともに,会議の場における発言の正確さや措辞
の適切さを気にする余り,各委員の発言が消極・低調に流れてしまうこと
を防止し,議論が自由かつ活発に行われるようにすることによって,司法
試験委員会の意思決定を適正なものにするために,上記のような議事内容
の公開方法をとっているものと解される。
そうすると,司法試験委員会の会議の様子が録音され,その録音された
内容が公になるとするならば,上記のように会議を非公開とし,議事録又
は議事要旨の形でのみ議事内容を公開することとした趣旨に反することは
明らかであるから,司法試験委員会の許可なく会議の内容を録音すること
は,同委員会によって禁止されていると解するのが相当である。したがっ
て,被告らの主張によっても,司法試験委員会の会議に出席した事務取扱
者がミニディスクレコーダーを用いて会議の内容をミニディスクに録音す
ることを各委員を含む会議の出席者が黙認していたことが認められるとこ
ろ,これは,司法試験委員会が,事務取扱者による録音を許可していたこ
とにほかならない。そして,司法試験委員会が,事務取扱者による会議の
録音を許可したのは,同委員会が,議事録又は議事要旨の内容の正確性を
期すために,議事内容を録音しておくことの必要性を認め,録音された内
容がみだりに他に漏れて会議非公開の趣旨を損なうことのないように録音
物の適正な管理が行われることを前提として,庶務担当の人事課職員に対
し,会議の録音を許可したものと解される。
この場合の「録音物の適正な管理」については,事務取扱者個人の守秘
義務(国家公務員法100条)等に基づく管理によっても相当程度は他へ
の漏洩を防止することが可能であるが,庁舎外への持ち出し等の際の紛失
等の危険性等を考えると,そのような個人的な管理にすべてをゆだねるの
ではなく,司法試験委員会の庶務担当部署(事務局)としての人事課が,
組織として適正に管理を行うことが想定され,期待されていると考えるの
が自然である。このように考えると,本件録音物は,被告らの主張にかか
わらず,現に人事課において組織的な管理が行われているものであるか,
少なくともそのような組織的な管理が行われるべきものとして司法試験委
員会からゆだねられているものと解さざるを得ない。
エ本件各会議の議事要旨のうち,併行実施期間中の新旧司法試験の合格者
数に関する方針について審議された部分の記載(甲10ないし甲12,甲
14,乙2,甲37,乙5)は,逐語体の議事録(乙4,乙12)と比較
しても遜色のないほどに非常に詳細なものであり,本件録音物に依存し,
本件録音物を再生しながら適宜修正等を施して作成されたものであること
が容易に推認できる。
このように詳細かつ正確な議事要旨を作成することは,本件録音物に依
存することなしには極めて困難であるといわざるを得ない。したがって,
仮に本件において議事要旨を作成すべき事務取扱者に急病等の差し支えが
生じていたならば,当然に他の職員が,本件録音物を利用して議事要旨の
作成を代行していたであろうと考えられる。この点,被告らは,本件録音
物が事務取扱者の個人的な手控えであるという主張を前提に,これを他の
職員が利用できるかどうかは職員間の個人的な信頼関係に依存する旨を主
,,,張するが前述したように司法試験委員会が会議の録音を許可したのは
議事要旨等の内容の正確性を期すためであり,同委員会としても,当然に
本件録音物を利用して議事要旨が作成されることを期待しているものと解
されるのであるから,本件録音物の利用が職員間の個人的な信頼関係に依
存するようなことでは,司法試験委員会に対し,庶務担当部署としての人
事課の責任が果たせるものとは到底考えられない。
また,被告らの主張によれば,事務取扱者が議事要旨を作成した後,上
司である補佐官,人事課付,人事課長がこれに修正を加え,さらに会議に
出席した各委員に配付して,その修正意見を反映した議事要旨を作成する
ということである。そうだとすると,これらの関係者間で議事要旨の内容
についての意見が相違した場合には,本件録音物を再生して委員等の発言
内容を確認する作業が行われると考えるのが自然である。この点,被告ら
は,事務取扱者と上司等の間に意見の違いが生じた場合には,お互いの手
控えメモに基づいて協議したり,発言者に直接確認するなどすれば足り,
録音物を再生して確認する必要は生じないし,実際に確認することもない
と主張するが,客観的な資料である本件録音物が存在するのに,それをあ
えて利用しないというのは極めて不自然な行動といわざるを得ず,被告ら
の上記主張を直ちに採用することはできない。また,被告らは,事務取扱
者が議事要旨を起案した時点でその録音内容は用済みとなるため,通常そ
の時点で録音内容は消去されているとも主張するが,上記のように関係者
間で意見の相違が生じた場合の確認の必要性を考慮すれば,少なくとも出
席委員に対する確認作業を終えるまでは,録音内容を消去せずに保存して
おいた蓋然性が高いものと考えられる。
オ以上のような本件録音物の性質及び取得の状況,これらから推認される
,,本件録音物の管理及び利用の状況等を総合的に考慮すれば本件録音物は
司法試験委員会会議の議事要旨の作成・公開という業務に必要なものとし
て,同委員会の庶務担当部署である人事課において利用及び保存される電
磁的記録であり,情報公開法における行政文書の要件である「組織的に用
いる」ものに該当するというべきである。
本件各文書の物理的存否について(2)
ア本件録音物のうちの本件文書⑨ないし⑪について
被告らの主張によれば,本件文書⑨ないし⑪は,録音時の状態のままで
現存していることが認められる。
イその他の本件録音物(本件文書①,③,⑤及び⑦)について
被告らは,本件文書⑨ないし⑪が現存することについては認めており,
仮に本件文書①,③,⑤及び⑦が現存するのであれば,被告らがこれらの
文書の現存のみをあえて隠匿しなければならない理由はないと考えられる
から,本件文書①,③,⑤及び⑦については,現時点においては物理的に
存在しないものと認められる。
また,前述のとおり,本件文書①,③,⑤及び⑦は,組織共用文書とし
,,てそれぞれの議事要旨について出席委員による確認作業が終わるまでは
録音内容が消去されずに保存されていた蓋然性が高いものと考えられる。
しかしながら,被告らの主張によれば,各委員の確認後,人事課において
議事要旨の確認作業を終えた時期は,本件文書①に係る第11回会議の議
事要旨が平成16年11月26日ころ(同年10月7日の会議開催日から
数えて約50日後。詳細な議事要旨を作成することが決定された第12回
会議の開催日から数えても約17日後,本件文書③に係る第12回会議)
の議事要旨が同年12月22日ころ(同年11月9日の会議開催日から数
えて約43日後,本件文書⑤に係る第13回会議の議事要旨が同年12)
月27日ころ(同年11月26日の会議開催日から数えて約31日後,)
本件文書⑦に係る第14回会議の議事要旨が同年12月27日ころ(同年
12月10日の会議開催日から数えて約17日後)ということであり,各
議事要旨の内容及び会議開催日からの所要日数をみれば不合理な時期とは
いえない。したがって,これらの文書に係る不開示決定の時(本件文書①
及び③については同年12月21日,本件文書⑤及び⑦については同年1
2月28日)において,これらの文書が明らかに存在していたと認めるこ
とは困難である。
したがって,本件各不開示決定のうち,本件文書①,③,⑤及び⑦につ
いて,これらの文書が物理的に不存在であって「行政機関が保有するも,
の(情報公開法2条2項本文)に該当しないことを理由として不開示と」
した部分については,これを違法とすることはできない。
ウ本件発言者名記録文書について
前述のとおり,本件録音物には本件各会議における委員等の発言の音声
が記録されている上,本件録音物のうちの本件文書⑨ないし⑪は現存し,
本件文書①,③,⑤及び⑦もそれぞれの議事要旨について出席委員による
確認作業が終わるまでは録音内容が消去されずに保存されていた蓋然性が
。,,高いと考えられるものであるしたがって議事要旨の作成過程において
発言者名を特定する必要が生じたときは,本件録音物を再生して確認すれ
ば足りる状況にあったと認められるから,議事要旨の作成のために別途発
言者名の入った議事要旨等の作成が不可欠であったとはいえない。
また,仮に被告らの主張するとおり,本件文書①,③,⑤及び⑦につい
て,事務取扱者が議事要旨を起案した時点で録音内容を消去していたとし
ても,司法試験委員会の委員の数が7人であるなど会議への出席者数が比
較的少人数であったことや,前示のとおり議事要旨の内容の確認作業が出
席委員による確認作業を含めても会議の開催日から50日程度以内で終わ
っていることからすると,各出席者の記憶等によっても発言者名の特定は
相当程度まで可能であり,別途発言者名の入った議事要旨等がなければ発
言者名の特定ができないというほどの状況ではなかったものと認められ
る。
なお,原告は,行政機関のアカウンタビリティの観点からも,発言者名
を入れた文書が当然に作成されているはずであると主張するが,司法試験
委員会の会議について発言者名の分かる文書を作成・保存すべきことを義
務付けた法令の規定は存在せず,会議の内容についてどの程度の文書を作
成・保存しておくかは行政の裁量にゆだねられているものと解さざるを得
ないから,原告の主張する行政機関のアカウンタビリティの観点を考慮し
たとしても,このことから直ちに発言者名を入れた文書の存在が認められ
るというものではない。
以上によれば,本件各会議について,本件録音物とは別に,発言者名の
分かる会議内容を記録した文書が明らかに作成されていたとは認められな
い。したがって,本件各不開示決定のうち,本件発言者名記録文書(本件
文書②,④,⑥,⑧,⑫及び⑬)について,これらの文書が物理的に不存
在であって「行政機関が保有するもの(情報公開法2条2項本文)に,」
該当しないことを理由として不開示とした部分については,これを違法と
することはできない。
本件文書⑨ないし⑪の情報公開法5条5号該当性について(3)
ア情報公開法5条5号は,国の機関,独立行政法人等,地方公共団体及び
地方独立行政法人の内部又は相互間における審議,検討又は協議に関する
情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定
の中立性が不当に損なわれるおそれ,不当に国民の間に混乱を生じさせる
おそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれが
あるものを不開示情報と定めている。
イ前記のとおり,司法試験委員会は,司法試験法の定めるところにより,
司法試験を行うこと等を所掌事務として,法務省に設置された合議制の機
関(審議会等)である。
また,前記のとおり,本件各録音物は,司法試験委員会の会議の議事内
容を録音したミニディスクであり,このうち本件文書⑨ないし⑪は,第1
5回ないし第17回会議に係るものである。本件文書⑨及び⑩に係る第1
5回及び第16回会議においては,複数の議題について審議が行われたこ
とが認められるところ(甲14,乙2,被告らの主張によれば,本件文)
書⑨及び⑩には,これらの議題のうち「併行実施期間中の現行司法試験及
び新司法試験の合格者数に関する方針について」に関する部分のみが記録
されていることが認められる。本件文書⑪には,第17回会議の唯一の議
題である「併行実施期間中の現行司法試験及び新司法試験の合格者数に関
する方針について」に関する部分のみが記録されているものと推認される
(甲37,乙5。司法試験委員会における併行実施期間中の新旧司法試)
験の合格者数に関する方針についての審議検討状況は,前記認定のとおり
である。
したがって,本件文書⑨ないし⑪中に記録された情報は,国の機関の内
部における審議,検討又は協議に関する情報に該当する。
ウ司法試験委員会においては,前記のとおり,会議自体は非公開とし,議
事の内容は,議事録及び議事要旨の形で公開することとされている。そし
て,前記認定のとおり,議事録は顕名による逐語体のものが作成され,ま
た議事要旨の中にも逐語体に近い詳細な発言要旨を記載して作成されるも
,,,,のがあるがもとよりこれらは全くの逐語録ではなく委員等の発言中
指示語の意味が不明確な部分,論理の順序が乱れて真意を把握しづらい部
分,明らかな言い間違いの部分,措辞の不適切な部分等については適宜補
正し,試験の実施等に支障を及ぼすおそれがある部分,当事者又は第三者
の権利,利益や公共の利益を害するおそれがある部分(議事細則5条3項
において公開しないことができるとされている部分)等については適宜割
愛する等の修正が施されているものと推認される。
このような議事内容の公開方法をとっている趣旨は,先にも述べたとお
り,司法試験の秘密にわたる事項が公になることを防ぐとともに,各委員
が気兼ねなく自由・活発に議論できる会議の場を設けることにあるものと
解される。すなわち,各委員は,会議での発言がそのままの形で公になる
ことはないという保障の下に,言い間違いや論理の先後関係,多少の措辞
の不適切さ等を気にすることなく,安心して自由・活発な議論に参加する
ことができ,このことがひいては司法試験委員会の意思決定の適正につな
がっているものということができる。
ところが,本件録音物の録音内容のように,会議における委員等の発言
の音声,語気・語調などが機械的な忠実さでそのまま記録されている情報
が公にされることとなれば,上記のような保障がなくなってしまうため,
司法試験委員会における今後の会議において,自己の発言中のささいな言
い間違いや論理の乱れ等に対するいわれのない誹謗中傷等の危険を厭うあ
まり,各委員が発言を自制ないし躊躇し,自由・活発な議論が行われなく
なるおそれがある。特に,本件における併行実施期間中の新旧司法試験の
合格者数に関する議論のように,社会的に強い関心を集めている話題につ
いて会議の様子が公にされることとなった場合には,委員会における特定
の発言に不満を持つ者が,発言者の片言隻句をとらえて針小棒大に言いた
てるなどといった事態が生ずることも十分に考えられるのであるから,今
後同様に社会的に注目される案件が議題に上ったときに,上記のようなお
それがより現実的なものとなって現れるおそれがある。
他方,本件文書⑨ないし⑪に係る第15回ないし第17回会議での議事
の内容は,既に逐語体に近い詳細な発言要旨を記載した議事要旨が法務省
のホームページに掲載されて公開されており,本件文書⑨ないし⑪の開示
による利益は,音声等から発言者名が具体的に特定され,これによって議
事の内容が若干理解しやすくなるという程度の利益に限られるというべき
であるから,このような利益との比較衡量という観点からしても,今後の
会議に上記のような支障を生じさせるおそれのある文書の開示を認めなけ
ればならない理由はないものといわざるを得ない。
したがって,本件文書⑨ないし⑪に記録された情報は,公にすることに
より,司法試験委員会の会議における率直な意見の交換が不当に損なわれ
るおそれのあるものとして,情報公開法5条5号の不開示情報に該当する
ものと認められる。
エなお,被告らは,発言者名の公表によっても率直な意見の交換及び意思
決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあると主張するが,前記認定の
とおり,司法試験委員会の会議において,法務大臣からの諮問事項及び法
務大臣への意見具申事項(司法試験法12条2項2号及び3号に掲げる事
項)という特に重要な事項について審議したときには,発言者名を明らか
にした議事録が作成・公開されているのであるから,発言者名を公表する
ことによって直ちに率直な意見の交換及び意思決定の中立性が損なわれる
といえるかどうかは疑問であり,発言者名の開示と,発言がそのまま開示
されることとがあいまって,前記のようなおそれを生じさせるものという
べきである。
オ以上によれば,本件各不開示決定のうち,本件文書⑨ないし⑪を不開示
とした部分は,これらの文書に記録された情報が情報公開法5条5号の不
開示情報に該当することを理由とする点において適法であり,その余の点
について判断するまでもなく,原告の取消請求は理由がない。
3本件各文書の開示決定の義務付けの訴えについて
本件訴えのうち本件各文書の開示決定の義務付けを求める部分は,情報公開
法による開示請求に対して不開示決定がされたことを不服として,当該開示請
求に係る行政文書の開示決定をすべき旨を命ずることを求める訴訟であるか
ら,行政事件訴訟法3条6項2号の義務付けの訴えに該当するものである。
ところで,行政事件訴訟法37条の3第1項2号は,同法3条6項2号の義
,,務付けの訴えは申請を却下し又は棄却する旨の処分がされた場合においては
当該処分が取り消されるべきものであり,又は無効若しくは不存在であるとき
に限り,提起することができると定めている。これによれば,当該義務付けの
訴えは,当該処分が実体的に取り消されるべきものであり,又は無効若しくは
不存在であることが訴訟要件とされているのであり,単に訴えを提起する者が
当該処分に取消原因の存在することを主張するのみでは足りないものというべ
きである。
これを本件についてみると,本件各不開示決定が実体的に取り消されるべき
ものでないことは前記2に説示したとおりであり,同各決定が無効又は不存在
でないことも明らかである。
そうすると,本件の義務付けの訴えは,行政事件訴訟法37条の3第1項2
号の要件を満たさないから,不適法な訴えであるといわざるを得ない。
第4結論
以上の次第で,本件訴えのうち本件各文書の開示決定の義務付けを求める部
分は不適法であるから却下し,原告のその余の請求は理由がないから棄却する
こととし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適
用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
鶴岡稔彦裁判長裁判官
古田孝夫裁判官
潮海二郎裁判官

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