弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、本件を広島高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人岡垣久晃の上告理由第一、二点について。
 原判決の認定した事実は次のとおりである。すなわち、
 上告人、被上告人および訴外D石油株式会社(以下、訴外会社という。)の三者
は、被上告人の娘婿であり石油販売業を営む訴外E石油店ことEの経営が破綻した
ので、その再建を援助するため協議した結果、昭和三七年八月頃「(イ)訴外会社
は上告人に二〇〇〇万円の定期預金をする(ただし、Eの上告人に対する債務を担
保するため右定期預金債権に質権を設定しない)。(ロ)上告人は右定期預金を見
返りとしてEに対し新たに二〇〇〇万円を限度として営業資金を融資する。(ハ)
被上告人は右再建融資を担保するため、上告人に対し本件不動産に根抵当権を設定
する。」との再建計画案を樹立した。ところが、訴外会社が右再建計画案を実施す
るか否かの意思決定を延引していた同年六月から同年一〇月頃までの間に、上告人
はEに対し同人の支払手形を決済させるためのつなぎ融資として合計三一七万円を
融資したので、被上告人に対し早急に根抵当権の設定登記手続をするよう催促した。
被上告人は、当初は二〇〇〇万円の新規融資が未だに実現されていないことに難色
を示し、かつ、右つなぎ融資を被担保債権に含めることに反対して根抵当権の設定
を渋つていたが、結局譲歩し、つなぎ融資を含めて被担保債権限度額を二〇〇〇万
円とする根抵当権の設定登記手続をすることとし、その引換えとして、上告人がつ
なぎ融資の担保として預かつていた株券の交付を受けて、昭和三八年一月二六日右
登記手続をした。上告人はその後もEに対し引き続いて廻し手形の割引を行なつた
ほか、同年八月および同年九月の二回にわたり合計二二九万円の貸増しをした反面、
同年八月から同年一〇月頃にわたりEから担保権の設定を受けていた不動産を順次
処分して旧債権の回収をした。これよりさき、訴外会社は、昭和三七年一〇月頃す
でに再建計画案を承認しない旨の意思決定をしており、被上告人は遅くとも昭和三
八年春頃までには右の事実を知るところとなつた、
というのである。
 原審は、右の事実関係のもとにおいて、被上告人は訴外会社が上告人に対し二〇
〇〇万円の定期預金をするものと誤信して本件根抵当権の設定契約に応じたのであ
るから、右定期預金が実行されない以上、同契約はその要素に錯誤があるものであ
つて無効であると判示している。
 しかし、前記認定事実によれば、上告人は、被上告人に対し右二〇〇〇万円の定
期預金を見返りとする再建融資のほかに、上告人がすでにEに貸し付けたつなぎ融
資をも担保することを目的として、本件根抵当権の設定を要求し、被上告人も、右
の二種類の債務、すなわち、Eが上告人に対し現に負担している債務と将来負担す
ることのあるべき債務とを被担保債務として、本件根抵当権の設定契約の締結に応
じてその登記手続をし、これと引換えに、つなぎ融資の担保物件であつた株券の返
還を受けたのであるから、本件根抵当権の設定契約は右各債務を担保する二個の目
的を有していたものというべきであり、その一の目的について原判示のような錯誤
があつたとしても、そのために他の目的をも達成できなくなるものでないかぎり、
本件根抵当権設定契約の全部が無効となるものではないと解すべきである。けだし、
契約の当事者は特別の事情がないかぎり契約の目的達成を意図するものであるから、
契約の一部の目的について無効原因が存する場合であつても、その部分を除いてな
お当事者の意図した目的の達成が可能であるときは、該契約を右目的の達成が可能
な範囲で有効とすることが、契約当事者の意思に合致し、公平の原則にもかなうも
のというべきだからである。ところが、原審が、本件根抵当権設定契約はつなぎ融
資および再建融資の双方を被担保債権とするものであると認定しながら、再建融資
の分のみに関する錯誤により直ちに本件根抵当権設定契約の全部が無効であると即
断したのは、前述の一部無効の法理の解釈を誤り、かつ、理由に齟齬があるといわ
なければならない。しかも、原審はつなぎ融資を本件根抵当権設定契約締結前の融
資に限定しているけれども、本件においては、上告人は同契約の締結後も引き続き
Eに対し手形割引および新規貸付等の融資を継続しているのであるから、当事者の
意思の解釈いかんによつては、本件根抵当権は、上告人が訴外会社による定期預金
の預入れの有無にかかわらず、Eの営業を継続させるために必要な限度で将来の融
資をも担保する目的を有したものと解する余地もないわけではないのである。
 もつとも、原審は、被上告人が昭和三八年春頃上告人のA理事長に対し、再建融
資が実現できない以上、本件根抵当権設定登記を抹消するよう要求したところ、同
理事長はこれを承諾したとの事実を認定しており、右事実によれば、本件当事者双
方は、再建融資が実現できない以上は、本件根抵当権設定契約全部が無効となるこ
とを了承していたものと解しえないわけではない。しかし、本件記録に徴すれば、
右認定事実を認めうる証拠は原審における証人Fの証言および被上告人本人の供述
のみであるところ、原審認定のその余の諸事実によれば、上告人はEから徴した担
保物件をもつてしてはつなぎ融資までをも担保しえないものと判断して、被上告人
に対し再建融資のほか、つなぎ融資を担保するためにも本件根抵当権の設定を強く
要求したものであり、しかも、本件根抵当権の設定登記手続を受けるのと引換えに、
つなぎ融資の担保として預かつていた株券を被上告人に返還し、つなぎ融資の担保
としては本件根抵当権以外には存しないこととなつたことが明らかである。かかる
状態のもとにおいて、金融機関たる上告人が本件根抵当権設定登記の抹消を承諾す
る場合は、その被担保債権の弁済を受けたか、またはこれに代わる他の担保の提供
を受ける等、特別の事情がある場合以外には考えられないにもかかわらず、原審が
かかる特別の事情が存在することをなんら認定することなく、漫然と前記証言・供
述を採用し、上告人のA理事長が本件根抵当権設定登記の抹消を約したと認定した
のは、経験則に反し、かつ、理由不備の違法があるといわなければならない。
 してみると、原判決には右の諸点において違法があるとする論旨は理由があるに
帰するから、その余の上告理由については判断を加えるまでもなく、原判決は破棄
を免れず、右の諸点につき更に審理を尽くさせるため、本件を原裁判所に差し戻す
のを相当とする。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝

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