弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件各控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人ら
()原判決を取り消す。1
()本件を東京地方裁判所に差し戻す。2
()訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。3
2被控訴人
主文と同旨
第2事案の概要等
1本件は,神奈川県横須賀市,横浜市又は千葉県習志野市に居住する控訴人
,,(「」。)らが被控訴人を被告としてアメリカ合衆国軍隊以下米軍という
のいわゆるα基地の海軍施設(以下「α海軍施設」という)に原子力潜水。
艦又は原子力空母(以下,これらを併せて「米軍原子力艦船」ともいう)。
,「」「」が入港している間においてはその上空のβポイントとγVOR/DME
を結ぶ経路(以下「本件経路」という)を飛行中の航空機が墜落した場合。
にその航空機が米軍原子力艦船に衝突する危険性があるとして,(ア)人格
権に基づき,α海軍施設に米軍原子力艦船が入港している間においては航空
機をして本件経路を飛行させてはならない旨を命じる差止判決を求め(本件
民事訴訟,(イ)行政事件訴訟法37条の4に基づき,α海軍施設に米軍原)
子力艦船が入港している間においては本件経路を飛行する飛行計画について
は承認(航空法97条1項)を与えてはならない旨を命じる差止判決を求め
(本件行政訴訟,(ウ)α海軍施設に米軍原子力艦船が入港している間にお)
いて航空機をして本件経路を飛行させた場合には,国土交通大臣は承認を与
えて飛行させてはならない義務に違反したことになるから,それによって控
訴人らは精神的苦痛を被るに至るものであり,被控訴人はこれを賠償すべき
義務があるとして,国家賠償法1条に基づき,控訴人1人につき米軍原子力
艦船入港中の航空機の飛行1日につき1000円の損害賠償金(慰謝料)の
支払を求めた(本件国家賠償請求訴訟)事案である。
原審が,本件各訴訟はいずれも不適法であるとして,控訴人らの訴えを却
下したため,控訴人らが控訴した。
2本件の関係法令の定めと通達は,原判決の「事実及び理由」欄の「第2
」()事案の概要の2に記載のとおり原判決4頁8行目から7頁12行目まで
であるから,これを引用する。
なお,法97条1項は「航空機は,計器飛行方式により,航空交通管制,
圏若しくは航空交通情報圏に係る空港等から出発し,又は航空交通管制区,
航空交通管制圏若しくは航空交通情報圏を飛行しようとするときは,国土交
通省令で定めるところにより国土交通大臣に飛行計画を通報し,その承認を
受けなければならない。承認を受けた飛行計画を変更しようとするときも,
同様とする」と規定している。。
3本件の前提事実は,以下のとおり付加及び訂正するほかは,原判決の「事
実及び理由」欄の「第2事案の概要」の3に記載のとおり(原判決7頁1
4行目から8頁18行目まで)であるから,これを引用する。
()原判決8頁1行目の「ものである」を「ものであった」に改め,同行1
の次に行を変えて以下のとおり加える。
「上記「β」ポイントは,平成20年9月25日,北緯35度17分1
713秒,東経139度45分0559秒に移設された(乙7の1..。
∼7」)
()原判決8頁8行目の次に行を変えて以下のとおり加える。2
「上記「β」ポイントの移設の結果,本件経路は南方に約4キロメート
ル移動し,δ空港から離陸して西方面に向かう航空機は,平成20年9
月25日以降,α海軍施設の直上空を通過することはなくなった」。
()原判決8頁12行目の「平成20年8月19日に」から同頁14行目3
末尾までを「原審口頭弁論終結後の平成20年9月25日にα海軍施設に
入港してから同年10月1日に出港するまでの1週間停泊し,また,同年
11月21日に再度入港してから平成21年4月16日までα海軍施設に
停泊している(甲50の1,2,甲51」に改める。。)
4争点及び争点に関する当事者の主張は,原判決の「事実及び理由」欄の「
第2事案の概要」の4及び5に記載のとおり(原判決8頁19行目から1
8頁1行目まで)であるから,これを引用する。
5当審における当事者の主張
()控訴人ら1
ア法97条1項は,航空交通管制の観点から安全かつ円滑な航空機の航
行を確保しようとしたものであるにとどまらず,航空機の墜落から航空
路の周辺に居住する者の生命・身体の安全という具体的個別的な利益を
も保護することを目的としたものと解すべきであり,それゆえに,控訴
人らは本件行政訴訟について原告適格を有するものである。
イこれは,次の点からも明らかである(補充の主張。)
(ア)航空法の目的を定める同法1条は「航空機の航行に起因する障害
の防止を図る」ことを目的としているが,この「航空機の航行に起因
する障害」の中に航空機が墜落した場合の地上の人の生命・身体に対
する危険も含まれていることは明らかである。
(イ)法の全体を見渡せば,75条,81条,89条,91条など,地
上の安全に配慮した規定が数多くみられる。
(ウ)国土交通大臣が法97条1項の飛行計画の承認を行うに当たって
は,事前に航空路誌()等によって航空路を指定しており,そのAIP
航空路を飛行する計画であることが確認できた場合に飛行計画を承認
しているが,航空路の指定に当たっては,墜落事故が起きた場合の被
害の大きさも考慮されている。すなわち,墜落した場合にその被害が
大きいと想定される場所(例えば,原子力発電所)については,あら
かじめ航空機の飛行を厳しく制限しており,現に,原子力発電所の新
設により航空路が変更されたと思われる例もある。
(エ)263号通達,884号通達及び航空路誌において「航空機に,
よる原子力関係施設に対する災害を防止するため,原子力関係施設」
の上空は航空機の飛行が規制されている。なお,原子力関係施設と原
子力艦船とは何ら変わりがないものである。被控訴人は,263号通
達,884号通達及び航空路誌による原子力関係施設の上空の飛行規
制の対象は有視界飛行方式に限られているものであって,計器飛行方
式に関する法97条1項の飛行計画の承認とは関係がない旨をいう
が,263号通達,884号通達及び航空路誌による原子力関係施設
の上空の飛行規制は,有視界飛行方式に限られるものではないのであ
り(有視界飛行方式に限る旨の明文はない,これらは法1条の目。)
的(この中には,上記のとおり,航空機が墜落した場合の地上の人の
生命・身体に対する危険の防止も含まれている)を達成するために。
作成されたものであるから,その趣旨は計器飛行方式に関する法97
条1項の飛行計画の承認にも及ぶものというべきである。
(オ)原判決は「処分の取消訴訟における周辺住民の原告適格の有無,
を判断するに当たっては,利益を受ける住民の特定性(特定の範囲の
個人が他から区別される程度にその利益を受けるといえるか)及び住
民が受ける利益の個別具体性が重要な判断基準となるのであって,差
止めの訴えについても同様に考えるのが相当であるところ,航空機の
航行というその性質の特殊性からすると,飛行計画の承認との関係に
おいて,航空機の墜落により生命及び身体の安全を侵害される者の範
囲を他から区別される程度に特定することは,その性質上困難といわ
ざるを得ない」というが,控訴人らが主張しているのは,単なる航。
空機の墜落による生命・身体の安全に対する危険性ではなく,航空機
がα海軍施設に停泊中の米軍原子力艦船に衝突した場合すなわち原子
力災害が発生した場合の生命・身体の安全に対する危険性であって,
その場合の被害は極めて甚大であるから,横須賀市,横浜市又は習志
野市に居住する控訴人らがその被害に遭遇することは明らかであり,
そうであれば,飛行計画の承認との関係において,航空機の墜落によ
り生命・身体の安全を侵害される者の範囲を他から区別される程度に
特定することは十分に可能である。
(カ)航空法施行規則203条1項は飛行計画において明らかにすべき
事項を規定しているところ,その6号が定める「航路」については,
適切な航路であることが確認された上で承認がなされているのであ
る。このことは,法97条1項が「航空交通管制の観点から,安全,
かつ円滑な航空機の航行を確保する」という一般的公益を保護しよう
とするにとどまらず,航空路及び原子力関係施設周辺に居住する者が
航空機の墜落によって著しい障害を受けないという利益をこれら個々
人の利益としても保護する趣旨を含むものと解することができること
を示すものである。
(キ)原判決の論理に従えば,航空機の飛行計画がいかに危険性の高い
ものであっても(例えば,航路を大幅にはずれた飛行計画や,市街地
を超低空で飛行するような計画の場合,不利益を被る第三者がその)
飛行計画の承認を法的に争うことができないこととなってしまい,著
しく不合理である。
(ク)A大学大学院法務研究科教授であるB教授も,その意見書(甲5
7)で「航空法37条の航空路の告示よる指定と結合して行われる,
同法97条1項の飛行計画の承認制度は,もちろん,航空交通管制の
観点から安全で円滑な航空機の運航を確保するという一般的公益を確
保するための制度という側面を有しているが,それだけにはとどまら
ず,原子力施設周辺の住民の生命・身体を航空機の衝突による重大な
被害から保護する趣旨を含むものである。この被害の重大性を考えれ
ば,航空法37条と同法97条1項に規定する行政権限の行使によっ
て保護される利益を,不特定多数者の一般的公益のなかに吸収解消さ
れる反射的利益であると評価することはできない」として,原告適。
格を肯定した上で「α海軍施設の米軍原子力艦船を通過する本件航,
路が妥当なものであるのか否かが,実体的な審理の場で検討されなけ
ればならない」と述べている。。
ウ原審口頭弁論終結後の平成20年9月25日,原子力空母Cがα海軍
施設に入港し,その後出港したが,再度入港し,長期間停泊している。
これにより,首都圏に原子力発電所が出現したのと同様の事態が生じ,
控訴人らは,本件経路を飛行する航空機が墜落してCに衝突し原子力災
害が生じるのではないかと精神的苦痛を被っている。
したがって,控訴人らが原審でしていた将来給付の訴えの一部は現在
給付の訴えにその性質を変じたものといえるから,この現在給付の請求
部分を却下することは許されないものである。
エなお,平成20年9月25日に「β」ポイントが約4キロメートルほ
ど南東方向に移設されているが,これは,同日にα海軍施設に入港した
Cの上空を航空機が飛行することを避けるためになされたものであっ
て,このことは被控訴人が控訴人らの本件各請求を認めたものと評価す
べきである。
()被控訴人2
ア計器飛行方式の場合に国土交通大臣による飛行計画の承認を要する旨
を規定する法97条1項は,専ら所管行政官庁の航空交通管制業務その
他の業務を円滑,迅速に行うという趣旨と目的で設けられたものであり
(もとより,円滑,迅速な航空交通管制業務の確保が,航空機の航行の
効率化や安全に資するものであって,航空機の墜落防止にもつながるも
のであることを否定するものではないが,これは一般的公益(国民等全
体の利益)にとどまるものである,各航空機が航行する航路周辺の。)
地上の住民等個々人という特定の範囲の者が当該航空機の墜落事故によ
って生命・身体を侵害されないという個別具体的な利益を保護すること
を目的としたものではない。したがって,それら特定の範囲の個々人の
個別具体的利益を保護することを目的として当該行政権の行使(承認権
限の行使)に制約を課していると解することはできないから,控訴人ら
に本件行政訴訟の原告適格を認めることはできない。
イ(ア)法1条の「航空機の航行に起因する障害」との文言は,航空法の
目的に航空機騒音の防止が含まれることを明確化し,今後同法に基づ
き航空機騒音の防止を強力に図っていく趣旨を明らかにするために設
けられたものである。
仮に,控訴人らが主張するように「航空機の航行に起因する障害」
に航空機の墜落事故による生命・身体に対する侵害をも含めるとして
も,そのような障害を被るおそれのある者はほぼ全国民に及び,結局
は,法1条は一般的公益(国民等全体の利益)の保護を目的としたも
のとしか考えられないから,法1条を加味して検討したとしても,飛
行計画の承認の根拠法規である法97条1項が他から区別された特定
の範囲の個人の個別具体的な利益を保護していると解することはでき
ないものである。
(イ)法75条(急迫した危難が生じた場合の機長の措置,81条()
最低安全高度,89条(物件投下の禁止)及び91条(曲技飛行等)
の制限)の各規定は,航空機の操縦者又は搭乗者を対象として,それ
ぞれの場面ごとにあるいはそれぞれの観点から,航空機が及ぼす損害
を直接的に防止するための規制をしている規定であり,法97条1項
とはその規制する場面や観点並びにその趣旨及び目的が全く異なるも
のである。
(ウ)国土交通大臣は,安全で秩序正しく効率的な航空交通流を形成す
ることができるか,航空機相互間の安全間隔及び障害物との安全間隔
を設定することができるか,等を審査した上で,当該飛行計画の承認
の可否を判断しているのであって,指定された航空路を飛行する計画
であることを承認の要件としているものではないから,この点におい
て控訴人らの主張はその前提を誤っている。
また,航空路の指定に当たっても,航空機の墜落事故が起きた場合
の被害の大きさを考慮して行うこととされているわけではない。航空
,「」路とは国土交通大臣が指定する航空機の航行に適する空中の通路
(法37条1項)であり,航空路の指定は,当該空域の位置及び範囲
を告示することによって行われるものである(同条2項。法及びこ)
れに基づく告示は,種々の条件に照らして航空機の航行に適するか否
かという観点から航空路を指定することとしているのであって,航空
機の墜落事故が生じた場合の被害の大きさを考慮して指定することと
されているわけではない。
なお「ε」は,平成17年▲月▲日のζ空港開港に,TRANSITION
先立つη進入管制区の指定に伴い廃止されたものであって,原子力発
電所等の原子力関係施設が設置されたことによって廃止されたもので
はない。
そもそも,行政訴訟における原告適格の有無の判断は,当該行政処
分の根拠となる行政法規すなわち処分を行う権限を行政庁に付与した
規定及びその要件を定める規定(根拠法規)が当該個人の権利利益を
保護することを目的として行政権の行使に制約を課している場合とい
えるか否かによって判断すべきであり(法律上保護された利益説,)
単に航空路が変更された事例があるなどという運用上の事例は原告適
格を基礎づける主張としては失当というべきである。
(エ)263号通達(昭和44年通達,884号通達(平成13年通)
達)及び航空路誌による原子力関係施設上空の飛行規制の対象は有視
界飛行方式に限られているものであって,計器飛行方式に関する法9
7条1項の飛行計画の承認とは関係がないものである。
なお,通達とは,上級行政機関が下級行政機関に対して発する法令
解釈にすぎず,外部効果を持つ法源としては認められないから,当然
のことながら国民の権利義務を規律する法規の性質を有するものでは
ない(なお,厳密にいえば,884号通達は,通達ではない。ま。)
,(),してやシカゴ条約第15附属書航空情報業務の国際標準に従い
管轄区域内における民間航空の運航に必要な恒久的情報を国土交通省
が編纂・収録した航空路誌が法規の性質を有するものでないことは当
然である。
(オ)行政法規が単なる反射的利益ではなく個々人の個別具体的な利益
をも保護しているか否かを検討するに当たっては,処分法規が他から
区別された特定の範囲の個人の具体的利益をも保護しているか否かを
検討することによって決められるべきであり,本件において,航空機
の性質上,飛行計画の承認に基づく個々の航空機の航行に当たって各
航空機が航行する航路の周辺地上に居住する住民のうち個々人の個別
具体的な利益が保護されている者すなわち当該航空機の墜落事故によ
ってその生命・身体の安全が侵害される危険性がある者を他から区別
して一定の範囲に特定することはおよそ不可能である。
なお,控訴人らは,控訴人らが主張しているのは単なる航空機の墜
落による生命・身体の安全に対する危険性ではなく,航空機がα海軍
施設に停泊中の原子力艦船に衝突した場合すなわち原子力災害が発生
した場合の生命・身体の安全に対する危険性であるというが,そうと
すれば,法には,原子力艦船又は原子力関係施設の所在する周辺の住
民を他の地域の住民とは区別して特に取り上げ,その者らの利益のみ
を,航空機の飛行の安全という一般的公益の中に解消吸収させること
なく,個別具体的な利益(個々の航空機の墜落により原子力艦船等と
衝突することによって生命・身体の安全が侵害されないという利益)
としてその保護を図っていることを窺わせる規定は存しないから,な
おさら控訴人らの主張は失当というべきである。
ウ原審口頭弁論終結後の平成20年9月25日にCがα海軍施設に入港
し,その後出港したが,再度入港して長期間停泊したとしても,それに
よって「重大な損害を生ずるおそれがある(行政事件訴訟法37条,」
の4第1項)ということはできない「重大な損害を生ずるおそれがあ。
」,「」,るといえるためにはそのおそれが一般的抽象的なものではなく
具体的なものでなければならず,本件において,そのような具体的な危
険性は認められないからである。δ空港から関西方面に向かう航空機が
仮に何らかの原因で偶然にα海軍施設の上空付近で墜落するに至り,し
,,かもその墜落した航空機がα海軍施設に停泊中の原子力艦船に衝突し
大規模な原子力災害が発生するなどという,極めてまれな偶然が重なる
ような事態が発生する可能性は,およそ無視できるほどに極めて小さい
ものであり(控訴人らの試算によっても,計器飛行方式により飛行する
航空機の落下確率は約273万年に1回である,現実的可能性とし。)
ては到底想定し得ないものである。
エ控訴人らは本件国家賠償請求訴訟の「請求の趣旨」を変更していない
から,本件国家賠償請求訴訟の一部を現在給付の訴えと解することはで
きない。
仮に本件国家賠償請求訴訟の一部を現在給付の訴えと解するとして
も,その請求に理由がないことは明らかである。控訴人らが主張する損
害は,一般的抽象的かつ漠然とした不安感にすぎず,法律上(国家賠償
法上)保護されるべき権利ないし利益には該当しないからである。
オなお「β」ポイントが移設されたのは,θ空域の一部が我が国に返,
還されたことに伴い,δ空港から西方面への出発機について,飛行経路
を改編して複線化を行った結果であり,Cのα海軍施設への入港とは何
ら関係がない。
移設日が平成20年9月25日となったのは,その日が平成20年9
月のエアラック日(航空機の運航にとって重要な変更を行う日として国
)(,)。際的に28日周期で特定された日であったからである乙9の12
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,本件各訴訟はいずれも不適法であり,控訴人らの本件訴えは
却下すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
2争点()ア(本件民事訴訟の適法性)について1
当裁判所も,本件民事訴訟は不適法であると判断する。その理由は,原判
決の「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」の1に記載(原判決1
8頁4行目から同頁17行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
すなわち,本件民事訴訟は,控訴人らが,人格権に基づき,被控訴人を被
告として,α海軍施設に米軍原子力艦船が入港している間は航空機をして本
件経路を飛行させてはならない旨を命じる差止判決を求めるものであるが,
かかる差止請求は不可避的に国土交通大臣に委ねられている航空行政権(行
政規制権)の取消変更又はその発動を求める請求を包含するものといわなけ
ればならないから,控訴人らが国に対してこのような私法上の給付請求権を
有していない以上,本件民事訴訟は不適法である。
3争点()イ(本件行政訴訟の適法性)について1
()当裁判所も,控訴人らが行政処分である法97条1項の飛行計画の承1
認の差止めを求めるにつき法律上の利益を有しているということはでき
ず,控訴人らが本件行政訴訟(行政事件訴訟法37条の4に基づき,α海
軍施設に米軍原子力艦船が入港している間は本件経路を飛行する飛行計画
については承認(航空法97条1項)を与えてはならない旨を命じる差止
判決を求めるもの)の原告適格を有しているとはいえないから,本件行政
訴訟は不適法であって,これを却下すべきものと判断する。
その理由は,以下に当裁判所の補充の判断を示すほかは,原判決の「事
実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」の2に記載(原判決18頁1
9行目から28頁4行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
()控訴人らは,当審において,重ねて「法97条1項は,航空交通管制2,
の観点から安全かつ円滑な航空機の航行を確保しようとしたものであるに
とどまらず,航空機の墜落から航空路の周辺に居住する者の生命・身体の
安全という具体的個別的な利益をも保護することを目的としたものと解す
べきであり,それゆえに,控訴人らは本件行政訴訟について原告適格を有
するものである」旨を主張する。。
しかし,法97条各項や航空法施行規則203条1項等の規定からする
と,法97条1項が飛行計画の通報だけではなく国土交通大臣による飛行
計画の承認を要することとしたのは,計器飛行方式が一定の経路によりか
つ国土交通大臣が与える指示に常時従い又は国土交通大臣が提供する情報
を常時聴取して行う飛行の方式であることを考慮し,航空機相互間の衝突
の防止,航空機と障害物との衝突の防止並びに航空交通の秩序ある流れの
維持及び促進という航空交通管制の観点から,飛行計画を審査し,それを
承認することにより,安全かつ円滑な航空機の航行を確保しようとしたも
のであると解するのが相当であり,航空機の墜落から航空路の周辺に居住
する者の生命・身体の安全という個別的利益をも保護する趣旨を含むもの
と解することはできないというべきである。
このことは「航空保安業務処理規程第5管制業務処理規程」におい,
て法97条1項の飛行計画の承認について定められた規定や,法に特定の
個人の利益保護を図る手続を定めた規定を見出すことができないことから
も,是認することができる。
そうとすれば,控訴人らは法97条1項の飛行計画の承認の差止めを求
めるにつき法律上の利益を有しないものというべきである。
()控訴人らの主張について3
ア控訴人らは「航空法の目的を定める同法1条は「航空機の航行に起,
因する障害の防止を図る」ことを目的としているが,この「航空機の航
行に起因する障害」の中に航空機が墜落した場合の地上の人の生命・身
体に対する危険も含まれていることは明らかであるから,法97条1項
は航空機の墜落から航空路の周辺に居住する者の生命・身体の安全とい
う具体的個別的な利益をも保護することを目的としたものと解すべきで
ある」旨を主張する。。
確かに,法1条は「この法律は,……,航空機の航行の安全及び航,
空機の航行に起因する障害の防止を図るための方法を定め,並びに航空
機を運航して営む事業の適正かつ合理的な運営を確保して輸送の安全を
確保するとともにその利用者の利便の増進を図ることにより,航空の発
達を図り,もって公共の福祉を増進することを目的とする」と規定し。
ており「航空機の航行に起因する障害」の中に騒音のみならず大気汚,
染や航空機の墜落による地上の人の生命・身体の安全に対する危険も含
まれるものと解することは,必ずしも不合理ではないと思われる。
しかしながら,仮に,法97条1項の飛行計画の承認が,航空機の墜
落から航空路の周辺に居住する地上の人の生命・身体の安全に対する危
険の防止をも図るためになされるものであるとしても,それは一般的抽
象的なものであり,当該航空路の特定の場所において具体的な航空機墜
落事故が発生することを想定してまでなされるものではないから,飛行
計画の承認において考慮されるべき航空機が墜落した場合の安全性が侵
害される地上の人々の範囲も,極めて一般的抽象的で漠然としたものと
ならざるを得ず,結局のところ,飛行計画の承認において考慮されるべ
き航空機が墜落した場合の安全性が侵害される地上の人々の範囲は,当
該航空路の周辺に居住する極めて多数の人々ということに帰着し,それ
は,とりもなおさず,その安全性が侵害される地上の人々の範囲を他か
ら区別し得る程度に特定することができないことを意味するものであ
る。そうとすれば,やはり,法1条の規定を理由に,法97条1項が航
空機の墜落から航空路の周辺に居住する者の生命・身体の安全という個
別的利益をも保護する趣旨を含むものということはできないものという
べきである。
イ控訴人らは「法の全体を見渡せば,75条,81条,89条,91,
条など,地上の安全に配慮した規定が数多くみられるから,法97条1
項は航空機の墜落から航空路の周辺に居住する者の生命・身体の安全と
いう具体的個別的な利益をも保護することを目的としたものと解すべき
である」旨を主張する。。
しかし,法75条(危難が生じた場合の機長の措置,81条(最低)
安全高度以下での飛行の禁止,89条(物件投下の禁止)及び91条)
(曲技飛行等の制限)の各規定は,航空機の操縦者又は搭乗者を対象と
して,それぞれの場面ごとにあるいはそれぞれの観点から,航空機が及
ぼす損害を直接的に防止するための規制をしている規定であり,他方,
法97条1項は,航空機相互間の衝突の防止,航空機と障害物との衝突
の防止並びに航空交通の秩序ある流れの維持及び促進という航空交通管
制の観点から,飛行計画を審査し,それを承認することにより,安全か
つ円滑な航空機の航行を確保しようとする規定であるから,両者はその
趣旨及び目的を異にし,上記の各規定をもって法97条1項が航空機の
墜落から航空路の周辺に居住する者の生命・身体の安全という個別的利
益をも保護する趣旨を含むものと解することはできないものというべき
である。
ウ控訴人らは「航空路の指定に当たっては,墜落事故が起きた場合の,
被害の大きさも考慮されている。すなわち,墜落した場合にその被害が
大きいと想定される場所(例えば,原子力発電所)については,あらか
じめ航空機の飛行を厳しく制限しており,現に,原子力発電所の新設に
より航空路が変更されたと思われる例もある。法97条1項は航空機の
墜落から航空路の周辺に居住する者の生命・身体の安全という具体的個
別的な利益をも保護することを目的としたものと解すべきである」旨。
を主張する。
しかし,航空路の指定に当たって航空機の墜落事故が起きた場合の被
害の大きさが考慮されていることを認めるに足りる証拠はないから,控
訴人らの上記主張は採用することができない。
なお「ε」は,平成17年▲月▲日のζ空港開港に先,TRANSITION
立つη進入管制区の指定に伴い廃止されたものであって,原子力発電所
等の原子力関係施設が設置されたことによって廃止されたものではない
と認められる。
エ控訴人らは「263号通達,884号通達及び航空路誌において,,
「航空機による原子力関係施設に対する災害を防止するため,原子力」
。,,関係施設の上空は航空機の飛行が規制されているなお263号通達
884号通達及び航空路誌による原子力関係施設の上空の飛行規制は,
有視界飛行方式に限られるものではない」旨を主張する。。
しかし,263号通達,884号通達及び航空路誌による原子力関係
施設上空の飛行規制の対象は有視界飛行方式に限られているものと認め
られ,計器飛行方式に関する法97条1項の飛行計画の承認とは関係が
ないものと認められるから(弁論の全趣旨,控訴人らの上記主張も採)
用することができない。
オ控訴人らは「控訴人らが主張しているのは,単なる航空機の墜落に,
よる生命・身体の安全に対する危険性ではなく,航空機がα海軍施設に
停泊中の米軍原子力艦船に衝突した場合すなわち原子力災害が発生した
場合の生命・身体の安全に対する危険性であって,その場合の被害は極
めて甚大であるから,横須賀市,横浜市又は習志野市に居住する控訴人
らがその被害に遭遇することは明らかであり,そうであれば,飛行計画
の承認との関係において,航空機の墜落により生命・身体の安全を侵害
される者の範囲を他から区別される程度に特定することは十分に可能で
ある」旨を主張する。。
しかし,前記アのとおり,仮に,法97条1項の飛行計画の承認が,
航空機の墜落から航空路の周辺に居住する地上の人の生命・身体の安全
に対する危険の防止をも図るためになされるものであるとしても,それ
は一般的抽象的なものであり,当該航空路の特定の場所において具体的
な航空機墜落事故が発生することを想定してまでなされるものではない
から,控訴人らの上記主張は既にこの点において採用することができな
いものであるが,仮にこの点をしばらくおくとしても,航空機がα海軍
施設に停泊中の米軍原子力艦船に衝突した場合の被害が極めて広範囲に
及ぶことは控訴人らの自認するところであるから,そうとすれば,控訴
人らがその被害者の中に含まれる可能性があるか否かはともかく,そも
そもその被害者の範囲を他から区別し得る程度に特定することはできな
いものである。控訴人らの上記主張も採用することができない。
カその他,控訴人らは,前記のとおり「航空法施行規則203条1項,
6号が定める「航路」については,適切な航路であることが確認された
上で承認がなされている。このことは,法97条1項が,航空路及び原
子力関係施設周辺に居住する者が航空機の墜落によって著しい障害を受
けないという利益をこれら個々人の利益としても保護する趣旨を含むも
のと解することができることを示すものである」旨,B教授もその意。
見書で「法97条1項の飛行計画の承認制度は,原子力施設周辺の住民
の生命・身体を航空機の衝突による重大な被害から保護する趣旨を含む
ものである。この被害の重大性を考えれば,航空法37条と同法97条
1項に規定する行政権限の行使によって保護される利益を,不特定多数
者の一般的公益のなかに吸収解消される反射的利益であると評価するこ
とはできない」と述べている旨,等を主張するが,これらの点を考慮。
しても,法97条1項が航空機の墜落から航空路の周辺に居住する者の
生命・身体の安全という個別的利益をも保護する趣旨を含むものと解す
ることはできないものというべきである。
()なお,本件全証拠によるも控訴人らに行政事件訴訟法37条の4第14
項にいう「重大な損害を生ずるおそれがある」とは認められないから,こ
の点からも,本件行政訴訟は不適法というべきである。
すなわち,控訴人らが主張する損害は,本件経路を航行する航空機が何
らかの原因によって墜落しα海軍施設に停泊中の原子力艦船に衝突してそ
れによって原子力災害が発生した場合を想定し,その場合の生命・身体の
安全に対する危険性をいうものであるが,希有の事態を想定しているもの
であって,このような一般的抽象的な危険が生ずる可能性は行政事件訴訟
法37条の4第1項の「重大な損害を生ずるおそれ」には当たらないもの
である。
4争点()ウ(本件国家賠償請求訴訟の適法性)について1
()本件国家賠償請求訴訟のうち将来給付を求める部分について1
これについての当裁判所の判断は,原判決の「事実及び理由」欄の「第
3当裁判所の判断」の3に記載(原判決28頁6行目から29頁8行目
まで)のとおりであるから,これを引用する。
将来給付請求に係る訴えは不適法として却下すべきである。
()本件国家賠償請求訴訟のうち現在給付を求める部分について2
たとえ,原審口頭弁論終結後の平成20年9月25日に実際に原子力空
,,,母Cがα海軍施設に入港しその後の同年10月1日まで停泊しさらに
同年11月21日に再度入港して平成21年4月16日まで停泊したとし
ても,また,これにより控訴人らが精神的苦痛を感じたとしても,法97
条1項が航空機の墜落から航空路の周辺に居住する者の生命・身体の安全
という個別的利益をも保護することを目的としたものと解することができ
ない以上,控訴人らの上記苦痛は未だ「法律上保護される利益(民法709」
条)に当たらないものというべきである。控訴人らの上記請求を認容するこ
とはできない。
なお,前記のとおり,平成20年9月25日以降は,本件経路は南方に
約4キロメートルほど移動されており,航空機がα海軍施設の直上空を通
過することはなくなっていたものである。
5まとめ
以上のとおりであり,控訴人らの本件民事訴訟,本件行政訴訟,本件国家
,,賠償請求訴訟のうちの将来給付を求める部分はいずれも不適法であるから
これらの請求に係る訴えを却下すべきであり,本件国家賠償請求訴訟のうち
の現在給付を求める部分は理由がないからこれを棄却すべきである。
第4結論
,,よって控訴人らの本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして
主文のとおり判決する(本件国家賠償請求訴訟のうちの現在給付を求める部
分はその請求を棄却すべきであるが,民事訴訟法304条により控訴人らの
控訴を棄却するにとどめる。。)
東京高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官原田敏章
裁判官北村史雄
裁判官加藤謙一

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