弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1 被告株式会社エイエム三井は,原告Aに対し,1588万0970円及びこれに対する平
成13年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社エイエム三井は,原告Bに対し,418万1778円及びこれに対する平成
13年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告株式会社エイエム三井は,原告Cに対し,4361万7024円及びこれに対する平
成13年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告株式会社エイエム三井は,原告Dに対し,1843万5289円及びこれに対する平
成13年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告株式会社エイエム三井は,原告Eに対し,2548万8533円及びこれに対する平
成13年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 原告A,原告B,原告C,原告Dの被告株式会社エイエム三井に対するその余の請求
並びに原告らの被告株式会社エフエムエス及び被告株式会社アートメーキング三井に対
する請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は,原告Aに生じた費用の5分の1,被告株式会社エフエムエスに生じた費用
の5分の1,被告株式会社アートメーキング三井に生じた費用の5分の1,被告株式会社エ
イエム三井に生じた費用の20分の1を原告Aの負担とし,原告Bに生じた費用の5分の3,
被告株式会社エフエムエスに生じた費用の5分の1,被告株式会社アートメーキング三井
に生じた費用の5分の1,被告株式会社エイエム三井に生じた費用の20分の1を原告Bの
負担とし,原告Cに生じた費用の10分の1,被告株式会社エフエムエスに生じた費用の5
分の1,被告株式会社アートメーキング三井に生じた費用の5分の1,被告株式会社エイエ
ム三井に生じた費用の20分の1を原告Cの負担とし,原告Dに生じた費用の7分の1,被
告株式会社エフエムエスに生じ
た費用の5分の1,被告株式会社アートメーキング三井に生じた費用の5分の1,被告株式
会社エイエム三井に生じた費用の20分の1を原告Dの負担とし,被告株式会社エフエムエ
スに生じた費用の5分の1,被告株式会社アートメーキング三井に生じた費用の5分の1を
原告Eの負担とし,原告Aに生じた費用の5分の4,原告Bに生じた費用の5分の2,原告C
に生じた費用の10分の9,原告Dに生じた費用の7分の6,原告Eに生じた費用,被告株
式会社エイエム三井に生じた費用の5分の4を被告株式会社エイエム三井の負担とする。
8 この判決は,第1項ないし第5項に限り,仮に執行することができる。
 事実及び理由
第1 請求
1 被告らは,原告Aに対し,各自2008万6588円及びこれに対する平成4年3月22日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,原告Bに対し,各自1072万7061円及びこれに対する平成4年1月25日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告らは,原告Cに対し,各自4849万2327円及びこれに対する平成4年5月25日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告らは,原告Dに対し,各自2180万1156円及びこれに対する平成4年1月14日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告らは,原告Eに対し,各自2548万8533円及びこれに対する平成4年4月30日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,原告らが,F眼科において,F医師から,近視矯正手術であるRK手術を受けた
ことにより,矯正視力の低下,コントラスト感度の低下等の視力障害を負ったが,被告株式
会社アートメーキング三井(以下「被告アートメーキング三井」という。)及び被告株式会社
エイエム三井(以下「被告エイエム三井」という。)は,F眼科の経営者で,原告らと診療契
約を締結した契約当事者であるとともに,F医師の使用者であるとし,さらに,被告株式会
社エフエムエス(以下「被告エフエムエス」という。)は,被告アートメーキング三井及び被告
エイエム三井の事業を受け継いだことから,同被告らと同様の責任を負うとして,被告らに
対し,選択的に,使用者責任(民法715条)又は債務不履行に基づく損害賠償請求とし
て,原告Aは2008万
6588円,原告Bは1072万7061円,原告Cは4849万2327円,原告Dは2180万11
56円,原告Eは2548万8533円及び上記各金員に対するRK手術の日の翌日(原告A
につき平成4年3月22日,原告Bにつき平成4年1月25日,原告Cにつき平成4年5月25
日,原告Dにつき平成4年1月14日,原告Eにつき平成4年4月30日)から各支払済みま
でいずれも民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。
1 争いのない事実等
(1) 当事者
  被告アートメーキング三井は,Gが,アートメーク(刺青美容施術)を中心としたエステテ
ィックサロンの事業(以下「アートメーク事業」という。)を行うために設立した会社である。
  被告エイエム三井は,被告アートメーキング三井と類似商号を使用する同種業者が増
加したため,被告アートメーキング三井の事業を承継させる目的で,Gが設立した会社であ
る。
  被告エフエムエスは,Gが出資して設立した株式会社エイエムリース(以下「エイエムリ
ース」とい。)を,Gの死後にHが商号変更した会社である。
(2) RK手術
  RK手術とは,角膜に放射状の切開を入れて,角膜の屈折率を緩和させることによっ
て,近視を矯正する手術である。
(3) 眼科診療所
  I眼科は,平成2年春ころ開設された眼科診療所であり,大阪市a区bc丁目(以下略)所
在の同診療所では,RK手術が実施されていた。
  平成4年1月14日,I眼科に代わり,F医師を開設者とするF眼科が同所に開設され,同
眼科でもRK手術が実施されていた。その後,F眼科は,平成4年3月17日に大阪市a区b
d丁目(以下略)に移設された。
(4) 原告CへのRK手術
  原告Cは,平成4年5月24日,F眼科において,F医師からRK手術を受けた。
(5) G死亡後の経緯
ア Gは,被告アートメーキング三井,被告エイエム三井等多数の会社法人を設立して,ア
ートメーク事業,美容外科事業及びRK手術事業に関与していたが,平成4年9月16日に
死亡した。
イ G死亡後間もなく,F眼科につき廃止届が出され,大阪市e区fにJ眼科が開設された。
同眼科では,F眼科においてRK手術を受けた患者らに対する術後検診が実施された。J
眼科の診療所施設の賃借人名義は,当初被告アートメーキング三井であったが,平成4年
12月22日には被告エフエムエスに変更された。
ウ 被告アートメーキング三井及び被告エイエム三井は,平成4年10月29日の株主総会
で解散決議をして解散した。
(6) 消滅時効の援用
  被告らは,原告らに対し,平成14年1月22日の第5回弁論準備手続期日において,不
法行為に基づく本訴請求債権について消滅時効を援用するとの意思表示をするとともに,
債務不履行に基づく本訴請求債権について商事消滅時効を援用するとの意思表示をし
た。
2 争点
(1) 原告Cを除く原告らは,F医師から,RK手術を受けたか。
(原告Cを除く原告らの主張)
 原告Aは平成4年3月21日に,原告Bは同年1月24日に,原告Dは同年1月13日に,原
告Eは同年4月29日に,それぞれF眼科において,F医師からRK手術を受けた。
(被告らの主張)
 原告Cを除いては,原告らがF眼科においてF医師からRK手術を受けたことについての
証拠がない。
(2) 原告らの視力障害の有無
(原告らの主張)
ア 原告らの視力障害は,別紙被害状況一覧表のとおりである。
 なお,原告らは,術前においては,いずれも1.0以上の矯正視力を得ていた。
イ 原告Aは,遠方矯正視力が右眼0.8,左眼0.9,近方矯正視力が左右とも0.7であ
る。
  また,原告Bの右眼の矯正視力は,遠方が1.2,近方が1.0であるが,これらは病院
内の検査室での良好な室内光のある状況下で,かつ,安静にしていた状態での検査結果
であり,このような矯正視力の状態が日常生活におけるあらゆる場面における視力の状況
を示すものではない。特に,原告Bの場合は,両眼の視力に著しい差がある不同視の状態
であり,これを矯正することは技術的に不可能であるから,データとしての矯正視力は,日
常生活上の不都合を正確に反映しているとはいえない。
(被告らの主張)
ア 原告Aについて
 原告Aは,RK手術によって視力を10倍程度改善しており,術後に生じたとする視力障害
については,真実であるか極めて疑わしい。
 なお,術前の視力については不知であるが,強いて争うものではない。ただし,術前にど
のように矯正していたかは明らかでない。
イ 原告Bについて
 原告Bの近方視力が,RK手術によって低下したことを示す客観的証拠はない。また,原
告Bの右眼に実施されたRK手術には,何ら問題がなかったのであるから,原告Bに視力
障害が生じているとは考え難い。
 術前の視力については特に争うものではないが,右眼が軽度の近視であったとの点は否
認する。また,術前にどのように矯正していたかは明らかでない。
ウ 原告Cについて
 原告Cの遠方裸眼視力は,RK手術を受ける前には両眼とも0.03であったのが,RK手
術を受けたことにより,右眼0.5,左眼0.3にまで改善したのであり(現在では右眼0.4,
左眼0.6になっている。),視力障害は認められない。
 また,RK手術を受けた後も近方視力に問題がなかったことは,RK手術の1年後である
平成5年5月15日のカルテ(甲A3)に「手元細かい字が見づらいことはない。日常ラガンで
O.K.」との記載があることから明らかである。
エ 原告Dについて
 原告Dの遠方裸眼視力は,RK手術を受ける前には右眼0.05であったのが,RK手術
によって,両眼とも0.6にまで改善しており,日常生活で普通に生活するには眼鏡は不要
な状態であるから,この点において視力障害は生じていない。
オ 原告Eについて
 原告Eの遠方裸眼視力は,RK手術を受ける前には右眼0.06,左眼0.05であったの
が,現在では右眼0.2,左眼0.5となっており,RK手術によって視力は改善している。切
開の瘢痕化等があることは認めるが,RK手術後にグレア,コントラスト感度低下が生じた
との点は不知。夜間視力が低下した等の点は,裏付けを欠く安易な決めつけである。
(3) F医師の過失又は債務不履行
(原告らの主張)
ア 原告A
(ア) 適正手術義務違反
 F医師は,原告AにRK手術を実施するに当たり,①オプティカルゾーンを直径3(ないし
3.2)ミリメートル未満とした場合には,瞳孔領内に及んだ切開によって,矯正視力の低
下,コントラスト感度低下,グレア,スターバースト,夜間視力の低下,角膜の不正乱視等
の合併症が生じる危険があるから,オプティカルゾーン(RK手術において,角膜中央部で
切開しないで残す領域で,切開の端をつなぎ合わせて円になる部分)の直径を3(ないし
3.2)ミリメートル以上にすべき注意義務があったし,②RK手術における角膜への切開
は,可能な限り直線にし,かつ,幅を狭くしなければ,切開痕の修復が遅れ,瘢痕の形成,
炎症・白濁などの発生を招くおそれがあるから,切開を可能な限り直線にし,かつ,幅を狭
くすべき注意義務があったにも
かかわらず,これを怠り,右眼のオプティカルゾーンを1.8ミリメートル,左眼のオプティカ
ルゾーンを2.0ミリメートルとし,左眼に湾曲した切開を入れた。
 また,F医師は,原告Aが必要とする矯正量に応じた適切な手術計画を立てた上,その手
術計画に従った適切な部位に切開を入れるべき注意義務があったにもかかわらず,これを
怠り,不正確な手術計画を立てた上,切開を中心側に偏位させ,角膜輪部周辺にまで切
開を伸ばさなかった。
(イ) 説明義務違反
 原告らがRK手術を受けた平成4年1月ないし4月当時,RK手術は,①眼鏡やコンタクト
レンズのように安定した矯正量を得ることができず,②角膜の瞳孔領に切開が入るような
手術を行うと,角膜の屈折曲率は変化するものの,矯正視力の低下,コントラスト感度の
低下,グレア等の視力障害を合併する危険があり,③手術後の視力が相当長期間にわた
って変動し,安定しないなどとされており,日本眼科学会でも,同手術を,確立した近視矯
正方法とは評価していなかった。
 そのため,F医師は,原告Aに対し,RK手術を実施するに先立ち,RK手術が不適切に
実施された場合には,矯正視力の低下,コントラスト感度の低下,グレア等の合併症が生
じる危険のあること等を説明すべき注意義務があったにもかかわらず,これを怠り,その旨
の説明をしなかったのみならず,「RK手術をすれば,視力は10倍くらいよくなるので1.0
になる。眼鏡やコンタクトレンズを使用しなくても不自由はない。見えなくなるような心配は
ない。」と説明し,眼鏡と同程度の微妙な視力矯正が可能な手術であり,かつ,合併症の
発生する危険が皆無の手術であるかのような虚偽の説明をして勧誘した上,F眼科はRK
手術の予約が一杯で,この機会を逃せばRK手術を受けることが相当期間不可能になる
かのように装い,「今日は予約がキ
ャンセルになったので,今すぐ手術ができる。もし,今日手術をしなければ,予約が入るの
は6か月以上先になる。」と,原告Aが手術を受けるか否かを冷静に判断することのできな
いような言葉を用いて,RK手術を受けるよう勧誘した。
イ 原告B
(ア) 適正手術義務違反
 F医師は,原告BにRK手術を実施するに当たり,原告Bが必要とする矯正量に応じた適
切な手術計画を立てた上,その矯正量に応じた適切な本数の切開を入れるべき注意義務
があったにもかかわらず,これを怠り,不正確な手術計画を立てた上,原告Bにとっては多
すぎる8本の切開を原告Bの右眼に入れたものである。
(イ) 説明義務違反
 F医師は,原告Bに対し,RK手術を実施するに先立ち,RK手術が不適切に実施された
場合には,矯正視力の低下,コントラスト感度の低下,グレア等の合併症が生じる危険の
あること等を説明すべき注意義務があったにもかかわらず,これを怠り,その旨の説明をし
なかったのみならず,「RK手術をすれば,不同視も矯正できる。左右の視力を調整でき
る。心配はない。」と説明し,眼鏡と同程度の微妙な視力矯正が可能な手術であり,かつ,
合併症の発生する危険が皆無の手術であるかのような虚偽の説明をして勧誘した上,F眼
科はRK手術の予約が一杯で,この機会を逃せばRK手術を受けることが相当期間不可能
になるかのように装い,「今日は予約がキャンセルになったので,今すぐ手術ができる。も
し,今日手術をしなければ,予約が入る
のは6か月以上先になる。」と,原告Bが手術を受けるか否かを冷静に判断することのでき
ないような言葉を用いて,RK手術を受けるよう勧誘した。
ウ 原告C
(ア) 手術適応の有無
 原告Cは,強度の近視のため,RK手術による矯正では正視にならない状態であった一
方,眼鏡やコンタクトレンズにより正視の矯正視力を得ていたのであるから,RK手術の適
応はなかった。
(イ) 適正手術義務違反
 F医師は,原告CにRK手術を実施するに当たり,オプティカルゾーンの直径を3(ないし
3.2)ミリメートル以上にすべき注意義務があったにもかかわらず,これを怠り,両眼ともオ
プティカルゾーンを2.0ミリメートルとし,瞳孔領の中心部に非常に近い部位まで切開を入
れた。
 また,F医師は,原告Cが必要とする矯正量に応じた適切な手術計画を立てるべき注意
義務があったにもかかわらず,これを怠り,不正確な手術計画を立てた。
(ウ) 説明義務違反
  F医師は,原告Cに対し,RK手術を実施するに先立ち,原告CにはRK手術の適応がな
いと考えられること,RK手術が不適切に実施された場合には,矯正視力の低下,コントラ
スト感度の低下,グレア等の合併症が生じる危険のあること等を説明すべき注意義務があ
ったにもかかわらず,これを怠り,その旨の説明をしなかったのみならず,「RK手術をすれ
ば,視力は10倍くらいよくなるので1.0になる。眼鏡やコンタクトレンズを使用しなくても不
自由はない。見えなくなるような心配はない。」と説明し,眼鏡と同程度の微妙な視力矯正
が可能な手術であり,かつ,合併症の発生する危険が皆無の手術であるかのような虚偽
の説明をして勧誘した上,F眼科はRK手術の予約が一杯で,この機会を逃せばRK手術
を受けることが相当期間不可
能になるかのように装い,「今日は予約がキャンセルになったので,今すぐ手術ができる。
もし,今日手術をしなければ,予約が入るのは6か月以上先になる。」と,原告Cが手術を
受けるか否かを冷静に判断することのできないような言葉を用いて,RK手術を受けるよう
勧誘した。
エ 原告D
(ア) 手術適応の有無
 原告Dは,強度の近視のため,RK手術による矯正では正視にならない状態であった一
方,眼鏡やコンタクトレンズにより正視の矯正視力を得ていたのであるから,RK手術の適
応はなかった。
(イ) 適正手術義務違反
 F医師は,原告DにRK手術を実施するに当たり,オプティカルゾーンの直径を3(ないし
3.2)ミリメートル以上にした上,切開を可能な限り直線にし,かつ,幅を狭くすべき注意義
務があったにもかかわらず,これを怠り,両眼ともオプティカルゾーンを2.5ミリメートルとし
て瞳孔領の中心部に非常に近い部位まで切開を入れた上,右眼に湾曲した切開を入れ
た。
 また,F医師は,原告DにRK手術を実施するに当たり,原告Dの必要とする矯正量に応
じた適切な手術計画を立てた上,その矯正量に応じた適切な本数の切開を入れるべき注
意義務があったにもかかわらず,これを怠り,不正確な手術計画を立てた上,原告Dにとっ
ては多すぎる8本の切開を両眼のそれぞれに入れた。
(ウ) 説明義務違反
F医師及びF眼科従業員は,原告Dに対し,RK手術を実施するに先立ち,原告DにはR
K手術の適応がないと考えられること,RK手術が不適切に実施された場合には,矯正視
力の低下,コントラスト感度の低下,グレア等の合併症が生じる危険のあること等を説明す
べき注意義務があったにもかかわらず,これを怠り,その旨の説明をしなかったのみなら
ず,F眼科女性従業員が,「RK手術は魔法のような手術で,視力は10倍以上よくなるの
で,1.0になる。眼鏡やコンタクトレンズを使用しなくても不自由はない。スターバーストや
グレアの心配はない。」と説明し,眼鏡と同程度の微妙な視力矯正が可能な手術であり,
かつ,合併症の発生する危険が皆無の手術であるかのような虚偽の説明をして勧誘した
上,F眼科はRK手術の予約が一杯
で,この機会を逃せばRK手術を受けることが相当期間不可能になるかのように装い,「今
日は予約がキャンセルになったので,今すぐ手術ができる。もし,今日手術をしなければ,
予約が入るのは6か月以上先になる。」と,原告Dが手術を受けるか否かを冷静に判断す
ることのできないような言葉を用いて,RK手術を受けるよう勧誘した。
オ 原告E
(ア) 手術適応の有無
 原告Eは,強度の近視のため,RK手術による矯正では0.6以上の視力にはならない状
態であった一方,眼鏡やコンタクトレンズにより正視の矯正視力を得ていたのであるから,
RK手術の適応はなかった。
(イ) 適正手術義務違反
 F医師は,原告EにRK手術を実施するに当たり,オプティカルゾーンの直径を3(ないし
3.2)ミリメートル以上にすべき注意義務があったにもかかわらず,これを怠り,両眼ともオ
プティカルゾーンを2.0ミリメートルとして瞳孔領の中心部に非常に近い部位まで切開を入
れた。
 また,F医師は,原告EにRK手術を実施するに当たり,原告Eの必要とする矯正量に応じ
た適切な手術計画を立てるべき注意義務があったにもかかわらず,これを怠り,不正確な
手術計画を立てた。
(ウ) 説明義務違反
  F医師は,原告Eに対し,RK手術を実施するに先立ち,原告EにはRK手術の適応がな
いと考えられること,RK手術が不適切に実施された場合には,矯正視力の低下,コントラ
スト感度の低下,グレア等の合併症が生じる危険のあること等を説明すべき注意義務があ
ったにもかかわらず,これを怠り,その旨の説明をしなかったのみならず,「RK手術をすれ
ば,視力は10倍以上よくなるので,0.6以上になる。眼鏡やコンタクトレンズを使用しなく
ても不自由はない。手術後6か月経てばボクシングのプロ選手としてやっていける。見えな
くなるような心配はない。」と説明し,眼鏡と同程度の微妙な視力矯正が可能な手術であ
り,かつ,合併症の発生する危険が皆無の手術であるかのような虚偽の説明をした。
(被告らの主張)
 原告C,原告D及び原告EについてRK手術の適応がなかったとの点は不知ないし争う。
 F医師に,オプティカルゾーンの直径を3(ないし3.2)ミリメートル以上にすべき注意義務
があったとの点は争う。
ア 原告A
(ア) 適正手術義務違反
 F医師の原告Aに対するRK手術は適切に行われたものであり,これは,原告AがRK手
術を受けたことにより,視力が10倍程度改善していることから明らかである。
左眼の切開の一部が湾曲しているとの点は不知であるが,仮に湾曲が生じていたとして
も,原告Aは,平成5年3月20日に,K医師から再手術を受けているのであるから,これが
F医師の手技による切開であるかは明らかでない。
(イ) 説明義務違反
 F医師やF眼科の従業員に説明義務違反や不適切な勧誘があったとは認められない。
すなわち,原告Aは,グレア,スターバースト等の合併症について自ら研究しており,F
眼科を受診する前からRK手術を受けることを決意していた。原告AにRK手術が実施され
ることになったのは,原告A自身の強い要請によるものである。また,原告Aは,F眼科にお
いて,「術後の症状についてのご注意」と題する書面を見せられ,それら症状が生じ得るこ
とを確認した上でRK手術を受けている。
  したがって,F医師やF眼科の従業員に説明義務違反や不適切な勧誘はなかったという
べきであるし,説明義務違反や不適切な勧誘によって,原告AがRK手術を受けることにな
ったものでもない。
イ 原告Bについて
(ア) 適正手術義務違反
 切開の本数を8本としたことが,原告Bにとって多すぎたとの点は争う。
 F医師は,原告Bに対して,RK手術を適正に実施したものであり,このことは,L大学医
学部附属病院眼科M医師による検査報告書(甲B全4)の2枚目には,原告Bに実施され
たRK手術について「比較的きれいなRKがやってある。」と記載されていること,原告Bは,
右眼についてRK手術を受けた後,半年間程度は,右眼の視力は0.7程度に回復し,問
題は生じていなかったことから明らかである。
(イ) 説明義務違反
 F医師やF眼科の従業員に説明義務違反や不適切な勧誘があったとは認められない。
 すなわち,眼にメスを入れるという手術法は,通常の感覚からすれば極めて強い恐怖を
感じるものであるところ,事前に十分な知識を習得しているか,医師から納得のいくような
説明を受けない限り,RK手術を受けるとの決断はできないから,原告Bは,F眼科を受診
する前から,RK手術を受けることを決意していたというべきである。
 したがって,F医師やF眼科の従業員に説明義務違反や不適切な勧誘はなかったという
べきであるし,説明義務違反や不適切な勧誘によって,原告BがRK手術を受けることにな
ったものでもない。
ウ 原告Cについて
(ア) 適正手術義務違反
 手術内容自体については認める。
 F医師は,原告Cに対し,RK手術を適正に実施したものであり,このことは,原告Cの遠
方裸眼視力が,RK手術前には両眼とも0.03であったのが,RK手術を受けた後には,左
眼0.3,右眼0.5にまで改善したことより明らかである。
(イ) 説明義務違反
 F医師やF眼科の従業員に説明義務違反や不適切な勧誘があったとは認められない。
 すなわち,F医師及びF眼科の従業員は,原告Cに対し,「手術承諾書」及び「術後の症状
のご注意」と題する各書面を手渡し,これに署名押印をしてもらっており,RK手術の合併
症についての十分な説明を行っていた。また,RK手術を受けるには手術日の1週間前か
らコンタクトレンズを外す必要があるが,原告Cは,手術日の1週間前からコンタクトレンズ
を外していたのであり,F眼科を受診する前から,RK手術を受けることを決意していたこと
がうかがえる。
 したがって,F医師やF眼科の従業員に説明義務違反や不適切な勧誘はなかったという
べきであるし,説明義務違反や不適切な勧誘によって,原告CがRK手術を受けることにな
ったものでもない。
エ 原告Dについて
(ア) 適正手術義務違反
 切開が瞳孔領の中心部に非常に近い部位までなされていたとの評価は争う。
 F医師は,原告Dに対し,RK手術を適正に実施したものであり,このことは原告Dの遠方
裸眼視力が,RK手術前は両眼ともに0.05であったのが,RK手術を受けた後には両眼と
もに0.6にまで改善していることから明らかである。
(イ) 説明義務違反
 F医師やF眼科の従業員に説明義務違反や不適切な勧誘があったとは認められない。
 すなわち,F医師及びF眼科の従業員は,原告Dに対し,「手術承諾書」及び「術後の症状
のご注意」と題する各書面を手渡し,これに署名押印をしてもらっており,RK手術の合併
症についての十分な説明を行っていた。また,原告Dは,RK手術の危険性を十二分に認
識した上で,F眼科を訪れている。
 したがって,F医師やF眼科の従業員に説明義務違反や不適切な勧誘はなかったという
べきであるし,説明義務違反や不適切な勧誘によって原告DがRK手術を受けることになっ
たものでもない。
オ 原告Eについて
(ア) 適正手術義務違反
 F医師によるRK手術の実施状況が不明であり,原告Eは,適正手術義務違反について
の立証責任を果たしていない。
(イ) 説明義務違反
 F医師は,F眼科の従業員であったNをして,原告Eに対して,40分にもわたって,RK手
術についての説明をさせたのであるから,F医師に説明義務違反はない。
(4) 因果関係
(原告らの主張)
ア 原告A
 原告Aがコントラスト感度の低下等の視力障害を負ったのは,F医師がRK手術におい
て,右眼のオプティカルゾーンを1.8ミリメートル,左眼のオプティカルゾーンを2.0ミリメ
ートルとし,左眼における切開を一部湾曲させたためである。
 また,原告Aの遠方裸眼視力が1.0にならなかったのは,F医師の手術計画が不正確で
あった上,F医師が切開を中心側に偏位させ,角膜輪部周辺にまで切開を伸ばさなかった
ためである。
イ 原告B
 原告Bの右眼が過矯正となったのは,F医師の手術計画が不正確であった上,原告Bに
とっては多すぎる8本もの切開を入れたためである。
 また,スターバースト,グレア等の視力障害が生じたのは,8本の切開の一部が瞳孔領
に及んでいるためである。
ウ 原告C
 原告Cが矯正視力の低下,コントラスト感度の低下等の視力障害を負ったのは,F医師
が,両眼ともオプティカルゾーンを2.0ミリメートルとして瞳孔領の中心部に非常に近い部
位まで切開を入れたためである。
 また,原告Cの遠方裸眼視力が1.0にならなかったのは,F医師の手術計画が不正確で
あったためである。
エ 原告D
 原告Dが矯正視力の低下,コントラスト感度の低下等の視力障害を負ったのは,F医師
が,両眼のオプティカルゾーンを2.5ミリメートルとし,右眼に湾曲した切開を入れたためで
ある。
 また,過矯正となったのは,F医師の手術計画が不正確であった上,8本もの切開を矯正
効果の高い瞳孔領に及ぼしたためでもある。
オ 原告E
 原告Eが矯正視力の低下,コントラスト感度の低下等の視力障害を負ったのは,F医師
が,両眼のオプティカルゾーンを2.0ミリメートルとしたためである。
 また,過矯正となったのは,F医師の手術計画が不正確であった上,4本の切開を矯正効
果の高い瞳孔領に及ぼしたためでもある。
(被告らの主張)
ア オプティカルゾーンの不足,切開の湾曲,切開本数等が視力障害を生じさせたとする
点は不知。
イ(ア) 原告A
 原告Aは,平成5年3月20日に,K医師から,右眼について再手術を受けており,原告A
の視力障害のうち,どれがF医師の実施したRK手術によって生じたものであるか明らかで
ない。
(イ) 原告B
 原告Bは,右眼についてRK手術を受けた後半年間程度は,右眼の視力は0.7程度に
回復し,問題は生じていなかったのであるから,原告Bの視力障害は,RK手術以外の他
要因によって生じたものである。
 また,原告Bの不同視は,RK手術を受けなかった左眼の視力が悪化したために生じたも
のであるから,RK手術との間に因果関係は認められない。
(ウ) 原告C
 原告Cの視力障害とRK手術との間に因果関係は認められない。
 すなわち,①原告Cには,RK手術を受ける前から,既にコンタクトレンズの長時間使用に
より角膜に傷があったこと,②原告Cは,常時摂氏40度の過酷な状況で,1時間に1200
本のペットボトルを目視検査する等眼を酷使する仕事に従事していたこと,③仕事場では
ペットボトルの処理に伴い,ダイオキシンが発生していたこと,④RK手術前に原告Cの視
力が低下し始めたのは,その仕事場で働き始めた後のことであること,⑤手術前から日常
的にサングラスを使用しており,もともと太陽光線に対して弱い眼であったこと,⑥原告Cに
ついて,視力が急に低下したのは手術から5年以上たった平成9年10月のことであること
などからして,原告Cの視力障害は,RK手術以外の他要因によって生じたものである。
(エ) 原告D
 原告Dは,平成6年ころ,K医師から,左眼について再手術を受けており,原告Dの視力
障害のうち,どれがF医師の実施したRK手術によって生じたものであるか明らかでない。
 また,原告Dは,RK手術を受ける前から強い乱視があったのであるから,夜間視力の低
下や夜間コントラスト感度の低下等が,RK手術によって生じたものとは認められない。
(オ) 原告E
 原告Eの視力障害とRK手術との間に因果関係は認められない。
 すなわち,①原告Eの眼の状態について,平成11年5月28日の検査記録が存在する
が,RK手術を受けた平成4年からそれまでの8年の間に,どのような経過をたどったのか
が明らかでないし,②原告Eはその間にボクシングを続け,顔面にパンチを受けたこともあ
るから,これによって視力障害が発生した可能性もあり,③原告Eは,平成5年,K医師か
ら,左眼について再手術を受けているところ,原告Eの視力障害が,F医師とK医師のどち
らが実施したRK手術によって生じたものであるか区別することはできないから,原告Eの
視力障害とRK手術との間に因果関係を認めることはできない。
(5) 被告アートメーキング三井及び被告エイエム三井は,F眼科の経営者か。
(原告らの主張)
 F眼科の経営者は,被告アートメーキング三井及び被告エイエム三井であった。
 すなわち,F眼科においては,被告アートメーキング三井及び被告エイエム三井が賃借建
物,従業員,預金等を管理していた。また,被告アートメーキング三井及び被告エイエム三
井は,Gを唯一の実質的経営者として,法人相互間及び個人を含め,明確に区別し得ない
状態で一体として運営されていたものであるから,被告アートメーキング三井及び被告エイ
エム三井の法人格は,両者の関係及びGとの関係において,いずれも形骸化していた。こ
れらの事実からすれば,F眼科の経営者は,G並びに同人と一体である被告アートメーキ
ング三井及び被告エイエム三井であった。
 したがって,被告アートメーキング三井及び被告エイエム三井は,原告らに対し,F医師
の使用者として使用者責任(民法715条)を負うし,診療契約の契約当事者として債務不
履行責任も負う。
(被告らの主張)
 F眼科の開設者兼経営者はF医師であり,被告アートメーキング三井及び被告エイエム
三井は,F眼科の経営に関与していない。
 また,Gの経営する会社が複数存在したとしても,それらは独立した法人であり,財産の
混同,法人格の形骸化はなかったから,被告アートメーキング三井及び被告エイエム三井
の法人格が,両者の関係及びGとの関係において,いずれも形骸化していたなどということ
はない。
(6) 被告エフエムエスの責任
(原告らの主張)
ア 事業の同一性
  被告エフエムエスは,被告アートメーキング三井及び被告エイエム三井が経営していた
美容外科の事業をそのままの形で引き継いでおり,外形上,事業者の名称が変更したに
過ぎないから,その実質には何らの変化もなく,被告エフエムエスの事業と被告アートメー
キング三井及び被告エイエム三井の事業との間には「事業の同一性」が認められる。した
がって,被告らは,すべて同一の事業を営んでいる同一の法人として評価されるべきであ
るから,被告エフエムエスは,被告アートメーキング三井及び被告エイエム三井と同様に,
原告らに対する損害賠償義務を負うものである。
イ 法人格否認の法理
  被告エフエムエスは,Gが経営していた多数の法人の中の1つであり(当時の商号は株
式会社エイエムリース),他の法人との関係及びG個人との関係において法人格が形骸化
していたのであるから,法人格否認の法理が適用され,被告アートメーキング三井及び被
告エイエム三井と同様に,原告らに対する損害賠償義務を負うものである。
(被告らの主張)
 事業の同一性について原告らの主張は,理論的根拠を欠くものである。
 また,Gの経営する会社が複数存在したとしても,それらは独立した法人であり,財産の
混同,法人格の形骸化はなかった。
(7) 和解契約の効果が被告らに及ぶか。
(被告らの主張)
原告らの主張は,被告らや有限会社アールケイ大阪(以下「アールケー大阪」という。)を含
んだ法人グループ及びGが,実質的に同一であることを理由とするものと解されるが,その
主張を前提とするなら,原告らがアールケー大阪等と締結した和解契約の効果が,原告ら
と被告らとの間にも及ぶため,原告らは,被告らに対して,RK手術に関する損害賠償を請
求することはできないと解される。
すなわち,原告らは,平成11年4月19日,F医師,アールケー大阪及びO(Gの子)との間
で,F医師が原告らに対して実施したRK手術について,F医師が原告らに対し,解決金とし
て合計200万円を支払い,アールケー大阪及びOが原告らに対し,解決金として連帯して
合計100万円を支払うこと,原告らは,F医師,アールケー大阪及びOに対して,その他裁
判上・裁判外の請求をしないこと等を内容とする和解契約を締結しているが,請求権を放
棄する旨の合意の効果が,原告及びアールケー大阪等と同一である被告らとの間にも及
ぶため,原告らは,被告らに対して,RK手術に関する損害賠償を請求することはできな
い。
(原告らの主張)
 責任を負うべきである人が複数いる場合,その一部と和解契約を締結しても,その効果
が他の者に及ぶものではない。
(8) 本件において,被告らが商事消滅時効(5年間)を援用できるか。
(被告らの主張)
 被告らはいずれも株式会社であり,その行為には商行為の規定が準用される(商法523
条)ため,原告らの被告らに対する債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間
は5年間(商法522条)である。
 原告らの主張によれば,原告らに手術がなされたのは,平成4年1月ないし5月のことで
あるから,債務不履行に基づく損害賠償請求権は(当然のことながら,不法行為に基づく
損害賠償請求権も),いずれも消滅時効期間が経過している。
(原告らの主張)
 医療契約上の債務不履行責任の消滅時効期間は10年間である。
 また,医療法は,営利法人が診療所その他の医療機関を経営することを予定していない
から,Gが法人相互間及び個人を明確に区別しない状態で経営をしたために,損害賠償義
務を負担すべき主体に会社が含まれるとしても,原告らの損害賠償請求権の消滅時効の
期間が5年間に短縮されるいわれはない。
(9) 損害
(原告らの主張)
ア 原告らの被った損害は,別紙損害内訳一覧表のとおりである。
イ 視力障害について後遺障害等級を評価するに際しては,遠方矯正視力にとどまらず,
近方矯正視力をも検討し,両者のうちで矯正視力が低い方の数値をもって評価すべきであ
る。また,コントラスト感度の低下,グレア,夜間視力の低下等の症状については,調整機
能麻痺に準じて評価すべきである。
  不同視や視力の変動(長期変動ないし日内変動)等RK手術による視力障害は,矯正
視力の数値だけからは日常生活の不都合を評価することはできないから,それぞれの症
状の特徴を十分に検討した上で,総合的に視力障害の程度を評価すべきである。
ウ 原告らに,現実には収入の減少がないとしても,それは原告らがRK手術に起因する
視力障害があることを職場に秘匿した上で,RK手術前と同様の仕事を行っていくために
格段の努力を重ねたためであるから,その場合でも逸失利益を認めるべきである。
(被告らの主張)
ア 原告らに損害が生じていたとしても,原告らは,F医師等から和解金として1人当たり6
0万円の支払を受けており,損害は補填済みである。
イ(ア) 原告A
  原告Aは,RK手術の後も,従来の仕事を継続し,引き続き安定した収入を得ているか
ら,原告Aに財産的損害は生じていない。
 (イ) 原告B
  原告Bの財産的損害について,具体的な立証はなされていない。
 (ウ) 原告C
  原告Cは,RK手術の後も,9年間は仕事を継続していたし,また,平成13年に仕事を
辞めたのは,自らの意思によるものであるから,原告Cが仕事を辞めたことと原告Cの視力
障害とは無関係である。
 (エ) 原告D
  原告Dが精神分裂病に罹患していることや就職できていないことと原告Dの視力障害と
は無関係である。
 (オ) 原告E
  原告Eが仕事に支障を来したことと原告Eの視力障害とは無関係である。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(原告Cを除く原告らは,F医師から,RK手術を受けたか。)について
 (1) 原告Cを除く原告らも,F眼科において,F医師からRK手術をされた旨述べており(各
原告本人,甲C1ないし5),その供述に不自然な点は見当たらないこと,同原告らがF医
師,アールケー大阪及びOとの間で,同原告らがF医師からRK手術を受けたことを前提と
した和解契約を締結していること(甲C全4),同原告らの眼にはRK手術による切開が存在
すること(甲B全3,4,6,7)によれば,原告Aは平成4年3月21日に,原告Bは同年1月2
4日に,原告Dは同年1月13日に,原告Eは同年4月29日に,それぞれF眼科において,
F医師からRK手術を受けたものと認められる。
(2) なお,原告Cを除く原告については,F眼科での診療録等が証拠として提出されていな
いが,F眼科は,平成4年に閉鎖されている(争いのない事実)のであるから,それから長
期間経過した現在において診療録等が発見できないとしても不自然ではなく,上記認定を
妨げるものではない。
2 前記争いのない事実,証拠(甲B全2,9,10,C全101,102)及び弁論の全趣旨によ
れば,RK手術について,以下の医学的知見が認められる。
(1) 定義
 RK手術とは,角膜に放射状の切開(RK切開)を入れ,角膜の屈折率を緩和させることに
より,近視を矯正する手術のことである。
 乱視矯正角膜切開(T切開)とは,乱視の強い軸に対して,強主径線を横断するように切
開を入れて,乱視を矯正する手術のことである。
 (以下において,特にことわりがない限り,「切開」は,「RK切開」を意味するものとして用
いる。)
(2) RK手術による近視矯正の効果
  RK手術による矯正量が,誤差プラスマイナス1D(ジオプター)の範囲内で予測値に入
る可能性は,60ないし70パーセントであるとされている。矯正量が6D以下の場合には,
予測値と術後の値とがおおむね一致していたが,矯正量が増加するにつれて誤差が大き
くなり,角膜の混濁も増強する傾向があるとの報告もされている。
 また,RK手術は,1970年代ないし80年代から盛んに行われ始めた手術であるため,
長期予後は不明である。
(3) RK手術の適応
ア RK手術の適応があるのは,以下の場合であるとされている。
(ア) 2Dを超える不同視
(イ) 2Dを超える角膜乱視
(ウ) 3Dを超える屈折度の安定した近視
イ 強度近視のため,オプティカルゾーンを3ミリメートル未満にしたり,本数を16本よりも
多くしなければ,矯正効果が得られないと予想される場合は,原則として,RK手術の適応
外である(その理由は,後記のとおりである。)。
ウRK手術の禁忌は,感染症やアレルギーによる外眼部の炎症,ドライアイ,円錐角膜,
緑内障,白内障,ブドウ膜炎(眼内の炎症),創傷治癒過程に問題があるような疾患等であ
る。
  屈折度の安定していない眼については適応がなく,20歳未満の患者は,一般に屈折
度が安定していない場合が多いこと等から禁忌とされている。
(4) RK手術の実施方法
ア 術前検査
 RK手術を実施するに当たっては,RK手術の適応を判断し,適切な手術計画を立てるた
め,術前に,屈折度,矯正視力・裸眼視力,眼圧,角膜の厚み,角膜の形状,禁忌疾患の
有無,視軸の位置等を検査する。これらの術前検査をすべて行うには,1時間程度の時間
を要する。
イ 手術計画
 術前検査で得られたデータを基に,どのように切開を入れるかという手術計画を立てる。
手術計画を立てるに当たっては,術前の屈折度が一番重要なデータであるが,他に,年
齢,性別,眼圧も考慮することになる。
 矯正量の調整は,切開の本数とオプティカルゾーンの幅によって行う。
  切開の本数は,多いほど矯正量が大きくなるが,切開の本数が多くなるほど角膜の強
度が下がってしまうため,切開の本数は,16本が限界であるとされている。また,切開は,
これを上下左右対称にしなければ,不正乱視を誘発しやすくなるため,乱視が強い場合で
ない限り,切開の本数は,4本,8本,16本のいずれかにすべきである。
  オプティカルゾーンは,これを狭くするほど矯正量が大きくなる。しかし,一般に角膜の
中央部に切開を加えると,それだけで強い視力障害を起こしやすく,RK手術においても,
オプティカルゾーンの直径を3ミリメートル未満にした場合には,コントラスト感度の低下,
グレア障害,不正乱視等の視力障害が生じやすい。また,不正乱視の程度によっては,矯
正視力が低下することもある。そのため,術者がRK手術に熟練している等,特段の事情
がない限り,オプティカルゾーンは3ミリメートル以上確保すべきであるとされている(3ミリ
メートルという数値は,通常の明所における瞳孔径と一致するものである。)。
ウ 手術の実施(切開の入れ方)
 角膜上に視軸及びオプティカルゾーンをマーキングした上で,手術計画に従った切開をメ
スによって入れる。
 手術実施者は,具体的な切開の入れ方について,次のような点等を注意しなければなら
ないとされている。
(ア) オプティカルゾーンを3ミリメートル以上確保する。
  その一方,十分な矯正効果を得るために,切開は,角膜輪部(角膜と鞏膜の境界部分)
近くにまで伸ばす。ただし,角膜輪部には血管があるので,切開は,角膜輪部より0.5ミリ
メートルほど内側までで止める。
(イ) 切開の深さ・長さ等が不規則だと,矯正量が予測値からずれたり,コントラスト感度の
低下,不正乱視を起こす原因になり,矯正視力の低下をもたらすこともあるから,まっすぐ
とした切開を入れる。
(ウ) 矯正効果を得るために,切開の深さは,角膜厚の80パーセントから90パーセントくら
いとする。
(エ) 切開の幅は,広くするほど矯正量は大きくなるが,その一方で,広く
するほど術後の創傷治癒が遅れたり,角膜の強度が落ちたりすることがあるので,広くし
すぎないようにする(切開の幅は,通常RK手術に用いるダイヤモンドメスの幅で決ま
る。)。
(オ) T切開を行う場合には,これとRK切開とを交差させると,その部分で切開が広がった
り,強い斑紋収縮を惹起することがあるので,T切開とRK切開とは交差させない。
(5) 合併症とその原因等
 RK手術の主な合併症及びその原因は,以下のとおりである。
ア 過矯正
 手術によって得られた矯正量が,患者の必要とする矯正量より多すぎた場合のことであ
る。
 手術計画が不正確であったり,手術計画が正確であっても,これに従った切開の入れ方
(オプティカルゾーン,切開の深さ等)をしていない場合には,過矯正となる。
イ 不正乱視
  不正乱視とは,乱視の中でも,角膜の形状が不正な状態にある場合のことである。これ
が生じると,グレア,コントラスト感度の低下の原因にもなるし,不正乱視の程度によって
は,矯正視力の低下を招くこともある。
  不正乱視は,切開の深さや形状が不規則であったり,オプティカルゾーンが狭かったり
した場合に生じやすいとされている。
ウ 矯正視力の低下
 矯正視力の低下とは,眼鏡等によって得ることのできる最良の視力が低下することであ
り,不正乱視(角膜の形状が不正な状態)が原因である場合が多い。
 不正乱視が,切開の深さや形状が不規則であったり,オプティカルゾーンが狭かったりし
た場合に生じやすいことについては前記のとおりである。
エ コントラスト感度の低下
 コントラスト感度とは,白と黒の境界を識別する能力のことである。RK手術後にコントラ
スト感度が低下した場合でも,RK手術から1年を経過すれば相当程度回復することが多
いが,夜間におけるコントラスト感度の低下は回復しない場合が多いとされている。
 切開の深さや形状が不規則であったり,オプティカルゾーンが狭かったりした場合に生じ
やすいとされている。
オ グレア
 光を非常にまぶしく,又は,見づらく感じることである。角膜に加えた切開により光が乱反
射することで生じる現象である。
 角膜に部分的な濁りがあったり,白内障であったり等,眼内に光が入る部分に濁りがある
ことを原因とする場合がある一方,角膜の表面に不正があったり,傷があったりした場合に
も生じることがある。
 RK手術においては,オプティカルゾーンが狭い場合,切開本数の多い場合に生じやす
いとされている。
カ スターバースト
 夜間に車のヘッドライトなどの光が,放射状に散乱して見える現象であり,オプティカルゾ
ーンを狭くした場合に生じやすいとされている。
キ 不同視
 左右の視力に大きな差が生じることである。
ク 視力変動
 (ア) 視力日内変動
 1日の中で,昼間と夜間とで視力が変動することである。
 その機序について,いくつかの説(①眼内圧が1日の中で変動しているので,それによっ
て角膜の形状が変わり,屈折度が変わる,②夜間まぶたを閉じておくと,角膜の浮腫がで
き,これによって屈折の状態が変わる等)があり,はっきりとしたことは分かっていないが,
RK切開をしない人に視力日内変動が生じることはあまりない。
(イ) 視力の長期的,持続的な変動
 視力が,長期間にわたって変動を起こすことである。
 角膜の実質部分の創傷治癒は非常に遅く,数か月,場合によっては1年以上たっても治
癒過程が続いていることがあるため,切開した部分の生理学的な強度が長期間にわたっ
て変化し,屈折度が変わってしまうものと考えられている。
ケ 夜間視力の低下
   夜間の視力は,通常でも昼間の視力より低下するが,低下の程度が通常より大きい
状態のことである。
   RK手術においては,切開が瞳孔領に及んだ場合に,これが眼内に入る光の量を減ら
し,夜間視力低下の原因になる。
コ 角膜穿孔
 角膜に穿孔が生じることである。
 切開の深さは,角膜厚の80パーセントから90パーセントにするのが通常であるが,刃の
先端が角膜のデスメ膜(裏側)に達して,前房に切開が及ぶことがある。小穿孔なら問題は
ないが,大穿孔だと,目の中の水が漏れ出て手術の継続が困難になるし,刃先が水晶体
や虹彩に当たったりして,眼内の組織を傷つけるおそれがある。また,角膜内皮細胞を傷
つける可能性もあり,その場合には,水疱性角膜症を起こす原因になり得る。
(6) 眼科学会におけるRK手術の評価
 日本眼科学会では,佐藤医師が1940年代から1950年代にかけて行った角膜全方面
切開術によって,水疱性角膜症のような強い合併症が現われたという経験から,角膜に切
開を入れる手術は行わない方がよいという暗黙の了解があった。ただし,近年では,アメリ
カを中心に,RK手術に肯定的な症例報告が数多くされるようになったことから,次第に近
視矯正方法の1つとして認められつつあるという状況にある。
 一方,RK手術の合併症等の問題については,1980年代前半ころから,学会誌等に発
表されていた。
(7) RK手術による合併症の有無,程度についての検査
ア 矯正視力を測定するに際しては,球面レンズと円柱レンズが用いられる。
 球面レンズは,遠視又は近視を矯正するレンズである。そのうち凸レンズは遠視を矯正
するレンズであり,検査数値上はプラスとして表記される。凹レンズは近視を矯正するレン
ズであり,検査数値上はマイナスとして表記される。レンズの度数の単位は,D(ジオプタ
ー)である。
 円柱レンズは,乱視を矯正するレンズであり,球面レンズと同様,凸レンズと凹レンズが
ある。
  被検査者の視力を矯正するために用いたレンズの種類,度数により,被検査者の遠視
や近視の有無・程度,乱視の有無・程度,強主径線が表される。また,屈折値の他覚検査
においても,検査結果は同様の方法で表される。
イ SRI(球面不正指数)は,角膜表面曲率の不正を示す指標,SAI(球面均整指数)・非
対称性を示す指標であり,これらによって不正乱視の有無,程度を知ることができるし,こ
れら指標と矯正視力の低下との間には相関関係がある。正常眼での値は,SRI0~0.7
5,SAI0~0.53である。
ウ 原告らは,L大学医学部附属病院眼科において,眼の検査を受けたが,コントラスト感
度及びグレアについては,昼間コントラスト感度,昼間周辺グレア下(視界の周辺に電球を
つけた状態のこと)でのコントラスト感度,夜間コントラスト感度,夜間中心グレア下(視界
の中心に電球をつけた状態のこと)でのコントラスト感度の測定により検査された。各条件
下において,1.5,3,6,12,18(単位はcycle/deg)の5つの周波数でコントラスト感度が
測定され,正常範囲より1段階低下しているものは軽度低下,2段階低下しているものは
中等度低下,3段階以上低下しているものは高度低下と判定された。
3 争点(2)(原告らの視力障害の有無)について
(1) 原告A
 原告Aは,F医師からRK手術を受ける前,遠方視力が右眼0.07ないし0.08,左眼0.
1ないし0.15であったが,矯正すれば,両眼とも1.0の視力を得ることができており,乱
視はなかった。また,近方視力は正常な範囲にあったし,コントラスト感度の低下,グレア
等の障害は生じていなかった(甲C1,原告A本人,弁論の全趣旨)。
 一方,甲B全3,C1及び原告A本人によれば,平成8年1月4日時点での視力,視力障
害等は以下のとおりであったと認められる。
ア 遠方視力は,右眼の裸眼視力0.7,矯正視力0.8(円柱レンズの度マイナス1.25
D,軸の方向45度),左眼の裸眼視力0.8,矯正視力0.9(円柱レンズの度マイナス0.7
5,軸の方向130度),近方視力は,右眼の裸眼視力0.4,矯正視力0.7(円柱レンズの
度マイナス1.25D,軸の方向45度),左眼の裸眼視力0.6,矯正視力0.7(円柱レンズ
の度マイナス0.75,軸の方向130度)であり,自動他覚屈折・角膜計による屈折値は,右
眼が球面レンズの度プラス1.25D,円柱レンズの度マイナス1.25D,軸の方向45度,
左眼が球面レンズの度プラス1.75D,円柱レンズの度マイナス0.75D,軸の方向130
度であった。
イ 自覚症状として,グレア,スターバーストがあった。
ウ ①昼間コントラスト感度は,右眼が1.5,18で高度低下,3,6,12で軽度低下,左眼
が1.5,18で高度低下,3,6で中等度低下,②昼間周辺グレアでのコントラスト感度は,
右眼が1.5,18で高度低下,3,6,12で軽度低下,左眼が全周波数で軽度低下,③夜
間中心グレアでのコントラスト感度は,右眼が1.5,18で高度低下,3,6,12で軽度低
下,左眼が1.5,12,18で高度低下,3,6で軽度低下であった。
エ SRIは右眼0.95,左眼0.86,SAIは右眼0.86,左眼0.55であった。
オ 総合評価
 両眼とも軽度近視の状態であり,矯正視力は,遠方・近方ともにやや低い。乱視も生じて
いるが,その程度は軽度である。
 コントラスト感度の低下,グレア及びスターバーストといった視力障害が生じている。
(2) 原告B
 原告Bは,F医師から右眼についてRK手術を受ける前,遠方視力が右眼0.2,左眼1.
0であり,コンタクトレンズや眼鏡で矯正すれば,右眼においても1.0の視力を得ることが
できており,乱視はなかった。また,近方視力は正常な範囲にあったし,コントラスト感度の
低下,グレア等の障害は生じていなかった(甲C2,原告B本人,弁論の全趣旨)。
 一方,甲B全4及び原告B本人によれば,平成11年3月6日時点での視力,視力障害等
は以下のとおりであったと認められる。
ア 遠方視力は,右眼の裸眼視力0.6,矯正視力1.2(球面レンズの度プラス1.5D,円
柱レンズの度マイナス0.5D,軸の方向110度),左眼の裸眼視力0.1,矯正視力1.5
(球面レンズの度マイナス2.25D),近方視力は,右眼の裸眼視力0.2,矯正視力1.0
(球面レンズの度プラス3.5D,円柱レンズの度マイナス0.5D,軸の方向110度),左眼
の裸眼視力1.0,矯正視力1.5(球面レンズの度マイナス0.5D)であり,自動他覚屈折・
角膜計による屈折値は,右眼が球面レンズの度プラス2.5D,円柱レンズの度マイナス
0.75D,軸の方向109度,左眼が球面レンズの度マイナス2.5D,円柱レンズの度マイ
ナス0.25D,軸の方向161度であった。
イ 自覚症状として,グレア,スターバースト,夜間視力低下及び視力変動があった。
ウ ①昼間コントラスト感度は,右眼が6,12で高度低下,1.5,18で中等度低下,3で軽
度低下,②昼間周辺グレアでのコントラスト感度は,右眼が6,12,18で軽度低下,③夜
間コントラスト感度は,右眼が6で高度低下,1.5,3,12で中等度低下,18で軽度低下,
④夜間中心グレアでのコントラスト感度は,右眼が3で高度低下,1.5,6,12で中等度低
下,18で軽度低下であった。
エ SRIは右眼3.55,左眼0.42,SAIは右眼0.67,左眼0.39であった。
オ 総合評価
 原告Bは,右眼が遠視性乱視であり,左眼が近視である。右眼の近方視力も,左眼の遠
方視力も,矯正視力は1.0を超えている。
 コントラスト感度の低下,グレア,スターバースト,夜間視力低下及び視力変動といった視
力障害が生じている。
(3) 原告C
 原告Cは,RK手術を受ける前は,遠方視力が両眼ともに0.03であり,乱視も少しあっ
たが,コンタクトレンズをすれば,1.2程度の視力を得ることができていた。また,近方視力
は正常な範囲にあったし,コントラスト感度の低下,グレア等の視力障害は生じていなかっ
た(甲C3,原告C本人,弁論の全趣旨)。
 一方,甲B全5及び原告C本人によれば,平成11年3月6日時点での視力,視力障害等
は以下のとおりであったと認められる。
ア 遠方視力は,右眼の裸眼視力0.4,矯正視力0.5(円柱レンズの度マイナス2.0D,
軸の方向30度),左眼の裸眼視力0.6で矯正不能,近方視力は,右眼の裸眼視力0.2,
矯正視力0.4(球面レンズの度プラス2.0),左眼の裸眼視力0.1,矯正視力0.4(球面
レンズの度プラス2.0D)であり,自動他覚屈折・角膜計による屈折値は,右眼が球面レン
ズの度プラス3.25D,円柱レンズの度マイナス3.5D,軸の方向32度,左眼が球面レン
ズの度マイナス1.5D,円柱レンズの度マイナス1.5D,軸の方向174度であった。
イ 自覚症状として,グレア,スターバースト,夜間視力低下及び視力変動があった。
ウ ①昼間コントラスト感度は,右眼が1.5,3,6,12で高度低下,18で中等度低下,左
眼が1.5,3,6,12で高度低下,18で中等度低下,②昼間周辺グレアでのコントラスト感
度は,右眼が6,12で高度低下,1.5,3,18で軽度低下,左眼が6,12で高度低下,1.
5,3,18で軽度低下,③夜間コントラスト感度は,右眼が1.5,3,6で高度低下,12で中
等度低下,18で軽度低下,左眼が1.5,3,6で高度低下,12で中等度低下,18で軽度
低下,④夜間中心グレアでのコントラスト感度は,右眼が1.5,3,6で高度低下,12で中
等度低下,18で軽度低下,左眼が1.5,6で高度低下,3,12で中等度低下,18で軽度
低下であった。
エ SRIは右眼3.15,左眼1.62,SAIは右眼1.87,左眼2.09であった。
オ 総合評価
遠方近方の矯正視力は,ともに低下が大きく,乱視も術前より強くなった。
 コントラスト感度低下,グレア,スターバースト,夜間視力低下,視力変動といった視力障
害が生じている。
 (4) 原告D
 原告Dは,F医師からRK手術を受ける前,遠方視力が両眼ともに0.05の近視であり,
コンタクトレンズや眼鏡で矯正すれば,両眼とも1.0の視力を得ることができていた。ま
た,近方視力は正常な範囲にあったし,コントラスト感度の低下,グレア等の障害は生じて
いなかったが,強い乱視があった(甲C4,原告D本人,弁論の全趣旨)。
 一方,甲B全6及び原告D本人によれば,平成11年3月6日時点での視力,視力障害等
は以下のとおりであったと認められる。
ア 遠方視力は,右眼の裸眼視力0.6,矯正視力1.2(球面レンズの度プラス5.5D,円
柱レンズの度マイナス0.75D,軸の方向90度),左眼の裸眼視力0.6,矯正視力1.2
(球面レンズの度プラス8.0D,円柱レンズの度マイナス3.50D,軸の方向30度),近方
視力は,右眼の裸眼視力0.2,矯正視力0.5(球面レンズの度プラス5.5D,円柱レンズ
の度マイナス0.75D,軸の方向90度),左眼の裸眼視力0.1,矯正視力0.3(球面レン
ズの度プラス8.0D,円柱レンズの度マイナス3.50D,軸の方向30度)であり,自動他覚
屈折・角膜計による屈折値は,左右とも測定不能であった。
イ 自覚症状として,グレア,スターバースト及び夜間視力低下があった。
ウ ①昼間コントラスト感度は,右眼が1.5,12で高度低下,3,6,18で中等度低下,左
眼が3,18で軽度低下,6,12で中等度低下,1.5で高度低下,②昼間周辺グレアでのコ
ントラスト感度は,右眼が1.5,6,12で軽度低下,左眼が12で中等度低下,6で軽度低
下,③夜間コントラスト感度は,右眼が1.5,3,6で高度低下,12で中等度低下,18で軽
度低下,左眼が1.5,3で高度低下,6,12で中等度低下,18で軽度低下,④夜間中心
グレアでのコントラスト感度は,右眼が1.5,3で高度低下,6,12で中等度低下,18で軽
度低下,左眼が1.5,3で高度低下,6で中等度低下,12,18で軽度低下であった。
エ SRIは右眼1.66,左眼5.81,SAIは右眼2.38,左眼2.79であった。
オ 総合評価
 原告Dは,遠方視力こそ,裸眼・矯正ともに正常な範囲にあるが,両眼とも遠視性乱視な
上,遠視の程度は強度であり,近方矯正視力も低い。
 コントラスト感度の低下,グレア,スターバースト及び夜間視力低下といった視力障害が
生じている。
(5) 原告E
 原告Eは,F医師からRK手術を受ける前,遠方視力が右眼0.06,左眼0.05であった
が,眼鏡やコンタクトレンズで矯正すれば,両眼とも1.5の視力を得ることができており,
乱視はなかった。また,近方視力は正常な範囲にあったし,コントラスト感度の低下,グレ
ア等の障害は生じていなかった(甲C5,原告E本人,弁論の全趣旨)。
 一方,甲B全7及び原告E本人によれば,平成11年5月28日時点での視力,視力障害
等は以下のとおりであったと認められる。
ア 遠方視力は,右眼の裸眼視力0.2,矯正視力1.0(球面レンズの度プラス2.5D,円
柱レンズの度マイナス3.0,軸の方向85度),左眼の裸眼視力0.5,矯正視力1.0(球
面レンズの度プラス0.5,円柱レンズの度マイナス0.5,軸の方向40度),近方視力は,
右眼の裸眼視力0.2,矯正視力0.3(球面レンズの度3.0,円柱レンズの度マイナス3.
0D,軸の方向85度),左眼の裸眼視力0.3,矯正視力0.3(球面レンズの度プラス0.5
D,円柱レンズの度マイナス0.5,軸の方向40度)であり,自動他覚屈折・角膜計による
屈折値は,右眼が球面レンズの度プラス0.5D,円柱レンズの度マイナス1.25D,軸の
方向58度,左眼が球面レンズの度マイナス0.75Dであった。
イ 自覚症状として,グレア,スターバースト,夜間視力低下及び視力変動があった。
ウ ①昼間コントラスト感度は,右眼が1.5,3,6,12で高度低下,18で中等度低下,左
眼が3,6で高度低下,1.5,12,18で中等度低下,②昼間周辺グレアでのコントラスト感
度は,右眼が1.5,12で高度低下,6で中等度低下,3,18で軽度低下,左眼が1.5,
6,18で軽度低下,③夜間コントラスト感度は,右眼が1.5,3,6で高度低下,12で中等
度低下,18で軽度低下,左眼が1.5,3,6で高度低下,12で中等度低下,18で軽度低
下,④夜間中心グレアでのコントラスト感度は,右眼が1.5,3,6で高度低下,12で中等
度低下,18で軽度低下,左眼が1.5,3,6で高度低下,12で中等度低下,18で軽度低
下であった。
エ SRIは右眼1.10,左眼0.95,SAIは右眼0.90,左眼0.86であった。
オ 総合評価
 遠方視力,近方視力ともに裸眼視力は低いが,遠方視力については両眼ともに矯正視
力が1.0あるのに対して,近方視力は両眼ともに矯正視力は0.3しか得られていないし,
乱視も生じた。
 コントラスト感度の低下,グレア,スターバースト,夜間視力低下及び視力変動といった視
力障害が生じている。
4 争点(3)(F医師の過失又は債務不履行)について
(1) 争点(3)ア(ア)(原告Aに対する適正手術義務違反)について
ア 原告Aの右眼には4本のRK切開が入れられているほか,3本のT切開が入れられてお
り,左眼には4本のRK切開が入れられている(甲B全3)。
  この点,原告Aは,F医師からRK手術を受けた後,平成5年3月20日に,K医師から,
右眼について再び手術を受けているが,これは当時既に生じていた乱視を矯正するため
に行われたものであること(甲C全105,原告A本人),前記認定の医学的知見のとおり,
乱視矯正のために実施される切開はT切開であることからすれば,K医師が行った切開
は,右眼に存在している3本のT切開であると認められる。
  したがって,F医師が行った切開は,両眼のそれぞれに4本ずつ存在するRK切開であ
ることが認められる。そして,証拠(甲B全3)によれば,このRK切開においては,オプティ
カルゾーンが右眼1.8ミリメートル,左眼2.0ミリメートルしか確保されていない上,左眼
の切開線の一部は湾曲していることが認めらる。
イ アを前提として,F医師の適正手術義務違反を検討する。
  前記認定の医学的知見のとおり,オプティカルゾーンを3ミリメートル未満とした場合に
は,矯正視力の低下,コントラスト感度の低下,グレア等の視力障害が生じる危険が大き
いから,F医師は,RK手術を実施するに当たり,オプティカルゾーンを3ミリメートル以上確
保すべき注意義務を負っていた(F眼科におけるRK手術の記録用紙も,オプティカルゾー
ンを何ミリメートルとしたかについて,3.0,3.25,3.5,4.0のいずれかを書き込むよう
な様式になっており,オプティカルゾーンを3.0ミリメートル未満にすることは想定されてい
ない(甲A3))ものであり,また,切開にゆがみがあると,矯正量が予測値からずれたり,矯
正視力の低下,コントラスト感度の低下といった視力障害が生じやすくなるから,切開を直
線に入
れるべき注意義務も負っていたものというべきである。
  したがって,原告Aに対し,オプティカルゾーンを3ミリメートル以下とし,かつ,湾曲した
切開を行った点において,F医師に上記注意義務違反があったことは明らかである。
(2) 争点(3)イ(ア)(原告Bに対する適正手術義務違反)について
ア 原告Bは,F医師が不正確な手術計画を立てた上,原告Bにとっては多すぎる8本の切
開を右眼に入れた旨主張する。
 前記認定のとおり,原告Bは不同視の状態であり,その右眼にはコントラスト感度の低
下,グレア等の視力障害が生じている。また,RK手術を受ける前には右眼の遠方裸眼視
力は0.2であった一方,近方裸眼視力は正常な範囲にあったにもかかわらず,現在にお
いては,近方裸眼視力が0.2にまで低下しており,RK手術によって,原告Bの右眼が遠
視化した可能性がある。
イ しかし,原告Bの右眼の遠方裸眼視力は,RK手術によって0.6にまで改善している
し,証拠(甲B全4)によれば,F医師は,原告Bの右眼にRK手術を実施するにおいて,オ
プティカルゾーンを3.5ミリメートル確保した上,まっすぐの比較的きれいな切開線を8本
入れており,その創口もきれいであることが認められる。また,原告Bは,遠視化した右眼
においても近方矯正視力は1.0を得ている。
 これらの事実からすれば,前記医学的知見に照らしても,F医師が不正確な手術計画を
立てたとも,切開の本数を8本としたことが原告Bにとって多すぎたとも認められず,その他
F医師の実施したRK手術に不適正な点があったとは認められない。
ウ したがって,F医師に適正手術義務違反があったとする原告Bの主張は採用できない。
(3) 争点(3)イ(イ)(原告Bに対する説明義務違反)について
ア 証拠(甲A3,C2,C全106,原告B)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認め
られる。
(ア) 原告Bは,従前,遠方裸眼視力が右眼0.2,左眼1.0の不同視で
 あったため,これに不便さを感じていたが,F眼科において近視矯正手術であるRK手術
が行われていることを新聞の折り込み広告で知り,F眼科に電話し,女性従業員に「不同
視も矯正できるのですか。」と尋ねたところ,その従業員から,「調整できます。来てくださ
い。」と返答されたため,平成4年1月24日,F眼科を訪れた。
  F眼科の従業員は,F眼科を訪れた原告Bに対し,RK手術について,「不同視も調整で
きます。」「大丈夫です。」と説明し,F医師は,原告Bからの「後遺症はないですか。」「過去
に失敗例はないですか。」の質問に対し,「ロシアでもたくさんの人がRK手術を受けて,障
害のある人は1人もいない。」「視力は1.0くらいになる。」と説明し,続いて,F眼科の従業
員は,「予約のキャンセルがあったので,今日なら手術できます。今日でなければ6か月先
になります。」と言った。
  原告Bは,F医師やF眼科の従業員から,RK手術の矯正効果を保証するような発言を
され,また,後遺症の生じる危険はない旨の説明を受けたことに加え,当日RK手術を受け
なければ,6か月も手術を受けることができないと言われたため,手術を受ける決心をし
た。
(イ) F医師は,原告Bに対し,RK手術を実施するに先立ち,「手術承諾書」及び「術後の
症状のご注意」と題する書面を手渡し,それぞれに署名押印をさせた。「術後の症状のご
注意」と題する書面には,次の記載がされていた。
「1. 約3ケ月位まで昼間と夜間の視力の変動。
(特に,夜間視力が低下する事があります。)
2. スターバースト(特に夜間,角膜ラインがにじんで見える)
3. 術後1~2週間は近くの物が見ずらくなる事があります。
4. 過剰矯正・・・10人に1人位,遠視気味になる場合があります。
5. 乱視の強い人の場合は完全な乱視矯正は困難な場合があります。又,3カ月以降に
再手術が必要な事もあります。
6. 医師の指示に従わなかったり,目が不潔な状態にさらされた場合まれですが感染症
を起こす事があります。
7. 術後角膜の形状が変化する為,人によってはコンタクトレンズが装着しにくくなる事が
あります。
8. 強度近視で,術後正視に至らなかった人の場合,術後3カ月位仮の眼鏡が必要とな
る事があります。
9. 左右の視力に多少の差の出る事があります。
以上の事項をよく理解し,詳しく説明を受けた事を認めます。」
イ 前記認定の医学的知見のとおり,RK手術は,矯正量が誤差プラスマイナス1Dの範囲
内で予測値に入る可能性が60ないし70パーセントであることに加え,長期予後が不明な
近視矯正方法であるだけでなく,矯正視力の低下,コントラスト感度の低下,グレア等の合
併症が生じる危険のある手術である(眼科医師の間でも,これが適切な近視矯正方法とい
えるかについて疑問視する声が多かった。)。しかも,遠方視力の矯正は,眼鏡やコンタク
トレンズによっても可能であるから,RK手術は,職種等の事情により,眼鏡やコンタクトレ
ンズを利用することが困難である等特段の事情がない限り,緊急性,必要性が乏しい手術
といえる。
 したがって,RK手術を実施しようとする医師は,手術実施に先立ち,患者に対して,RK
手術による矯正が必ずしも確実であるとは限らないだけでなく,RK手術に伴い,矯正視力
の低下,コントラスト感度の低下等の合併症が生じる危険のあることを,患者がRK手術を
受けるか否かを十分に検討・吟味した上で判断できる程度に,十分かつ具体的に説明す
べき義務を負っているというべきである。
ウ ところが,前記認定のとおり,F医師やその診療を補助する従業員は,原告Bに対し
て,RK手術による矯正効果が必ずしも確実でないことや合併症の危険があることを説明し
なかったばかりか,逆に,RK手術による矯正効果は確実であり,合併症が生じる危険はま
ったくない旨のRK手術の効用のみを強調する説明を行った上,「キャンセルがあったの
で,今日なら手術できます。今日でなければ6か月先になります。」と,RK手術を受けるか
否かを冷静に判断することができなくさせるような言葉を用いて,急いでRK手術を受ける
よう勧誘したのであるから,F医師が,RK手術を実施するに当たっての説明義務を履行し
ていないことは明らかである。
 もっとも,原告Bは,新聞紙の折り込み広告などにより,ある程度はRK手術に関する情
報を収集しており,これに興味を持ってF眼科を訪れたことがうかがえるが,そうであるから
といって,専門家でもない単なる団体職員である原告Bが,医師と同様の意味で,RK手術
の内容について理解していたことにはならない。また,F眼科から手渡された上記「術後の
症状のご注意」と題する書面には,RK手術の不確実性や合併症について一定の説明が
記載されているが,前記医学的知見に照らすと,RK手術についての十分かつ具体的な説
明とみることはできない。しかも,患者としては,このような書面よりも,医師やその補助者
の発言に重きを置くのが通常であるから,口頭で上記のようなRK手術の効用性のみを強
調する説明を行いながら,同時に合
併症等を記載した書面を手渡したというだけでは,説明義務を履行したと評価することはで
きず,また,上記認定のように,当日でなければRK手術が受けられないとのせき立てられ
るような勧誘を受けた場合,たとえ合併症等を記載した書面が手渡されたとしても,原告B
がその内容を冷静に検討した上で本件手術を受けたとはいえないことは明らかである。
エ 以上によれば,F医師は,原告Bに対し,RK手術を実施するに当たっての説明義務を
履行しなかったというべきである。
(4) 争点(3)ウ(イ)(原告Cに対する適正手術義務違反)について
 証拠(甲B全5)によれば,原告CのRK手術切開線は,オプティカルゾーンが両眼とも2.
0ミリメートルしか確保されていないことが認められる。そして,前記認定のとおり,F医師
は,原告CにRK手術を実施するに当たり,オプティカルゾーンを3ミリメートル以上確保す
べき注意義務を負っていたというべきであるから,この点においてF医師に適正手術義務
違反があったことは明らかである。
(5) 争点(3)エ(イ)(原告Dに対する適正手術義務違反)について
ア 原告Dの右眼には,8本のRK切開が入れられているが,左眼には,8本のRK切開が
入れられていることに加え,2本のT切開が入れられている(甲B全6)。
  原告Dは,F医師からRK手術を受けた後,平成6年ころ,K医師から左眼の再手術を受
けているところ,これは当時既に生じていた乱視を矯正するために行ったものである(原告
D本人)こと,前記認定の医学的知見のとおり,乱視矯正のために実施される切開はT切
開であることからすれば,K医師が行った切開は,左眼に存在している2本のT切開であ
り,F医師が行った切開は,両眼に各8本存在するRK切開であることが認められる。
イ アを前提として,F医師の適正手術義務違反を検討するに,証拠(甲B全6)によれば,
原告Dに対する上記8本のRK切開においては,オプティカルゾーンが両眼とも2.5ミリメ
ートルしか確保されておらず,切開線が瞳孔領に及んでおり,右眼の切開線は8本のほと
んどが湾曲していて,うち2本は切開線が輪郭に及んでいることが認められる。 
  したがって,この点においてF医師が前記2(4)ウ(ア)及び(イ)で認定した
 オプティカルゾーンを3ミリメートル以上確保し,切開を直線的に行うべき注意義務に違反
したことは明らかである。
(6) 争点(3)オ(イ)(原告Eに対する適正手術義務違反)について
ア 原告Eの右眼には,4本のRK切開が入れられているほか4本のT切開が入れられてお
り,左眼には,4本のRK切開が入れられているほか2本のT切開が入れられている(甲B
全7)が,原告E本人によれば,原告Eは,F医師からRK手術を受けた後,平成5年ころ,K
医師から乱視矯正のT切開手術を受けていることが認められるから右眼に4本,左眼に2
本存在するT切開はK医師によるものであり,F医師が行った切開は,両眼に各4本存在す
るRK切開であることが認められる。
イ アを前提として,F医師の適正手術義務違反を検討するに,証拠(甲B全7)によれば,
原告Eに対する上記切開においては,オプティカルゾーンが両眼とも2.0ミリメートルしか
確保されていないことが認められるから,この点においてF医師が前記のとおりオプティカ
ルゾーンを3ミリメートル以上確保すべき注意義務に違反したことは明らかである。
5 争点(4)(因果関係)について
(1) 原告A
ア 前記認定のとおり,原告Aには,RK手術前,遠方視力が右眼0.0
 7,左眼0.1の近視であったものの,矯正すれば1.0の視力を得ることができており,乱
視もなく,近方視力は正常な範囲にあり,コントラスト感度の低下,グレア等の視力障害は
生じていなかった。
  ところが,平成8年1月4日の時点では,遠方の裸眼視力がRK手術前より改善されて
いるとはいえ,矯正視力が遠方・近方ともにやや低く,乱視も生じており,また,コントラスト
感度の低下,グレア,スターバーストといった視力障害が生じている。
イ 原告Aの眼の状態がこのように変化していること,RK手術以外にそのような変化を生
じさせる原因は見出し難いことに加えて,前記認定の医学的知見のとおり,RK手術におい
て,オプティカルゾーンを3ミリメートル未満にしたり,湾曲した切開を入れると,矯正視力
の低下,コントラスト感度の低下,グレア等の視力障害が生じやすくなることを考え合わせ
ると,原告Aにおける矯正視力の低下,コントラスト感度の低下等の視力障害は,F医師が
オプティカルゾーンを右眼1.8ミリメートル,左眼2.0ミリメートルとし,左眼に湾曲した切
開を数本入れたことによって生じたものであると推認される。
ウ 被告らは,原告Aの右眼については,K医師も手術を行っているから,原告Aの視力障
害のうち,どれがF医師の実施したRK手術によって生じたものであるか明らかでない旨主
張する。
 しかし,原告Aにおいて,矯正視力の低下,コントラスト感度の低下といった視力障害は,
K医師が手術を行っていない左眼にも同様に生じていること,K医師から手術を受ける前
から原告Aには乱視が生じていたこと(原告A本人),平成8年1月4日に原告Aの視力及び
視力障害等について検査を実施したL大学医学部附属病院P医師は,RK切開のオプティ
カルゾーンが狭いことを問題視しながら,T切開についてはこれを問題視していないこと(甲
B全3)からすれば,原告Aに生じた視力障害は,K医師の実施したT切開によるものでは
なく,F医師の実施したRK手術によって生じたものというべきである。
 したがって,被告らの主張は採用できない。
(2) 原告B
ア 前記認定のとおり,原告Bには,RK手術を受けた後,RK手術前には
 なかったコントラスト感度の低下,グレア,スターバースト,夜間視力低下及び視力変動と
いった視力障害が生じている。
  前記認定の医学的知見のとおり,これらはRK手術に伴う典型的な合併症である上,R
K手術以外にそのような変化を生じさせる原因は見出し難いことからすれば,これらの視
力障害は,F医師が実施したRK手術によって生じたものであると認められる。
  そして,原告Bは,RK手術を受ける前,右眼裸眼視力が低かったとはいえ,コンタクトレ
ンズによって十分に矯正することができていたのであり,RK手術により視力を矯正しなけ
ればならないような緊急性,必要性が大きかったわけではないから,F医師が,原告Bに対
し,RK手術の不確実性や危険性等について十分かつ具体的な説明を行っていれば,原
告BがRK手術を受けなかったであろう蓋然性は高いというべきである。
  したがって,原告Bに生じたコントラスト感度の低下,グレア,スターバースト,夜間視力
低下及び視力変動といった視力障害と,F医師の説明義務違反との間には因果関係があ
ると認めるのが相当である。
イ 次に不同視と説明義務違反との因果関係を検討する。
 原告Bは,RK手術を受ける以前から不同視であり,右眼の遠方視力が0.2の近視,
左眼が1.0の正視であった。F医師によるRK手術の結果,前記認定のとおり,原告Bの
右眼の裸眼視力は遠方が0.6(矯正視力1.2),近方が0.2(矯正視力1.0)となってお
り,RK手術により不同視が発生したとは認め難い。
  なお,前記認定のとおり,現在,原告Bの左眼の裸眼視力は遠方が0.1(矯正視力1.
5),近方が1.0(矯正視力1.5)と強度の近視となっており,このために不同視となってい
るが,左眼は非手術眼であるから,RK手術とは無関係である。
  したがって,原告Bの不同視がF医師の説明義務違反によって生じたとは認め難い。
(3) 原告C
ア 前記認定のとおり,原告Cは,RK手術前,遠方視力が両眼とも0.
 03であり,乱視も少しあったが,コンタクトレンズをすれば1.2程度の矯正視力を得るこ
とができていたし,近方視力は正常な範囲にあり,また,コントラスト感度の低下,グレア等
の視力障害は生じていなかった。
  ところが,RK手術を受けた後は,遠方の裸眼視力が右眼0.4,左眼0.6にまで改善し
たものの,近方視力が大きく低下した上,矯正視力が遠方近方とも0.6以下となり,乱視
も術前より強くなり,また,コントラスト感度低下,グレア,スターバースト,夜間視力低下,
視力変動といった視力障害も生じた。
イ 原告Cの眼の状態がこのように変化したこと及びRK手術以外にそのような変化を生じ
させる原因は見出し難いことに加えて,前記認定の医学的知見のとおり,RK手術におい
て,オプティカルゾーンを3ミリメートル未満にすると,矯正視力の低下,コントラスト感度の
低下,グレア等の視力障害が生じやすくなること,平成11年3月6日に原告Cの視力,視
力障害等について検査を実施したM医師が,グレア,スターバースト及び暗所での視力低
下の原因について,切開線が瞳孔領内に大きく及んでいるためであるとの見解を示してい
ること(甲B全5)を考え合わせると,原告Cにおける矯正視力の低下,コントラスト感度の
低下等の視力障害は,F医師が,両眼のオプティカルゾーンを2.0ミリメートルとしたことに
よって生じたものであると
推認される。
ウ 被告らは,①原告Cには,RK手術を受ける前から,既にコンタクトレンズの長時間使用
により角膜に傷があったこと,②原告Cは,常時摂氏40度の過酷な状況で,1時間に120
0本のペットボトルを目視検査する等,眼を酷使する仕事に従事していたこと,③仕事場で
はペットボトルの処理に伴い,ダイオキシンが発生していたこと,④RK手術前に原告Cの
視力が低下し始めたのは,そのような仕事場で働き始めた後のことであること,⑤手術前
から日常的にサングラスを使用しており,もともと太陽光線に対して弱い眼であったこと,
⑥原告Cについて,視力が急に低下したのは手術から5年以上たった平成9年10月のこと
であることなどからすれば,原告Cの視力障害は,RK手術以外の別要因によって生じたも
のであり,F医師のRK手術
との間に因果関係はない旨主張する。
  確かに,原告Cは,RK手術前,コンタクトレンズの長期使用によって角膜に傷をつけた
ことがあった(甲A3)し,RK手術を受けた後,摂氏40度の状況で1時間に1200本のペッ
トボトルを目視検査するという眼に対する負担の大きい仕事をしていた(原告C本人)。そし
て,原告Cの遠方視力は,RK手術によって回復した上,平成5年5月15日の時点でも近
方視力はそれほど低下しておらず,また,遠方矯正視力も平成4年12月13日の時点で右
眼0.9,左眼0.8を得ていた(甲A3)。
  しかしながら,前記認定の医学的知見のとおり,RK手術の典型的な合併症として,視
力が長期間にわたって変動することがあり得ることからすれば,本件でもその可能性があ
り,視力の低下が手術後相当期間経過後生じたことから,RK手術と視力低下との因果関
係が直ちに否定されるものではない。また,角膜をRK手術前に傷つけたことがあったこと
や眼の負担が大きい仕事を継続していたことは,RK手術と原告Cに生じた視力低下や視
力障害との因果関係を左右するほど重大な事実とはいい難い。
  したがって,被告らの主張は採用できない。
(4) 原告D
ア 前記認定のとおり,原告Dは,術前,遠方視力が両眼ともに0.05
 の近視であったが,コンタクトレンズや眼鏡で矯正すれば,両眼とも1.0の視力を得るこ
とができ,近方視力は正常な範囲にあり,また,コントラスト感度の低下,グレア等の障害
は生じていなかった。
  ところが,平成11年3月6日の時点では,遠方視力こそ,裸眼・矯正ともに正常な範囲
にあるが,両眼とも遠視性乱視である上,遠視の程度は強度で,近方矯正視力も低くな
り,また,コントラスト感度の低下,グレア障害,スターバースト及び夜間視力低下といった
視力障害が生じている。
イ 原告Dの眼の状態がこのように変化したこと及びRK手術以外にそのような変化を生じ
させる原因は見出し難いことに加えて,前記認定の医学的知見のとおり,RK手術におい
て,オプティカルゾーンを狭くするほど矯正効果は大きくなること,オプティカルゾーンを3ミ
リメートル未満にしたり,湾曲した切開を入れると,矯正視力の低下,コントラスト感度の低
下,グレア等の視力障害が生じやすくなること,平成11年3月6日に原告Dの視力,視力
障害等について検査を実施したM医師が,グレア,スターバースト及び暗所での視力低下
の原因について,切開線が瞳孔領内に及んでいるためであるとの見解を示していること
(甲B全6)を考え合わせると,原告Dにおける強度の遠視,矯正視力の低下,コントラスト
感度の低下等の視力障害は,F
医師が,両眼のオプティカルゾーンをそれぞれ2.5ミリメートルとした上,右眼に湾曲した
切開を数本入れたことによって生じたものであると推認される。
ウ 被告らは,原告Dの左眼については,K医師も手術を行っているから,原告Dの視力障
害のうち,どれがF医師の実施したRK手術によって生じたものであるか明らかでない旨主
張する。
  前記認定のとおり,K医師が行った切開は,左眼のT切開2本であるが,このT切開のう
ち1本は,放射状切開の1本と交差しており(甲B全6),前記認定の医学的知見のとおり,
T切開と放射状切開が交差している場合には,交差部分において,切開が広がったり,強
い斑紋収縮を惹起することがあるとされている。
  しかしながら,原告Dの視力障害が,そのような交差によって生じるとの医学的知見を
示す証拠はない上,原告Dにおいて,強度の遠視,矯正視力の低下,その他の視力障害
は,K医師が手術を行っていない右眼にも同様に生じていること,K医師から手術を受ける
前から原告Dの左眼には強度の乱視が生じていたこと(原告D本人),M医師は,原告Dの
視力障害の原因について,T切開と放射状切開とが交差していることを問題視していない
こと(甲B全6)を考え合わせれば,T切開と放射状切開との交差は,原告の視力低下や視
力障害の原因にはなっていないというべきである。
  よって,被告らの上記主張は,採用できない。
エ また,被告らは,原告Dは,RK手術を受ける前から強い乱視があっ
 たから,夜間視力の低下等がRK手術によって生じたものとは認められない旨主張する。
  確かに,原告Dには,RK手術を受ける前から,強い乱視があった(原告D本人)から,
原告Dの現症状のうち,乱視については,RK手術との因果関係を認めることはできない。
しかし,このことは,夜間視力やその他の視力障害に関するRK手術との因果関係を否定
するものではない。
(5) 原告E
ア 前記認定のとおり,原告Eは,RK手術前,遠方視力が右眼0.06,左眼0.05であっ
たが,眼鏡やコンタクトレンズをすれば両眼とも1.5の矯正視力を得ることができていた
し,乱視はなかった。また,近方視力は正常な範囲にあり,コントラスト感度の低下,グレア
等の視力障害は生じていなかった。
 ところが,RK手術を受けた後は,遠方の裸眼視力が右眼0.2,左眼0.5にまで改善し
たものの,近方裸眼視力が右眼0.2,左眼0.3にまで低下した上,近方矯正視力が0.3
しか得られなくなり,乱視も生じ,また,コントラスト感度低下,グレア,スターバースト,夜間
視力低下,視力変動といった視力障害も生じた。
イ 原告Eの眼の状態がこのように変化したこと及びRK手術以外にそのような変化を生じ
させる原因は見出し難いことに加えて,前記認定の医学的知見のとおり,RK手術におい
て,オプティカルゾーンを狭くするほど矯正効果は大きくなること,オプティカルゾーンを3ミ
リメートル未満にすると矯正視力の低下,コントラスト感度の低下,グレア等の視力障害が
生じやすくなること,平成11年5月28日に原告Cの視力,視力障害等について検査を実
施したM医師が,グレア,スターバースト及び暗所での視力低下の原因について,切開が
瞳孔領内に及んでいるためであるとの見解を示していること(甲B全7)を考え合わせると,
原告Eにおける近方視力の低下,矯正視力の低下,コントラスト感度の低下等の視力障害
は,F医師が両眼のオプティカ
ルゾーンを2.0ミリメートルとしたことによって生じたものであると推認される。
ウ 被告らは,原告EはK医師からも手術を受けているから,原告Eの視力障害のうち,ど
れがF医師の実施したRK手術によって生じたものであるか明らかでない旨主張する。
  前記認定のとおり,K医師が行った切開は,右眼のT切開4本と左眼のT切開2本であ
るが,このうち右眼のT切開1本が,放射状切開の1本と交差しており(甲B全7),前記認
定の医学的知見のとおり,T切開と放射状切開が交差している場合には,交差部分におい
て,切開が広がったり,強い斑紋収縮を惹起することがあるとされている。
  しかしながら,原告Eの視力障害が,そのような交差によって生じるとの医学的知見を
示す証拠はない上,原告Eにおいて,矯正視力の低下,コントラスト感度の低下といった視
力障害は,T切開と放射状切開が交差していない左眼にも同様に生じていること,K医師
から手術を受ける前から原告Eの右眼には乱視が生じていたこと(原告E本人),M医師
は,原告Eの視力障害の原因について,T切開と放射状切開とが交差していることを問題
視していないこと(甲B全7)を考え合わせれば,T切開と放射状切開との交差は,原告の
視力低下及び視力障害の原因にはなっていないというべきである。
  よって,被告らの上記主張は,採用できない。
エ 次に,被告らは,原告EがRK手術を受けた後もボクシングを継続し
 ており,顔面にパンチを受けたこともあるのであるから,これによって視力障害が生じた
可能性がある旨主張する。確かに,原告E本人によれば,原告EがRK手術を受けた後,
ボクシングを行い,顔面にパンチを受けたことがあることが認められるが,上記のとおりRK
手術と原告Eの視力障害の関係についての合理的説明が付く以上,原告Eがボクシングを
継続し,顔面にパンチを受けたことがあったとしても,RK手術との間の因果関係を左右す
るものとはいい難い。
  よって,被告らの主張は採用できない。
6 争点(5)(被告アートメーキング三井及び被告エイエム三井は,F眼科の経営者か。)に
ついて
 (1) 前記争いのない事実,証拠(甲C全7ないし37,40ないし44,46ないし50,53な
いし92,94,95,104,110)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる
ア Gが支配した3事業の概要
 (ア) Gは,昭和61年,美容用品・化粧品の販売,健康機器の販売,日
  用雑貨品の販売等を目的とした株式会社である被告アートメーキング三井を設立(出
資割合は,Gが95パーセント,Hが5パーセント。)し,同会社の事業として,アートメーク事
業を開始した。
  アートメーク事業は次第に拡大していき,直営店及び代理店が順調に増加していった。
しかし,被告アートメーキング三井は,商号の中に「アートメーク」という文字が入っていたこ
とから,他のアートメーク事業者と間違われることが多く,平成2年ころから,他のアートメ
ーク事業者に対する苦情が,誤って被告アートメーキング三井に寄せられるようになった。
そこで,Gは,平成2年7月9日,被告エイエム三井を新たに設立(出資割合は,Gが95パ
ーセント,Hが5パーセント。)し,被告アートメーキング三井が行っていた事業(アートメーク
事業だけでなく,形成外科事業及びRK手術事業も含むことは後記のとおりである。)をす
べて被告エイエム三井に受け継がせた。それ以来,被告アートメーキング三井は,何の事
業も行わなくなり
,事実上休眠会社になった。
 Gは,そのころ,有限会社エイエム三井京都,有限会社エイエム三井関東等有限会社エ
イエム三井各社を順次設立し,アートメーク事業の直営店については,これらの会社が従
業員の雇用,給料の支給並びに税金及び雇用保険等の手続を行うようになった。
  一方,Gは,美容外科事業も開始し,いくつもの美容外科診療所を開設した。Gは,平
成3年4月ころには,各美容外科診療所に対応させて,有限会社ケイセイ東京,有限会社
ケイセイ関東,有限会社ケイセイ中部,有限会社ケイセイ関西,有限会社ケイセイ九州を
設立(いずれもGが100パーセント出資)し,美容外科の設備等をこれらの会社に譲渡し
た。Gは,Qを美容外科事業の責任者としていた。
  Gは,平成2年ころ,RK手術事業も開始した。Gは,R医師,K医師,S医師,F医師らを
RK手術を担当する医師とし,各医師を開設者として,眼科診療所を各地に開設した。K医
師及びF医師は,RK手術を担当する前は,上記美容外科事業において,美容外科医師と
して勤務していた。
  Gは,平成3年11月ころ,各眼科診療所に対応させる形で,アールケー大阪を始めとす
る有限会社アールケー各社を設立し,各眼科診療所における雇用,税金,雇用保険の手
続等を行わせるようになった。
(イ) アートメーク事業,美容外科事業及びRK手術事業のいずれにおいても,店舗又は診
療所の医院建物の賃借人は,被告アートメーキング三井又は被告エイエム三井であった。
Gは,アートメーク事業,美容外科事業及びRK手術事業のいずれにおいても,経営方
針・人事等について,各会社の取締役会を開くことなく,自らこれらを決定していた。
被告エイエム三井は,「株式会社エイエム三井T」「株式会社アートメーキング三井G」
「エイエム三井熊本店G」名義の預金通帳等を管理していたほか,「アートメーキング三井
美容外科江坂K医師」「有限会社ケイセイG」名義等の美容外科事業に関する預金通帳及
び「アールケー大阪G」「有限会社アールケー大阪G」名義等のRK手術事業に関する預金
通帳等もすべて管理していた。
  Gは,これらの預金を,その使途が会社のためであるか個人のためであるかに関係な
く,自由に出金していた。
イ F眼科経営の概要
(ア) 人員
  F医師は,当初はGによる美容外科事業において,美容外科の医師として勤務していた
が,Gの指示によって,RK手術を担当することになり,平成4年1月14日から,F眼科を開
設し,同診療所において,RK手術を実施するようになった。
 Nは,平成元年9月に被告アートメーキング三井に就職して以来,美容外科診療所で勤
務していたが,平成3年4月ころから,RK手術事業全体の責任者となり,R眼科及びF眼
科において,カウンセリング等の業務に従事しており,平成3年4月以降,アートメーク事
業,美容外科事業には関与していなかった。
 Tは,被告アートメーキング三井及び被告エイエム三井のいずれにおいても,取締役副社
長の地位にあり,アートメーク事業,美容外科事業及びRK手術事業において,営業関係,
人事管理を担当しており,RK手術事業においては,責任者であるNを広告等の面で指導
していた。
 Oは,平成元年10月以来被告アートメーキング三井の従業員として,美容外科診療所で
勤務していたが,平成3年9月ころから,Gの指示によって,RK手術を実施する眼科診療
所でも勤務するようになった。
(イ) 賃借建物
 F眼科の医院建物は,被告エイエム三井が賃借したものであった。その賃料,敷金等は,
「F眼科G」「G」名義の口座から支払われた。
(ウ) 診療報酬
  F眼科において,患者から支払われた診療報酬等は,すべて「F眼科G」「G」名義の口
座に入金された。分割払やカード払を希望する患者については,被告エイエム三井が,代
金の回収を行っていた(カード払の場合は,被告アートメーキング三井が契約していたカー
ド代理店契約を利用していた。)。被告エイエム三井は,患者から受け取った金員を被告エ
イエム三井の売上げとしては勘定せず,預り金として勘定した上で,上記口座に入金する
等していた。
(エ) 雇用・給料・税務
  F医師,N及びOに対する給料は,当初被告アートメーキング三井から,被告エイエム
三井が設立されてからは被告エイエム三井から支給されていた。平成4年2月ころ以降
は,アールケー大阪から給料が支給されるようになった。
  Tに対する報酬も,当初は被告アートメーキング三井から,そして被告エイエム三井が
設立されてからは被告エイエム三井から支給されていた。平成4年2月以降は,被告エイ
エム三井から基本給が支給されるとともに,RK手当としてアールケー大阪から給料が支
給されるようになった。
 F眼科での税務申告は,F医師が行っていた。
ウ 被告エフエムエス(旧商号株式会社エイエムリース)の設立とHへの株式譲渡
  GとHは,平成2年7月9日,被告エフエムエス(当時の商号は株式会社エイエムリース)
を設立した(資本金500万円中,50万円はHが出資し,その余はGが出資した。)。同被告
設立の目的は,金融業を行うことであったが,金融業の許可を得ることができず,結局事
業を行わないまま事実上休眠状態になっていた。
  Hは,平成4年,Gに対し,計算センターのようなものを作りたいと希望したところ,Gは,
被告エフエムエスの株式をすべてHに譲渡し,Hが被告エフエムエスを自由に支配すること
を認めた。
エ 経営権の委譲書  
  Gは,平成3年1月19日,Hに対し,被告エイエム三井代表取締役の肩書きで,Gが不
慮の事故等により落命及び会社の経営が不能になった場合には,現状維持を条件とし
て,現在経営しているアートメーキング三井全店,三井美容整形外科全院の管理経営とア
ートメーキング三井全代理店の管理に関する全権限を委譲する旨の「経営権の委譲」と題
する書面(甲C全20)を作成し,交付した。
オ Gの死亡とその後の事業方針の決定
  Gは,平成4年9月16日に死亡した。Oは,Gの財産を相続したが,上記経営権の委譲
書と題する書面に従い,Gが行ってきたアートメーク事業,美容外科事業及びRK手術事業
の経営をすべてHに任せることにした。
  Hは,各事業を受け持っていた医師や,Q,T等との協議を重ねた。同年9月ころ,RK手
術事業について,F医師のRK手術により視力障害が生じた等の苦情が多発したことから,
この事業を直ちに停止するとともに,被害者への対応をQに担当させることにした。そして,
同年10月19日,アートメーク事業をTに任せること,美容外科事業はHが行うことを決定し
た。
カ 被告アートメーキング三井及び被告エイエム三井の解散
  被告アートメーキング三井及び被告エイエム三井では,平成4年9月23日に定時株主
総会が開催され,両社において,T,O,Q,Uが取締役に選任され,同日,両社それぞれ
の取締役会でTが両社の代表取締役に選任された。
  Tは,同年10月29日,被告エイエム三井において管理していた「アートメーキング三井
美容外科代表V」「AMファイナンス代表T」「株式会社エイエム三井クレジット代表取締役
T」「H」「株式会社アートメーキング三井」「アートメーキング三井美容外科江坂代表K」「ア
ートメーキング三井美容外科上野代表W」名義の預金を出金した。
  Hとしては,それらの預金は被告エイエム三井に帰属するものであると考えており,Tが
更に預金の出金を行うことを防がなければならないと考えた。また,当時被告エイエム三
井及びその従業員は,アートメーク事業で行っていた麻酔の使用が,医師法に違反すると
の容疑で,捜査を受けていた。Hは,Tによる預金の出金と医師法違反による捜査の双方
を防ぐ手段として,被告アートメーキング三井及び被告エイエム三井を解散することにし
た。同日,被告アートメーキング三井及び被告エイエム三井の臨時株主総会が開催され,
両社の株主総会において,Tら取締役全員が解任され,H,X及びYが取締役に選任された
上,両社それぞれの取締役会においてXが両社の代表取締役に選任された。そして,引き
続き行われた両社の株主総会において,両
社の解散が決議された上,両社それぞれの清算人会議において,Xが両社の代表清算人
に選任された。
キ RK手術被害者への対応
  Hは,RK手術の被害者への対応をQに任せていたが,そのため,被告エイエム三井が
管理していたG個人名義の預金から1億ないし3億円をQに渡し,被害弁償の資金とさせ
た。
  H及びQは,当初RK手術の被害者が何百人にもなるとは予想していなかったが,Qが
被害者対応を進めていくうちに,F医師のRK手術による被害者が200人以上であることが
判明していった。Qは,平成8年8月ころまで,RK手術被害者への対応を続けた。Qは,こ
の間被告エフエムエスの従業員だった。
  Gの死亡後間もなくして,F眼科につき廃止届が出されたが,Qは,J医師の名義を借り
て,大阪市e区fにJ眼科を開設し,F眼科においてRK手術を受けた患者らに対する術後検
診を実施した。J眼科の診療所施設の賃借人は,当初被告アートメーキング三井であっ
た。
ク 被告エフエムエスによる美容外科事業
  Hは,平成4年10月19日,株式会社エイエムリースの商号を株式会社エフエムエスに
変更し,以後被告エフエムエスを中心として,Gから受け継いだ美容外科事業を行うことに
した。
  被告エフエムエスは,同年12月,有限会社ケイセイ各社から,美容外科の設備を合計
4800万円で買い取り,同じ美容外科で診療に当たる医師個人にそれらの設備をリースし
た。また,被告エフエムエスは,診療所医院建物の賃借人を各医師個人名義にするほか,
医師ら数人との間では診療所経営についてのコンサルタント契約を締結した。
  このように被告エフエムエスは,各美容外科診療所に設備をリースしたり,経営コンサ
ルタントをしているだけで,各美容外科診療所の経営者ではないかのような形式を整えた。
しかし,被告エフエムエスが設備をリース等していた各美容外科診療所間では医師の異動
があり,これを決定していたのは被告エフエムエスであったし,美容外科診療所の新設・廃
止を決定していたのも被告エフエムエスであった。
  Hは,有限会社エイエム三井各社の商号を有限会社エフエムエス金沢等と変更させた
上,各美容外科診療所の看護婦,従業員等の雇用,給料の支給並びに税金及び雇用保
険等の手続をさせた。しかし,有限会社エフエムエス各社は,賃借テナント,電話及び常駐
事務員1人がいる程度で経営主体としての実体はなく,節税目的で利用されているだけで
あった。
  美容外科診療所のひとつであるZクリニックにおいては,平成7年ころから,売上げは,
有限会社エフエムエス金沢名義の預金口座に入金された。Zクリニック従業員への給与,
雇用保険料等は同口座から支払われていたが,同口座からは毎月700万ないし1000万
円が被告エフエムエスに送金されていた。
 (2) 前記(1)で認定した各事実によれば,Gは,アートメーク事業,美容外科事業及びRK
手術事業を行うに際し,それぞれの事業ごと並びにそれぞれの店舗及び診療所ごとに異
なる会社(アートメーク事業については被告アートメーキング三井,被告エイエム三井及び
有限会社エイエム三井各社,美容外科事業については有限会社ケイセイ各社,RK手術
事業については有限会社アールケー各社)を設立し,従業員の雇用,給料の支給並びに
税金及び雇用保険等の手続等を各会社に行わせており,F眼科においても,平成4年2月
以降,従業員の雇用,給料の支給並びに税金及び雇用保険等の手続をアールケー大阪
に行わせていたものと認められる。
  しかし,F医師は,平成4年1月以前は,被告エイエム三井から給料の支給を受けてい
たのであり,RK事業に専属していたNにおいても同様であった。しかも,被告エフエムエス
の美容外科事業において,各美容外科診療所の雇用,給料の支給並びに税金及び雇用
保険等の手続を各診療所に対応する有限会社エフエムエス各社が行っていたのが節税目
的でしかなく,経営主体としての実体がなかったことなどからすれば,Gが,各店舗及び診
療所に対応させて設立した有限会社エイエム三井各社,有限会社ケイセイ各社及び有限
会社アールケー各社は節税目的の法人に過ぎず,経営の実体はなかったことがうかがえ
る。その上,店舗及び診療所の医院建物の賃借及び預金の保管管理は,有限会社エイエ
ム三井各社,有限会社ケイセイ各社及び有限会社アー
ルケー各社が設立された以後も,被告アートメーキング三井又は被告エイエム三井が行っ
ており,被告アートメーキング三井及び被告エイエム三井で取締役副社長の地位にあった
Tは,Gが死亡するまで,アールケー大阪等が設立されていることを知らず,RK手術を含
むいずれの事業も被告エイエム三井が行っているものと認識し(甲C全50,76),Gの子
であるOも,F眼科の経営者は被告アートメーキング三井ないし被告エイエム三井であると
認識していた(甲C全73)ことが認められる。また,各事業の人事,経営方針等について
は,有限会社エイエム三井各社,有限会社ケイセイ各社及び有限会社アールケー各社は
もちろん,被告アートメーキング三井及び被告エイエム三井もこれを行っておらず,Gがす
べての決定権限を掌握していた(もと
もと美容外科を担当していたF医師,K医師,O等が,RK手術を行うようになったのも,Gの
決定によるものであった。)上,Gは,被告エイエム三井が管理していた各事業の預金のい
ずれについても,会社のためであるか個人のためであるかに関係なく自由に出金してい
た。
  これらの事実を総合すれば,原告らがF医師からRK手術を受けた当時,アートメーク事
業,美容外科事業及びRK手術事業の実質的経営者は,G及びGとの間で財産が混同し,
法人格が形骸化していた被告エイエム三井であり,F眼科においても,G及びGとの関係で
法人格が形骸化していた被告エイエム三井が,実質的経営者であったものと認められる。
 (3) 被告アートメーキング三井については,被告エイエム三井に事業が承継される平成
2年7月ころまでは,GとともにRK手術事業の実質的経営者であったことが認められるも
のの,それ以降は,事業のすべてを被告エイエム三井に移転し,事実上の休眠状態にあ
ったのであるから,原告らがRK手術を受けた時点において,F眼科の実質的経営者であ
ったと認めることはできない。
 (4) 原告らは,被告アートメーキング三井もF眼科の経営者であった旨主張し,その根拠
として,被告アートメーキング三井が被告エイエム三井及びGとの間で法人格が形骸化し
ていたとする。
  確かに,被告アートメーキング三井と被告エイエム三井の株主構成及び取締役は共通
しているほか,被告エイエム三井は,被告アートメーキング三井名義の預金を自己のもの
として使用し,また,被告アートメーキング三井が締結していたカード代理店契約を利用し
ている。
  しかし,前記のとおり,被告エイエム三井は,被告アートメーキング三井から事業を受け
継いでいるのであるから,預金やカード代理店契約の名義を変更せず,そのままの名義で
使用していたに過ぎないとも解し得るのであって,このことから,直ちに両社が別個の法人
としての実体を有しなかったと認めることはできない。むしろ,前記認定のとおり,被告アー
トメーキング三井は,被告エイエム三井が設立されて以降は事実上休眠状態となって,ア
ートメーク事業,美容外科事業及びRK手術事業には関与しなくなったのであり,被告アー
トメーキング三井が管理していた財産は被告エイエム三井がこれをすべて受け継ぎ,管理
するようになったのであるから,被告アートメーキング三井と被告エイエム三井との間で法
人格が形骸化していたとはいえな
い。
  また,被告アートメーキング三井とGの関係についても,被告アートメーキング三井から
被告エイエム三井に事業が受け継がれる前には,財産が混同していたことがうかがえる
が,被告エイエム三井が事業を受け継いだ後においては,事業に関係する財産は,もっぱ
ら被告エイエム三井が管理していたのであるから,被告アートメーキング三井とGとの間で
財産の混同があったともいえず,被告アートメイキング三井とGとの間で法人格が形骸化し
ていたとはいえない。
  したがって,原告らの主張は採用できない。
(5) 被告エイエム三井は,F眼科の経営者はF医師であり,被告エイエム三井はF眼科の
経営に関与していない旨主張する。
  しかし,前記認定の事実に照らせば,F眼科における人,預金及び賃借建物を管理して
いたのはF医師ではなく,被告エイエム三井であったことが明らかである。F眼科の開設者
がF医師であること,F眼科での税務申告をF医師が行っていたことは,医師以外の者が診
療所を開設することが医療法上厳しく制限されていることから,そのような形式が取られて
いたことによるものであり,このことから,F医師がF眼科の経営者であったということはでき
ない。
  したがって,被告エイエム三井の主張は採用できない。
(6) 以上によれば,原告らは,RK手術の実施等を内容とする診療契約をF眼科の実質的
経営者であるG及び被告エイエム三井との間で締結したものと認められるから,被告エイ
エム三井に対して,債務不履行に基づく損害賠償請求権を有している。
  しかしながら,原告らの被告アートメーキング三井に対する債務不履行又は不法行為
に基づく損害賠償請求は理由がない。
7 争点(6)(被告エフエムエスの責任)について
(1) 争点(6)ア(事業の同一性)について
 原告らは,被告エフエムエスは,被告エイエム三井が経営していた美容外科の事業を引
き継いでおり,外形上,事業者の名称が変わったに過ぎず,被告エフエムエスと被告エイ
エム三井との間には事業の同一性が認められるから,同一の法人として評価されるべきで
あり,被告エフエムエスも,被告エイエム三井と同様に原告に対する損害賠償義務を負う
旨主張する。
  原告らは,その前提として,事業の同一性の法理につき,法人格否認の法理とは別個
に認められるべきである旨主張するが,同一事業を営んでいるからといって当然に同一の
法主体となるものではなく,被告エフエムエスと被告エイエム三井とは,独立した別法人で
あるから,基本的には,権利義務の帰属も別個とみるべきであり,これを同一の法主体とし
て評価するためには,そのための適用要件の主張を要するが,原告らの主張を見ても,こ
の点が十分であるとはいえない。
  また,事業の引継ぎの点に着目するとしても,それにより当然に同一の法主体と評価で
きるものではない。法人格を別個とする法人の場合,営業の譲受人は,営業の譲渡人の
債務を当然に引き受けるわけではなく,譲渡人の債務について,譲渡人と同じ責任を負う
ことになるのは,その債務を含めて営業を譲り受けた場合のほかは,商号を続用するとき
や債務を引き受けた旨の広告をしたときに限られている(商法26条,28条)から,事業が
同一であるということのみから,営業の譲受人が譲渡人と同じ責任を負うことになるとは解
し難い。
  したがって,原告らの上記主張はそれ自体失当である。
(2) 争点(6)イ(法人格否認の法理)について
ア また,原告らは,被告エフエムエスの法人格が被告エイエム三井との間で形骸化して
いたから,被告エフエムエスは,法人格否認の法理の適用により,原告らに対する損害賠
償義務を負うとも主張するが,前記認定のとおり,被告エイエム三井が前記事業を行って
いる間,被告エフエムエスは休眠状態であったのであるから,両社間に財産の混同,法人
格の形骸化があったとは認められず,原告らの主張はその前提を欠き,採用できない。
イ(ア) もっとも,「株式会社が商法の規定に準拠して比較的容易に設立され
  うることに乗じ,取引の相手方からの債務履行請求手続を誤らせ時間と費用とを浪費さ
せる手段として,旧会社の営業財産をそのまま流用し,商号,代表取締役,営業目的,従
業員などが旧会社のそれと同一の新会社を設立したような場合には,形式的には新会社
の設立登記がなされていても,新旧両会社の実質は前後同一であり,新会社の設立は旧
会社の債務の免脱を目的としてなされた会社制度の濫用であって,このような場合,会社
は右取引の相手方に対し,信義則上,新旧両会社が別人格であることを主張できず,相手
方は新旧両会社のいずれに対しても右債務についてその責任を追及することができる」
(最高裁判所昭和48年10月26日判決・民集27巻9号1240頁)ところ,原告らの主張
は,その趣旨と解することもできるため,この
点について更に検討する(なお,被告エフエムエスは,新たに設立された会社ではないが,
休眠状態であった会社であるから,新たに会社が設立された場合と同視できるとする余地
がある。)。
(イ) 被告エフエムエスが,被告エイエム三井が経営していた美容外科の設備を有限会社
ケイセイ各社から買い取った上,これを各美容外科医師にリースしたことに加え,被告エフ
エムエスは,それら美容外科診療所について,人事,診療所の新設・廃止等の決定権限を
有し,売上金の送金を受けていたとの前記認定の事実からすれば,被告エフエムエスは,
被告エイエム三井の美容外科事業を受け継ぎ,美容外科診療所の経営を行ったことが認
められる。また,被告エフエムエスの従業員であるQが,平成8年8月ころまで,RK手術被
害者への対応を続けたこと,その際,被告エイエム三井が管理していたG名義の預金から
被害弁償の資金が捻出されたこと,F眼科でRK手術を受けた患者に対する術後検診を行
ったJ眼科の医院建物は,平成4年12月2
2日以降被告エフエムエスが賃借していたことからすれば,被告エフエムエスは,F眼科で
実施されていたRK手術の事業については,事業目的を,F眼科でRK手術を受けた患者
に対する術後の診療及び苦情対応に限定した形で,これを受け継いだものと見ることも可
能である。
(ウ) Oは,Hとともに,被告エイエム三井の管理していた預金を解約し,それらをすべてH
に渡した旨述べていること(甲C全74,75),Hは,Gが行ってきた美容外科事業を引き継
いでいること,Hは,被告エイエム三井の有していた資産及び負債額並びにその処理につ
いて明確な説明を行っていないこと(甲C全10,11)などからすれば,Hは,被告エイエム
三井が管理していた預金を出金し,これを被告エフエムエスの事業資金としたことが推認
される。
  また,前記認定のとおり,被告エイエム三井は,平成4年12月,有限会社エイエム各社
から,美容外科の設備を買い取っている。
(エ) 被告エイエム三井は,Gの死後,Tが代表取締役であった時期も
 あったが,GがHに対して経営権の委譲書と題する書面を作成,交付し,Oもこの書面に
従い,事業についてすべてHに任せたこと,Hが主導してTを代表取締役から解任している
ことからすれば,Gの死後における被告エイエム三井の実質的支配者は,被告エフエムエ
スの代表取締役でもあるHであったと認められる。
(オ) 以上のとおり,被告エフエムエスが被告エイエム三井から,美容外科事業等を引き継
ぐに際し,被告エイエム三井の資産を受け継いでいること,両社間で実質的支配者が同一
であることからすれば,Hが休眠会社であった被告エフエムエスに被告エイエム三井の事
業を引き継がせたのは,原告らに対する損害賠償債務を免れるためであったと疑う余地が
ないでもない。
  しかし,前記認定のとおり,被告エイエム三井が解散されたのは,Tによる被告エイエム
三井の管理する預金の出金を防ぐとともに,医師法違反による捜査の継続を防ぐためであ
ったこと,また,Hは,被告エイエム三井を解散した当時,RK手術の被害者が200人以上
にもなることは予想しておらず,しかも,RK手術の被害者に対する被害弁償資金として1
億ないし3億円を用意しており,被害弁償を行う意思を有していたものであることからすれ
ば,Hが,被告エイエム三井から被告エフエムエスに事業を引き継がせるに際し,原告らに
対する損害賠償債務を免れる目的を有していたとはいい難い。
(カ) そうすると,原告らの主張を前記のとおり善解したとしても,やはり被告エフエムエス
が原告らに対する損害賠償債務を負うものとはいえない。
(3) 以上によれば,原告らの被告エフエムエスに対する請求は理由がない。
8 争点(7)(和解契約の効果が被告らに及ぶか。)について
 被告エイエム三井は,原告らがアールケー大阪等と締結した和解契約の効果は,原告ら
と被告エイエム三井との間にも及ぶから,原告らは,被告エイエム三井に対する損害賠償
請求権も放棄したものである旨主張する。
 確かに,原告らは,平成11年4月19日,F医師,アールケー大阪及びOとの間で,F医
師が原告らに対して実施したRK手術について,F医師が原告らに対し,解決金として合計
200万円を支払い,アールケー大阪及びOが原告らに対し,解決金として連帯して合計1
00万円を支払うこと,原告らは,F医師,アールケー大阪及びOに対して,その他裁判上・
裁判外の請求をしないこと等を内容とする和解契約を締結している(甲C全4)が,その効
果が,F医師,アールケー大阪及びOとは人格を異にする被告エイエム三井に及ぶと解す
べき根拠はない。
 したがって,被告エイエム三井の上記主張は採用できない。
9 争点(8)(本件において,被告らが商事消滅時効(5年間)を援用できるか。)について
(1) 被告エイエム三井は,原告らの被告エイエム三井に対する債務不履行に基づく損害
賠償請求権の消滅時効期間は5年間であると主張する。
  これに対し,原告らは,医療契約上の債務不履行責任の消滅時効期間は10年間であ
る旨主張するところ,この主張は,診療契約については,商法523条の適用が排除される
べきであるという趣旨であると解される。
  しかし,商法523条は,行為の内容,性質にかかわらず,民事会社の行為について一
律的に商行為法の規定を準用する旨の規定であり,行為の内容が医療契約であるという
一事のみから,同条の適用が排除されるとは解し得ないし,同条は,文言上,行為の相手
方の主観面によって準用の可否を定める旨の規定にはなっていないから,たとえ民事会社
の行為の相手方が会社との間の行為であることを知らなかった場合であっても,同条の適
用が排除されるものではない。
  したがって,本件において,原告らと被告エイエム三井との間の診療契約の締結は,
「民事会社の行為」(商法523条)に当たり,商法522条の商事消滅時効の規定が準用さ
れると解さざるを得ず,消滅時効期間は5年間というべきである。
(2) もっとも,医療行為は,営利性を目的とすべきものではないことから,弁護士の業務等
と並んで非商行為の典型として成書に掲げられてきた上,医療行為を医療法人以外の民
事会社が行うことが制度上基本的には予定されていないわが国において,診療所の経営
者が民事会社であるということは,通常,一般人の予想し難い事実である。
  しかも,医療法上,医師又は歯科医師以外の者が診療所を開設するに当たっては,都
道府県知事の許可を得なければならないところ,営利を目的として診療所を開設しようとす
る者に対しては,その許可を与えないこともできるとされており,「営利を目的とする法人が
医療機関を開設することは,専ら当該法人の職員の福利厚生を目的とするものを除き,認
められない」とされている(「医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について」(昭
和62年6月26日総第26号通知))。このように,会社が医療機関を経営することは,法人
の職員の福利厚生を目的とする場合を除いて予定されていないのであり,被告エイエム三
井は,このような制限を当然知っていたものと認められる(弁論の全趣旨)。
  また,被告エイエム三井は,本訴において,自らがF眼科の経営者であったことを一貫
して否定しており,原告らがRK手術を受けた当時,F眼科の経営者が会社(被告エイエム
三井)であることを外部から知ることは困難であったと推認される。
 上記のとおり,被告エイエム三井は,株式会社であるにもかかわらず,脱法的に診療所
の経営を行い,これを原告らに対して明らかにしていなかったものであり,このような同被
告が,原告らから債務不履行に基づく損害賠償を請求されるや,自らが会社であることを
利用し,商事消滅時効を援用することは,被告エイエム三井が診療契約の相手方であるこ
とを原告らが知った(原告らが本訴の原告訴訟代理人に相談をした時であり,原告Aは平
成7年1月5月15日ころ,原告Bは平成10年10月14日ころ,原告Cは同年4月18日こ
ろ,原告Dは同年6月30日ころ,原告Eは平成8年7月12日ころである(甲C1ないし5))
後に,直ちに訴えを提起しなかったことを勘案しても,なお,信義則(民法1条2項)に反し,
許されないというべきで
ある。
(3) したがって,被告エイエム三井の商事消滅時効の抗弁は理由がない。
 10 争点(9)(損害)について
(1) 視力障害の後遺障害等級の認定基準について
ア 労働者災害補償保険法施行規則別表第1及び自動車損害賠償保障法施行令別表
は,いずれも視力障害による障害の等級を定めているが,遠方矯正視力に基づいて認定
されることを前提としており,遠方矯正視力に障害はなく,近方矯正視力のみに視力障害
がある場合については,特段の障害等級の規定はない。しかし,労働者災害補償保険法
施行規則14条4項及び自動車損害賠償保障法施行令別表備考5は,いずれも,それら別
表に掲げるもの以外の障害については,その障害の程度に応じ,別表に準じて障害等級
を定めるものとする旨規定していることからすれば,上記のとおり,近方矯正視力のみに
障害がある場合においても,そのような障害を適正に斟酌すべきである。
  そこで,遠方矯正視力が正常で,近方矯正視力のみが低下した場合の障害等級を考
えるに,遠方矯正視力においては,0.6以下であることが視力障害として認定される基準
であるが,近方矯正視力においても,一般論として,新聞の本文を読むのに0.7前後が必
要とされていること(甲C全102),近方矯正視力が0.5ないし0.6の場合,日常生活に支
障が出る可能性があり,0.4であれば,作業にもよるが,至近距離の作業を主にする仕事
では支障が出る可能性が高いこと(甲C全101),さらには,日常生活に及ぼす可能性の
程度には幅があり得ることを考慮すれば,近方矯正視力が0.4以下になった場合には,
障害等級に該当する視力障害があるものと認めるのが相当というべきである。
  もっとも,具体的な等級の準用方法としては,例えば遠方矯正視力が0.7に達しなけ
れば,第一種普通自動車免許の取得に一定の支障が生じる(道路交通法施行規則23
条)のに対し,近方矯正視力が0.4以下であっても遠方矯正視力が0.7以上であれば,
そのような支障はないこと,上記各別表においても視力障害は遠方矯正視力に基づいて
認定することを前提としていることなどからすれば,近方視力障害を遠方視力障害と同じ
障害等級にまで位置付けることはできず,直近下級に位置付けるのが相当である。
イ 上記別表は,コントラスト感度の低下,グレア等の視力障害につき,その障害等級を規
定していないが,これについてもやはり,視力障害の程度に応じて,適切に斟酌すべきで
あるところ,コントラスト感度が中等度以上に低下した状態が昼夜を通じて発生している場
合には,労働者災害補償保険や自動車損害賠償責任保険関係の認定基準では,正面視
で複視を生じる場合に,両眼視することによって高度の頭痛,めまい等を生じ,労働に著し
く支障を来すものとして12級を準用するものとされている例にならい,上記各保険関係の
障害等級でいうところの12級の障害と認めるのが相当であるし,夜間など一定の条件の
下でコントラスト感度が中等度以上に低下した状態が出る場合については,労働に著しい
支障を来すとまではいえないものの,神経症
状があるものとして上記障害等級でいうところの14級の障害と認めるのが相当であり,そ
の他の視力障害が併存している場合は,その程度に応じて,これを斟酌した障害等級を認
定するのが相当である。
(2) 原告A
ア 後遺障害等級
  原告Aは,RK手術を受けた後においても,遠方矯正視力,近方矯正視力ともに両眼と
もそれぞれ0.7以上あるから,この点について障害等級に該当するような視力障害がある
とは認められない。
 他方,原告Aは,コントラスト感度が中等度以上低下した状態が,昼夜を通じて発生して
いるほか,グレア,スターバーストといった視力障害があるところ,これらの視力障害は,障
害等級12級に当たると認定するのが相当である。
イ 逸失利益
 原告Aは,昭和40年12月5日生まれ(甲C1)で,F医師からRK手術を受けた平成4年3
月21日当時26歳であり,証拠(甲C全105,原告A本人),弁論の全趣旨によれば,原告
Aの上記後遺障害は,そのころ症状固定したと認められる。
 したがって,平成4年の賃金センサス第1巻第1表の産業計・企業規模計による高卒男
子労働者(25ないし29歳)の平均年収(399万2700円)を基礎とした上,労働能力喪失
率14パーセント(障害等級12級)を乗じ,就労可能年数41年に相当する新ホフマン係数
21.9704を乗じて,原告Aの逸失利益を算定すると,次のとおり,1228万0970円(小
数点以下切捨て,以下同じ。)となる。
399万2700円×0.14×21.9704=1228万0970円
ウ 後遺障害慰謝料
原告Aの後遺障害は,障害等級12級に当たるところ,後遺障害慰謝料としては,220万
円が相当である。
エ 手術費用  
 F眼科において両眼にRK手術を受けた原告らは,いずれも手術費用は70万円であった
と供述していること(甲C1及び3ないし5)からすれば,原告AがF医師からRK手術を受け
るに当たって支払った手術費用は70万円であることが認められる。
オ 既払金  
 甲C1によれば,原告Aは,Qから,F医師の実施したRK手術に関する損害賠償として1
5万円の支払を受けたことが認められる。
 また,甲C全4によれば,原告Aは,F医師,アールケー大阪及びOとの間で,F医師の実
施したRK手術について和解契約を締結し,60万円の支払を受けたことが認められる。
 よって,原告AがF医師のRK手術によって被った損害から,上記の合計75万円を控除
すべきである。
カ 弁護士費用
 145万円の限度で,本件と相当因果関係がある損害と認める。
キ 合計額
 以上より,原告Aの被った損害の残額は,1588万0970円となる。
(3) 原告B
ア 後遺障害等級
  原告Bは,遠方及び近方の矯正視力が,両眼とも1.0以上あり,この点について障害
等級に該当する視力障害は認められない。
 他方,原告Bは,右眼のコントラスト感度が中等度以上低下した状態が昼夜を通じて発
生しているほか,右眼についてグレア,スターバースト,夜間視力低下,視力変動といった
視力障害があるところ,これらの視力障害は,障害等級14級に当たると認定するのが相
当である。
イ 逸失利益
 原告Bは,昭和36年7月30日生まれ(甲C2)で,F医師からRK手術を受けた平成4年1
月24日当時30歳であり,証拠(甲C全106,原告B本人),弁論の全趣旨によれば,原告
Bの上記後遺障害は,その約半年後(当時31歳)に固定したと認められる。
 したがって,平成4年の賃金センサス第1巻第1表の産業計・企業規模計による高卒女
子労働者(30ないし34歳)の平均年収(313万8700円)を基礎とした上,労働能力喪失
率5パーセント(障害等級14級)を乗じ,就労可能年数36年に相当する新ホフマン係数2
0.2745を乗じて,原告Bの逸失利益を算定すると,次のとおり,318万1778円となる。
 313万8700円×0.05×20.2745=318万1778円
ウ 後遺障害慰謝料
原告Bの後遺障害は,障害等級14級に当たるところ,後遺障害慰謝料としては,80万
円が相当である。
エ 手術費用  
 原告Bは,F眼科で右眼についてRK手術を受けた際の手術費用は40万円であったと供
述しているところ(甲C2),この金額は,F眼科において両眼にRK手術を受けた原告らが,
前記のとおりいずれも手術費用は70万円であったと供述していることに照らすと,合理的
であり,信用できる。
 したがって,原告BがF医師からRK手術を受けるに当たって支払った手術費用は40万
円であると認められる。
オ 既払金  
 甲C全4によれば,原告Bは,F医師,アールケー大阪及びOとの間で,F医師の実施した
RK手術について和解契約を締結し,60万円の支払を受けたことが認められる。
 よって,原告BがF医師のRK手術によって被った損害から60万円を控除すべきである。
カ 弁護士費用
 40万円の限度で,本件と相当因果関係がある損害と認める。
キ 合計額
 以上より,原告Bの被った損害の残額は,418万1778円となる。
(4) 原告C
ア 後遺障害等級
  原告Cは,RK手術を受ける前は,遠方矯正視力が両眼ともに1.2程度であったのが,
RK手術を受けた後は,遠方矯正視力が両眼ともに0.6以下となったから,障害等級9級
に当たる。
 また,原告Cは,コントラスト感度が中等度以上低下した状態が昼夜を通じて発生してい
るほか,グレア,スターバースト,夜間視力低下及び視力日内変動といった視力障害があ
るところ,これらの視力障害は,障害等級12級に当たる。
 しかし,原告Cの視力障害と障害等級8級に規定する視力障害の内容,程度を比較する
と,本件では,等級を繰り上げることは相当でないから,結局のところ,原告Cの視力障害
は,重い障害等級9級に当たると認定するのが相当である。
イ 逸失利益
 原告Cは,昭和35年3月25日生まれ(甲C3)であるところ,術後相当期間が経過した平
成9年10月ころに急に視力が低下している(甲A3)から,上記後遺障害が症状固定した
のは,平成9年ころ(37歳)であると推認される。
 したがって,平成9年の賃金センサス第1巻第1表の産業計・企業規模計による高卒男
子労働者(35ないし39歳)の平均年収(540万6600円)を基礎とした上,労働能力喪失
率35パーセント(障害等級9級)を乗じ,就労可能年数30年に相当する新ホフマン係数1
8.0293を乗じて,原告Cの逸失利益を算定すると,次のとおり,3411万7024円とな
る。
 540万6600円×0.35×18.0293=3411万7024円
ウ 後遺障害慰謝料
原告Cの後遺障害は,障害等級9級に当たるところ,後遺障害慰謝料としては,550万
円が相当である。
エ 手術費用  
 前記(2)エで原告Aについて判断したのと同様に,原告Cの手術費用も70万円であると認
められる。
オ 既払金  
 甲C3によれば,原告Cは,Qから,F医師の実施したRK手術に関する損害賠償として1
0万円の支払を受けたことが認められる。
 また,甲C全4によれば,原告Cは,F医師,アールケー大阪及びOとの間で,F医師の実
施したRK手術について和解契約を締結し,60万円の支払を受けたことが認められる。
 よって,原告CがF医師のRK手術によって被った損害から,上記の合計70万円を控除
すべきである。
カ 弁護士費用
 400万円の限度で,本件と相当因果関係がある損害と認める。
キ 合計額
 以上より,原告Cの被った損害の残額は,4361万7024円となる。
(5) 原告D
ア 後遺障害等級
 原告Dの近方矯正視力は,右眼0.5,左眼0.3であるところ,1眼の視力が0.6以下に
なったときの直近下級である障害等級14級に当たる。
 また,原告Dのコントラスト感度は,昼夜を問わず,ほぼすべての周波数で中等度以上低
下しているほか,グレア,スターバースト及び夜間視力低下といった障害が生じているとこ
ろ,これらの視力障害は障害等級12級に当たる。
 以上によれば,原告Dの視力障害は,全体として障害等級11級に当たると認定するの
が相当である。
イ 逸失利益
 原告Dは,昭和47年8月3日生まれ(甲C4)で,F医師からRK手術を受けた平成4年1
月13日当時19歳であり,証拠(甲C全108,原告D本人),弁論の全趣旨によれば,原告
Dの上記後遺障害は,そのころ症状固定したと認められる。
 したがって,平成4年の賃金センサス第1巻第1表の産業計・企業規模計による大卒男
子労働者(20ないし24歳の平均年収(319万8200円)を基礎とした上,労働能力喪失
率20パーセント(障害等級11級)を乗じ,就労可能年数48年に相当するホフマン係数を
乗じて原告Dの逸失利益を算定すると,次のとおり,1368万5289円となる。
 319万8200円×0.20×(24.1263-2.7310)=1368万5289円
ウ 後遺障害慰謝料
原告Dの後遺障害は,障害等級11級に当たるところ,後遺障害慰謝料としては,330万
円が相当である。
エ 手術費用  
 前記(2)エで原告Aについて判断したのと同様に,原告Dの手術費用も70万円であると認
められる。
オ 既払金  
 甲C4によれば,原告Dは,Qから,F医師の実施したRK手術に関する損害賠償として3
5万円の支払を受けたことが認められる。
 また,甲C全4によれば,原告Dは,F医師,アールケー大阪及びOとの間で,F医師の実
施したRK手術について和解契約を締結し,60万円の支払を受けたことが認められる。
 よって,原告DがF医師のRK手術によって被った損害から,上記の合計95万円を控除
すべきである。
カ 弁護士費用
 170万円の限度で,本件と相当因果関係がある損害と認める。
キ 合計額
 以上より,原告Dの被った損害の残額は,1843万5289円である。
(6) 原告E
ア 後遺障害等級
  原告Eの近方矯正視力は,両眼とも0.3であるところ,両眼の近方・矯正視力が0.4
以下になったものであるから,両眼の遠方矯正視力が0.6以下になったときの直近下級
である障害等級10級に当たる。
 また,原告Eは,コントラスト感度が,中等度以上低下した状態が,昼夜を通じて発生して
いるほか,グレア,スターバースト,夜間視力低下及び視力日内変動といった視力障害が
あるところ,これらの視力障害は,障害等級12級に当たる。
 しかし,原告Eの視力障害と障害等級9級に規定する視力障害の内容,程度を比較する
と,本件では,等級を繰り上げることは相当でないから,結局のところ,原告Eの視力障害
は,重い障害等級10級に当たると認定するのが相当である。
イ 逸失利益
 原告Eは,昭和43年9月26日生まれ(甲C5)で,F医師からRK手術を受けた平成4年4
月29日当時23歳であり,証拠(甲C全109,原告E本人),弁論の全趣旨によれば,原告
Eの上記後遺障害は,そのころ固定したと認められる。
 したがって,平成4年の賃金センサス第1巻第1表の産業計・企業規模計による大卒男
子労働者(20ないし23歳)の平均年収(319万8200円)を基礎とした上,労働能力喪失
率27パーセント(障害等級10級)を乗じ,就労可能年数44年に相当するホフマン係数2
2.9230を乗じて原告Eの逸失利益を算定すると,次のとおり,1979万4331円となる。
 319万8200円×0.27×22.9230=1979万4331円
ウ 後遺障害慰謝料
原告Eの後遺障害は,障害等級10級に当たるところ,後遺障害慰謝料としては,440万
円が相当である。
エ 手術費用  
 前記(2)エで原告Aについて判断したのと同様に,原告Eの手術費用も70万円であると認
められる。
オ 既払金  
 甲C全4によれば,原告Eは,F医師,アールケー大阪及びOとの間で,F医師の実施した
RK手術について和解契約を締結し,60万円の支払を受けたことが認められる。
 よって,原告EがF医師のRK手術によって被った損害から60万円を控除すべきである。
カ 弁護士費用
 240万円の限度で,本件と相当因果関係がある損害と認める。
キ 合計額
 以上より,原告Eの被った損害の残額は,2669万4331円(請求額は2548万8533
円)となる。
11 結論
 以上によれば,原告らの被告エイエム三井に対する請求は,債務不履行に基づく損害賠
償として,原告Aにつき1588万0970円,原告Bにつき418万1778円,原告Cにつき43
61万7024円,原告Dにつき1843万5289円,原告Eにつき2548万8533円(請求額
の限度)及びこれらに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成13年
5月22日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め
る限度で理由がある(原告Eは全部理由がある。)から,これを認容し,原告A,原告B,原
告C,原告Dのその余の請求はいずれも理由がないから,棄却することとし,被告エフエム
エス及び被告アートメーキング三井に対する請求はいずれも理由がないから,これを棄却
することとする。
大阪地方裁判所第17民事部
裁判長裁判官  中 本   敏 嗣
裁判官  橋 本   都 月
裁判官  松 川   充 康
(別紙省略)

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