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平成11年(行ケ)第205号審決取消請求事件
平成13年2月15日口頭弁論終結
判決
  原      告富士重工業株式会社
代表者代表取締役【A】
訴訟代理人弁理士小橋信淳
同岩城全紀
同小原英一
  被      告特許庁長官  【B】
指定代理人     【C】
同【D】
同【E】
同【F】
主文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が平成11年審判第365号事件について平成11年5月14日にし
た審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は、昭和61年3月12日、発明の名称を「車両用電子制御装置」(補
正前の発明の名称「エンジン制御装置」)とする発明について特許出願をし、平成
7年2月22日に出願公告(特公平7-15425号)されたものの、平成10年
10月7日拒絶査定を受けたので、平成11年1月13日、上記査定に対する不服
の審判を請求した。特許庁は、これを平成11年審判第365号事件として審理し
た結果、平成11年5月14日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決
をし、平成11年6月9日にその謄本を原告に送達した。
2 本願発明の特許請求の範囲(請求項1。以下、請求項1に係る発明を「本願
発明」という。)
「エンジン、トランスミッション等の駆動系、あるいはサスペンション系等を
電子制御する車両用電子制御装置において、車種に応じた電子制御装置の仕様を識
別データとして記憶した記憶手段と、上記記憶手段に記憶された情報を外部接続装
置に出力する双方向通信手段とを備えたことを特徴とする車両用電子制御装置」
(別紙図面(1)参照)
3 審決の理由
 別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに、本願発明は、本願の出
願の日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された特願昭60-9521
8号(特開昭61-253512号公報)の願書に最初に添付した明細書及び図面
(以下「先願明細書等」という)に記載された技術(以下「先願発明」という。)
と同一であるから、特許法29条の2第1項に該当し特許を受けることができな
い、としたものである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 審決の理由中、Ⅰ(審決書2頁2行~14行)、Ⅱ(同2頁15行~3頁1
7行)は認める。Ⅲ(同3頁18行~5頁12行)、Ⅳ(同5頁13行~6頁2
行)は争う。
 先願明細書等に、「車載される制御装置対象に対応した識別コードを記憶す
る手段(ROM)を有する車載用電子的制御装置に対して外部装置(50)を接続
し、外部装置(50)に対して設定されるスタートスイッチを押すと、外部装置(5
0)は前記手段に記憶された識別コードが入力され、それを読み取って表示するよう
にした、車載用電子的制御装置の自己診断装置。」(審決書3頁10行~17行、
別紙図面(2)参照)との技術(先願発明)が記載されていること、本願発明と先願発
明とを比較すると、本願発明の「エンジン、トランスミッション等の駆動系、ある
いはサスペンション系等を電子制御する車両用電子制御装置」が先願発明の「車載
用電子的制御装置」に、本願発明の「車種に応じた電子制御装置の仕様を識別デー
タとして記憶した記憶手段」が先願発明の「車載される制御装置対象に対応した識
別コードを記憶する手段(ROM)」に、本願発明の「外部接続装置」が先願発明
の「外部装置(50)」にそれぞれ相当していることは、認める。
 審決は、本願発明における送信対象の認定を誤り(取消事由1)、また、引
用発明に「双方向通信手段」が開示されていると誤認し(取消事由2)、その結
果、本願発明は先願発明と同一であると誤った結論を導いたものであるから、審決
は、違法なものとして、取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願発明における送信対象の誤認)
 審決は、本願発明の「双方向通信手段」とは、車両用電子制御装置1は、ラ
インエンドチェッカ3から送信要求があれば識別データ(ID番号)を送出するに
すぎず、それ以上の特異性を有しないと認定し(審決書4頁17行~5頁3行)、
この認定を前提として、先願発明は、本願発明の「記憶手段に記憶された情報を外
部接続装置に出力する双方向通信手段」を具備していると判断した。しかし、上記
判断の前提となっている本願発明の送信対象の認定は、誤りである。
(1) 出願公告後の平成8年1月22日付け手続補正書により適法に補正された
明細書及び図面(以下「本願明細書等」という。)をみると、「先ず、ステップ2
10において、ラインエンドチェッカ3から双方向通信手段としての通信インター
フェイス105を介して、ROM101の所定アドレス101aに書込まれたID
番号の送信要求信号があったか否かをチェックし、送信要求があればステップ20
2へ進み、通信インターフェイス105を介してID番号をシリアル通信方式によ
り送出し、次いでEXITする。一方、ステップ201において、外部からID番
号送信要求信号がなかった場合には、ステップ203へ進み、故障診断結果などの
通常の送信データを送出し、EXITする。このように、完成車4の外部からの要
求により、通常データの送出をID番号から切換って送出するので、容易に通常デ
ータもID番号も読出すことが可能となる。こうして、検査員はコネクタ5の接続
のみ行えば、ラインエンドチェッカ3と完成車4に搭載された車両用電子制御装置
1との間で相互に通信を行えるようになり、完成車4のラインエンドにおけるチッ
ックを確実にかつ効率的に行うことができる。」(5欄23行~6欄7行)などと
いう記載があり、上記記載によれば、本願発明の車両用電子制御装置1は、ライン
エンドチェッカ3から、ID番号の送信要求信号がなかった場合、つまり送信要求
が「ID番号でない」ときは、故障診断結果などの通常の送信データを、ラインエ
ンドチェッカ3へ送出するというプログラムになっているものである。
 そうすると、本願発明においては、①ラインエンドチェッカ3から、ID
番号の送信要求信号があれば、車両用電子制御装置1に記憶されたID番号を、ラ
インエンドチェッカ3へ送出し、②ラインエンドチェッカ3からの送信要求が、I
D番号でない場合には、車両用電子制御装置1に記憶された他の、故障診断結果な
どの通常データを、ラインエンドチェッカ3へ送出する、という構成となっている
ことが、明らかである。
 要するに、車両用電子制御装置1とラインエンドチェッカ3との間におい
て、車両用電子制御装置1に記憶されている「ID番号」のほかに、車両用電子制
御装置1にあらかじめ用意されている故障診断メニューに基づいて行った故障診断
結果(通常データ)も、その双方向通信のデータ授受の対象となっているものであ
る。本願発明では、以上のように構成されたものを「双方向通信手段」といってい
るのである。
(2) 被告は、本願発明の「双方向通信手段」が、「識別データ」(ID番号)
を送出することに加え、さらに「通常データ」を、車両用電子制御装置から外部接
続装置へ送出するものと解釈することはできないと主張する。
 しかし、本願発明の特許請求の範囲の「車種に応じた電子制御装置の仕様
を識別データとして記憶した記憶手段と、」の文言は、記憶手段が「車種に応じた
電子制御装置の仕様を識別データとして記憶している」ことを示している記載であ
るのに対し、「上記記憶手段に記憶された情報を外部接続装置に出力する双方向通
信手段と、」の文言は、双方向通信手段が、「上記記憶手段に記憶された情報を外
部接続装置に出力する」ことを示している記載である。後者において構成要素とさ
れているのは、「上記記憶手段に記憶された情報」であり、この「情報」には、
「識別データ」のほか、それ以外の他の情報(車両用電子制御装置に記憶された他
の故障診断結果などの通常データ)も含まれる。このことは、特許請求の範囲の記
載において、「上記記憶手段に記憶された情報」となっており、「識別データ」に
限定された記載となっていないことからも明白である。
 また、「情報」とは、データの集団又は事実やデータの集合を意味する用
語であり(甲第7、8号証参照)、この用語は、もともと複数の事実や、複数のデ
ータを含む意味に理解されているものである。そうすると、通常の用語知識を有し
た当業者であれば、本願発明の特許請求の範囲に記載された「情報」には、複数の
事実や、複数のデータが含まれていると理解し、「双方向通信手段」の送信対象と
しては、本願明細書の「発明の詳細な説明」に記載された実施例を参酌して、その
送信対象として、「ID番号」(識別データ)と故障診断結果などの「通常デー
タ」の両者を含む意味に理解するのが通常である。
(3) 以上によれば、審決が、本願発明の「双方向通信手段」とは、車両用電子
制御装置1は、ラインアンドチェッカ3から送信要求があれば識別データ(ID番
号)を送出するにすぎず、それ以上の特異性を有しないとしたのは、重大な認定の
誤りであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、取消
しを免れないものである。
2 取消事由2(先願発明に「双方向通信手段」が開示されているとの誤認)
 審決は、先願発明において、「外部装置(50)に対して設定されるスタート
スイッチを押すと、外部装置(50)は記憶された識別コードが入力され、それを読
み取って表示するようにしているのであるから、外部装置50と、車載用電子的制
御装置本体(制御ユニット16)の間の通信は、双方向に行われるものであり、」
(審決書4頁10行~16行)と認定し、この認定を前提として、先願発明は、本
願の発明の「双方向通信手段」を具備していると判断した。しかし、上記判断の前
提となっている先願発明に「双方向通信手段」が開示されているとの認定は、誤り
である。
(1) 先願発明は、制御ユニット16と外部装置50との相互間においてみる
と、外部装置50から制御ユニット16への入力信号は、スタートスイッチの状態
が「オン状態」、「オフ状態」の信号として入力されるのみであり、外部装置50
から制御ユニット16に対して、制御ユニット16に記憶されたROM識別コード
の要求信号は、入力されておらず、また、他に記憶されたデータの交換を示唆する
双方向通信の信号は、外部装置50より制御ユニット16に対して一切送信されて
いないことが明らかである。
 他方、先願発明においては、制御ユニット16からの出力信号により、R
OMコード信号、エラーコード信号が外部装置50に入力される。外部装置50に
対して入力されるROMコード信号、エラーコード信号は、外部装置50からのデ
ータ要求に基づいて制御ユニット16から出力されたものではなく、一方的に制御
ユニット16から出力され、一方的に外部装置50に入力されるものである。
 結局、ROMコード信号、エラーコード信号が、外部からのデータ要求に
基づかずに、一方的に制御ユニット16から外部装置50に入力されるものであっ
て、この信号の伝送関係は、「一方向の通信」というべきものである。
(2) 被告は、外部装置50への信号の送出は、外部装置50から制御ユニット
16にスタートスイッチのオン信号を送った結果であることが明らかであり、その
オン信号は、まさに識別コードやエラーコードに対する送信要求信号であるとい
う。
 しかし、先願発明でのスタートスイッチのオン信号は、相手側に対する要
求が、単数であり、複数の要求を選択的に判断して要求するという考えは全くない
こと、スイッチ・オンの結果は、いつも同じ動作(返信)しか得られないことを考
慮すると、先願発明におけるスタートスイッチのオン信号は、送信(返信)機能の
スタート動作にすぎず、これを「送信要求信号」ということはできない。
(3) 以上によれば、審決が、先願発明において、外部装置50と車載用電子的
制御装置本体(制御ユニット16)の間の通信は双方向に行われるとしたのは、重
大な認定の誤りであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである
から、審決は取消しを免れない。
第4 被告の反論の要点
 審決の認定判断は、いずれも正当であって、審決には、取り消されるべき理
由はない。
1 取消事由1(本願発明における送信対象の誤認)について
(1) 原告は、「ラインエンドチェッカ3の送信要求が、ID番号の要求ではな
い場合には、」と主張して、あたかもラインエンドチェッカ3がID番号の送信要
求ではない何らかの要求信号を出しているかのように言い替えている。しかし、I
D番号の送信要求信号以外に通常データの送信要求信号があることは、本願明細書
等に一切記載がないのであって、なぜ上記のように言い替えうるのか理解し難い。
 本願発明の実施例において、ID番号のほかに通常データを送出する記載
があるのは事実である。しかし、本願発明の「双方向通信手段」が、「識別デー
タ」(ID番号)を送出することに加え、さらに「通常データ」を、車両用電子制
御装置から外部接続装置へ送出するものと解釈することはできない。なぜなら、特
許請求の範囲には、「車種に応じた電子制御装置の仕様を識別データとして記憶し
た記憶手段と、上記記憶手段に記憶された情報を外部接続装置に出力する双方向通
信手段と」とされているから、「識別データ」(ID番号)のみを構成要素として
いることは明らかである。
 このことは、本願明細書の【発明の効果】の欄に、「本発明によれば、外
部接続装置が要求信号を出力すると、これに応じて双方向通信により車両用電子制
御装置は、車種に応じた電子制御装置の仕様としての識別データを出力するの
で、」(甲第2号証の3、1頁24行~26行)と記載されていることからも明ら
かである。
(2) 本願発明の特許請求の範囲の「情報」とは、「識別データ」の上位概念の
用語であり、この「情報」が「通常データ」を含むか否かにかかわらず、下位概念
の「識別データ」を包含しているのである。仮に、原告主張のとおり、「情報」に
「通常データ」が含まれることがあるとしても、本願発明の「情報」は、先願発明
の「識別コード」と同一であることに変わりがない。
2 取消事由2(先願発明に「双方向通信手段」が開示されているとの誤認)に
ついて
 先願明細書によれば、外部装置50への信号の送出は、外部装置50から制
御ユニット16にスタートスイッチのオン信号を送った結果であることが明らかで
あり、そのオン信号は、まさに識別コードやエラーコードに対する送信要求信号で
ある。「双方向通信手段」の意味は、「送り手と受け手が相互に情報を交換するこ
とができる通信のこと」である(甲第4、5号証参照)。先願発明において、外部
装置50から制御ユニット16に送られる信号も、制御ユニット16から外部装置
50に送られる信号も、いずれも情報であり、双方向通信の一形態ということがで
きるから、原告のいう「一方向通信」というのは当たらない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(本願発明における送信対象の誤認)について
(1) 原告は、本願発明の「双方向通信手段」の送信対象としては、本願明細書
の「発明の詳細な説明」に記載された実施例を参酌して、その送信対象として、
「ID番号」(識別データ)と故障診断結果などの「通常データ」の両者を含む意
味に理解するのが通常である旨主張し、これに対して、被告は、本願発明の「双方
向通信手段」が、「識別データ」(ID番号)を送出することに加え、さらに「通
常データ」を、車両用電子制御装置から外部接続装置へ送出するものと解釈するこ
とはできない旨主張する。
(2) 本願発明の特許請求の範囲に、「エンジン、トランスミッション等の駆動
系、あるいはサスペンション系等を電子制御する車両用電子制御装置において、車
種に応じた電子制御装置の仕様を識別データとして記憶した記憶手段と、上記記憶
手段に記憶された情報を外部接続装置に出力する双方向通信手段とを備えたことを
特徴とする」との記載があることは、前記(第2、2)のとおりである。
 本願発明の「記憶手段」は、「車種に応じた電子制御装置の仕様を識別デ
ータとして記憶し」ていることが明らかであるものの、そもそも、本願発明は、
「エンジン、トランスミッション等の駆動系、あるいはサスペンション系等を電子
制御する車両用電子制御装置」なのであるから、その「記憶手段」には、当然に、
「識別データ」のほか、車両用電子制御装置の本来の情報も記憶されていること
は、論ずるまでもないことである。
 そして、特許請求の範囲に「上記記憶手段に記憶された情報を外部接続装
置に出力する」と記載され、外部接続装置に出力するのが「情報」であり、「識別
データ」としていないことからすれば、「車両用電子制御装置」から「外部接続装
置」に出力されるものは、「識別データ」のほか、車両用電子制御装置の本来の情
報を含んでいることが明らかである。
(3) 被告は、特許請求の範囲には、「車種に応じた電子制御装置の仕様を識別
データとして記憶した記憶手段と、上記記憶手段に記憶された情報を外部接続装置
に出力する双方向通信手段」とされているから、「識別データ」(ID番号)のみ
を構成要素としている旨主張する。
 しかしながら、本願発明は、「エンジン、トランスミッション等の駆動
系、あるいはサスペンション系等を電子制御する車両用電子制御装置」であり、
「車種に応じた電子制御装置の仕様を識別データとして記憶した記憶手段と、上記
記憶手段に記憶された情報を外部接続装置に出力する双方向通信手段とを備えたこ
とを特徴とする」というものである。被告の指摘する「車種に応じた電子制御装置
の仕様を識別データとして記憶した記憶手段と、上記記憶手段に記憶された情報を
外部接続装置に出力する双方向通信手段と」との記載は、「車両用電子制御装置」
である本願発明における特徴となる構成を示しているにすぎないのであり、本願発
明は、上記特徴とは別に、「車両用電子制御装置」としての本来の機能を有してい
るのである。したがって、本願発明の「双方向通信手段」が、「識別データ」(I
D番号)のみを出力するものである、などということは、およそあり得ないことで
ある。
 被告の上記主張は、採用できない。
(4) そうすると、本願発明の「双方向通信手段」とは、車両用電子制御装置1
は、ラインアンドチェッカ3から送信要求があれば識別データ(ID番号)を送出
するにすぎず、それ以上の特異性を有しないとした審決の認定(審決書4頁17行
~5頁3行)は、仮に、その意味が被告の主張するようなものであるとすれば、そ
れは誤りである。しかし、たといそうであったとしても、上記誤りは、審決の結論
に影響を及ぼすものではない。すなわち、次のとおりである。
 先願発明が、「車載される制御装置対象に対応した識別コードを記憶する
手段(ROM)を有する車載用電子的制御装置に対して外部装置50を接続し、外
部装置50に対して設定されるスタートスイッチを押すと、外部装置50は前記手
段に記憶された識別コードが入力され、それを読み取って表示するようにした、車
載用電子的制御装置の自己診断装置」との構成のものであることは、当事者間に争
いがない(別紙図面(2)参照)。
 先願発明の「記憶する手段(ROM)」が、「車載される制御装置対象に
対応した識別コードを記憶」していることは明らかであるものの、そもそも、先願
発明は、「車載用電子的制御装置の自己診断装置」であるから、その「記憶する手
段(ROM)」には、当然に、「識別コード」のほか、車載用電子的制御装置の自
己診断装置の本来の情報も記憶されていることは、論ずるまでもないことである。
 そうすると、本願発明と先願発明とは、「識別データ」(先願発明では
「識別コード」)及びそれ以外の車両用電子制御装置(先願発明では「車載用電子
的制御装置」)の本来の情報を送信対象としている点で変わるところがない。
 本願発明の送信対象として、「ID番号」(識別データ)と故障診断結果
などの「通常データ」の両者を含む意味に理解すべきであることは、原告の主張の
とおりである。しかし、このことは、先願発明にも同じようにいえることであっ
て、先願発明の送信対象も、「識別コード」のほかに、車載用電子的制御装置の自
己診断装置の本来の情報を含んでいるのである。
 本願発明の送信対象についての審決の認定を非難しつつ、先願発明もこれ
と同様であることを考慮に入れない原告主張の取消事由1は、首尾一貫しておら
ず、結局のところ理由がないことが明らかである。
2 取消事由2(先願発明に「双方向通信手段」が開示されているとの誤認)に
ついて
(1) 原告は、先願発明におけるスタートスイッチのオン信号は、送信(返信)
機能のスタート動作にすぎず、これを「送信要求信号」ということはできないと
し、これを前提に、先願発明は、ROMコード信号、エラーコード信号が、外部か
らのデータ要求に基づかずに、一方的に制御ユニット16から外部装置50に入力
されるものであって、この信号の伝送関係は、「一方向の通信」というべきもので
ある旨主張する。
(2) 甲第4号証によれば、昭和58年8月1日発行「ニューメディア用語辞
典」(日本放送出版協会編)には、「双方向通信」について「送り手と受け手が相
互に情報を交換することのできる通信のこと。」との記載が、甲第5号証によれ
ば、昭和57年4月12日電波新聞社発行「マイコン用語辞典」には、「デュプレ
ックス」の解説において、「2重と訳され、普通は双方向通信方法のことをいう。
この通路では、データを両方向に自発的に伝送することができる。通路は分離され
た複数個を用いる場合と、多重の単線を用いる場合の両方がある。」との記載があ
ることが認められる。
 「双方向通信手段」については、本願発明の特許請求の範囲には、「上記
記憶手段に記憶された情報を外部接続装置に出力する双方向通信手段とを備えた」
との記載があるのみであり、また、甲第2号証の2(本願発明に係る特許公報)及
び甲第2号証の3(平成8年1月22日付け手続補正書)によれば、本願明細書等
の他の部分にも、「双方向通信手段」の情報の種類、態様等について格別の限定を
加える記載はないことが認められる。そうだとすれば、本願発明においては、「双
方向通信手段」は、「エンジン、トランスミッション等の駆動系、あるいはサスペ
ンション系等を電子制御する車両用電子制御装置」であることから求められる制約
があり得ることは別として、それ以外には格別の限定のない、広い技術的意味を有
するものというべきである。
(3) 甲第3号証によれば、先願明細書等には、「第12図に示す実施例にあっ
ては、制御ユニット16に対して外部装置50を接続設定している。すなわち、制
御ユニット16の前記テストスイッチ24の入力端子Tに対して外部装置50を接
続するもので、この外部装置50からの出力信号によってテスト診断モードが設定
されるようにする。このようにすると、このマイクロコンピュータ制御ユニット1
6と外部装置50の同期を取ることが容易となり、テストモード出力制御が簡易化
される。上記外部装置50はマイクロコンピュータによって構成されるものであ
り、第13図はこの外部装置50を構成するマイクロコンピュータの動作状態の流
れを示している。このルーチンは例えば4ms毎に起動されるもので、制御ユニッ
ト16からの出力信号Wからハード的およびソフト的にノイズを除去したものを用
いる。すなわち、外部装置50に対して設定されるスタートスイッチを押すとする
と、ステップ501で制御ユニット16に対する入力端子Tがオン状態と判断さ
れ、このオン状態と判断された結果ステップ502に進み、まずROM識別コード
を入力する。そして、このROMコードが入力された状態でステップ503によっ
てこの読み取られたROMコードに対応するエラーコード表を選択する。・・・そ
して、ROMコードに続いてエラーコードまたは正常コードを読み取り、選択され
たエラーコード表にしたがってコード内容を選択し、外部装置50に対して設定さ
れる例えばLEDを点灯制御する。また、ROMコードやエラーコード、または正
常コードが入力されない場合には、通信エラー表示のLEDを点灯させる。上記外
部装置50に対しては、読み取ったROMコードを確認用に表示する表示部が設け
られる。」(5頁左下欄3行~右下欄16行)との記載があり、第12図には、一
方で、外部装置50からエンジン制御ユニット16に向かう線が矢印で示され、他
方で、エンジン制御ユニット16から外部装置50に向かう線が矢印で示されてい
る図が記載されていることが認められる。
 先願明細書等に、上記のとおり、「この外部装置50からの出力信号によ
ってテスト診断モードが設定されるようにする。」(5頁左下欄7行~8行)、
「すなわち、外部装置50に対して設定されるスタートスイッチを押すとすると、
ステップ501で制御ユニット16に対する入力端子Tがオン状態と判断され、」
(5頁左下欄19行~右下欄2行)との記載があることからすると、外部装置50
から制御ユニット16に信号を送り、この信号によって、制御ユニット16にテス
ト診断モードが設定されることが明らかである。
 また、上記のとおり、「上記外部装置50はマイクロコンピュータによっ
て構成されるものであり・・・制御ユニット16からの出力信号Wからハード的お
よびソフト的にノイズを除去したものを用いる。」、「ステップ501で制御ユニ
ット16に対する入力端子Tがオン状態と判断され、このオン状態と判断された結
果ステップ502に進み、まずROM識別コードを入力する。・・・上記外部装置
50に対しては、読み取ったROMコードを確認用に表示する表示部が設けられ
る。」との記載があることからすると、制御ユニット16から外部装置50にRO
M識別コードを送り、この信号によって、外部装置50が読み取ったROMコード
を確認用に表示することが明らかである。
 スタートスイッチを押すことによって「オン状態」とし、これが制御ユニ
ット16に伝えられることが、要求信号であること以外の何物でもないことは自明
の事柄というべきであり、先願明細書等自体も、「この外部装置50からの出力信
号によってテスト診断モードが設定されるようにする。」(5頁左下欄7行~8
行)というように「出力信号」と扱っているのである。
 したがって、先願発明において、車載される制御装置対象に対応した識別
コードを記憶する手段(ROM)を有する制御ユニット16において、外部装置5
0から制御ユニット16にオン状態を示す信号が出力され、これに対して、制御ユ
ニット16から外部装置50にROM識別コードが出力されるという構成が、本願
発明にいう「双方向通信」と異なるところがないことは明らかである。
(4) 原告は、他に記憶されたデータの交換を示唆する双方向通信の信号は、外
部装置50より制御ユニット16に対して一切送信されていないとか、制御ユニッ
ト16からの出力信号によりROMコード信号、エラーコード信号が外部装置50
に入力されるものであるとか、外部装置50に対して入力されるROMコード信
号、エラーコード信号は、外部装置50からのデータ要求に基づいて制御ユニット
16から出力されたものではなく、一方的に制御ユニット16から出力され、一方
的に外部装置50に入力されるなどと主張する。しかし、上記認定に照らせば、失
当であることは明らかである。
 また、原告は、先願発明でのスタートスイッチのオン信号は、相手側に対
する要求が、単数であり、複数の要求を選択的に判断して要求するという考えは全
くないこと、スイッチ・オンの結果は、いつも同じ動作(返信)しか得られないこ
とを考慮すると、先願発明におけるスタートスイッチのオン信号は、送信(返信)
機能のスタート動作にすぎず、これを「送信要求信号」ということはできないとも
主張する。
 しかしながら、本願発明において、「双方向通信手段」の情報の種類、態
様等について格別の限定がされていないことは、前述のとおりであり、また、先願
発明における制御ユニット16にROM識別コードの出力を求めるオン信号が「送
信要求信号」でないといえないことは自明である。原告の主張は、失当というほか
ない。
3 以上によれば、原告主張の審決取消事由は、理由がないことが明らかであ
り、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで、原告の本訴
請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟
法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
  裁判長裁判官山   下   和   明
     裁判官宍   戸       充
裁判官阿   部   正   幸
別紙図面(1)
別紙図面(2)

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「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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