弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 ①事件について
(一) 被控訴人は、吉永町に対し、五八七五万七九二〇円及びこれに対する平成
五年六月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二)控訴人らのその余の請求を棄却する。
2 ②事件について
(一) 被控訴人は、吉永町に対し、八三一四万九六〇〇円及びこれに対する平成
五年六月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 控訴人らのその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を被控訴人の、その余
を控訴人らの各負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 ①事件
 被控訴人は、吉永町に対し、一億一二八三万五三二〇円及びこれに対する平成五
年六月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 ②事件
 被控訴人は、吉永町に対し、三億三七〇〇万円及びこれに対する平成五年六月二
七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
第二 当事者の主張
 次の一のとおり訂正し、当審における補充的主張として次の二、三のとおり付加
するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決の訂正
1 原判決九頁九行目の「必要な処置を講じなければならない」を「必要な処置を
講じさせなければならない」と改める。
2 同一一頁四行目の「及び法一一七条」を削除する。
3 同一八頁につき、六行目の「吉永町議会」を「議会」と改め、八行目の「業務
に」の次に「直接の」を加える。
4 同二二頁につき、四行目の「法一一七条にいう」から六行目の「を指し、」ま
でを「法一一七条にいう」と、八行目から九行目にかけての「○○議員」を「F議
員」と各改める。
二 当審における控訴人らの補充的主張
1 ①事件について
(一) 原判決は、飛び地について、いずれはα地区財産区所有の土地と交換の
上、事業用地にすることを予定してあえてこれを除外しなかったとする。しかし、
吉永町が本件不動産①を取得した時点において、飛び地とα地区財産区所有の土地
との交換の具体的計画はなかったし、現在も右交換は実現されていないのであっ
て、右交
換の話は被控訴人が後からとってつけたものである。
(二) また、原判決は、本件契約①がもっぱら日輪舎に協力する目的があったと
は認められないとする。しかし、本件不動産①の中に飛び地が含まれていたこと、
被控訴人は、日輪舎からの要請で本件不動産①を購入したのであり、その購入によ
り日輪舎が競売を回避して多額の経済的利益を得ることを十分に承知していたこと
を考慮すると、被控訴人が日輪舎に協力する目的があったことは明らかである。
(三) 原判決は、本件契約①及び本件支出①につき財務規則違反があることを認
めながら、本件支出①が財務規則違反であることによって吉永町に損害が生じたと
証拠上認めることができないとする。しかし、本件契約①と本件支出①がそれぞれ
違法であれば、格別の理由がない限り、被控訴人には違法な本件契約①の執行と本
件支出①を回避すべき義務があり、右義務を尽くせば本件支出①をする必要はなか
ったのであるから、右判示は誤りである。
2 ②事件について
(一) 原判決は、「少なくとも競売や転売によって、本件不動産がいわば切り売
りされたり、吉永町の施策に非協力的な所有者のものとなった場合には、『βふる
さと村』を中心としてβ地区の活性化を図るという吉永町の観光施策に大きな影響
が生じることは明らかであり、前示認定のとおりの『βふるさと村』及び周辺地区
の観光資源としての価値、β地区に対するこれまでの町の施策及び資本投下等に照
らせば、その後購入後の土地の利用方法について、概括的とはいえ、前示の基本的
な観光施策に沿って、本件不動産②の利用計画を立てていることも勘案すると、右
のような経過のもとで、被告が、『βふるさと村』の保全のため、多額の対価を支
払っても本件不動産②を購入する必要があると判断したことは、吉永町の町長とし
て不当とはいえない。」とする。
 しかし、本件不動産②が取得できなかったとしても、「βふるさと村」の事業用
地は十分に確保されている。また、被控訴人の本件不動産②の購入の主たる目的
は、「βふるさと村」及び周辺地区の保全にあったわけではなく、本件契約①締結
時の調査不足により生じる損害が発生することを避けることにあったのであって、
要するに、被控訴人の誤った処置の彌縫策として本件契約②を締結し本件支出②を
したものであり、公共目的があったわけではない。
 そうすると、本件不動産②の取得そのものが違法で
あるから、その購入代金支払のための借入金そのものが損害であり、仮に借入金全
額が損害とはいえないとしても右借入金の利息そのものが損害である。
(二) 原判決は、本件契約②に先行する本件議決②が法一一七条に違反している
ことを認めたにもかかわらず、右違反は右議決の無効事由とはなり得ないとする。
しかし、違法な議決があるときは、格別の理由がない限り、町長は、再議に付する
ことが義務づけられ、再議の結論が出ない間は、議決に基づく契約の執行を回避す
べき義務があるというべきである。ところが、被控訴人は、右義務に違反して、本
件契約②について議会の再議に付することをせず、本件契約②を執行したのである
から、本件支出②は違法である。
3 本件不動産の適正価格について(①事件及び②事件)
(一) 原判決は、本件代金①が適正であることの根拠の一つとして、本件契約①
に至る経緯を指摘する。しかし、吉永町では、財産評価審議会や価格審査会などを
設置したわけではなく、不動産鑑定士の鑑定評価を得たりしたわけでもないのであ
って、要するに本件不動産①の価格について、吉永町独自にこれを把握しようと格
別の努力をした形跡はうかがえず、専ら売主側の主導で交渉がなされ、吉永町が売
主側の要求を容認する形で決定されたのである。また、吉永町の方で不動産鑑定等
の調査をしないで契約を締結するほどの取得の必要性、緊急性があったとはいえな
いし、本件不動産①の取得ができなければ吉永町の事業計画にどのような具体的、
回復困難な支障が生じるかも不明である。したがって、本件契約①に至る経緯は、
本件代金①の適正さを裏付けるものではない。
(二) 本件契約②に至る経緯については、吉永町はAに半ば脅されて本件不動産
を購入させられたことがうかがわれるのであって、本件代金②の適正さを裏付ける
事情は見受けられない。
(三) ところで、公有財産の処分はもちろんその取得についても、正常な取引価
格によることが法律上要求されているというべきであるから、その取得価格が著し
く高額であるか否かは正常な取引価格との比較によって行うべきである。鑑定の結
果によると、本件不動産①の平成四年七月二四日時点の価格は合計四一五九万八○
○○円であり、本件不動産②の平成五年三月一日時点の価格は合計二億一一五四万
二〇〇〇円であるから、吉永町は、本件不動産①を鑑定価格の約二・七一倍、本件
不動産②を鑑定
価格の約一・五九倍で買い受けたことになる。しかも、鑑定の示した価格は、実勢
価格の倍くらい高い金額が付けられている。したがって、本件代金①及び②が正常
な取引価格と比較して著しく高額であることは明らかである。そして、被控訴人主
張の程度の緊急性、必要性では、右のような購入価格の高さを合理化することはで
きないから、本件支出は違法である。
(四) 被控訴人は、本件不動産の現存価格が取得価格とほぼ同額であるから、損
益相殺の観点により、吉永町に損害が生じていない旨の主張をする。しかし、本件
契約時の損害がその後の地価の上昇により解消されるとする主張は、そもそも主張
自体失当である。また、控訴人主張の本件不動産の現在の価格は、吉永町が本件不
動産を取得後数億円の資本を投下した結果であるから、現在価格を基準に吉永町に
損害が生じていないとすることはできない。
三 当審における被控訴人の補充的主張
1 ①事件について
(一) 控訴人らは、吉永町が本件不動産①を取得した時点において、飛び地とα
地区財産区所有の土地との交換の具体的計画はなかったし、現在も右交換は実現さ
れていないと主張する。しかし、具体的計画がない限り一切の先行的取引をなし得
ないというのはあまりに行政の実態を無視した議論であり、失当である。また、吉
永町は、飛び地について交換等を実行し、有効利用をしている。
(二) 控訴人らは、被控訴人が日輪舎に協力する目的があったことは明らかであ
ると主張するが、そのような事実はない。仮に日輪舎が結果的に利益を得ていたと
しても、それは本件契約①のいわば反射的効果にすぎないのであり、被控訴人が一
民間会社である日輪舎に特別の利益を与える理由も必要もない。
(三) 控訴人らは、本件契約①及び本件支出①につき財務規則違反があることを
前提に、被控訴人には違法な本件契約①の執行と本件支出①を回避すべき義務があ
ると主張する。しかし、被控訴人の本件支出①が財務規則違反であること自体疑問
であるのみならず、被控訴人は、少なくとも主観的には本件契約①が財務規則に違
反しているとの認識を持っていたわけではないから、公務員としての法令(法律上
の義務も含まれる)遵守義務を遂行したにすぎない。そして、財務規則は町に不測
の損害が発生するのを防止しようとするものであるから、吉永町に損害を与えてい
ない本件契約①及び本件支出①の執行を回避すべき義務は成
立しない。
2 ②事件について
(一) 控訴人らは、被控訴人の誤った処置の彌縫策として本件契約②を締結し本
件支出②をしたものであり、公共目的があったわけではないと主張する。しかし、
本件契約②は「βふるさと村」及び周辺地区の保全の実現のためになされたもので
ある。
(二) 控訴人らは、「違法な議決があるときは、格別の理由がない限り、町長
は、再議に付することが義務づけられ、再議の結論が出ない間は、議決に基づく契
約の執行を回避すべき義務があるというべきである。ところが、被控訴人は、右義
務に違反して、本件契約②について議会の再議に付することをせず、本件契約②を
執行したのであるから、本件支出②は違法である。」と主張する。しかし、法一一
七条に違反したからといって、議決が無効になるわけではなく、本件契約②及び本
件支出②が違法、不当になるわけでもない。
3 本件不動産の適正価格について(①事件及び②事件)
(一) 地方公共団体の長の財産購入契約の締結は、対価を含めてその裁量に委ね
られた行為であり、その裁量の認められる範囲は相当広範なものである。特に本件
不動産の購入は、吉永町が昭和四二、三年以降過疎化対策の根本的解決方法の一環
として着想した「βふるさと村」を実現するための切り札ともいうべき行為であっ
て、被控訴人に広範な裁量が認められるべきである。
(二) 吉永町が本件不動産①を鑑定価格の約二・七一倍、本件不動産②を鑑定価
格の約一・五九倍で買い受けたことは控訴人らの指摘するとおりである。しかし、
必要性の少ない財産を適正価格よりも著しく高額な対価で取得した場合でも、その
ことに合理的な理由があれば、許容されるところ、本件不動産の取得について、必
要性、緊急性、代替困難性の要件を満たしていることは、原判決の認定事実からも
明らかであるし、また、和気農協のβ農場に対する債権額五億六七〇〇万円(平成
四年一月当時)の存在を無視してはそもそも本件不動産を購入できる見込みが全く
なかったのであって、これらの事情を考慮すると、本件不動産の取得価格が適正な
価格よりも高いからといって、本件契約①、②及び本件支出①、②が違法になるわ
けではない。
(三) 仮に本件契約①、②及び本件支出①、②が違法であったとしても、売買代
金額と鑑定評価額の差額が当然に吉永町の損害となるわけではない。
 違法な双務契約により地方公共団体が相手方から一定の
給付を受け、それが残存し、かつそれが経済的価値を有するような場合には、損害
の有無、額を判断するに当たっては、損益相殺がなされるべきである。これを本件
についてみると、吉永町は、本件契約①及び②により代金合計四億四九八三万五三
二〇円を支払ったものの本件不動産の所有権を何らの権利制限もなく取得し、その
後道路整備、農園・薬草園等の整備を進めた結果、本件不動産は、その価値が上昇
し、平成一二年一〇月一日時点における正常価格が合計三億九一八一万六〇〇〇円
に達しているのであって、この点は損益相殺として考慮されるべきである。そし
て、本件と同種類の事案の判決例によれば、諸般の事情を考慮すべきではあるもの
の、適正価格の二割程度の高い価格による購入は、地方公共団体の長の裁量の範囲
内とされているから、本件契約①及び②により吉永町の受けた損害を算定する場合
には、現時点に近い平成一二年一〇月一日時点における正常価格に少なくとも一五
パーセントの価値を加えた四億五〇五八万八四〇〇円の利益を得たことを考慮すべ
きである。
 加えて、吉永町は、本件契約①及び②の後である平成五年三月三日付けで、日輪
舎から、公衆用道路用地の寄附を受けており、その価額は六〇四万六一六五円であ
るから、この価額は売買代金額から控除すべきである。
 そうすると、本件不動産の現存価格は、本件契約①、②の代金額総額とほぼ同額
ということになるから、吉永町には損害が発生していない。
       理   由
第一 ①事件について
一 請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
二 請求原因4について
1 本件紛争の概要については、次のとおり訂正するほか、原判決二四頁三行目か
ら四六頁九行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(一) 原判決二四頁五行目の「原告B」の次に「、調査嘱託の結果」を加える。
(二) 同二六頁につき、一行目の「平安時代」を「奈良時代」と、四行目の「昭
和四八年」を「昭和四九年」と各改める。
(三) 同二九頁三行目の「吉永町が」の次に「前記林業構造改善事業により」を
加える。
(四) 同三〇頁四行目の「また、」の次に「これに先立つ昭和六三年、」を加え
る。
(五) 同三一頁九行目の「平成三年一二月二五日、本件不動産を本件根抵当権付
きのまま」を「平成三年一二月、即決和解により本件不動産を本件根抵当権等付き
のまま」と改める。
(六) 同三三
頁三行目の末尾に次のとおり加える。
「しかし、被控訴人が、平成四年七月八日ころ及び同月一八日ころに和気農協の理
事らと会って、同理事らに対し、吉永町が本件不動産①を購入したいので和気農協
にも協力してもらいたい旨述べたところ、同理事らからは、同月八日ころに会った
際には、Aから提示を受けている金額では同不動産について本件根抵当権の抹消に
応じることはできないとの意向が示され、同月一八日ころに会った際にも、右抹消
に応じるとの返事は得られなかった。」
(七) 同三四頁につき、七行目の「議案第五四号「財産の取得」について」を
「議案第五四号『財産の取得について』」と改め、末行の末尾に次のとおり加え
る。
「なお、右審議の際、被控訴人、C参事らは、本件根抵当権設定登記が抹消されて
から契約を実行するとの趣旨の説明をしていた。」
(八) 同三七頁一行目の「本件不動産①」から三行目の「内容証明郵便」までを
「本件不動産①等に設定された本件根抵当権設定登記等の抹消登記手続をするのが
相当であると思料するが、そのことに了解するか否かを回答してほしいこと、日輪
舎の代理人弁護士は和気農協に対する刑事告訴事件の依頼も受けていることなどを
記載した内容証明郵便」と改める。
(九) 同四〇頁一行目の「吉永町全員協議会」を「吉永町議会全員協議会」と改
める。
(一〇) 同四二頁三行目の末尾に「なお、D議員は、右議案の審議の際賛成の意
見は述べておらず、採決の際にも賛成に挙手をせず、反対の側に立った。」を加え
る。
(一一) 同四三頁一〇行目から末行にかけての「いまだ弁済されていない」を
「平成五年四月五日に利息一六〇万六六一一円とともに完済した。」と改める。
(一二) 同四四頁二行目の「吉永町監査委員は、」の次に「同年四月一七日、」
を加える。
2 以上の事実を前提に、本件支出①の違法性について検討する。
(一) 地方公共団体の財産取得は、一定の場合に議会の議決を要する旨定められ
ている(法九六条一項八号)ほかには、取得の対象、取得方法、対価等を具体的に
規制する法令が存在しないから、地方公共団体の長の裁量に委ねられた行為である
と解される。しかし、地方公共団体は、その事務を処理するに当たって、最小の経
費で最大の効果を挙げなければならず(平成一一年法律第八七号による改正前の法
二条一三項)、その目的を達成するための必要かつ最小の限度をこえてこれを支出
してはならない(地方財政法四条一項)から、右裁量権にも限界があり、裁量権を
逸脱又は濫用すれば、その財産の取得及び対価の支払は違法となることがある。
 そこで、以下、控訴人らの指摘する本件支出①の問題点について検討する。
(二) 公共事業目的等について
 控訴人らは、「本件契約①は、本件不動産①を取得する具体的必要性及び緊急性
がないにもかかわらず、もっぱら日輪舎の債務の弁済に協力する目的で締結された
ものであり、公共事業目的に欠ける」と主張する。
 しかし、右主張は採用できない。その理由は、原判決四七頁七行目から四八頁九
行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決四八頁三行
目の「方針であったのであるから」から五行目の「除外せずに」までを「方針であ
ったのであり、また、飛び地については、売主の側がこれを含めて本件不動産①全
体について売却する意向であり、吉永町としてもいずれはα地区財産区所有の土地
と交換の上、事業用地にすることを予定したのであるから、」と、六行目の「日輪
者」を「日輪舎」と各改める。この点につき当審において控訴人らの指摘する事情
を考慮しても、右判断は左右されない。
(三) 売買価格の相当性について
(1) 前記認定のとおり、被控訴人は、本件契約①の代金額の算定に際し、近隣
の土地の取引価格を参考にしたものの、不動産鑑定士による鑑定、日輪舎の購入価
格及び公示価格の調査、各筆ごと又は地目別の価格の検討を行わず、一括見積によ
って一億一二八三万五三二〇円と算定し、売主である日輪舎との間で格別の交渉を
するまでもなく同金額で代金額を決定したものである。
 なお、本件不動産①又は近隣土地の固定資産税評価額、取引事例、国土利用計画
法届出価格等についてみると、次のとおり訂正するほか原判決四九頁二行目の「甲
二〇」から五二頁五行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
① 原判決五〇頁につき、五行目から六行目にかけての「山林、原野とも四〇〇
円」を「山林が四〇〇円、原野が七〇〇円」と、八行目の「県が」を「県及び吉永
町が」と、一〇行目の「三二三二円」を「三二八六円」と各改める。
② 同五一頁につき、一行目から二行目にかけての「宅地(現況地目)二九四九七
㎡及び山林(同)」を「γ地区内の宅地(現況)二九四八七㎡及び雑種地(同)」
と改め、四行目の次に行を改めて次のように加える。
「 甲三
五の1、2、三六によれば、α地区財産区は、平成一一年一一月一日、γ地区内の
本件不動産に隣接する山林三一四三平方メートルを一五〇万円(一平方メートル当
たりの単価四七七・二五円)で売却した。」
③ 同五一頁六行目から七行目にかけての「δ地区」を「ε地区」と改める。
④ 同五二頁五行目の末尾に次のとおり加える。
「しかし、右の価格の算定が合理的な根拠に基づいてされたことを認めるべき証拠
はない。」
(2) 鑑定人Eの鑑定結果は、平成四年七月二四日時点の本件不動産の標準的な
画地の一平方メートル当たりの価格として「宅地及びそれに近い状況にある状況類
似地区」につき二五〇〇円ないし五〇〇〇円、「将来ふるさと村の施設用地及び風
致林等として存置されることが期待される地区または他用途への転用も考えられる
状況類似地区」につき五一〇円ないし一八七〇円、「植林山として使用することが
期待される山林のグループ」につき一三〇円ないし二六〇円、「現況が公衆用道路
となっている土地のグループ」につき二五〇円と各算定した上、本件不動産①の正
常価格を合計四一五九万八○○○円とするものであるところ、右鑑定の内容に不合
理な点は認められない。
(3) 不動産の取引価格は、社会的、経済的な要因に由来する複雑多岐な要素に
基づき、かつ、当該取引における当事者の個別的、主観的な事情も加わって決定さ
れるから、地方公共団体の長が正常価格よりもある程度高額で不動産を購入し、そ
の代金を支払ったからといって、右支払が直ちに違法になるわけではなく、その適
否は、当該売買価格と正常価格との乖離の程度、当該不動産を購入する必要性の程
度、交渉経過等の事情を総合して検討する必要がある。
 しかしながら、本件代金①の価額は正常価格の二・七一倍であって、あまりに高
額である上、被控訴人は、その決定に際し、近隣の土地の取引価格を参考にしたも
のの、不動産鑑定士による鑑定、日輪舎の購入価格及び公示価格の調査、各筆ごと
又は地目別の価格の検討を行っておらず、売主の日輪舎との間で格別の交渉もない
まま右の代金額を決定したものである。そうすると、本件不動産①を取得する必要
性が認められること等の事情を考慮しても、その取得価額を適正な金額に近づける
べき努力なしに行われた本件代金①による売買契約の締結及び本件支出①は、被控
訴人に認められる裁量権を逸脱したものというべきである。
(四) 
財務規則違反について
 本件契約①及び本件支出①について、財務規則六九条及び一三六条違反の事実が
認められる。その理由は、原判決五三頁九行目から五五頁七行目までに記載のとお
りであるから、これを引用する。ただし、原判決五五頁六行目から七行目にかけて
の括弧書き部分を削除する。
 しかし、①事件は、本件支出①により吉永町に与えた損害の賠償を請求する事案
であるところ、本件代金①の残金支払と同時に本件根抵当権設定登記が抹消されて
おり、吉永町は根抵当権設定登記等の付着していない本件不動産①を取得できたの
であるから、右財務規則違反と本件支出①による損害との間には因果関係が認めら
れない。したがって、右財務規則違反の点は、本件支出①による損害賠償の根拠に
はならない。
三 請求原因5について
1 右二のとおり、本件契約①の締結及び本件支出①は、その価額が著しく高額で
ある点において、被控訴人に認められている裁量権を逸脱したものであるが、吉永
町は、本件契約①により本件不動産①を取得しているから、その点は損害の認定に
当たり考慮すべきである。
 ところで、前記のとおり、本件不動産①の正常価格は四一五九万八○○○円であ
るが、仮に被控訴人が本件契約①の締結に当たり不動産鑑定を実施し、その資料を
もって日輪舎と交渉していたとしても、右正常価格で交渉が成立したと認めること
はできない。すなわち、不動産の取引価格は、社会的、経済的な要因に由来する複
雑多岐な要素に基づき、かつ、当該取引における当事者の個別的、主観的な事情も
加わって決定されるものであるから、当該不動産の正常価格とこれを越える実際の
売買価格との差額が、直ちに裁量権の逸脱と相当因果関係の認められる損害となる
わけではない。
 そして、本件不動産①の必要性の程度、本件契約締結に至る際の交渉の経緯等、
本件契約①を巡る諸事情を総合勘案すると、本件においては本件代金①の一億一二
八三万五三二〇円と本件不動産①の正常価格の一・三倍の五四〇七万七四〇〇円と
の差額である五八七五万七九二〇円が被控訴人の裁量権の逸脱と相当因果関係のあ
る損害であると認めるのが相当である。
2 被控訴人は、「吉永町は、本件契約①等により本件不動産①等の所有権を何ら
の権利制限もなく取得し、その後道路整備、農園・薬草園等の整備を進めた結果、
本件不動産①等は、その価値が上昇し、平成一二年一〇月一日時点における正
常価格が上昇しているから、この点は損益相殺として考慮すべきである」旨の主張
をする。
 しかし、吉永町が本件契約①後に道路整備等をした結果本件不動産①の価値が上
がったとしても、右整備等には経費がかかっているのであるから、右価値の上昇を
損益相殺として考慮するのは相当でなく、この点についての被控訴人の主張は採用
できない。
 また、被控訴人は、吉永町が、本件契約①の後である平成五年三月三日付けで、
日輪舎から、公衆用道路用地の寄附を受けており、その価額は六〇四万六一六五円
であるから、この価額は売買代金額から控除すべきであると主張する。そこで検討
するに、前記認定の事実及び証拠(甲三〇、乙四五、控訴人B本人)によれば、本
件契約①締結の際、本件不動産①のうち公衆用道路については寄附として扱い、本
件不動産①のうち公衆用道路以外の土地だけが売買として扱うことで合意されたこ
と、そのため、右公衆用道路については、平成五年三月三日付けで日輪舎から吉永
町に寄附がなされたとの形式が取られたこと、吉永町ではその価額六〇四万六一六
五円の歳入があったと認定したこと、したがって、日輪舎から吉永町に対し本件不
動産①のほかに右金員の寄附がなされたわけではなく、本件契約①の代金額が減額
されたわけでもないことを認めることができ、右事実によれば、本件支出①により
吉永町に与えた損害の算定に際し、本件不動産①の正常価格の一・三倍の金額を斟
酌すれば足り、そこから更に右寄附の価額を控除するのは相当でない。被控訴人の
この点についての主張も採用しない。
四 以上のとおりであるから、控訴人らの①事件に係る請求は、被控訴人に対し、
五八七五万七九二〇円及びこれに対する右損害発生の後である平成五年六月二七日
から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を吉永町に支払うように
求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却す
べきである。
第二 ②事件について
一 請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
二 請求原因4について
1 公共事業目的等について
 控訴人らは、本件不動産②を取得する具体的必要性及び緊急性がないと主張す
る。
 しかし、右主張は採用できない。その理由は、原判決五六頁八行目から五八頁八
行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決五六頁八行
目の「前記一4(一)の認定事実」は「本
判決の前記第一の二1の認定事実」と読み替える。この点につき当審において控訴
人らの指摘する事情を考慮しても、右判断は左右されない。
2 売買価格の相当性について
 鑑定人Eの鑑定の結果によれば、本件不動産②の平成五年三月一日時点における
正常価格は二億一一五四万二〇〇〇円と認めることができ、そうすると、本件代金
②の価額は、正常価格の約一・五九倍であって、著しく高額というべきである。そ
して、被控訴人は、本件契約②の代金額の算定に際しても、不動産鑑定士による鑑
定、日輪舎の購入価格及び公示価格の調査、各筆ごと又は地目別の価格の検討を行
った形跡がないのであって、日輪舎及び和気農協の意向を無視しては契約締結が不
可能であったこと、被控訴人が同農協に対して減額を要請し、その結果同農協への
支払額が一三〇〇万円減額されたことなどの事情を考慮しても、交渉に当たって鑑
定書といった的確な資料を持たないまま漫然と売主らと交渉し、右のような高額の
代金額を受け入れるに至った点は、非難を免れない。さらに、本件不動産②を取得
する必要性はあったものの、必要性の程度は、前記1で引用した原判決の説示のと
おりであり、疑問の残るところであるし、また、本件契約②が成立しなければ、本
件不動産①に設定されていた根抵当権も実行に移され、本件事業用地まで第三者の
所有となるおそれがあったとはいえ、そのような事態に陥ったそもそもの原因は本
件契約①締結時の被控訴人の調査不足にあるのであって、本件不動産①の競売のお
それの点は重視すべきではない。
 そうすると、本件代金②による売買契約の締結及び本件支出②も、被控訴人に認
められる裁量権を逸脱したものと認めるのが相当である。
3 法一一七条違反について
 控訴人らは、「本件議決②には、当時和気農協の理事で同農協の日輪舎に対する
債権に関する『債権処理小委員会』の委員を務めていた作本議員及び吉永町が本件
不動産②と一体として開発計画を進めている本件不動産②の隣接地で営業するレス
トランやレジャー施設の管理を目的とする『望ヶ丘管理会』の出資者で委員である
F議員が議事に参与していたが、両議員は除斥の対象となるから、本件議決②は法
一一七条に違反してなされたものであつて無効であり、右無効な議決に基づく本件
契約②及び本件代金②の支出は違法である」と主張する。
 なるほど、前記認定のとおり、本件議決②に係る議事は、吉
永町、日輪舎、和気農協及び岡山県農業信用基金協会を当事者とする本件契約②に
関するものであるが、作本議員は、和気農協の理事で同農協の日輪舎に対する債権
に関する「債権処理小委員会」の委員を務めていたから、右議事は同議員の従事す
る業務に直接の利害関係があるというべきであって、同議員がその議事に参与する
ことはできない。したがって、議長は、右議事に際し、作本議員を除斥するか、議
会に対し、同議員の出席及び発言について同意の有無を確認する(法一一七条ただ
し書)手続を経なければならないが、本件においては、右手続を経ずに作本議員を
議事及び採決に参与させているから、法一一七条に違反する。
 しかし、右違法であることから直ちに議決が無効であるということができないの
みならず、作本議員は、右議事について反対の側に立ったのであるから、法一一七
条に違反したことと本件議決②がなされたこととの間には因果関係が認められな
い。
 また、F議員については、その利害関係は間接的なものにすぎないから、除斥の
対象とはならない。
 以上によれば、法一一七条についての控訴人らの主張は採用できない。
三 請求原因5について
 右二のとおり、本件契約②の締結及び本件支出②は、その価額が著しく高額であ
る点において、被控訴人に認められている裁量権を逸脱したものであるが、吉永町
は、本件契約②により本件不動産②を取得しているから、その点は損害の認定に当
たり考慮すべきである。
 そして、右二2で摘示した事情、特に本件不動産②を取得する必要性の程度には
疑問もあること、本件不動産①の競売のおそれを重視するのは相当でないこと等を
総合考慮すると、本件代金②の価額三億三七〇〇万円と本件不動産②の正常価格の
一・二倍の二億五三八五万〇四〇〇円との差額である八三一四万九六〇〇円を被控
訴人の裁量権の逸脱と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
 被控訴人は、「吉永町は、本件契約②等により本件不動産②等の所有権を何らの
権利制限もなく取得し、その後道路整備、農園・薬草園等の整備を進めた結果、本
件不動産②等は、その価値が上昇し、平成一二年一〇月一日時点における正常価格
が上昇しているから、この点は損益相殺として考慮すべきである」旨の主張をす
る。しかし、前記第一の三2で説示したのと同様の理由で、被控訴人の右主張は採
用できない。
四 以上のとおりであるから、控訴人ら
の②事件に係る請求は、被控訴人に対し、八三一四万九六〇〇円及びこれに対する
右損害発生の後である平成五年六月二七日から支払済みまで民法所定年五分の割合
による遅延損害金を吉永町に支払うように求める限度で理由があるからこれを認容
し、その余は理由がないからこれを棄却すべきである。
第三 よって、原判決を右のとおり変更することとし、主文のとおり判決する。
広島高等裁判所岡山支部第二部
裁判長裁判官 前川鉄郎
裁判官 辻川昭
裁判官 森一岳

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