弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人岩田源七の上告趣意第一点について。
 しかし本件公判請求書記載の公訴事実を見ると、本件は明かに被告人が麻薬を輸
送した事実について起訴されたものであり、原判決は右の事実について審判を下し
ているのであるから、両者の間に喰い違いはない。尤も第一審判決書記載の摘示事
実は、被告人が判示麻薬を自ら運搬し又は運搬せしめて、三重県知事がする右麻薬
の没収を妨げた、というのであり、原審公判廷において立会検事は、第一審判決書
記載の被告事件を陳述したというのであるから、原判決が審判した事実はそれとは
相違するような観を呈するけれども、それにしても麻薬運搬という同一事実を、そ
れ自体として観るか、没収を妨げる手段として観るかの相違に過ぎず、結局は同一
事実の判断に外ならない。何れの点から考えても、原判決には、所論のように、起
訴以外の事実を審判したという不法はない。論旨は採用できない。
 同第二点について。
 しかし昭和二〇年厚生省令第四四号第一条は、麻薬取締という立法の目的に鑑み
て、塩酸ヂアセチルモルヒネ及びその製剤の輸送を、国の内に於けると外に対する
とを問はず一般に禁止する趣旨であること明かであつて、そのいわゆる「輸送」を、
所論のように海外取引に付ての輸出入に限ると解すべき根拠は少しもない。それ故
に原判決が、本件の犯罪事実に右の法条を適用したのは正当であつて、所論のよう
な擬律錯誤の違法はない。論旨は理由がない。
 同第三点について。
 しかし上記省令第一条には、「塩酸ヂアセルモルヒネ及其の一切ノ製剤ハ之ヲ所
有、使用、破棄、販売、購入、受贈、分配又ハ輸送スルコトヲ得ズ」と規定されて
ゐるのであるから、右の麻薬であることを認識しながら、これを輸送すれば、同令
違反の犯罪が成立するものと言わなければならない。そうして原判決が確定した事
実によれば、被告人に右の認識があつたことは明かであるから、仮りに本件犯行の
動機が所論のように保管ということであつたにしても、これに右の法条を適用した
のは当然である。論旨は、被告人に不法輸送の意思がなかつたということを論拠と
して、原判決には事実誤認又は擬律錯誤の不法があると主張しているけれども、擬
律錯誤の不法がないことは上述の通りである。事実誤認の主張は適法な上告理由と
なり得ない。何れの論旨も採用することができない。
 同第四点について。
 しかし起訴された事実も原審が認定した事実も、県衛生試験所主任としての職務
上の行為とは云えない。又それが職権行為として違法を阻却するということは、原
審において主張されていないのであるから、原判決がそれに対する判断を示さなか
つたのは当然であつて、この点において所論のような違法はない。論旨は理由がな
い。
 以上の理由により旧刑訴法第四四六条に従い主文の通り判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官 竹原精太郎関与
  昭和二四年一一月八日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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