弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一、 本件控訴を棄却する。
     二、 被控訴人(附帯控訴人)の第一次請求についての本件附帯控訴を
却下する。
     三、 被控訴人(附帯控訴人)の第二次請求についての付帯控訴に基づ
き、原判決主文第四項中被控訴人(附帯控訴人)と控訴人(附帯被控訴人)のとに
関する部分を取り消す。
     控訴人(附帯被控訴人)は、被控訴人(附帯控訴人)に対し、昭和三七
年二月一三日から昭和四一年三月三一日まで一ケ月七万円、同年四月一日から昭和
四四年六月四日まで一ケ月七万七、〇〇〇円、同月五日から原判決添付物件目録
(一)(二)記載の建物を収去して同目録(三)記載の土地明渡しずみまで一ケ月
九万一、〇〇〇円の書く割合による金員および右各金員に対する各該当月の翌月一
日から支払いずみまで年五分の割合による金員を払え。
     被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。
     四、 被控訴人(附帯控訴人)の当審において追加した訴えを却下す
る。
     五、 控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)の負担とし、附帯控訴の請求
にかかわる訴訟費用は第一、二審を通じ、これを五分し、その一を被控訴人(附帯
控訴人)のその余を控訴人(附帯被控訴人)の各負担とする。
     六、 この判決は主文第三項の金員の支払いを命ずる部分に限り仮に執
行することができる。
         事    実
 控訴人(附帯被控訴人、以下控訴人という。)代理人は、「原判決中控訴人敗訴
の部分を取り消す。被控訴人(附帯控訴人、以下被控訴人という。)の請求を棄却
する。附帯控訴について、(本案前の申立)第一次的請求に関する附帯控訴を却下
する。(本案の申立)本件附帯控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴
人の負担とする。」との判決を求めた。被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求め、
第一次的請求として、「原判決主文第一項を取り消す。被控訴人と控訴人との間に
おいて原判決添付物件目録(一)(二)記載の建物が被控訴人の所有であることを
確認する。控訴人は、被控訴人に対し、同物件目録(一)二)記載の建物につき、
東京法務局台東出張所昭和三六年七月三日受付第一四、九九九号根抵当権設定登
記、同出張所同日受付第一五、〇〇〇号所有権移転仮登記、同出張所同日受付第一
五、〇〇一号賃借権設定仮登記及び同出張所昭和三七年二月一三日受付第二、一八
一号所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。(請求を追加して、)控訴人は、同
物件目録(一)(二)記載の建物を他に賃貸もしくは使用せしめてはならない。控
訴人は、被控訴人に対し、同物件目録(一)(二)記載の建物から退去してこれを
明渡し、かつ、五、九〇四万四、九六二円および昭和四七年二月一三日から明渡し
ずみに至るまで一ヶ月四〇万円ならびにこれに対する年五分の各割合による金員を
支払え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決ならびに仮執
行の宣言を、第二次的請求として、「原判決主文第四項中被控訴人と控訴人とに関
する部分を取り消す。(請求を減縮して、)、控訴人は、被控訴人に対し、二、二
一六万一、〇〇三円ならびに昭和四七年二月一三日から同物件目録(一)(二)記
載の建物を収去して同物件目録(三)記載の土地を明渡すまで、一ケ月一八万円お
よびこれに対する年五分の各割合による金員を支払え。(請求を追加して)控訴人
は、同物件目録(一)(二)記載の建物を他に賃貸もしくは使用してはならない。
訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言
を求めた。
 当事者双方の主張および証拠関係は、次のとおり付加もしくは訂正するほか、控
訴人と被控訴人とに関する部分につき、原判決事実摘示と同一であるから、こゝに
これを引用する。
 被控訴代理人は、次のとおり述べた。
 一、 被控訴代理人は、当審において、第一次的請求について附帯控訴をしな
い、と述べたが、右は、被控訴人本人と被控訴代理人間の意思の疎通の不徹底、相
互誤解によるものであつて、被控訴人の真意に反するものであるから、これを撤回
する。
 二、 原審における、原審被告Aが三辰建設から本件請負契約上の地位を承継
し、被控訴人が昭和三九年六月二六日これを承諾した旨の被控訴人の主張(原判決
事実摘示第三の一の(二)記載の事実、原判決八枚目表一一行目から同裏四行目ま
で)を全部撤回する。本件建物は、請負契約上の請負人は、三辰建設株式会社であ
るが、実質的には当初より同会社と原審被告Aの両名の共同により建築されたもの
である。即ち、右両名は、主として資金面をAが、建築面を同会社がそれぞれ分担
して本件建物を建築する旨言明していたものである。従つてAが本件建物請負契約
上の地位を承継したことはない。
 三、 被控訴人は、昭和三五年八月末日までに、三辰建設ないし原審被告Aに合
計一、一八八万九、〇〇〇円を支払つたことはすでに述べたとおりであるが、その
うち被控訴人が同年九月二四日に支払つた二〇万円を控除すれば、本件建物の所有
権保存登記がなされた同月末日以前である同月一一日までに一、一六八万九、〇〇
〇円が被控訴人より三辰建設に支払われている(原審被告Aが受領した保証金、家
賃合計四七六万九、〇〇〇円は、被控訴人より三辰建設に対する請負代金の支払い
となるとともに、同会社の原審被告Aに対する借入金の返済ともなる。)。従つて
被控訴人は、三辰建設に対し、すでに本件請負代金一、一五七万九、〇〇〇円を全
額支払いずみである。
 しかのみならず、三辰建設の原審被告Aからの借入金は、同年四月二一日(甲第
六号証の念書作成の時期)当時六五〇万円であつたが、右借入金は、Aが本件建物
を他に賃貸して受領した前記保証金、賃料合計四七六万九、〇〇〇円を受領してい
るほか、Jより別途同年八月一五、一六日に合計二三〇万円の弁済を受け、合計七
〇六万九、〇〇〇円を受領し、全額弁済を受けている。
 以上のとおり、被控訴人の三辰建設に対する請負代金は、同年八月一一日まで
に、Jの原審被告Aに対する借入金については同月一六日までにいずれも全額弁済
されたのであるから、三辰建設より建築途中の本件建物の所有権が原審被告Aに譲
渡されたとしても、右完済により同月一六日に三辰建設に返され、さらに本件請負
契約に基づき本件建物は被控訴人の所有に帰したものというべきである。従つて原
審被告Aは、本件建物が被控訴人の所有に属することを知悉のうえ、同月末日被控
訴人の管理人としてその資格を偽わり、自己のため所有権保存登記をなしたもので
あり、右登記は、無効といわざるをえないのである。
 四、 本件建物の所有権が当初から三辰建設に帰属し、それが順次控訴人に移転
したとしても、かゝる場合の建物所有権はせいぜい代金回収を確保するためのいわ
ば心理的効果を期待するものであつて、実質的には建物の留置権と変わらないもの
であり、そう解することが当事者の意思にも合致する。この理は建物が転々第三
者、第四者に移転したとしても同一であり、いわんや敷地の利用権限として地上権
や賃借権の観念を持出す余地はなく、とくに三辰建設に土地賃借権ありとする控訴
人の主張は、いわゆる建物買取請求権を行使することのみを目的とた牽強付会の暴
論というほかはない。被控訴人は、重れて強調するが、をとく三辰建設に本件土地
を賃料徴収して使用収益させる約諾をした事実は絶無である。いわんや原審被告A
や控訴人に対して本件土地を賃貸する意思は寸毫もなかつたし、現にない。
 五、 賃料相当の損害金の計算の根拠は次のとおりである。
 (一) 第一次請求の五、九〇四万四、九六二円の内訳
 (1) 四、八〇〇万円  昭和三七年二月一三再から昭和四七年二月一二日ま
で一二〇月間一ケ月四〇万円の割合による賃料相当の損害金の合計額
 (2) 一、一〇四万四、九六二円  前記期間の各賃料相当額につきそれぞれ
各該当月に支払わるべきものとして遅延した各賃料相当額に対する年五分の割合に
よる遅延損害金の合計額
 (二) 第二次請求の二、二一六万一、〇〇三円の内訳
 (1) 一、二六二万円  昭和三七年二月一三日から昭和三九年二月一二日ま
で二四月間一ケ月一二万円、同月一三再から昭和四一年二月一二日まで二四月間一
ケ月一三万円、同月一三日から昭和四二年二月一二日まで一二月間一ケ月一四万
円、同月一三日から昭和四三年二月一二日まで一二月間一ケ月一五万五、〇〇〇
円、同月一三日から昭和四四年六月一二日まで一六月間一ケ月一七万円、同月一三
日から同年八月一二日まで二月間一ケ月一八万円の割合による賃料相当の損害金の
合計額
 (2) 五四〇万円  昭和四四年八月一三日から昭和四七年二月一二日まで三
〇月間一ケ月一八万円の割合による賃料相当の損害金の合計額
 (3) 二二一万四、七五三円  (1)記載の期間の各賃料相当額につき、そ
れぞれ各該当月に支払わるべきものとして遅延した各賃料相当額に対する年五分の
割合による遅延損害金の合計額
 (4) 一五七万七、五〇〇円  (1)記載の一、二六二万円に対する昭和四
四年八月一三日から昭和四七年二月一二日までの年五分の割合による遅延損害金の
合計額
 (5) 三四万八、七五〇円  (2)記載の期間の各賃料相当額につきそれぞ
れ各該当月に支払わるべきものとして遅延した各賃料相当額に対する年五分の割合
による遅延損害金の合計額
 よつて被控訴人は、控訴人に対し、第一次請求において前記の本件建物の賃料相
当の損害金およびこれに対する遅延損害金の、第二次請求において請求を減縮し
て、前記の本件土地の賃料相当の損害金およびこれに対する遅延損害金の支払いを
求める。
 控訴代理人は次のとおり述べた。
 一、 被控訴人は、当審の昭和四四年一〇月一七日の口頭弁論期日において、原
審で棄却された第一次請求については附帯控訴はしない旨申述した。即ち、被控訴
人は、民事訴訟法第三七四条第三六四条に基づいて、その第一次的請求を棄却され
た原判決主文第一項に対する附帯控訴権を放棄したものであつて、もはや右趣旨の
附帯控訴をなすをえないものである。よつて被控訴人の本件附帯控訴は、不適法で
あり、許されない。
 二、 被控訴人は、前記口頭弁論期日において、附帯控訴権を放棄するにあた
り、本件建物が控訴人の所有に属することを認め、この前程のもとに附帯控訴権を
放棄したものである。即ち、本件建物が控訴人の所有に属することは、当事者間に
争いがなく、被控訴人は、控訴人の主張事実を自白したものであるから、被控訴人
が今になつて控訴人の所有権を争うことは、許されない。
 三、 (一) 被控訴人と三辰建設との間の本件建物建築請負契約については、
被控訴人は、請負代金一、一八四万円を、(1)契約成立と同時に一〇〇万円、
(2)一階スラブコンクリート打ち完了時一〇〇万円をそれぞれ支払い、(3)建
物完成引渡までに三辰建設が本件建物の各室を第三者に賃貸して、その賃貸保証金
を収受したときは、これを請負代金に充当し、(4)残金は建物完成引渡と同時に
支払う旨および右請負代金担保の目的をもつて、
 1、 三辰建設は、本件建物の管理権を有することとして、建物完成後において
も、本件建物の各室を賃貸しうるものとし、その保証金及び賃料を請負残代金に充
当しうる。
 2、 三辰建設は、本件建物の所有権を保持し、被控訴人において請負残代金の
支払いを怠るときは、三辰建設は、建物建築請負人たる拘束から解放され、本件建
物を処分してその代金をつて請負残代金に充当することができる。この場合におい
ては、被控訴人は、爾後の本件建物の譲受人に対し、その敷地たる本件土地を時価
相当の賃料をもつて賃貸する。
 旨の合意が当事者間に成立した。もつとも右2.の約定はその旨の明示の書面等
はないが、確かに黙示的にあつたといわざるを得ないのであつて、その根拠は、次
のとおりである。
 (二) 右1.の約定は、請負残代金の担保の一種と解すべきであつて、時間を
かけて右方法により請負残代金の回収をはかるか否かは、担保権者たる三辰建設の
任意に属すると解さなければ三辰建設に酷である。ところで本件請負契約によれ
ば、本件建物の所有権が三辰建設にある旨明定されている(請負契約書第三一条第
一項)が、右1の約定により三辰建設が請負残代金を回収するには管理権を有すれ
ば足り、又三辰建設は材料の全部を自ら調達して工事をするのであるから、法律上
当然本件建物の所有権を原始的に取得する。とすれば、前記所有権に関する明文の
規定をおいた趣旨には何らか特別の意義を認めなければならない。
 そしてそれは、三辰建設が本件建物を完成し引渡そうとするにも拘らず、被控訴
人が代金を支払わないときに、所有権に基づき留置する権能と同時履行の抗弁を三
辰建設に留保するためにすぎないと解することはできない。何故なら、本件建物に
ついてどの位の室につき賃貸借が成立し、保証金が入るか、どの位の期間を経れ
ば、請負代金全額を賄いうるだけの保証金、賃料が入るか等は全く未知数に属し、
請負人が代金回収のため右のような不確定期間待たなければならないとすること
は、余りにも不合理だからである。そうだとすれば、本件建物の所有権を三辰建設
に属さしめる特約の趣旨は、前記2の如く請負代金回収のため、三辰建設に請負人
たる拘束から離脱することを得さしめる、即ち、本件建物の処分権能を与えた趣旨
と解するほかはない。
 (三) 被控訴人の債務不履行の場合、本件建物の処分権能を三辰建設に認めた
ものである以上、被控訴人は、本件建物が第三者に移転した場合当該第三者に対
し、本件土地の占有使用権限を肯定したものというべく、被控訴人と三辰建設の暗
黙の合意により右の如き第三者を受益者として賃借権を設定する、いわゆる第三者
のためにする賃貸借契約を締結したものと解するのが合理的であり、しかも特段の
事由のない限り、その後の本件建物の所有権を譲り受けた者に対し、本件土地の賃
借権の譲受けを予め承諾したものと解すべきである。
 (四) 三辰建設は、昭和三五年六月二〇日、被控訴人に対し、本件建物をあと
一週間で完成して引渡すから、これと同時に請負残代金を支払つて貰いたい旨通知
したが、被控訴人は、支払わなかつた。
 又同年八月三〇日までに本件建物の賃貸借契約の締結により貸主側の受け入れた
保証金および賃料は、その旨の書証の存するものは、保証金合計六二四万九、〇〇
〇円(原判決九枚目表および裏の被控訴人主張の支払われた敷金および賃料の表
中、田渕設計事務所九〇万円、千代田鉄構株式会社五〇万円、同九五万円を除くそ
の余の入居者の支払つた敷金)賃料合計一三万三、〇〇〇円(同表中、田渕設計事
務所五万四、〇〇〇円、千代田鉄構株式会社二万一、〇〇〇円、同三万七、〇〇〇
円B八万八、五〇〇円、同五万四、〇〇〇円を除くその余の入居者の支払つた賃
料)のみである。これに被控訴人が三辰建設に直接支払つたと主張する二三〇万円
を加算しても、被控訴人が同年八月三〇日までに支払つた請負代金は八六八万二、
〇〇〇円にとどまり、残金三一五万八、〇〇〇円についてはその履行を遅滞した。
 そこで三辰建設は、原審被告Aに対する借入金の弁済ができなかつたため、A
は、三辰建設との約定に基づき、同月三一日本件建物の所有権を取得し、同人名義
をもつて所有権保存登記をなし、これに伴い同年九月一九日被控訴人に対し、受益
の意思表示をなし、被控訴人もAの本件土地の賃借権を承認した。控訴人は、原審
被告A、訴外Cを経て本件建物の所有権および本件土地の賃借権を譲り受けて取得
するに至つたものであるから、被控訴人が予めなした包括的承諾により被控訴人に
対し賃借権をもつて対抗しうるのである。
 四、 本件請負契約によれば、工事が完成しても、被控訴人が請負代金全部を支
払わない間は、本件建物の所有権は、三辰建設にあり、三辰建設は、自由にこれを
賃貸して賃料、敷金等を取得しうることになつていた。
 即ち、代金完済までの間三辰建設は、自己の建物を本件土地上におくことを被控
訴人から認められていたのであり、右土地使用は賃貸借によるものである。三辰建
設は、原審被告Aに、AはCに、Cは控訴人にそれぞれ順次本件建物の所有権およ
び本件土地の賃借権を譲渡した。控訴人は、借地権の譲渡もしくは転貸を承諾しな
い被控訴人に対し、借地法第一〇条により建物買取請求権を有するので、本訴にお
いて(昭和四四年八月二二日、当審第一回口頭弁論期日)被控訴人に時価二、二九
八万六、二一八円をもつて建物買取を請求し、この代金の支払いあるまで被控訴人
の建物収去土地明渡の請求を拒否する。
 なお前項の賃借権譲渡承諾が認められないとすれば、右賃借権に基づき、建物買
取請求をする。
 証拠(省略)
         理    由
 第一、控訴人の本案前の抗弁について
 控訴人は、被控訴人はその第一次請求についての附帯控訴権を放棄したから、右
請求についての附帯控訴は不適法であると主張するので、まずこの点について判断
する。昭和四四年一〇月一七日午前一〇時の当審第二回口頭弁論期日に被控訴代理
人Dが原審で棄却された第一次請求については附帯控訴をしない、附帯控訴は(第
二次請求)の損害金の請求についてのみなす旨の陳述をなしたこと(右陳述をなし
たことは当事者間に争いがない。)は、本件記録上明らかである。そして右陳述
は、被控訴人の第一次請求を棄却した原判決主文第一項に対する附帯控訴権を放棄
する旨の申述を当裁判所に対してなしたものと解せられるから、被控訴人はもはや
右趣旨の附帯控訴をなしえないものといわねばならない。被控訴人は、右申述は、
被控訴本人と被控訴代理人間の意思の疎通の不徹底、相互誤解によるものであつて
被控訴人の真意に反するものであるから、これを撤回すると主張するが、仮りに右
申述が被控訴人の真意に反するところがあるとしても、後記のとおり被控訴人を適
法に代理して附帯控訴権を放棄しうる権限を有する被控訴人の訴訟代理人弁護士D
によつてなされた以上かゝる事実は右放棄の効力を左右しえないものといわねばな
らない。即<要旨>ち、附帯控訴権の放棄は、一の訴訟行為であり、訴訟代理人によ
つてなされうるものであるが、たゞそれについては訴訟代理人に特別授権を
得ることを要するか否かについては訴訟法上明文の規定はないけれども、事柄の訴
訟当事者本人に及ぼす利害関係の重大さは、民事訴訟法第八一条第二項掲記の訴の
取下、請求の放棄、控訴上告又はその取下等に比すべきものであるから、これらに
準じて附帯控訴権の放棄についても特別の授権を要するものと解するのが相当であ
るが、すでに右訴の取下、請求の放棄、控訴上告又はその取下等について特別の授
権がある場合には、そのほかにとくに附帯控訴権の放棄そのものを目的とした特別
の授権を必要とすることなく、前者の授権のなかに当然附帯控訴権の放棄の権限も
包含されているものと解するのが相当である。本件記録の被控訴人からD弁護士に
対する委任状をみるに、その委任事項中には、「請求の拠棄、認諾」「反訴控訴上
告又は其の取下及び訴の取下」とあり、これらの事項については特別の授権がある
ことが明らかであるから、右D弁護士には被控訴人のため附帯控訴権放棄の権限が
あるものというべきである。さらに右D弁護士に前記申述に際して被控訴人本人の
真意の認識に関し錯誤があつたとしても、附帯控訴権の放棄は、効果意思を内容と
し、訴訟法がその効果意思に即応する法効果を附与する訴訟行為であつて、訴訟法
には民法におけるが如き錯誤についての効果規定が存しないばかりでなく、訴訟行
為は、連鎖する訴訟手続の一環を組成するものであるから、訴訟手続の安定の要求
から表示の外観を尊重し、当事者の内心の錯誤は、詐欺、強迫等罰すべき他人の行
為を除いては、原則として、訴訟行為の適法性、有効性に影響を及ぼさないと解す
るを相当とし、本件の場合かゝる格別の事情は認められない。従つてD弁護士にお
いて附帯控訴権を放棄する意思をもつて適法にこれを表示した以上、その表示の動
機、目的の如何を問うことなく本件附帯控訴権放棄の申述はこれを無効のものとな
すことはできず、従つて又後日これを撤回できないことはいうまでもない。
 してみれば被控訴人の第一次請求についての本件附帯控訴は、右有効に附帯控訴
権が放棄された後になされたものであるから、不適法であり、かつその欠缺は補正
しえないこと明らかであるから、これを却下すべきである。
 第二、 被控訴人の第二次請求について
 一、 被控訴人が本件土地を所有していること、控訴人が昭和三七年二月一三日
以降本件土地に本件建物を所有して本件土地を占有していることは、当事者間に争
いがない。
 二、 控訴人の本件土地占有の権原の有無を判断する前に、控訴人が本件建物を
所有して、それにより本件土地を占有するに至つた経緯につき検討する。
 控訴人が三辰建設との間でビル新築工事請負契約を締結し、その代金額および第
一、二回の代金支払方法につき控訴人主張のとおりの約定ならびに代金完済時に控
訴人が新築ビルの所有権を取得する旨の約定がなされたこと、原審被告Eが三辰建
設に対する貸金債権の担保として三辰建設から本件建物の所有権の移転を受けたこ
と、本件建物が完成されたことは、当事者間で争いがない。右当事者間に争いのな
い事実と、成立に争いのない甲第一号証の一、二、いずれも原本存在および成立に
争いのない同第五二号証の四ないし一〇(ただし同号証の四、一〇は各一部)、同
第五三号証の一、二および同第五五、五六号証、原審証人Fの証言により成立が認
められる同第三号証の一、原審証人Gの証言により成立が認められる同第六号証、
原審証人Hの証言により成立が認められる同第二八、二九号証、原審における原審
被告E本人尋問の結果により成立が認められる同第三〇号証および乙第三号証、原
審証人Iの証言により成立が認められる丙第五ないし第七号証、弁論の全趣旨によ
り成立が認められる甲第七号証、原審証人F、同I、同H、原審および当審証人
G、当審証人J(第一、二回)、同Eの各証言、原審における原審被告J(一
部)、同E、原審および当審における被控訴人(各一部)の各本人尋問の結果に弁
論の全趣旨を総合すれば、
 (1) 控訴人は、本件土地に賃貸用ビルを建設するため、昭和三四年一〇月
頃、三辰建設との間に本件建物の請負契約を締結した。右契約によれば、「請負代
金は一、一五七万九、〇〇〇円で、被控訴人は二回にわたり合計二〇〇万円支払
い、残代金は、三辰建設が被控訴人に代つてビルを賃貸し、その保証金および家賃
を請負代金に充つるまで被控訴人に代つて受領し、右残代金の支払いに当てるもの
とし、予定保証金等の入金が残代金に充たないときは、被控訴人が残代金を支払う
か、あるいは毎月の家賃を三辰建設が被控訴人に代つて受領する。建物の所有権お
よび管理権は、たとえ工事完成後であつても、残代金の支払いが完了するまでは三
辰建設に留保され、かつ引渡しもしないが、残代金の支払いが完了したときに建物
所有権は当然被控訴人に移転する。たゞし三辰建設は、被控訴人の書面による同意
を得なければ、請負契約から生ずる自己の権利義務を第三者に承継させたり、建物
を売却したり、抵当権その他の担保権の目的に供することはできないことならびに
三辰建設が新築ビルにつき登記、登録等の行為をなすことができない。」となつて
いる。三辰建設は、昭和三五年八月一二日頃保存登記をなしうる程度にこれを完成
した。
 (2) 三辰建設の代表者原審被告Jは、当初予定していた融資の見込みがなく
なり、右請負工事の資金計画に狂いを来たしたため、昭和三四年一二月頃知人の原
審被告Aに対し、前記請負契約の条件等を説明し、建築確認申請書の建築主名義を
原審被告Aの名義に変更する程度の担保方法でビルが完成し、保証金の入手が可能
となる昭和三五年四、五月頃まで工事資金八〇〇万円の融資方を申し入れたとこ
ろ、同原審被告は、これを承諾し、同年二月一八日建築主名義を同原審被告名義に
変更したうえ、同年一月から三月までに合計六五〇万円を貸し渡した。
 (3) その後原審被告Aと同Jとの間で貸付金の返済、とくに貸付金の返済に
当ることになつている筈のビル賃借人からの保証金等を三辰建設が勝手に受領して
いるとして紛議が生じ、昭和三五年四月二一日、司法書士G事務所において話合い
の結果、「三辰建設は、新築ビルの所有権を前記六五〇万円の貸金債権の担保のた
め原審被告Aに譲渡する。同人は必要な場合、新築ビルにつき所有権の保存登記を
なしうること、三辰建設ないし原審被告Jが原審被告Aの貸金債権を侵害するよう
な行為をしたときは本件建物の所有権は完全に同人に移転すること。たゞし三辰建
設が貸金債務を全部弁済したときは、新築ビルの所有権は当然に三辰建設に復帰す
ること。貸金の弁済期は同年六月末日とすること。その弁済の方法として原審被告
Aに対しビル賃貸および保証金、家賃の受領の権限を与えるが、三辰建設は話合い
のうえでそのうちの幾分かを新築ビルの工事費として使用させて貰えること」等の
合意が成立し、その旨の念書(甲第六号証)を作成した。
 (4) 三辰建設は、右弁済期が過ぎても前記債務を完済せず、かつ原審被告A
は、三辰建設が前記念書による合意の趣旨に反して同原審被告に無断で他に本件建
物につき賃貸借契約を締結して保証金を受領したと主張して再び紛議を生じ、原審
被告Jは、同年八月中旬すぎ頃までに被控訴人から四〇〇万円支払われる予定であ
るからとてそれまでの猶予を求めるとともに、被控訴人に右金員の支払い方を要請
したが応ぜられず、従つて原審被告Aに対しても弁済ができなかつたので、結局同
原審被告は、三辰建設からの弁済の見込みなしとして、同年八月三一日、本件建物
につき同人名義の所有権保存登記を経由した。
 (5) 同年九月頃から被控訴人と原審被告A、Eは、ときには被控訴人の委任
した弁護士も交えて三、四回にわたり本件建物の買戻しの折衝が行われ、一応買戻
代金六六〇万円で話はまとまりかけたが、その後被控訴人より代金を支払うことな
く、移転登記をすることを求めたので、交渉は打切られた。その後原審被告A、E
は、原審被告Jに買戻の交渉を申し入れたが、金がないからと断われ、再び被控訴
人の委任したD弁護士を通じて被控訴人に買戻すよう申し入れたが、その必要はな
い、本件建物を他に売却すれば、当方としては収去明渡を求めると断われた。そこ
で原審被告Aは、昭和三六年六月三〇日、Cに本件建物を一、三〇〇万円で売却し
た。
 (6) Cは、原審被告Aから本件土地の使用権を有していると聞いて本件建物
を買受け、その後被控訴人からもつてのほかであるといわれて処置に困まり、Hに
相談した。そこでHは、Cのために、手紙で被控訴人に対し、本件土地をCに売つ
て貰うか、それとも被控訴人に本件建物を買取つて貰うかして、双方損のないよう
にしたい旨を申し入れたが、被控訴人からの回答はなかつた。
 (7) Cは、本件建物の買取資金等として控訴人から二、〇〇〇万円を弁済期
同年一二日三〇日の約定で借り受け、その債務等を担保するため本件建物につき根
抵当権設定ならびに代物弁済契約をなしたが、弁済期を過ぎても弁済できなかつた
ため、昭和三七年二月一三日、控訴人に対し当時Cが控訴人に対して負担していた
二、五三四万円の借受金元本債務の代物弁済として本件建物の所有権を譲渡するこ
とを承諾したので、控訴人は、同日所有権移転登記を経由し、本件建物の所有権を
取得し、爾来その敷地である本件土地を占有している。
 以上の事実が認められ、前顕甲第五二号証の四、一〇、同第五六号証の各記載、
原審における原審被告J、原審および当審における被控訴人の各本人尋問の結果中
右認定に反する部分は、前記各証拠と対比して容易に措信することができず、他に
前記認定を覆えすに足る証拠はない。
 三、 そこで控訴人の本件土地の占有が権原に基づくものであるとの抗弁につい
て判断する。当裁判所も控訴人の地上権に対する抗弁、エストッペルに関する抗弁
および権利濫用に関する抗弁は、いずれも理由がないと判断するものであつて、そ
の理由は、次のとおり訂正するほか、原判決理由の説示(原判決五七枚目表一行目
から同六〇枚目裏六行目まで)と同一であるから、こゝにこれを引用する。
 (1) 原判決五八枚目裏七行目「弁論の全趣旨」から同五九枚目表四行目まで
を「いずれも成立に争いのない甲第一四、一五号証の各一、同第四九号証の一、弁
論の全趣旨により成立が認められる同第四二号証の二、三、同第四八号証」と訂正
する。
 (2) 原判決五九枚目裏七行目「前顕甲第一二号証の二、同第五二号証の九」
を「前顕甲第五二号証の九、原審における原審被告J本人尋問の結果により成立が
認められる同第一二号証の一、二」と訂正する。
 四、 控訴人は、さらに被控訴人と三辰建設間の本件建物請負契約について右当
事者間に、被控訴人において請負残代金の支払いを怠るときは、三辰建設が本件建
物を第三者に処分してその代金を右請負残代金に充当することができる旨の黙示の
合意がなされたものと解すべきであり、三辰建設に右の如き処分権能を認める以
上、被控訴人は、三辰建設と暗黙の合意により本件建物が第三者に移転した場合、
右第三者を受益者として賃借権を設定する第三者のためにする賃貸借契約を締結し
たものと解するのが合理的であり、しかも特段の事由のない限りその後本件建物を
譲り受けた者に対し、右賃借権の譲受けを予め承諾したものと解すべきであると主
張する。
 本件建物の請負契約には、被控訴人が請負代金を完済するまでは三辰建設が本件
建物につき所有権および管理権を有し、本件建物を賃貸してその保証金や家賃を被
控訴人に代つて受領して、右残代金の支払いに充当しうることとなつていること
は、前認定のとおりであるが、本件建物が完成されて前記方法により請負残代金が
完済されるまでは極く短期間と予想されていたのであり(当審証人Jの証言(第二
回)によれば、被控訴人は、うまくゆけば建物完成と同時に請負代金を完済でき、
遅れても三、四ヶ月といつていたことが認められる。)、本件請負契約によれば、
三辰建設は本件建物につき保存登記等をなすことや所有権を第三者に移転したりす
ることはできないこととされていることも前認定のとおりであつて、右事実によれ
ば、本件請負契約において被控訴人が三辰建設に、請負残代金の回収につき保証
金、家賃を被控訴人に代つてこれを右支払いに充当するか、本件建物を第三者に処
分してその代金をもつて右支払いに充当するかの選択権を与えたものと解すべき余
地は存しないものといわなければならない。もつとも本件請負契約書(甲第三号証
の一)の第三六条の予定保証金の入金できない場合三辰建設も被控訴人も登記しな
い旨の記載は、当審証人Jの証言(第一回)によれば、契約成立後被控訴人から送
付してきたものであることが認められるけれども、当審証人Jの証言(第二回)、
原審および当審における被控訴人本人尋問の結果によれば、右条項を記載した書類
は三辰建設の代表者Jが作成したものであつて、本件請負契約締結前の交渉の段階
において同人が被控訴人方に持参したものであり、その記載事項については右両名
の間で協議され、合意に達したものであり、従つて後に至り被控訴人より送付され
ても、Jは右条項を異存なく契約内容としたことが認められるから、右条項をもつ
て本件請負契約の内容となつていないと云うことはできない。又前記の如く本件請
負契約において三辰建設が本件建物の管理権のほかにとくに所有権を有する旨を約
定していることをもつて、三辰建設に本件建物の処分権能を与えたものと解すべき
理由となしえないことはいうまでもない。
 してみれば、本件請負契約において、三辰建設に本件建物の処分権能を与える旨
の暗黙の合意が契約当事者間に成立したものとは認められないから、控訴人主張の
その余の点につき判断するまでもなく、控訴人の前記主張は理由がないといわねば
ならない。
 五、 控訴人は、三辰建設は本件土地につき賃借権を有し、控訴人が原審被告
A、Cを経てそれを譲り受けたから、右譲受けにつき承諾がえられないならば、買
取請求権を行使し、本件建物代金支払いまで建物収去土地明渡を拒否すると主張す
る。本件請負契約により三辰建設は、請負残代金の完済まで本件建物の所有権およ
び管理権を有し、保証や家賃を受領して右残代金の支払いに充当しうるけれども、
請負残代金完済までのごく短期間を予定していたにすぎないことは、前認定のとお
りである。三辰建設が本件建物を所有することの結果としてその敷地である本件土
地を使用しうることになるとはいえ、三辰建設の本件建物の所有は単に請負残代金
回収の手段にすぎず(処分権能を有しないことは前認定のとおりである。)、いわ
ば留置権類似の権能にすぎないというべきであるから、その当然の帰結としての本
件土地の使用をもつて賃借権に基づくもの、まして借地法の保護を受くべき賃借権
に基づくものということができないと解すべきである。従つて控訴人の建物買取請
求権についての主張は理由がないといわねばならない。
 なお、控訴人は、前記第三者のためにする賃借権設定契約に基づく賃借権によつ
て建物買取請求権の行使を主張するが、右賃借権の成立の余地のないことは前認定
のとおりであるから、右主張も理由がない。
 六、 以上のとおり控訴人の抗弁は、いずれも理由がなく、従つて控訴人は、本
件土地を占有する権原を有しないものといわなければならない。従つて控訴人は、
被控訴人に対して、本件建物を収去して、本件土地を明渡す義務がある。
 そして原審証人I、同Kの各証言によれば、控訴人は、Cから本件建物の所有権
を譲り受けるに当つて、同人から本件土地の所有者が被控訴人であること、本件土
地の使用権原についての契約書等はないけれども同人の前主である原審被告Aは被
控訴人に対して永久の借地権を有しているから心配はないが、被控訴人は現在日本
にいないので、地代は供託している旨聞かされ、被控訴人に対し、本件土地の占有
権原の有無を確めることもなく、漫然本件建物の所有権を譲り受け、地代を供託し
ていたことが認められるから、控訴人は、本件土地を無権原で占有していることに
ついて過失がないということはできず、従つて控訴人の右不法占拠により被控訴人
が蒙つている損害を賠償しなければならない。
 ところで被控訴人の蒙つた損害額は、通常の場合には本件土地の相当地代額を標
準にして算定すべきものと解され、本件においてもこれと別異に解すべきものとす
る証拠はない。当審における被控訴人本人尋問の結果により成立が認められる甲第
九五号証(不動産鑑定評価書)には、本件土地の昭和三七年二月一三日、昭和四一
年四月一日、昭和四四年六月五日各現在の賃料につき、積算賃料および比準賃料を
関連づけて得た評価額として、それぞれ月額一二万円、一四万円、一八万円と記載
されているが、その評価方法をみるに、積算賃料の算出方法として更地価格に期待
利廻り六%および固定資産税管理費二%を乗じて算出し、又比準賃料として駐車場
として使用した場合、平家建貸事務所を建設した場合の収益と比較して、前記評価
額を算出しているのであるが、右期待利廻率および国定資産税、管理費等の率が必
しも適切とはいえず、駐車場および貸事務所からの収益全額が地代に相当するもの
といえないのみならず、駐車場の収益は、需給状況に支配されることが多く必しも
地代の額に比例するともいえず、又前記評価額は、各評価時点にいずれも新たに賃
貸した場合の賃料額を算出しているところ、本件においては少くとも昭和三七年二
月一三日以降継続して占有使用しているのであり、かゝる場合地価の上昇率はその
まゝ地代額の上昇とはならないものと考えられるから、前記各地代評価額をもつて
そのまゝ本件土地の相当地代額とすることは、相当でないと考えられる。しこうし
て前記証拠によれば、前記各評価時点における本件土地の更地価格は、それぞれ
一、七一九万円、二、〇五一万円、二、八〇〇万円であることが認められ、これに
反する証拠はない(弁論の全趣旨により成立が認められる甲第五七号証によれば、
昭和四三年二月当時のそれは、二、五五〇万六、九〇〇円であることが認められ
る。)。
 よつて昭和三七年二月一三日現在の本件土地の相当地代額は、前記更地価格に期
待利廻り五%を乗じて得た八五万九、五〇〇円(一二で除せば、七万一、六二五
円)を標準にして考えれば、月額七万円を相当とする。次に昭和四一年四月一日現
在相当地代額は、その更地価格が、昭和三七年二月一三日現在のそれに比して一
九・三一%増額していることになるものの、継続賃料については地価の上昇率がそ
のまま地代額のそれになるといえない点、約四年を経過している点等を考慮すれ
ば、一〇%増額して、七万七、〇〇〇円を相当とする。次に昭和四四年六月五日現
在の相当地代額は、その更地価格が昭和四一年四月一日現在のそれに比し三六・五
一%増額していることに鑑み約一八%増額して九万一、〇〇〇円を相当とする(7
7,000×%1.18=90,8600≒91,000なお、昭和四四年六月五
日現在の更地価格は、昭和三七年二月一三日のそれに比し六二・八八%増額してい
るから、相当地代は約三〇%増額するものとすれば九万一、〇〇〇円70,000
×1.3=91,000となる。)。
 よつて被控訴人の蒙つた地代相当の損害額は、昭和三七年二月一三日以降昭和四
一年三月三一日までは月額七万円、同年四月一日以降昭和四四年六月四日までは月
額七万七、〇〇〇円、同月五日以降は月額九万一、〇〇〇円となる。
 七、 次に被控訴人は、当審において請求を追加して、被控訴人に対し、本件建
物を他に賃貸もしくは使用してはならない旨求めているが、右請求は、結局におい
て控訴人に対する本件建物収去の請求に含まれるものと解されるから、かかる二重
の請求は不適法にして許されないものというべきである。
 八、 以上の次第であるから、被控訴人の第二次請求は、控訴人に対し、本件建
物の収去、本件土地の明渡しならびに昭和三七年二月一三日から昭和四一年三月三
一日まで一ケ月七万円、同年四月一日から昭和四四年六月四日まで一ヶ月七万七、
〇〇〇円、同月五日から右明渡しずみまで一ケ月九万一、〇〇〇円の割合による金
員および右各金員に対する各該当月の翌月一日から支払いずみまで年五分の割合に
よる遅延損害金の各支払いを求める限度においてこれを相当として認容すべく、そ
の余は失当として棄却すべきである。又当審において追加した前記請求は不適法と
して却下すべきである。
 よつて原判決中、控訴人に対し本件建物収去本件土地明渡を認めた部分は相当で
あつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、被控訴人の第一次請求につい
ての附帯控訴は却下し、第二次請求について損害金の請求を棄却した原判決は、前
記と判断を異にする限度において不当であるからこれを取り消して、前記損害金の
支払いを命じ、その余の請求を棄却し、当審において追加した訴えを却下すること
として、民事訴訟法第三八四条第一項第三八六条第九五条第九六条第九二条第八九
条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して、主文のとお
り判決する。
 (裁判長裁判官 石田哲一 裁判官 小林定人 裁判官 関口文吉)

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