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裁判例


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主文
1原告らが外務大臣に対して平成18年4月25日にした行政文書開示請求に
係る別紙「請求文書目録」記載の各行政文書のうち,別紙「一部不開示文書目
録」及び別紙「追加決定文書目録」を除く部分について,外務大臣が行政機関
の保有する情報の公開に関する法律9条各項の決定をしないことが違法である
ことを確認する。
2本件訴えのうち,別紙「追加決定文書目録」記載の各行政文書に係る不作為
の違法確認に係る部分及び同各行政文書の開示の義務付けに係る部分をいずれ
も却下する。
3原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,これを2分し,その1を原告らの負担とし,その余は被告の負
担とする。
事実及び理由
第1請求
1原告らが外務大臣に対して平成18年4月25日にした行政文書開示請求に
係る別紙「請求文書目録」記載の各行政文書のうち,別紙「一部不開示文書目
録」を除く部分について,外務大臣が行政機関の保有する情報の公開に関する
法律9条各項の決定をしないことが違法であることを確認する。
2外務大臣は,原告らに対し,前項の各行政文書を開示せよ。
3被告は,原告らに対し,各1万円を支払え。
第2事案の概要
本件は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」
という。)に基づき,外務大臣に対して行政文書の開示請求をした原告らが,
外務大臣が開示請求に係る行政文書のうちの一部について情報公開法9条各項
の決定(以下「開示決定等」という。)をしただけで,本件口頭弁論終結時ま
でにその余の部分につき開示決定等をしないことが違法であり,同部分につい
ては開示決定がされるべきであること,外務大臣がした部分開示決定は違法で
あり,原告らはこれにより精神的苦痛を被ったことなどを主張して,被告に対
し,開示決定等がされない不作為の違法確認及び開示の義務付けを求めるとと
もに,国家賠償法に基づき損害の賠償を求める事案である。
1前提事実
本件の前提となる事実は,次のとおりである。いずれも当事者間に争いがな
い事実,当事者が争うことを明らかにしないため自白したものとみなされる事
実又は証拠等により容易に認めることのできる事実であるが,括弧内に認定根
拠を付記している。
(1)開示請求
原告らは,平成18年4月25日,外務大臣に対し,情報公開法3条及び
4条1項に基づき,別紙「請求文書目録」記載の「日韓国交正常化交渉(日
韓会談)各時期の本会議及び委員会の会議録・関連資料,日本政府が作成し
た公文書」について,開示請求をした(以下「本件開示請求」という。)。
(甲1)
ところで,上記「日韓国交正常化交渉(日韓会談)」とは,昭和26年か
ら同40年にかけて日本と大韓民国(以下「韓国」という。)の間で7次に
わたって行われた両国の国交正常化のための交渉である。この交渉の結果,
同年6月22日,日本と韓国の間で,「日本国と大韓民国との間の基本関係
に関する条約」(いわゆる日韓基本条約)が締結されるとともに,「日本国
と大韓民国との間の漁業に関する協定」,「財産及び請求権に関する問題の
解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」,「日本国に
居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間
の協定」及び「文化財及び文化協力に関する日本国と大韓民国との間の協
定」等が調印されたものである。
なお,韓国政府の作成及び保管に係る上記の関連文書(約3万6000
頁)については,同政府において,平成17年8月に全面開示されている。
(2)対象文書の特定
外務大臣は,本件開示請求に対し,対象文書を特定した(以下,その特定
に係る文書を「本件対象文書」という。)ところ,本件対象文書の分量は,
行政文書ファイルにして約183冊となった。
(3)延長通知
外務大臣は,平成18年5月25日,本件開示請求について,情報公開法
11条に基づき,開示決定等の期限の特例を適用することとし,同日付けで,
原告らに対し,「新たな開示決定等の期限」として「平成18年06月24
日までに可能な部分について開示決定等を行い,残りの部分については,平
成20年05月26日までに開示決定等を行う予定です。」と,また,「上
記条項を適用する理由」として「対象となる行政文書が著しく大量でありか
つ,担当課において他に処理すべき開示請求案件が著しく多くまた,他の事
務が著しく繁忙であり,開示請求日から60日以内にそのすべてについて開
示決定等をすることにより事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがあるた
め。」とそれぞれ記載した書面をもって,通知を行った。(甲2)
(4)開示請求に係る決定
外務大臣は,平成18年8月17日付け情報公開第02299号をもって,
別紙「一部不開示文書目録」記載の各行政文書(以下「一部文書」といい,
本件対象文書から一部文書を除いたものを「残部文書」という。)につき,
情報公開法5条3号を不開示理由とする部分開示決定(以下「原処分」とい
う。)を行い,原告らに対し,これを通知した。(甲3,4の1ないし1
3)
(5)異議申立て
原告らは,平成18年10月2日,行政不服審査法6条に基づき,原処分
に対し,異議申立てをした(以下「本件異議申立て」という。)。(甲5,
乙1)
(6)本件訴えの提起
原告らは,平成18年12月18日,①原処分のうち一部文書の不開示部
分に係る決定の取消し及び同部分の開示の義務付けを求めるとともに,②外
務大臣が残部文書に係る開示決定等をしないことの違法確認及び残部文書の
開示の義務付けを求める本件訴えを提起した。(当裁判所に顕著な事実)
(7)異議申立てに対する決定等
外務大臣は,平成19年3月28日,本件異議申立てに対し,原処分を取
り消し,原処分において不開示とした部分の全部を開示する旨の決定をし
(以下「本件異議決定」という。),同日付け情報公開第00475号によ
り,改めて一部文書の全部を開示する決定をした。(甲6,7,8の1ない
し13,乙2,3)
(8)訴えの変更
原告らは,平成19年7月4日,行政事件訴訟法21条1項に基づき,前
記(6)①の訴えを前記請求3項の国家賠償請求の訴えに変更することを申し立
て,当裁判所は,同年8月3日,同変更を許可する旨の決定をした。(当裁
判所に顕著な事実)
(9)本件訴えの提起後の開示決定等
本件訴えが提起された後において,前記(7)のとおり,一部文書の開示決定
がされたほか,残部文書のうち,別紙「追加決定文書目録」の番号1ないし
25の各行政文書については平成19年4月27日付けで,同番号26ない
し166の各行政文書については同年11月16日付けで,開示決定,部分
開示決定又は不開示決定がされた(以下,残部文書のうち,別紙「追加決定
文書目録」記載の各行政文書を「追加決定文書」といい,これを除くものを
「未決定文書」という。)。
2争点
(1)不作為の違法について
外務大臣が本件口頭弁論終結時において残部文書(特に,未決定文書)に
つき開示決定等をすべきであるにかかわらず,これをしないことについての
違法があるか(行政事件訴訟法3条5項参照)。
(2)開示の義務付けについて
外務大臣が残部文書(特に,未決定文書)の開示決定をすべきであること
が情報公開法の規定から明らかであると認められ又は開示決定をしないこと
がその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるか(行政事
件訴訟法37条の3第5項参照)。
(3)国家賠償について
外務大臣が原処分をしたことにより,違法に原告らに損害を加えたといえ
るか(国家賠償法1条1項参照)。
3争点に関する当事者の主張の要旨
(1)争点(1)(不作為の違法)について
(原告らの主張)
外務大臣は,情報公開法11条所定の開示決定等の期限の特例を適用して
開示決定等をする期限を平成20年5月26日まで延長しているが,日韓会
談に関連する行政文書については,①外務大臣に対し本件開示請求以前に1
2回にわたり開示請求がされており,外務大臣としては従前の判断を踏襲す
ることができたこと,②同19年8月30日にされた外務省の第20回外交
記録公開において一部を除き本件対象文書の公開は見送られたものの,その
準備段階においてその公開の是非が省内で検討されたこと,③韓国において
全面開示された文書は公刊されているところ,外務省の保管する文書と対照
することで,速やかに公開すべき行政文書を特定することが可能であったこ
となどからすると,そもそも本件開示請求に対し情報公開法11条を適用す
ることが違法であり,外務大臣は情報公開法10条1項及び2項の期限(最
長で60日)内に開示決定等をするべきであったが,この点をおくとしても,
情報公開法11条柱書きにいう「相当の期間」とは,情報公開の速やかな実
現の趣旨からして数箇月程度を予定しているものと解されるところ,本件口
頭弁論終結時までに本件開示請求から約1年7箇月が経過している本件にお
いては,開示決定等をしない不作為が違法であることは明らかであり,これ
は市民の知る権利を侵害するものである。
(被告の主張)
ア本案前の主張
前記前提事実(9)のとおり,残部文書のうち,追加決定文書については,
既に開示決定,部分開示決定又は不開示決定がされているから,原告らの
不作為の違法確認及び義務付けを求める本件訴えは,追加決定文書に係る
部分につき,その範囲で訴えの利益が喪失した。
イ本案の主張
情報公開法5条3号は,「公にすることにより,国の安全が害されるお
それ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若
しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認
めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報としているところ,
現在審査中の未決定文書について,同号の不開示情報を含む可能性がない
とはいえないものであるから,外務大臣が開示決定等を行うに当たっては
慎重な審査を必要とする。
本件対象文書については,外務大臣がその開示又は不開示を決定するに
当たり,アジア大洋州局長及び北東アジア課長がその補助機関として判断
をしているものであり,同部局において,不開示情報の有無等につきその
審査を行っているものであるが,本件対象文書が極めて大量であること,
不開示情報の有無の審査は慎重に行わなければならないこと,かつ,他に
極めて重要な外交政策及び他の開示請求に係る事務処理を限られた人員で
行わなければならないことなどからすれば,本件開示請求に対し,情報公
開法11条を適用し,開示決定等をする期限を開示請求のあった日から約
2年後の平成20年5月26日と定めたことをもって,著しく長期にわた
るものとして「相当の期間」に該当しないなどとはいえない。
したがって,本件では,未決定文書についていまだ開示決定等がされて
いないからといって,行政事件訴訟法3条5項及び情報公開法11条柱書
きにいう「相当の期間」内に何らの処分がされないことについての違法が
あるとはいえない。
(2)争点(2)(開示の義務付け)について
(原告らの主張)
日韓会談について韓国において全面開示された文書は公刊されているとこ
ろ,残部文書につき,韓国との関係では情報公開法5条3号所定の不開示情
報は存在しない。また,北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)との関係でも,
平成14年9月17日に日朝平壌宣言が署名されており,現在において残部
文書の公開により北朝鮮との間で交渉上の不利益を被るおそれがないことは
明らかであるから,残部文書については不開示情報が存在せず,開示決定が
されるべきである。
(被告の主張)
本件対象文書が編てつされているファイル約183冊には,会議録だけで
なく,第三国の情報が記載された文書並びに日本国政府内での非公式打合せ
記録及びメモ等種々様々な行政文書が存在している。そして,現在審査中の
未決定文書は,現在においても日韓間で立場が異なる問題に関する文書が含
まれており,北朝鮮との関係においても,その公開によって我が国の立場を
不利にするおそれのある文書が多数含まれていること等からすれば,直ちに
これを開示すべきものとはいえない。
(3)争点(3)(国家賠償)について
(原告らの主張)
国家賠償法1条1項にいう違法については,これを行政処分の違法と同一
であるととらえる見解(違法性一元論)と,これと異なるものととらえる見
解(違法性相対論)が存在するが,違法性一元論が妥当である。ただし,本
件では,仮に,違法性相対論の見解に立ったとしても,①原処分において不
開示とされた部分は,本件異議決定後に開示された同部分の内容を見る限り,
情報公開法5条3号所定の不開示情報に当たらないことが明らかであること,
②原処分において開示した部分に含まれる情報が不開示部分に含まれていた
こと,③韓国において全面開示されていた情報と同一の情報を不開示として
いたことなどの点から,国家賠償法1条1項にいう違法が認められる。
そして,情報公開法の定める開示請求権は,憲法21条及び市民的及び政
治的権利に関する国際規約19条2項によって保障される市民の知る権利を
具体化したものであり,国家賠償法上保護に値する重要な権利である。さら
に,本件訴訟は,いわゆる戦後補償問題にかかわる韓国の戦争被害者及びそ
の支援者を原告とするものであり,戦争被害者の高齢化が進む中において,
歴史的文書である本件対象文書の内容を少しでも早く知りたいとする原告ら
の要望は切実なものがある。原処分による一部文書の一部不開示は,そのよ
うな事情を有する原告らの知る権利を侵害したものであるから,それによっ
て原告らが被った精神的損害が各自1万円を優に超えることは明らかである。
また,外務省としては,本件開示請求を受けた時点において,原告らが戦後
補償問題に関連して少しでも多くの情報をなるべく早く知りたいという切実
な要求を持っていたことは当然予見できたか,あるいは予見できてしかるべ
きであったのであり,国家賠償法上の損害を算定するに当たっては,そのよ
うな事情も考慮すべきである。
(被告の主張)
国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が
個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を
加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定する
ものであり,同項の「違法」とは,権利ないし法益の侵害があることを前提
に,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負
担する職務上の法的義務(公権力の行使に当たって遵守すべき行為規範)に
違背することである(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月
21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁等参照)。
情報公開法5条3号は,「公にすることにより,国の安全が害されるおそ
れ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しく
は国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めるこ
とにつき相当の理由がある情報」を不開示情報と定めているところ,「相当
の理由」があるか否かは行政機関の長,すなわち本件では外務大臣の広範な
裁量が尊重されるべきものであって,外務大臣が同号に該当する不開示情報
が存在すると判断して原処分を行ったことについて,国家賠償法上の違法が
ないことは明らかである。なお,本件では,原処分が行われた後,本件異議
決定によって一部文書の全部を開示することとなったが,これは原処分を行
った以降に残部文書の審査を進める過程において,また,異議申立て後に再
検討を行う過程において,原処分の時点では一部不開示とした部分について
新たに不開示情報が存在するとまではいえないとの判断に至ったからであり,
判断時期が異なるのであるから,後に一部文書を全面開示としたというだけ
で,原処分が当然に違法と評価されるものではない。
また,国家賠償法においては,法律上保護された利益の侵害がなければ,
同法1条1項に基づく損害賠償を請求することはできない(最高裁昭和41
年(オ)第700号同43年7月9日第三小法廷判決・裁判集民事91号6
39頁等参照)ところ,外務大臣は,本件異議申立てに対し原処分の再検討
を行い,その結果,不開示とした部分についても開示決定を行って原告らに
開示したものであり,このような状況において,原告らに同法上違法と認め
られるような権利利益の侵害があったとはおよそ認められず,社会通念上受
忍すべき限度を超えるものとは認められないから,同法によって賠償される
べき損害が生じたとは認められない。
第3争点に対する判断
1争点(1)(不作為の違法)について
(1)前記前提事実(9)によれば,残部文書のうち追加決定文書については本件
口頭弁論終結時までに開示決定等がされたことが認められるから,本件訴え
のうち,追加決定文書に係る不作為の違法確認及び開示の義務付けを求める
部分は訴えの利益がない。したがって,以下では,未決定文書に係る不作為
の違法確認及び開示の義務付けを求める部分について検討する。
(2)本件開示請求が「法令に基づく申請」(行政訴訟法3条5項)に該当する
こと及び原告らが本件開示請求に係る「申請をした者」であること(同法3
7条)はいずれも明らかであるところ(前記前提事実(1)),本件開示請求に
対し,外務大臣が未決定文書につき「相当の期間」内(同法3条5項)に開
示決定等をすべきであるにかかわらず,これをしないことについての違法が
あるか否かをみるに,本件において,外務大臣は,情報公開法10条1項に
よれば開示請求があった日から30日以内,同条2項によれば事務処理上の
困難その他正当な理由があるときは更に30日以内に限り延長することがで
きるとされている開示決定等の期限を,残部文書につき,情報公開法11条
の開示決定等の期限の特例を適用して延長している(前記前提事実(3))。同
条は,「開示請求に係る行政文書が著しく大量であるため,開示請求があっ
た日から60日以内にそのすべてについて開示決定等をすることにより事務
の遂行に著しい支障が生ずるおそれがある場合には,前条の規定にかかわら
ず,行政機関の長は,開示請求に係る行政文書のうちの相当の部分につき当
該期間内に開示決定等をし,残りの行政文書については相当の期間内に開示
決定等をすれば足りる。」(同条柱書き第1文)と規定しているところ,そ
の「相当の期間」とは,当該残りの行政文書について行政機関が処理するに
当たって必要とされる合理的な期間をいうものと解するのが相当であり,こ
れは行政事件訴訟法3条5項にいう「相当の期間」と同義のものと解される。
そこで,以下では,未決定文書につき,情報公開法11条1項柱書きにいう
「相当の期間」が本件口頭弁論終結時までに経過したか否かについて検討す
ることとする。
(3)証拠(該当箇所に併記したもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を
認めることができる。
ア本件対象文書の分量は,前記前提事実(2)のとおり,行政文書ファイルに
して約183冊である。
これらのファイルには約200枚ないし約400枚の文書がそれぞれ編
てつされており,その総量は,約3万6000枚ないし約7万3000枚
に及ぶものと見込まれるところ,使用言語及び文書の体裁等が異なるであ
ろうこと並びに日本国政府の内部検討文書等が存在するであろうことなど
を考慮の外に置くとしても,少なくとも韓国政府が全面開示した約3万6
000頁の関連文書(前記前提事実(1))と同程度の量の行政文書が存在す
るものと認めることができる。(乙6)
なお,原処分に係る一部文書の分量は13文書193頁(うち不開示部
分は128頁であるが,同部分が後に開示されたことは前記前提事実(7)の
とおりである。)であり,また,平成19年4月27日付け及び同年11
月16日付け各開示決定等に係る追加決定文書の分量は166文書664
6頁である。
イ外務省組織令2条1項は,外務省に,大臣官房並びに総合外交政策局,
アジア大洋州局,北米局,中南米局,欧州局,中東アフリカ局,経済局,
国際協力局,国際法局及び領事局の10局などを置くことを定めていると
ころ,同令3条1項6号,18条1項及び19条7号は,「外務省の保有
する情報の公開に関すること」を大臣官房総務課の所掌事務としており,
同課情報公開室(外務省組織規則1条1項)が同省の保有する行政文書に
対する情報公開法に基づく開示請求に関する業務を扱っている(同規則6
項1号)。同室では,年間約1000件前後の開示請求に対し,3名ない
し4名の担当官で対応している状況にある。
ところで,本件対象文書は日韓国交正常化交渉に関するものであるとこ
ろ,日韓関係等の外交政策上の観点からその記載内容を審査し,開示決定
等につき判断する権限と責任を有するのは,行政機関の長である外務大臣
であるが,外務省組織令2条1項,5条1項,38条1項及び40条によ
れば,アジア大洋州局北東アジア課が「朝鮮に関する外交政策に関するこ
と」及び「朝鮮に関する政務の処理に関すること」を所掌する内部部局と
して,その補助をしている。同課の人員は19名であり,同課に係る開示
請求の件数は,平成16年度に99件,同17年度に32件,同18年度
に29件であった。なお,本件開示請求時において開示決定等がされてい
ない案件は,前年度等からの延長案件も含めると,約100件であった。
ウ一般に,外務大臣に対して開示請求がされた場合,対象となる文書を特
定した後,内部部局においては,開示決定等に当たり,当該文書をすべて
コピーした上で,決裁書の表紙,当該文書に含まれる行政文書の一覧表及
び概要等を作成し,決裁用書類としての体裁を整えた後,外務省内の関係
各部署における審査を経るという手順を踏んでいる。また,当該文書の中
に同省外の関係省庁にも関係するものが含まれる場合は,必要に応じ,当
該関係省庁における審査を経ている。
なお,開示請求の対象となる文書すべてについてコピーを作成するのは,
①外務省の正式な記録として保管されている原本については,書き込みな
どの加工又は加筆をすることは許されないこと,②関係省庁の審査を経る
ことが必要な場合などには,原本を使用して当該関係省庁と合議をするこ
とはできず,また,同時に複数の省庁と合議をすることも考えられること
などの理由による。
本件対象文書についても,これらの作業が行われているところ,その文
書の作成時期が約50年前にさかのぼるものもあるため,紙が劣化してい
る文書が存在するほか,極薄のセロハン紙に印字して作成した文書も存在
する。外務省においては,歴史的な文書であるこれらの文書の損傷を避け
ながら慎重にコピーをする必要があるとして,ファイル約183冊分の決
裁用書類を整えるだけでも,前記イの人員による制約及び後記エの業務の
繁忙状況による制約等から,1年以上の期間を要する旨予測した。(乙
8)
エ外務省アジア大洋州局北東アジア課は,韓国及び北朝鮮に関する外交政
策の企画及び立案並びにその実施を業務としているところ,①韓国に関し
ては,平成14年以降,10回の首脳会談及び32回の外相会談が行われ
ているほか,事務レベルにおける定期協議は,日韓次官級戦略対話,排他
的経済水域境界画定交渉,日韓安保対話,在日韓国人の法的地位協議及び
日韓経済ハイレベル協議といった協議を含めて多岐にわたっており,さら
に,同18年には,竹島の領有権についての立場の相違に起因する日本海
での海洋調査の問題をめぐり,事務次官自らが韓国側との協議のため2回
にわたり訪韓するなど,必要に応じて重要な二国間協議があらゆるレベル
で頻繁に行われており,過去に起因する諸問題を含め,常に細心の注意を
払い,慎重な運営が要求される二国間関係にある。また,②北朝鮮に関し
ては,我が国に近接していながら国交がなく,日本人拉致,核又はミサイ

ル問題という諸懸案を抱え,これらの諸問題を包括的に解決し,国交正常
化を図るためには,北朝鮮の独特の国家体制等に照らし,アメリカ合衆国,
中華人民共和国,ロシア連邦及び韓国等との緊密な連携を維持しながら,
同15年に設置されたいわゆる六者会合及びその他の機会を通じ,北朝鮮
との交渉等に対処する必要がある。
上記北東アジア課では,このように極めて重要な対韓国及び対北朝鮮の
外交政策を19名の人員で同時並行的に遂行しており,殊に国会開会中は,
時には数十問にも及ぶ国会質問への対応が連日深夜にまで及んでいるとい
う状況にある。
オ外務省では,本件対象文書に不開示情報が記載されているか否かの審査
について,本件対象文書の重要性にかんがみ,大臣官房総務課情報公開室
及びアジア大洋州局北東アジア課のほか,必要に応じて国際法局等の関連
部局の協力を得ながら審査を行う必要があること,同情報公開室及び同北
東アジア課の各担当官1名の判断のみによることなく,同室長及び同課長
による二重の実質審査を行う必要があること,文書の内容によっては,他
の関係省庁(法務省,警察庁及び財務省等)の合議にかける必要があるこ
となどから,ファイル1冊の審査を行うためには,少なくとも3日を要す
るものと想定し,職員の年間勤務日数が約250日であることを考慮して,
すべての文書に関する開示決定等をするまでに優に2年以上の期間を要す
る旨予想したが,外務大臣は,本件開示請求の重要性等を総合的に勘案し,
前記前提事実(3)のとおり,平成18年5月25日,本件開示請求について,
情報公開法11条に基づき,最終的な開示決定等をする期限について,同
20年5月26日とすることを決めた。
カ他方において,本件開示請求以前に外務大臣が受理した日韓会談にかか
わる行政文書に係る開示請求の件数は12件であり,これらにおいて開示
請求された行政文書の概要は,次のとおりである。(甲15の2)
(ア)日本と韓国の間で7次にわたって行われた日韓国交正常化交渉(日
韓会談)の議事録など関係文書一切。
(イ)昭和27年1月9日に韓国から提出された「財産及び請求権処理に
関する協定基本要項」及び説明,討論(同年の日韓会談)に関するすべ
ての文書並びに日本の代案に関連したすべての文書。
(ウ)日韓会談に関する外務省文書で,旧日本軍軍人軍属であった韓国人
に対する軍人恩給等個人補償に関する記述を有する文書及びこれに関連
して在日韓国人の当該補償にかかわる事項として昭和40年の「日韓請
求権協定」の第2条第2項(a)の挿入経緯を物語る記述を有する文書。
(エ)第1次日韓会談にかかわる外務省文書で,韓国人(在日者を含む)
の「国籍」(法的地位)の扱いに関する記述を有する文書。
(オ)第3次,第5次及び第6次日韓会談関係資料(交渉準備資料,交渉
内容及び合意事項等に関する部分等)。
(カ)平成17年度(行情)答申第204号(7月26日)審査会で一部
開示決定が行われた日韓会談関係の文書すべて。
キ前記カのうち,「昭和26年から昭和40年にかけて日本と韓国との間
で7次にわたって行われた日韓国交正常化交渉(日韓会談)のうち,第6
次会談に関する議事録,速記録,覚書,確認書,メモ,報告書など関係文
書一切(図面,電磁的記録を含む)」及び「昭和26年から昭和40年に
かけて日本と韓国との間で7次にわたって行われた日韓国交正常化交渉
(日韓会談)のうち,第1,2,4,5,7次の日韓交渉に関するそれぞ
れの議事録,速記録,覚書,確認書,メモ,報告書など関係文書一切(図
面,電磁的記録を含む)」の開示請求がされた件については,外務大臣が
平成15年10月31日付け情報公開第01742号から第01755号
まで並びに同年1月29日付け情報公開第00285号,第00286号
及び第00288号により行った当該対象文書の部分開示決定に対し異議
申立てがあったことから,情報公開法18条に基づく情報公開審査会(平
成15年法律第61号により,同17年4月1日からは情報公開・個人情
報保護審査会)に対する諮問が行われ,同年7月26日付けで同審査会に
よる答申(前記カ(カ)記載の平成17年度(行情)答申第204号)がさ
れた。
上記答申では,上記開示請求では,その対象を請求権問題に係る文書で,
かつ交渉のやり取りを直接記録した文書及びその付属資料に限定していた
もの(合計242文書)と認めた上,①当該対象文書は日韓国交正常化交
渉の中核を成すともいえる朝鮮半島に存在する財産及び請求権に係る諸問
題を解決するために行われた昭和27年から同40年までの7次にわたる
日韓会談の内容について日本側で作成した記録であり,不開示部分には,
朝鮮半島に存在する個別具体的な財産及び請求権にかかわる諸問題につき,
財産及び請求権の詳細や交渉の詳細が克明に記載されており,かつ内容は
極めて機微に及んでいること,②既に解決済みの交渉内容といえども,本
件対象文書の不開示部分には,個別具体的な財産及び請求権問題に係る日
韓間での生々しい議論のやり取りが詳細に記述されていることから,仮に
当該内容がつまびらかになれば,財産及び請求権問題の解決に当たっての
我が国の立場,見解及び対応の子細が明らかになることにつながるので,
今後の北朝鮮との国交正常化交渉に影響を及ぼし得るものであること,③
当該対象文書の不開示部分には,韓国政府が実効的に処理し得る範囲に限
らず朝鮮半島全般に関する財産及び請求権についての我が国の立場,見解
及び対応に関する情報が含まれているところ,北朝鮮との財産及び請求権
に関する諸問題は依然として未解決であり,今後の日朝国交正常化交渉に
おいて協議されるものであることにかんがみると,当該対象文書に記載さ
れている朝鮮半島に存在する財産及び請求権に係る諸問題を解決するため
の処理及び検討作業の中での我が国の立場,見解並びに対応及び財産権問
題の処理方法等を明らかにすれば,今後の日朝国交正常化交渉において,
我が国が取り得る立場が明らかになり,当該交渉に好ましからざる影響を
及ぼし得るものであることから,当該不開示部分を公にすることにより,
他国との交渉上不利益を被るおそれがあると外務大臣が認めたことには相
当の理由があるとしたが,当該対象文書中には,対外発表に双方が合意し
ている内容,個別かつ具体的な交渉内容ではなく事務的事項と考えられる
「協議日程」の打合せに係る部分及び既に対外的に公表されていると考え
られる内容である「新聞発表」に係る部分が含まれ,当該部分は,仮に公
にしたとしても,他国との交渉上不利益を被るおそれがあると外務大臣が
認めることにつき相当の理由がある情報とは認められないとして,当該不
開示部分の一部を開示すべきであるとされている。
(乙4)
クまた,情報公開法25条は,「政府は,その保有する情報の公開の総合
的な推進を図るため,行政機関の保有する情報が適時に,かつ,適切な方
法で国民に明らかにされるよう,行政機関の保有する情報の提供に関する
施策の充実に努めるものとする。」として,行政機関の保有する情報の提
供に関する施策の充実について定めるところ,外務省では,大臣官房総務
課外交記録審査室の所掌事務として,昭和51年に第1回外交記録公開を
行って以来,平成17年2月の第19回公開に至るまで原則として30年
を経過した戦後外交記録を対象として精査し,順次公開している。同回ま
でに公開した記録は1万1700冊に達し,公開された記録は,原則とし
て,第17回公開まではマイクロフィルムにより,また,第18回公開以
降はCD−Rにより,外務省外交資料館において閲覧することができるほ
か,同16年以降に外交記録公開において公開した外交記録については,
順次インターネットを通じて閲覧できるようにしている。
外務省では,平成19年8月30日に第20回外交記録公開を行ったと
ころ,本件対象文書のうち新聞論評等に係る部分(別紙「追加決定文書目
録」の番号20から25までの文書等)は公開されたものの,その余の部
分の公開は見送られた。
(甲16ないし19)
ケ情報公開法は,行政改革委員会が平成8年12月16日に内閣総理大臣
に対して意見具申をした「情報公開法制の確立に関する意見」に沿って立
案された法律であるところ,同委員会が発足させ,同年7月19日に開催
された第47回行政情報公開部会において,P1部会長代理は,「30日,
30日の場合には,この法律の考え方は,とにかくやってもらうというこ
とだろうと思う。なぜなら,期限内にできない場合に不開示決定と見倣す
というみなし規定を敢えて置いていないわけで,あえて置いていないとい
うのは,とにかく30日,30日で国民には必ずお答えしますという一種
の手形を切ったようなものだと思う。」,「30日,30日でもう後はな
い。それで不開示決定をみなすも何もないのだから,60日間で必ず答え
るという,非常に大きな原則を立てたことが重要であると思う。みなし規
定があった方がいいのだという議論も,小委員会でさんざんやったのだが,
しかし,日本の行政官は,そこはきちんと60日以内でちゃんとやるとい
うふうに,あのときはそういうふうにまとめたはずである。」などと発言
している。(甲12,25)
コ情報公開法附則2項は,「政府は,この法律の施行後4年を目途として,
この法律の施行の状況及び情報公開訴訟の管轄の在り方について検討を加
え,その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」と定めている
ところ,平成13年4月1日に施行された情報公開法の施行状況を踏まえ
て,その制度運営に在り方について有識者による専門的な検討を行うこと
を目的として,東京大学大学院法学政治学研究科教授P2を座長とする情
報公開法の制度運営に関する検討会が同16年4月27日の初会合から同
17年3月18日までの間に計12回開催され,改善措置の検討等が行わ
れた。同検討会は,同月29日付けで報告を行っているところ,その内容
を抜粋すると,次の(ア)から(キ)までのとおりである。(甲11)
(ア)開示請求があったときは,速やかに開示又は不開示の決定が行われ
るべきである。しかしながら,開示請求の対象である行政文書等の内容
や量,開示又は不開示の判断の難易性,判断に当たっての第三者意見聴
取の要否等については様々であり,開示決定等を行うまでの期間を一律
に定めることは困難である。このため,情報公開法では,原則として開
示請求があった日から30日以内に開示決定等をすることとし(10条
1項),事務処理上の困難等がある場合は,30日以内に限っての延長
手続(同条2項)を定めている。30日以内に処理することとした事案
及び同項による延長手続を採った事案計17万1081件のうち,17
万0820件(99.85%)については期限内に開示決定等がされて
いるが,期限までに開示決定等がされなかったものが261件(0.1
5%)見られる。
(イ)開示請求の対象となる行政文書等が著しく大量であり,これを処理
するために通常の業務に著しい支障が生ずるおそれがある場合について,
情報公開法は,60日以内に「相当の部分」について開示決定等を行い,
残りの部分については「相当の期間」内に開示決定等を行うことで足り
る旨の特例規定(11条)を設けている。
情報公開法においてこの特例規定を適用する事案は,特定の省庁に集
中している。また,適用された件数の比率は平成13年度の6.5%か
ら同15年度の1.2%にまで減少している。この中には,特定の課室
に対し同時期に適用事案が集中したことなどを理由として,60日以内
に相当の部分について開示決定等ができなかったものが5247件中1
905件(36.3%)あり,また,相当の期間を考慮して開示請求者
に期限を通知したものの,業務の繁忙等その後の状況の変化により当初
予想した以上に審査等に時間を要したなどとして,通知した期限までに
開示決定等を行うことができなかったものが4427件中802件(1
8.1%)あるなど,不適切な事例が見られる。
「相当の期間」は,処理をするために必要となる合理的な期間として
行政機関等が設定するものであるが,請求文書の枚数が1万枚以上にも
及ぶ事例も少なからずあり,その対応のために1年以上の期間を設定し
ている事例も見られる。
(ウ)行政機関等は,次のような措置を講ずることにより,開示請求事案
の処理が迅速かつ円滑に行われ,法に定められた開示決定等期限が遵守
されるようにする必要がある。
a事案ごとの処理状況を管理部門等が把握及び管理できるようなIT
を活用した仕組みを整備することにより,事案処理の進行管理を徹底
すること。
b開示請求者の求めに応じて,事案処理の進行状況と見通し等を連絡
すること。
(エ)特例規定を適用した事案が多い省庁における年度別適用件数
防衛庁金融庁郵政事業庁外務省国税庁国土交通省
平成13年度受付事案5615436274791290
平成14年度受付事案143256881668103
平成15年度受付事案1810−375187
(オ)「相当の期間」の遵守状況
a開示請求者に通知した期限までに開示決定等がされなかった事案
(単位:件,%)
対象事案数期限を超過
)平成13年度又は同14年度の受付事案4427802(18.1
平成15年度の受付事案82018(2.2)
b平成15年度受付事案で,開示請求者に通知した期限までに開示決
定等がされなかったもの(18件)の内訳
1週間以内1箇月以内3箇月以内3箇月超計
外務省472215
国土交通省00303
(カ)情報公開法11条適用事例に関する判決の例
開示決定等をしないことの違法確認を求めた訴訟の提起後に開示決定
等がされたことから訴えは却下されたものの,訴訟費用を被告に負担さ
せることとした判決(外務大臣関係)
「被告は,平成13年8月6日(略)付けで,原告に対し,『開示決定
等の期限の延長等について』と題する情報公開法11条所定の通知を行
ったものの,本件開示請求から60日目である同年9月4日になっても,
同法11条によって命じられた相当の部分の行政文書の開示決定等を行
うことなく,また,同通知に示した期限である同年10月4日までにも
本件行政文書について全く開示決定等がされなかったことが認められる。
そして,原告が本件開示請求後187日目の平成14年1月9日に本訴
を提起し,第1回口頭弁論期日が同年3月5日と定められると(略),
本件開示請求の日から実に235日目である同年2月26日に至って,
ようやく本件開示決定等を行ったものである。以上の経緯に照らせば,
原告の本訴の提起は原告の権利の伸張に必要であった行為というべきで
あるから,訴訟費用は被告に負担させるのが相当である。」(東京地判
平14年4月22日「公文書開示不開示処分をしないことの違法確認請
求事件」)
(キ)大量の文書が開示請求された例
別紙「大量の文書が開示請求された例」のとおりである。
サ平成18年度における情報公開法の施行の状況について情報公開法24
条等に基づき総務省が公表した内容から,期限までに開示決定等がされな
かったものの統計につき,行政機関に係るものを抜粋すると,次のとおり
である。(甲26)
30日以内に開示決定等延長した期限までに開示情報公開法11条を適用
がされなかったもの決定等がされなかったもして通知した期限までに
の開示決定等がされなかっ
たもの
人事院1200
宮内庁001
総務省2700
外務省3515182
厚生労働省010
社会保険庁403
計7816186
(4)前記(3)の認定事実(以下「認定事実」という。)によれば,本件対象文
書は少なく見積もっても約3万6000頁(認定事実ア)という大量の行政
文書であり(なお,認定事実コ(キ)参照),外務省において開示請求に関す
る業務を扱う大臣官房総務課情報公開室及び本件対象文書に不開示情報が記
載されているか否かについて審査するアジア大洋州局北東アジア課の執務態
勢及び事務の繁忙状況等並びに上記審査の在り方(認定事実イないしオ)等
に照らし,本件においてはひとまず「開示請求に係る行政文書が著しく大量
であるため,開示請求があった日から60日以内にそのすべてについて開示
決定等をすることにより事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがある」
(情報公開法11条)と認めることができる。
ただし,情報公開法1条は,「この法律は,国民主権の理念にのっとり,
行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により,行政機関の保有
する情報の一層の公開を図り,もって政府の有するその諸活動を国民に説明
する責務が全うされるようにするとともに,国民の的確な理解と批判の下に
ある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。」と定めている
ところ,情報公開法は,行政機関が国民に対する関係で説明する責務(説明
責任)を全うする制度を整備することは,憲法の定める統治構造の下におい
て,その基礎である国民主権の理念にのっとった国政の運営を一層実質的な
ものとすることに資すること,このような制度を通じて,行政運営に関する
情報が国民一般に公開されることは,国民一人一人がこれを吟味した上で,
適正な意見を形成することを可能とするものであることなどにかんがみて,
民主主義の健全な発展のため,国政を信託した主権者である国民に対し,政
府がその諸活動の状況を具体的に明らかにし,説明責任を全うする制度とし
て,一般的な開示請求権制度(なお,情報公開法3条は開示請求権を有する
者として「何人も」と定めており,外国人を排除していない。)及び政府に
よる情報提供制度等を確立することにより,国政の遂行状況に対する国民の
的確な認識と評価を可能とし,国政に関する国民の責任ある意思形成が促進
されることを目的及び趣旨とするものである。
情報公開法のこのような目的及び趣旨に照らすと,開示請求に対しては,
速やかに開示決定等がされるべきであり,開示決定等の期限について,標準
処理期間を個々の行政機関ごとに定めるよう努めることを規定する行政手続
法6条によることなく,情報公開法10条1項において原則的処理期間を一
律に30日以内と規定し,同条2項において事務処理上の困難その他正当な
理由があるときは,更に30日以内に限り同期限を延長することができると
規定していることも,上記目的及び趣旨に沿うものであるといえるところ,
情報公開法11条の開示決定等の期限の特例が適用される場合における「相
当の期間」(すなわち,同条所定の「残りの行政文書」について行政機関が
処理するに当たって必要とされる合理的な期間)の認定に当たっても,上記
目的及び趣旨を十分に考慮するべきである。
(5)この点について,外務省に係る開示請求においては,統計上,情報公開法
11条の特例を適用した件数及び同条2号所定の「開示決定等をする期限」
までに開示決定等がされなかった件数が他の行政機関と比較して著しく多く,
殊に後者の件数は,平成18年度の統計において,行政機関全体の件数18
6件中,外務省に係るものが182件を占めている(認定事実コ及びサ)。
このことは,外務省が「平和で安全な国際社会の維持に寄与するとともに主
体的かつ積極的な取組を通じて良好な国際環境の整備を図ること並びに調和
ある対外関係を維持し発展させつつ,国際社会における日本国及び日本国民
の利益の増進を図ることを任務」とし(外務省設置法3条),各種外交政策
等に関することなどを所掌事務とする(同法4条)という性質上,開示請求
の対象となる行政文書について,情報公開法5条3号等の不開示情報が記載
されていないかどうかを十分に審査すべき機会が必然的に多くなることに起
因する部分も小さくないものと察せられるが,開示決定等がされるまでの期
間につき他の行政機関と比較して長期間を要する件数が極めて多いことに照
らすと,情報公開法の目的及び趣旨に沿った速やかな開示決定等をするため
の取組が不十分であると評価されてもやむを得ない(なお,前記前提事実
(1),(3)及び(4)によれば,本件開示請求に対し,その請求日である平成18
年4月25日から114日目である同年8月17日付けで原処分が行われた
ことが認められるところ,60日以内に「開示請求に係る行政文書のうちの
相当の部分につき当該期間内に開示決定等を」するべきであるという情報公
開法11条の規定は遵守されていない。)。このような状況に関連して,平
成17年3月29日付け情報公開法の制度運営に関する検討会報告(認定事
実コ)においても,情報公開法11条の特例規定を適用する事案は,特定の
省庁に集中していること,事案処理の進行管理を徹底することなどにより,
法に定められた開示決定等期限が遵守するようにされる必要があることなど
は,つとに指摘されていたところである。
殊に本件対象文書については,仮に日韓会談に係る行政文書すべての開示
請求がされたのが本件開示請求において初めてのことであったとしても,過
去にその一部について開示請求がされた数が12件あり(認定事実カ),し
かも,そのうちの1件又は複数件は,「日本と韓国の間で7次にわたって行
われた日韓国交正常化交渉(日韓会談)の議事録など関係文書一切」を開示
請求の対象とするものであった(ただし,認定事実キによれば,平成17年
度(行情)答申第204号に係る開示請求では,その対象を「請求権問題に
係る文書で,かつ交渉のやり取りを直接記録した文書及びその付属資料」に
限定していたものとされる。)。また,外務省大臣官房総務課外交記録審査
室では,「原則として30年を経過した戦後外交記録を対象として精査」し
た上,平成19年8月30日にされた第20回外交記録公開において本件対
象文書のうち別紙「追加決定文書目録」の番号20から25までの文書を除
く部分の公開を見送った(認定事実ク)というのであるから,外務大臣とし
ては,これらの前例又は成果を利用して本件対象文書に係る審査に要する期
間を短縮するよう努めることができるはずである。
さらに,本件対象文書については,その分量及び紙質等の点から,コピー
を作成し,決裁用の書類を整えるだけでも1年以上の期間が必要である旨予
測されたということであるが(認定事実ウ),上記のように速やかな開示決
定等がされることを求める情報公開法の趣旨や,殊に本件対象文書のように
歴史的価値のある文書であって(前記前提事実(1),認定事実ウ及びオ参照),
繰り返し開示請求の対象となることが予想され(実際,本件開示請求以前に
12件の開示請求があったことは認定事実カのとおりである。),そして,
それが紙質等の点から損傷しやすいものであればなおさら,そのような行政
文書についてはあらかじめ写しを作成しておくか,マイクロフィルム化又は
電子データ化するなどしてその記載内容を複写しやすいようにしておくべき
ことなどが考えられることからすれば,外務大臣としては,決裁用の書類を
整えるための上記1年以上という期間を短縮するよう努めることができるは
ずである。
(6)これらの諸事情を上述の情報公開法の目的及び趣旨に照らして総合的に考
慮すると,本件において,本件対象文書のうち未決定文書の記載内容等が明
らかでない以上,未決定文書に係る開示決定等がされるために必要とされる
合理的な期間を具体的に認定することは困難であるが,本件開示請求は,平
成18年4月25日にされたものであるところ(前記前提事実(1)),本件口
頭弁論終結時までに1年7箇月余りの期間が経過していることからすれば,
遅くとも本件口頭弁論終結時までには情報公開法11条柱書きにいう「相当
の期間」は経過したものと認めることが相当である。
(7)なお,情報公開法11条は,「開示請求に係る行政文書が著しく大量であ
るため,開示請求があった日から60日以内にそのすべてについて開示決定
等をすることにより事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがある場合には,
前条の規定にかかわらず,行政機関の長は,開示請求に係る行政文書のうち
の相当の部分につき当該期間内に開示決定等をし,残りの行政文書について
は相当の期間内に開示決定等をすれば足りる。」と定めた上,この場合にお
いて,行政機関の長は,情報公開法10条1項に規定する期間内に,「残り
の行政文書について開示決定等をする期限」を開示請求者に通知すべきこと
を定めているところ(情報公開法11条2号),不作為の違法確認の訴えに
おいては,行政機関の長により通知された「開示決定等をする期限」より後
の時点であっても,同条にいう「相当の期間」が経過していないと判断され
ることもあり得るし,「開示決定等をする期限」より前の時点であっても,
同条にいう「相当の期間」が経過したものと判断されることもあり得るので
あって,本件において外務大臣が「開示決定等をする期限」を平成20年5
月26日と通知したこと(前記前提事実(3))を考慮しても,上記判断が左右
されるものではない。
また,認定事実イ,エ及びオに照らし,複雑困難な外交事務等に従事する
傍ら,しかも限られた予算や人員のうちで開示請求に係る専従の職員を確保
することが難しい状況において,本件対象文書の審査に当たる外務省職員の
労苦は推察するに難くないが,情報公開法の目的及び趣旨に照らし,未決定
文書に係る開示決定等が本件口頭弁論終結時までにされないことが客観的に
違法であるか否かという観点からすれば,現在の外務省の執務態勢等では本
件口頭弁論終結時までに上記開示決定等ができないということは,これまで
外務省が組織として必要な対応措置を執ることを怠ってきた結果であるとい
うほかなく,このことをもって相当の期間が経過したことにつき正当な理由
があるということはできず,その他何らかの正当な理由があることを認める
に足りる証拠はない。
(8)したがって,争点(1)に関する原告らの主張には理由がある。
2争点(2)(開示の義務付け)について
未決定文書の記載内容は本件において明らかとなっていないが,それが日本
国政府の作成及び保管に係る行政文書である以上,既に開示されている韓国政
府の作成及び保管に係る行政文書とすべて実質的に同一の記載内容であると認
めることはできないし,実際,被告は,未決定文書の中に日本国政府の内部に
おける検討状況等が記載された文書も存在する旨主張しているところ,そのよ
うな文書の存在を否定すべき証拠はない。
そして,このような未決定文書については,情報公開法5条3号等の不開示
情報が記載されている可能性が否定できないのであり,そうすると,本件では,
外務大臣が未決定文書の開示決定をすべきであることが情報公開法の規定から
明らかであると認められ又は開示決定をしないことがその裁量権の範囲を超え
若しくはその濫用となると認められるということはできない。
したがって,争点(2)に関する原告らの主張には理由がない。
3争点(3)(国家賠償)について
原処分に係る国家賠償請求については,情報公開法に基づく行政文書の部分
開示決定に取り消し得べき瑕疵があるとしても,そのことから直ちに国家賠償
法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく,公務員が職務
上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と上記決定をしたと認め得る
ような事情がある場合に限り,上記評価を受けるものと解するのが相当である
(最高裁平成元年(オ)第930号,第1093号同5年3月11日第一小法
廷判決・民集47巻4号2863頁,最高裁平成17年(受)第530号同1
8年4月20日第一小法廷判決・裁判所時報1410号8頁参照)ところ,弁
論の全趣旨によれば,外務大臣は平成17年度(行情)答申第204号で示さ
れた答申(認定事実キ)に従って原処分をしたことをうかがうことができ,こ
のような判断について同項にいう違法があったと直ちに認めることはできない
ばかりか,そもそも原処分はその後変更され,外務大臣により,本件開示請求
があった日から1年以内に一部文書の全部を開示する旨決定されたこと(前記
前提事実(1)及び(7))などからすれば,仮に原処分により原告らが何らかの精
神的苦痛を被ったものとしても,それは既に慰謝されたものと認めることが相
当であり,本件口頭弁論終結時において原告らにつき国家賠償法上の賠償を要
する損害が存在すると認めることはできない。
したがって,争点(3)に関する原告らの主張には理由がない。
4結論
よって,本件訴えのうち,追加決定文書に係る不作為の違法確認及びその開
示の義務付けに係る部分をいずれも却下し,その余の原告らの請求は主文の限
度で理由があるから一部認容することとし,その余の部分は理由がないから棄
却することとして,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61
条,64条本文を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
杉原則彦裁判長裁判官
小田靖子裁判官
島村典男裁判官

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